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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第1章 召喚編
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第22話 力

グロ注意。


「何度も言わせんじゃねぇよ。テメェらがどういう理由で勇者を押し付けようとしたのかなんてどうでも良いっつってんだよ。オレはユウを鍛える。それは決定事項だ。一生覆ることのねぇ事実だ。今更弟子を変えるなんざしねぇ」

「し、しかしっ」

「誰に物言ってやがる? そんなにオレを怒らせてぇのかっ、あ゛ぁ゛!?」


 ジル様がここまで怒っているのを見るのは初めてかもしれない。


 命の危機を感じる。


 そう思ってしまうくらい、今のジル様からは殺気が放たれていた。


 アカリを仲間にして数日が経った日のこと。


『ユウ、今日は面白いもんを見せてやる。この世の本質、理、真理……題するとしたらそうだな……〝力〟の使い方。特別授業ってやつだ。付いてこい』


 朝食後、いきなり首根っこを掴まれ、「えっ、何の状況っ!? つ、付いてくるとはっ!? あああっ、痛い痛いっ、無理やり引っ張んないでもらえますっ!? あぁっ、髪抜けた髪抜けたって!」と、じたばた抵抗しているうちに『面白いもん』があるという場所に到着した。


 玉座の間。


 この国の王様が居る場所。


 殴り込みレベルで護衛や止めに入ってきたグレンさんを蹴り飛ばし、重苦しい巨大な扉をもぶち破ったジル様は開口一番に言った。


『テメェ、最近調子こいてんな? 言ったろ、オレぁ指図されんのが一番癇に触るんだ』


 と。


 で、未だ嘗て見たことないほど豪華な服装にマントまで翻した、王冠を被った王様っぽいおっさんとの口論が始まった。


 マリー王女やヤツァクの爺さんも居る。


 ……久しぶりに見たなあの二人。


「困るのはこちらだっ! 言うに事欠いて『闇魔法の使い手』なんぞをっ……! 何としても勇者を鍛えてもらうっ! 大体っ、莫大な依頼料を払わせておいて言うことを聞かない傭兵がおるかっ!」

「クハッ、何度も同じことを言わせるってことはそいつが話を理解出来ねぇバカだってことだ。そうか、よっぽど死にてぇようだなクソガキ……!」


 ぶっちゃけ向こうの方が正論だと思う。


 多分、あれだ。


 国としては勇者に強くなってほしいのに、ジル様が出した条件である試練に打ち勝ったのがまさかの俺。


 信仰する宗教で言う神敵的な存在の『闇魔法の使い手』が弟子になってしまった。


 先ずその時点で許せないのに、文句を付け続けたらこうなったと。


 ジル様、帰ってからやたらカリカリしてんなぁとは思ってた。


 しかし、まさかこんなことになっていたとは……

 

「〝力〟がどういうものか、よーく見とけよユウ」


 言いながら、常に携帯している二刀の刀剣を抜剣。


 俺に対する声はいつも通りのもので、どちらかと言えば優しい声音だった。


 当たり前の話だが、剣を預けないで王族に会うことは重罪。下手したら死刑だ。しかも、あろうことか剣を抜き放てば当然……


「おのれおのれっ、謀ったな!? 『闇魔法の使い手』さえ居なければっ! やってしまえぃ!」


 と、王様も怒る訳で。


 次の瞬間、何処からか黒装束を着た人間が二十人ほど現れた。


 国の暗部。王の懐刀。


 暗殺者部隊だろう。


 彼等は無言で現れ、無言で俺目掛けて突撃してきた。


「う、うそんっ!? 俺っ!? 喧嘩売ったのこの人なのにっ!?」


 仕方なしに反撃しようと拳を構えた俺の前で血飛沫が舞う。


 一歩の踏み込みで十メートル以上の移動を可能にする《縮地》スキルやその他瞬間移動のように俺の近くまでやってきた黒装束達が尽く首を落っことしていく。


 悲鳴を上げることすらなく、ただ無言で近付き、無言でゴロゴロと。


「うわぁ……スプラッタぁ……てか人が死ぬとこ初めて見た……」


 なんて驚く俺の横で剣を見えない速度で振るジル様。


 速い。


 カカカカンッ! と近くで鳴った甲高い音に驚き、そちらの方を見れば投げナイフや針のようなものが落ちている。


 毒が塗られているのか、全部妙に濡れていた。


「殺意マシマシで笑えないんすけど……」

「黙ってろ。お前じゃ対処出来ねぇだろ」


 相変わらず焦り一つ感じられない顔と声だった。


 何なら俺の方に振り向き、見もせずに飛んでくる暗器を弾いている。


 実際、俺には見ることも感じることも出来ない。


 多少は強くなったと自負していたんだけどな……レベル五十って言ったら一つの国を率いるくらいの強さって聞いたし。


 驚くやら引くやら。


 そうこうしているうちに属性魔法の詠唱が聞こえてきた。


 黒装束達もこの場で向かわせられるだけあって本当に精鋭部隊らしい。


 しかし、それも束の間のこと。


「剣聖殿っ、いけませぬっ! 気をお鎮めくださいっ!」


 先程腹のど真ん中に良い蹴りを食らって壁にめり込んでいたグレンさんがこの広い空間に入ってきた。


 瞬間、ザンッ! ザンッ、ザァンッ! と身の毛がよだつような音が響く。


「こ、今度は何だよ……」


 思わず毒づきながら振り向くと、そこには黒装束達が後ろの壁ごと斬り裂かれて死んでいた。


 控えていた護衛の騎士や逃げようとしていた貴族、ヤツァク以外の重鎮達も巻き添えを食らって真っ二つになっている。


 視界全体が赤い。


 何処までも血塗られた光景。


 首が、腕が、胴体が、足が、内臓が、脳ミソが飛び散っている。


「うぷっ……」


 オーク以上に気持ちの悪い臭いが鼻につく。


 人間の油や血、臓物の臭いだ。


 物言わぬ人間の死体は完全に力が抜けていて、魔物のものよりも忌避感を覚える。


「ひっ、ひいぃぃっ!? 誰かっ、誰かおらんのかっ! このっ……この亡霊がっ! 何たる狼藉かっ! 他の竜人族共々滅んでおけば良かったものをっ!」


 唾飛ばしてヒスるくらいなら逃げれば良いものを。


 王様はその場で地団駄でも踏むように激怒していた。


 マリー王女はあまりの光景に気絶。ヤツァクの爺さんは腰が抜けたのか、座り込んでいる。


「だだだだっ、大丈夫なんすかジル様っ!? 死刑間違いなしですよこれ! 一族郎党火炙りの上に皆殺しですよこれ!?」

「大丈夫だ。そもそも一族なんざ居ねぇ」


 焦る俺とは対称的に、ジル様は変わらず平然としていた。


「グレンっ、何をしておる! 其奴を止めんか!」

「は、はい陛下! 剣聖殿っ、お願いつかまするっ! どうかっ、どうか剣をっ!」

 

 王座に居る王様と出入り口に居るグレンさんでは物理的にかなりの距離がある。


 だから間に合わなかった。


 剣を抜き、決死の表情でこちらに駆けてくるグレンさんをよそに、ジル様は剣を振り下ろす。


 今度は俺でも視認出来る速度。


 しかし、込められた力は段違い。


 再び空気を、壁を裂く音が木霊する。


「がっ……あっ……?」


 王様とその周りが大きく斬れていた。


 斜めに入った大きい線のようにも見える。


 ヤツァクも巻き込まれたらしい。


 王様の首が飛び、血の噴水が出来上がると同時、上半身がずるりと落ちた。


「閣下がっ……!」

「陛下が崩御なされたぞっ」

「国はどうなるのだっ!?」

 

 生き残った人間達がざわざわと騒ぎ出し、グレンさんは肩を落として近付いてくる。


 王族殺し。


 これが……『面白いもん』?


 何だよこれ。


 視界が歪んでくるような、現実とは思えない光景だった。


 王の死。


 その他、直近の部下もかなり死んだ。


 これではもう国がまともに機能しない。


 政府が落ちたも同然だ。


 ジル様はこの国をどうするつもりで……


 いや、()()()()()()()()のか?


「何てことを……何てことをしてくれたのですっ、貴女はっ……!」


 グレンさんが怒りとも悲しみともとれない複雑な顔で言ってるが、ジル様は「そこに姫さんが居るだろ。後はテメェらで支えてやんな」と返すだけ。


 剣を振って血を落とし、腰に納める。


 遅れてやってきたリンスさんやイケメン(笑)達の教官、その他騎士達もこの光景を見て呆然とし、やがて生存者や怪我人を保護し始めた。


 誰もジル様に剣を向けない。


 目の前で主を殺されたグレンさんですら憎々しげに睨むのみ。


 言ってしまえばジル様は大罪人。


 下手をすれば国一つが滅亡する事態だ。


 にも拘わらず、周囲はそれを成した人物を見て諦めたように事態の収拾に努めている。


 本来ならどんな手を使ってでも殺すべき存在なのに。


「不思議か?」


 ジル様が『何かあったか? ん?』みたいな軽いノリで訊いてきた。


「当然っ……だ、だって感情が追い付かないでしょ普通っ? 何で皆っ……」


 今更ながら、ジル様が怖いと思った。


 平気で人を殺せる神経。


 何とも思ってない精神も普通じゃない。


「何でってそりゃあ……オレが『最強』だからさ。お前、勝てない相手とわかっていて突っ込むのか?」


 そう言われて納得する。


 〝力〟の使い方ってのはそういうことか。


 だからってこんなっ……


 理性と感情が鬩ぎ合う。


 ジル様は象で……グレンさん達は蟻。


 それが絶対なんだ。


 それほどまでに『最強』だと、手を出してはいけない相手だと知られている。


 だから誰も動かない。


 敵わないと知っているから。


 これ以上怒らせたらもっと酷いことになるとわかっているから。


 だから……感情的になって動く人間すら出てこない。


 法ではなく、力。


 〝力〟が支配する世界。


 ジル様は強くなったその先とこの世界の真実を俺に見せた。


 何をしても文句くらいしか言えない絶対的な力。


 俺は茫然自失状態で膝を突き、嘔吐した。


 漠然と『俺もこうなりたい』と思っていた。


 だが、ジル様の態度は真逆。


 ここまでしておいてあっけらかんとしている。


 何故か。


 何度か似た経験があるんじゃなかろうか。


 今回だって喧嘩は売ったが、先に手出ししたのは向こう。こちらから剣を抜いて挑発したが、攻撃してきたのは向こうが先だ。


 対外的には『何か知らんけど、いきなり襲ってきたから反撃したら死んじゃった』ということになる。


 普通なら通らない弁も、言っているのが世界の覇者ならまかり通る。


 ジル様の特別授業の内容はこの世の理不尽について。


 多分……多分そうだ。


 強くなるってのはこういうことだと。


 これが出来るようになれば『最強』だと。


 俺にそれを教える為、あるいはただの気分で、あるいはイライラさせられたからという理由だけで、一つの国の傾かせた。


 怖い。


 いや、少し違うか。


 畏怖だ。


 あまりにスケールの大きい話過ぎて、純粋な恐怖よりも圧倒されてしまった。


 流石に王族殺しまでは興味ないが、ジル様の強さがあれば……理不尽には理不尽で返せるくらい強くなれば……。


 強く、強くそう思った。


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