第200話 激突
遅れました、すいません。
一応、微グロ注意。
「……そら、拾え」
「かふっ……!?」
落ちゆく刀剣に目をやり、ミサキを乱雑に投げ捨てる。
一息に三つの刀身を抜かれたミサキは血を吐いて落ちていく。
「ミサキっ」
ライは無表情のままチラリとシキを見つつも素直にミサキを追い、シキもショーテルを魔法鞘に納めると先程投げ付けた刀剣の回収に向かった。
(……昔なら激昂して突っ込んできたろうに)
内心感心しながらエアクラフトを取り出し、飛び乗ると同時に刀剣をキャッチ。こちらも収納する。
「やはり片腕だと不便だな……」なんて思いつつ、マントから出した回復薬と魔力回復薬を一気飲みした。
(……後二回ってとこか)
別れの際、ショウから大量生産してもらったそれらを受け取っている為、数はある。しかし、両薬も回復魔法も回復効果はあれど、基本的には自己治癒力を高めるもの。最大効果を発揮する回数には限度があり、取り込んだ回復物質が一定量に達すると徐々にその効果を失っていく。
二本ずつ。
それがシキの下した、使用出来る最大数だった。
「魔力の方は兎も角、たったの二回ぽっちで奴を下し、敵を壊滅させろって……?」
ミサキをお姫様抱っこで拾い上げ、近くを飛んでいた銀スカートに引き渡すライを見ながら、考える。
(無理だな。それは確定。なら奴から逃げて他を殲滅……? それも不可能……あの野郎も《光魔法》を使いこなしてやがる。あの翼といい、あの速さといい、完全物理型と思いたいが……白仮面の力はどっち付かずだった。楽観視は出来ない。俺のスラスター装備でも振り切れるかどうか……)
薄く発光しているライの背中からは相変わらず光の翼が顕現している。
天使の羽のような形状。色は金。恐らく加速時のみ巨大化するのだろう。今は身体を覆える程度の大きさだ。超遠距離から目視出来るほどじゃない。
(武器は聖剣、他に使ったとしても短剣……いや待て、俺に魔法が効かないとわかればライフルは使ってくると仮定して良い。あの便利な《アイテムボックス》に入れてない訳がねぇ……んで、防具は白仮面と殆ど同じ……アドバンテージは魔法が無視出来ること、スラスター装備の性能、エアクラフトの有無……特にエアクラフトの存在はデカいか……?)
イサム達以上にたった一人のライを警戒し、手を模索する。
「…………」
結局、思い付くのは魔力切れを狙った長期戦。
トドメこそさせなかったが、同じ勇者であるイサムとは張り合えた。ライが政治家的役割を持っている点を加味すれば彼より劣ったステータスとも推測出来る。
また、単純に強力かつ継戦能力に直結するエアクラフトの有無。やはりこれも大きい。
(俺が《闇魔法》を使っていて辛いように、奴にも限界がある筈。と、なるとだ……)
そこまで思考を固めた辺りでライが戻ってくる。
「何故待った。何故、ミサキを人質に使わなかった」
眉をひそめることすらしない、妙な質問が飛んできた。
移動中は《限界超越》を使っていたのか、離れていた時ほどのプレッシャーは感じられない。
【明鏡止水】も補助してか、酷く静かな様子だった。
訊く意味はないが、答えない意味もない。肩を竦めて返す。
「別に……回復しときたかったのさ。見ての通り、前座にやられてこのザマだ。その前座だってだぁれも殺せねぇときた。その上、痛みに気を取られて首取られましたじゃ困るんでな」
ライの視線がゆっくりと失くなった右腕に向けられ、反対にシキは撤退する銀スカートと落ちていくイサム、ゾンビ早瀬を見やる。
「あの女は?」
訊きながら一つの結論を抱いた。
(ダメだな、やっぱ死んでねぇ。白仮面野郎は確実に生きてる……早瀬は……元から気配が稀薄だった。あの気色悪いのがそうなら健在っぽいが……)
「……逃がしたよ。あの怪我では再起不能だ。お前のせいでな」
思わず鼻で笑ってしまった。
(だろうな。背骨はわからんが、内臓は確実に貫いた。ルゥネはナールの固有スキルありきで回復したんだ。マナミ無しじゃ一生寝たきりは確定……)
爪を抜く時も無理に振って投げ捨てたので、外部も内側も至るところがズタボロに傷付いた。
その自負が、その実感がシキにはあった。
「マナミは……マナミを、何処へやった」
「クハッ、そんなに大事なら他に目移りすんじゃねぇよ」
「茶化すな」
「魔導戦艦で悠々自適に後退してる頃だろうさ」
思いの外普通に話せたのでハッタリを噛まし、刀剣を抜く。
「そうか」
短い返答。
それが二人の死合の合図だった。
バサッ! と、大きくライの翼が羽ばたき、シキの背中からはロケットエンジンのように凄まじい勢いの魔粒子は放出される。
二人の姿は消え、気付いた時には鍔迫り合っていた。
剣戟の直後、一瞬で後退した身体を押しやり、火花を散らせて獲物を擦り合わせる。
今度は互角。
シキもライも、改良型スラスターや光の翼を以てしても押せず、引かず。
しかし、油断していない状態で、かつ両手を使われると厳しいのか、シキの方からライを押すようにして退がり、距離をとった。
直後、ライの全身を覆うようにして大量の属性魔法が形成され、弾丸のような速度で放たれる。
『火』、『水』、『風』の三種同時攻撃。全て球形。ご丁寧に回転が加えられていた。
(一発一発に信じられない量の魔力を込めてやがるっ……無駄なことを!)
今のシキなら目で見て対応出来る速度。とはいえ、敢えて避ける必要もない。
自動的に発動する魔障壁がそれらを阻み、発生した爆煙でシキの姿が消える。
が、煙の形状や気配で既にバレたのか、ライは上昇。上から降りてきていたシキとすれ違いようにして剣をぶつけた。
「質量を乗せても……? なら……」
互いの距離が離れる中、そんな声を耳が拾う。
見れば魔法による電撃が迫っている。
間に合ったのは「直撃コースっ、は、速いっ!?」という思考のみ。
シキの身体は再び魔障壁に守られ、無傷で済んだ。
「圧縮して威力を底上げしても、電撃でも弾かれる……魔法そのものを弾く性質……MMMの技術を応用した簡易結界か」
周囲は砲撃音で包まれているのに、十分な距離をとった筈なのに、ライの静かな声が届く。
シキは冷や汗が流れる感覚を覚え、乾いた笑みを浮かべた。
(慣れさせないように全速度をバラバラにしやがった……それで一段落と油断させた上で反応出来ない稲妻の攻撃……こいつ、俺と同じように……)
学習している。
実験でもするかのようにあらゆる攻略法を試され、魔障壁がどういうものなのか、攻撃パターン、最大出力、パワーを記憶している。
それはシキが最も得意とする戦法。
誰よりも努力しなければいけない状況だったが故に、どんな時も冷静に相手を見定め、見切る必要があった。
(種が割れるのは想定してたが、幾らなんでも早すぎる……! 魔障壁がなかったら俺はっ……)
その結果を想像してゾッとした。
勇者とは本来オールラウンダー。
しかし、これほどまでに差があったのか、と。
「くっ……!」
相応の死地を潜り抜け、相応の戦場を経験してきた。
その自信が、ものの数秒で崩された。
「こんなっ……ざけんじゃねぇっ!」
実際はそれほど動揺した訳ではないが、四割ほどの思考は持っていかれたので、それを声に乗せて誘い、焦ったような素振りで突撃する。
スラスターとエアクラフトの強力な推進力に身を任せて剣を振る、と見せ掛けてギリギリで真上に進路を返し、至近距離からの爪斬撃。
「嘘だな」
当然のように見破られ、同じく上昇で応えて回避。それどころか翼を羽ばたかせて付いてくる。
「っ……」
「お前が俺を知っているように、俺もお前のことはよく知っている。よぉくな」
言いながら、ライは《アイテムボックス》でライフルを取り出し、発砲してきた。
ドパンッ、ドパァンッ、と軽い発砲音が連続して響く。
イサムと違って付与は出来ないのか、普通の弾丸が追ってくる。
――っ、受けたら詰められるッ!
それは最早確信に近かった。予感とも言うべき勘に従い、くるりと一回転して降下。
迫った弾丸は爪、手甲、刀剣で出来る限り弾き落とした。
「ぐぅっ!? このっ……!」
一発だけ右肩に被弾したが、無視……というより、気にする暇はない。
反転し、降下を始めた次の瞬間には聖剣が迫っている。
振り向き様の横薙ぎ。
速度が乗った斬り上げ。
甲高い音と飛び散る火花と共に二人の腕と身体は大きく弾かれ、直ぐに次のモーションへと移る。
また、獲物と獲物のぶつかり合いが始まった。
刀剣だけに留まらず、爪と手甲を使ってライと打ち合い、スラスターと光の翼で接近して一撃、二撃、三撃。弾かれるようにして後退しても互いの背中から溢れる魔力の奔流がそれを止め、前進させ、打ち合わせる。
先程の戦闘との違いはその速度。
エアクラフトに乗ったシキはさながら水を得た魚。
しかし、ライも翼を羽ばたかせ、あるいは広げて推進力を生み出し、付いてきている。
目にも止まらぬ超高速機動戦は徐々に二人の魔粒子を置いていき、光芒……すなわち残像のような形で尾を引き始めた。
何度も繰り返される剣戟はやがて音をも置き去りにしていく。
艦隊戦で煙だらけになった戦場のど真ん中に、二人の魔力の光が軌跡を描き、その苛烈な戦いを見せ付けた。
「でええぃっ!」
「はぁっ!」
弾かれたついでに助走を付けた二人が激突する。
「くううぅっ……!!」
「ぐああぁっ……!?」
あまりの速度、威力のぶつかり合いに、剣を掴む二人の手から血が噴き出した。
肉がずれ、皮が剥げた。
その衝撃でくるくると回転しながら吹き飛び、漸く光の尾が消える。
それと同時に、再び光の粒、光の翼が両者をその場に留め、相対させた。
「ふーっ……ふーっ……ふーっ……こ、これだから勇者はっ……!」
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……な、何でここまでっ……!」
シキは左腕を、ライは両手を震わせながら毒づく。
共に汗と血を大量に流していた。
果たして、ボタボタ垂れている透明の汗と赤い血、多いのはどちらかといった量。
一人は震える手で回復薬を取り出し、一人は回復魔法を使う。
「ふぅ……ふぅ……ふーっ……」
「はぁ……はぁ……はーっ……」
示し合わせたように息を整え、ほぼ同時に肉薄。
呼吸すらままならない音速の戦闘から、まだ常識内の速度の戦闘へとシフトした。
「マナミをっ、返せ!」
「返せばっ、この戦争が終わるのか!?」
剣と剣が、剣と爪が、剣と手甲が交差し、火花が散る。
腕力と出力はシキが上。しかし、技術やセンスはライが上。
シキは片腕で、ライは両腕で獲物を振るっては弾かれ、時には刀身から、時には四肢から魔粒子を出して燕返しのような急変則攻撃を繰り出す。
「お前達が余計なことをしなければっ!」
「属国に出来たのにってか!」
獲物同士の衝突に弾かれた二人は同時にその反動を利用して一回転。裏拳気味の手甲と返した聖剣がぶつかった。
「クハハッ! 武力で結束させた組織なんぞっ!」
「武力で出来上がった国を背に言うことかっ!」
「だからっ、無理やり手駒にするのが正義だと!?」
「違う! 変革には痛みが伴うっ! 時には強引な手段だって!」
火花を散らせ、鍔迫り合いながら主義主張すらもぶつけ合う。
「誰かに言われたような口振りだな! 古代人共に唆されたか!? それともクソったれな教えに絆されたか! その変革にっ、世界が納得しているとでもほざくかァッ!!」
「時代が変わったんだよ! 差し出した手を取らなかったのは帝国だろ! 魔族や獣人族もそうだっ! 俺は俺に出来る最善を尽くした! 皆で手を取り合うようにとっ、各国代表と聖神教に掛け合ったッ!!」
ライが左手を聖剣から放し、亜空間から取り出したライフルをシキに向けて発砲した。
対するシキは手甲から魔粒子を逆噴射させて急回転。眼前まで迫った弾丸をギリギリで回避すると、その勢いを乗せて爪を突き出した。
「ぐうぅっ!」
そんな声を出しつつ、魔粒子でライフルを押して盾に。爪はライフルを貫き、ライへと迫った。
しかし、そのまま刺し貫く寸前で固まったようにシキの腕が、三つの刀身が止められた。
(《硬化》!? しまっ、誘われたっ!?)
撫子が使っていた、物質の硬質化を促すスキル。
かつてシキがやって見せたように、ライは誘った。
その一瞬の硬直の隙を突かれ、引っ張られて無防備になったシキの首にライの聖剣が向けられる。
「これでぇっ!」
「くっ!」
当たれば即死。ならばと属性魔法で熱風をぶつけても同じように『風』の属性魔法で弾かれてしまった。
聖剣の軌道を変えようにも『風』の結界で守られている以上、最早打つ手はない。
(死っ……ぬ……!? この俺が!? こんなところでっ……)
シキの視界が、世界がスローモーションへと変わる。
走馬灯か何度か経験のあるゾーン状態か。
――っ……!
――死っ、死っ……死ぬ!
――どうするどうするっ、軌道は変えられないっ、熱風も弾かれた!
――右腕さえあればっ……!
――蹴りはっ、間に合わないっ! 止められっ、ない……!?
思考の半分がゆっくりと肉薄してくる聖剣の刃をただ見つめるだけなのに対し、もう半分は生存本能に身を任せていた。
「終わるってたまるかあああッ!! ウオオオオオオッ!!!」
オーク魔族のゲイルが使っていた《咆哮》スキル。
二連続で放たれた心の叫びは物理的な衝撃となって聖剣をあらぬ方向へと向けるに留まらず、ライの身体を浮かせ、吹き飛ばした。
「っ……ま、また……魔族の力を使ったな……? ユウっ……お前はもうっ……!」
何やら悔しそうにライが呟き、シキは全身をガタガタと震わせながら叫ぶ。
「はぁ……はぁ……フーッ……フーッ……死ぬかと思った……ええ……? おいコラクソ勇者……死ぬかと……思ったじゃねぇかああああっ!!」
死への恐怖と生存本能がシキの冷静な部分を消し飛ばし、激昂にも近い感情に身体を支配されていく。
「俺は頑張った……? だから言うことを聞かない奴が悪い……? ふざけるなよ? なぁ……ふざけてるよな? ガキじゃねぇんだぞ……? それが剣を、銃を向けて言う言葉かっ……? 武器を向けながら、俺は頑張ったからお前らも頑張って奴隷やれだぁ……?」
身体どころか声すら震える。
恐怖のせいなのか、怒りのせいなのか、シキ本人にもわからないほど。
「……国同士のやり取りなんだ。多少は折れてもらわないと困る」
反対にライは【明鏡止水】で冷静さを取り戻し、静かに返してきた。
「情緒不安定かテメェは……キレたり、悔しそうにしたり感情剥き出しにするくせに、急に静かになって……言ってることは身の程を知れ……わかっているのか?」
「俺のスキルでも消せないほどの感情はある。それが表に出ただけのこと。……まあ結果的にはそうなるな。でも、事実だろう?」
何を言っているんだ? とでも言いたげな口調。
ライの態度には何処にも帝国やシャムザをまともに扱おうとする気配は感じられなかった。
プツン……
何かが切れたような音が気がした。
シキだけでなく、ライまでもがその音を聞いた。
瞬間、シキの身体から尋常じゃない量、質の殺気が放たれ、噴き出し、周囲の空間を黒い感情で包み込む。
「っ……!?」
《威圧》。
ルゥネ達との戦いで得た新たなスキル。
本来、格下にしか効かず、【明鏡止水】で無効化される筈のそれはライを圧倒し、無意識に後退させていた。
更には〝闇〟。
コントロールの利かないどす黒い感情は《闇魔法》をも呼び起こし、シキの身体は薄ら寒く、薄ら黒い波動を放っていた。
「もう……いい……約束だとか……マナミの気持ちだとか……知った、ことか……!」
ライのように翼の顕現とまではいかなくとも。
〝闇〟を纏った魔力は感情が乗る分、強力。
その力がゆっくりとスラスターへ、エアクラフトへと乗り移る。それを証明するかのように、紫色だった魔粒子は黒紫へ、黒紫から全てを飲み込む黒へと変貌していく。
「うぐっ……!? お前はっ……何処まで……!」
途端にライが頭を押さえ、口を押さえ、顔色を青くさせる。
今まで《光魔法》の波動がシキに悪影響を与えていたように、今や《闇魔法》の波動が彼を襲っているらしい。
本気と思ったのだろう、ライは聖剣を構えて言った。
「だとしても、負けない! 俺は俺を信じてくれる人達の為に戦うッ!」
それがまたシキの怒りを買った。
「帝国を悪と称しておきながら……やってることは帝国以下……領土も国力も全て連合に……お前や聖神教に集約させる畜生具合……矛盾って言葉を知らないのか……?」
《狂化》により、赤黒いオーラがシキを包み込む。
プレッシャーすら《狂化》の効果範囲なのか、ライの顔が更に歪み、苦しそうに息を荒げており、呼応するが如く、発光している光が、光の翼が弱まっている。
二人の戦場を包むは黒と赤。
本来の紫色は完全に消えていた。本来優勢の筈の金色は弱々しい光を放つのみとなっていた。
「くっ……だ、と……して、もっ……!!」
言いながらライは黒い光に劣る金色のオーラを発生させ、《威圧》による恐慌状態を《限界超越》で振り払った。
更には弱体化していた光の翼も徐々に元の光を取り戻していき、仮面の奥でシキの顔も苦痛に歪む。
(痛っ……ショーテルは見切られる……魔法も効かない……こいつに勝つには正面から……この際、左腕も捨ててやる……!)
そこまでしないと勝てない相手。
そう定めた。
ライも同じ覚悟を決めたらしい。
聖剣を横に構え、迎え撃つような体勢をとった。
「ライ……お前は殺す……!」
「ユウ……俺が終わらせてやる……!」
二人はゆっくりと動き出し……
「止めてええぇっ!!」
という、何処からともなく聞こえてきた絶叫に中断された。
◇ ◇ ◇
「ふむ……」
唯一、沈んでいない弩級艦『ジェフェリン』級三番艦。
そのブリッジにて、一人の大男がモニター画面を見ながら呟いた。
「不味いですねぇ……」
その間にも周囲では続々と報告が上がっている。
内容は巡洋艦やMMMと呼ばれるアンダーゴーレムの被害状況、全体的な戦況、逃亡中の女王や各国の王族の無事と多岐にわたる。
艦隊の被害は全体の六割に達しており、MMMも四割が墜ちた。
対して帝国側の艦は三隻が撤退した程度で済んでいる。MMMを早い段階で脅威と捉え、逃げ回っていた結果だろう。
朗報と言えるのは王族関係者が誰一人欠けることなく逃げ仰せた程度。
『天空の民』やイクシアの女王等は途中、勇者ライが来て安否確認をしたからか、正気を取り戻したという報告があった。
「失礼、ノア様やレーセンさんはその脱出艇を護衛しているとのことですが、その後問題はなさそうですか?」
「は……? っ、は、はい! 他の聖騎士様方も居ますので、このまま戦場を抜けられるとのことです!」
「それは重畳です。では、やはり問題はこの映像にある……?」
「で、あります!」
艦隊戦それ自体は地味も地味。遠くから撃ち合っているだけだが、問題は接近している艦。
近付いている分、被弾率は高く、ブリッジに当たれば沈む。無論、それは帝国側とて同じことだが、連合軍に迎撃部隊としてアンダーゴーレムと聖騎士が居るように、帝国にも厄介な戦力が見て取れた。
それは何人かの突出した強者達。中には傭兵とおぼしき部隊も居る。エルフの集団等は典型的だろう。
艦を守るべく出ている聖騎士を、帝国の艦に群がっているMMMを、獣人族の女が殴り、斬り、別の者に飛び乗って蹴りを入れ、人族の女が電撃を放って撃墜しており、その周囲でも転生者とおぼしき帝国の兵が接戦を繰り広げている。
傭兵達は与えられたらしいエアクラフトと銃火器で苦戦を強いられながらも奮戦を続けていて、大人数で一機を畳むようにして戦っている。
中でも目を引くのは帝国の『最強』。
巡洋艦を次々に沈めるだけに留まらず、大剣を振り回して近寄る聖騎士を真っ二つにし、蹴り殺し、素手でMMMの弾丸を弾き、更には機体そのものを殴り飛ばしていた。
「技術やスキルを感じられない乱暴な戦い方っ、あれは正しく【一騎当千】! もう新たな会得者が……意外と早かったですねぇ!」
多くの信者と同じ白い髪の大男ゼーアロットの声に、オペレーター達の肩が震える。
彼等のブリッジには至るところに大量の血が飛び散っていた。
それはまだ固まっておらず、艦が動く度に赤い領域を広げている。
艦隊戦が始まり、ゼーアロットは開口一番に「静観しましょう!」と笑顔で宣った。
そんな彼に対し、口答えをした者達の末路である。
ある者は頭部を、ある者は上半身を粉砕され、壁の染みと化している。
魔導戦艦は『天空の民』でしか動かせない。
ステータスがなく、現代人に比べ、魔力も極僅かにしか持たない彼等はなす術なく殺されたようだった。
銃火器での抵抗を試みた者も居たらしく、銃を持った首無し死体や銃弾、薬莢も転がっている一方、ゼーアロットに傷痕は一切ない。
圧倒的なステータスの持ち主。それもテキオに匹敵……あるいはそれ以上のものを予感させる凄惨な状況。
「残りは十隻と少し……よろしいっ! ワタクシが出ましょう!」
コックピットに大剣を突き刺し、そのままMMMを持ち上げて巡洋艦のブリッジに叩き付けたテキオの映像を見ながら、ゼーアロットは言った。
オペレーター達は常識外れの光景に目を奪われており、内一人が遅れて反応する。
「で、出るのでありますかっ、あの戦場に!?」
「はい! 何か問題が!?」
僅かに語気が強くなった。
ゼーアロットは帯剣もしておらず、防具の類いも身に付けていない。ただの修道服である。
聞き返した兵は思わず、といった反応だったようで「い、いえっ」と返し、黙する。
「勇者様が使っているスラスターとやらを使えば私でも飛べるのですね?」
確認するように、そう言って歩き出す。
兵とオペレーターはエアクラフトの使用を勧めるものの、「ブーツがあれば飛べると聞きました」、「スラスターがあれば推進力を生み出せるのでしょう?」という偏った知識を当てにしていて聞く耳を持たない。
「三度目はありません。飛べるのですね?」
そう凄まれてしまっては彼等とて止める術はない。
「飛ぶだけなら、可能……です」
何とも奥歯にものが挟まったような口振りだったが、ゼーアロットは笑顔で頷いた。
「結構!」
最後にロベリアの脱出艇に合流するよう言付けると、甲板へと移動。
「これは……どう、使うのでしょ、うっ!?」
初めて使うのか、甲板の手すりへ突撃し、飛び降りた後も三番艦の船腹に身体を打ち付け、挙げ句には近くを飛んでいたMMMに体当たりして飛んでいった。
祝二百話゜.+:。∩(・ω・)∩゜.+:。
まあ実際は220くらいあるんですけど(笑)
繰り返しになりますが、ブクマや評価をしてくれると作者のモチベに繋がります! 「まだしてないよー」という方は何卒!




