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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第5章 魔国編
222/334

第201話 聖神教の最強

微グロ注意。



話が進まないんじゃあっ(ノ`Д´)ノ彡┻━┻!


 連合艦隊とその降下部隊、帝国の小規模艦隊とその降下部隊がぶつかる中、縦横無尽に空を駆け、手から、あるいは空中に置くようにして作り出した雷球から稲妻を走らせる者が一人。



 バチバチとスパークしているそれらは属性魔法ではなく固有スキルで創造されたもの。

 本物同様の速度、しかし、本物以上の威力で、次々に飛来しては周囲を浮いていた聖騎士や銀スカートを正確に狙い落としている。



 そんな彼女、メイに追従しているのはかつてアリスと戦い、ヘルトに長距離射撃で敗れた中二病男。

 相変わらず黒コートに黒シャツ、黒いカーゴパンツと全身黒ずくめスタイルを貫いており、使いもしない十字架型の大剣を背負いながら、エアクラフトとスラスターで近付いてきた敵を自慢の二丁拳銃で撃ち抜いていた。



 対する聖騎士達は上空で全身甲冑という、風の抵抗や重量を全く考えていない、スピード低下、魔力消費量UP待った無しの装備であり、アーティファクト兼ルゥネお手製の二丁拳銃とその弾丸はいとも容易くその重苦しい兜や鎧を貫く。

 逆に装甲の厚い銀スカートなどは銃では倒せないらしく、時折固有スキル【光輝燦然】で太(ピー)拳の如く光って牽制してはシキと同じマント型のマジックバッグからグレネードランチャーを取り出して迎撃していた。



「ああもうっ、ピカピカピカピカ眩しいっ! それ止めてくれる!?」



 我慢出来なかったようにメイが叫び、一際大きな稲妻が雷鳴と共に飛んでいく。



「しょうがない、さっ! これが僕の力なんだから、さ! それと君には言われたくない、な!」



 ピカッして振り向き、追ってきていた聖騎士にドパンドパン。ピカっしてメイの前に降下してきた聖騎士をドパンドパン。ピカっして弾倉を補充。



 横を通った稲妻には見向きもせず、その結果銀スカートが一機墜落していく光景にも触れず。



 メイが元帝国所属ということもあり、ある種の連携プレイは二人にとってお手のものだった。



 稲妻が走る際の光は似ているじゃないか、という指摘も自分で放っている分タイミングがわかるので目にダメージはないらしい。



「全くっ、敵なんだか味方なんだかっ……!」

「それもこちらのセリフだよ!」



 バッタバッタと斬って殴って蹴って薙ぎ倒しているのがテキオなら、ド派手に撃墜を連ねているのはメイ。

 他は補助や守備に過ぎない。とはいえ、中二病男も目立たないだけでアリス以上に聖騎士を倒している。被害が出ているのも傭兵や巡洋艦の装甲程度。彼等の役割はテキオやシキが戦う時間を稼ぎ、巡洋艦とディルフィンの撤退を援護、防衛すること。経過は順調と言えた。



 白髪の大男が現れるまでは。



 重度の信者特有の白い髪。二メートルを優に越える身長。溢れんばかりの筋肉を修道服で包み、風で煽られても尚、その力強さを見せ付けている肉体。口元には張り付けたような不気味な笑み。



 大男はブーツとスラスターで浮いていた。

 飛んでいる、とは明らかに違う。フラフラと浮くだけ。恐らくスラスターの操作に慣れていないのだろう。時折、大きくコントロールを失って妙な方向に飛んでいる。



 幸か不幸か、その空域に居た者達はその存在に気付かなかった。

 周囲は砲撃音や電撃音のオンパレード、気配も()()。メイや転生者達は無双こそしていても戦闘経験が足りていないせいで、目の前の敵に手一杯。



 大男もまたスラスターの制御に失敗し、「お? おおっ……!?」等と妙な悲鳴を上げてアリス達の空域へと飛んでいった。



 







 ◇ ◇ ◇



 最初に気付いたのはアリス。



 メイや中二病男の戦闘空域から微妙に離れた位置で、銀スカートに飛び乗り、装甲を刻んでいた彼女はビクッと肩を震わせて大男……ゼーアロットの方に向いた。



「……な~んかやべぇのが来たな。気配が全くしやがらねぇだと……? プリム! 来いっ!」

「は、はい!」



 付近の巡洋艦で、いつでもアリスを拾えるようにと待機していたプリムを呼び寄せ、乗り移ると同時に耳打ちする。



「て、撤退ですか!?」

「あくまでアイツから離れるだけだ。無線利かないんだよな? 近くの巡洋艦全体に徹底するよう伝令頼む。俺もその護衛に付く」

「了解、しました……!」



 今回の戦争はシキが司令塔兼斬り込み隊長なら、アリスと撫子は感知や補助が主な仕事。

 その為、二人には緊急時のみ最高位の命令権や独自の行動権を与えられている。



 そのアリスが真顔でそう言い、自分も退くという。



 プリムは恐る恐る大男を見て、サッと顔を青ざめさせた。



「っ!? あの容姿っ、ゼーアロット司教!? な、何でこんな戦場にっ……」

「お前らも退け! あいつは俺やテキオ以上だ! 絶対に近付くなよっ! 良いなっ、全部隊に徹底させろよっ!? ……知ってるのか?」



 拡声系のスキルでエアクラフト隊を退かせつつ、ガタガタ震え出したプリムの肩を掴む。



「何だって!? 退け!? ここでか!」

「はっ、あんなフラフラしてる奴相手に逃げろってか! ふざけやがって!」

「おいっ、退けっつったろ! ちぃっ! 帝国のバカ共が! 『砂漠の海賊団』はわかるな!? 俺がヤバいっつってる意味を! 今すぐ退けッ! 巡洋艦も退かせるんだ!」

「わ、わかった!」

「そんなにか! お前はそっち頼む! 俺達は左に!」

「了解した!」



 帝国の兵が指示を無視して突撃してしまい、アリスは舌打ちしながら指示。付き合いのある仲間達は素直に散開してくれた。



「う、噂だけです。私は辺境の教会に所属していただけなので、あまり詳しくはないですが……軍に序列があることはご存知ですよね? 聖騎士の方々は序列争いをし、目まぐるしく位が代わっている……そんな中、少し前からとある噂があったのです。軍ではなく、教会の組織側に聖神教の『最強』が所属している、表向きの序列はその『最強』を隠す為、と」



 プリムが知っているのはその程度だった。

 『最強』と聞いて振り向いてみれば、突撃した帝国兵が尽く肉片となって降っている。



 思わずプリムの顔と耳を鷲掴みにし、そちらを見聞きしないようにさせつつ、注視する。



 殺られたのは前衛職の者達らしかった。



 飛行すらまともに出来ないなら、と銃火器を使わずに近付いた者が死んだ。

 他の者は悲鳴を上げたり、顔を引きつらせて退避し、銃を向けている。



 死亡者の中に、帝国で有名な冒険者や傭兵が居るのを見て自身の勘は正しかったのだと安堵した。



「珍しくビンビン来たもんな……ありゃあやべぇ。少なく見積もっても剣聖やムクロちゃん並み……何だってこの世界には『最強』が何人も居やがるんだ? 帝国の前『最強』はルゥネちゃんが殺しちまったせいで、ステータスだけの奴が『最強』になってるし……」



 幸い、飛行はやはり苦手なようで、少しして蜂の巣にされ始めたが特に反撃はない。



 精々が強力な聴力を持つ自慢のケモ耳が「おや? おやおや? これは……か、痒い……ですねぇ……」という呟きを拾っている程度。



 と、思いきや、次の瞬間、ゼーアロットの姿が消え、半狂乱になって支給された銃を乱射していた女傭兵が下半身だけとなって落ちていった。



「っ、『空歩』持ち……空中戦に慣れてない奴に経験積ませてどうすんだよ、あのバカ共は……! プリムっ、悪いが全速力で頼むっ、奴等はダメだ! ろくに時間稼ぎすら出来――」



 そこまで言ったところで、アリスの背中に何かが直撃し、苦悶の声が漏れる。



「――い゛っ゛ぎぃっ!?」

「きゃあっ!?」



 飛んできたのは女傭兵の生首。

 飛来自体は直前で感知していた為、〝気〟で防御はした。しかし、その衝撃でプリムのエアクラフトが押され、体勢を崩してしまった。



()()()()の獣がいらっしゃるようで。申し訳ありませんが、こちらに来ていただけないでしょうか? ワタクシ、こういったものに慣れてないもので……」



 ゼーアロットの変わらない笑みが、先程の呟きとまるで声音の変わらない声が届く。



「っ……」



 ゾクリ。



 〝死〟の予感がアリスの全身を駆け巡った。



 毛という毛が逆立ち、悪寒と震え、鳥肌が同時に襲ってくる感覚。



 アリスの経験上、同じものを感じた相手はジルとムクロのみ。他は僅かに感じた程度だ。災害レベルと指定されている魔物相手でも〝死〟の予感は無かった。



「くっ……! 下手したらあの二人よりっ……!? プリム! 急げ! 殺られるっ!」

「うぅっ……は、はい、今立て直しますっ!」



 《空歩》で補助することで程なくして体勢を戻し、《縮地》も併用して巡洋艦に移動。ブリッジに張り付いて撤退を指示する。



「ふーむ……?」



 船体が即座に進路を変え、その空域から離脱を開始。



 アリスはゼーアロットの独り言を聞いていた。



「…………まあ……良いでしょう。退いてくれるようですし。さて、次は……あの派手な方々の元に行きますか……」



 冷や汗やら何やらでびちょびちょになった身体を拭きつつ、エアクラフト隊、その他迎撃に回っていたゴーレムを撤退させる。

 幾つもの魔粒子の光が尾となって続々と集まり……あるいは散開して離れていく。



 しかし、帝国兵だけは退くこともせず、冒険者、傭兵、正規兵問わず笑って群がっている。

 様子としては巡洋艦を囲っていた銀スカートと同じ構図。ゼーアロットの周囲をぐるぐると囲い、各々銃火器を向けていた。



「ははは! マジもんの化け物だなぁ!」

「ってことはこいつを殺りゃあっ!」

「立身出世間違い無しっ! 野郎共っ、行くぞぉっ!」



 思わず、「手ぇ出して良い相手がどうかもわかんねぇのかっ、蛮族にも程があるだろ帝国人っ……」といった悪態をつくアリスをよそに、メイ達の戦闘空域まで戻っていこうとしていたゼーアロットに帝国兵の一人がグレネードランチャーを放った。



「へへっ、お先ぃっ!」



 ヒュ~っ……! と少々間抜けな音を出して迫った弾は素手で弾かれ、爆発。

 荒れ狂う風によって爆煙は程なくして消え、ゼーアロットの姿が露になった。



 全くの無傷。精々が服が片腕分、焼け飛んだ程度。

 微塵も不気味な笑みを崩さず、「おおっ、今のは少し痛かったですねぇ!」と、寧ろ感心したかのような声を上げている。



 そこまでして漸く帝国兵達の顔に焦りのようなものが現れた。



「う、嘘だろっ!?」

「船一隻沈められる威力だぞっ……!?」

「散れっ、距離さえ取れば!」

「いけませんねぇっ、ワタクシだから痛いで済みましたが、少々いただけないっ、よろしくないっ! 仕方ありませんっ、主の御許まで導いて差し上げましょうっ!」



 事態を重く見るや否や、直ぐに離れた帝国兵達にゼーアロットが叫ぶ。

 瞬間、再び血と肉の雨が飛び散った。



「神よっ! お許しくださいっ! 彼等はただ愚かなだけなのですっ! 主の存在を感じず、ただただ暴れるだけの獣っ! 魔物と何ら変わらない醜い姿っ! せめてこのワタクシがっ、主の御許へッ!! この『絶望』のゼーアロット! 貴方方を逝かせてもらいますっ!」



 移動系のスキルで迫っては殴打し、一人を確実に殺害する。

 アリスの目を以て漸く、殴り殺しているのが確認出来る速度。殴られた人間は爆散したように頭部や上半身が消し飛んで肉塊と化していた。



「ああっ、ワタクシは悲しいッ! 悲しいいいぃっ!! これぞ絶望っ! これぞ虚無っ! おおっ、おおおっ! おおおおおぉぉーーっ!」



 ゼーアロットは泣いていた。



 筋骨隆々の巨漢が大粒の涙を流しながら、幾人もの人間を木っ端微塵にし、血の霧にしていくその姿はまさに狂気。本人の言葉を借りるなら絶望の惨状だった。



 あまりに凄惨かつグロテスクな光景に、味方である銀スカート達ですらその場で停止し、静観を決めている。



「き、狂信者か……やべぇし、近寄れねぇし、伝えられねぇし……と、取り敢えず、俺らは引き上げだ! 今の内に退くぞお前らっ!」



 死にゆく帝国兵達の悲鳴とゼーアロットの嗚咽混じりの慟哭にケモ耳をピタッと畳んだアリスはブリッジをゴンゴン殴って「急げって! 早く早く! 死ぬぞっ!?」と撤退していった。










 ◇ ◇ ◇



「高度下げぇ! 艦隊はいいからアンダーゴーレムを撃ち落とすっ! 近付き過ぎないっ、的になりたいの!? バーシス部隊にもそっちを狙うよう徹底させて!」



 改造巡洋艦ディルフィン。

 そのブリッジで、セシリアの怒鳴り声が響く。



「む、無線が利かないんだよ!」

「なら拡声器を使いなさいっ! もうっ、観測班はまだ探してるの!? 他の艦は撤退し始めてるっていうのにっ! 何で最速離脱予定の私達がまだ居るのよっ!」



 少し考えればわかるでしょうがっ、と、苛立った様子で艦長席の肘当てを叩き、船員達も気まずげな顔で返す。



「つ、つってもだぜ姉御……」

「そうだよ、見つからないんだからしょうがないじゃん?」

「こんな戦場なんだ、無線も繋がらねぇし、諦めて別のとこに逃げたんじゃねぇの?」



 セシリアのこめかみに青筋が浮かび、船員達は「やべっ」という顔になった。



「馬鹿おっしゃい!! 坊やが立てた作戦を撫子ちゃんが無駄にするって言うの!? 坊やは頑張ってるわ! 私達は私達の仕事をしなきゃっ!」



 そう言われて、ブリッジに居た全員の脳裏を過ったのはつい先程まで行われていたシキと勇者の戦い。



 望遠モニターで各方面を見ていたが、それでも目で追えなかった。

 気付いた時には右へ、気付いた時には左へ、完全に見失ったと思えば上で戦っていた。肉眼でも古代の技術を以てしても追えない超高速の戦闘。



 常人が一生を費やしても辿り着けない領域に圧倒されたのはセシリアとて同じ。

 大した援護も出来ず、またシキ一人に重荷を背負わせていることに歯痒い思いをしていた。シキの隣に居たい、癒してあげたいと思っている彼女だからこそ。そしてその思いは『砂漠の海賊団』の誰もが持っているもの。



「坊やの片腕分くらいの仕事もしないで『砂漠の海賊団』が聞いて呆れるっ! ほらっ、わかったら自分の役目を全うしなさい!」

「お、おうっ! そうだっ、そうだよな! せめて手伝いだけでもしなきゃ砂漠の男じゃねぇ!」

「バカ! 恩返しすら出来ないなんて女でも人でもないよそんなの!」

「あいつもアリスも頑張ってんだ! 俺らが腑抜けてどうするってんだ!」

「観測オペは情報ちょうだいっ、あたいら達も手伝うから!」

「っ、助かるっ、頼むぜ!」



 初めて故郷を離れた彼等は帝国の領内で戦うことに無意識な疑問を覚えていたのだろう。



 間接的にシャムザを守る戦い。見慣れた砂漠ではなく、他国の……それも少し前まで敵だった国の上空での戦いだ。

 しかし、国の為、という理由に『シャムザの英雄達の為』というものが合わされば士気は自ずと上がる。



 焦燥感や不安だけが募っていたディルフィン内は再び活気と熱で溢れた。



 その様子に、今まで黙って戦況を見据えていたアイが口を開く。



「……どこの艦長も人を乗せるのが上手いわね」



 セシリアは一人、嫌味にも似た呟きを拾い、ニヤリと笑いながら返した。



「あら居たの? ずっと(だんま)りだから居ないものだと思ってたわ」

「あのねぇ、今は同盟組んでるとはいえ、元は敵の船に乗ってるんだから私の身にもなりなさいよ」



 言いながら両目をモグラの手で塞ぐ。



 彼女の役割は固有スキル【長目飛耳】で戦況全体を見渡し、随時報告すること。そして、撫子を探すこと。



 戦況はセシリアの判断通りだった為、何も言わず、撫子捜索に関しては観測班同様、未だに苦戦しているようだった。



「貴女でも見つけられないの?」

「……そりゃあこんな大規模な空戦を繰り広げておいて人一人探すのは苦労するわよ。まさか最初からずっと見続ける訳にもいかないし。というかこっちに向かってるのは見たから大丈夫だと思ったんだけどね。『目』ぇ離しちゃったのは失敗だったわ」

「そう……坊やは無事? 戦闘は終わったようだけど……」

「ん、ちょい待ち、今見るから」



 シキとライの苛烈な激突は終わっている。あれほど動いていた二人の魔力の光が消えているのだ、嫌でもわかる。



 どうせまだ掛かるのならと、セシリアは心配になってしまったらしい。



「ん? んんっ? え……ちょっ……どゆこと……?」



 少ししてシキ達を見つけたアイがすっとんきょうな声を上げた。



 セシリアが細かい指示出しを続けながら視線を向けると、アイは見向きもせずに答える。



「シキと撫子って子、一緒に居るわよ?」



 思わず「え、何て? 何で?」と聞き返し、詳細が返ってきた。



「私に言われても。……人質も一緒よ。どう見ても勇者にしか見えないイケメン君と他三人。会話は聞こえない……風と戦闘の音が強すぎる。何か……四人揃ってめちゃめちゃ口喧嘩してる……ような?」

「……望遠モニターで見える?」

「間違いなく見えない位置。今は……ちょうど敵艦の後ろ。距離も離れてるし」



 今度は唸る内容だった。



 こちらに向かっていた筈の撫子が急に方向転換してシキの方に向かった理由、戦闘は終わっているのに誰も死んでない点、喧嘩の内容等々、気になることは多い。



 しかし、艦隊戦は未だ続いている。無闇矢鱈に近付くのは得策ではない。



 ならば、とセシリアは瞑目して考えた。



 数秒の黙考。



 その間も船体から放たれた大筒の反動で船体は揺れ、時折付近を敵の砲弾が通り過ぎている。

 更には接近してきた銀スカートがブリッジに向けて銃口の付いた腕を向け、迎撃部隊に撃墜されてと危ない場面もあった。



 それでも一切の集中を欠くことなく考え続け……やがて、小さく「仕方ない、腹を括るしかなさそうね……」と呟き、言った。



「現状、予定よりも数を減らせたと判断し、他の艦を後退させる! 戦線を退かせるだけよっ、逃げたら活気付かれる! 無線をもう一度試してダメだったら何人かエアクラフト隊の伝令を出して! 悪いけど、このまま降下飛行部隊の皆に何とかさせましょう! あの銀色のアンダーゴーレムは相性が悪過ぎる! 伝令を出したと同時に私達は上昇して真上から坊や達の収容に向かうわ!」



 望遠モニターで見える範囲だけでも、既にアリスの艦と二隻が独断で撤退を始めており、他三隻は中破して後退途中。残るはメイの艦のみ。

 対する敵も二十八から十まで減っている。が、2/3程の戦力が沈んでいるのにも関わらず、白旗を上げないのが不思議なくらい退く気配がない。



 連合軍の思惑は不明なものの、この指示にも妥当と感じたのか、アイは無言で頷くだけに留まり、ディルフィンは上昇を開始した。



「それにしても……あのアリスが撤退を始めるなんてらしくないわね。アイさん? 何が原因か見てもらっても良いかしら?」

「ふんっ、呼び捨てで良いわよ気持ち悪い」



 素直じゃない反応に苦笑いしながらも、上昇のGに耐えつつ、スラスター制御の指示に艦内放送で注意を促したりと忙しないセシリアはシキの無事と現状の被害状況を聞いて密かに安堵の息を漏らしていた。



 しかし、次の瞬間、アイが悲鳴を上げたことで再び緊張感が走る。



「ひっ!?」

「っ、どうしたのっ、報告!」

「人の頭が弾け飛んだっ……? あ、あんな芸当っ、『名無し』のアイツくらいしかっ……っ、いえっ、今の奴のステータスじゃアイツでもっ……」

「アイっ、報告なさい! ルゥネさんだって情報共有は徹底していたでしょうっ!?」



 余程のことがあったらしく、ガタガタと震え出したアイに発破を掛けて促す。



「そ、そうね、ごめんなさいっ……今、白髪の、修道服を着た大男が出てきて、転生者の一人が殺られ……ぎゃっ!? うっ……い、今の光はっ……? っ、ダメっ、バカっ! そいつに近付いちゃっ! ぁっ……ああぁっ……!! いやっ、嫌ああああっ!?」



 まだマシだった状態から完全な錯乱へと移行してしまった。

 それまで冷静だったアイが突如泣き喚き、いやいやと首を振り、尻餅を付いている。



 何度か声を掛け、肩を揺さぶるものの、固有スキルで見ている光景に飲まれているのか、まるで帰ってこない。



 漏れている声や先程の情報を加味するに、知り合いが殺されたようだった。



「あんた、あんだけ格好付けといてっ……ばかっ、ホントにバカなんだから……! 姫が居ればこんなことにはっ……メイっ! 早くそんな奴、殺っちゃいなさいよ! あいつの仇なのよっ!? あっ、コラ逃げるな! メイ! 何よっ、弾かれたからってビビるなんて!」



 ぶつぶつと呟き、かと思えば急に叫び、メイに恨み節を吐いているアイの横で、セシリアも必死に以前『見』た未来の記憶を呼び起こしていた。



「白髪の大男で……転生者を簡単に殺せるほどの実力者なんて……それも、メイちゃんが退く相手……?」



 皆目見当も付かない情報に首を傾げながら懐からメモ張を取り出す。



「聖騎士……聖騎士に関するメモは……あったっ」



 そうして聖軍の序列高位の者に関する文を見るが、『白髪の大男』なんて容姿の者は居ない。

 居るのはノア、レーセン、撫子にスカーレットと、シキが会った相手や抜けた者ばかり。他には若い女に少年、男が二人。だが、揃って大男という身長ではなかった。



「誰……? 何かしらのイレギュラー……また未来が変わってるのは確か……だけど、こんな展開は一度もっ……」



 つい思考が逸れそうになるのを何とか堪え、情報をまとめる。



「相当な実力者の存在……戦況は五分五分……後少しで殲滅戦に移れる……けど、無線は使えない……坊や達がどうなるかもわからない……」



 努めて冷静に。シキのように深呼吸して自分を落ち着かせ、思考していく。



 しかし、どう考えてもこのタイミングでの強者の登場はかつての『崩落』を思い出させた。

 苦戦しつつも、勝利、生き残りという希望が見えてきた瞬間、ゾッとするほどの絶望がやってくる感覚。



「嫌な予感がするわ……魔力吸収率を上げてスラスターの出力を上げなさい! 全速力っ!」

「わ、わかったぜ! お前ら気張れよおおっ!?」

「「「おうよっ!」」」



 セシリアの有無を言わせない態度にビビった船員達は急激に魔力を吸われる感覚に目眩を覚えながら、ディルフィンを加速させていった。


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