第227話 連合対策会議
「至急とは言わん。だが、今後は他種族国家と同盟を結ぶべきだ」
「不可能だと言っているっ。貴様は人族の歴史を知らないからそんな戯れ言を吐けるのだっ!」
魔王城、とある一室にてリヴェインの怒号と机を叩く音が響いた。
俺達がもたらした古代技術の脅威と情報は魔国の在り方すら揺るがすもの。
自ずと情報提供者と魔国の重鎮達による一大会議と相成り、俺とメイがその場に呼ばれていた。
「パヴォール帝国とシャムザ王国は既にターイズ連合と敵対している。かの『海の国』や他の小国もだ。あんたらに言わせりゃ人族は愚かなんだろう? 今はその愚かさ故に勢力を分裂させてくれている状態なんだ。幸い、先の両国は俺の知己が治めている。ムクロ……魔王とも旧知の仲だ。それほど悪い手ではないだろう」
「や、シキっちさー……マジな話、無理ぽ案件なんよ。だってウチらはシキっちが生まれる何百年も前から敵対してる訳だし? だから何百年も前から鎖国してる訳だし? 幾ら向こうに『よろ!』とか言われても、こっちの方も受け入れ体制っちゅーか、何ての? ほら、心の準備とかあるじゃんさ」
「言うは易し。こう言っては元も子もないがのぅ……そもそも、我々の傘下に入ると表明したお主は新参も新参。……わかるじゃろ?」
どうにも感情的になりやすいタイプのメイには出来るだけ口を閉じているよう言ったのだが、俺の案が通らないことを受け、もう苛々した様子で四天王達とムクロを睨んでいる。
四天王……三天王の渋い顔、反応は勿論のこと、ムクロがぼーっと虚空を見つめているのも原因だろう。
一応、小声で「ここにはここのやり方があるんだ。そう露骨な態度をとるな」と釘を刺しておく。
わかってるよ、と若干ムッとした顔で返ってきた。内心、どうだかなとは思いつつ、会議に集中する。
「功績か……しかしな、戦争になってからじゃ遅いだろ」
俺の指摘に、「それもそうだがな……」と怒りのボルテージを下げ、冷静に物事を進めようとするのはリヴェイン。
「我々のメンツもある。昨日今日入った新参者……それも夜襲を仕掛けてきた元賊に唆されて国の方針が変わったなど口が裂けても言えぬ」
言っていることは至極真っ当で、俺とムクロの件で怒ってこそいるものの、近衛騎士団の長として比較的冷静な意見を言ってくれている。
「ぃやー……ウチらは良いとしても納得いかない人達も出るっしょ。同盟=『戦争に備えるんやな!』って考える人と『この国は戦争するつもりなん!?』って考える人が出てくるよ絶対。第一、ここ数千年の歴史の中でも魔王様が男を連れてきたことなんてないんだからそういう意味でもヤバげだよっ☆」
と、口振りや口調は軽いくせに内容はつくづくシビアなのが小さい牛の角みたいのが生えたゴスロリ娘のトーレア・チェリーことチェリー。
聞けば牛じゃなくて悪魔的な角で、つるペタの金髪ロリータギャルみたいな見た目だけど、種族はサキュバスとのこと。
一々テンション高いのと謎のウィンクがウザい。これで魔法使い部隊である第二師団の長だというのだから驚きだ。
「早い話、国の方針は変えられんのじゃよ。魔導戦艦のことは兎も角、他のアーティファクトはこうして話に聞く程度。かといって、我々が独断で動く訳にもいかないしの。都民がその恐ろしさを知りでもせん限り、どうにも出来んよ」
そう言ってサンタクロースみたいな立派な髭を弄り、如何にも真面目ですみたいな顔で話してるくせにさっきからチェリーにセクハラしてビンタされてるのがよぼよぼガリガリのドワーフ爺さんのクレイ・ケレン。通称クレイ爺。
ドワーフなのにやたら貧弱そうだし、さっきまでうとうとしてたし、酒より女ってタイプのおちゃらけたスケベ爺さんだが、魔王軍の元帥らしい。
曰く、普段は魔法師団とは別枠の師団を複数率いる立場。しかし、有事の際はリヴェインが騎士主体の第一師団長となり、爺さんが軍の統括責任者兼工作や間諜専門の第三師団長になると。
「んな悠長な……じゃあ獣人族の国はどうだ。繋がりもないのか?」
「そちらとは既に話が付いている。同じ反人族国家……ない訳なかろう」
「『今までどーりで不干渉! でも戦時は協力しよ? ミャハっ☆』だってさ」
「先方も都民と同じじゃ。物を知らねば対策も何も出せぬ」
話を聞く限り、現実的な問題が邪魔しているだけで魔族側に人族そのものを敵視する意思はないように見える。
The・騎士を地で行くリヴェインですら差別意識というより、文化的な差で敬遠しているようだ。
話し合いはスムーズにいかなかったが、俺の気分は頗る晴れやかだった。
何故か。
全員が一歩引いた目線で話してくれるからだ。
当たり前と言えば当たり前だが、一つの国を回してるだけあってちゃんと会話になる。
ちらほら感情を出しこそすれ、最終的にはこちらに理解出来る言い方をしてくれる。
俺の人生史上未だ嘗てないほどまともな会議になっていると言えるだろう。
「連合にこういう可愛げがあれば……」
思わぬ伏兵だ。この世界に来てから専ら頭のおかしい奴や団体さんばっかり相手にしてたからか、出てくるのが満場一致で反対意見だったとしても会話になっているだけホッとする。
それと同時に、今までの奴等は何だったのかと頭が痛くなってくる。
俺も本来ならあいつらと同じ種族の生物だったんだけどなぁ……。
「あぅー……あうあうー」
「はぁ……はいはい落ち着け。俺はもう離れないから、大丈夫だ」
「えへぇ……」
ぼんやりするだけに飽き足らず、定期的に脳がバグって抱き付いてくるムクロの頭を溜め息混じりにポンポン叩き、軽く抱き締める。
そうしてやるとムクロは赤ん坊のようにきゃっきゃっと笑い、嬉しそうに顔をふにゃらせた。
俺としては慣れてるから普通のことなんだが、当初リヴェイン達には大層驚かれた。
彼等が言うに、時折ムクロが幼児退行したり、口調どころか人格まで変わったように話すのは『自分がわからなくなっている状態』らしい。
その状態になってしまえば会話はおろかコミュニケーションすら取れなくなる為、部下は対応に困る。
事実、体裁的にも問題があったんだろう。俺という存在が安定剤として機能しているのを見てからリヴェインの態度は目に見えて軟化した。少なくとも、先程のように声を荒げることはあっても剣を抜いたりはしていない。
「ほらムクロ、シャキッとするっ」
「ふみゅっ……あ……ぁぅ……? んがっ……わ、悪い、またか……」
「……あまり気にするな。体質みたいなもんなんだから」
「ん……皆もすまないな」
頬っぺたに指を食い込ませるようにして顔を鷲掴みにし、揺らしたり、軽く頭突きしたりして正気に戻らせた後、謝りながら会議に戻るムクロを見つめる。
以前、ジル様は言っていた。
【不老不死】の効果は精神にも及ぶんじゃないか、と。
精神的に死ぬことがないから記憶といった脳の機能に限界が生じても狂うに狂いきれず、こうして意識が飛んで妙な行動をし始める。
ジル様の推測と本人、他魔族からの証言を纏めるに、長く生き過ぎた故の弊害だろう。
痴呆と似たようもの……というと失礼かもだが、見てる限りそんな印象を受けた。
無論、リヴェイン達の説明あっての印象であり、事情を知らない時は単にそういう奴なんだと思っていたが。
本人やリヴェイン達が言うには頻度が増えてるらしいから戦力として当てにならないかもしれない。
魔王と聞いて納得の圧倒的魔法能力もこうなってしまっては形無しだ。
「さて……話を戻そう。功績と納得の材料……早い話が、あんたら魔族の信頼を得れば同盟を結んでくれるんだな?」
申し訳なさそうにするムクロを励ますように肩を叩いた俺はそう言って話をまとめた。
四天王の三人も、端的に言えばそうなる、と各々頷き、認めた。
事が起きてからでは遅い。が、国一つ動かすには相応の対価や時間が必要なのも事実。
そして、ムクロの立場や国民性を思えば無理やり主導してもらうのは悪手。
ムクロはルゥネとは違う。片や博愛主義者、片や帝国主義者だ。決して交わることのない人種。ましてや、この平和な国が究極的な帝国兼実力主義国家である帝国と同じ手法で動かせるなんて到底思えない。
ここは一つ、帝国にドンパチやってもらおうじゃないか。
幾ら高度な技術力を持つ『天空の民』……もとい、連合軍と言えど、出せる艦隊には限りがある。
具体的に言えば全部で百隻ほど。先の戦争で八十くらいになった筈だとフェイも明言した。元はあくまで天空城防衛の為の艦隊だから巡洋艦が殆どだとも。
そんな奴等が果たして帝国やシャムザを放ったらかしにしてこの国に攻めてくるだろうか。
答えは否。
地理的、他国が保有する戦力的に艦隊を分散させるという線もない。
大雑把に分けて中央と西が連合軍の領土。北が魔国で東が帝国、南は勿論シャムザだ。
魔国は長いこと鎖国していたせいで戦力が読めず、帝国には惨敗している。シャムザに至ってはその帝国と同盟を結んでいるアーティファクト大国。何処を攻めるにしろ、艦隊は一纏めにする筈。
ライと白仮面野郎という不確定要素やマナミというイレギュラーは居るが……怪我人も戦艦も一方的に復活させられるマナミは兎も角、前者の二人は艦隊戦の戦況を覆すほどの戦力じゃない。他の異世界人も同じ……というか寧ろ弱い分、烏合の衆。揃いも揃って迫りくる対空射撃の中を通れるような度胸も持ち合わせていない。
更に言えばライとマナミ、撫子の三人は俺が誰に会いに行くつもりだったのか、何処を目指していたのかを知っている。
これが大きい。
連合はまだ魔国や獣人族の国に宣戦布告していない。
やり合ったのは未だ帝国のみ。それも勇者二人と再生者、『天空の民』の艦隊を1/3も投入して負けている。
強いとわかっている帝国を無視し、俺が居るとわかっている魔国に攻め入ってくるだろうか。
そういった考えから魔国を除外するとすればシャムザが狙われることも考えられるだろう。
得られれば最終的に勝てるようになるかもしれない要の土地だ。大量の遺跡が眠る砂漠欲しさに全戦力を投入する可能性はある。
しかし。
連合はまた帝国に攻めてくる。
断言しても良い。
魔族と獣人族の国は鎖国中。宣戦布告もしてなければ魔導戦艦という足もない。戦力以前に魔国からの侵攻はないんだからスルー出来る。
また、シャムザもシャムザで連合の領土に侵攻する理由もなければ余裕もない。帝国との戦争で疲弊しているせいで、こちらも侵攻以前の話。
反撃や被害を無視すれば帝国以外の国は手に入るだろう。
だが、そうした場合、帝国は戦力が留守になった連合の領土に侵攻する。
ルゥネからすればそれは当たり前の手。あいつは態々手薄になった敵国の領土を放っておく女じゃない。
というより、そもそも帝国は帝国主義を掲げて数百年以上の歴史を持っている。その事実は連合に与している国が承知している筈だ。大義名分も戦争勝利後に望むものも適当で押し通してくる狂人共の国……無敵の人ならぬ国とすら言える。如何に連合がアホ集団だとて、ヤバいとわかっている連中は無視できないだろう。
仮に魔国を攻めたとしよう。
領土や魔族という奴隷は得られるが、自分達の国を失い、戦力的にも疲弊する。そこで帝国に攻められれば全滅エンド。
魔国に戦局をひっくり返すような資源……謂わば旨味がないのだから帝国を恐れて攻められない。
仮にシャムザを攻めたとしよう。
後々役に立つ資源の眠る土地は得られるが、自分達の国を失い、戦力的にも疲弊する。また、その資源を得る時間を与えてくれる帝国じゃない。間髪入れずに攻められて全滅エンド。
魔国同様、帝国の脅威を恐れて攻められない。
他の小国や獣人族の国に関しても同じこと。艦隊を出すにしてはやはりリスクに対し、リターンが余りにも少ないのだ。
必然的に、連合の次の標的は帝国ということになる。
「そうなるとだ。三天王に頼みたいことがある」
推測や実際の各国の状況を挟みながら説明したところ、三天王やムクロも同意見だった。
「うぅむ、確かに理に適っているな。……これで陛下と懇意でなければ快く認められたものを……」
「なる! り! 急いで師団の皆を呼ぶね☆」
「……はて、そう言えば飯は食ったかのぅ?」
「む? 昨日一緒に食事したのではなかったか? ……確か」
ツッコミが追い付かない。
リヴェインの小声の呟きとチェリーのよくわからない返答はまあ良い。
爺さんは急にどしたん? ボケたんか? さっきまで真面目に会話出来てただろ。後、ムクロさんや、飯は毎日食わせてやれよ。そして自分も毎日食えよ。何で自信無さげなんだ。
「はぁ……」
俺の代わりにメイが大きな溜め息を吐いてくれた。
これはこれで頭が痛くなってくる。
もっと緊張感を持ってほしい。何で俺がここまで……いや、ムクロを守る為なら何でもするけどさ。
こんな布陣で大丈夫なのかと本当に心配になる。
「……じゃ、そういうことでアーティファクトに関する講師は用意しておく。俺と俺の愉快な仲間達は帝国に戻って戦争の準備だ。良いな?」
こうして会議は終了。平和的に事を進められた。
が。
名残惜しそうに手を伸ばしてくるムクロと軽めのスキンシップをしているのをリヴェインとメイにキレられ、チェリーと爺さんにはからかわれと仲間内のような雰囲気で和んでいる最中にソレは現れた。
先ず、何処からともなく黒い霧が湧いてきた。
次に視界がどんどん暗闇に包まれる中、腐臭を思わせる凄まじく気味が悪い気配が漂い始め、隣に居たメイが「ひっ……!?」と短い悲鳴を上げて椅子から崩れ落ちた。
《気配感知》を習得した今、当時ライ達はこの感覚を味わっていたのかと戦慄する。
勇者という職業を授かり、神からも〝善〟と定められているライは同じ側に立っている今の俺よりも強力にこのおぞましい〝悪〟の気配を感じ取ってしまっていた筈。
レナが言うにはこいつと対峙した時、戦意を喪失させていたらしいが……
納得のプレッシャーだ。
同じ勇者であるメイですら怯えきって俺に抱き付いてきている。
「帰ってきたか……」
俺がそう呟くと同時、黒い霧が急速に霧散していく。
風もないというのに、気配といい、酷く不気味だった。
「ふーっ……ただいま皆。おろ? 全員集合だね珍しい。それと……ユウ君も。久しぶりだね~っ」
霧の中から出てきた、リヴェインやライとは違うタイプの美丈夫はまるで仲の良い友人と再会した時のようなノリで話し掛けてきた。
パッと見、男にも女にも見える中性的な顔。
腰まで伸びた栗色の髪は一本に束ねられており、顔のパーツ一つ一つが造られたのではないかと思うほど整っている。
そのあまりにも女性的な外見のせいだろう。
リヴェインの黒と金の貴族服を真っ黒に染めたような衣装で漸く男なのだと察したらしいメイは「えっ……ぁっ……お、男……?」と首を傾げていた。
『付き人』のクロウ。
実に二年ぶりの再会である。
「やあやあユウ君、待ってたよ。ごめんね~構ってあげられなくてさ。ホントは君にあげたスキルとか強くなる為の秘訣とか色々教えるつもりだったんだけど、ちょっと用事で忙しくて……ホントごめんっ」
手を上げ、めんごめんご~等と軽い調子で謝ってくる『付き人』には片腕と片足がなかった。
脊髄反射で一歩踏み込み、殴り付けようと思って急停止する。
顔も髪も服も態度も、そんな素振りすら見せないのに俺と同じ欠損級の怪我を負っていたからではない。
そんな『付き人』の肩を支える女の存在に気付いたからだ。
日本人特有の黒い髪。
こちらのものとはレンズの透明度も造形の作り込みも明らかに違う眼鏡。
そして、その眼鏡越しでもキツそうな性格が窺える、小生意気さと知性を併せ持った優等生面。
ペアルックを疑うような、『付き人』の貴族服をそのまま女性用に変えたような黒尽くめの格好や腰の細剣よりも、見覚えのある顔に視線が引き寄せられる。
「こんにちは黒堂君。久しぶりね、元気にしてたかしら?」
『付き人』と揃いの髪型、揃いの服、揃って現れたその女は微塵も笑うことなくそう言ってきた。
所謂、同期の召喚者。
同級生ながら酷く達観し、かつ冷酷で演技派の女。
白仮面野郎やミサキ、シズカさんの友人でもある女だ。
かつて、俺を盾や隠れ蓑として利用し、身の安全を確保しようと動いていた姑息な性格は今も健在だろうというのが『付き人』の隣に立っていることからわかる。
「トモヨ、さん……? 何であんたが……いや、あんたは……?」
その女は召喚者の中で唯一、自らの意思、自らの力でイクシアから姿を消した日本人だった。
「他人行儀な言い方は止めてちょうだい。私達はもうこちらの人間なのよ?」
確か……常時、全行動に補正が掛かる【相乗効果】持ちの魔法戦士。
「……成る程、お前らしいな。自分を磨くより他者に寄生、依存か……相変わらず良い性格してやがる」
「賢いと言ってほしいわね。研鑽だって重ねてるし、仲間という点で言えば貴方だって魔族になったくせに大勢連れてるようじゃない」
当時は味方だと思っていたからスルーしていたが、ここまで状況が変わってしまえば話は別。
白仮面野郎がまだあの不気味な白い仮面を付けておらず、俺がイケメン(笑)だなんて呼んでいた頃、俺やライ達が持つ魔法スキルの危うさと白仮面野郎の性格を危惧してか、「殺した方が良いのでは?」と提案してきた時のことは今も記憶に強く残っている。
この女は自分が助かる為なら平気で人を……それも友人を殺そうとする恐ろしい一面を持っている。
他人ならまだしも、友人を、だ。
まあ先ず信用出来ない。
魔王はムクロで、他の魔族は四天王含め皆良い奴等だった。
『付き人』も何から何まで謎だが、裏の顔を知っている分、この女の方が怖い。
何より、ひしひしと伝わってくる気配と気迫はリヴェイン達に匹敵している。
純粋な戦闘能力だけならミサキにも劣る俺だ。固有スキルの特性を考えれば俺や四天王の数段上を行く実力と考えて良いだろう。
メイが真正面から戦って勝てるかどうか……
「ふふっ……何黙ってるの? 貴方、私と同じで観察するタイプだものね。私の力を感じて怖気付いたのかしら?」
「ハッ、お前程度にか? 例えポテンシャルで負けていても装備さえまともなら俺は誰にも負けない。それに……お前みたいなのは賢いんじゃなくて小賢しいと言うんだ」
バチバチと火花を散らし合う俺達の横では「おぉっ、『付き人』殿っ、これは良いところにっ。そこの男について相談したくてだな……」、「うん? 知ってるよ? うちの王様とこれなんでしょ?」、「そ、そうなのだっ……知り合いなのだろうっ? どうにかしてくれぬかっ」等と下らないやり取りが発生している。
「やっほー☆ 手と足どしたん? どっか落っことしちゃったとか? ウケるんだけど!」
「そそ。神様とか呼ばれてる寄生虫達との戦いでちょっとね~」
「な、何て綺麗なお方じゃっ……! 結婚してくださいですじゃあ!」
「いやあの……お爺ちゃん? 僕だよ僕。クロウだよ? 頭大丈夫? おっかしーなー……前はこんなボケてなかったんだけど……」
チェリーとクレイ爺さんは兎も角、リヴェインはどうしても俺を排除したいらしい。
しかし、『付き人』は何故かリヴェインに対しては結構辛辣で、「却下。この子が認めたんだから君達も認めなさい。異論は出させないよ?」とにべもなく告げており、いつの間にか寝ているムクロの頭を撫でていた。
少し脱力する会話に、トモヨの方も軽く困ったような顔で『付き人』達を見ている。
「おいテメェ。人の女に気安く触れんじゃねぇ」
「あはっ……怖いなぁ」
挨拶代わりに怒気と殺気をぶつけるが、『付き人』は眉一つ動かすことなくニヤリと笑うと、「くわばらくわばらっ、あはは~っ」と手を離して終いにし、トモヨは一瞬腰の獲物に手を置いた後、ハッとしたような顔でこちらを見つめ、目を細めた。
…………。
今のでわかった。
俺が一生勝てない相手。
ゼーアロット、ジル様、ムクロ、『付き人』。
この四人だ。
他はまだやりようがある。
ゼーアロットは退けられたものの、装備でも数でも圧倒していたし、何よりも加減してくれていた。
ジル様には手も足も出ずに惨敗した。
ムクロは相性的に近付けない。
『付き人』は勝てるビジョンどころか戦いになるビジョンすら浮かばない。
世界は広い。
だが、手が届かないのはこの四人だけだ。
訊きたいことは山程あるし、何でこの場に居るのかよくわからない奴も居るが……これで魔国の主要メンバーは揃った。
帝国と連合の激突は避けられない上、時間もそれほどない。
緩やかに、しかし、確実に動き出している世界に対し、準備が出来る段階に移れたのはデカい。
ここは我慢の時だ。魔族化の際の恨みや殴り殺してやりたい衝動は一度忘れ、この先必ず起こる種族間戦争を終わらせる手を考えよう。
比較的、平和に終わった。
そう思った会議は思わぬ人物達の登場で延長。その日は夜遅くまで、以降は一週間以上続いた。




