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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第5章 魔国編
250/334

第229話 それぞれが見据える先

こんの駄文書きっ、話がっ、進んでないじゃあないかっ、このやろうっ(ノ`Д´)ノ彡┻━┻


 女帝ルゥネの朝は早い。


 日が登り始めた頃に起床、部下が纏めた書類を軽くチェックしながら朝食をとり、その日の予定を聞く。


 出向く必要のある施設や場所があれば見て回り、気になった点、要望は【以心伝心】で意志疎通。


 帝国では多少の無礼も許される傾向にある為、休憩の時間や礼儀作法が必要な……所謂、無駄な時間消費が発生する職務を無視すれば昼頃にはその日の全ての公務が終わる。


 また、ありとあらゆる公務を短縮、激減出来る能力を持つ彼女と言えど、稀に他国の客人や属国からの挨拶等で時間を取られることもある。


 しかし、それさえ終えればサッと汚れまみれの作業着へ着替え、アーティファクト関係の工房に直行。顔も髪も身体も至るところをあっという間に煤や油のようなもので汚し、作業に没頭してしまう。


 無論、彼女だからこそ出来る時短であり、本来なら出来て公務だけ。以前の帝国ならば空いた時間には自己研鑽が関の山だろう。


 ルゥネは違った。


 日中から夜寝る直前まで様々な人々と脳のリンクを繋げ、常にコミュニケーションをとっていた。


 思考系スキルを所持しているので指示ミスや誤爆はなく、常に頭から煙を出しているような状態だったが、自分の負担なら無理やり事を進めても問題はないと大幅な時短に成功。書類仕事も簡易的なものなら存在そのものが消えた。


 裁判署のように国に判断を委ねる事案や警察に当たる憲兵団の働き等をマニュアル化したのも大きい。


 国柄、度が過ぎたクレームも多いものの、そこは帝国。ルゥネ自ら出向き、気に入らなければ決闘からの処刑で事は済む。

 

 国のトップ……それも、まだ成人して数年程度の少女が今にも倒れそうなほど疲弊し、夜は寝ないか、時折仮眠を取る程度しかしておらず、更には『文句があれば殺しに来い、お前がやれ』を地で行く肝。実際に全ての物事を潤滑に回しているその手腕。


 侮蔑対象ではあるが、国の経営に必要な文官に称賛対象ではあるが、脳筋気味の武官。それらを同時にこなすルゥネに文句を付ける者は極少数だった。


 本人が至って楽しそうに日々を過ごしているというのもあるだろう。


 彼女は現在、義手の改善に着手しており、既に人間本来の腕並みの動作が可能なほど精巧なものも造り出している。


 銃撃戦も出来れば近接戦闘も多少は可能。故に、その義手を使った鍛練も怠らない。


 そんなルゥネの邁進により、帝国の技術革新は留まることを知らない勢いで突き進んでいた。


 鹵獲した無傷の『フルーゲル』をセシリア達が艦隊の修理代として置いていき、解体、研究、転用の流れが生まれたとはいえ、流石にアンダーゴーレムの量産は不可能。しかし、超小型魔導戦艦……ならぬ魔導列車は生産を始めている。


 人に限らず、物の運搬も出来、線路も要らず、燃料は乗員の魔力のみ。浮遊する為、線路も道路整備も要らない。馬車を扱う商人や傭兵、冒険者泣かせな代物などと揶揄されてはいるものの、帝国臣民からは比較的好評らしい。


 代償としてはやはり公務を全うしている今現在も脳内に飛び交う無数の声。


 ――ルゥネ様、ここんとこはどうしましょう? 素材がちょいと足りません。調整っすかね。

 ――新型エアクラフトと新兵装の資料上がりました! 後でチェック願います!

 ――冒険者ギルドから苦情有り。レベリング兼スラスター装備の実用テストで魔物を間引き過ぎたようです。どう対象致しましょう?

 ――こちらヴォルケニス改修班。閣下の案通り改修終わりました。補修の方は後二~三日掛かります。

 ――おーい姫さんよー、例の新装備どうなったんだー? データ収集とかもう飽きたし、面倒臭くなってきたんだけどー。

 ――あ、ルゥネ様っ、義手の調子は如何です? 他にも別タイプのものが幾つかありますが……

 ――ルゥちゃんルゥちゃん、セシリアさん達から通信。えっとー……改めて補修感謝。また、連合が近日中に攻めてくる可能性大、だってさ。


 それら全ての声に脳内をフル回転させ、返答している内……意識が霞んだ。


 (うっ……流石に働き過ぎ、ましたわ……)


 目眩と頭痛、吐き気に見舞われ、その場に膝をついて息をつく。


 弱音の思考こそ能力に乗せなかったが、周囲の者が心配そうに駆け寄ってくるのを手で制し、ふらふらと立ち上がった。


 直後。


 二つの朗報が同時に届き、ルゥネは疲弊しきった隈だらけの顔を綻ばせた。


 ――あ、それとボクにとっては非常に残念なことだけど……シキ君が助太刀に来てくれるってさ。

 ――うげっ……姫、良いお知らせよ。ディルフィンの機影を確認。かなり遠いわ。この様子だと今日中には帝都に着くと思……あの黒鬼野郎、私が『見』てるなんて知らないくせにこっち見て笑ってやがるわ。何これアイツと姫の愛の力ってやつ?


 アドレナリンの大量分泌によって歓喜の感情をもろに伝達してしまい、彼女と繋がっていた者全員が一斉に( ´-`)みたいな顔になったのは言うまでもない。








 ◇ ◇ ◇



 その日、ターイズ連合に加盟している各国、組織代表に激震が走った。


 行方不明だった勇者ライ一行の帰還が理由……


 ではない。


 ライパーティによる聖神教の弾劾も終わり、誰もが口をつぐんでいた横暴さへの言及はかの組織が自らの発言権や影響力を一部取り下げたことで落ち着きを取り戻している。


 では何故か。


 兵糧から物資、建築物に貴重品などなど。修復はおろか、使い方によっては複製すら可能な『再生者』マナミの謀反。


 これが理由である。


 実際のところ、謀反というとやや強く、上層部の一部が考えている大袈裟なもの。


 マナミが起こした行動は二つ。


 第一に、前々から存在していた、マナミを祖とする宗教的私設組織の公式認定。


 こちらは彼女が創設した訳ではなく、彼女を取り囲む周囲が望んだ声やそういった気運から勝手に生まれており、本人が公の場で「認めます」と宣言して発足したもの。


 例えその中に連合の上層部が意図していない軍隊の姿があってもまだ良かった。大半が元再起不能の兵や騎士、冒険者の類いであり、聖騎士が持つ強力な力や『天空の民』の技術を駆使すれば簡単に御せる故にそこまで大きい話には発展しない。


 問題は第二の行動。


「次の戦争を以て、私、『再生者』マナミは連合から抜けます」


 そう、声高々と宣告したこと。


 これにはライですら待ったを掛けた。


「ま、マナミっ、ちょっと待ってくれっ。君の力は有用だっ、君の存在の有無によって戦争の結果が左右されるんだよっ? 犠牲者や被害だって抑えられる……! 俺はもうっ、誰にも死んでほしくないんだっ」

「……ライ君、貴方はまだわかってない。ユウ君がいつだか言ってた通りじゃない……ああやって公の場で不正を正すのは良いよ? けど、結果どうなった? 何も変わらないっ。そして貴方も。言うだけ言って満足し、ただ名ばかりの纏め役だったマリーが実権を握っただけ。権力だけじゃ軍は動かない。『天空の民』も聖神教も独自の命令系統を持ってる。上辺だけの妥協案だね」

「け、けど、それはっ……」

「けども何もないって言ってるの。それに……貴方は今言ったよ。戦争の結果が左右されるって。今度は何処と戦争するつもり? まだこんな争いを続けるの? 本音を言えば次だなんて悠長なことは言いたくないよ。今すぐこの場から、この下らない集まりから離れたい」


 ただの定例報告の場。連合の重鎮が集まる会議室にて、突如隣で真っ向からの協力拒否発表をしたマナミに対し、ライは掴み掛かんばかりに詰め寄った。


 無論、部屋は出ており、場所は新たに至急された艦の自室。事が事なだけにマリー……イクシアの現女王やミサキ、シキ達からすれば寝返った形になる撫子の姿もある。


「だからってあんな場でっ……」


  氷のように冷たい眼差しをしていたマナミと感情的な自分に苛立ちを自覚したのだろう。


 ライはそこまで言ったところで【明鏡止水】を発動させ、鉄仮面を被った。


「……急過ぎる。連合は一枚岩じゃない。駄々を捏ねただけで了解を得られる訳がないだろう」


 取り乱した様子からスイッチが切れたような無表情に。


 そのあまりの変貌っぷりや嘗てない険悪な場に、マナミだけでなく、他の面々もそれぞれ別々の感情で目を細めた。


「感情を隠すのが得意になったね。何だか冷たくて……私は嫌い。貴方はそんな人じゃなかったのに」

「論点を逸らさないでほしい。現実問題、君の行動は混乱を招き、不和を生む。ノアとロベリアが何て言うか……」

「困ったらスキルで感情を殺し、口を開けば別の女の子の話……ライ君は何がしたいの? もう十分でしょ? これ以上に連合の勝手を許せばいずれまたユウ君と敵対するってわかってるのに、何でまだあの人達を許せるの?」


 マナミは感情を捨てたライに対抗するように、切実な面持ちで心中を語った。


「ユウ君がね、私に言ったんだよ。私の固有スキルのせいで死にそびれたって。私はもう……ユウ君に苦しんでほしくない。魔族にも獣人族の人達にも死んでほしくない。人族が至上? かつての歴史を思えば種の絶滅こそが安全? 日本で習ったあの世界の悪行をしようとしてることに何で気付かないのっ? あれがただの授業な訳ないでしょ。酷いよね可哀想だねじゃないでしょっ」


 自分の持つ力が悲劇を起こした。


 自分の持つ力が人々に狂気を持たせているのではないか?


 また新たな悲劇を生み出すのではないか?


 マナミは疑心にも近い悩みを抱えていたらしい。


「っ……そんなことはわかってるさ。もう二度とあんなことを起こしてはならないという教訓であり、後世へと紡いでいく負の遺産だとも。しかし、俺達の場合はそうじゃない。世界の統一を図るだけだ。他種族の迫害や浄化なんてさせない。大丈夫さ、戦争の被害だけで絶滅なんかしない。必要な犠牲だよ」


 何処までも自分を曲げず、しかしユウと聞いて眉をピクリと反応させるライ。


「はぁ……? 必要? 必要だって……? 矛盾だよっ、それなら尚更対等に戦えば良いじゃない! 私やライ君、『天空の民』の力を借りず、真っ当に戦うっていうんならフェアだけど、連合は連合が嫌う力で多数の国を従わせっ、こうして侵攻を考えてるっ……! それを止めなきゃいけないライ君がどうしてっ……」


 相対的に熱くなり始めたマナミ。


 そんな二人を抑えるように、他のメンバーも口を開いた。


「お、落ち着いてください。ライ様の尽力で我がイクシアが名実共に連合の中心に立てたのは事実……方針は変えられる筈です」

「どうかしらね。アタシはマナミの言うことも尤もだと思うけど。シズカも……もしかしたら似たようなことを思ってたのかもしれないし……いえ、きっとそうよ、あの子は人の心の声が聞けたから……」

「……右に同じでござるな。組織構造や過去のやり方を思えば……いや、かの宗教を推す国の王族であり、その教えを知るマリー殿ならそう単純な話でもないと承知しているでござろう?」


 どうやらライの味方は一人だけらしい。マリーはマナミ側に付いた二人を軽く睨むと、他の問題点を上げた。


「ハヤセ様のこともあります。ただでさえ嫌な気を放っていましたが、最近はいつにも増して様子がおかしい、八つ当たりされると苦情が来ています。抑えてくれるイサム様もです」


 ゾンビと化した早瀬と復讐の仮面を被ったイサムが帝国での敗北を機に再び修行を重ねているという噂はマナミ達も小耳に挟んだ。


 今度はレベリングだけに留まらず、不死身の肉体特性や様々な戦闘技術を知ることでより強固な力を得ようともがいているとも。


 【不老不死】の魔王との相性を鑑みれば能力的にもライは劣っている。にも拘わらず立場はライの方が上。


 それは一重に人格、シキとの軋轢、度重なる敗北による信用と地位を失墜が原因。謂わば自業自得。


 しかし、逆恨みとはいえ、復讐を糧に得たその力は絶大。


 強力なポテンシャルを秘めているライでも容易には止められない戦力になりかけている。


 そんな彼等の蛮行と横柄な態度は相も変わらず続いているとマリーは言う。


「マナミさん、こう言ってはなんですが……仕方のないこともあります。口で解決するのなら力は要りません。それぞれの国、組織、派閥、人がそれぞれの胸中で連合を構成しているのです。目先のことよりも今は皆で協力し合って世界の統一をですね……」


 何も変わらない。


 目の前の女王は友人だ。同い年で話も合う。ライという一人の男の正妻の座を奪ったことにも特に思うところはない。彼女はそれだけの地位を無理やり引き継がせられ、めげずに必死に食らい付いているのだから。


 しかし、どう言い繕っても世界統一を目指すは早い話が他国への侵略である。


 (マリーの言う目先のこと……手段すら選べない時点で何でそう簡単に後からどうとでもなるなんて言えるの? マリーも矛盾してるよっ、口で解決しないことがわかってるなら軍事力を用いた組織が口先だけで方針を変えられる訳がないのもわかるでしょっ、何でこれがわからないのさ……!)


 そんな疑問と共に、今の連合は人が持つ悪性や組織が持つ脆弱性が前面に出ているとマナミは感じた。


 短絡的な傾向にあるミサキは兎も角、撫子はこの矛盾に気付いている筈。何故もっと強気に出ない?


 言い様のない怒りに一瞬だけ我を失ったマナミはそういった意味を兼ねて撫子に視線を向けたが、けんもほろろにスルーされてしまった。


「……そう。ライ君とマリーの言いたいことはわかったよ。だからこそ、私も勝手に動かせてもらう。仕方のないことだと諦めてね」


 最早付き合ってられないと吐き捨て、ライ達の制止を無視して部屋を飛び出る。


「あの様子……やっぱり神の影響を……こっちに帰ってきてからまたライ君がライ君じゃなくなってる…………それなら対極の〝力〟を持つユウ君は……? ユウ君……私、どうしたら良いの……?」


 コツコツと足音が響く中、内心の不安と心配を静かに吐露し、心を落ち着かせる。


 しかし、そんな彼女の心を映し出すように、通り過ぎた廊下の窓の先には暗い空模様と稲妻の光が広がっていた。





 ◇ ◇ ◇



「では『天空の民』としては軍部の縮小は決まったことだと?」

『はい。時代の変革を悟りました。ですね元帥?』

「はっ……戦の常套手段であるMMM……失礼、地上ではアンダーゴーレムでしたかな? そのアンダーゴーレムがああも簡単に墜とされては如何ともし難い状況。我々、軍としても非常に情けない話ですが聖騎士や勇者殿を前面に出していただきたい所存です」


 ライ達が居なくなった重鎮達の部屋。


 マナミの宣告のせいで一時は大混乱に陥ったものの、議題は既に別のものにシフトしている。


 そんな中、連合加盟国の王族達が一様に張り付けた苦い顔と同様のものを珍しく表に出している聖騎士ノアを、『天空の民』の女王ロベリアは密かに面白く感じていた。


『代わりと言ってはなんですが、生産工場の方に地上の(かた)が言うスラスター装備やエアクラフトの生産を依頼しているところです。この辺りが私達の出来る最大の譲歩かと』


 勢力図や派閥、思惑はどうあれ、地上の人間の総意は『『天空の民』の圧倒的な力で何の苦労も被害もなく他国を支配したい』である。


 足としても使え、矛としても盾としても頗る優秀。対価として求められるものは物資や戦後の地位程度。


 元々争い合っていた国と言えど、揃いも揃って手を揉みながらすり寄ってくるのも理解出来る。


 しかし、『天空の民』を率いる立場としては当然看過できない。


 『海の国』方面に向かわせた追っ手からの通信は途切れ、離反した幾つかの艦隊もその大半が同じ場所で撃墜されている。


 元来、人口の少ない国なのだ。艦隊を動かせるほどの人材を育成するだけでもかなりの時間と労力、金を食う。


 幸いにしてマテリアルボディの使用者は食事を必要としない為、兵糧に関してはそこまでのものではないものの、天空城に残っている者……特に肉体の未発達な子供などは一定の年齢まで普通の食料が必要。生身の身体で活動する者が珍しい天空城では普段から流動食くらいしか存在しないので、地上からの支援物資は割りと馬鹿に出来なかったりする。


『未だ離反者が絶えず、こちらも苦労しているのです。申し訳ありませんが、理解していただきます』


 続く言葉は強気で。


 事実、それこそが今現在『天空の民』が抱える最大の悩みの種だった。


 ただでさえ少ないというのに、たった一回の戦争でおおよそ1/3の軍人が死亡し。以降に出した偵察や追っ手も次々と消息を絶っている。


 不利を悟って逃亡者が出るのは当然の帰結とも言えた。


 地上との関わりを持ってしまったが故に、地上の豊かな緑や物珍しい文化を面白がった、元から地上に憧れていた等、様々な理由で離れていく者も居る。

 

 無論、厳罰は課しているが、死罪や禁固刑はもっての他。それでも尚、逃亡者の報告は絶えない。


 また、真に恐れるべきは人材の流出から漏れる技術の拡散だ。


 先日の戦争でもパヴォール帝国は古代の遺物を応用して圧倒的な戦力差を覆した。


 大量発掘している砂漠の国シャムザの援助があり、かつ強力な身体能力を持つ者が向こう側にかなりの数存在しており、更に互いの戦術が奇跡的にマッチし、最悪の結果を生んだ。その理由は大小あれど、事実は事実。


 その帝国に、もし逃亡者の技術が渡ったら?


 旧型のものが大半とはいえ、シャムザが全アーティファクトを正しく使い出したら?


 数の暴力は戦争の結果を大きく左右する。


 マナミの連合脱退宣言も同じ。


 『天空の民』はステータスや魔法、魔力の有無では勿論、その数でも劣っているのである。


 そういった事実を知り、認められたのが先の戦争。


 好き勝手に使われるだけの軍隊ではないとこちらが強気になるのは他の代表達も理解している。


「「「「「…………」」」」」


 暫くの間、会議室全体に長い沈黙が訪れた。


 この沈黙こそが答えだろうとロベリアは思った。


「……その上で地上の土地を望むと?」


 それでも矢面に立ち、言い負かされるとわかっていても意見だけはしなければならない立場にある聖騎士ノアがチクリと返してくる。


 その顔はやはり心中を表していた。眉をひそめ、目を細め、「無駄だろう」と悟っている。


 (ふふっ……損な役回りねノア。本来は貴女達が暫定的に認めた連合の当主……イクシアの女王がこなすべきものを、名ばかりの権力だけを与え、この場にすら呼ばないからこうなるのでしょうに)


 内心、何処までも一致団結出来ない地上の人間を見下しつつ、ロベリアは返答する。


『当然でしょう。かの帝国と再び戦争をしようと言うのです。得るものがなければ我々は動けませんよ』

「そう、ですか……」


 渋々ながらではあったが、聖騎士ノアは静かにその口を閉ざした。


 連合加盟国の大半は帝国に煮え湯を飲まされた小国ばかり。もし仮に帝国に勝利した暁には奪われた領土を取り返したいというのが人情。そこを得ようと言うのだ。何か言いたい気持ちはロベリアとて理解出来る。


 が、そこまで。


 誰が望んで他国の為に自国の民を戦争に駆り出させようと言うのか。


 (文明の支配者である我々が愚かで無知な地上の民を束ね、世界を統治する……いえ、管理と言っても良いかしら? 何故なら貴女達は()()種族間……あるいは大陸を分断する大戦争を始めようというこの時にまで協力しきれない愚かな生き物)


 薄ら笑いを浮かべた直後、インカムから何かを聞いたらしい直属の部下が耳元を押さえ、「どう致しましょう?」と目で訴えてきた。


 一応、周囲の反応を見渡してから「問題ありません」と頷くと、そっと口を寄せてきた為、ロベリアも耳を傾ける。


「陛下の機体の整備が終わったようです。いつでも出せます」


 彼女にとって、その情報は朗報だった。


『わかりました。今後必ず使う時が来るので備えるように伝えなさい』

「御意」


 逸る気持ちを堪え、小声で返す。


 (かつての暗黒時代を呼び起こす訳にはいきません。あんなっ……星そのものを食い付くした『災厄の時代』などっ……!!)


 マテリアルボディとスピリチュアルボディ。


 その二つの技術と存在を創造し、維持することで魔王と同じ不老不死を可能にした種族、『天空の民』。


 その女王ロベリアは陰謀渦巻く暗い環境にその身を擲ちながら、遥か遠い悠久の過去と現在の状況を憂いていた。


次かその次くらいには進む筈……。

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