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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第5章 魔国編
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第195話 会談



 その日、帝国の空に不可解なものが現れた。



 青い空に似つかわしくない、白銀の船。

 ざっと30弱は確認出来ようか。三隻が先頭、他は追随するが如く飛行している。



 上空故に大きさの判別は不可能だが、目の良い者、耳聡い者は即座に理解した。



 噂の連合艦隊。



 イクシアを筆頭に人族至上主義の小国を束ね、バックに聖軍、そのまた背後に『天空の民』という新勢力を控えた連合軍の艦隊の到着である。



 チリチリとした帝国を包む空気は一変し、嵐の前の静けさのような静寂が帝都に訪れた。



 誰もが新たな戦乱を予感する中、先頭を飛んでいた弩級艦がゆっくりと降下してくる。



 飛行船のように膨らんでいる銀の船体は微塵も体勢を崩すことなく下降し、船腹の各所から噴き出た透明の魔粒子が逆噴射を担って速度を落としていた。



 帝都全体に怒号に近いどよめきが走るが、銃火器類を持つ人間は都に居らず、魔法使い等の遠距離攻撃が可能な者でも距離が離れているせいで届かない。

 その為、帝国臣民は静かに降りてくる不気味な魔導戦艦を見ていることしか出来なかった。



 やがて降下を終え、帝国城スレスレで停止する。

 ある者は不敵に笑い、ある者は不安を帯びた目で見つめ、ある者は武装して城に向かった。



 しかし、意外にも城からの迎撃はなく、開戦の兆しはない。



 連合艦隊が城に通信を送り、会談出席者を集めさせていたとは露知らず。帝都で戦を求めていた者の願い通りの結果は訪れなかった。



 そうこうしている内に城のバルコニーに梯子が下ろされ、十人ほどの人間が弩級艦に乗っていく。

 十分ほどしてそれが終わると、魔導戦艦は下降してきた時同様、船腹から夥しい量の魔粒子を放出しながら上昇し、上空で待っていた同型艦二隻と合流した。















 ◇ ◇ ◇


「そう、ですか……主からの厳命なのですが……」

「逆に訊くが、お前さんは敵か味方かわからない連中の船の中で武装を解くのかい? 呼ばれたからゴーレム乗りが生身で来ると?」

「……了解致しました。それではご案内致し……ひぃっ!?」

「うわあああああっ!?」



 テキオと武器の持ち込みで揉めていたところを、俺の仮面を見た瞬間これだ。やはり恐怖の対象となる伝承か何かが伝わっているらしい。



 初めて見る『天空の民』達は聞いていた通り、出迎えてくれた奴等の頭は男女問わず白髪とも染めたような色とも違う、淡い銀の髪を待っていた。

 顔は何処にでも居るこの世界風の顔であり、帝国人のような野蛮さや今まで見てきたような強者の気配は一切ない。が、俺が焼き殺したシレンティと似たような雰囲気は感じる。少なくとも何らかの関係はありそうだ。



 俺は会談出席者の最後尾に並んでいた。揉めていても特に攻撃的な視線や侮蔑のような感情は感じられず、意外に思った途端、俺と目が合い硬直。数人はへなへなと座り込み、腰が抜けたのか立てずにおり、もう何人かは悲鳴上げながらダッシュで逃亡である。



「失礼。私の仮面が何か? それともそうやって座り込むのは『天空の民』の挨拶か何かか?」



 ルゥネの側近であるテキオら転生者組と政を担う連中、護衛として来た撫子とアイコンタクトを交わしつつ、ガタガタ震えている女性の手を取り、立ち上がらせながら訊く。



「あっ……ぁ……し、失礼……致し、まひ……た……ご案内、させ、させていたたぎまひゅっ」



 青を飛び越え、白い顔で頭を下げ、案内を始めた。他の奴等も先程までの無感情は何処へやら、チラチラと振り返って俺の仮面を見ては顔色を変え、内一人にこそこそ話して走らせている。



 俺の前に居る帝国人達のことは一切の無視。兎に角俺の仮面が怖いようで、失礼極まりない態度だ。



 とはいえ。



 撫子に目で訊く限り、妙な罠を仕掛けているという訳でもなさそうだ。

 最低限の話し合いはするつもりなのだろう。



 船内までもが銀色で、乗組員といい、目がチカチカする光景を横目に歩を進めていくと、ブリーフィングルームらしき広い部屋に通された。



 中の丸テーブルには既に十数人の人間が座っており、その背後には護衛らしき奴等が立っている。

 その殆どが一度は見たことのある顔だった。



 俺達が入ってきた正面に『天空の民』の親玉らしき女。両隣にイクシアの女王とライ。そのまた両隣は聖騎士ノアとマナミ。他は恐らく、連合の中で比較的力のある小国の王族。

 後ろで突っ立ってる護衛達も盲目の老聖騎士……『炯眼』のレーセンに召喚者仲間のミサキ、イクシアの騎士団団長のグレンさんと見知った顔が多く、かつて俺が殺して回った元クラスメートの生き残りまで居る。合流したらしい。



「「っ……」」

「ゆ、ユウっ……!? やっぱりこの気配はお前だったのかっ。まさか帝国に居たなんて……」

「ユウ君……」

「……アンタ、帝国の何なのよ。何でこの場に居る訳?」



 ライ達が口々に言ってくる中、イクシアの女王と『天空の民』の女王の顔色が青くなっていることに気が付いた。

 イクシアの方は俺が魔族化した時のことを思い出しただけ、『天空の民』の方は出迎えの連中同様の反応のように思える。



 まあこいつらは無視で良い。問題は聖騎士と護衛らしいフード二人組だ。

 レーセンはまだ抑えているものの、ノアとその謎の二人は憎悪や殺気に近いものを放ってきていた。



「俺は女帝ルゥネの代わりで来ている。以降、()への無礼はルゥネ様への無礼だと知れ。こちらはいつでも戦える状態だ。貴公らは個人的な感情で事を荒立てたいのか?」



 マナミとミサキは俺の存在に驚きつつ、失くなった右腕をチラチラ見ているくらいだったが、ライに至っては立ち上がってこちらに来ようとしていた。

 それを制止し、この場に居る全員に周知する。



 ルゥネの部下として表舞台に何度か顔を晒しているテキオ達が否定せず、俺は口調を変えて意識を切り替えさせてきた。

 服装も武装こそしているが、正装に近いものを採用しているし、右肩には貴族が付けるようなマント付き。周囲の反応、俺の言動に服装と、拙さこそあるものの、帝国の使者であることを踏まえばその荒らさも俺の発言に信憑性を持たせる。



「「「「「っ……」」」」」



 奴等も帝国や俺との全面戦争は流石に本意ではなかったらしく、仕方無さげに各々感情を殺し、座り直したり、咳払いをして空気を改めた。フード二人組以外は。



 根本的に言葉が理解出来ないタチなんだろうか。

 ……いや、今ライに睨まれて少し抑えた。どうも正体が見えてこないな。一人は確実にイケメン(笑)だろうが。バカだからなあいつ。何かもう気配でわかる。



「…………」

「…………」



 そんなやり取りをしながら席に付こうとするのだが、撫子だけが向こうの護衛らしき大男と見つめ合っていて座ろうとしない。

 こちらがチラリと目を向けると撫子は予定の立ち位置を変え、無言で俺の背後に立った。



「ふっ……」



 ニヤリと白髪の大男が笑い、撫子は刀のように鋭い眼差しを返す。



 その反応で何となく察した。

 この大男が撫子の言っていたゼーアロットだ。身分こそ低いが、聖神教の『最強』と噂されている男。軍の方の所属ではなく、教会の方の所属な為、その全てが謎であり、上級序列の一桁台を瞬殺出来る強さ、とは聞いている。



 俺達の中では『最強』の撫子が俺の護衛に回るほどの相手。帝国『最強』のテキオも普段の面倒臭げな顔を消し、目を細めている。



 正直、ライの髪色が変わってたことに驚いていて気付かなかった。

 思考の半分が一瞬停止したくらいだったからな。



『さ、さて……全員が揃ったようなので先ずは自己紹介を……』



 と、人形みたいな見た目通り、造ったような声で話す『天空の民』の女王を手で制し、向こうの護衛の一人を撫子に斬らせる。



 神速を誇る抜刀術は戦闘を行うには狭すぎるこの部屋の中でも遺憾なくその猛威を奮った。



 護衛の一人とはマナミの友人の鑑定の固有スキル持ち。



「えっ? あぇ? 痛っ……目が? み、見えない? 痛っ、痛いっ……何これ……痛いっ、痛いよマナミっ! 何が起きたの!?」



 眼球の表面と鼻をうっすらと斬られ、一瞬の内に失明した女が両目を抑えて泣き喚く。



 俺も撫子もテキオも他の連中も……厄介な奴を見逃してくれると、本気でこいつらは思っていたんだろうか? この女は仮にも元帝国所属の人間だぞ?



「一方的な物言いで領土内に侵入し、一方的に呼びつけ、一方的にこちらの情報を覗く。……成る程、連合とはそういう(こす)い人間の集まりか」



 思わず立ち上がろうとした、動こうとした奴等に向けて新しく得た《威圧》スキルを使う。



 俺の殺気とスキルによるプレッシャーは思いの外強かったらしく、ノアやレーセンですらその動きを止め、撫子が無事に戻ってくる時間を稼いでくれた。



「悪く思うな。先に無礼を働いたのはそちらだ。対等、なのだろう?」



 俺の言葉にライ達は怒りに満ちた顔を伏せて堪え忍び、ノア達や護衛も姿勢を正す。



 マナミは一瞬だけ俺を睨むと失明した友人や今にも殴り掛かってきそうな他の元クラスメート達を連れて部屋を出ていった。



『…………』



 口をパクパクさせて怯えているのを見るに、『天空の民』の女王はこういうことに慣れてないようだ。それとも単に撫子の強さと俺の殺気に飲まれたか。

 他の王族連中も同様で、全員がガタガタと肩を震わせている。話し合いにならないな、これでは。



「非礼は詫びよう。しかし、次からは口で注意していただきたい……!」

「では次からは覗くと口で言ってから覗いていただきたい。こちらはただ黙って非礼を働かれたので、黙って非礼を働いたまでのこと。理解出来ないとは言わせない」

「ユウっ……お前っ!」

「おや、同じことを二度言わせるのがそちらの作法か? それとも一方的な要求を飲み、黙って不利な状況を受け入れるのが筋とでも? 個人的な感情は慎めと言った。どうせ治るものを根に持たれては堪ったものではない」



 怒った様子のライを適当に相手しつつ、自己紹介が始まり、会談の一歩が踏み出された。



 やはり震えている連中は連合国家の王族達で合っていたらしい。

 何処か邪神の幼女を思い出す精巧な顔、身体付き、声の持ち主……『天空の民』の女王ロベリアは聖騎士ノアらと同じく、援助する立場として見届けたいとこの場に集まった。



 つまり、本来話すべきは連合の中心となっているイクシアの女王マリなんちゃらさんな訳だが、如何せんチワワか生まれたての小鹿をやるのに精一杯で、何なら俺と目が合う度に泣きそうになっては護衛のグレンさんに窘められている。



 その為か、会談は名実共にイクシアの勇者であるライが主導となって行われていた。



「では同盟への加入要請はあくまで任意の要求であり、強制ではないと?」

「そうです。何分こちらも大所帯。それも帝国に煮え湯を飲まされた小国ばかりです。強力な後ろ楯を得て横柄な態度をとってしまったことは詫びます。しかし、魔族と獣人族の国との和平は世界平和へに繋がる。帝国にとっても悪い話ではないでしょう?」



 いっそのこと態度を徹底すれば良いと考えたのか、ライは【明鏡止水】で感情を殺し、敬語で話してくる。



「数が多いからと下の者を抑えられず、他国に押し入り、こうして呼びつける者らが平和を築く……? 軍事力を用いた時点で脅しだろう。それに和平と言ったが、こちらは殲滅……もしくは奴隷化させる腹積もりと認識していたが? それは貴公らの国の歴史が証明しているではないか」

「っ……」



 痛いところを突かれて言葉に詰まる。

 周囲に揉まれて少しは知ったようだが、まるで政治慣れしていないなこいつは。まあ、俺も慣れてる訳じゃないけど。



 等と思いながら、別の視点でも突いてみる。



「同じ人族の国……それも、魔族や獣人族と共存する我が帝国との交渉にもこうして軍事力を用い、協力しろと宣うのは些か失礼だと承知している。そのことが不和を生み、我が領土内で紛争が起きた場合、貴公は責任が取れるのか? 如何な帝国と言えど、他国からの内部干渉で起きた紛争までは認知出来ん」



 こういう時、思考系スキルは役に立つ。

 俺が持っているスキルの中で最も多用しているスキルだが、討論や議論に最適だ。



「重ね重ね、非礼は詫びさせてもらいます。が、そちらは帝国。歴史と仰るのなら、その程度のことは過去に何度も起きて――」



 何と言うか……底抜けにバカなんだな、こいつらは。

 ライの代わりに聖騎士ノアがしゃしゃり出てきた。



「――聖軍の方こそ黙っていてもらいたい。それともイクシアや勇者主体の連合とは名ばかりで、聖軍や『天空の民』が連合を纏めているのか? ほう……国を束ね、他種族国家へ戦争を吹っ掛ける……成る程、これは傑作だ。世界の聖神教自らが戦火を生み、広げるか」



 被せるようにそう返し、反応を見る。

 俺の煽りを受けたノアは髪や服装のように白い不気味な瞳に一瞬、強い怒りの感情を乗せた。それを瞬時に抑え、目元がぴくついたのも確認出来た。



 狂信者故に煽り耐性が低すぎる。この女はそこが弱点だ。



「……違います。我々は人類の敵である魔族や魔物を間引き、獣人族には――」

「――黙れと言った。三度目はない。どう言い繕おうが、そちらの都合で他種族を迫害し、土地を奪い、労働力にしようという魂胆は透けている。本音を言えば我が帝国も目指すは同じ。しかし、それは他種族に限らない。ルゥネ様はいずれ全ての国を落とすおつもりだ。態々群れないと行動出来ない者らと手を組んで何が帝国かっ」

 


 根本的な話……言い種、理論が破綻している。聖神教が掲げるは人族至上主義。一方で帝国が掲げるのは強者至上主義。そこには種族も性別も関係ない。生まれや育ちも結果的に勝者ならば突っ込まれない。



 簡単に言えば帝国主義をまるで理解出来てないんだ、こいつらは。

 どうしてこう政に疎い連中を前に出すかね。



 本来こういう場面に強い筈の王族は震えてばかりで力になっておらず、『天空の民』は狙い通り俺の仮面に怯えて何も出来ずに居る。

 一応、もう少し政治的な話題は出たりもしたが、その辺は帝国の政治家に丸投げした。そもそもルゥネ不在なんだから突っぱねられるしな。今のところ、出だしは順調。このまま何日か時間を稼いでルゥネを待つのも手だ。



 ルゥネさえくれば奴等の連携をズタズタに出来る。

 連合は幾つもの国、組織、人間が絡んだ連中だ。一枚岩である道理はないに等しい。利権絡みにしろ、国や王族の血筋の存続に関することにしろ、信頼関係にしろ、先ず間違いなく、ルゥネの【以心伝心】を使えば奴等は内部分裂を起こす。



 そうして争っている内に帝国とシャムザの技術力や軍事力が上がれば勝ち、ないし、対等の位置に立てる。

 俺達はそれまで時間を稼ぐか、一手二手を講じるのみ。



 その後、「そもそもお前帝国に所属したん? 帝国に関係ないし、逃げ回ってた臆病者やろ」みたいな関係ない話をされた上に謎の煽りもされたものの、「いや国のトップ(ルゥネ)居なくて良いって言ったのそっちじゃん。他の奴で構わないっていうから他から来たんだけど」で黙った。



 聖騎士は所詮、聖騎士。たまに聖女をやってようがバカなんだよな、結局。黙ってりゃ良いものを、無理してライの隣に立とうとするからそうなる。



 そんなこんなで、グダグダになった会談は昼過ぎまで続いた。











「さーて……こっちは上々といった様子だが……トカゲの野郎は上手くやってるんだろうな?」



 遅めの昼休憩の最中、ふとテキオがそんな台詞を漏らした。



 思わず睨み付け、撫子らと周囲を確認する。

 休憩所として借りたこの部屋には帝国に関係する者しか居らず、既に盗聴や盗撮を目的としたものらしい怪しいものは確認したし、破壊し尽くしたとはいえ、今の発言は無い。



「何処で聞かれてるかわからないんだぞ? 下手な発言は止せ」

「うっ……悪ぃ。ついな、つい」



 敵の腹ん中で何考えてんだこいつは。



「シキ殿、やはりルゥネ殿を待ってほしいでござる。ゼーアロット殿は拙者らが束になっても敵わぬかもしれない相手。あまり刺激しては……」

「構わん、放っておけ。聖神教は軍、教会問わずイクシアの作った『ターイズ連合』の後ろ楯に過ぎない。『天空の民』もだ。あの場でどうこうしてくる相手じゃない」

「し、しかしな……」

「しっかりしろ撫子。お前が弱気でどうする。目的だった脱退宣言だって出来たじゃないか」



 撫子がこの会談に出席したのは何も護衛として優秀だからという理由だけではない。

 撫子は聖軍を正式に抜けたがっていた。暗殺しに来た奴等をわざと生かして帰したりして言付けくらいは送っていたようだが、代々強力な力を受け継いできた一族がそんなことを認める訳がなく。謂わば家出同然だった。



 休憩に入る直前、撫子はそれを聖騎士ノアとレーセン、教会のゼーアロットに伝えた。もう戻る気はない、と。何なら「貴殿らの正義は拙者の信じる正義から外れている。堪忍袋の緒が切れたというやつでござる。やることなすこと、不愉快でござる!」と啖呵を切ったくらいだ。

 言ってて熱くなったらしいが、直ぐに怖くなって俺の背後に隠れたのにはビックリした。度胸があるのかないのか……後、俺を盾にしないでほしい。



「それにしても……飯が出るのは良いとして、降ろさせないのは嫌がらせか?」

「これ以上、変なもん持ち込まれたくないんじゃね?」



 等とテキオ達と談笑していると。



 コンコンッと部屋をノックされた。



 思わずショウさんに生成してもらった懐中時計を見る。



 まだ休憩に入って十分と少し。



 何があるかわからないと食事はさっさと済ませているが、会談の再開には早い。



「ユウ君、私だよっ、マナミっ。早く開けてっ、誰かに見られちゃうっ」



 …………。



 全員の目が俺に向き、どうする? と無言で問われる。



 俺は僅かに逡巡したのち、扉を開けた。



「ユウ君っ」



 ガバッと抱き付いてくるのは声の主マナミ。

 しかし、その後ろにはライとミサキの姿もある。



「ちっ……小癪なことをする」

「ごめんなさいっ、こうでもしないと会ってもらえないかと思って……それより腕はどうしたのっ? 治してあげようかっ?」



 仕方なく三人を引き入れ、扉を閉めると同時、軽く怒りを露にしながら言う。



「施しは受けないと言った。これ以上、俺を見下すな」

「そ、そんなつもりは……」



 乱雑にマナミを引き剥がし、空いていた席に着かせる。



 ライとミサキは無言だった。

 何とも言えない、気まずげで複雑な顔のライと、必死に怒りを圧し殺しているような顔のミサキ。



 大方、予想は付くが……憎たらしい顔だ。反吐が出る。



「何の用だ?」



 単刀直入にそう訊き、直後に幾つか付け足す。



「ああ、謝罪なら受け取らない。俺とお前達は敵同士。馴れ合うつもりはない。こういう場でなければ真っ先に殺している。それと、この訪問が何かの策略ならこちらにも考えがある」



 言うや否や、手を上げて指示を出し、テキオ達が獲物を向ける。



 唯一撫子だけが首を振って拒否したのをジロリと睨みつつ、忌々しいライの瞳を覗き込んだ。



 マナミとミサキが一瞬眉を動かす等の反応を示す中、一人だけ微動だにしなかったライは何の気無しに向けられた獲物の切っ先を見つめ、やがてこちらに視線を返すと、静かに言った。



「謝りたい。……それがここに来た第一の理由。あの街のことは何も知らされてなか――」

「――受け取らんと言ったが? 耳が聞こえねぇのかテメェは。それとも喧嘩売ってんのか?」



 今度は俺直々に剣を抜き、ライの首に当てる。



 ジル様の爪で造られた剣は例え作り手が代わったところで切れ味が落ちることはなく、ライの高い防御力を無視して血を流させた。



 しかし、それでも身動ぎ一つしない。



 【明鏡止水】。



 感情をゼロにする、厄介な固有スキルの一つだ。



「……第二の理由。俺達は無駄な争いを望んでいない。ああいう建前や立場が邪魔をする場ではなく、もっと自由に、もっとハッキリとお前や帝国の人達と話したい、という意思を伝えに……そして、そちらの真意を聞きに来た。これは非公式の訪問だ。何処の勢力とも関係のない、俺やマナミ、ミサキの個人的な感情によるもの。どうか理解してほしい」



 髪ごと別の思想に染まったようにしか見えないライだったが、思いの外真っ当な意見だった。いや、勇者や連合代表として相応しいかと言われると甚だ疑問だが。



 ライは続けて言った。

 連合軍は統合されたばかりで統率がまるで取れていないこと、実質聖軍が主導していること、『天空の民』との軋轢も生まれており、満足に軍事演習も出来ていないこと等々。



 予めトカゲが仕入れてきた情報ではあるが、統率者として祭り上げられそうになっている本人から聞くとかなりの説得力がある。



 そりゃそうだ、帝国ほどの戦争国家ではないにしろ、小競り合いや戦争、国際的問題を歴史的にも重ねてきた筈の国と国とがいきなり「さあ仲良くしましょう」と言われてその通り出来る訳がない。

 それも聖軍と『天空の民』にナイフを突き付けられて出来上がった急造組織。イクシアや帝国という国単体ですら実情は大分ドロドロしている。愛国心の高い民で構成されているシャムザでも、それは同じこと。


 

 ライとしては帝国が同盟に加入するにしろしないにしろ、『争い事はごめん被る、ゆっくりでも良いから話し合いで手を取り合いたい』と。

 しかし、問題の聖軍と『天空の民』が事を急いており、これまでに何度か望まぬ争いや人死にがあったと。



 実際には人死になんて生易しいものではなく、街一つ、国一つ滅亡しているという情報や何なら一つどころじゃないことは伝わっている。

 その辺は流石にぼかしつつのライの主張は本音に近いものなのだろう。【明鏡止水】やそういうぼかし抜きにしても、切実な思いは伝わってきた。



 こちらも俺個人の本音を言うなら……



 んなもん、テメェの大将共に言えや。何で敵である俺達にそれを伝える? 馬鹿かお前。つぅかお前が向こうの望み通り総大将になれば問題解決出来んだろ。



 なんだが、まあ正直に言ってもな。



 ……ま、こいつらも色々飲み込み、考えた上での行動なんだろう。



 それを踏まえ、歩み寄ってほしいという意見は馬鹿丸出しアホ晒しの恥知らずの厚顔無恥以外の何でもないものの、一考の余地はある。



 少なくともマナミとミサキが付いてきていて、二人揃って何も言わないとこらを見るに、これは三人の総意。俺に対する申し訳なさや後悔、怒りといった感情を捨ててまでの意見な訳だ。友人を失明させた(さっきの)件だって無かったことにしているし。



 つまり、揃って馬の鹿の理想主義者。



 利用は出来る。



 さて、予想外の流れだが、ここはアドリブで……



 と、考えた次の瞬間。



 ドゴオオォォンッ!!



 凄まじい振動が船体を襲った。



 それだけに収まらず、次々と小さい爆発のような振動が起きており、俺達は思わず膝をついたり、壁に掴まるなどして耐える。



『総員第一種戦闘配備っ! 帝国が使者と共に爆発物を持ち込んでいた模様! 現在、各所で連鎖的に爆発が起きています! 聖騎士の方、並びに救護班は速やかに移動されたし! 繰り返す! 帝国は――』



 やられたっ……。



 確かにトカゲに爆弾を仕掛けさせていた。何かあった時の為に時限式ではなく、操作式のものを。



 それを利用された。



 恐らく、最初の爆発は聖軍が起こしたもの。俺達が用意したものは混乱を生じさせるだけの小規模な爆弾だ。この巨大な船体が大きく揺れるほどのものじゃない。



「っ、ユウっ! 謀ったな!?」

「……ダメっ、ここからじゃ何処を修復すれば良いのかわからない!」

「それが帝国の答えってわけね!? 上等っ!」



 俺達が目を合わせて顔をしかめていると、ライ達が獲物を抜いて構え始める。

 完全にこちらの策だと思い込んでやがる。



「ちぃっ、面倒臭ぇっ! 予定と違うじゃねぇかトカゲの野郎っ!」

「あの者っ、早まったでござるなっ」

「クハッ……先手を取られたかっ、奴等の方が上手だったってこった! どのみち、こうなる運命よ!」



 先に仕掛けたのがこちらであり、実際に事が起きてしまった以上、弁明は出来ない。



 俺は腰のマジックバッグから俺専用スラスターを取り出すと、手早く装着していった。


起承転結を意識してるのに出来ない……。出来る人どんだけ頭ええねん……そりゃ純粋なセンスもあるだろうけど、やっぱりプロットがちゃんとしてるんか……?

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