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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第1章 召喚編
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第25話 模擬戦と襲来


 邪神と会ってから一週間ほどが経った。


 向こうの目的は果たしたらしく、邪神に別れを告げられて目が覚め……あれ以来接触はない。


 今日まで合間合間にジル様に打たれたり、ジル様に蹴られたり、ジル様に右ストレート喰らったり、真面目に修行してたのに「勉強もしやがれ!」と分厚い本を投げ付けられたり……そんなこんなで俺の休日は終わった。


 ジル様という確実な『最強』の存在は余計な反抗勢力を戦わずして黙らせられるらしい。


 ごたついた国内は早々に鳴りを潜め、騒いでいた連中や宜しくない噂も沈下した。


 携帯もパソコンもテレビもないというのにざっと一週間で終わる辺り、恐るべき早さだ。


 無論、全部が全部解決した訳ではない。が、マリー王女は女王として正式に即位……儀式? だか何だかもしたし、城内も落ち着いたように見える。


 つまりは。


 地獄の訓練の再開である。


 ……そういや夢の中で邪神が言ってた()()()について聞くの忘れたな。邪神と対等かそれ以上の存在って感じがするけど……神より上って何だ? 創造神とか? 例の宗教……聖神教の教えに創造神なんて居たっけ?


 と、ここまでは脳内での回想。


 実際はこうだ。


「い、いやだぁ! もう虫なんて食いたくない! あんなのは二度とゴメンだぁ!」

「だからもう森は行かねぇよっ! 何度言わせんだ! オレだってキツかったんだぞっ!?」

「出たよブラックの鏡! 俺も辛いとか皆同じように苦しいんだとか言って強制しやがって! ジル様(あんた)みたいな化け物と一緒にするんじゃねぇ!」

「誰が化け物だゴラァッ! 超ウルトラスーパー可愛くて最強であるこのオレ様に指導してもらえるだけ有り難いと思えやこの童貞ヘタレ野郎っ!」

「童貞とヘタレは関係ねぇだろ! 誰のせいで性欲もて余してると思ってんじゃボケぇ! 部屋ん中で着替えんなっ、人前で脱ぐなっ、半裸で俺の隣に寝るなっ! あ、後、風呂上がりに俺の前で一息つくなっ、何かエロいわっ!」

「んなもんオレの勝手だろうがっ! 大体お前はいつになったら寝ながら動けるようになるんだ!? バカかっ!? お前バカなのかっ!?」


 修行をさせたくてさせたくてたまらないらしいジル様VS逃げたくて逃げたくてしょうがない俺。


 この醜い争いをかれこれ二十分は続けている。


「「「「……………………」」」」


 場所は最早懐かしの訓練場。周りにはライやマナミ、リュウに何故かエナさんまで居る。ついでにアカリもだ。


 皆、一様にあまりの醜さにドン引きしている。


「~っ……!!」


 ……訂正。一人、無表情のまま、目をキラッキラさせてる子が居たわ。どうせ、「世界最強の剣聖を相手に啖呵切るなんて凄い!」とか思ってるに違いない。


「何だとこの美少女野郎っ! バカはどっちだよっ、暴力万歳主義だし、この国でやったことなんかまるで盗賊みたいじ――」

「――だあぁもううっせぇなァッ! ふんぬっ!」

「ごふぅぅっ!?」

 

 鳩尾に鋭いボディーブロー。一撃で三メートルほど身体が浮き、地面に吹き飛ばされた。


「ううぅっ……ごほっ、ごほっ……ひ、久しぶりに良いの入ったぁっ……はひゅっ、い、息が出来なっ……」


 途端に呼吸困難に陥り、地面で悶絶しながら、そして、盛大に咳き込みながら息を整えようとし……


「一々口答えすんじゃねぇよこの豚野郎。テメェの返事ははいかイエスか喜んでの三つだけだ。わかったら返事しろ返事ぃっ!」


 ジル様に絶対零度のような瞳で見下ろされた。


「は、はひいぃっ! うっ、ぐうぅっ……! くっそ痛いし、くっそ怖いけど、これまた久しぶりにゾクゾクすりゅうっ」

「ごちゃごちゃ言ってねぇで行くぞクソガキッ!」

「へぶっ! ()ったッ!? ちょっとっ、顔面は勘弁っ……んぎゃあっ!? いやいやいやっ、止めっ……ぐほぉっ!? ちょっ、うげっ、も、もう殴らないでくだぐふぉっ!? マジでそれはんぐぅっ!? すみませうげぇっ!? 調子こいて申しわガァっ!? ごめんなさぶべらっ!? ……あぅ…………」


 腹の虫がトコトコしてたのか、いつも以上に理不尽にボッコボコにされた俺は速攻で気絶。「寝てんじゃねぇよ」と蹴って起こされた時には流石に抗議しようと思って睨んだ。


 般若のような形相が返ってきた。


 ヒイッ! すんません! マジ調子乗ってましたぁ! だから睨まないで! すんげぇ怖い!


 土下座して懇願すると暴力の嵐は治まったものの、「流石にマジギレしてるジル様は可愛くないな……」と少しだけ思ったら、結構マジの右ストレートが飛んできた。曰く、どんな時でもオレは可愛いだろ、とのこと。いや、普通に(こえ)ぇよ……。


 で、だ。


 盛大に目と口と頭部の一部が切れて流血沙汰になったのでマナミに治してもらい、修行開始。


 関係ないことを思う度に後ろからとてつもない殺気を当てられた辺り、割りと激おこプンプン丸だったらしい。


 内容はライ達との模擬戦。


「レベル差があるっつっても、オレ以外の奴と()り合うのは良い訓練になる。そいつらの為にもなって一石二鳥だろ? わかったら早くやれ。殺すぞ」


 とのこと。


 武器は互いに刃先を潰した剣。属性魔法の使用は禁止。スキルはあり。首から上を狙うのはなし。ルールはそれだけ。


 当然だが、結果は俺の圧勝。


 職業的にステータスが低いマナミやリュウは兎も角、ライにまで勝てるとは思わなかった。


 勇者とはいえ流石に二倍のレベル差はデカ過ぎたらしい。 


 ライが持っている《剣術》スキルは剣に関係する行動全てに補正が掛かるというものであり、対する俺にはない。


 剣同士の戦いになれば不利だろうなと思いきや、間合いの取り方や狙い、剣速に移動速度と全体的なスピードに違いがあった為、余裕で勝つことが出来た。


 まだ動きがぎこちなかったってのもあるだろうが、身体能力(ステータス)が急激に上がったせいで身体が付いていけてないような印象を受けたな。


 俺はというとジル様のスパルタ教育のお陰で、どこをどう狙えば良いかとかどう避ければこう動けるとかがわかる。


 純粋なステータスと経験の差による勝利だ。


 元々ジル様とも一日五回は模擬戦をしてたしな。加減してくれてるとはいえ、世界最強と恐れられるジル様と比べれば稚拙も稚拙。大人と小学生のような差を感じたほどだった。


「やっぱ勝てないかーっ……レベル差もそうだけど、訓練の内容にも差があったよなやっぱり。俺達は俺達なりに頑張ったつもりだったんだけどなぁ……」

「お疲れライ君。訓練の内容もそうだけど、そもそもレベル50を越えてればRPGとかだと終盤くらいのレベルだもんねー」

「そうだね、ユウは攻撃力が高い代わりに防御力が低いから攻撃や衝撃を反射するみたいなスキルがあれば別だと思うんだけど……」


 一通り戦い終えての休憩中、そんな会話になった。


 逆に言えば、俺はあそこまでキツい修行をしないと勝てないことの証明であることに気が付いてないんだろうか?


 チラリとジル様の方を見る。


 半笑いで肩を竦められた。


 「認識が甘いのさ」みたいなことを言われたような気がする。


 今は兎も角、最強クラスの素質を持っているライはこれからもっと強くなる。


 俺は異世界人特典の恩恵を含めて中の上程度。弱点はあるし、属性魔法も使えない。スキル構成だって戦闘向きじゃない上に固有スキルまで微妙。


 追い付かれるくらいなら良いが……追い抜かれないようにしないとな。


 豆だらけ傷だらけの手を見ながら、柄にもなく真面目にそう思った。


「よし! もう一回だ、ユウ! 今度こそ勝つぞ!」


 まだ休憩途中だというに、ライが急に立ち上がり、剣を持つ。


 余程悔しかったらしい。


 その表情が気になった。


 今度は絶対に勝つ。勝てる。そういう意思を感じさせる顔だ。


 わかりやすい反応をしてくれる。てか【明鏡止水】使ってないな? アホかこいつ……何で使える手札を使わないんだよ。確かに甘いわ、色々と。


 取り敢えず、今、そんなツッコミを入れても意味がないので何も考えずに打ち込んでみる。


「うしっ、んじゃあ行く……ぜっ!」


 初手、ライの目の前まで一歩の踏み込みで移動しての振り下ろし。


 片手で刀身を押さえた剣で阻まれ、そのままの勢いを乗せた頭突きを食らわせる。それも《金剛》スキルで硬化させた頭で。


 予想外の攻撃だったのか、ライはビクッと驚いた後、頭突きを避ける為に後ろに下がろうとした。


 ならばと、それよりも早く鍔迫り合い状態になっていた剣から力を抜くことで力をずっと入れていたライに踏鞴(たたら)を踏ませ、前のめりにさせる。


 結果、頭突きは見事にライの額に直撃した。


 ゴンッ! と、鈍い音が辺りに響く。


 俺は硬化しているのと、慣れてるからあまり痛くなかったが、ノーガードで受けたライは当然めちゃくちゃ痛がっていた。


「くっ……ああぁっ……!?」


 戦闘中だというのに剣を落とし、頭を押さえている。


 なので、剣をライの首に当て勝利宣言をしてやる。


 策があったろうに、何でそこまでの行程を考えておかないんだこいつ。


 今の、十秒どころか五秒も経ってないだろ。


()っってぇぇ……! クソっ、汚いぞユウ……! ぐうぅっ……く、首から上を狙うのは無しの筈だろ!?」


 それはもう痛そうに抗議してくるライ。


 ちょっと何言ってるかわかんねぇな。


「何言ってんだ? 武器で狙うのは無しってことだろ? 武器無しでの攻撃じゃ大怪我はしないんだから」

「大怪我するしないは問題じゃないだろ!? 汚い戦い方しやがって!」

「は? お前馬鹿か? 戦いに(きたね)ぇもクソもある訳ねぇだろ。お前は魔物や盗賊相手に汚いとか正々堂々戦えとか抜かすのかよ?」

(ちげ)ぇよ! 今やってるのは模擬戦だろ? これじゃあルールを定めた意味がないじゃないか!」


 認識に差があったようだ。


 俺にも非はあるが……この反応は俺も面白くない。


「人対人での模擬戦ってことは人型の……つまりは対人戦闘を想定してる訳だろ? それが魔物なのか盗賊なのか魔族なのかは知らないけどさ、そこに文句言うのは違くねぇか?」

「そうじゃなくてお前の戦い方が気に食わないって言ってるんだよ!」


 おいおい……そこからか。


 盛大に溜め息を吐いた俺は「あのな」と続けた。


「じゃあ対人戦闘っつぅ認識は合ったんだろ? なら尚更、想定外の攻撃は予想しておくべきだろうが。確かに確認しないで攻撃した俺も俺だけど、この模擬戦の条件を出したのはお前とジル様だろ? ジル様は兎も角、お前は頭を狙うのは素手でもダメだって認識してたんならそれを伝えてくれよ。口で言ってくれなきゃこっちだってわかんねぇって」

「このっ……!」

「あ~はいはいわかったわかった。次からは素手でも頭を狙わないし、大怪我もさせないよう加減もするから」

「その言い方ムカつくなっ!」

「そうカッカすんなって」


 途中から熱くなったらしく、本気で苛々してきた様子。


 こっちとしては当然だと思ったんだが……う~ん……お互いに意志疎通出来てなかったが故の事故ってやつかね。客観的に見れば、お互いに自分が正しいって主張してる訳だし。難しいな。


 気を取り直して二度目の再戦。


 今回からライの希望通り、さっきの頭突きみたいに武器じゃなかろうと頭を狙うのは無しだ。


 お互いに剣を構え、相手の動向を窺っていると……


 今度はライから攻撃してきた。


 さっきの俺と同じように踏み込み、その勢いのまま剣を振り下ろしてくる。


 俺はそれを左に避け、更に身体を近付けることで剣での攻撃をしにくくしつつ、自分の剣で右から左に薙ぎ払う。


 剣の先がライに当たったと思った次の瞬間。


 ライは砂を蹴るような音と共に五メートルほど後ろに一瞬で下がっていた。


 《縮地》。


 踏み込みや今のような後退で瞬間移動レベルの速度を出すスキル。


 直進しか出来ないのが弱点。しかし、相手取るには十分厄介だ。


「ふぅぅぅ……」


 自らを落ち着かせる為か、【明鏡止水】を発動させたらしく、ライの顔から少しずつ感情が消えていく。


 先読みしやすかった目の動きが静かになり、肩や半身の構えからは余計な力が抜けているのが見てわかる。


 成る程、感情を0にする能力ってのはこういう副次効果もあるのか。


 僅かに目を細めた俺の方もどう動かれようが対応出来るよう思考系スキルを()()()発動させ、待つ。


 少しすると、ライは深呼吸を終え、再び襲い掛かってきた。


「はぁっ!」


 先ず一手。


 短く、気合いの乗った声と共に《縮地》で距離を詰めてくる。


 驚くべきことに瞬きをした次の瞬間には俺の目の前まで到達していた。


 あまりの早さに思わず目を見開いてしまったが、まだ想定内。


 《縮地》はあくまで移動系のスキル。スキルで移動している時に攻撃は出来ない。出来たとて剣を突き出しての突撃だけ。


 構えからしてそれはない。明らかに袈裟斬りの動きだ。


 どんな速度で距離を詰めようと、攻撃までのモーションが必要。


「なら……!」


 弾かれたように横に跳ね、間合いを取る。


 今の今まで俺が立っていた位置の目の前で僅かな時間止まっていたライは仕方なさげに俺の居た場所を通り過ぎると、何歩か歩いてから再び《縮地》で迫ってきた。


 同じ動きでそれを避け、ライがまた追ってきてを繰り返すこと数回。


 気分は闘牛士。何度も見せられれば嫌でも攻略法を思い付く。


 一手は良かったけどな。二手目を考えてないのか、それとも何かを狙っているのか。


 ライは移動中に剣を振りかざしたり、方向転換したりもしなかった。


 ってことはつまり、《縮地》の発動中は攻撃どころか身動きも取れないということ。


 何という猪突猛進スキル。


 見てる限り、自分が行きたいと思った位置への移動は出来るようだが、一度あそこまで行くと決めて使用すれば何があっても突っ込んでしまうらしい。


 刺突や当て身気味の攻撃は……俺が受け切れずに大怪我するかもとビビってるっぽいな。


「ハッ、そんなもんっ……こうしちまえばっ!」


 俺はライが《縮地》を使うより少し早いタイミングで地面に蹴りを入れ、砂埃(すなぼこり)を起こしてやった。


 何らかのアクションは取れず、急停止も不可能。そして、《縮地》の効果が切れた瞬間に攻撃をしたいライが目を瞑っている訳がない。


 そこに砂埃。


「ふっ! ……うわっ!?」


 思惑通り、凄いスピードで移動してきたライは自分から砂を受けに行く形になった。


 となれば俺は一歩前に出て少し屈み、剣を横に構えるだけで……


「ぐぅぇっ!?」


 自分からぶつかってくると。


 刃を潰してあるとはいえ、金属の塊。それに向かって瞬きほどの短い時間で数メートルを一気に駆け抜ける《縮地》で突っ込むともなれば深刻なダメージを負わせるかもしれない。


 そう考えた俺は軽く撫でるくらいの気持ちで構えていた。


 結果、ライは俺の横を通り過ぎてから倒れた。


 さっきの俺みたいに地面を転がり回って悶絶しているが、肋骨数本で済んだようだ。内臓までやってたら痛いだけじゃ済まないことを俺は知っている。


 何とも甘さの抜け切ってないライの姿に脱力感を覚えつつ、残心。最後まで気を抜かずに剣を向け、ふーと息を吐いた。


「ら、ライ君っ、大丈夫!?」


 マナミが焦った様子で近付いてくるものの、当の本人は腹を抑えて悶絶中で返事すら出来ていない。


 【起死回生】が使われ、あっという間に完治。ライは恨みがましい目を俺に向けながら立ち上がる。


「あー……先に言っておくが、狙ってはないからな?」

「わかってるさ。自分から突っ込んだんだから」


 巨蟲大森林で戦ったオークは死に物狂いなだけに何でもやってきたと愚痴ってきた奴だ。


 訓練だからと甘ったれていたのは自分の方だと反省した様子で謝ってきた。


「悪かった。やっぱダメだな……ユウほど自分を追い込めてないからいつまで経っても……」


 自覚はあったらしい。


 俺としては俺ほど努力されると引き離される一方だから止めてほしい。


 けど、それはそれで強くなれないからなー……と困り顔でジル様の方を見ると、呆れたように溜め息を吐かれてしまった。


「わぁったわぁった。手解きはしねぇぞ?」


 俺の動きがお気に召したのか、機嫌が治っている。


「えっと……?」


 そう驚いてるライやマナミ達に、ジル様は先程の模擬戦の改善点やこれから鍛えるべき技術とスキルを教え始めた。


 勇者は育てないとか言ってたのに……珍しいこともあるもんだ。


 まだ鍛え途中の俺が心構え以外に口出すのはちょっと……という俺の気持ちを汲んでくれた辺り、何だかんだ優しいんだよな、ジル様は。


「おい、卑怯者! ついに本性を現したなっ!?」


 ……おっふ。

 

 何処からともなくイケメン(笑)の声が聞こえてきた。


 俺の感動を返してほしい。


 何なんだよもう……と思いながら声の方に振り向けば、何やら怒っている様子のイケメン(笑)とニヤニヤ面を貼り付けた早瀬、申し訳なさそうにしているミサキさんら女性陣も居る。


 勇者パーティが勢揃いで震える。


 絶対怠いやつじゃん……。


「あー……え、えっと……卑怯者ってのはもしかして……俺のことか?」


 自分を指差して訊くと、「お前以外に誰が居るっ? 勇者として、悪は見過ごせない。決闘を申し込ませてもらうっ」と即答だった。


 な~にをふざけたことを抜かしてるんだこの勇者は。


「……因みに卑怯というのはどの部分で、何故決闘をしなければならないのか理由を訊いても?」

「ふんっ、知ってどうするっ? 良いから受けろっ」


 あはは……ダメだこりゃ。


 助けを求めるように周囲を見渡しても、ジル様は「お、何だ喧嘩か? やっちまえユウっ」とか囃し立ててくるし、ライとマナミとアカリとエナさんはポカン顔。リュウなんかあからさまにキタ━(゜∀゜)━!みたいな顔してやがる。


 誰も助けてはくれないんかいっ。


 どないせぇっちゅうねん。


 てか何でこいつこんなキレてんの?


「悪いわねーユウ。イサムったら話聞かなくってさ」

「うちのリーダーが本当に……本当に申し訳ないわ、黒堂君」

「ご、ゴメンなさいですぅっ、イサム君も悪気はない……? と思う……思、う……? のですぅ……た、多分……?」


 女性陣が揃って申し訳なさそうに謝ってくる。


 正直、謝るくらいなら殴ってでも止めてほしい。後、多分って言ったな今。仲間からの信用もないのかこの勇者。


「……誰か状況提供頼む」

「知ってどうすると言った! 黙って僕と決闘しろっ!」


 凄い剣幕で怒鳴られてしまった。


 もうやだお家帰りたい……


 俺の心情が伝わったのか、はたまた可哀想だと思ったのか、トモヨさんが代わりに口を開く。


「はぁ……良いわ、私が説明するから」

「なっ、トモヨっ、君は関係な――」

「――イサム? 黙って? リーダーは貴方。私は参謀。決めたわよね? 後から文句言うなとも言ったわよね? ねっ?」


 ジル様並みの般若顔にイケメン(笑)はバツが悪くなったように顔を逸らした。


 信用無さ過ぎだろ。発言権すらなさそうだぞこいつ。


「一つ目は聞いてたから確実よ。貴方達の奴隷……いえ、黒堂君の奴隷かしら? その子のことでこの馬鹿は怒ってるの」

「……アカリのことか? え、何で? 何の接点もないだろ」


 あまりに予想外過ぎて一瞬フリーズした。


 そして、次の返答に更にフリーズする。


「……奴隷制度が気に食わないらしいわ」


 痛そうにこめかみを押さえながらの返答。


 …………。


 えぇ……?


 何でそれで俺に矛先が向かうん……?


 つい化け物でも見るような目でイケメン(笑)を見てしまった。


 反対にイケメン(笑)はアカリにキラッと輝くような笑みを向けて話し掛けている。

 

「君、大丈夫かい? 直ぐに解放してあげるからね」


 怖い怖い怖い。


 どうしたんだよ、確かに初対面の時からウザかったけど、こんな奴だったっけ? 頭でも打ったとか? もう怖いよ、何この優しさを履き違えた悲しきモンスター。


 アカリはアカリで「ご、ご主人様……? 何ですかこの無礼者は……」と怯えた様子で俺の背中に隠れてるし。


 止めろ止めろ煽るな。わざとか? それわざとか?


 目を回す勢いで呆れ、肩を落として溜め息を吐く。


「もうこんな奴をご主人様なんて呼ばなくて良いっ。君は僕が……この僕が命に変えても救ってあげるんだから! 僕と同じ勇者であるライ君にイカサマで勝つ卑怯者になんか……僕は負けないっ!」


 イケメン(笑)は拳を高々と掲げながら言い切った。


 やっぱり見てやがった。


 いや、卑怯ってどの部分だとは思ってたけども。イカサマで勝てる勇者とかもう勇者じゃないだろそれ。


 何というポジティブ思考。


 女の子を救う自分(笑)に酔ってるし、人のことはナチュラルに見下してくるしで最悪の人間だ。


「ご主人様……この人、気持ち悪いです……」


 二回目の声掛けに鳥肌が立ったのか、アカリさんは両腕を擦ってらっしゃる。


 名前を出されたライも目が点になっている。鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔で「えぇ……お、おるぇ……?」みたいに俺を見て、マナミとリュウの方を見て困惑している。


 いきなりにもほどがあるであろう……いや、あってほしかったまさかまさかの相手の襲来。


 これだったら深夜に「寝顔がキモい」とかいう訳のわからない理由で尻尾往復ビンタを食らった方がまだ笑える。


 強く……


 強く強く強く、そう思った。


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