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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第5章 魔国編
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第193話 パヴォール帝国



 帝都に着いた。

 姐さん曰く、物資の補給、技術提供を受ける為に最低でも一週間は滞在する予定だそうで、急ぎたいけど死ぬほど急ぐほどではないという微妙な心境の俺とその他は暇をもらってしまった。



 艦の護衛はテキオら転生者組が付いてくれるとのこと。

 テキオには死んだ魚のような目で溜め息をつかれたものの、敗者という事実は理解しているのか、それだけに留められた。



 命のやり取りをしただけでなく、奴は俺のショーテルによって肩、腕一本がまるまる不随状態になっている。正直、小言くらいは言われると思っていたのだが、まあ掲げるだけあって帝国主義は徹底しているということだろう。



 とにもかくにも、都内に降りてきた俺達は早速帝国の熱烈な歓迎を受けていた。



「何見てんだテメェ!」

「生意気なメスガキがっ、やんのかごらぁ!」

「だあぁもうっ、これで何度目だっ?」

「えっとー……ふんっ、七……あ、八回目だなっ、孤児の強盗事件を入れれば!」



 何とも血気盛んな奴等。俺は目が合っただけで、アリスの方は女が剣を持っているというだけで絡まれた上、揃いも揃って殴り掛かってきたので取り敢えずボコしてその辺に捨てる。



「て、帝国クオリティ恐るべし……」

「あはははは! ここやっぱり楽しいねなっちゃん!」

「少なくとも楽しくはないでござるなぁ……」

「で、ですぞ……」



 俺達の後ろに居たリュウ達も何度か絡まれており、その度に返り討ちにしているのだが、まあチンピラの数が多い。

 最初は奇抜に見えていた道端に倒れている厳つい男共のことも理由がわかって辟易としている。



「出会い頭にぶん殴るのが挨拶なのかこの国は」

「出会って五秒どころか出会って即喧嘩だな。野蛮過ぎるぜ……」



 見渡す限りの路上で喧嘩が多発しており、少々血生臭い。

 血ぃ流して伸びている奴は居ても、死体が見つからない辺り、流石に獲物を抜くことはないようだ。



 空から見た限りだと全体的にレトロな街並みで何処となく暗く、しかし、弱めに光るオレンジ色の街灯が良い味を出してて……ってな感じで感嘆の声を漏らしたもんなんだが……



 降りてみればやっぱ帝国だわ感が否めない。イクシアやシャムザの王都とはまた違った異世界感があって感動したのに。



「……んじゃまあ、後は各自ってことで」

「では拙者も」

「だな」



 アリスは早々にハーレムメンバーと消え、撫子も武器や特産品が気になるとのことで別れた。

 同意した俺もさっさと離れると同時、二人を倣って気配を断つ。



 リュウ達が「え? え? えっ、ちょ?」と置いてけぼり状態だったのは敢えて無視だ。



 一応、リュウは強者の部類に入る。が、如何せん気が弱く、こういう蛮族的な場所とは合わない。

 他も好戦的かつ幼稚なスカーレットに、リュウと同類のジョン(豚野郎)。しかも豚野郎に限ってはレベルが低いとのことで雑魚。奴等には悪いが、全て自己責任であるこの世界で一々お守りなんてしてられない。



 多分、アリスも面倒だと思ったんだろう。一方で撫子は元々追われている身。隠れる理由は幾らでも想像出来る。



「さて……適当にぶらついてみるかな」



 ルゥネからとある工房に顔を出してほしいと言われているので、観光している時間はそれほどないとはいえ、帝国らしい野蛮な部分を抜けば今まで見てきた都の中で最もそれらしい雰囲気だ。どうせなら少しくらい見ておきたい。



 まさに喧騒という言葉が相応しい雑踏に潜り込んだ俺は静かに都と人陰の中に身を投じた。
















「ここ……だよな?」



 ルゥネから手渡されていた地図を何度も確認しつつ、目の前の建物を見つめる。



 帝都の空気は十分に堪能した。



 仄暗い街並みを見ていればその辺の酔っぱらいに「テメェ異国人だな? 何か文句あるのか!?」と殴り掛かられ、何か面白いものはないかと露店を覗いていれば店主に「何見てんだごらぁ!」とキレられること数回。それも飲食、アクセサリー、家具等々、ジャンル問わず。標高の高いところでボケーっとしてれば強盗に襲われ、路地に入れば孤児に群がられる。



 まあ何だ……ルゥネの言う良い街の定義がよくわかった。

 やっぱあいつ、頭のネジが何本か無いんだな。ついでに大事な部品も幾つか。そりゃあ「帝都は良いところですわ!」と熱弁する横でココが捻切れんばかりの速度で首を横に振っていた筈だ。



 で、そんな良い奴等は全部捻り潰して回り、こうして目的地に辿り着いた訳だが。



「どこをどう見てもおんぼろ小屋だぞ……」



 ココやテキオの生まれた地区だというスラム街を抜けた先。

 工場地帯か何かなのか、辺り一面に怪しい塔や横幅のある建物が建ち並び、黒煙が蔓延している。



 似たような掘っ建て小屋もあるが、地図に印が入ったその建物の周辺は特に立地が酷かった。

 何たってゴミの山に建っている。生ゴミこそないものの、鉄屑や家具、使えなくなった魔道具、果ては武具の残骸まで積まれて出来上がった丘のような場所。



 何故か木造のその建物は全体的に薄汚れていて見映えも悪く、煙突からは紫色の煙が出ている。何ならよく見ると傾いているようにも見える。

 極め付きは獲物すら抜いて襲い掛かってきたスラム地区の住民が、俺がその建物を目指しているとわかった途端に姿を消しやがった。



「クハッ……隠密系のスキルまで使うのか……蛇が出るか、鬼が出るか……」



 ボロ着と(すす)で入り口付近の風景に溶け込んでいた放浪者……に見えて目が暗殺者等のソレの男に睨まれながら、建物に入る。



 あまりの臭いと汚れに気を取られて気付くのが遅れた。

 男の懐に一瞬剣のようなものが見えた。あれで用心棒のつもりらしい。何とも帝国らしいというかルゥネらしい場所だ。



 さて、建物の中はというと……意外や意外。確かにおんぼろ小屋そのままではあったが、外から見たほど汚くなく、妙な臭いもしていなかった。

 中で偉そうにふんぞり返って酒を飲んでいた怪しい連中から一斉に視線が集まる。

 


 値踏みされるような目だったものが、俺の仮面に行った瞬間、即座に態度が変わり、全員がその場に膝を付いて頭を垂れた。



「徹底してるな」



 俺がそう声を掛けると、何処からともなく現れた妙な男が卑しい笑みを浮かべながら話し掛けてくる。



「そりゃあ勿論っ、我々は帝国人ですぜ? 強者には従わないと首が飛ぶんでさぁ」



 俺の後ろから急に現れたその男は、膝を付いていてもわかるくらい異様に背が低く、どこかトカゲのような顔をしていた。獣人族なのかもしれない。



 いや、そんなことよりも。



 背後を取られた。



 この俺が? こんな簡単に? ……そもそもこいつは今何処から出てきやがった? 



 分裂した思考の内、一瞬大きい方の思いが表に出そうになるが、こちらの顔は仮面で隠れている。瞳や身体の反応を抑え、毅然とした態度を貫く。



「へへっ、流石うちの『虐殺女帝』様と新帝国軍を下したお方だ。纏っている空気がまるで違ぇや」



 必死に抑えた俺とは正反対のわざとらしい態度。顔や仕草、雰囲気で誤魔化していてもこの男は確実に手練れだ。かつて相対した大剣女達のような帝国人とは訳が違う。



 空気に溶け込んでいたが如く現れたこと。酷く薄い気配。そして何より……入り口の男と同じタイプの目。

 こういう目をする奴は普通じゃない。清濁併せ呑むことはなくとも、その二つを知っている奴がする目だ。



 《気配感知》に関しては素人とはいえ、まるで感知出来なかった。こうして対面していても少し気を抜けば視界から消えそうな雰囲気がある。

 やはりイクシアやシャムザとは別物の空気を感じる。あの二国にもこういう暗部の人間は居ただろう。しかし、モノが違う。



 ルゥネめ、何が要人や要所専用の護衛だ。何が()()独立暗殺部隊でもある、だ。どう見ても後者が本業の奴等だろうが。

 あの女が俺とこいつらの顔合わせをさせる理由……性格からして単に面白がって会わせたな……? 次会ったら尻叩きの刑だ。ついでに揉みしだいてやる。



「下らんおべっかは良い。案内しろ」

「了解しやした、閣下」

「閣下もよせ」

「へいっ、では旦那で!」



 トカゲ男はふざけたような口調で立ち上がると、「こちらでさぁっ」と大袈裟な態度で道を示し、歩き始めた。

 慣れた手つきで狭い室内の隅、床下に隠れていた更なる入り口を開け、先にあった螺旋階段で地下に降りていく。



「あ、足元には気を付けてくだせぇ。ちょいと滑りやすぜ」



 口ではそう言いながら、下から舐め回すような無遠慮な視線を向けてくる。



 ルゥネと親しい仲であり、ルゥネの口利きで現れた俺に対し、ルゥネの性格をよく知っているであろうこの男は言うに事欠いて『虐殺女帝』と宣った。



 反抗する者は古くからの忠臣だろうと殺す。

 そんな徹底した体制や親族を一人残らず虐殺して回った残忍性から付けられたルゥネの俗称を。



 従ってはいても心からの忠誠は誓ってないということだろう。

 俺という人間がどれほどの者なのか値踏みしつつ、装備や金目のものを()()()確認しているような印象を受ける。



「そう言えば……少しでも気に食わないのが居れば誰を殺しても良いと、お前の言う『虐殺女帝』ルゥネから直々に許可が出ていてな。何処かに面白くない奴は居ないか? 例えば今日一日俺を尾行していた奴等の親玉とか……」

「ひえぇ、これまた怖ぇお方だ。バレてらぁ……ひひっ」



 まるで意に介していない態度だった。



 今更〝死〟など怖くない、とでも言うような……

 ルゥネと同じ、死線すら楽しんでやるという気概。



 成る程面白い。ルゥネが言っていた通りの男だ。



「くくっ……」

「? 何か面白いことでも?」

「お前の部隊はルゥネ相手でも金次第で裏切るらしいな」

「……誰から訊いたんです?」



 今度は流石にふざけてられないらしく、真顔も真顔、声もマジだった。



「そのルゥネからだ。あいつの力は知っているな。どんなに隠そうとあの女の前では全て筒抜けなんだよこのマヌケ。例え心の奥底にしまい込んだ願望や野心だろうがな」

「へっ……へへっ、そいつぁ手厳しいぜ旦那ぁ」



 冷や汗でも垂れたような反応。数の暴力がどれほど恐ろしいものであるか知っており、尚且つルゥネの力に畏怖の念を抱いたのだろう。

 だが、それでも態度を戻して見せた。つくづく面白い奴だ。



「っとぉ……もう少しですぜ、ほら見えるでしょ?」



 この会話を続けたくなかったのか、あからさまに話題を変えたトカゲ男の指差す先には、この螺旋階段の終焉に相応しさすら感じる重苦しい金属製の扉があった。



「研究所はこの先でさぁ。既に旦那専用装備が幾つか出来てるって話です。……んじゃ、あたしゃここまでだ。ひひっ、旦那とはどうも良い関係を築けそうだ。今後ともご贔屓に。それでは……」



 トカゲ男は言うだけ言うと、現れた時同様、空気に溶け込むようにして姿を消した。

 後は一人で行け、自分の任務はここまで、ということだろう。



 何事もなかったように歩き、扉を開く。

 そうして閉める瞬間、静かに言う。



「幻影……いや、単純に自身の姿を不可視にする固有スキルか? 普通じゃねぇ、只者じゃねぇって空気を出しすぎだ。普段からもう少し卑しい演技をするんだな」

「……っ」



 僅か……本当に僅かではあるが、笑ったような息が漏れ聞こえた気がした。















 帰城。



 テキオが今日だけで三回の襲撃があったと伝えてきたのを、「知らん、そっちの問題だろ」と一蹴しつつ、食事をとる。



 帝国料理らしいが、肉と果実が多い、味が濃いというのしかわからん。シャムザも濃かったが、向こうは香辛料が多かった。こっちのは……塩だなこれ。しょっぱい。戦う為、もとい、塩気や栄養を取る為にこうなったんだろうか?



「ひっでぇ。こちとら、お前のせいで腕動かねぇんだぞ。少しくらい手伝ってくれても良いだろ。暇なんだよ」

「話し相手が欲しいんなら他を当たれ。アリスとかどうだ? 多分互角くらいだろ、強さ的には」

「んぁ?」

「……いや、アホそうだから遠慮するわ」



 ハーレムメンバーにあーんしてもらってたアリスのアホ面を見てそう言ったテキオに対し、アリスが即座に「んだテメェ! 喧嘩売ってんのか!」と吠えるが、しっしっと雑に対応されていた。



「そんなことより酷いよシキ! アリス達も! お陰で酷い目に遭ったんだから!」

「知るか。いつまでも遊び感覚のお前らと一緒にするな」

「あん? お前だって女居たらそっち優先すんだろ」

「拙者はどう行動しようと暗殺者が来るんでござるよ? 寧ろ、拙者と一緒に居なかった分、絡まれる回数は減ってる筈でござる。まあスカーレット殿のお守りを任せたのは悪かったと思ってるでござるが……」

「うっ……正論パンチが痛い……」

「ぶひぃ……」



 予想通り絡まれまくったらしい。



 まあ一人は幼女、一人は豚、一人はオドオド野郎だ。逆に絡まれる要素しかない。

 つっても全員怪我した様子はないし、スカーレットに至っては会話も儘ならないくらい夢中で飯にがっついている。多少疲弊したくらいで撃退は余裕だったんだろう。



「ユウちゃんは一人で何してたんだ?」

「そう言えば、拙者らの後に別れてたでござるな」

「機密事項ってやつだ。悪いが何も言えない」

「はっ、姫もよくやるぜ……何が尽くすタイプだ、尽くし過ぎだろ」



 テキオがぶつぶつ呟いているが無視する。

 簡単に言えば、ルゥネが使える最大限の伝手で俺専用の装備を造ってるんだからな。俺より自分を優先してほしいという気持ちは理解出来る。



「アイと中二病野郎はどうしたんだ?」



 整備兵や技術屋の一軍がルゥネに付いていったこともあり、『砂漠の海賊団』に技術提供をしてくれているのは二軍の連中なのだが、その中に居る生き残りの転生者は何人か見かけても、ココやテキオと同じルゥネの親衛隊の連中……特に顔見知りのアイ達は今日一日見ていない。



「あ? あー……あいつらは別の仕事だ。面倒臭ぇ反抗勢力の見張りよ。特にアイは大変だよな。能力的に」



 モグラのような獣人族として生を受けた転生者アイの固有スキルは【飛耳長目】。視覚と聴覚を任意の地点に移動させることが出来る能力らしく、情報戦のエキスパートだと聞いた。

 逆に中二病野郎の方はただピカピカ光るだけの雑魚固有スキルだそうだが、まあ腐っても前衛の転生者。暇ってことはないな、確実に。



「邪魔な勢力は粗方潰したんだけどなぁ……どうも頭の固い一部の連中が現状に不満のある奴を煽動してるみたいなんだ。姫は『適当に掃いてダメなら一ヶ所に纏めてから掃きなさいな』って言ってたけど、あんまり大きい抗争は不味いんだよ」

「ふーん……?」



 深々と溜め息をついたテキオに、思わず何故だと訊き返しそうになったが、直ぐにピンと来た。



「あぁ、何となくわかった。当てられて暴徒が増えるのか」

「そうっ。そうなんだよっ。帝国臣民には戦闘バカしか居ないからな。蛮族ムーブがヤバたにえんや」



 面倒臭がりのこいつが表情に生気を宿らせてまで愚痴りたいくらい酷いらしい。



 近くで殺し合いが起きて落ち着かないとか怖いとかならまだ理解出来る。

 しかし、ここは戦争万歳国家の帝国。「お? 楽しそうじゃん? 俺も混ぜろや!」みたいなのがどうしたって湧いてくるんだろう。転生者のように別の世界や国の常識を持っていればそりゃあ疲れる。



「「「「「うわぁ……」」」」」



 アリス達も揃ってドン引きしている。

 今日だけで帝国の国民性を身を以て、嫌というほど、もう見たくないくらい知ったからな。



 けどまあ。



「ホント、嫌になるぜこの国はよ……」



 心底うんざりしたような顔だが、声音はそうでもなかった。



 家族のちょっとした愚痴を言っている時のような、僅かな笑みが見え隠れしている。



 たった一日ではあるが、俺もルゥネが良い街だと言っていた理由が理解出来た。



 実際、色々と狂った連中が集まった結果出来上がった国なんだろう。

 噂通り、酷い扱いを受けている奴隷も居た。孤児も多ければ野盗のような奴も大勢。



 しかし、イクシアやシャムザとは確実に違う部分があった。帝国の長所であり、短所でもある根本的なものが。



 聞けば奴隷や孤児でもレベルが上げられるようにと、主人や保護者には彼等にある程度の自由時間を与えなければならない法、国やギルドには安い武器や防具を貸し出す制度が定められているという。

 ローマのコロッセオのような決闘場もあった。冒険者ギルドや教会、孤児院でも「やりたきゃやれ。好きに生きろ」的な風潮を感じさせた。



 そこで大成すれば待遇は改善され、腐っていれば死ぬだけ、搾取されるだけ。下克上も法的に許されている。

 奴隷の下克上は首輪や奴隷紋で封じられるだろうが、強さを認めてもらえば信頼も得られる。



 犯罪を取り締まる筈の憲兵も兵士も酒を飲んで潰れている奴等ばかりで治安は最悪だった。

 だが、そもそもの部分に「弱いのが悪い」、「やられる方がマヌケなんだ」という国民性があるのだ。



 ある時、屋台の売り物をまんまと奪って逃走した孤児を見かけた。

 生きる為に必死なのだろう孤児には追い付けなかった店主を見て、通行人は笑っていた。店主も「やられたっ、畜生!」等と悪態をつきながらもにやついていた。



 逆に何か悪いことをして捕まった孤児も見かけた。

 俺が見た時には既に当然ボコボコにされていたが、店主が唾を吐き捨てる中、通行人の何人かは「坊主っ、次は上手くやれよ!」と金を恵んでいた。



 そこに多少の種族蔑視はあれど、人族獣人族関係なく、フェアな扱いをしていた。ココのような、ハーフ魔族らしき者もだ。



 何と言えば伝わるか……



 この国の奴等は生きていた。



 生気が感じられた。



 何としても生きてやる、という気概があった。



 どこまでいっても弱肉強食。自然界だろうと、人間のコミュニティだろうと、結局はそこに行き着く。

 だからこそ、それがこの国のルール。謂わば、綺麗事を全て取っ払った国とでも言うべきか。



 そりゃあステータスなんてものがある世界だ。強くなれる奴も居れば、リュウのような雑魚職業に生まれて一生食い物にされる奴も居る。



 だが、それでこそ生の実感がある。それで生きてこそ人生だと言わんばかりの人々だった。



 理不尽こそが世の理であり、気に食わなければ自分でどうにかしろ、という信念のようなものが如実に感じられた。



「死あっての生……生あっての死……死があるから生が実感出来る、か……」



 行きと帰りでは蛮族らしい喧騒は少し違った見方が出来た。



 都全体に立ち込めるチリチリとした空気も、血生臭い通りも、殴り殴られながら笑っている人々も、誰もが〝自由〟に生きていた。



「合う奴にはとことん合うな、この街は」

「へっ、だろ?」



 どこか誇らしげな顔でテキオが笑う。



 こいつは固有スキルあっての理不尽な強さを持っている。

 そのせいで、小さな頃からやっかみが多かったらしい。周囲が妬む気持ちも、転生者故に自我があるとはいえ、親から捨てられて荒むテキオの気持ちもわかる。



「帝国人が揃いも揃って戦闘狂な訳だ。こんなところで生まれ育てば他国なんかぬるま湯。つまらなくて当然、暴れて当然だ」

「俺達転生者もな、最初は嫌で嫌で仕方ないんだ。昨日は元気だったダチが次の日は起きてこねぇ、どっかに行ったまま帰ってこねぇなんてザラよ。挙げ句、うちの姫みたいに狂いに狂った奴も居れば、アイみたいに一貫して最悪の国だって言う奴も居る」



 けど……と、テキオは酒を飲みながら続けた。



「そう言う奴等に限ってこの国を出ていこうとしない。んなことをグダグダ言うだけで強くなろうとしない奴は淘汰されるからな。一貫してそう言える奴は()()()()()奴等だ。それがわかってるから他国(ぬるま湯)には行かねぇ。持ってない奴等と同じ世界に行っちまうと弱くなっちまう。この国で持ってない側として生まれた奴等は持ってないなりに生き足掻くのさ」



 異世界人特典や転生者特典で強くなれる素質があるのは一種のアドバンテージ。

 しかし、それでも死ぬ時は死ぬ。だから、死なない為に逃げるのではなく、生きる為に強くなる……そういうことなんだろう。



 本気で殺し合った間柄だからこそ、俺達の間にも通ずるものがある。



「確かに良い街だな」

「おう、良い街だろ?」



 何やらわかりあったような気持ちになった俺達は「あいつらヤバくね?」、「良くはないでしょ、良くは」、「あれは持ってる側の視点ですぞ……持ってない側は生きるのに必死なだけなんですぞ……」、「拙者は待ってる側で良かったでござる……」等とヒソヒソしているアリス達を無視し、酒を飲み交わしたのだった。


過去、何処かにアイの固有スキルについて間違って記載した記憶が……名前だったか、内容だったかも忘れましたが今話に出たのが正しい能力です。

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