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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第5章 魔国編
230/334

第209話 撤退と捕縛

説明回のくせにめっちゃ長くなってもうた……



「何からお話しましょうか」



 雲一つない晴天と、波打ち、太陽の光を反射してキラキラと輝く太平洋上。

 シキ達はスラスター装備に慣れていないゼーアロットに合わせ、ゆっくりとした動きで西方面に向かっていた。



 圧倒的な戦力差故か、ゼーアロットには特に警戒している様子はなく、反対にシキ達は揃って最大レベルの警戒をしつつ、挟むようにして飛行している。



「……『核』は何処にやった。何に使うつもりだ」

「おや? 帰せ、とは言わないのですね」

「言ったところで素直に帰してくれるのか?」

「ふふっ、物わかりの良い方だっ」



 笑いながらではあるが、ゼーアロットはシキの質問に答えた。



「【原点回帰】でワタクシの故郷に送りました。転移座標はランダムですが、地上から送ったので問題ないでしょう」



 どうやら上空なら上空、地上なら地上と、ある程度の法則はあるらしいものの、転移先の指定は出来ないようだ。



「何にと言われると返答に困りますねぇ……こちらの世界で最強最悪の兵器なのでしょう? 兵器とは使う為にあるのでは?」



 さも当然かのように言うゼーアロットに、ライとマナミが噛み付く。



「アレは別格のものですっ、兵器なんて生易しいもんじゃない……! 何千何万という人を一瞬で殺し、何十年何百年も毒を撒く爆弾なんですよっ!? それを使う!? 使うだってっ……? そんな馬鹿な話があってたまるか!」

「私達だって……知ってるだけで詳しいことはわからないんです。けど、その転移先で爆発していれば街が軽く消し飛んでいる筈……それほど危険なものなんです、知らなかったで済む話じゃない……」



 剣、魔法、魔物に銃火器、アンダーゴーレム、魔導戦艦とファンタジー的なものには慣れている。

 が、現実で使われ、もう二度と繰り返してはならないとされている禁忌の兵器となれば別。



 対外的に見れば、敵対している筈のシキとライ達が同様の反応をし、反射的に協力してでも排除しようとする代物である。撫子もゼーアロットも余程のものなのだろうと察していた。



「問題ないでしょう。ワタクシの故郷は荒れ果てた土地と化しています。旅人はおろか、商人すら通ろうとしない死の大地……何かの手違いで兵器が作動していても巻き込まれる者は居ません」



 ゼーアロットは初めて見せた喜びや焦り、狂気以外の感情を表情に出した。



 それは嫌なことを思い出しているような、何かを憎悪しているような、そんな複雑な顔だった。



 しかし、数秒もすれば再びにこやかな顔へと戻る。

 まるでその感情を押し殺したようにスッと。



「そのような恐ろしい兵器……使う予定なぞないことを祈るでござる」

「……いずれは使いますとも。何せ、こちらの世界に来たのはそういった側面もありますから。まあ……まさか本当に世界を飛び越えられるとは思いませんでしたが」



 陰はあれど撫子にも返答し、チラリとシキ達を見上げた。



「何故スキルが使えるのか、ワタクシの目的は何か……そう言ってましたね。お話しましょう。ワタクシも出来れば貴方様方と無駄な争いはしたくありませんし」



 ステータスのお陰か、日の光を遮るものがない海上でも全員何ら体調を崩すことなく飛行を続けられている。

 時折追っ手らしきヘリコプターや戦闘機が飛んでいるが、反撃を恐れてか攻撃はなく、距離もとっている。ゼーアロットとの『対話』を続けることに問題はなかった。



「貴方様方が知っているように……神は存在します。正確には神を騙るナニカ……神のようなナニカです。お二人……特に救世主ライ……貴方様は実際に会ったと聞きましたが?」

「……はい」

「邪神になら」



 片や表情を曇らせ、片や平然とした顔で返す。



 思想や髪色等、明らかにライは影響を受けている。



 ライ自身、自覚はあるのだろうとシキは思った。



「……神のようなナニカについてはこの際、置いておきましょう。そのナニカがスキルやステータスという概念を創造した。色々知っておいてほしいことはありますが、要点はそこです」



 二人の様子に目を細めていたゼーアロットは語った。



 曰く、シキ達が異世界人が持つ心得系、翻訳スキルは最近になって発現した新種の能力。



 曰く、神のようなナニカは確かに万能だが、だからといって何でもかんでも好き勝手出来る訳ではない。



「新たに付け足すことは出来ても、世界そのものを改変させる力はないのか……はたまた何らかの制約、ルールのようなものがあるのか……それはわかりません。兎に角、他のスキルは大半が太古の時代から存在するもので、人系種族はおろか魔物にまで広く普及しているシステムです。何か一つを変えようと思えば否が応にも影響が出てしまうんでしょうねぇ」



 故に、シキ達が持つ異世界人特典セットのようなスキルにはバグのようなものがあると言う。



 テスト的に創造したスキルだから神が想定していなかったものに対応出来ないのではないか、と。



「異世界への転移……これは神による力の行使や召喚の儀といった特殊なケースでなければ本来発生しないもの。()()【原点回帰】を持ったワタクシが偶々異世界人である貴方様方と接触し、偶々世界間を跳べた。想定にない使い方なのでしょう。今回は良い方向に働いたようですね。ワタクシとこうして話せるのもスキルのお陰ですし」



 成る程、確かに。



 今更になってシキ達は納得した。

 言われてみれば外国語はおろか、そもそも別の世界の人間であるゼーアロットの言語など理解出来ない。地球に帰ってきたという衝撃で疑問にすら思わなかった。



 (バグっつぅよか、試作品故の認識不足ってとこか……? 何処までも人間みたいな奴等だな……)



 シキは銀髪幼女にしか見えない邪神を思い出していた。



 二年近く前の話ではあるが、当時幼女邪神は『付き人』に付き従っていた。

 仮にも神のようなナニカであり、存在そのものの格が違うと直感するほどのナニカが恐らく人でしかない『付き人』に。



 万能でありながら、人間のように感情があり、思考する。

 だからこそ真の万能ではないらしい。



「なら固有スキルは? ステータスは? 魔法は何故使える。何で何の制約も受けない?」



 シキの質問はライ達も気になっていたようで、バタバタと音を立てて遠くを飛んでいるヘリを横目にゼーアロットを見る。



 スキルもそれらも物理法則をねじ曲げる力。

 あり得ない現象を引き起こす力だ。異世界ならまだしもシキ達が生まれ育った地球でも変わらず使えるというのは明らかにおかしい……というより、シキ達にとってはその異物感とも言えるようなものがトゲとなって残っていた。



「あぁ……固有スキルや魔法は簡単ですよ。答えは神に何ら関係のない〝異能〟だから。元来、人間が持っている概念的能力なんです。こちらの世界でも似たような超常現象を起こす人間が居るのではないですか?」



 歴史上、あり得ないとされる偉業を成した偉人達がシキ達の脳裏を過る。

 メディアで時折報道される超能力、存在したとされる陰陽師、霊媒師に悪魔祓いなど、オカルトチックなものからSF的ものまで。



 真偽は不確かだが、存在しているとすればそれらが当て嵌まるのではないか。



 思わずシキ達は顔を見合わせ、静かに唸った。



「ステータスの方はわかりませんねぇ……貴方様方のスキルのように後から組み込まれたシステムなのか、こちらの世界でも同じ物理法則なのか……」



 スキルとステータスは神が創造した力。

 固有スキルと魔法は人間が持つ〝異能〟であり、万国ならぬ万世界共通。



 (……天空人にスキルとステータスがないのは神が手を加える前から存在していたからだったのか)



 思わぬところで古代人の謎を知り、シキの思考が僅かに逸れる。



 (ステータスがないから魔力量が少ない……スキルすらない天空人にとって最も必要なのはゴーレムや魔導戦艦を動かす魔力だ。絶対的に少ないそれをどうにかしたいが為にシレンティのような人造人間を生み出した。そして、天空人はその人造人間が発展した人種……?)



 先の戦争で見かけた『天空の民』はシレンティによく似た銀髪をしていた。

 雰囲気も魔力量も被る点があったような……と、記憶を探る。



 (あのフェイとかいう女パイロットは一般人程度の魔力なら持ち合わせていた。ゴーレムの操縦数日分の魔力はある、か……ナールの予想は当たっていたな)



「まあ……スキルについてはこのくらいにしておきましょうか。どうせ追々知っていくことになるでしょうし」



 ゼーアロットは意味深なことを言って一旦話を切り上げると、先程よりも近くを飛び回る戦闘機に目を向けた。



 数は四つ。

 ヘリ同様、偵察だろう。



 そんなゼーアロットを見たシキがライに目をやり、顎で示す。



「…………」



 その意味を正しく理解したライは無言で頷き、両手を掲げると一筋の稲妻を放って追っ払った。



 人にしか見えない何かが手から電撃を放出した。



 この超常現象について、魔法という発想に行き着くか否か。



 何はともあれ、突如として発生した巨大な稲妻に驚いた戦闘機は散開して離れていった。



「……魔素が存在しないが故に技術がこうも発展した……ならば彼等に過剰なまでの力があるのは……? 教えでは神の寵愛ですが……魔素が存在しない、常時魔力欠乏状態で生きているから鍛えられている……そのように思えますねぇ……」



 ライの魔法を見ながら、ゼーアロットが目を細めてブツブツと呟く。聞こえてくる独り言に興味こそ湧くものの、態々訊くほどでもない。シキ達は敢えてスルーした。



「では目的は何なんです……? 敵じゃないと言った真意は? 何故、俺達を止め……いや、助けたんですか?」



 ある程度満足したシキに代わり、今度はライが質問する。



 意味がないと思っているのか、【明鏡止水】を使っている様子はなく、普段の彼だ。



「……千人殺しの『黒夜叉』。『付き人』と接触したことのある貴方様ならもう気付いているのでは?」



 当ててみろ、とでも言わんばかりにシキを見据え、微笑んでいる。



 対するシキも推測はしていた為、「素直に答えろよ……」等とボヤきながらも口を開く。



「こっちに来たのは神の手からライを逃す為。後々引っ張られた俺は兎も角、そこのマヌケは真っ先に影響を受けていた。そいつを振り切り、あわよくば『核』を回収しようと考えた。狂信者のふり、『付き人』への執着、『核』という力の保有……その最終目的は……」



 スラスラと自身の考えを話していると、ゼーアロットはうんうんと頷いていた。

 まるで、正解、正解、それも正解、と言っているように。



 反対にライ達は途中までは何となく同じ考えに至っていたようだったが、最終目的と聞いて全員がシキを見た。



 シキは一瞬ライに視線を返した後、仕方なさげに肩を落として口にする。



 〝神殺し〟と。



「違うか?」



 訊きながらも、シキは半ば確信に近いものを感じていた。



 (騒ぐだろうからライには出来るだけ知られたくなかったが……()()んだよな、色々と。ゼーアロット……かつて神殺しを成したと言われる『付き人』の雰囲気にそっくりだ)



 姿形はまるで違う。

 思想も所属勢力も背景も、何もかもが違う。



 言うならば、()()しているのだ。



 現状を見ているようで見ていない。

 先の先の先を見据えているような、目の前の事象に何ら興味を抱いていないという目。



 (感情も感じられはするんだが……何処か死んでる感情っつぅか……何とでもなるだろという余裕が感じられる。そこがとてもよく似ている)



 そういった意味で言えばジルやムクロにも通じる部分があった。



 彼、彼女等が共通して持ち合わせているものはただ一つ。

 並ぶ者が居ないほどの圧倒的な力。他者を寄せ付けない特異な何かだ。



「ゼーアロットさんっ、あ、あんたまさかっ……!」

「……ええ、認めましょう。当たりです」



 訪れた静寂を打ち破るようにライが追及した次の瞬間、ゼーアロットからそれまでの笑みは消え、能面のような無表情でライを見つめた後、認めた。



 その顔から透ける感情と思考をシキは見逃さなかった。



 (……今、一瞬考えたな? 話すと決めたは良いものの、神の手先に()()()()()()()ライを放置して良いかどうか。神と大手を振って敵対出来るかどうかを)



 殺気のない殺気。



 シキが気付くのなら、経験豊富な撫子も当然気付く。



 シキと撫子は互いに目を合わせ、ゼーアロットを睨んだ。



「謀ったというのかっ! アレはっ……あの方達に逆らうことがどれだけ恐ろしいことなのかっ、あんたならわかる筈だ! 刺激しちゃダメだ! 今すぐそんな考えは捨ててくださいっ!」



 吠えるライを尻目に、ゼーアロットの返す視線がシキ達を射抜く。



 未だ揺れているような、はたまた何も考えてないような目。



 ほんの一瞬の、無言の会話ではあったが、意味は伝わった。



 (どの道、今回の件で怪しまれている、問題ない……か)



「ふぅ……またも死を覚悟させられたでござるよ」



 二人は安堵し、ライはそれに気付かず……否、気付いていて尚説得を続けている。

 マナミも今のやり取りに気付いていたようだったが、内容まではわからなかったらしく、怪訝な顔をしていた。



 (逆に考えればライも、こいつにとってどうでも良い存在だということ。いつでも消せるし、放置してもどう歯向かわれても対処出来る、と。現代最強の勇者と名高いライ相手にその自信……なるべく敵対したくないもんだな)



「っ……り、理由を教えてください! 俺は一目会っただけで()()なったっ。屈服させられたっ、理解させられたっ……アレは格が違うっ……存在そのものの格が!」



 どうやらライも神のようなナニカに対し、シキと同じ感覚を覚えたようだった。

 しかし、勇者である自分を赤子扱い出来たとて、神を騙るだけはあるほどの者達に刃を向けるのは理解出来ないらしい。



 (強いからこそわかるだろってか。……負け犬の思考だな)



 影響を受けたライとは違い、シキは特に何もない。

 心は折られてないし、思想にも変化はなかった。



 強いて言うなら、お前はそのうち人類の敵になると予言された程度。



 確かに刻一刻とその道を歩んでいるが、それはシキ自身の意思によるものだ。



 (逆らえない……言うことを聞かなきゃいけない相手だと認めるとこうなっちまうのか)



 シキはそんなことを思いながらライの髪を見た。



 白い。



 聖騎士ノアやレーセンのように。



 (あいつらは完全な信徒だった。他種族の絶滅とかいうやべぇ思想に疑問を覚えるどころか推奨し、広めていたクズ共……危険と判断すれば躊躇なく罪のない人間を切り捨てる神の使徒だ。ならライは染まりきってない……いや、なりそこないか。折れただけで崇めようとはしてない。ならゼーアロットは? こいつも白いが……?)



 疑念は尽きない。



 しかし、ゼーアロットの目的の原点は何となく理解出来た。



「復讐……」

「……え?」



 マナミがポツリと呟いた言葉に、ライは固まり、ゼーアロットは無言で返した。



「わからないのライ君、復讐だよ。私達が聞いた種族間の長い長い憎しみの連鎖……あれと同じものでしょ。ユウ君と少し似てない? 目がさ……」

「っ……」



 目線が変わればそうも見えるらしい。



 シキは思わず笑ってしまい、ゼーアロットもほぼ同時に失笑した。



「クハッ、俺は復讐なんて興味ねぇよ」

「ふっ……最早、怨念への昇華しているワタクシのこの思いを……軽く見られたものですねぇ」



 「何言ってんだか」と一笑する二人。



 そんな二人に対するマナミの返答は以下のものだった。



「似てるよ、見れば見るほど。そして、よく似ているようで、微妙に違う。でも種類は同じだね。……冷たいんだよ二人共。ノアちゃんやロベリアさんとも同じ。何か目的のある目……その目的の為なら人間性をも捨てられるという覚悟がある目」



 シキは「……また広く捉えたな」と感心した。



 目的の為なら手段を選ばない者らと同列に扱われるのは癪だが、そういうものの見方で言えば確かに似ていて当然だろう。事実、同類なのだから。

 全員、何かしらの暗い過去や目的があるのだ。ゼーアロットには神殺しを志すようになった過去が、シキには全人類の敵と称される魔王との謁見が。他も似たようなもの。



「……復讐、ですか」



 肩を竦めて笑ったシキとは対照的に、ゼーアロットは小さく呟いた。



「まあ……規模は違えど意味はさほど変わりません。そう考えると言い得て妙ですねぇ」



 どこか遠い目をしながらの呟きだったが、当たらずとも遠からず、といったところらしい。



「【不老不死】の魔王、その魔王にいつ何時も付き従っているという『付き人』……恐らく、『付き人』もワタクシと同系統の固有スキルが発現したのでしょう。魔王が何故神を恨んでいないのかは甚だし疑問ですが……()()()()というのは貴方様方が想像するより辛いものなのですよ」



 続いた発言には敵意も殺意も、軽蔑もなかった。

 純粋に好意で教えてくれているような、そんな顔だ。



 (やはり狂信者ってのはブラフ……しかし、人間にあそこまで狂ったふりが出来るものなのか……? いや……いや、そうか。逆か……狂わないとバレるのか。自分の心すら欺き、人生の大半を信仰に当てて……こいつほど強い奴がそこまでしないと負ける相手か)



 未だ得体の知れない神のようなナニカ。

 シキだけでなく、他の者も薄ら寒いものを感じていた。



「さてっ! 質問は以上でしょうか? であれば邪魔立てしないでいただきたい。いずれ迎えに行きます。それまでどうか余暇を楽しんでいては?」



 パアァンッ! と手を叩くだけでシキ達を軽く浮かせたゼーアロットは満足気な顔で前を向いた。



 もう話すことはない。



 言外にそう言っているようだった。



「……みすみす『核』なんてヤバいもの求めてる奴を見過ごす訳にはいかんが、かといって手はなし……どうせ進行速度は遅い。お前らっ、一度日本に戻るぞっ」



 幾ら強化チューニングされたエアクラフトとはいえ、疲れくらいする。

 その疲労を回復させる為にもと浮上していると、その背中に乗っかっていた撫子がギュッと力を込めて抱き付いてきた。



「うぅ……怖かったでござるぅ……」

「ええいっ、引っ付くなっ、あっち行けっ」

「扱いが雑っ! もうちょっと優しくして!? 冷たいでござるよ!?」

「それは俺の役目じゃねぇっ、何だったらマナミと交代しやがれっ。お前の方が強ぇだろうがっ、ったく見た目だけはしっかり美人しやがって……あいつの方がマシだっ、離れろっ」



 衝撃的な話を聞いても尚、普段通りおちゃらけ始めたシキ達の後をライ達も追ってくる。



「仕方ない……仕方、ないんだ……せめて対策……対抗手段がなければ……くっ……!」

「戦いを止めさせたこと……目的……話し合いが通じない相手だってわかったのは収穫だけど……これじゃ何の為に飛ばしてきたのか……っ、ていうかユウ君、聞こえてるよ! マシってどういう意味なのかなっ? かなぁっ!?」



 ライは納得いかなそうに、マナミは歯痒そうに。



 ゼーアロットの飛行速度は船よりも遅い。

 速度を誤魔化しているにしても、日本付近に近付くまで、あるいは他の大陸に渡るまでかなりの猶予があり、スラスターを使っているのならライや撫子が感知出来る。



 一時撤退。



 それがシキ達全員が下した判断。



「連携しようが何しようがあのステータスの高さじゃあどうしようもねぇ……撫子、戻ったらああいうタイプの化け物への対処法教えろ」

「……いや、スキルしかないでござるよ?」

「お前はねぇ袖が振れるのか?」

「こ、こやつぅっ……!」



 下らないやり取りをしながらも、紫と金色に輝く魔粒子がジェット機の如く発生。瞬く間にゼーアロットを置き去りにした。

















 ◇ ◇ ◇



 そうして帰ってきた俺達だったが。



 出迎えは何と自衛隊やら警察やらの大所帯。

 銃に警棒に防弾シールド、etc……とフル武装した集団だけに飽き足らず、大量のパトカーに装甲車まで全員集合状態。海上保安庁とか特別機動隊……警備隊? とかも居るっぽい。



 本来、深夜帯というだけあって海沿いは真っ暗闇、街の方はブラック企業戦士達の命の輝きで綺麗に照らされている筈なのに。

 赤いランプやら投光器やらサイレンの音やら後ろから近付いてくるヘリの音やらで最悪の状況だった。



 ……うわ、よく見ると戦艦みたいな船も出動してやがる。最悪撃ち落とそうってか。……武装あるのか? 日本は戦争しない国だろ……



「何の冗談だこりゃあ」

「うーむ……電話? で事情が伝わったと見たでござるな」

「あー……先回りされた感じ? ……え、ライ君、捕捉されてたのに気付かなかったの?」

「いや……見られるのは気付いてたけど、待ち伏せされてるとは……」



 撫子はこちらの世界をあまり知らないが故に。ライはこちらの情報網やフットワークの軽さを舐めていたが故に。

 ほぼほぼ全方位を固められてしまった。ピンポイントで俺達が来る時間と場所を特定されていたらしい。



「やられたなぁ……」



 等と頭を掻きながら呟く。



 が、考えてみれば当たり前の話だ。

 他国の領土内で〝戦争〟やってきたんだから。いやまあ正確に言えば助けた側なんだが。やってたというより止めたんだが。



『お前達は完全に包囲した! 大人しく投降しろ!』



 拡声器を使っての呼び掛けが始まった。



 こちらには不殺を貫きたい勇者様と人死にを嫌がる『再生者』様がおられる。撫子も同様だろう。



 非常に嫌な流れだった。



「これじゃ疲労回復とか言ってられねぇ……どうすんだクソ勇者。殺していいか?」



 返答をわかっていながら、わざとそう言ってやる。

 遠回しに覚悟はあるぞ、ってな。



「い、良い訳ないだろっ……顔が割れてるんだ。俺達の家族だって危ないかもしれない。上手く説得出来れば協力もしてもらえるかも……」



 出たよ、まぁた始まっちまった。



 どうにかしてくれよこいつ……と撫子やマナミを見るが、二人もライに脱力しつつ、しかし、「他にどうしようもなくない?」みたいな目で見てくる。



 そりゃそうだが……だからって勇者モードに入ったこのウジウジ野郎の考えることなんて……



 と目で訴えていると。



「よしっ、投降しよう!」



 既に降下を始めていた。



 結局、ポジティブに捉えたらしい。



「……お前、あの性善説発作野郎のことマジで好きなのか? 神経疑うぞ?」

「……い、良いでござろうっ。根が優しいから人を疑うことを知らないんでござるよっ、貴殿と違ってなっ」

「へーへーそうですか……」



 撫子とそんな会話をしながら俺達も降下する。



「敵対する意思はありません! どうか武器を下ろしてください! 今投降します!」



 透明な盾を持った部隊にバッと囲まれる中、必死に手を上げてそう言っているライからエアクラフトを奪い、腰のマジックバッグに収納した。

 いきなり足元のものを乱暴に持ち上げられたせいで、「うわっ!?」と派手にずっこけたが、マナミはわかっていたようでひょいっとライから下りて回避している。



「な、何するんだよっ」

「貴重なエアクラフトを没収されちまうだろうが。武器や防具も寄越せ。《アイテムボックス》使えねぇんだろ?」



 周囲からは「う、動くな!」、「次余計な動きをしたら……!」と牽制されているものの、無視してライ以外全員の装備を収納する。



「お、俺は良いっ」



 とのこと。



「はぁ……ライ君ったら……」

「……こういう意固地なとこが可愛いんでござろう?」



 指摘する気力も湧かない。指差してほんわかしている撫子には「こういうのはガキってんだよ」とだけ言っておいた。



「ば、バカにしてっ……! 人を信じようとしなかった奴がっ!」

「はいブーメラン。ダブルでトマホークなブーメラン入りましたー」

「こいつっ! そういうとこだよっ、お前の方が子供じゃないか!」

「あーはいはいライ君ライ君? すんごい睨まれてるから止めて? ……ユウ君も刺激しないでよ、こうなったライ君は面倒臭いんだから……」

「え」

「ショックを受けた顔も可愛いでござるなぁ」



 ふざけながらも素直に投降した俺達に毒気を抜かれたのか、大の大人達はおっかなびっくりといった様子で手錠を取り出してきた。



 ……ん? 俺、片腕しかないんだが。手錠って両腕を拘束して抵抗出来ないようにする道具だよな? 何の意味が……あ、引きずる用? それとも形式的にか?



 一瞬混乱した。



「あっ……そ、その前に武器を渡してもらおうかっ、何処に隠しやがったっ」



 警察らしいおっちゃんが思い出したかのように手を出して寄越せと要求してくる。



 これ向こうもテンパってる可能性あるな。



「断る」


 

 ある意味当然の返答を返す。

 となれば、当然向こうも当たり前の反応を返してくる。



「お前っ、そんなことが言える立場だとっ……」



 手を出されそうになったので、徐に地面を蹴り抜いた。



 ブロックで形成された綺麗な道路に凄まじい音と共に穴が空き、その衝撃で何人かが膝をつく。



「ひぃっ……!? て、抵抗するのか!?」

「いや? このまま投降する。ただし手錠を付ける時以外触れるな、質問するな、黙って移送しろ。……殺すぞ」



 所詮、喧嘩や犯罪者の制圧程度しか経験のない烏合の衆。スキルが無くても殺気は出せる。



 ビシッ……ビシッ……! と何処からか音が鳴り、何だ何だと辺りを見渡せば付近の地面や持っている物にヒビが入っている。さぞや怖いだろう。

 連中は揃って女みたいな声を出していた。



「ゆ、ユウっ、抵抗するな! 何で怖がらせるような真似するんだっ」

「っ……先輩っ、こ、これっ、本物の剣っぽいっすよっ……重いっ……」



 俺とは正反対の対応……馬鹿真面目に聖剣を渡しているライと色々驚いている警察官。



 撫子とマナミは抵抗してないが、俺同様「触れるな」くらいは言ったのか、囲まれてこそいるものの、サッと不自然に避けられている。



「殺気による物理的な攻撃は健在なのか……あっちの世界に行くとあっちの身体になるのか? まあスキルにステータスなんてある世界だしな……」



 ブツブツ言いながら試しに殺気を一点集中させてみた。

 狙いはガタガタ震えながら俺に拳銃を向けている若い警察官。厳密に言うと、その拳銃だ。



「や、止めろっ、何されるかわからないんだっ……大人しくしてる内に拘束するんだよっ」

「銃を下ろせ! 刺激するな馬鹿野郎っ!」

「で、出来るかよ! こんな化け物みたいな奴等相手に!」



 所々で口喧嘩のようなものが勃発しており、()()危ない。

 俺が目を向けた若い奴は特にトリガーに掛かっている指まで震えていた。



「先に言っておく。これは牽制だ、攻撃じゃねぇ。この規模の軍隊程度、いつでも潰せるということを知れ」



 手錠を掛けられたと同時、そっと告げる。



 周囲の奴等は「は?」、「へ?」と間抜けな声を出していた。



「ま、そりゃわからんよな。だからこそ牽制させてもらう」



 俺は怯えに怯えまくってる大人達を鼻で笑いながら一際強い殺気を向け……拳銃を暴発させた。



「うわっ!? ひっ!? ひっ……いっ……ぎゃあああああっ!?」



 握っていた両手の指が弾け飛び、若い奴が尻餅をつく。



「トリガーを引かなきゃ暴発はしなかった。……言ったからな? 俺は他の奴ほど優しくないぞ?」



 覗き込むようにして睨んでやると。



「あ、あぁ……」

「ひっ……!?」



 茫然自失としている奴が半分、ビビりまくって拳銃向けてくる奴が半分って感じの反応が返ってきた。



 見ればライ達も手錠を掛けられ、別々の方向に向かって歩いている。



 車両を変えて分断するつもりらしい。



 それと、やっぱり俺の手錠は引きずる用&一応の拘束用らしく、輪の一つが俺の左手、もう一つはオッサン警察官がビクビクしながら付けていた。



「ったく……俺だってイキりたくねぇってのに……あんのクソ勇者……〝力〟をひけらかしてきた連中に〝力〟を見せなくてどうするってんだ……」



 ライの言った、家族だって危ないかもという言葉。

 日本だから危ないってのは少々違うように思えるが、向こうからすればこっちはジェット機無しに謎の物体で空は飛ぶわ、それで太平洋を渡ってきたわ、他の大陸で暴れていたやべぇ大男と知り合いらしいわ、何やら魔法っぽいものを飛ばすわと全く得体の知れない化け物。何をされるかわからないのは事実だ。



 この後、俺らがどういう扱いになるのか、何処に運ばれるのか予想が出来ない。



 留置所ってことはない……よな? 刑務所とかか? 法律なんて知らんし……てか化け物である俺らにも法律って適用されるのか?



 なんて思いつつ。



「おいオッサン。移送先がバラけていたら今見せた〝力〟で暴れる。……こんな風にな」



 パトカーの後部座席に座らせられた瞬間、そう言って窓ガラスを割ってやった。



 触れてもいないのに、パリンッと何かで殴られたように割れ飛び出した破片が地面へと落ち、再び悲鳴が上がる。



「ぜ、善処……しよう……」



 俺が声を掛けたのは俺を逃がさない為にと自身に手錠を掛け、隣に座ったオッサン警察官だ。どんなに偉かろうが現場に来ている時点で下っ端。そんな権限、ある訳がない。



 それなら……と、もう一声。



「善処か……ならば俺達も暴れないよう善処しよう。善処……便利な言葉だよな、ハハッ」



 直訳すると、



『何ナマ言ってんだ、あぁん?』



 オッサンは盛大に顔をひきつらせ、外や運転席の奴等も青白い顔でコクコクと頷いていた。



「ふーっ……」



 疲れがどっと来た。



 こっちの世界の銃……特に日本にあるようなものは威力が低いと聞いたことがある。第一、僅かでも殺気を向けられれば気付く。



 ……寝るか。



 少なくとも丸一日動きっぱなしだった。疲れる訳だ。



 さて……どうなることやら。



 俺は静かに目を閉じた。



 運転席の方から「ね、寝た……? 寝たのか……?」、「おい、黙って指示を待てっ。暴れられたら俺達が危ないんだぞっ」と小声の会話が聞こえる。



 本部や政府の方に指示を仰ぐか……



 薄れゆく意識の中、何となくそう思った。



 そして。



 数分が経つ頃にはその意識を完全に手放していた。


日本の対応、適当過ぎたかなとちょい反省。ガチでやべぇ連中が来たら自衛隊が真っ先に対応するんですかね? それとも海沿いだから海上保安庁?

無知が罪とはよく言ったものですな┐('~`;)┌

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