第218話 強襲
すいません、ちょっち遅れました!
刻一刻と迫る艦隊をよそに激しい剣戟を繰り広げるシキとジル。
ギリギリと火花を散らせながら鍔迫り合っては獲物をぶつけ、回転斬りに振り下ろし、拳からの蹴りと、一見すると互角の戦いを続けていた。
何度目になるか、スラスターによる補助で横一回転斬りを見舞ったシキの一撃を、縦一回転にくるりと回ったジルが受け止めた。
「どうしたぁ!? 腰が入ってねぇぞ! オレ様がそんなへっぴり腰の剣を教えたかッ!?」
「あんたこそッ! その剣と張り合ってっ、情けねぇ!」
明らかな虚勢。シキは仮面越しでもわかるほど冷や汗まみれだった。
「くっ……おおおおっ!」
装備者に応え、MFAが独特な唸りを上げて魔力の奔流を吐き出す。
その甲斐あってか、僅か数秒間だけシキの剣は対となる剣を押し返した。
が、それもそこまで。
対するジルは「はっ」と鼻で笑うと両翼を広げ、魔力と〝気〟の混ざったオーラを放出しながら抑え込んできた。
「クハッ……さっきの高速戦闘なら兎も角よぉっ、打ち合いとなればテメェなんざ屁でもねぇんだぜっ?」
「っ……!」
瞬く間に押し負け始め、再びシキが下から耐え、ジルが上から押す図になる。
全ステータスで劣っており、経験も浅ければ剣の技術も天と地。
ならばと逆噴射で距離を取り、唯一の長所であるスラスターを使って急速接近。目にも止まらぬ速さで飛び込んできた刺突を跳び跳ねるようにして避け、その勢いを乗せて獲物を振り下ろした。
――ガキイィンッ!
おおよそ人に直撃したとは思えない音。
そして硬さ。
確実に肩へと下ろされた刀剣は真上に跳ね上がり、シキの手首から鈍い音が響く。
「ぐぁっ……!?」
人竜魔気一体の飛行形態になったことで、ただでさえ強固だった鱗は更なる硬質化を遂げているらしい。
全身に乗っているのは攻防最強の力、〝気〟だ。鱗のような元から硬い部分はステータスにして数万規模の防御力へと昇華している。
数合でそれらを看破し、承知こそしていたシキだったが、鉄の塊を思い切り叩き付けたような感触に思わず苦悶の声が漏らす。
その隙をジルが逃す訳もなく。
「死ぬなよ?」
ニタリと笑った直後。残像すら視認出来る速度の連撃を繰り出してきた。
横斜め縦縦斜め横縦斜め斜め縦。
右からと思えば斬り上げ、下からと思えば振り下ろし、横薙ぎと思えば横薙ぎと五連続の回転斬り。
地に足が付いてないせいだろう。力を込める為、ジルはくるりくるりと回転して攻撃することが多かった。
それは受け止めるシキも同様。しかし、その技量がまるで違う。
力は勿論のこと、速度でも圧倒され、単に受けるだけで精一杯のシキに対し、ジルは打ち込み角度や当てる位置を変えて応対。
真正面から受ければ腕を跳ね上げられ、弾くべく剣を振れば剣先や刃元に強い衝撃を与えられ、あわや獲物を落としそうになる。
流石は世界最強だと何とか堪えていると、真下から伸びてきた尻尾が足首に巻き付き、ガクンと体勢を崩されてしまった。
「うおっ!?」
「クハハッ! オラオラどうしたぁっ!?」
まさかの搦め手。
からの手元を一突き。
指を斬り落としてやると言わんばかりの剣は咄嗟に爪を射出することで受け止め、足首の尻尾は脚甲の赤熱化で離させた。
が、世界最強の猛攻は止まらず。再び神速の剣が猛然と襲い掛かってくる。
「っぶねぇなぁさっきから!」
「貧弱貧弱ぅ! クハハハ! テメェは女かよっ!?」
「女はあんただろ!」
そうして目が慣れた頃、攻撃パターンが変わった。
「っ」
前兆としてジルの口角が更に上がった。
次の瞬間、見えない刺突が一、二、三、四……七連続でシキを襲う。
所作や軌道そのもので狙いが先読み出来る斬撃とは別物の攻撃。それが刺突。
剣を真っ直ぐ向けられたシキには初動は読めても攻撃先がわからない。頭か、首か、肩か、腕か、胸か、腹か、腰か、局部か、脚か。刀身の視認はおろか、予測することも出来ない。
敢えてだろう。
相手に見えない角度から敢えて攻撃してきている。
(ちぃっ、厭らしい女だっ!)
「誰がッ!」
内心での毒にカチンと来たらしい。
一撃目、光が走ったとシキは感じた。
ブシュッ……
仮面を目元だけ覆う形状にしていたせいで頬と耳から鮮血が迸り、遅れてやってきた燃えるような痛みに思わず唸る。
視界が半分ないのも大きいが、全てにおいて速い剣はその狙いすら正確。態々獲物の持ち方を変え、刀身も見えないようにしているのだから本当にやり辛い。
「おおおおおおっ!」
「シャアアアアッ!」
後に続く剣は〝死〟を自動で感知してくれる《直感》と己が経験で以て弾くものの、逸れた剣先は全て四肢や肩、腹部を掠めていく。
あっという間に血塗れになったシキは肩で息をしつつ、堪らず後退。息を整えながら距離を取った。
「ぐ、ぅっ……はぁっ……はぁっ……!」
機動性と推進力の差で辛うじて耐えられている現状に、シキは絶望していた。
(こ、ここまでっ……ここまで圧倒されるかっ……少しは強くなった筈なのにっ……!)
四肢欠損、片目の失明、経験に元来のセンス等々、ハンデや言い訳は幾らでもある。
が、それらを差し引いても自分が許せない。
内包する感情は絶望から怒りへと転じた。
沸々とした衝動のようなものが全身を包み込む。
「フーッ……フーッ……俺はっ、強くなった! そうだろォッ!」
受け入れたくない現実を振り切るように突撃し、刀剣を振ると見せ掛けて魔法鞘からショーテルを抜剣。渾身の力で薙いだ。
ジルは笑みを浮かべたまま刀剣を構え……受け止めた。
「なっ……!?」
「そいつぁもう見たぜ。もう二度と受けねぇ」
腕は真っ直ぐ伸び、動こうとする者を押さえ付けるような構え。
これまで無類の強さを発揮してきた初見殺しの剣はまるで力の入らない、剣先での防御という常識外れの方法で止められてしまった。
シキはバッティング途中のようなフォームのまま動かない。
否、動けない。
刀身同士、シキの左腕がぶるぶると震える様はその膂力を感じさせるが、万力のような力を込められた蒼い刀剣は静止したかのように静かなもの。
シキの思考は途端に純粋な驚愕と冷静な推測で埋め尽くされた。
――止められたっ、う、動かねぇ……!
――剣と腕を〝気〟で保護っ、強化しやがったのか!?
――どんだけ強力なんだその力っ! 伸ばした腕で受けるその胆力だって……!
――いやっ、受けた剣も腕も微動だにしなかった。スキルの補助もあるっ……《金剛》とはまた別の防御スキルっ!
そんな数瞬の思考をよそに、「テメェの強さは負けないところだとオレは思う」という声が聞こえてくる。
ゾーン状態か、はたまた走馬灯か。
シキの視界に映るものが尽くスローモーションへと切り替わった。
ショーテルを切り上げ、そのまま後ろに振り被っていく蒼い刀剣も、続く声も全てが遅い。
「格上相手だろうと負けず、死なず、泥だけを付けて勝つ。それが通じるのは油断や慢心がある奴だけだぜ」
ライ、撫子、アリスにルゥネ、リュウと大抵の相手ならば絶対に負けない自信があった。
それは一重に意識の差。全てを擲って強くなった自分がただ生き残ることだけに集中すれば必ず負けない。手段を選ばなければ勝てる、と。
それはイサム、ゾンビ早瀬、ミサキの三人同時の戦闘、その後のライとの一戦が証明している。
全員、職業や魔法、戦闘センス、レベルにステータスとほぼ互角かそれ以上の相手だったが、様々なアイテム、知識、経験に技術を駆使し、更には癖や弱点を突くことで下すことに成功した。
負けない強さ。
雑草のような、何度でも立ち上がる粘り強さがシキを強者足らしめる要因。
しかしそれはジルやムクロ、ゼーアロットといった『最強』に位置する手合いには通じない。
何故なら埋められない溝があるから。ゼーアロットも向こうが本気で殺しにきていれば即死していたと断言出来る。
シキは今、自分の弱さを強烈に痛感していた。
(勝てないどころかっ……こうまで遊ばれるのか……!?)
満身創痍の自分に対してジルは傷一つ、汗一つない。
こちらの反撃は全て圧倒的な防御力で無効化された。
「それとな、当たり前っちゃあ当たり前なんだが……お前はまだ目で追おうとする癖がある。そんな目玉捨てちまえ。目に頼り過ぎなんだよ」
ゆっくりと蒼い刀剣が迫ってくる。
その狙いは左目。
ジルの瞳に迷いはない。かつて聖騎士ノアがやったように仮面越しに眼球を貫くつもりらしい。
(それが久しぶりに会った弟子への贈り物かよ。随分お優しい師匠だこって……)
そんなことを思いつつも、仕方なく受け入れようとした直後。
ドカアァンッ! と、ジルの頭部に何かが当たって爆ぜた。
その余波で吹き飛ばされたシキは何回転かの後に体勢を整え、通常のものに戻った視界を周囲に向ける。
最初に目に入ったのは幾つもの爆発。
海中か海上ギリギリで発生しているそれらは辺り一帯で次々と起き、その結果として生じる水柱や水飛沫がシキの衣服や髪を濡らしていく。
遅れてヒュ~ッ……と大量の何かが降ってくるような音を認知。上を見上げて絶句した。
砲弾、砲弾、砲弾の雨。
いつぞやの空襲を思い出す黒い雨が視界の端から端まで覆い尽くしていた。
『坊や! 西方向っ、ターイズ連合軍の強襲よ!』
遥か後方、修理中だった巡洋艦艦隊の方から聞こえてきたセシリアの声でハッとなったシキはジルと銀の艦隊を交互に見た後、降下を始める。
ジルはピンピンしていた。
艦砲弾が直撃した筈の後頭部からは煙を出しているが、煤だらけになった顔中に青筋を立てており、砲弾の降ってきた方向を睨んでいる。
「あ゛ぁ゛?」
地獄の底から響くような声だった。
邪魔すんじゃねぇよ、という幻聴が聞こえてくるようだ。
「け、決闘は一旦中止っ! ったく、だから言ったろうが!」
あまりに恐怖を煽る雰囲気を出していた為、背筋をぶるりと震わせながら叫び、ディルフィン目掛けて降りていく。
(まさかこのタイミングで来るとは……思ってたより早いっ。フェイ達の母艦かっ?)
横に連なるようにして並ぶ銀の艦隊は既に『海の国』の領海を侵犯している。が、距離にして数キロは余裕で離れた位置を飛行しており、銀色の何かが太陽の光を反射していることしか確認出来ない。
(距離が遠すぎる……造形すら見えやしねぇのに砲撃が届く……? 大筒とはまた別の……あの時、俺達をライやゼーアロットごと落とそうとした大砲か)
この状況で思い出すのは【原点回帰】で地球へ帰還する直前のこと。
先の戦争では見掛けなかったが、細長い筒のような艦砲射撃用のものでもあるのだろうとシキは思った。
直後。
〝オイ〟
ゾッとするような声が今再び耳元から聞こえた。
「誰が終わりにして良いっつった?」
《直感》に従って手甲で首元をガード。コンマ数秒遅れで途轍もない衝撃がシキを襲った。
「ぐあっ!?」
あまりに急、あまりに強い攻撃に鑪を踏むようにして魔粒子で抵抗するのだが、それでも殺し切れず数回転。
MFAも装甲型スラスターもフル稼動させて体勢を整え、「このクソ忙しい時にっ……」と毒づきながら声を張り上げる。
「まだやろうってのか! 状況もわからないわからず屋がッ!」
声の主ジルは割り込むような形で現れた突然の邪魔者達に怒りこそ覚え、それよりも決闘の続行を望んでいるらしい。
「邪魔が入ったからって今更ァっ!」
「宣戦布告無しで他国に押し入り、攻撃までしてくる奴等だぞ! 見ろ! 俺達だけじゃないっ、お構い無しの見境無しだ!」
シキが指を差す方向ではあちらこちらで火の手や黒煙が上がっていた。
『海の国』の民達が住まう島々、保有する船、海上に建てられた木造の建造物。
全て燃えていた。
距離が距離だ。逃げ惑う人々の悲鳴は聞こえてこないが、その様相は嫌でも伝わってくる。
ジルはそれらを一瞥した後、平然とした顔で答えた。
「それが?」
痛くも痒くもないが?
顔にそう書いてあった。
これにはシキの方もカチンと来てしまう。
「仮にも傭兵だろ! 敵の殲滅っ……いや、迎撃だけでも――」
「――テメェとの喧嘩を続ける方が楽しい! 却下だッ!!」
ガキイィンッ……!
シキの説得は無駄に終わった。
「こ、こんの外道女っ……ちょいと羽が生えただけの爬虫類が図に乗るっ……! 脳ミソまで蜥蜴なのかよ!」
「クハッ、言うじゃねぇかガキィッ! それでこそオレ様の弟子だぜ! クハハハハハッ!」
まさに狂人。
紅と蒼の双剣がギリギリと擦れ合い、火花が散らす中、シキはジルの瞳の中に本物の狂気を見た。
金色なのに何処かどす黒い。
自分が抱えている闇よりも濃いそれは彼女の本性を表しているようだった。
「でえぇいっ、ルゥネでも自分が与する国の一大事で黙る女じゃねぇってぇのに!」
「だからそのルゥネってのは誰だッ! 女か!? 女だな!? 女だろ!」
「っ、結局嫉妬かよ! 醜いんだよ年増がっ! ロリババアの分際でしゃしゃり出てくんじゃねぇ!」
「テメこのやろっ……ぶっ殺すッ!!」
出し惜しみを止め、魔力を振り絞って鍔迫り合いに応じていたシキだったが、丁度ジルの殺気が最高に達した頃、ヒュ~っ……という音と共に数発の弾が振ってきた。
「チィッ!」
舌打ちと共にジルの意識が僅かに逸れ、長く伸びた尻尾で防いでくれる。
守ってくれたのではない。単にこれ以上の邪魔を嫌っての行動だろう。
しかし、僅かでも隙は出来た。
「っ、占めたっ!」
これ幸いにと踵を返し、最大速度で降下。一直線に仲間達の元を目指す。
背後から「あっ、コラっ、逃げんな!」という声と世界最強の気配が追ってくるものの、残念ながら飛行速度は同等。寧ろエアクラフト有りならシキの方が速い。
「ははっ、お先ぃっ!」
「てんめええぇっ!!!」
おちょくるようにして笑い、エアクラフトを取り出す。
その間にも砲弾の雨は振ってきているが、人間の大きさからして元より当たる確率は低い。時折危ない軌道で迫ってくるものは《直感》で感知出来る。
そこに問題はないが、別の点から発生した。
というより、既に発生していた。
『だから注水だってば! 海水を入れるのっ、そうっ、開いた穴と降下口から! 修理がまだの船はそこから注水だって言ってるでしょ! だぁもうっ、浸水でも注水でも殆ど意味は同じよ! 口答えしないで! オペレーターは各自、閉鎖ブロックをチェック! 艦の中心から上は全て閉鎖して! 居住空間はこの際捨てて良いわっ!』
味方の艦からそんな声が聞こえてくるのだ。
味方の艦がブクブクと泡を立て、続々と沈んでいくのだ。
砂漠に生きていた民とは思えない美白肌の持ち主……シキが姐と慕う女性は今、それはもう焦っているのだろう。
シキという大事な仲間を忘れて逃げようとするくらいには。
「うおぉいこらあああっ! 置いてくな頼むからっ! 鬼畜生かあんたらは!? しかも後ろからは蛇! 酷いって! マジで洒落になんないってこれ!!」
「誰が蛇だごらあああっ!!」
「ひいぃっ!? ほら見ろっ!」
情けない悲鳴を上げたシキとて潜水は確かに良い手だと承知している。
『天空の民』を名乗る、空に生きる者らがまさか魚雷の類いまでは製造、常備しているとは考え難いからだ。
だが、これではあまりに冷たいと、後ろからの怒号と気配と殺気も合わせて泣きそうになってきていた。
『ディルフィンも急速潜航開始! 浸水箇所チェックっ、魔法で止めるのよっ、良い!? あら坊やっ、やっと終わったのっ? じゃあねバイバイ! 私達はこのまま帝国を目指すわ!』
『ひいぃぃっ、ちょっとちょっとちょっと!? 船長さん船長さんっ! 僕達ゴーレム部隊はどうなんのさ!?』
『そっちも自分達で何とかするっ! いざとなれば泳ぎなさいな!』
『いやいやいやいやいや! 金属の塊が泳げる訳っ!! 僕もカナヅチなのにぃっ……!』
甲板に置かれていたバーシスは艦と共に沈んでいった。
シエレンは一瞬飛行したが、辺りを見回した後、恐れを成したように海に飛び込む。
そうして、やがてセシリアの声も聞こえなくなり、艦の姿すら泡と深い青に飲まれて消えていく。
残るはシキを待っていたディルフィンとその甲板で待機しているアカツキのみ。
『シキさん早く!』
『早く早く早くするっすよぉ!?』
『いつでも潜水可能なんですぞっ、早くしてほしいんですぞぉっ!』
『うわああああっ、シキっ、後ろっ、後ろおぉっ!?』
「わかってるわっ!! てか途中の奴誰っ!?」
仲間達に今世紀最大のツッコミを入れつつ、一瞬逡巡する。
(ジル様の野郎っ、減速の気配がまるでねぇっ……! かといって海中での合流はっ……!)
深度一メートル地点での水圧は車のドアの開閉を不可能にする。
そんな情報が脳裏を掠めた。
(というより数十センチだけでもドアが水に浸かった時点でアウトだった筈っ。ステータスに物言わせて無理やりこじ開けるのは可能かもだけど浸水するっ、俺の属性魔法じゃ止められないっ、《闇魔法》は流石に無駄打ちが過ぎる! 第一、ジル様が止まらねぇ……仮に合流に成功して浸水を止められても、この人と艦内での戦闘は俺だけじゃなく全員の〝死〟に繋がるっ)
続いて、「あれ、これ詰んでね?」という言葉が脳裏を掠めた。
「ジル様マジでストップ! 命が懸かってる! 今は命大事にだろ!」
取り敢えず後ろに振り向きながら説得してみた。
「うるせぇ黙れコロス!」
にべもなし。般若のような顔をしたナニカが唾を飛ばしながら迫っていた。
『酷いっ! 小生ですぞ小生! 元クラスメートのジョンですぞ! オタク万歳! フュージ◯ン最高っ、ですぞぉっ!』
『うわあああっ、ガンガンいこうぜだぁっ!』
「お前らは煩ぇなぁ!? そして居たなそんな奴! 忘れてたわ! どこ行ってたんだお前! 良いから黙って自分のことに集中しろよ!」
『艦長を任せるって言われて頑張ってたんですぞっ、この扱いには納得いかないですぞっ、ブヒィッ!』などと抗議してくるジョン、アカツキをあたふたさせつつも存外余裕のありそうなリュウを怒鳴り付け、思考する。
(いっそこのまま海中に……いや、空気抵抗ですらかなりのものなのに海は不味いっ。水圧も抵抗も想像出来ない……ついでに言えば海蛇なんてのが居るくらいだ。後ろの蛇女が泳げない訳がないっ)
「んだとテメェっ、さっきから蛇じゃねぇっつってんだろ! せめて蜥蜴にしろや! 手も足もあるわ!!」
見当違いのツッコミにずっこけそう……否、魔力のコントロールを崩しそうになるのを何とか堪え、シキは叫んだ。
「っ……俺は良いっ! お前らはそのまま潜航しろ! 俺に付いてくるってんなら北上ッ! 兎に角北っ、北に行け! 魔国に少しでも近付くんだっ、良いな!?」
『『『り、了解っ(す)(ですぞ)!!』』』
命令を受けたレド達の行動は早かった。
ドゴオォンッ、ドゴオォンッ……! と、周囲で水の柱が上がる中、酷く揺れている筈のディルフィンは潜水艦の如く沈んでいった。
甲板上でドタバタしていたアカツキは親指を立てて沈んでいった。
『アイルビーバック……!』
「うぜぇっ! 余裕あんなお前っ! つぅか戻ってくんのかよ!」
思わずツッコんでしまった。
しかし。
何ともまあ脱力するやり取りこそあったものの。
仲間達の安全は確保出来た。
となれば集中すべきはただ一つ。
「こ、こうなったらあのバカ艦隊を巻き込んで続けてやらぁっ!」
「クハッ、舐めてるがまあ良しっ! 楽しい楽しい殺し合いの続きと洒落込もうぜッ!!」
狂人に片足を突っ込んでいると同時に苦労人でもあるシキ、生粋の戦闘狂ジル、強襲を仕掛けてきた『天空の民』の艦隊。
ただの決闘から三つ巴となった戦闘は続き、泥沼化を予感させた。
ジョンの存在を忘れてたなんて言えない……(´・ω・`;)




