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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第5章 魔国編
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第212話 『最強』の攻略法

「予約投稿だと埋もれるんか……?」という疑念からこんな時間に。


一応、微グロ注意です。


 片翼を捥がれた鳥が上手く飛べるか。



 答えは否だ。



 自力で魔粒子を生成出来ないイクス人であるゼーアロットは推進力と浮力の全てをスラスター系アーティファクトに依存している。それこそ翼で移動する鳥のように。



 最強のステータス、桁外れの量の魔力を持つ奴でも依存先のスラスター()を破壊されてはどうしようもない。



 謂わば向こうの世界の人間であること。それが弱点だった訳だ。



 雑に暴れたせいでこちらの国々を団結させてしまったのも痛い。強すぎたが故に傲り、地球の文明を舐めて掛かった。



 その結果が今俺の眼下で広がる光景。



 半径一キロほどの範囲を光の玉のような爆発が覆うかの如く発生している火の海だ。



 爆発音も中々ビビるが、個人的には爆弾の落ちる音が怖い。

 ヒュ~ッ……ヒュ~ッ……と、口頭だったり、教科書やフィクションで知ったそれは所詮ニセモノ。しかし、いざ本物を目の前にすると効かないとわかっていても恐ろしい。



 音が、光が、威力が浸透するように伝わってくる。



 全方位から聞こえてくる落下音。生身で受ければ普通の人間の肉体など木っ端微塵だろう。下が海だからこそ被害という被害はないが、史実では日本でも行われた戦法。しかもこれが市民や街に向けられたのだから堪らない。



「百年も経ってないのに、人はこれを忘れつつある……ふざけた話だ」



 センチメンタリズムな気分に毒され、思わずそう呟くとライやマナミが静かに返してきた。



「忘れてはないだろ、現に俺達は習った。……ここまでのものだとは思わなかったけどさ」

「何か一つ違えばまた同じことが起きちゃうんだよね……あの人はこの光景よりも恐ろしいものを生み出す兵器を持ち出した。そんなの、文明レベルの低い向こうの世界で使えばどうなるか……」



 渋い顔で言う二人は何処か別々の感情を抱いているように見えた。

 ライは俺寄り、マナミは悲しげな感じだ。



 一方で撫子は青い顔をして文明の力に恐れおののいている。



「ひえぇ……爆発の一つ一つが下手な属性魔法と同等……これがこの範囲で……街一つ……いや、国も滅ぼせるな、この力は……お、恐ろしいでござる……」



 これを受けて平然としていられるのはゼーアロットやジル様、『付き人』くらいのものだろう。後衛職であろうムクロでは少々危ないかもしれない。

 向こうの世界の最強格達でそれだ。人は種族関わらず、魔物はドラゴン等の例外を除き、一気に殲滅出来るであろう火力。速度と一撃の脅威で言えば最上位に食い込む強さを持つ撫子でも流石に恐怖を覚えたらしい。



「おおおおおっ!? 黒夜叉ぁぁぁっ!!」



 恐怖の音と光景が続く最中、奴の絶叫が聞こえてくる。



 後退を終え、高空かつ安全地帯に居るマナミと合流しても尚聞こえてきた。余程頭に来ているようだ。



「怒ってんなぁ」

「当たり前だろ……」

「痛くないのかな……少なくとも物凄く熱いとは思うんだけど……」

「というかあれに後数回は突っ込まなきゃならないんでござるよな? 拙者逃げてても良いでござるか? 元より日和見主義の拙者には似合わんのだが……」



 ゆっくり離れようとしている撫子の首根っこを掴み、乱雑に投げ落とす。



「うぎゃっ!?」

「戦線に復帰するっ! マナミっ」

「わ、わかった! 『攻撃中止です! 弾薬の補充に移ってください! 別の部隊と交代っ!』」

「ユウっ、お前っ、女の子に向かって何てことするんだ!」



 くるくると回転しながら落ちていく撫子は「これこれっ、そういうのそういうのっ、シキ殿は拙者を野郎と思ってるでござるんか!?」と怒っており、ライもライで怒鳴ってくる。

 が、無視して降下し、爆弾の雨が終わると同時にゼーアロットの前に降り立った。



「や、やってくれました……えぇ……本当に……お陰でこうもボロボロです。このワタクシ様が何ともみっともないっ……!」



 怒ったり、感情的になると自分に様を付けるらしい。



 これまで平静を保っていた顔は煤のような汚れにまみれており、怒りの感情を露にしている。これまでの攻撃で布切れと化していた修道服は本人が言うようにボロ布としてギリギリ服か否かというところを保っていた。



 当然だが、額には幾つもの青筋が浮かんでいて殺気も凄まじい。

 スキルがないからこそ海を割り、俺達に重力の如きプレッシャーを与えるだけで済んでいるといった様子。



「全く悲しいことです。我が悲願を理解いただけないとは……! 羽虫が寄ってくるのがこうも鬱陶しいっ……知りませんでしたよっ……!」



 また一つ青筋が増えた。比例して筋肉の盛り上がりも増したような気がする。プレッシャーや身体の大きさも。



 ただでさえデカいってのに……偉そうな態度はジル様と同様だな。強ければ強いほど癖も強くなるのか?



「虫が居ねぇ世界の住人が羽虫を知ってんのか? 何でだ?」

「虫系魔物のことだっ、どいつもこいつも飛ぶけど、あんまり強くないからその比喩っ。てか怖くないのかっ?」

「あー死んだ死んだ……今度こそ死んだ……あー一度くらい抱かれたかったでござるぅっ」



 青ざめた顔、投げやりな態度で言う二人。



 確かに怖い。背筋は勝手にピンとするし、ガタガタと震えてくる。



 が……言うほどか? というのが本音。



 これくらい何度も経験がある。



 『崩落』もムクロも、もっと遡ればジル様や『付き人』の方がヤバかった。



 それでも恐ろしいことに代わりはなく、俺は自然と自身に言い聞かせるように話していた。



「クハッ……笑え馬鹿共。こういう時はな、笑うんだよ。俺は向こうでそれを知った。あの人もルゥネも笑ってたっ! クハッ、クハハハッ! クハハハハハッ!!」



 ホント、最初は自己暗示のつもりだった。



 いやマジで。



 だったんだけど。



 笑っている内にピーンッと来た。



 来た。



 来ちまった。



 あるいはブツンッと何かが切れたとでも表現しようか。



「はははっ……! クハッ……あ。………………あ?」

「ゆ、ユウの奴……〝死〟への恐怖でおかしくなったのか?」

「いやー……これはいやーな予感……ちょっと覚えあるでござるよ拙者……シキ殿が戦いの最中に狂い笑いを始めたら……」



 外野が煩い。



 さっきまで感じていた恐怖は恐れ、不思議な高揚感と万能感が溢れてくる。



 そんでもって……



 音が消えた。



「アハッ。……来た。来たぜ……来た来た……来た来た来た来た来たァッ!! ヒャハァッ!」



 スイッチが入った。



 戦闘狂のそれ。



 こっちに来てから……



 いや、ルゥネとの戦い以来ご無沙汰だった楽しい楽しいそれだ。



 長いことストレスに晒されてたからだろうか。



 ライやマナミへのストレス、撫子のグダグダ下らねぇ迷い……いや、白仮面野郎やゾンビ早瀬、アホのミサキにか? わからん。ストレスを感じる対象が多すぎる。何だったらそれら全てを真面目に受け止めてた俺にもイライラする。



 何回目だ? 俺自身うじうじうじうじ……下らねぇ。



 過去一、()()()気がする。



「ハハッ……!」



 気付けば震えは止まっていた。



「クハハハッ! 何だこれっ、何だぁこれっ!? 死ぬっ、死ぬっ……! 怖ぇ! 逃げてぇ! 泣けてくる! なのにっ、ハハハっ、笑いが止まらねぇっ!」



 何が面白いのか。



 僅かに残っていた冷静な部分がそう言って、消えた。



「計画変更だ野郎共ぉっ!」



 全身が震えるほどの熱に乗っ取られたのか、叫びながら刀剣を抜刀。高々と掲げた後、ゼーアロットに向けて続けた。



「『最強』だぁ!? 生物である時点で弱点なんざ幾らでもあんだぞゴラァっ! 人をこんなっ……! こんなカス共と一緒に飛ばしやがって!! 故郷が何だ家族が何だ地球が何だぁっ!!? クハッ、クハハハハッ! ぶっ……けけけっ……くっくっくっ……! 殺してやる……! それが出来なきゃ死ぬ思いさせてやる! テメェだって狩られる側ってことを思い知らせてやるよぉっ!!」



 熱い。



 興奮する。



 笑いが止まらない。



 楽しい。



「こうなったのもテメェらのせいだっ! 文句は言わせねぇっ!! ライっ! テメェは魔法で援護! 撫子は俺の補助だ馬鹿野郎ッ!! クハッ、クハハハハハッ!!」



 俺の豹変ぶりに絶句したのはライと撫子だけじゃなかった。ゼーアロットもポカーンとしている。



 『最強』らしからぬアホ面だ。勇者もエセ侍もなんて間抜け面してやがる。



 イライラする。笑えてくる。殺したくなる。斬りたくなる。



「マナミいいぃぃっ!!! テメェも来いやああぁぁぁっ!!」



 自分でも目が血走ってるのがわかる。



 聞こえただろうか? いや、聞こえてなきゃ困る。あいつも向こうに帰りたい筈だ。やはり最後は……俺が思い付いた、奴を倒す唯一の方法しかねぇ。



 あー……。



 何だろうこれ。



 全身が熱い。マグマか何かが漏れてくるみたいだ。



 殺気……じゃないな。



 闘志?



 違う。



 あ。



 わかった。



 狂気だ。



 間違いない。



 〝死〟への恐怖と戦闘狂としての(さが)が混ざった……



 いや、それも違うな……



 ジル様やルゥネ他……かつて俺と戦い、殺し合いの何たるかを教えてきた奴等が俺に埋め込み、育ませた()()



 全て理解した。



 俺は狂ってんだ。とっくのとうに狂ってた。



 もう日本人の心なんてほんの一握りしか残ってなかったんだ。



 そうだ、俺はシキ。黒堂優でも、ユウ=コクドウでもない。



 死んで鬼になった魔族。



 シキだ。



「アハッ」



 そうとわかれば……



 俺の知る狂人達の気持ちが理解出来た気がした。









 ◇ ◇ ◇



 一度嵌まりさえすればもう抜け出せない。



 例え『最強』のステータスを以てしても、バランスを欠いた時点で。



「クハハハハハッ! この程度かァッ!? 『最強』さんよぉっ!」

「くっ……!」



 ――ザンッ、ザンッ、ザァンッ……!



 縦、横、斜めと真っ赤に染まった紅の刀身が無数に振られ、ゼーアロットの鋼鉄を思わせる身体に鞭で叩かれたような傷が付く。



「ステータスで敵わなくともっ、弱点のひとぉつっ! 人間だからっ、熱に弱ぇっ!! 直接焼いちまえばっ!」



 何度も斬ってもタイヤを殴り付けたように弾かれ、シキの腕も跳ね上がる。

 時にはあらぬ方向に折れ曲がり、血どころか骨すら飛び出す。



 にも拘わらず止まらない。



 振り下ろし、横薙ぎ、斬り上げに突き。



 魔力の残量を全く気にしない超高速機動。



 先日ライとの対決で実現した、音速を越えた速度での猛攻。



 シキはそれを、マナミの再生能力に身を委ねるまま行っていた。



 返ってきた同速の拳は乗りに乗った速度を邪魔しないよう角度と加減が調整された魔粒子でスウェーバック、首反らし、半身になり、開脚し……と余裕で躱す。

 振り回された薙刀を思わせる蹴りは飛び越え、背中から落ち、肩から魔粒子を出して真下……あるいは曲芸のように身体を回転させてスレスレを避ける。



 攻撃回避攻撃攻撃回避攻撃移動攻撃攻撃攻撃攻撃。



 最早、ライや撫子の援護すらまともに間に合わない速度。



 その上、マナミの能力を考慮してか周囲を見ることもなく一瞬で後退し、自分だけを能力の範囲内に入れて癒している。



「ぐっ、ぐあっ……く、黒っ……夜叉っ……やはり貴方様の力は予測が出来ないっ……大した力もないくせにっ、結果だけはっ! 全ファクター、唯一のイレギュラーっ……危険危険危険っ、危険因子ぃっ……!」

「それがどうしたマヌケぇっ!」



 斬るのがダメならと、赤熱化するほど高熱を誇る刀身を当て、ジュッと焼くこともある。

 狙いは顔顔顔。ひたすらに顔。思い出したかのように股間や背中など、全く別の、対応の遅れる部位も狙う。



「ぐっ……おおおおおっ!!」



 ゼーアロットが苛立った様子で海を殴り付ければ跳ねるようにして後退し、「ラァァイ!!?」と援護の指示。



「っ、わ、わかった!」



 付いていけないと判断したのか、ライは真空の壁を三枚重ねて創造。迫る衝撃波からシキや自分達を守り、ついでに電撃を放って数瞬の麻痺硬直を与えた。



「ぐぁっ!?」



 次の瞬間には後退を中断し、爆発的な速度で迫る。



 斬り、叩き付け、斬る。



 Gで内臓が傷付こうが、反動で腕や脚がへし折れようが、シキは全く意に介さず狂ったように攻撃を繰り返す。



「後ろへの注意を忘れてるぜ? 学習能力のねぇ猿かテメェ?」

「っ!?」



 あまりの狂暴っぷりにかまけていれば忘れた頃に撫子が迫り、背中のスラスターを斬った。



「っ、っ……!? こ、これっ……ではっ……!?」



 そう驚き、体勢を崩したゼーアロットの口に剣先を突っ込み、笑う。



「もう避けられねぇっ、クハッ……食らいなぁっ!!」



 轟ッ!!



 紅蓮の炎の顕現。



 極限まで高められたステータスである程度無効化出来るとはいえ、ゼーアロットは再び絶叫した。



「もがあああああっ!?!!?」 



 挙げ句には次なる一手。 



「なあ! 酸って知ってるか!? 硫酸の上は超酸って言うらしいな!? その上もあるとか! 初めて知ったよっ、オラッ、これもオマケだァっ!」



 抵抗よりも先ず口を押さえようとしたゼーアロットの耳元でそう囁いたシキはマジックバッグから取り出した物をぶっ掛けた。



「ぐぎゃっ!?」



 酸。



 コンクリートや金属すらも溶かす物質。



 もし直接組み付くことが、スラスターを破壊出来なければ、と幾つかあった予備の策の一つである。



 固形から液体まで、様々な瓶に入れられたそれは情け容赦なくゼーアロットに降り注いだ。



「うぎぃやああああぁぁぁあ!?!?」

「弱点のひとぉつっ!! どんなに硬くてもっ、物体としてダイヤモンドよりも硬い訳じゃあねぇ! ステータスってのはあくまで攻防のみの数値! 幾らそれが高かろうと物理的に溶けるものは溶けるっ! 限界があるッ!!」



 頭部、顔、肩、首、胸。



 主に上半身に掛けられたそれらは煙のようなモヤを出して皮膚を溶かし、火傷以上の苦痛を生成する。火傷箇所に掛かればそれ以上だ。



 ボロ布同然だった修道服は焼け、溶け消え、下を隠すのみとなった。隆起した筋肉の数々は見事、さながらボディービルダーのよう。

 しかし、皮膚が溶け、顔を含めた上半身は中の肉が露出している。頬などは頬骨や歯まで出ていた。



「あっ、あなっ……貴方様はああぁぁあっ!!?」



 思わず顔を押さえ、肩や胸を擦り、それすらも苦痛に繋がって絶叫する。



 潮風が染みて染みてしょうがないのだろう。ゼーアロットは血走った目でシキを睨み付け、かつてない殺気を向けた。



 瞬間。



「隙有りだ、ゼーアロットさん」



 ライが【紫電一閃】で体当たりした。



 ビクンッと全身を震わせ、背骨が折れんばかりに身体を反らせ、盛大に硬直する。



「今だああっ、突っ込めええぇぇぇっ!!!」

「承知ッ!」

「う、うんっ! 今行くっ!」



 吠えたシキに続き、様子を窺っていた撫子、降りてきたマナミも突撃。



 四人揃ってゼーアロットの巨体を押し始めた。



「何度だって言うっ! テメェら『最強』の弱点は人間であること! 『最強』だろうが関係ねぇっ! 人間だから呼吸するよなァっ!? 生物である時点で対処法は無数にあんだよボケがァーーっ!!!」

「な、何っ、をぼぉっ!?」



 四人に対し、一人はブーツ型スラスター。対抗出来る筈もない。



 シキ達は自分諸ともゼーアロットを海に沈めた。



 強力なスラスターから生み出されたエネルギーが凄まじいまでの水飛沫を上げる。上空を飛んでいた者らは誰もが噴水か噴火を連想したであろう。



「がばっ、おぼばばばっ!? あばばぁっ!!?!?」



 全身を襲う激痛と驚愕。



 そして……恐怖。



 肺の中のものを吐き出しきったらしく、ゼーアロットは酸素を求めてバタバタと暴れ出した。



 電気が分散してしまう海中ではライの魔法や固有スキルは使えない。



 ならばどうするか。



 シキは再びゼーアロットの口に刀剣を差し込んだ。



「んがぁっ!?」



 ステータス差で傷は付かない。ゼーアロットからすればただ異物を突っ込まれただけ。



 しかし。



 その異物が熱を持ち始めたら?



 ゼーアロットはまたかと目を力強く見開いた。



「もががっ、がばっ……! っ、っ……~~っっ!!!」



 ライ、撫子、マナミが推進力を担い、シキはゼーアロットの首に爪を引っ掛け、刀身を赤熱化。



 国宝が如く美しい深紅の刀身はあっという間に真っ赤に染まり、ブクブクと音を立てて泡を生み出した。



 喉奥まで水に浸されているゼーアロットの口内でも同様。



「――――っ!!?!?」



 空気すら吐けず、酸素が足りないから悶絶の声を上げることも出来ない。



 抵抗も止まり、ただビクビクと痙攣して熱と水蒸気を受け入れている。



 全身を火傷し、金属をも溶かす強力な酸を掛けられ、海水に突っ込まれ、口の中では水が水蒸気になるほどの熱。



 発生した水蒸気が破けた頬や空いた口の端から漏れてはいるが、想像を絶する苦痛だろう。



 事実、ゼーアロットの目には怯えが乗った。



 少しずつ白目を剥き始め、意識が朦朧としているようにも見える。



 ここまでやれば……!



 そんなシキ達の思いは一致し、ゼーアロット本人も認めた。



 ここが退き時であると。



 ぐにゃあっ……



 と、視界が歪み、浮いているような落ちているような、それでいて相変わらず突き進んでいるような感覚が四人を包み込む。



 【原点回帰】。



 その力の波動は例えたったの一度しか経験がなくともわかる。



 異世界への帰還。



 おおよそ一ヶ月の里帰りで得たもの、失ったものは何か。



 各々は思いを馳せつつ……



 第二の故郷、異世界イクスへと生還を果たした。


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