第215話 再会
すいません、遅れました!
「ったく、何で規格を統一しとかないんだっ……バーシスともシエレンとも違ぇ……アカツキはバーシスと同じ仕様だし……クソっ、扱い辛い、だろうがっ」
傷一つ付けることなく鹵獲した銀スカートのコックピット内で、シキ一人イラつきながらシート中を弄っていた。
「こうやって敵に強奪された時に戦力にならないようにってか……利には叶ってるよ畜生……! 折角、無傷の土産が出来たってのにっ。フェイにも逃げられるし、踏んだり蹴ったりだっ」
三十分と掛からなかったアンダーゴーレム戦はシキの圧勝で終わった。
一機、また一機と斬り落とし、パイロットを突き殺すだけの簡単なお仕事。
最後の一機はふと思い立って見逃してやるから機体を寄越せと交渉してパイロットを降ろさせたのだが、その時には既にフェイとその部隊の姿はなかった。
「あの女っ……人が折角誘ってやったんだぞっ……何を今更ビビってやがる……」
半径二メートルほどの丸い空間に人が辛うじて座れる程度の細いシート。そこから前方、腹の前辺りに謎の箱形機械があり、そこに指を嵌めるらしい穴を発見したシキは適当に魔力を流しながら愚痴る。
「大体、フェイの機体はこんな造りじゃなかったような……おっ?」
「覚えているが良いっ、次は全MMM部隊を引き連れていく! その時が貴様の最後だ!」と意気込み、魔物の蔓延る海に飛び込んだパイロットは今頃血肉と化して海を漂っていることが容易に想像出来る。訊こうにも訊けない。
どうしたもんか……と頭を悩ませていた彼だったが、指穴が起動の要だったらしく、コックピット内にボゥッ……と光が灯り、外部カメラが復活した。
「よーし良い子だっ、これで起動はした……後はどうすれば動くかだが……あー……こ、こうか……?」
指穴のある箱形の何かを穴の内部から引っ張ると左右に分かれ、横に反転することに気が付いた。
「バイクのハンドルみたいだな……」
思わず呟きつつ、同時にコックピット内部にライトが点いたことで足元のペダルや謎のレバーにも目が行き、適当に踏んでみたり引っ張ってみたりと試していく。
十分も経つ頃には何とか操縦法を把握。ゼーアロットのようにフラフラしながらではあったが、飛行も成功した。
「おっそっ。中から見ると速く感じるけど、カメラ的にこいつぁ……」
冷や汗のようなものが垂れたらしい。全天周囲モニターから得られる光景を目を凝らして見た後、キョロキョロと再び周囲や手元足元を弄り始める。
「パイロットスーツ無しじゃ身体も安定しないし、機体も動かし辛……あん? この穴、もしかして……! こう……あ、魔力じゃなくて魔粒子の方が早い……か? ……お、早くなった。やりぃっ」
シートの背もたれ……ちょうど背中に触れる部分に新たな穴を発見し、どかっと座り込んで試すと機体の速度が上がった。
どうやら指穴だけでなく、シートからも魔力を吸って稼働する機体のようだ。気付かなかっただけでバーシスやシエレン、アカツキも同じような仕様なのかもしれない。シキは何となくそう思った。
「ま、んなことよりさっさと合流するが吉! 待ってろ野郎共っ、待ってろ姐さんっ、待ってろジル様よぉっ!」
シキが操縦桿をグッと押し込むと、銀スカートから溢れていた紫色の魔粒子は力強く噴出。つい先程飛んでいた時の実に二倍ほどの速度を出して飛行を始めるのだった。
半日前後の時が過ぎた頃、シキは『海の国』に辿り着いた。
夕陽が落ちて久しい。
本来ならば真っ暗闇の筈の海は『砂漠の海賊団』が持ち込んだ魔道具や所々に置かれた松明が小さな島々とその周囲の様子を照らしていた。
『……おいおい姐さん。感動の再会のお出迎えがこれか?』
『そりゃそうでしょう……坊やも大概、客観視出来ないタチよねぇ』
『海の国』の本拠地、本国と思われる島々の周りには総勢五十を越える大艦隊が待ち受けていた。
と言っても魔導戦艦のようなものとは程遠い、木造のそれである。
何かしら脅威となる武装があっても大筒くらいのものだろう。
しかし、数は異常。迎撃体勢もとっている。シキは銀スカートの両手を上げて見せ、ハッチを開いて敵意の有無を明らかにした。
「こりゃあ土産だ土産っ! 敵の機体だからって撃つなよな!」
『わかってるわよっ、見てたからとっくに伝達済み! それでも信じられないって言うからこうなったの! 皆も言った通り撃たないで! 味方よ!』
拡声器を使わずに叫んだ後、そのまま銀スカートを滑空させ、海上に浮いていたディルフィンの甲板に降りる。
着地時に勢い余ってズシイィンッと凄まじい音が鳴り響き、津波が発生したが、シキはそれを無視して飛び降り、「きゃあっ」と尻餅を付いていたセシリアを持ち上げ抱き締めた。
「ただいま、姐さん。会いたかった……!」
「っ……も、もう、そういうのはムクロさんにするのっ。勘違いされたいのっ?」
「ちょっとシキっ! 揺らさないでよ! もう少し静かに着地出来ないの!? 海の上なんだよ!? リア充死ね!」
「ちょっと『黒夜叉』っ! 何でそんなに下手くそなの!? バーカバーカ! えっと、えっと……よ、よくわかんないけど死んじゃえアホー!」
ぷんすか怒っていたものの、口元は緩んでいる。目元には相変わらず隈が出来ているが、彼女のそれは能力由来のもの。逆に元気な証拠だとシキは心底安堵した。
因みに何処からかリュウとスカーレットの罵倒も飛んできていたが、パイロットを失ったことで銀スカートが倒れ、悲鳴と共に静かになった。
「…………」
「……あの……えと……ぼ、坊や? 長くない?」
離れる様子のないシキにセシリアは顔を赤くしながら背中を叩き、抗議する。
「ち、ちょっと……坊や? 流石に恥ずかし――」
「――よぉっ、ユウ! 久しぶりだな! それと……随分な挨拶だなぁ? えぇおい。仲良いんだなァ……?」
セシリアを遮ったのはいつの間にか甲板の手すりに立っていたジル。
最初に目が行くのは夜風に靡く白い髪、魔道具や火の光を反射している金色の竜の瞳。
続けてアリスやフェイ、ルゥネと似て非なる豪気な顔つき。『オレが最強だ!』とでも言わんばかりの自信に満ち、溢れている顔。白に緑のラインが入ったワンピースのような民族衣裳からにゅるりと伸びる尻尾も視線を奪わせる。
数年振りの再会。
シキとしては心臓が跳ね上がるような感覚を覚えていたのだが、一秒もしない内に悟った。
「な、んか……怒って……ます?」
照明で多少は顔色を確認出来る。
例の別れからまるで変わらないジルの美少女面は……
大量の青筋で埋められていた。
「は? 怒ってねぇよ? おぉん、全然……これっぽっちも怒って、ねぇよ?」
「いやそれ怒ってる反応でしょ」
心なしか声も揺れている。
思わずツッコミを入れたシキに飛んできたのはやはり数年振りの尻尾。
バシィンッ! と、弾丸すら避けられる男が諸に受けたそれは優に音速を超えており……
「ぶべらっ!?」
シキは錐揉み回転しながら海に落ちた。
◇ ◇ ◇
朝起きたら知らない天井だった。
そして新たな発見。MFAは装着したまま寝ると全身が痛くなる。特に背中。
「……し、知らない天井だ」
「…………」
「あ、ね、姐さんじゃないか。状況とか色々教えてほしいんだ、が……」
「…………」
「……後でね」
「ちょっ、姐さん!? 置いてかないでくれ! 死ぬ! 死んじゃうってこれ!」
恐らく島の建物なのだろう。内装や床が揺れていない点から何となく察し、気まずそうに逃げていった姐さんの背中を見つめる。
「……ふむ、『海の国』の服も中々乙なもんだな」
「…………」
気温や気候のせいか、露出度の高い服だった。
端的に言えばエロかった。思わず心の声が漏れるくらいに。
「この状況でボケをかませる君は割りと結構な大物だと僕は思うんだ」
「ねーリュウお兄ちゃん! 何でこいつガタガタ震えてんのー? あ、ほら白い顔に仮面付けて誤魔化してる!」
「……さ、僕達も行こうか。これ以上はお邪魔だ」
「えー……なっちゃんは? なっちゃんは何処行っちゃったの?」
「あっ、おいこらリュウっ、行くなーっ!」
何故、俺が焦って姐さんやリュウを引き留めようとしたか。
それは……
「お前、オレのこと好きとか抜かしてなかったか?」
先程からジーッと俺を覗き込んできてるジル様が怖かったから。
蜥蜴を彷彿とさせる縦長の瞳孔。この世界らしい金色の瞳がひたすら俺を射抜いており、俺が「え? え? 何この状況?」と視線を返そうとも、姐さんやリュウに向かって手を伸ばそうとも、微動だにせずじーーーっ……と俺を見ているのだ。
物凄く怖い。殺気や敵意が感じられないのが逆に不気味だ。
「あー……」
「言ったよな? なかったことにしないよな? こんな年増の女に甘いこと囁いといて今更突き放したりしないよな?」
…………。
「えっと……」
「あのセシリアとかいう女は何だ? お前がさっきから考えてるフェイとかルゥネとかいう奴は誰だ? 女だよな? お前、オレに会いに来たんだよな?」
ジル様が面倒臭い女になってるーっ!!
人の心の声を文字化して見ることが出来る《心眼》スキルも健在らしい。
嫉妬にも思えるし、怒りにも思える。この人からそんな感情を向けられるというのは嬉しいが、この状況は嬉しくない。もっと感動的な再会か戦闘狂らしい再会を想像してた。
蓋を開ければまるで後がない三十路の女みたいなことをズラズラと……
いや可愛いんだけども。何か無駄に焦ってる様子とか泣きそうな顔は可愛いんだけども。重いんだよ。そう思わせる男側とか常識とかも悪いけども。先ず重いのよ。
「コロス」
「いやちょっと待て!? 理不尽過ぎだろ! 俺は姐さん達と合流したかっただけ! まだアンタを越えたなんて欠片も思ってねぇ! アンタが偶々この国に居たんだろうが!」
スッと目が据わった為、ベッドから飛び起きて距離をとり、近くの椅子を盾にしながら話す。
「俺だって会いたかったさ! けど、何も成長してないのに会いに行ったらアンタへの侮辱だ! 俺にこの世界の生き方を説いてくれた人にそんなことが出来るかよ!」
「っ……」
ルゥネの時同様、本心だということが伝わったらしく、一瞬言葉に詰まったジル様だったが、「成長してないってのは嘘だろ」と詰めてきた。
「今のお前からは自信が感じられる。これまで生き残り、強者を撃ち破ってきた矜持が。なら……」
「だとしてもアンタには敵わない。強くなったからこそわかる。まだ天と地ほどの差がある。アンタは今まで戦ってきた奴等の誰よりも強い。……試してみたくはあるがな」
最早、敬語は要らない。
日本や向こうの常識なら兎も角、こっちの世界……この人相手なら。
そう思っての口調だったが、どうやら正解だったらしい。
「チッ、生意気な口聞きやがって」
などと舌打ちはされたが。
口元を緩ませ、プイッとそっぽを向いた。
相変わらず可愛い人だ。
いや、今はそれよりも……
「マジの話がしたい。今後始まる大戦争につい――」
「――なら。オレと戦え。この世は全て力が決める……力こそが意を通す最速最強の手段だ」
「変わらないな、アンタは。帝国の蛮族共みたいなことを言うっ」
「真理だろうが。……オレはいつでも受けるぜ?」
人の話を遮ったジル様はニヤリと笑うと剣の柄から手を離し、近くの椅子に胡座をかいて座った。
「戦うのは良い。致し方ない。俺も全力でアンタに答えよう。……が、少し待ってくれ。姐さんや仲間達とも話さなきゃいけないことが山程ある」
今はそんなことをしている場合じゃない。
それはわかっている。
しかし、どうにも止められない戦いというものもある。今回のがそうだ。
「クハッ、いつでもと言った。逃げんなよ?」
ジル様は腕を組み、煽るように笑いながら言った。
いつもの笑みだ。
懐かしく、心地の良い笑い声だ。
俺は今、元最愛で最も尊敬し、最も憧れの抱いている人物と再会している。
そんな自覚が身を包み、今更ながらに鳥肌が立った。
ゾクリ……!
背筋が震えるようなこの感覚。
戦闘欲……ルゥネとの出逢いによって強化された俺の中の歪みだ。
「何だ、結局テメェも堕ちたのか」
「堕ちた? ハッ、違うだろ。目覚めたんだよ」
「クハハッ、違ぇねぇっ」
向こうは向こうで熱くなってるらしい。俺を射抜く目がそう言っている。
「日にちは」
「明日」
「時間は」
「太陽が真上に位置する頃」
取り決めの会話は互いに短く。
ルールは当日に決めることにした。
以前と同じなら魔法もスキルも何でも有りのものになるだろうがな。
「承知した。精々オレを楽しませろよ? じゃなきゃテメェみてぇな雑魚の下には付かねぇ」
「ほざけ蜥蜴女。たった一人の軍隊なんて認めるか」
読心系の能力者は意志疎通が楽で良い。
加えて、『世界最強』の剣士だ。俺の師匠だ。仲間に欲しい。
「勝てるとは思えないが」
「負けるとも思ってねぇな」
俺達は互いに笑い合うと、再会の時を楽しむことなく別れた。
「で、本当に戦うの? 状況わかってる?」
「そういう人なんだから仕方ないだろ」
「でもユウ兄……」
「わかってるさ。世界最強の名は伊達じゃねぇってことは俺が一番……ん? 何でお前がここに居る? 確かに帝国に居ないなぁとは思ってたけども」
「てへっ、来ちゃったっ」
「来ちゃったっ、じゃねぇよ」
姐さんと一緒に修理中の巡洋艦型魔導戦艦や海を見ながら密談してたら後ろにメイが居た。
何を言ってるかわからねぇと思うが俺もわからねぇ。
「はあぁぁっ、無事で良かった無事で良かった無事で良かったよぉっ」
「ひっ付くなっ。その下りはもうルゥネがやったわっ」
背中に抱き付いてきたメイを引っ剥がし、取り敢えず木の床に落とし、周囲をもう一度見渡す。
『海の国』。小さな島々やそれらの小国群で構成された連邦系大国の一つ。
言われるだけあって島の至るところに木造の足場や建物があり、中々に異国感が強い。
地域的に安定した気候らしく、港まで木造だ。何ならイカダのように海に漂わせているところもある。本来なら漁や移動、運搬、国軍と様々な用途の船があるようだが、時間的に出払っているとのことで船は『砂漠の海賊団』の巡洋艦のみ。専用に宛がわれた島の為、人も見張りの兵や使用人くらいしか居ない。
朝日に照らされる綺麗な海、潮の香りに満ちた海風。野郎連中の怒号が飛び交う巡洋艦。上を見上げれば鳥系の魔物が飛んでおり、何処からかカモメの鳴き声のようなものも聞こえる。
「ぐえっ……いったたぁっ……もうっ、酷いよユウ兄!」
足元から幼馴染みの怨嗟の声が聞こえてこなかったらもう少し新鮮な光景に浸れたのに。まあ若干海に関係ないむさ苦しいのが入ってたけど。
「あの筋肉ダルマにやられた後、私がどれだけユウ兄を心配したか!」
「この子ったら自分も大怪我だったのに坊やのことでパニック起こして一週間足らずでこっちに合流したのよ? それくらい許してあげなさいな」
本人のは兎も角、姐さんにまで言われると罪悪感が出てくる。
改めて見てみればメイは包帯まみれだ。湿布の臭いもするし、目に疲れが乗っている。
元気に抱き付いてきたから大丈夫かと思ったが……魔法や薬があっても限度はある。今の今まで長引いてるくらいだ。テキオ同様、結構なダメージだった筈。流石に悪いことをした。
「まあ……無事で良かったってのはこっちのセリフだ。悪かったよ、色々と。心配掛けてごめんな」
などと言いつつ、頭を撫でて謝っておく。
「えへへ……デレた! ユウ兄がついに! 私にデレてくれた!」
「で、現況と今後についてなんだがな姐さん」
「ガン無視っ!? 冷たいっ、暑いのに冷たい!」
どうでも良いが、ノリがまんまルゥネのそれだ。〝同調〟と〝侵食〟……謂わば精神汚染。メイはまだしも俺は俺で問題なんだよな。ムクロ以外の女に興味出てきたし。
「あー……まあ良いわ。取り敢えず後二週間もあれば粗方補修作業が終わるってとこね。帝国側に分断された部隊はこっちに向かってるようだし…………ど、どこ見てんのよ」
「ん、そう言えばルゥネが帝国からの支援物資を乗せた船も出すとか言ってたな。どこって普通に胸と尻だが?」
ショックを受けているメイを見て憐れむような顔をした姐さんは腕を組みながらそう言い、俺は俺で思い出したこととジト目で訊かれたことを伝える。
「有難いわ、ねっ」
「いてっ」
「……けど、戦えるのはディルフィン一隻よ。それも応急措置だからフル稼動出来るかというと不安だし。他も飛べる状態になら何とかって状況。私達はまた帝国に逆戻りね」
「そう、か。ふむ……」
頭を叩かれこそしたものの、割りと真面目な会話ということで、騒いでいたメイは口をつぐみ、黙って俺達の会話を聞いている。
その手は凄まじい力で俺の背中の肉を抉り取ろうとしているが。
「いてててててっ、わかった止めろっ、俺が悪かったってっ……ったく」
メイのはルゥネのと違って心地よくない感情だ。嬉しくない。というかそもそも興味が出てきただけで妹同然の奴に欲情なんざしない。いい加減理解してほしい。
「速度を考えると坊やはディルフィンに乗りたいわよね?」
「そりゃまあ」
ディルフィンは巡洋艦のレストア艦である。それも航行速度向上の為の改造も施されている。どう扱うにしろ、ただの巡洋艦より価値は高い。
「反対に私達は修理が最優先……ん~っ……足の速い船を使いたかったんだけど、仕方ないか……」
「……良いのか?」
どうやらディルフィンをくれるらしい。思わず聞き返すくらい驚いた。
「良いわよ。他にも艦はあるの。サンデイラやヴォルケニス級のものが、ちょうどこの海にね」
姐さんはニヤリと笑うと自信満々に海の底を指差した。
「『海の国』の領土だろ。国際問題にならないか?」
「魔導戦艦何隻かの工面と情報提供、シャムザや帝国との橋渡しをしてくれるなら、だって」
「良いのかそれで……まあでも姐さん達無しじゃどれも成し得ないか」
『見』る固有スキルを持つ姐さんとモグラ少女のアイが組めば遺跡の発見や発掘の効率は上がる。アイは物資の運搬部隊に回収されると聞くし、それまでは協力してくれるだろう。
「奴さんが内部分裂を起こしてくれてるから猶予は多少あるだろうが……中々厳しそうに思うぞ? あいつら馬鹿だから直ぐ追撃してくるだろ。馬鹿だから……」
俺も姐さんのように腕を組み、少し考え込みながら話した。
「何で二回言ったのよ」
「大事なことだからな」
ゼーアロット然り、フェイ達然り……更に言ってしまえば今回の戦争で帝都を落とせなかった分、責任の有無や追及、戦後処理、外交にも色々と問題が出てる筈。ライ達だって戻ったらぐだぐだ騒ぐだろうし。
とはいえ、それはそれ。最終的には力と数で黙らせ、追撃部隊を送ってくるくらいのことはしそうだ。他は放置で良いし、ライは……どうせ女でもくれてやれば黙るだろ。マナミがキレそうだけど。
「ユウ兄の見立てだとどのくらいなの?」
「時期か? 一ヶ月ってとこだろ。普通なら通らないだろうがな。連中は正義の味方様だ。連合の中心にイクシアを据えているのもその布石に思える。何かあったら責任も負わせられるしな」
「相変わらずやり方がセコいわよね、聖神教は……でも本当にしそうなところが怖いわ」
三人で揃って溜め息をつき、話題を戻す。
「じゃあ『海の国』はこっちに付くのか」
「さあ? 今のところは保留じゃない?」
「話聞いてると連合の植民地にされないだけの戦力は欲しいってとこでしょ。棚ぼたをおかわりしようだなんて図々しいっ」
戦場や人心は理解出来ても国のことまではわからない。が、日本の教育を受けているメイがそう感じたんなら近いことを考えてるんだろう。
「まあそう言うな。助けてもらったんだ。その辺りは互いに妥協せんとな」
第一、今はジル様が付いてる国だ。いつ裏切るかわからない性格なのは確かだが、最低限契約は守る。下手なことして怒らせたら敵わん。
「難しいし、面倒臭い!」
「……いずれは政も覚える必要があるか」
プンプンしているメイの横で一人呟くと、「坊やは一体、何を目指してるのよ……」という、これまた独り言みたいな声とジト目が返ってきた。
何と言われてもな。
「覚えられるものは覚えておきたいんだよ。何が役に立つのかわからないんだから」
魔王側に立つにしろ、シャムザと帝国の別動隊として動くにしろ力は必要だ。その種類には際限がない。
「権力も富も知識も力も、あるに越したことはないさ」
「それは……そうだけど。坊やのは何か違う感じがするのよ」
どういう意味だと姐さんの方を見返したが、姐さんは肩を竦めるだけだった。




