第236話 絶機
思いの外、前半が長くなって後半がほぼオマケみたいになってもうた……(|||´Д`)
時は少し遡り、最前線。
黄金のフレームに黒と銀のラインが入ったような機体が現れてからというもの、戦況は一変した。
頭部前方に伸びた一本角と大きく広がった両肩部、くの字型の大型背面スラスター二基が特徴のその機体……ロベリア機は嘗てシャムザの王都で起きた悲劇『シレンティ騒動』で使われていた魔銃と同タイプの兵器を二丁も装備していた。
時折放たれる赤黒い閃光は触れたものを蒸発させ、戦艦級か、MMMの魔障壁でないと弾けない。
挨拶代わりに撃たれた最初の二発は攻めに転じていた帝国航空兵の約二割を消滅させ、その気勢を削いだ。
連合の残存艦隊を追っていたルゥネら帝国艦隊は即座に付近の兵を収容し、後退を始めている。
空域は多少違えど、前線で戦っていたメイ、ヴァルキリー隊、テキオは何事かと閃光が降ってきた方向を見つめ、被害を把握。ヴァルキリー隊等はコックピット内のモニター画面に生じた、地上の巨大なクレーターの映像に戦慄しており、各機散開して情報収集に努めていた。
「は、反則でしょっ……! 何なの今のっ!?」
メイが叫ぶと同時、撤退していく敵フルーゲル隊とミサキの姿が目に入った。
見れば後退しつつあった敵艦から信号弾が発射され、戦場の中心部で眩い光を放っている。
『隊長っ、今のはまさかっ……』
『言うな! 撤退命令だっ、黙って退け!』
『陛下がっ……誰よりも禁忌を恐れていた陛下が悪魔の兵器を使うなんてっ……!』
『おいっ、戻るぞっ!』
「はぁ……はぁ……な、何も聞いてないんだけどっ……? そんなのがあるんなら最初から使いなさいよっ……」
彼等をしても想定外の事態なのか、パイロット達は口論しながら退いており、連合兵は聖騎士含め呆然としていた。
ただでさえまともに飛行も出来ないのに、あまりの事態に棒立ち状態になっている。
メイにとっては良い的だった。
「っ、バカ! 止まるな! 逃げなさいっ!」
「はっ……負け戦の戦場で止まるっ……!? 死にたいんなら殺してあげるよッ!」
直前でミサキから注意が入ったようだが、少し遅い。
メイの元から飛び出した八つの光がけたたましい雷鳴と共に空を走り、相当数の人間が悲鳴を上げることすらなく黒焦げになって墜ちていった。
「~~っ、覚えておきなさいっ! ライの妹っ!」
「誰が。べーっだ」
後退しながらのミサキの捨て台詞に、メイがあっかんべーと舌を出して返す。
そこへやってきたのはある程度戦況を把握したヴァルキリー隊。分かれていた四機が集まり、フェイの機体にはテキオが引っ付いている。
『そこのっ! 大将の妹幼馴染み! 来なっ!』
「ちょっと!? 誰が妹だって!?」
『シキ様は妹みたいなもんっていつも言ってますよ』
『言ってる言ってる』
『言ってるけど、それは今じゃなくないかな皆っ!? さっきから余裕あり過ぎでしょ!』
「あーもう煩いなぁ、面倒臭ぇ……ありゃ連合の……『天空の民』の最強の機体なんだろ? 勘弁してくれよなー」
合流して早々に喧嘩を始めたメイ達に、テキオが気怠そうに溜め息を吐く。
とはいえ、協力するつもりはあるらしく、ヴァルキリー隊の二機が隣を飛んでいたメイを肩に乗せ、機体の手で覆ってやりながら移動を始めた。
「『名無し』の人! あの気色悪いゾンビはどうしたのっ?」
「知らんっ、途中から居なくなったっ。二発は致命傷入れたから墜ちたんじゃねぇかっ? 他は殺したか退いたっ。てかっ、それよかアレの方が問題だろっ」
「まあ確かにそ――」
『――っ、各機散開! 狙われてるよ!』
『『『り、了解っ!』』』
二人が機体越しに軽く情報交換をしていると、フェイの言った通り、例の光が降ってくる。
黒銀のフルーゲルは四方向に分かれてそれを躱し、再び合流。一直線にロベリア機の元へ向かう。
「面倒臭ぇのは俺達が相手するっ、お前らは退けっ! 姫も許してくれる! 退けっ、退けぇっ!」
『足手まといはさっさと母艦に戻る! 艦隊戦になってんだよっ、何で女王の狙いがわからないっ!?』
テキオが付近の航空戦力を退かせ、フェイの怒号がそれを後押しする。
ルゥネも同じ判断を下したらしく、少しして帝国側も信号弾を発射。渋々ながらも帝国兵は退き始めた。
「艦隊戦……? 狙いって?」
そう首を傾げるメイに、ヴァルキリー隊の隊員達が補足してくれる。
『あの金ピカは私達や他の飛行部隊を足止め……または殲滅する為に出てきたと言ってるんですよ』
『ん、向こうはもう退いてる』
『えっとですねっ、今の戦場は連合の残存艦隊、私達、帝国艦隊が居る三つの空域に分けられてるんですっ。幾ら悪魔の兵器でも戦艦級の魔障壁には弾かれますし、帝国の飛行部隊は功を焦って前に出てますっ。前に出過ぎなんですっ、戦線が伸びてるんですよっ。これじゃ良い的です!』
フェイ達の機体は『天空の民』の技術の一種の集大成と言える。
飛行性、機動性、操作性、汎用性……使い方によっては地上で言う斥候の真似事も出来る。それも比べ物にならないほど正確かつ安全に。
慣れもあるだろう。シキとの戦闘で彼女達は既に幾つもの戦場を潜り抜けている。
そして、それが正しいことはロベリア機がこちら目掛けて降下してきたことで証明された。
『フェイの部隊ですねっ!? 命令違反ならいざ知らずっ……造反するとは何事です!』
言いながら魔銃を向けて発砲。ロベリア機の手元から二つの閃光が発射される。
対するフェイはこの距離では避けられないと魔障壁をマニュアルで操作。前面に展開しながら全員の前に出た。
赤黒い二本のビームは周囲の空気を焦がしながら接近し、黒銀の角付きフルーゲル……フェイ機に当たる直前で弾かれて散った。
さながらその様子は花火の如く。散り落ちた光は雨となって地上に降り注ぎ、フェイ機はというと受けた衝撃で足を止め、軽く高度を落とされている。
『ぐぅっ……き、来たねっ、情けない女王様っ! フォーメーションΔ! 敵は一機だっ、囲いなっ!』
『『『はいっ!』』』
他の者がいつもの連携を発揮する中、テキオなどは「おいおいっ、俺が居るのに受けんなよなぁっ……!?」とフェイ機の肩に青い顔をしながら掴まっていた。
「『名無し』の人っ、皆も! 狙いはっ!」
「いや今言われてもっ!?」
『わかってるさねっ、妹!』
「妹言うなっ!」
口論しつつも再び散開。ロベリア機の降下突撃を躱すようにフェイ機とテキオが分かれ、別のフルーゲルからもメイが飛び立つ。
『量産型のフルーゲルが〔絶機〕に勝てるとっ!?』
敵対視していたのか、ロベリアは黄金の機体をフェイ機に向けて接近させた。
フェイは槍を収納すると、マシンガンになっている両腕で応戦。近付けさせまいと弾丸で抵抗しながら叫ぶ。
『戦いを勝ち負けでしか見れないなんて、とんだトーシロじゃないかっ! 離叛して正解だったよっ、えぇっ!? 女王様っ!』
『何を偉そうにっ……戦争のせの字も知らない子供っ……はしゃいでるだけの小娘がっ……!』
完全な人型だというのに、その機動性はフルーゲルを容易く凌駕しているらしかった。
背面の大型スラスターと各装甲に隠された小型バーニアが火を吹き、肉薄する弾丸を右へ左へと躱していく。
驚くべきことに、その速度はフェイ機のおおよそ二倍。金色の装甲が太陽の光によって照らされ、それを見た者の目に残像のように残って消える。
フェイはあっという間に追い付かれ、魔銃を突き付けられた。
直線運動のフェイに対し、ロベリアはジグザグに迫っているのにこの差だ。同様の動きなら三倍から四倍は固いだろう。
『は、早いっ……これが絶対なる機体のっ……!?』
『性能が違うんですよ、性能が。この距離……果たしてフルーゲルごときの魔障壁で防げますかね?』
銃口が怪しい光を帯び始めた次の瞬間、閃光が走った。
バチバチと放電しながら突き進むそれはフェイ機とロベリア機の間を通り、二人を下がらせる。
「おいっ、何処狙ってんだよ妹!」
「『名無し』の人までっ……今のはわざと外したのっ! 変な誤作動でも起こして発射されたらそこの生意気女が死ぬ! そうなったら私がユウ兄に叱られちゃうでしょっ!?」
ロベリア機を追ってきていたテキオとメイが怒鳴り合いながら、挟むように近付く。
その距離、二十メートル。
「ほらっ、足手まといは早く離れてよ! 撃てないでしょうがっ!」
『っ、流石っ、ライ様の妹君は厄介ですね……!』
牽制の雷がロベリアを追い、ロベリアは上下左右、加速と減速を掛けての回避運動に移った。
『くぅっ……あんのガキャア……! 大将の妹じゃなかったらただじゃおかないってぇのにぃ……!』
『隊長っ、言ってる場合ですかっ!?』
『ん、本当に性能が違う。私達の機体じゃ武器を破壊することすら……』
『ですねぇ。フルーゲルの出力だと至近距離で撃たれたら流石に心許ないですし』
コックピット内で青筋を浮かべたフェイだったが、部下達からの叱責で我に返り、渋々ながら距離をとる。
直後、テキオが再加速を掛けて急接近し、大剣を振るった。
ガキイィンッ……!
響くような剣戟と火花が披露され、銃口で受け止めたロベリアは自慢の機体でも拮抗するテキオの膂力に驚いた声を上げる。
『追い付かれるどころかこのパワーっ……化け物ですか貴方はっ!?』
「あぁん? そりゃこっちのセリ……うぉっといぃっ!?」
言い返そうとした途端にビームが発射され、テキオを吹き飛ばす。
肩パットや膝当てといった防具に魔障壁発生装置を取り付けていたことが功を成し、蒸発こそ免れたものの、その勢いまでは殺せず。テキオはぐるぐると回転させられながら戦線からの一時離脱を強いられた。
『は、弾いたっ!?』
ロベリア機が驚愕したように仰け反り、ついでに後退することでメイから放たれる稲妻を躱す。
「何で普通に雷を避けられるのさっ……もうっ……!」
機体速度もそうだが、反射速度が尋常じゃない。
そう判断したメイが《アイテムボックス》から取り出したのは彼女専用の新兵器。
それは鉢金のような装備と大量の玉だった。
「作戦変更っ! あの武器の無力化から正面突破! 皆手伝ってっ!」
言いながら落とすように玉を捨て、ハチマキのような金属製の輪っかを頭部に装着する。
所々に填められている魔石が光った瞬間、落下していた玉がブォンッ……同じ光を放ち、その場で静止。遅れて散り散りになって飛び始めた。
「ルゥネさん……この重いのは何とかならないのっ……?」
ぶつくさと毒づきつつも手を掲げ、その動きに追従するように幾つもの玉が飛ぶことを確認する。
一方、ロベリアはメイの指示通りに動き始めたヴァルキリー隊の集中砲火を受けており、それすらも持ち前の驚異的な機動性で躱し続けていた。
『量産型では勝てないと言ったでしょうっ!?』
ステータス補正のない生身の人間が乗っているとは到底思えない軌道と速度で飛び回るロベリア機の、両リアアーマーから足先まで、装飾のように見えていた部分がカシャンッ……カシャンッ……と音を立てて口を開き、中から取っ手のようなものが射出されると同時、取り出し易いようにと前面に動き、まるで腰に二本の剣を差した戦士のような出で立ちになる。
各方面から迫る弾丸の間を縫うように飛びながら二丁の魔銃を背面スラスターの頭に取り付け、その取っ手を握って抜刀。中から短剣のような突起が現れた。
『ハッ、そんな玩具でどうしようってんだいっ!? 勝ち負けじゃないと言った! 歳をとると耳が遠くなるようだね!』
フェイはそう笑い、他の隊員は『ひいぃっ、不敬罪っ、反逆罪っ……死刑だぁっ……』、『勝てば良い』、『女王様を殺したら後の世に伝わりそうですよねっ、私達っ』等と口々に言いながらロベリア機を囲う。
四対一という圧倒的に有利な戦闘であるにも拘わらず、ただの一発すら当たらない。掠りもしなければ危うい場面すらない。
それを可能とするのは背面の大型スラスター。
出力が異常なまでに強く、大きく伸び広がった両型部にもバーニアが付いているのか、真横といった理解の出来ない回避行動をとることもある。
そうして全ての弾丸を躱しながら、ロベリアは独り呟く。
『魔導回路接続確認、エネルギー充填開始……並びに安全制御装着解除開始……完了を確認……超高熱フォトンソード生成、流星モード起動……〝顕現〟……!」
瞬間、ロベリア機は全身から黄金の粒子を放出すると、カクンッと直角に軌道を変えて急加速。ヴァルキリー隊の一機に迫った。
『え!? こ、この速度っ、シキ様並み――』
『――先ずは一機』
ザンッ!
音という音は聞こえなかったが、そんな幻聴が聞こえてくるようだった。
『へっ……?』
裏返ったような声に遅れ、ヴァルキリー隊副隊長のフルーゲルが真っ二つに分かれる。
右肩から左側面に掛けて、全装甲がスカートごと、スラスターもバーニアも何もかも斬られている。
『何してんだいネペッタっ、脱出っ! ラニっ、ハンナ!』
『っ!』
フェイの声でどうにか正気を取り戻した副隊長はコックピットハッチをパージ。中から外に出てくると、そのまま飛び降りた。
『はい!』
『わかってます!』
と、その降下位置に集おうとする二機の前に、二刀の金色の剣を持ったロベリア機が立ち塞がる。
大型スラスターや全身のバーニア、果ては装甲の隙間からも同じ色の粒子が噴き出ていた。
元々金色だった装甲が自ら放つ粒子に照らされ、まるで装甲そのものが光っているように見える。
反対に、機体のツインアイは不気味に赤い明滅を繰り返していた。
『ふんっ……どんな手品か知らないけどっ……! 何百年も訓練したアタイ達が数千、数万年も乗ってないアンタなんかに負けるわけにはいかないんだよっ!』
『そうですか』
槍を突き出し、真横から突撃したフェイに短い返答。
返す刃として、先程までは短剣でしかなかった剣を向ける。
よく見るとその剣は黄金の粒子で形成されていた。根元辺りに元の短剣部分が薄く見えている。
『はあああぁっ!』
咆哮しながらのフェイの突貫攻撃には魔銃の攻撃すら弾いた魔障壁が追随している。
ロベリア機の持つ剣が魔力で出来ているとフルーゲルのセンサーが告げてきた故の行動だった。
しかし。
『残念です、フェイ。貴女のように感情的な人間も時には必要だと知っていながら……』
そう、ロベリアが言った瞬間、フェイの魔障壁と槍がロベリアの剣にぶつかる。
否。
魔性壁も槍もそこに何もないかのように通過した。
否。
魔障壁は豆腐か何かのように斬れている。
槍は先端から半ば、果てはフェイの機体のコックピット付近まで斬れている。
『なっ……にぃっ……!? 魔障壁を斬ったッ!?』
土壇場で何か不味いと察し、逆噴射で減速したのが良かった。
ロベリアが酷く切れ味の良いそれを迎撃ではなく、防御に使ってくれたお陰で助かった。
危うく自分から死ににいくところだったとフェイは内心で震えた。
『……噂通り、良い戦士ですね。よく見破ったものです』
余裕綽々で返すロベリアの横では無事副隊長を拾い、後退する二機のフルーゲルの姿がある。
ふと。
真上から一直線に降ってくる影があった。
「おい妹っ! 〝展開〟はまだなのか!?」
その影は戦線から強制離脱させられたテキオ。
途轍もない量の魔力で造り出した魔障壁で難を逃れていた彼はどうにかして戻ってきたらしい。
そんなテキオに対し、「もう終わってるよ! 早くその人退かせてっ!」と返すのはメイである。
「通信妨害を起こすやつが撒かれると使えなくなるかもって言ってたけど……うん、十分動く。殺れる……!」
その目は確かな殺意と確信を宿しており……
ロベリアは空域全体に妙な球体が散布されていることに気が付いた。
『何です……?』
まるで人間のように首を傾げたロベリア機の前でテキオがフェイの機体に体当たり気味に突っ込み、原始的にも押して降下させる。
「スラスターを切れ! 抵抗すんなっ!」
『わ、わかったよっ』
何やら焦った様子で離れていく一人と一機の姿に、彼女は『何をするつもりですっ?』と辺りを見渡した。
刹那。
メイから放たれた電撃がロベリア機に向かって降り注ぎ、右肩のバーニアで避ける。
『そんなものが私に当てられると……』
そこまで言ってから更に気付く。
躱した筈の稲妻が跳ね返るようにして戻ってきたことに。
『な、何なのですっ!?』
今度はスラスターで前に移動して躱し、何事かと空を駈ける光を見やる。
雷はその場で滞空する球体に近付くと、弾かれたように別方向に飛び、そこから更に別方向へ、更に別方向へと跳ね回り、ロベリア目掛けて飛来してきていた。
再び近付いてくるそれを躱しつつ、球体を観察。それがメイの頭部の輪っかと何らかの通信のようなことを行っていることを見抜く。
『び、ビット型の跳弾兵器……?』
「あったりー」
ロベリアの推測は彼女を上空から見下ろすメイによって、いとも簡単に肯定された。
「私の魔力に反応して動く内部機構を、電気そのものを全く受け付けないとかいうファンタジー金属で覆っただけの特殊兵装だよ、バカ兄の側室さん?」
『……そんなもの、撃ち落としてしまえば――』
「――出来るならね?」
【明鏡止水】を使用中のライとよく似た冷酷な目でそう言ったメイは二刀の剣を納め、魔銃を取り出そうとしているロベリア機に向けて、電撃を二つ、時間差を付けて追加した。
『っ!? ま、まさかっ……!?』
合計三つ。それぞれ別方向から別々のタイミングで跳ね返ってきた稲妻をスラスターの急加速で躱し、驚く。
「うん、そのまさか。そのアンダーゴーレムは雷の速度で迫る本物の雷を避けながら攻撃出来るんでしょ? 私が飛ばせるのは計八つ。そんな無茶な動きしたら中身がミンチになりそうだけど……精々頑張って避けてね」
ヒュ~ッ……とマヌケな音が何処からか大量に聞こえてきた次の瞬間、その空域全体にバチバチバチバチィッ! と雷雲の中よりも恐ろしい空間が生成された。
◇ ◇ ◇
ヴォルケニスのブリッジ内。
異形のフクロウ少女ココが前線から戻った艦内は特有の怒号が飛び交っていた。
「いやー……流石のボクも死ぬかと思ったよーって……当然だけど、凄い騒ぎだね……」
「『名無し』と他シキ殿の部隊が敵の暫定フラッグシップ機と交戦中! 例の攻撃はもう来ません! 善戦してますっ!」
「損害率っ、死人っ、負傷者不明っ! かなりやられました!」
「ココっ、無事で何よりですわっ。兎に角、兵の収容を急ぎなさい! 信号弾は撃ったんですの!?」
「撃ちました! 収容も殆ど済んでます!」
「それなら後退っ! この流れ……恐らく直ぐに艦隊戦にっ……」
「っ、き、来た! 来たわよ姫! 撃ってきた!」
モグラ少女のアイの発言で一瞬緊張が走る。
ルゥネの【以心伝心】による意識伝達は即座に成された。
――後退っ、回避運動っ! 対空砲火! 迎撃っ!
緊急だった為、主に四つの概念的なことしか伝えられず、その上、「そうと言われても……」としか返せない内容も含まれていたが、そこは帝国軍。各艦の艦長はルゥネの脳からすっぽ抜けた敵艦隊の遠距離艦砲射撃という言葉を察し、各々で動く。
砲弾の雨は直ぐ様降ってきた。
ヴォルケニスは敵艦と同じく増設された機銃や対空装備で応戦。他の艦も散開して撃ち落としに掛かり、第一射の犠牲は一隻だけで済んだ。
「どんどん撃ってくるわ! こっちも撃ち返して!」
「聞きましたわね!? 艦隊戦に移行! 全艦は後退しつつ、攻撃っ! 損傷した艦は降下なさいっ、射線から外れますわ!」
「だ、第二射っ、来ますっ!」
「総員っ、衝撃に備えっ……きゃあっ!?」
「わわわわっ!?」
「「「「「うわあぁっ!?」」」」」
ズドンズドンと艦が大きく揺れ、ブリッジ内の全員が浮く。
ココは翼があるので何とか耐えたが、ルゥネ、他オペレーターはアイを含めて転倒ないし机や椅子に身体を打ち付けた。
「し、シートベルト……でしたっけ……? うぐっ……い、要るかもですわね……」
「いったぁ……で、でもあれ、咄嗟に外せるかわかんないわよ?」
「……まあ車とは違うからねー」
そんなやり取りの後、ルゥネはココに質問しながら再び指示出しに励む。
「被害はどうですの? 前線に居た大多数がやられたとしかこちらはわかってなくて……弾幕が薄いですわ! 大筒による攻撃より、機銃による迎撃を優先なさいなっ!」
「どうって言われても……ボクだってわからないよ。ただ被害が甚大なのは確か……っ……だね。転生者も数人殺られたし、最初の一撃で気勢も削がれた。恐慌状態だったのも多かったよ」
時折直撃を受けて揺れる足元にチラチラと視線を向けて返すココ。
「旦那様が一番厄介な敵を抑えていて……新兵器による特攻があってこの状況……連合もやりますわね」
「そりゃあね。戦争は数だよ、ルゥちゃん」
ルゥネは内心、前線に立てない自分の立場に歯噛みした。
戦争自体は勝っても負けても良い。血湧き肉踊る殺し合いとはまた違うが、今現在もそれなりに楽しめている。
それよりも心配なのはシキのこと。
彼が望んで引き受けたとはいえ、純粋なステータスや戦闘センス、固有スキルやスキル構成で言えば勇者のどちらにも劣っている。
新装備の開発に譲渡、スラスターの更なる強化など、出来うる限りのサポートはした。
しかし、こちらの作戦では直ぐに終わる筈だった戦争は泥沼の様相を出しつつある。
特にメイ達と戦っている黄金の機体。
あれは完全にイレギュラーだった。
連合の残存艦隊を殲滅しようと前に出た途端にあれだ。
補佐するように敵旗艦や残存艦隊が撃ってきているのも小賢しい。
毎度のことながら、ルゥネは自由に動けない立場を疎ましく思い、それと同時に、自分の能力、存在そのものの替えの利かなさに苛立つのだった。
???「しかも脳波コントロール出来る!」
ルゥネ「出来ませんわよ」




