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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第5章 魔国編
229/334

第208話 求めるもの

時間が……た、足りない……(´д`|||)


「ま、待ってくれ! 話をっ、話を聞いてくれ!」

「ユウ君っ!」



 後ろから聞こえてくる声に、おんぶしていた撫子が小さく溜め息をついた。



「……必死でござるなぁ」

「お前は他人事だと思って……」

「いやまあ所詮他人事でござるし」

「そりゃそうだが」



 俺達は現在、エアクラフトを使って海を渡っていた。



 目立つと騒ぐ二人を無視して装備を装着して撫子をおぶり、付近の高層マンションから飛び始めて久しい。



 何だかんだ二人も付いてきてるし、太平洋に出てから一時間は経っている。

 その間、延々戯れ言を溢しているのが気に障るが。



「誤解だ! 俺達はお前のことを悪く思っちゃいない! 信じてくれ!」

「もう少しゆっくりっ……は、話し合ってからでも!」



 少しイラッと来たので高度を下げて海を割り、その飛沫を当ててやる。



「「わぷっ!?」」

「自分達の都合でよく喋るっ! 自分(テメェ)らは結局、自分が可愛いんだろ! 何が信じてくれだっ、人を信じようともしなかった奴が!」



 時速六十キロ~八十キロは出ている。

 そこから生まれた水飛沫はさぞ痛いことだろう。



 撫子を背負っている俺同様、マナミをおぶっているライは途端に減速し、瞬く間に見えなくなった。



「気持ちはわかるが……貴殿も貴殿だと思うでござるよ? 彼等にも悪気はあるまい」

「悪意がなきゃあ何したって良いのか? そんなの、奴等の言う悪と変わらねぇだろ」

「ははっ、それは確かに。一本取られたでござる」



 撫子はカラカラと笑うと、そっと耳元に口を寄せてきた。



「それより……こうして密着して何か言うことはないんでござるか?」



 悪ふざけだということは直ぐにわかった。

 しかし、100%純粋にふざけている訳でもないのは声音から伝わってくる。



「マナミといい、お前といい……何でそう女を前に出すんだ」

「る、ルゥネ殿も出してたでござろうっ?」



 脱力混じりの返答に恥ずかしくなったのか、少し声を上擦らせて肩を叩いてきた。



「散々殺し合い、【以心伝心】で相互理解した後にな。戦闘中、いきなり胸出して防具取り始めた奴だ。見たきゃ見ろっつってな。女であって女じゃねぇよ、あいつは」

「そう言えばただのアピールで髪切ってたでござるな……うぅ……拙者にはそこまで女を捨てられぬ……」



 思わず振り向き、髪の先を指でくるくるしている撫子と目が合った。



 余計気恥ずかしくなったらしく、頬を赤らめながら睨んでくる。



「……な、何でござる?」

「いや、恋に恋するとか冗談かと思ってたからな」

「本気でござるよ! 色々複雑だけどっ、これでも拙者乙女なの!」



 ハッ、こん中でステータスも技術もずば抜けている奴が言えることかよ。



 そう言おうとして思い留まり、「そうかい」と返す。



「想うのは勝手だが……辛いぞ?」

「っ……そういうとこっ……何でライ殿は鈍くて……貴殿は鋭いんでござる……?」



 捜索している時に何があったのかは知らないが、こいつもこいつでライに惚れたらしい。



 「まあ、元々好みとは言ってたからなぁ」とも思う反面、「お前どの立場で、何て奴に惚れてんだよ……」と思わなくもない。



 お前聖軍裏切ってんだぞ。相手勇者だぞ。そもそもお前一族にも追われてんだぞ、と。



 とはいえ。



 世界を飛び越えるなんて一大事でも平常心を保っていられるのは美徳でもある。

 マナミはマナミで逆に現状を利用して俺と『対話』を試みてきた。あの戦場を生き永らえといて味方陣営のことは気にならないものなのか、疑問に感じてしまう。



「はぁ……とか何とか言っといてさっきの対応……んとに女って強いよな。過去を引きずる男が馬鹿な分、そうならざるを得ないんだろうけど」

「……な、何でござるかさっきから。拙者、これでも誰彼構わないタイプじゃないでござるよ……?」



 何を思ったのか、こてんと首を俺に預けて猫撫で声を出す撫子。



 総毛立った。



「メス味を出すな気色悪いっ」

「酷いでござるっ! これでも勇気を出してっ……」



 こいつらは……ライという男がありながら、何だってこうもほざく。



 あれか? 取り敢えず唾付けとこう的な……いや、何かあった時に同情を誘えるから?



 ……ダメだわからん。



 真面目に考えても、軽く考えても想像くらいしか湧かない。男脳と女脳の差だろうか? あんま関係ないとも聞くが……



「ったく……それは奴にぶつけるもんだろ。お可哀想な境遇を聞いてんだ、さぞ優しく慰めてくれるだろうさ。経験も豊富でいらっしゃる」

「き、貴殿は……もうっ、何でそういう物言いしか出来ないんでござるかっ?」



 迷惑だから、とは言えなかった。



 悪い奴じゃないのは知っている。寧ろこいつは善人の部類。

 それでも、()と似た思想を持っている。



 ライや白仮面野郎が頭お花畑のバカ共なら、マナミは中立寄りの理想家。撫子は現実寄りの理想家だ。



 下らない理想を掲げるだけならまだしも、「人類皆兄弟、仲良くしましょう」だなんて実現不可能な理想は妄想でしかない。下手に力があるから夢を見る。



 かも、たら、ればの話なんざ……



 しかも、その上でライの言い分は「話し合いをしようと頑張ったけど、そっちが歩んでこないから滅ぼすしかないよ、じゃなきゃ奴隷になろ?」と来たもんだ。



 結局、どこまで行っても上から。

 無自覚の悪意とか最悪だろ。協調しようがないんだから。あそこまで無意識に狂ってんなら修正も利かない。奴等にとって自分達の思想は正義だからな。



「今は兎に角向こうの世界に帰ること……それが最優先事項だ。色恋沙汰がやりたいなら後にしろ」

「……人なのだから人らしく……とはいかぬものなんでござるか……?」

「…………」

「ぐぅっ……!?」



 何とも煮え切らない返答に加速で答えた俺はバレないように溜め息をついた。











 ◇ ◇ ◇



 某国、海沿いにて。



 シキ達が到着した頃には辺り一面が火の海だった。



 数十、数百キロと離れた位置からも煙が上がっているのは確認出来た。

 しかし、近付けば近付くほどその悲惨な状況が目に入ってくる。



 真っ先に目を引いたのは日本のものとはまた違っただろうビル群。

 海の上からでも何棟か崩れていく光景が確認出来、既に残骸と化しているものも少なくない。



 街は燃え、道路は砕け、逃げ延びた人々が砂浜まで押し寄せている。



 街中は炎と黒煙、埃が舞い上がっていた。



 同時に、サイレンや銃声、砲撃音等、異常事態を知らせる音も鳴り響いている。



「……酷い有り様だな」

「な、何てことをっ……」



 左腕で熱から顔を庇うようにしてシキが言い、撫子は絶望したような顔で呟いた。



 燃え盛る街並みが見えてきた時点で、シキは上空へと上がっていた。



 人が豆粒に見えるほどの高度。

 それでも業火を思わせる火は熱気を届かせ、荒れ狂う風と合わせて爆発が起きる度にエアクラフトや身体を揺らしてくる。



 不幸中の幸いと言うべきか、火の手は海の方まで届いておらず、シキ達から見て全体の六割ほどが燃えているような状況だった。

 また、戦闘の余波で広がったものらしく、何時間続いているのかは判断がつかないものの、燃え広がる速度はそれほどでもないように見えた。



「野郎っ……どこに居やがる……!」

「っ、音のする方っ、あ、あっちでござる!」



 見えている訳ではないらしいものの、撫子が身を乗り出して指差した方向からは銃声が聞こえてくる。

 シキは蹴るようにしてエアクラフトを傾けると、魔粒子を大量放出させて飛び出した。



 ちょうどその時、ライ達も到着したようだった。



 街の惨状に絶句した後、真っ直ぐシキを追ってくる。



「っ……ゆ、ユウっ! これはっ……!?」

「見ろ! お前達が悠長なことを言っている間にこれだ! 何を言ってもわからない奴ってのは居るんだよっ! 馬鹿共が!」



 一際大きく上がった火の上を滑るようにして通り、爆発で飛んできた破片はエアクラフトをくるりと回転させて回避。

 ライも減速することなく続き、マナミと共に声を掛けてきた。



「ゼーアロットさんがやったって言うのか!? な、何で……!」

「居場所はわかるのユウ君!?」

「知るか! その頭は飾りかっ、それとも脳ミソ詰まってねぇのか!? ちったぁ自分で考えやがれっ!」



 あまりにヌルい反応の二人に苛立ちを抑え切れず、所構わず怒鳴り散らしながら突き進む。



 火と火、黒煙と土埃の間に時折、消防車や救急車らしき車が見えるが完全に焼け石に水。火の手や瓦礫といった障害が大きすぎて何の意味もない。



 燃え苦しみながら地面で悶える者、水を求めて必死に走る者、瓦礫に潰された者、車で建物に突っ込んだ者、車に跳ねられる者、他者を押し倒してでも逃げ惑う者、号泣している迷子……etc。



 街の中は地獄絵図そのものだった。



「っ、マナミ!」

「わかってるっ!」



 何やらやる気を出していたライ達に、シキもドリフト気味に制止を掛けながら叫ぶ。



「よせっ、無駄だ! 被害を広げないことにっ……ゼーアロットを止めることに専念しろ!」

「なっ……す、救える人達が居るんだぞ!? 見捨てられるか!」

「私達の力なら大勢助かるんだよ!」

「数が足りてないのが見てわからないのか!? お前ら二人っ、俺達で四人っ……どう頑張ったところで救える命には限りがあるっ! どうせ街中に残ってる奴等は助からん!」



 何も言わない時点で、撫子も同様の判断なのだろう。苦虫を噛み潰したような顔をしているが、シキと同じようにゼーアロットの凶行を止めることが最善と割り切っている。



 しかし、目先のことに囚われやすいライ達はそうもいかない。



「けどっ……だ、だからって……!」

「そうだよっ、人がっ……このままじゃ人がいっぱい死んじゃう! 少しでも助けないと!」

「ちぃっ、甘ちゃんカップルはっ……また繰り返すのかっ! 燃え苦しむ奴等を再生の力で死なせず、勇者の力で一人二人ずつ助けて回るとっ! それじゃ命は助かっても心が死んじまうっ! 助かる奴も間に合わなくなる! ならいっそ見殺しにしろ! 何でわからないんだっ!?」



 死にたくとも死ねない状況を体験したが故の意見。

 善性を持つ人間にとって、命とはそう簡単に切り捨てられるものではない。



 少なくとも、ライとマナミの顔には迷いが出ていた。



 いや、揺れていると言った方が正しいか。



 大局的に見ればシキの考えが正しいと理性は理解しているが感情がそうさせない。



 人の命を重く捉える二人だからこそ割り切れない。



「言ったろ! あの時、俺は楽になりたかった! また俺と同じような奴を増やすつもりかっ! 選べっ、小を殺して大を生かすか! 大を殺して小を生かすか! 聖軍のやり方を容認しておきながらっ、あの世界の狂った『正義』を執行しながらっ、自分(テメェ)メサイア()コンプレックス()がそんなに大事かぁッ!!」



 シキは透けてくる二人の心情を理解しながらもそう叫び、再びエアクラフトに自爆させんばかりの魔粒子を送る。



 黒いボードは一瞬の間を作った後、爆発的な加速を生み出して乗り手の意思に答えた。



 残された二人は暫くの間逡巡すると、今度こそ置いていかれまいと急加速を掛けるのだった。













 ◇ ◇ ◇



『――!』

『っ! ~~っ!?』

『――!!』



 メインストリート。

 怒号と銃弾、砲弾が飛び交う中、ゼーアロットは居た。



 全身に隈無く降ってくる弾丸の雨に「か、痒い……!」等と呟きながら顎に手を当てている。



「参りましたねぇ……ここまで大事にするつもりはなかったのですが……この騒ぎ様、アレは余程恐ろしい兵器なのでしょうか? 保管していた場所でも大騒ぎされましたし……ワタクシには加工された金属程度にしか見えませんでしたがねぇ……?」



 警察を飛び越え、軍隊が出動する事態。



 互いの言語が通じない為、意志疎通が出来ず、ゼーアロットも困っている様子だった。



「まあ今まで会ってきた転生者の誰もが口を揃えて名を挙げる兵器です。見た目はパッとしなくても、さぞ威力のあるものなのでしょう。探すのに時間も掛かりましたし……まさか反対の大陸に行ってしまうとは……私も抜けているものです」



 街の被害などお構い無しに撃ってくる軍隊をステータス任せの適当な薙ぎ払いで生み出した突風で吹き飛ばし、「さて……」と辺りを見渡す。



「結構移動してきましたね。海まではもう少し…………おや?」



 うんうん頷き、何かを視界に認めた直後。



 ザァンッ! と空気を裂く音と共に何かが飛来してきた。



「おほっ!?」



 『風』の斬撃。



 透明なそれはゼーアロットの顔面に当たって弾けた。



 その衝撃で僅かに顔を反らせたゼーアロットは目をぱちくりさせると、ゆっくりと上を見上げ、笑顔を浮かべる。

 傷はない。それどころか攻撃してきた存在との再会を喜んでいるくらいだった。



「き、傷一つっ……」

「……やはり有効なのは拙者かライ殿の固有スキルのみのようでござるな」



 空からの襲撃者、シキと撫子が苦虫を噛み潰したような顔で呟く。

 背後にはライ達もおり、シキの爪斬撃をまともに受けてピンピンしているゼーアロットの姿に言葉を失っていた。



「これはこれは皆さんっ、ごきげんよう!」



 笑顔で言いながら両手を広げ、衝撃波を飛ばす。

 周囲は一瞬で更地と化し、体勢を整え始めていた軍隊は再び吹き飛ばされた。



「っ……ぜ、ゼーアロットさんっ、何でこんなことをするんです! 一体何が目的でっ……!」

「聞いてどうすんだこのバカは……」



 聞かずにはいられないライと脱力しかけるシキ。

 対してゼーアロットはあっけらかんとした態度と答えた。



「ああいえ、少し欲しいものがありましてねぇ……。『核爆弾』というのですが………………フフフっ、ご存じのようですね! ()()()でした!」



 その単語を聞いた瞬間、撫子以外の全員の顔色が変わった。



 否。



「ッ……!!」

「わっ!? ちょっ、シキ殿っ!?」



 シキは撫子を投げ捨てて突撃し、ライは属性魔法で先制攻撃を行った。



「おやっ!? それほど危険なものですかっ?」



 迫る火球と真空の刃を蝿でも払うようにして弾き、刀剣片手に突っ込んできたシキを片手で受け止める。



「っ、相変わらずっ……!」



 いとも簡単に刀身を握られて止められ、そのあまりの握力と自身の出した勢いに手首を持っていかれ掛けた為、獲物を手放し、エアクラフトのロックを外して回し蹴り。ステータス、装備、速度、全て今のシキに出せる最大のもの。



 手のひらから血を一滴すら垂らさず、シキの蹴りが直撃した顔面からはドゴォッと、おおよそ人間同士のぶつかり合いとは思えない音が響いた。



「おぉっ?」



 先程の斬撃よりは顔が持ち上がっただろうか。



 その程度で()()()()()

 瞬き一つしていない。



「なっ……!? テキオのステータスでも効くぞっ、今のはっ!」

「痛いですっ、よ!」

「ぐぅっ!?」



 殺意のない適当な左拳を手甲で防いだシキが苦痛の声と共に吹き飛んでいく。



 そんなシキを飛び越えるようにして出てくるのはライ。



 手に聖剣を持ち、縦一直線に振り下ろす。



 しかし、それすらも人差し指と中指で受け止められ、にっこりとした笑顔を向けられた。



「んふふふっ! どうしました救世主ライっ! 貴方様までっ?」

「『核』と言ったか! 何処へやった!?」



 シキとは違い、ライは聖剣を放さないまま魔法を行使。火球や蹴りなどとは訳が違う電撃がゼーアロットを襲った。



「お゛お゛お゛お゛ぉ゛っ゛! し、痺れ、ま、すぅっ……!」



 ライを挟むような形で顕現した稲妻はバチバチと放電しながら、間違いなくゼーアロットを貫いた。

 にも拘わらず、感心するような声を出すのみ。



「くっ……このっ!」



 聖剣を引こうにも、やはり微動だにしない。



 ならばと駆けてきた撫子もスキル有りの神速抜刀術とは雲泥の差ほどもある踏み込みで近寄り、抜刀。



「ライ殿っ!」

「ああっ!」



 【紫電一閃】と【一刀両断】。



 魔法による電撃が効かないのなら、と雷そのものとなったライが手を伸ばし、より痺れさせた隙に撫子が斬るつもりらしい。



 唯一の対抗手段である二段攻撃は果たして……



 ただの拍手で止められた。



「ふふっ、させませんとも!」



 そんな声と同時、刀剣と聖剣を捨てたゼーアロットの両手が消える。



 遅れてズパァンっ!! と凄まじい衝撃波が発生し、電気状のライは消え失せ、撫子は空中へと追いやられた。



「そして貴女様はっ……死んで良いっ!!」



 そう言って撫子目掛けて振り下ろされた神速の手刀は当然のように空を切った。



「むむぅ……?」



 怪訝な顔で撫子を連れ去ったシキを見つめる。

 正確にはその足元……エアクラフトを。



「ああああ、あぶ、危っ、危なかったぁ……助かったでござるよシキ殿ぉっ……」

「強すぎるっ……それに『核』だと……!? そんな危険なものっ、何に使うつもりだっ」



 割りと乱暴に抱えられた撫子だったが、ガタガタと震えながらシキに抱き付き、冷や汗まみれのシキは苛立った様子で悪態をついていた。



「……ワタクシの知ってるものより速いですねぇそれ」

「くっ……し、質問に答えてくれゼーアロットさん!」

「向こうで言えば街一つっ、国一つ消滅するものなんですよ!?」



 ゼーアロット、ライ、マナミ。

 三者三様、興味深そうに目を細め、細かく放電した状態から戻り、軍人や兵器、街を『再生』させながら言う。



 核という単語の意味を知らない撫子は他三人……特にシキの焦りとマナミの言葉に目を剥いて驚き、ゼーアロットを睨んだ。



「「「「「…………」」」」」



 揃いも揃って動向を窺い、睨み合う五人。



 それを邪魔したのはゼーアロットを襲っていた軍人達だった。



『な、何なんだこいつらはっ!? アニメの世界じゃないんだぞ!』

『エイリアン同士の抗争に巻き込まれたってか!』

『本部に応援はっ!?』

『とっくの昔に呼んでるっ、カップラーメンが幾つ食えたかわかったもんじゃねぇよ!』



 他にも怒号は飛んでいたが、シキ達が聞き取れたのは何人かのもの。



「…………あ?」



 一瞬無視して攻撃しようとしたシキは、遅れて全く別の言語を聞き取れたことに気が付き、首を傾げた。



「スキルは働かねぇ筈じゃ……? 現に携帯やパソコンで見た時は全く……」

「……いや、それだけじゃない。よく考えれば俺達が戦えてるのも変だ」

「翻訳と心得系のスキルが……部分的に使えてる……?」



 ライとマナミが続き、そう言えばと撫子も意識を逸らす。



 やはりと言うべきか、ゼーアロットにはシキ達を殺すつもりがないらしい。



 混乱する三人に手を出すことなく、「ふぅ……」と溜め息をつくととある提案をしてきた。



「もう止めに致しませんか? 貴方様方にワタクシは止められない。そしてワタクシにはこちらでやらねばならぬこと……貴方様方を向こうの世界に送る義務、帰らねばならない理由がある。……良いではありませんか。心身共にお疲れだったのでしょう?」



 要するに、



 放っておけ、時が来れば迎えに来る。それまで好きに過ごしていろ。



 そう言っているのだ。



「どいつもこいつも自分(テメェ)の都合ばかりっ! それじゃ困るから来てんだろうが!」

「ゼーアロットさん……こんな惨状を作り出しておいて俺が許すと思っているんですか!」

「ましてやっ、『核』だなんて! あれは牽制に使うものなんですっ! こっちの世界も軍隊一つの出動で済む訳がっ……!」



 互いに多くの疑念や疑問、目的がある。



 互いを殺すことも出来なければ周囲に居た兵達もこちらを囲うように動き始めている。



 自分は兎も角シキ達は少し危ないかも、と考えたのか、ゼーアロットは少しの間思案した後、「……よろしい。場所を変えて話し合いましょう」と言った。



「話し合いだと!? 今更っ……!」

「これだけ人を殺しっ、物を壊しておいて!」

「ふ、二人共堪えてっ! どの道倒せないし、殺せない相手だよっ、乗った方が誰にとっても最善でしょっ!?」

「しかしなマナミ殿っ、話し合うと一口に言っても……い、一体何を話すんでござるかっ」



 激昂するシキとライをマナミが抑え、撫子の疑問にはゼーアロットが答えた。



「貴方様方の質問に全てお答えしましょう。ワタクシにとって貴方様方は敵ではありません。無闇に傷付けたくありませんし、こうして彼等に時間を与えるのも得策とは言い難い。被害をこれ以上広げたくないのでしょう?」



 どの口が……。



 誰もがそう思い、口をつぐむ。

 ガチャガチャと夥しい量の銃火器が向けられていた。



『貴様らは既に包囲した! 無駄な抵抗はするな! 投降しろ!』



 先程の無駄口に近い怒号は消え失せ、過酷な訓練に耐えた兵士が見せる顔で銃を構えている。

 ゼーアロットだけではなく、シキ達にまで。



 ライと撫子ならまだしも、シキとマナミは少々不味い状況だった。



 全身かすり傷まみれになることが予想出来るシキに比べ、マナミは特にステータスが低い。

 頭を撃ち抜かれても即死することはないだろうが、怪我くらいは免れない。万が一、目等に直撃すれば普通に失明ものだろう。



 故に、シキ達は互いに目配せし、仕方ないと新たに取り出していた獲物を下げた。



「……来い。ただし、少しでも変な動きしやがったら攻撃する。せめて俺だけでも帰してもらわないとな」

「周囲の安全が確保出来るなら、また止めます。良いですね?」



 シキは異世界への帰還、ライは凶行の防止、マナミは話し合いでの解決、撫子は身の安全、ゼーアロットは『核』の奪取。



 その他諸々の事情や互いの思惑があり、何とも奇妙な話ではあるが。



 ゼーアロットとシキ達による『対話』はこうして始まった。



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