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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第5章 魔国編
235/334

第214話 遭遇

明けましておめでとうございます!

今年も何卒拙作を宜しくお願いします!


 新型スラスター装備、魔力で空飛ぶ鎧……通称『マナ(M)フライト(F)アーマー(A)』。



 義眼と装甲型スラスターに続き、全身を包むソレを受け取った俺は試運転も兼ねてエアクラフトを使わずに海の国に向かっていた。



「んー……やっぱり改造無しのエアクラフトって感じ、か……? 速度は十分……方向転換も可能……」



 本来エアクラフト無しでは成し得ない上空飛行を楽しみつつ、思いっきり速度を出してみたり、急に方向を変えてみたりと色々試しながら独りごちる。



 MFAの造形を一言で表すなら戦国時代の鎧。

 実際のところ内部構造や開発経緯はまるで違うものの、パッと見はまんま甲冑だ。



 薄くて軽い装甲型スラスターを重ねた……ダンゴムシやアルマジロといった類いの甲殻を肩から腕、胴体から太ももに掛けて装着しているような感じで、装甲の隙間や装甲自体から魔粒子を放出して飛ぶ。

 


 帝国に居た転生者が草摺と言っていた部分、腰を守るスカートのような部位からの魔粒子放出が基本で、前後進する場合は推進力確保の為に身体を横にする必要があり、他の部位は殆ど補助機能。

 一枚一枚板をくっ付け、重ね合わせて着ているように見えて実は内部に管のようなものが通っていて、そこから魔粒子を循環させているらしい。



 使い勝手としては凄まじく優秀の一言。

 鎧として使える上に魔力枯渇待った無しの単独飛行を可能にしている点が良い。装甲型スラスターも良好。二の腕、脇、内股と装備し辛い部分に装着すると体勢のバランス調整がしやすい。



 何が良いって軽いのが良い。

 全身を武装した分、総重量は増えたが、全てジル様のドラゴン形態と『崩落』から取れた素材由来。得られる機動力で十分お釣りが来る。



 まとめると全体的に防御力の大幅向上、並びに魔力消費の大量減、基本動作速度が格段に上がった。



 勿論、背中に装着する背面スラスターも装備可能で全身甲冑にジェット機を取り付けたような格好ではあるが、俺の持ち味を生かした高速戦闘はより高度なものへと引き上げられた。



 ルゥネ曰くコストがバカにならないということで現状、世界にただ一つ、唯一無二の俺専用装備とのこと。



 義眼の使い勝手も中々だ。付ける時は物凄く痛かったし、片目だけ魔力のみを可視化している視界というのは妙な感覚だが、魔力の流れが見えると加減がしやすい。これまで感覚だけだったのが鮮明になった。



 また、頼んでいたゴーグルも漸く造ってもらえた。



 速度が上がるのは良いものの、高速戦闘や高速移動をする際、風圧や空気圧で視界が潰れる欠点があった。

 その改善点として俺の仮面に埋め込むような形でレンズを組み込み、視界不良を克服した訳だ。



 まさに至れり尽くせり。

 死ぬ思いしながら帝国を下した甲斐があったというもの。



 ルゥネは今後、古代技術の知識を深めていくと同時、その量産に力を入れるつもりらしい。

 魔導戦艦とアンダーゴーレムは銃火器よりも圧倒的に使いやすい。何なら平民を乗せて特攻させるだけでも効果がある。



 連合が再び侵攻してこない限りは暫くの間、帝国稼業を取り止め、シャムザと共に研究を続けたいと言っていた。



「いずれ戦争に出る人間全てが装備するものになるとも言ってたな……ったく、戦争は発明の母とはよく言ったもんだ。ガチの戦国時代が近付いてやがる……俺はただムクロに会いたいだけだってぇのに……」



 帝国領を抜けたらしく、潮の香りが感じられるようになってきた。



 小国群国家、海の国まで後数日……いや、一日掛からないか……?



 気持ちが逸ってきたのだろう。



 ある程度満足した俺は新たに貰ったエアクラフト・改を右肩のマントから取り出すと、全装備を使って最高速度を出そうとし……



 視界の端に何かを捉えた。



「ん?」



 何だ? 銀色の……光? 何かが反射したような……?



 出鼻を挫かれた形になり、一瞬体勢を崩しかける。

 試運転がてらエアクラフトに魔粒子を送り、何度か噴射することで直ぐ様元の位置に戻った。同時に右肩のマントから双眼鏡を取り出し、前方十と数キロ先を飛行している何かを見据える。



 それは銀色の傘の群れだった。

 俺の鎧と同じく、何枚もの装甲を重ね合わせた構造。魔粒子も放出しているし、腕のようなものも辛うじて確認出来る。



「ありゃあ……いつぞやの銀スカート? 何でこんなとこに?」



 合計で三十は飛んでいるだろうか。互いに距離をとって飛行しており、俺と全く同じ方向……海の国を目指しているようだ。



 周囲に母艦とおぼしき艦影はなく、何かを捜索しているような様子もない。ひたすらに直進している。俺に気付いているようにも見えない。



「これは……」



 チャンスだ。



 奴等が何を目的に海の国を目指しているのかは知らないが、『天空の民』……ひいては連合の戦力を大きく削れるチャンス。



 しかもだ。



「真ん中の奴……角付きだよなアレ……? 見覚えがあるなぁ……あぁ、そいつぁもう見覚えがある。良い戦士だったっ、良い女だったなぁアイツは……!」



 思わずニタァと嫌な笑みが漏れた。



 ゴーレムの武器は……剣や槍、自動小銃やランチャー系のもの。銃火器多め……あれだけ近くを飛んでいれば俺の十八番が通じるな。



 ゴーレムより小さい標的である俺相手に誤射を恐れず攻撃出来る奴なんかそうは居ない。突っ込んで錯乱させるだけの簡単なお仕事ってやつだ。



 それに、どうせなら新装備は戦って確認したかったんだ。



「肩慣らしにはちょうど良いッ……!」



 俺は今度こそ全装備に魔粒子を送り込むと、今出せる最高速度で銀スカートの群れに迫った。








 ◇ ◇ ◇



『隊長~……ホントにこっちの方向で合ってるんですか~? もう丸一日飛んでるんですよ~?』

『文句言うんじゃないよっ、遠征なんてこんなもんさ!』

『隊長だって初めてのくせに……』

『何か言ったかい!?』



 傍受を恐れてか、パイロット達が拡声器で会話している。



 そんな会話を聞き取れる位置にシキは居た。



 太陽の中に隠れるように、超高度から静かに、そして確実に近付いていた。



『っ!? 隊長っ、上に何かっ!?』



 フェイ達とは別の部隊が最初に気付いた。

 が、もう遅い。



「先ずはひとおぉつっ!!」



 流星の如く降下してきたシキがすれ違い様に振動する刃を持つ大鎌を振り下ろした。



 キュイイィィィンッ……! と独特の音を放っていた大鎌は装甲に当たった瞬間凄まじい摩擦音と大量の火花を散らしながらゆっくりと銀スカートを斬り開いていく。



「あっ……え、あっ……!? うわあああぁぁぁっ!?」



 コックピットまで斬られ、中が露になったパイロットが悲鳴と共に墜落。シキはそれを横目に跳ねるように急上昇し、また一機、銀スカートに取り付いた。



「ちょいと抵抗はあるが……同じ素材なだけあるな。前より斬れ味が良い」



 横薙ぎに振られた死神の鎌は銀スカートと同じ色をしていた。

 かつてルゥネが使っていたような黒い大鎌とは明らかに違う色。威力も比べ物にならないほど向上している。



『うおっ!? か、カメラがっ!』

「ふたあぁつっ!!」



 頭部を斬り落とされて墜ち始めた銀スカートを蹴り落とし、合わせて魔粒子を放出。更にもう一機の機体の上に降り立った。



「クハッ……みっつぅっ!!」

『くっ、何してんだいっ! 敵襲だよ! フォーメーションΔ!』

『『『了解っ!』』』


 

 一機目同様、チェーンソーで木を切り倒すように刃を差し込み、体重と魔粒子を乗せてゆっくりと機体を両断するシキに対し、反応が早かったのはやはりフェイの部隊。

 接敵を察したと同時に散開。シキを取り囲むように動き出した。三角形を象るが如く縦と斜めに。真横から見れば六芒星を幻視することだろう。



『こいつがっ……』

『黒い仮面っ、この男っ、本当に……!?』

『掛かれ掛かれっ、敵は単身生身の現代人だ! 数で押せばっ!』

『この黒いのをやれば二階級三階級特進なんだろ!? 俺はやるぜ!』



 前回の戦争で戦わなかったフェイ達以外の部隊が手柄欲しさにわらわらと集まってくる。



「まあそんな焦んな。全員この綺麗な海に沈めてやるから」

「ひいいぃぃぃっ、た、助けてぇっ!」



 しかし、そのような雑兵はコックピットから引きずり出した女パイロットを盾にしてやれば途端にその勢いを失くし、『なっ、ひ、卑怯だぞ!』、『パイロットを直に狙うだって!?』等とフェイの部隊の射線上で右往左往。より良い盾として機能した。



『ええいっ、邪魔をするっ! さっさとどきなっ! 言ったろっ、そいつがヤバい奴なんだよ! このままじゃ全滅だっ、あんたらごと撃つよっ!』

『ふ、ふざけるな! 俺達の仲間が人質にっ……あぁっ!?』



 ポイっ。



 まるでゴミでも投げ捨てるように、シキは女パイロットを突き落とした。



「うわあぁぁっ!」



 現高度は少し上に雲が流れている程度。そんな上空から海に叩き付けられれば大抵の者は死ぬ。それこそステータスを持たない者は確実に。

 大半のパイロットは思わず救出すべく降下し、反応の遅れた者はシキを見失った。



「戦闘経験の無さが仇となったなァッ! クハハハッ! 遅いっ、遅いぞおぉっ!!」



 エアクラフト、背面スラスター、MFA。



 持てる全ての技術と素材が投入されたそれらは容易にシキを音速へと導き、パイロットの認識を置き去りにする。



 誰もが落ちていく人質に気を取られた一瞬。その隙に超加速し、一機……また一機と背後から迫り、頭部を斬り墜としていく。



『何て様だいっ! もう良いっ!』

『隊長っ!? 何で撃ってんすか!』

『お前達も撃ちな! 足を引っ張る無能なんか要らないよ!』

『『『っ……り、了解っ!』』』


 

 我慢が出来なくなったのか、フェイ達の攻撃が始まった。

 フェイとその部下六人による集中砲火。当然、シキよりも先ずボーッと浮いていた銀スカートらに当たり、何機かがあっという間に爆散した。



『ぎゃあああっ!?』

『ヴァルキリー隊の奴等っ、俺達ごとっ……だから女を乗せるのは反対……うぎゃあっ!?』

「はっ、対ゴーレム用に造られた弾がそう簡単に当たるかよ!」



 七方向同時の弾丸の雨。本来なら脅威であるそれらは前進して急上昇、落下して加速からの方向転換と360℃自由に飛び回るシキには掠りもしない。



『あ、当たらっ……ない!? 何で!?』



 既に人質救出に飛び出した部隊以外の銀スカートは大破している。フェイが作り出したフォーメーション空間に残るはシキのみだが、エアクラフトで上昇し、くるりと回転してみせるくらいには余裕なようで、ゆっくりと数を数えている。



「あー……あいつらを抜くと十と……んー……三、くらいか?」

『接近戦ならっ!』



 近付きさえすればと前に出たのはフェイの角付き銀スカート。

 頭部に一本角を生やした、隊長機らしいそのゴーレムは腕部に内臓された銃口から火を吹かせながら肉薄し、装甲の隙間から取り出した槍を振り回してきた。



 当然ながら誤射を恐れて部下からの銃弾が止み、一対一へともつれ込む。



「よおフェイっ! また会ったな!」

『馴れ馴れしい奴っ! 叩き落としてやるよ!』



 大鎌をマントに収納。代わりに取り出した黒斧で弾丸を弾いていたシキはそのまま槍を受け止めた。



 ズガアァンッ! と空気が破裂したような衝撃音と共に双方獲物と獲物が一瞬だけ跳ね、再びぶつかる。



 黒斧と銀槍は火花を散らし、生身の腕と機械の腕は押し合いに近い形で小刻みに震えるのみ。



『こ、いっ……つぅ!』

「クハハハッ、便利な装備が生まれたもんだなァ……!」



 憎々しい声と嬉々とした声が交差した。



 完全飛行型である銀スカートはその見た目と特化能力通り、力押しする機体ではないらしい。

 フェイは押し切ろうとやけになって各部位から魔粒子を出しているが、シキの方もMFAや腕の装甲型スラスターで応戦。幾重にも重なった装甲と装甲の隙間が開き、ジェット噴射を彷彿とさせるエネルギーが徐々に徐々にフェイの槍を押し上げていく。



「何だ、こんなもんか?」

『涼しい顔してくれ――』

「――おら……よっ!」



 被せ気味の掛け声と同時、シキは鍔迫り合い状態になっていた腕を振り上げ、槍を弾き飛ばした。



『なっ!?』

「腕を動かしてる時はもう片方の腕を動かせねぇのか? 今撃てたろ」



 ゴーレムの膂力を生身の人間が片手で防いだ。

 その事実に少なからず驚愕していたのだろう。



 フェイはその指摘で思い出したように両腕をシキに向けた。



「ま、だとしても無駄だがな」



 と、再び黒斧を盾に。背面スラスターとMFAが独特の稼働&放出音を出しながら魔粒子の傘を形成し、衝撃に備えさせる。



『っ……こ、こなくそおおぉっ!!』



 ズガガガガッ! と耳をつんざく音が空中に木霊し、薬莢と弾かれた弾丸が周囲に飛び散った。



 が、弾切れを起こすまで放たれた弾丸はただの一発すらシキに届かない。



「な? お前の機体じゃ俺には勝てねぇ。あん時と違って装備が良いんだ。機嫌も良い。ん~っ……勝ち戦ってのは何度やっても楽しいもんだなぁ……!?」



 目元を隠した黒い仮面の下で犬歯を剥き出しにしてそう笑うと、フェイは狼狽えたように後退した。



『な、何なんだっ、何なんだよあんた! それでも人間かい!?』

「うんにゃ、魔族だ。不本意ながらな」



 銀スカートの加速よりもシキの加速の方が圧倒的に早い。



 離れようとしたフェイの機体に悠々と取り付いたシキは鼻歌混じりに装甲を切り刻み始めた。



『あっ……くっ、隊長を救え!』

『行くよ皆! 銃は無し! 隊長に当たる!』

『『『おおおおおっ!!』』』



 フェイの部下達が近付いてくる。



 その間にも頭部、コックピット周辺の装甲、抵抗すべく伸びてきた腕と何処までも化け物染みた攻撃力で破壊していく。



「ぁっ……!?」

『隊長ーーっ!!』

『嘘っ、隊長が捕まった!?』



 部下達がシキを囲んだ時にはフェイの首を鷲掴みにし、空中にぶら下げていた。



「くぁっ、ぁがっ、あっ……!」

「おっと? ははっ、死ぬかもって時に……戦士の鏡だなお前」



 黒斧をマントに入れた為、丸腰となっていたシキは掴んでいる手を解こうとするのではなく、発砲してきたフェイを見て笑った。



 対するフェイはひょいっ、ひょいっと首を傾け、全ての弾丸を躱した目の前の人物に絶望し、空気を求めて赤くなっていた顔が青色へと変化している。



「お前ら、フェイの部下か? あ、てか確認しとくけど、こいつ部隊長だよな? 隊長って呼んでたし……なぁ、何とか言えよ。聞こえてねぇのか?」

「ゲホッゲホッ! ごほっ! はぁっ……はぁ……はぁっ……!」



 パイロットを失った機体が下降を始めた為、二人の部下が支えるべく銀スカートの下に回った。

 直後にシキはフェイを胸部装甲の上に落とし、その胸を揉みしだきながら訊く。



『くっ、こいつ隊長をっ!』

『また人質にするのかっ、この卑怯者!』

『化け物な上に姑息な手まで! 何て奴っ!!』

「おーおー元気だなぁお前の部下は。ま、答えなくて良いや。大体察せたし。……なぁフェイ、こいつら撤退させてくれないか?」



 総勢六機もの機体に囲まれながら、シキは平然とした口調で囁いた。



「大切な部下なら死なせたくないよな。俺の目的はお前とお前達が乗るアンダーゴーレムの破壊、もしくは鹵獲だ。悪くない取引だと思うぜ?」



 妙にアダルトチックなパイロットスーツはフェイの女性らしい身体の凹凸をハッキリさせており、動く度にシキの指が柔らかい乳房に埋もれている。



「お前は俺に負けた。つまりお前はもう俺のもんだ。取引とは言ったが拒否権はないと思え」

「ぁっ……くっ……! 強いからって女をなぶるのかいっ! 情けない男だね! やること成すことっ……!」

「……クハッ。お前、普段は女である前に戦士だーとか抜かしてる口だろ。わかるぞ、正真正銘戦士の目ぇしてるからな。誇りが感じられる良い目だ。だが……いざ負けたら性差を持ち出すのか? 生まれた時代が同じならってか? 同じ土俵なら負けないのにってか? ははっ、こいつぁ傑作だ。どっちが情けねぇかわからねぇなあ?」



 真正面から負かされ、良いように身体を弄ばれた上に自尊心まで傷付けられた。

 その悔しさと怒りと言ったら想像を絶するものだろう。



 フェイはそれを証明するように力強く歯軋りした後、怒り心頭の瞳から悔し涙を流した。

 瞬き一つせず、シキの目を見返しながらポロポロと。



「う、煩い煩いっ! あんたなんかにアタイの何がわかる! アタイはあんなっ……女王みたいな女じゃないっ!」

『た、隊長っ!?』

『隊長をっ、泣かせたっ……!! こ、こいつだけはッ!』



 余程予想外だったのか、部下の一人は隣にフェイが居るというに、拳を振り下ろしてきた。



 怒りに身を任せた衝動的な攻撃。



 瞬間。



 シキは首をぐるりと回してその機体に顔を向けると、中に居るパイロットを見透し射殺すように睨み付けた。



 ビシッ、ミシィッ……と、空気や機体が妙な音を立て、近くを流れていた雲が一瞬で霧散する。



『ひっ……!?』



 格下の心をへし折り、敵意を消失させる《威圧》のスキル。

 どうやらゴーレムの装甲越しでも有効らしい。



 〝失せろ〟



 呟きにも等しいその小さな言霊はパイロットを恐怖で縛り付けた。

 投影した訳ではないだろうが、その銀スカートはゆっくりと後ろへ下がり……頭部カメラが暗転。静かに落下を始めた。



『ミン!? ど、どうしたの!? ミンっ!』

『ハンナもっ、ミンをお願いっ!』

『わかってる!』



 二機が墜落していった銀スカートを追い、合計三機が消えた。二機はフェイの機体を浮き上がらせるのに集中していて手が出せず、残りの一機は指示を出した後、『全くもうホントにもうっ……何なのよもう~っ……!!』と泣きそうな声を出していた。



「へっ……? あ、えっ?」

「気絶しただけだ。それより……何だお前? 女扱いしてほしいのか? そのナリで?」



 何が起きたかわからずに居るフェイの耳元に顔を近付け、静かに訊いてやる。



「あぁ勘違いするなよ? 女を捨てて戦士してることを言ってんだ。何もお前が可愛くない訳じゃあない。寧ろ良い女だ。顔が良い、胸も尻も良い。その気概も実に好みだ。それと、さっきも言ったが何より目が良い。強い奴の目だ。興奮する」

「っ……な、何、をっ……」

『た、隊長~っ……! ヤバいっ、隊長が襲われちゃうぅっ、あ、あたしっ、どうすれば良いの……!?』



 顎を持ち上げ、その手を頬に移すと同時、怒りや混乱、怯えが乗る瞳を覗き込みながらシキは続けた。



「何の用でこの辺を飛んでたのか知らないが……こいつら以外は別の部隊だよな? なら……殺して良いな?」



 シキの静かな殺気を感じ取ったらしく、フェイはハッとした顔で返す。



「あ、あんたまさかっ……今までっ……?」

「俺のモノにするって奴に恨みを持たれてもつまらんしな」



 どんなに機体を破壊しようと、シキはパイロットを生かしていた。

 撃墜した者も落とした者も、誰かに拾ってもらえるようにと敢えて加減していた。



「ま、俺と会っちまったのが運の尽きだ。受け入れろ」



 言ったが最後、フェイの後頭部を押さえて唇を奪う。



「あっ、ちょっ、何すっ……ぅむっ……んっ、ぷはっ……止めっ……んぐっ……んんっ……んふっ……ぁっ…………」



 強引に何度も口付けし、舌まで絡ませ、お前は俺のモノだと身体に教えていく。



 当然フェイは目を見開いて抵抗。拳や銃の柄、歯などで応戦した。



 しかし、どんなに暴れようと、舌を噛もうとステータスが全てを無為にする。



『あぁっ、た、隊長がっ……隊長がぁっ……!』

『なななななっ、何してんのこいつ!?』

『何何何なの!? 地上人の謎文化!? はぁ!?』



 三機の銀スカートが姦しく騒いでいる内、フェイの身体から力が抜けた。



 瞳は潤み、蕩け、突然の接吻に身を任せるようにくたりと。



 それを確認したシキは顔を離し……



 唇から伸びた唾液の糸がプツリと切れる。



「はぁ……はぁ……にゃ、にゃにすんらよぉ……!」



 ぼんやりとその光景を眺めた後、耳まで真っ赤に染めたフェイは鼻水すら垂らしながら抗議した。



 そこに屈強な戦士の姿はない。



 初心な少女の顔。凛々しさより可愛らしさ。力強さより可憐さ。

 声も濡れている。悔しそうに泣いているくせに、チラチラとシキの口元を見ては自分の唇に触れている。



「なに、そうしてほしかったように見えたからな。お前が望むならこれ以上でも良いぞ? 責任は取れんがな」

 


 それだけ言うと、シキはフェイの機体から飛び降りた。



『あっ、ちょっ! こら! 逃げんな!』

『隊長にあんなことしといて逃がすと思う!?』



 最早、一瞥すらくれずにエアクラフトの出力を最大に。瞬く間に他部隊の殲滅に移った。



『おのれ黒夜叉ぁ!』

『貴様の存在が上層部の目を曇らせたっ! 我々パイロットの立場を奪った! 軍部縮小などと!』

『誇り高き我等MMM乗りが生身の人間なんぞにっ……認められるか! 何年戦争に備えたと思っているっ!』



 戻ってきた者や様子見に徹していた者が一斉にシキを取り囲み、口々に叫ぶ。



 どうやら彼等は自身が扱うアンダーゴーレムの有用性を示せなかったことに憤慨しているようだ。単に手柄を求めている者達ではないらしい。



「……一緒に行動してるんだからフェイもだよな? らしいな、つくづく。口振りからしてお偉方に失望されたってとこか。魔導戦艦にはゴーレム……ステータスを持つ俺達現代人がその主流戦術を乗っ取っちまった。嘗てはその技術力で栄えてたんだろうが……ま、生まれを呪うんだな。()優良人種様共?」



 母艦も無しに飛んでいた者達だ。余程感情に支配されていたのだろう。そんな者達への挑発。



 要約すると、『まさか戦力の衰退疑惑を払拭する為に出てきたお前らがたった一人の男に負けて逃げ帰りました。全滅しちゃいました、なんて言わないよな?』



 更に分かりやすく言えば『逃げるなよ?』である。



『『『『『…………』』』』』



 銀色に煌めく機体はパイロットの感情を表さない。



 しかし、例え表面に出なくとも、全機に見えない鎖が巻き付いた。



 シキはそれを確信して笑った。



「ハッ……なあ。何で俺がガキみてぇに……小物みてぇに挑発するか知ってるか?」



 その笑みに多分に含まれていたのは嘲り。



 弱者を憐れみ笑う者が見せるもの。



『きっ……ききっ、きさっ……貴様ああぁぁっ!』

『地上人風情がっ……我等を愚弄するかッ!!』

『蜂の巣にしてくれるっ!』



 頂点に達した怒りは彼等を死地へと駆り立てる。



 対するシキはこれでもかと嗤いながら刀剣を抜いた。



 振り上げられた深紅の刀身が太陽の光を反射し、持ち主の魔力を得て徐々に赤熱化していく。


 

「要はなりきりさ。小物には小物。相手の土俵に立たねぇとよぉ……見えるもんも見えてこねぇと思わないか?」



 会話という会話はこれが最後。



 数秒後に始まったのは怒号と笑い声、弾丸と装甲、血と紫色の魔粒子が飛び交う戦場だった。


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