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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第5章 魔国編
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第230話 新装備

すいません、遅れました!


「へぇ、こいつか…………あー……何つぅかその……ちょいとデカい上に長過ぎやしないか? 重さの方も見た目以上にある。硬度は? 神経接続は? その辺はクリアしたと聞いたんだが」


 俺達が帝都に着いた頃、連合艦隊がパヴォール帝国領に入ったとの報が入った。


 この世界には本来、空を飛ぶ技術がなく、制空権といった概念そのものが存在しない。素材等の観点から魔導戦艦の生産や支給などももっての他。それらの要因から何ら対抗手段を持たない帝国の村々や街は空襲によって次々に制圧されているらしい。


 そういうことで到着早々に緊急会議となった訳だが、ルゥネの固有スキルで話は一瞬で終わった。


 端的に言えば、元々ある程度の方針や対策は考えられていた為、実害が出たところで予想の範囲内。そんな中、思わぬ応援として現れた俺達は独立遊撃部隊として帝国の布陣にぶち込むだけではい終わりといった具合で済んだのだ。


 ルゥネが好きでやっていることとはいえ、完全に部外者である俺達をよくもまあ簡単に味方だと宣えるものだと感心する。それを受け入れる国も国だが。


 現在は俺の新装備である義手についての説明を聞いている最中で、場所はルゥネ直属の特別工房。


 隣ではメイも造ってもらった自分の専用武器を試しており、離れた壁際では識別用にとフェイ達の『フルーゲル』に色を付けている。


 あいつら……機体全体を黒銀に染めるまで良いが、頭部に生えてるあの角は何だ? フェイのなんか二本角じゃないか。まるで俺の真似だ。どうしても俺の部隊だと知らしめたいらしいな。


「神経ではなく魔力回路の接続ですわね。血液同様、体内を循環している魔力の道と繋げることで……」

「細かい説明は要らん。動くんならな。どうなんだ?」

「失礼……了解しましたわ。先ず接続の方ですが、こちらは特性上必要のない義手になっています。旦那様の戦術を考え、飛行や高速移動による慣性を利用して使う感じですね」

「……ほう」


 要するに、肩にくくりつけるから感覚で振り回せってか? 中々難しいことを言う。


「厳密に言うと実際の魔力回路との差異が大きい代物というのが大きいです。まあそれは追々。勿論、硬度もバッチリかと。戦闘に耐えられる十分な硬さが得られました。何しろ、外部からの魔力……属性魔法を弾く性質を持ってますもの」

「例え魔障壁が破られても……ってか、成る程な」


 俺の強みは攻撃力と速度。艦砲射撃みたいなどうしようもない威力のものはしょうがないにしても、雑魚からの被弾ダメージを最小限に抑えられるのは大きい。


「で、重さについては?」



 最も改善してほしい点を突いたところ、叱られたとでも思ったのか、ルゥネはしゅんとしながら説明する。


「え、えーと……魔物由来の素材がこの義手の大部分を占めているので軽い方なんですが、特殊な機構を組み込んでありましてですね……恐らく……というか100%そのせいですはい……」


 義手。失った腕の代わり。


 銃より剣を好む俺としてはルゥネが使うような()の腕は要らない。だから確かに注文通りと言えば注文通りなのだが……目の前にあるそれは到底義手とは思えないもの。


 いや、形状からして義手であろうことはわかる。形だけなら人間の腕だ。


 しかし、太さが普通の人間の二倍以上で全長も一・五メートルはある。人の腕とは、義手とは……と訊きたくなってしまう。


 見た目としてはムカデから足を抜いたような、MFAと同じ外骨格にそっくりな外見。


 数十センチ置きに細々とした関節が付いた造りで、手の部分は指の代わりに五つの鋭い爪が生えている。


 そして、それ以上に気になるのは外装。これがまた妙に光沢のある鉱石で出来ていた。更には半透明な白に外部からの魔力を通さない特徴と来た。


「まあ試作段階の技術だし、時間もないし、出来ちまったもんを責めはせん。それより……この鱗みたいな部分、すげぇ見覚えあるんだが。あぁ、物凄く嫌な記憶だ。一応訊いとくけど、その魔物ってのはまさか……」


 仮面越しではあったものの、こめかみを盛大にピクピクさせながら訊いてみた。


「はいっ、そのまさかです! 流石旦那様っ、直接戦っただけのことはありますわね! 『崩落』です! 関節と内部は付近に落ちていた肉片をっ、外装は見ての通り鉱石化していた鱗をふんだんに使ってます! 何より見てくださいこれ! 伸縮性があったので多少は伸びるだろうとは思ってましたがほら! 伸びるんですの!」


 言うや否や、魔力を通して遊び出すルゥネ。


 ただでさえ長かった義手は確かにグンッと伸びた。関節内部に埋まるようにして入っていた箇所が伸縮するらしく、その伸縮速度も相当なもの。発生した速度、振動によって机が揺れている。


 全長は……五メートルくらいありそうだ。思わず「えぇ……」とドン引きしてしまった。


 あまりに面白かった+どうせなら全部使っちゃえ精神が発動したとのこと。


 最大で十メートルを越えるとはしゃいでいた。


 「ついに奴の素材を元にした武器が出来たのか……」という感動と「あいつのせいで右腕千切る羽目になったんだよな……痛かったなぁ」という哀愁にも近い感情が湧いてくる。


 忌避感とまではいかないものの、複雑な想いが胸の中で渦巻いた。


「空気抵抗や速度低下等の理由から、普段はそのマントに隠すのが良いでしょう。そこから飛び出す暗器としても使えますし」

「随分デカい隠し武器だな……」


 指を差された肩のマジックバッグ化してあるマントと義手を交互に見て思わずそう漏らすと、「はぁんっ、このルゥネっ、ご期待に添えるよう頑張ったんですのよっ?」とクネクネしながら返してきた。


「褒められたみたいな反応するな、褒めてねぇ。つぅかそれで趣味全開じゃ世話ないだろ。慣らしも調整も必要な武装をこんな……説明を聞いただけでじゃじゃ馬とわかる仕様にしやがって」


 そもそも何だよ慣性で動かすって。そんなものが武器だとは笑わせる。


「あら……? 旦那様には扱えきれないと?」


 俺の小言に対し、一つしかない紫色の瞳を向けて言ってくる。


 目は「まさかまさか……?」と嘲りのような感情を宿しているくせに、口元には裂けんばかりの笑み。疑っている訳ではなく、純粋に俺なら使えるだろうと見越しての装備らしい。


「ハッ、バカ言え……俺を誰だと思ってやがる。使いこなしてみせるさ」

「それでこそ私の旦那様ですわ!」


 それまでのヤバげな顔は何処へやら。途端に目をキラッキラさせ、ガバッと抱き付いてきて左腕をホールド。それどころか、片方しかない胸を擦り付けるように身をくねらせ、手を握ってきた。


 強者勝者の崇拝っぷりは相変わらず。


 これで帝国の臣民から文句が出ようものなら虐殺まで始める狂人なのだから恐ろしい。


「あーっ、ルゥネさん抜け駆けは無しって言ったでしょー!?」

『ちょっと何だいそこの女っ! 大将っ!?』

「また煩いのが来たな……黙ってろ喧しいな……こいつは立派に仕事してんだ。好きにさせてやりゃあ良いだろうが」

「『良くないっ!』」


 何やら噛み付いてきたメイとフェイを往なしつつ、「すすすす好きにっ!? ででっ、では子供をっ! 帝国の未来を担う我が子をっ! さぁ旦那様っ!?」とハァハァしてきたルゥネをビンタする。


「あひぃんっ!?」

「お前もお前で調子に乗るな牝犬テメェコラ。ったく……立場を弁えやがれ。こちとら魔族の新人兵、お前は数百年以上も栄えている超大国の王なんだぞ」

「はあああぁっ……この理不尽さが堪らないっ……! 身体がっ……お腹の奥が熱いですわ濡れてきますわ感じちゃいますわぁっ! もっと打ってくださいまし旦那様っ! 敗者は勝者の為に!! はぁ……はぁ……あああああっ、興奮すりゅうっ!」

「聞こえてねぇなこれ……」


 本当……こいつらと話してると力が抜けてくる。フェイも戦ってる時は可愛いんだけどな。


 ……そこはルゥネも同じか。マジの時の表情とか据わった肝とかゾクゾクしてくる要素はあるくせに普段はこの調子。どうなんだろうか。まあメイは妹くらいにしか思えないから別物だけど。


 ルゥネに関しては少なくとも地球で言う産業革命のような革新をもたらしている第一人者とは思えん。


「そういや、めっちゃ話変わるんだがマナコンデンサー……だっけか? そんな充電池みたいなもんが造れるんならカメラとかないのか? 動画……あー……何だ……? 映像を記録、保存出来て他者に見せれるようなやつ……で伝わるかな」


 ふと。


 魔国で言われた戦争や現状、敵に関する証拠について思い出した。


 こっちに近付いてきたフェイの機体や壁の方にある部下達の機体の所々に付けられた箱形の宝石のような見た目の装置を見たからだろう。


 魔力充電池(マナコンデンサー)


 文字通り、魔力を溜めておけるものでゴーレムの稼働時間と最大出力を底上げし、パイロットの負担を激減させるもの。


 それ自体は元々『天空の民』が持っていた技術だが、素材は魔物から取れる魔核。良い質のものも量も潤沢にある地上では比較的簡単に生産出来る上、その容量も桁違いだと聞いた。魔力も地上人の強力があれば幾らでも溜められる。総魔力量が極端に少ないフェイ達からすれば生唾もののお宝だ。


「カメラ……? あぁ、転生者の皆さんが言うアレですね。今はありませんがそれくらいなら再現出来ますわ。造らせましょうか?」


 一瞬、小首を傾げたルゥネだったが、直ぐに該当するものを想像したようで真剣な表情をしながら訊いてきた。


「頼む。それと、その映像を立体映像で映す魔道具もな。魔国の説得に使いたい」

「承知しました。例の信用を得る為のものですね?」

「証拠さえありゃあ魔国も本気になる。帝国やシャムザとの交易も夢じゃない。同盟は受けてくれるんだよな?」

「勿論ですわ。旦那様のご命令とあらば例え火の中水の中……私は命を賭して遂行する覚悟です。完成次第、全艦に配備させましょう」

「えぇ……二人とも急に真面目になるじゃん。やる気……真面目スイッチでもあるの?」

『似た者カップルなんだねぇ……妬けるじゃないか』


 何やら引き気味のメイと『負けたよ……』なんて言って機体の首で頷いて見せるフェイを無視し、話を戻す。


「……話の腰を折って悪かったな。新兵器は他にもあるんだろう? 作戦や布陣と一緒に説明を頼む。総大将のお前が忙しくなる前に詰め込んでおきたいんだ」

「当然です。旦那様こそ真打ち……対勇者の切り札なのですから!」


 ルゥネとて、ライや白仮面野郎を安く見れないらしい。


 【以心伝心】の強みだ。


 心を直接リンクした相手の情報や心境を誤解なく得ることが出来る相互理解の力。


 当初、この戦闘狂の若き女帝はメイの兄と聞いて「勇者と言っても、固有スキルやポテンシャルが多少違ったところで……」等と考えていた。


 それが俺の記憶と感想を聞いた瞬間に手のひらを返した。


 ライは自身の能力だけで装備の性能差をゼロにした男。


 白仮面野郎は自身の能力だけで俺を本気にさせた男。


 ルゥネはその俺に負けた女だ。勢力としても物量差が凄まじいとなれば頼りたくもなるだろう。


 俺を敬い、信頼している純粋な心と利用したい邪な気持ちが伝わってくる。


 それがまた俺を昂らせる。


 わかっていてそれらを伝えてくるところは汚いが、利用出来るものは何でも利用するというその気概……その潔さはルゥネの良さでもある。


 何処までも狂人で、何処までも悪人。あれだけ殺し合い、傷付け合い、友人、仲間、部下を殺し合った仲なのに、何処か憎めない。


 戦友……とも違うか。


 利用し、利用される関係であり、常に互いを必要とする関係。


 居なくなった仲間達に悪く思いつつも、何となく嬉しく誇らしく思い、柔い金短髪を撫でた。


「ぁっ……ふふっ……旦那様、私()愛していますわ」


 ボソリ。


 頬を朱色に染め、へにゃりとはにかみながらそう言い、直ぐ様真面目スイッチを押す。


「あそこにあるのが乗り込むタイプのバイク型、こちらにあるのが装着タイプのスカート型の新型エアクラフトになりまして、向こうの方にあるのが高速移動兼特攻兵器の……」


 少し気恥ずかしかったらしい。


 俺の視線から外れるように説明対象の方に向いたが、その耳が少し赤い。


 こういう可愛いところは年相応か。


「あー、ルゥネさん? 恋する乙女みたいな顔止めて? 殺すよ?」

『大将もらしくない目ぇしてるよ気持ち悪い』

「……本当に煩い奴等だな」


 思わず吐いた息が白くなって消えた。


 気が付けば季節はもう冬。俺だけじゃなく、他の皆の息も白くなってるし、やたら着込んでる奴も増えている。


 シャムザの気候や帰還した時のバタバタで全く意識してなかった。


 今まで色んな場所で戦ってきたが、今回は恐らく真冬真っ只中の戦闘になる。暑い場所、普通の気候なら兎も角、寒い時期に……それも上空で戦うのは初めてだ。


 防寒対策も必要か……。


 防風用に付けられた仮面のレンズに触れつつ、俺は北風の吹き荒れる空を見上げるのだった。


 

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