第191話 絡み合った思惑
食事中の方等は注意が必要な描写があります。
「成る程成る程……? 確かにバーシスとそんなに変わらないな……基本設計が同じ……同じ規格……? いや、同じ生産元ってとこか?」
「う~ん、どうだろうね。戦争してると自然と何処も同じ規格になる、みたいなのは聞くけど。銃とか特にそうだよね。同じにしとけばどのゴーレムでも扱えるんだもの」
「……つっても、シエレンの例もあるしな」
「まあねー……」
『砂漠の海賊団』が起こした強奪事件から早一週間。
シキとセシリア一行はまだ国内の空を飛んでいた。
シキは自分に着いてきてくれた仲間達に巡洋艦の運用を慣れさせつつ、セシリアはディルフィンの飛行テストや性能確認をしつつ、各方面の街に向かっては降下。何やら物を売っているようだった。
「ねぇシキさん、船長さんってもしかして……国宝を売って回ってるの?」
「出ていく物に対して積む物資が毎回多いのはそのせいっすかね。街にそれだけの金があるとは思えないっすし」
甲板上に片膝を付いて停止しているアカツキの前で何やら話し合っていたアニータとレドがふとそんなことを訊いてくる。
シキはアカツキのコックピットハッチから中に半身を突っ込んでリュウと操縦方法を確認しており、丁度集中力が切れて話が逸れたところだった為、四つん這いのままバックし、ハッチに座り直した。
「ん? あぁ悪いリュウ、ちょっと休憩だ。よいしょっと……よくわかったな二人共。アホアリスはわからなかったのに」
「あーんっ!? ユウちゃんっ、今何か言ったかーっ!?」
普通の声量の筈で、しかも相手は別の魔導戦艦に乗っている筈なのに聞き取られたことに内心かなり驚きながらも、「相変わらず自分の悪口の時は地獄耳発揮するな……」と呟く。
チラリと視線をやれば離れた位置を飛んでいる巡洋艦の甲板の手すりに寄りかかり、こちらを睨んでいるアリスの姿があった。
「まあその、なんだ……あそこのアホには昨日話したんだが……何で姐さんがディルフィンだけじゃなく国宝まで奪い、しかも売っているのかわかるか?」
指を指した瞬間、「またバカにしただろ!」等と聞こえてきたのを、手でシッシッしつつ、シキは二人に問いを投げ掛けた。
「え? 何でって……お金や物資になるからじゃないの?」
「っすね」
「戦争で疲弊したこの国にそんな余裕があると思うか? ついでに言えば、アーティファクトが国中に出回っている今、国内の情報を得ることが容易い筈の各街が奪われた国宝を態々買い取ると思うか?」
二人は返ってきた質問に一瞬、互いの目を合わせる。
「余裕は……無さそう、だよね」
「えっと……強奪事件は知ってる筈で……物を売りに来た人達が『砂漠の海賊団』っていうのは一目瞭然っすよね……? なら持ってきた物は奪われた国宝……それはわかる……っすけど……」
彼等も戦争経験者。「ヒントがあればわかりやすいか」と自問したシキは「じゃあ国宝ってのは何だ? どういうものだと思う?」と再度訊いた。
「ん、う~ん……ん、、んー……? 金銀財宝……兎に角、お金になりそうなものかな。戦争で負けたらお金の代わりに差し出したりする、よね、多分だけど……」
「あ、歴史的価値があるものとかもありそうっすね! 後は使い勝手は悪いけど、物凄く使えるアーティファクトとか!」
悩みながら答えを出した二人にとって、そこから先の発想を得るのは容易だったらしい。
「「……あっ!」」
と声を上げた二人を見て、未だにこちらをジーッと見ているアリスに「教養のない二人はわかって、何でお前はわからないんだ……」と憐れみの目を向ける。
次の瞬間、凄まじい速度でナイフが飛んできた。
余程、ムカついたらしい。
「ふーっ……ちょっと僕も風に当たあひぃんっ!? 何か掠った! うわっ、か、髪がっ!?」
「あ、危ねぇ……軽く数百メートルはあるぞ……どんだけ正確なんだ奴な目は……」
タイミング良く、そして運悪く出てきたリュウの頭上をギリギリで通過したナイフはそのまま何処かへ飛んでいき、ドン引きしたシキとリュウが「えぇ……?」みたいな顔でアリスの方を見ると、ばつが悪そうに静かに手すりの裏に沈んでいった。
「……本当にアホだなあいつ」
「アリスのアホーっ! 僕を殺す気かーっ!」
シキは完全に呆れ、髪が結構な量犠牲になったリュウは泣きそうな顔で叫ぶ。
と、ここで二人が答えを訊いてきた。
「どんな形にしろ、価値があるってことはナール王子が回収しに来るってことだよね? で、各街に余裕がないのはナール王子が一番わかってると……」
「あー……そうだな」
「新しい王様に即位したばかりっすし、まさかそんな時に無理やり取り上げるなんてことはしないっすよね。そもそもレナ様も居るっすもんね!」
「そうそう」
あまりのアホさ加減に引ける限界に達してしまい、思わず返事が適当になったが、アホは今に始まったことじゃないと諦め、纏めて答える。
「要するに……奴は立場上回収せざるを得ず、立場上タダで返してもらう訳にはいかない。国宝ってのは奴にとってそういう厄介なものなのさ。ま、特に今回は事が事だし、事情が事情。街の長に説明して、街全体で出せるだけの物資と交換してもらってるってとこだろうよ」
金よりも物資を欲しており、かつMAXには積めない為、積めるだけ積む程度の『砂漠の海賊団』。
金も物資もそれほど余裕はないが、今の『砂漠の海賊団』に渡せるだけの量は何とか用意出来る各街。
加えて、各街が得た国宝を適正価格か、もしくはそれ以上の価格で買い取ってくれるであろうナールの存在。その上、レナという監視役も居る。
「アホアリスみたいに最初は理解出来なくとも、利がわかるからこその長だ。ちょいと説明してやれば簡単に常駐している兵や騎士を抑えてくれる。軍への通報もな。で、ナール達が来た頃には街の民と口裏を合わせてこう言うんだ。『出せるだけのお金と物資で、幾つかの国宝を買い取ることが出来ました。奴等、国宝より金と物資の方が欲しかったみたいで……ただ、そのお陰でちょっと街の経営がですね……』とか何とかな」
「うへぇ……何度聞いても狡いやり口っ……流石海賊っ、流石大人っ……汚いよね色々と……」
ナール以外の誰もがWin-Winで得をするのだから、リュウが言う狡さや汚さはあれど、さほど悪いことでもない。
また、ナールやレナも逃げ場はないにしろ、金や物資を配る口実にもなるのだ。
それが多少高かろうと、返ってくるものがあるのだから納得は出来る。
「王族は行動する為の資金を失い、各街と俺達は潤う。当分の間、ナール達は資金集めに躍起になり、技術提供と賠償金の受け渡しが確定している帝国からも絞り取れる。現状の過程を見ればナール達が損をしているようだが、最終的な結果だけを見れば実はそれほどでもないんだ。どうせその内、回収は出来るし、潤った街からは支持も集められる」
感心し過ぎて付いていけなくなったのだろう。
アニータとレドの返答は「は~……成る程~……ホント、大人ってさー……」みたいなものだった。
「あの反応わかるなー……僕達も気付いたら大人入りしてたってことかな」
「いや、多分大人になるってのはそういうことなんだろ。クハッ……怖い女だよ、姐さんは」
そんなやり取りや思惑があり、彼等の出国はもう少し掛かりそうだった。
◇ ◇ ◇
「これが魔導戦艦とアンダーゴーレムってやつか? へぇ~こんなのが空をねぇ……イサム、どうだった?」
「飛んだよ、間違いなく。スカ……じゃない、地上ではエアクラフトって呼ばれてるんだっけ? あの城に居ると今一慣れないな……エアクラフトとスラスターの調子はどう? 慣れた?」
「はっ、順調も順調よ! アンデッドになったところで異世界人は異世界人ってことなんだろうぜ!」
フードを深く被った二人。
一人は顔に傷でもあるのか、能面のような白仮面を被っており、もう一人は何処となく嫌な臭いを発している。
白仮面じゃない方の見た目はフードのみ。顔は白仮面より隠されており、唯一特徴と言えるのはその男から発せられる独特の臭いだった。
二人の視線は銀色の魔導戦艦からこれまた銀色の機体へ、挙げ句にはそれらを整備している者へと向けられる。
「何だぁ? 女が居んのかよ。それに変な髪してやがる……」
「整備兵ばかりで一部以外は前線に出ないそうだけどね」
「チッ……こんな身体じゃなけりゃ楽しむんだがな」
「……君も好きだね。最初なんか頭部も無かったところを、ゼーアロットさんが治してくれたんだって?」
「まあな。生き返らせてくれたことといい、頭が上がらねぇぜ」
正体を隠すつもりのない会話とねっとりとした視線は聞く者を不快にさせ、女には悪寒を与えた。
注意しようとでも思ったのだろう。
近くで何やら作業を行っていた女整備士がツカツカと歩み寄り、怒鳴り付ける。
「ちょっとそこ二人っ! 勇者だか何だか知らないけど、見学ならよそでやって! 何よ偉そうに値踏みするような目ぇして! それとこの臭いっ、仕事にならないじゃない!」
戦艦と機体同様、銀色の髪を持った女性だった。
その女整備士だけでなく、近くに居た男女の全てが同じ髪色をしている。
「あん? 何だこの女。ぶっ殺――」
「――待ったシュン。短気なのは君の悪いところだ。彼女達は地上に降りてきたばかりでストレスが溜まっているんだよ。第一、ステータス補正も無ければ魔法も使えない、可哀想な人達に対して君の態度は少し大き過ぎる。ごめんねお姉さん、怖がらせたよね」
何もかもがズレている。
誰もがそう思い、しかし、黙した。
何故ならこのフード二人組は彼女らにとって特権階級の人間だから。
見下されるような発言は当然面白くなく、中にはあからさまに顔をしかめている者も居る。が、怒鳴るという行動に踏み切った彼女ですら黙って二人が居なくなるのを待っている。
一人は「けっ、相変わらず女に甘ぇんだよお前は。ああいうのはわからせてやった方が良いだろ。雑魚のくせによ……」等とぶつぶつ言っているものの、イサムと呼ばれた白仮面は「まあまあ」と宥めながらその場を離れていく。
「待った。掘り返すようで申し訳ないが今の態度……この船を預かる身としては看過できないな」
そう声を掛け、二人を止めたのはライだった。
髪こそ白くなっているものの、同性ですら認める甘いマスクは健在。兜以外の鎧を身に付け、腰には聖剣を下げている。
その隣には嫌悪感丸出しの顔のマナミとミサキも居る。
「あ?」
「イナミ君! 久しぶりだね!」
怒気に満ちた声と嬉々とした声が返ってくる。
ライはそれらを手で制し、続けた。
「君達が同行するという話は聞いた。早瀬……お前がゼーアロットさんの【死者蘇生】で甦ったことも。同行はまあ良い。顔も見せられない奴と腐った肉体を持った魔物同然の奴だろうと、邪魔さえしなければな。だが、こうして問題を起こすようなら即刻降りてもらう」
鋭く冷たい瞳と、冷たく突き放す声。
普段は柔和な笑みを浮かべている好青年とは思えない顔つきだった。
それだけ二人を嫌悪しているという意思表示でもあり、感情がゼロになる筈の【明鏡止水】を使っても尚、その感情が漏れるほど強いものでもある。
「……面白くねぇなイナミ。大体、何でテメェが頭なんだ? 大した功績は――」
「――無いな。確かに無い。けど少なくとも君達よりはある。俺達がジンメンの鎮圧をしている時、勇者としての責務を全うしていた時、こうして『天空の民』と組めるよう交渉していた時……君達は何をしていた? イサム君はただ引きこもり、お前は死んでいただけじゃないか」
「いやはや……手厳しいなぁイナミ君は……」
「チッ、行くぞイサム!」
困った様子のイサムを連れ、歩き出そうとした早瀬を、今度はマナミが止めた。
二人の前に立ち塞がり、強い意思で睨んでいる。
「……何だよ」
早瀬が気まずげに小さく呟き、マナミは以前とは打って変わって毅然とした態度で返した。
「貴方達はユウ君を殺そうとし、負けた。早瀬君に至っては殺された筈……それを生き返ったんだか何だか知らないけど、こうしてまた出てきて……今度は何を考えているの? 目的は何? 何で私達に同行するの?」
普段は直ぐ突っ掛かるミサキも流石に空気を読んだのか、一触即発の雰囲気の中、事の発端だった女整備士を逃がし、周囲にも離れるように手で合図している。
「「「「…………」」」」
暫くの間、互いを睨む無言の時間が続いた。
嫌悪と怒り、疑念の混ざったライとマナミ。
ヘラヘラした態度のイサムとただ睨み返すだけの早瀬。
しかし、途中で我慢出来なくなったかのように二人は噴き出した。
「ぷっ! あはっ、あははははは!」
「くっ……くひゃははははは!」
笑い方は異なるものの、示す感情は同じ。
何をバカな、という愉悦に似たそれ。
ライとマナミは無言で睨み続け、二人の笑いが止まるのを待つ。
元より常人とは思っておらず、狂人の部類だとわかっている相手だ。今更笑われたところで怒りの感情は湧かない。
やかて十分に笑い切った二人はほぼ同時にフードを外し、イサムは仮面を外して見せた。
「「っ……」」
「ひっ……!?」
そういったものに慣れた筈のライ達が思わず顔をしかめ、目を逸らし、眉をひそめるほど醜い顔だった。
イサムは鼻が潰れ、鼻、目、口の穴が辛うじて残っている溶けた顔。
早瀬の顔は腐っていた。肌の色は変色し、元の整った顔からは想像も出来ぬほど潰れている。何やら妙な体液まで漏れたその顔は無理やり顔の形を戻そうとしたような、そんな酷い容姿であり、虫が居れば集っていたであろうことが窺えるものだった。
眼球すら蒸発し、顔のパーツが一体化していたイサムをある程度治療し、更生させた。
本物なのかどうかすら怪しい魔物の姿ではあるものの、死んだ筈の人間を……早瀬を甦らせた。
それを行ったらしいゼーアロットはさておき、二人の顔はあまりに醜く、あまりにおぞましかった。
食事もまともに取れないのではないか、まともに呼吸するのも難しいのではないか、そういった疑問が浮かぶ顔。
本人達からすれば顔があるだけ、生きているだけ良いのだろう。
感謝こそすれ、憎む筋合いはないと、そんな態度だ。『それが出来るなら何故他に出来ることをしない……?』という持って当然の疑問すら抱いていない節すらある。
だが、だからこそライ達は察した。
「……復讐か」
「勿論! 僕達をこんな目に合わせた報いは必ず受けさせないと!」
「あの野郎はぜってぇ殺す。誰に止められようと、これだけは絶対だ。あの痛みと恐怖、そっくりそのままアイツに返してやる……!」
憎悪に満ちた目。
醜い顔と精神とは違い、生気に満ちたその目は爛々と輝いて見えた。
ライ達が「これは止められない」と悟るような眼光だった。
「……イサム君、今のレベルは? 早瀬、固有スキルを失ったって話は本当か?」
「うん? あぁ、僕のレベルは90だね! 余計な仕事を回され続けたせいでレベリング出来なかったイナミ君よりは高い筈だよ!」
「あ? っせーな! どうでも良いだろ! 悪いかよっ!?」
ライにはやたら好意的な感情を抱いているイサムの本心は読めないが、心からの味方ではないが根っからの敵でもない、という認識は互いに一致している。
故にライは「そうか。……なら良い。同行は許そう。だが、さっきみたいな問題だけは起こすなよ」とだけ言うと、二人を魔導戦艦に上がらせた。
「じゃあまたイナミ君! ミサキも!」
「何がなら良いだクソがっ……」
二人が居なくなるのと同時、ライは無言で『風』の属性魔法を使って換気。早瀬の身体から発せられていた腐臭を払う。
「……ねぇライ。あの二人、ホントに連れてくの? アタシ、物凄く嫌なんだけど。態度もデカいしさ」
ナチュラルに人を見下し、マウントを取り、無視をする輩は何処にでも居る。
散々、何処かズレた認識で話していたイサムや早瀬は極端ではあるが、良い例だろう。
それを嫌ったミサキは臭そうに鼻を摘まみ、手で扇ぎながら言った。
「止めたくても止められないさ、ああいうのは。それに……最後の質問の答えが本当ならユウは負けない。少なくとも、あんな奴等にはやられない」
「……だね。ミサキちゃんもユウ君を憎むのは止めないけど、手を出すのは止めといた方が良いと思うよ? あれから時間も経ったし……この期間でユウ君が強くなってない訳がない。ユウ君はそもそもがそんなに弱い人じゃないんだよ。多分、ライ君でも……倒せないんじゃないかな」
「俺もそう思うな。油断があったって言っても、前回負けたのは事実。認めたくないけど、結果だけを見れば事実だ。誰よりも負けちゃならない俺が誰よりも負けたくない奴に負けた。戦闘センスも技能もステータスも負けちゃいない……努力だってしている。けど負けた。それだけは認める必要がある」
マナミの発言と意外にも頷いて見せたライ。
まさに反省といった様子の二人には何の悪意もなかったが、何やら我慢できなかったらしいミサキは目を見開いて噛み付いた。
「煩いわね! 何と言われようと、アイツには一発蹴りを入れてやらなきゃアタシの気が済まないのよ! ライっ、あんたも弱気なこと言わないで! あんなっ……人の精神に脅しを掛けたり、騙したりしてくる奴になんか……!」
「あの場に居ながら何も出来なかった俺達に……何も知らなかった俺達にそんなことを言える資格はないよ。どう言い訳しても、あの場では俺達が悪者で、ユウと街は被害者だった。俺達……いや、俺に対して怒るのもわかる。だからせめて、一言だけでも謝りたかった」
【明鏡止水】を解いたのか、ライは顔をくしゃりと歪ませると、そう言った。
「さ、俺達も行こう。今回の旅はゼーアロットさんも来るらしい。一応、挨拶くらいはしないとね。シャムザは戦争の後始末に追われてて少し猶予が欲しいとの返答があったそうだから、最初の行き先は帝国だって。シャムザ方面に行ったであろうユウには出来ればもう一度会って話がしたいけど……まあ仕方がない。帝国に行ってからシャムザ……あの二人もそれを見越して付いてきたんだし」
「正直、何が親善大使だって思うけどね……こんな見え透いた手……脅迫以外の何でもないよ。しかも両国は戦争して疲弊してるんでしょ?」
うんうん頷いて話を進める二人に、ミサキは小首を傾げて訊く。
「……急に何の話? え、全然わからないんだけど。あれ? その二国にイクシアが今他の小国と結んでるっていう何ちゃら同盟に参加するかどうかってのを聞きに行くんでしょ?」
「だから、それを直接……しかも私達勇者一向と『天空の民』の女王ロベリアさん、聖神教を代表してゼーアロットさんが聞きに行くっていうのが脅迫なんだよ。その二人に至っては魔導戦艦の艦隊を引き連れて行くんだから。暗に『言うこと聞くよね? 当然手を組むよね?』って圧力になっちゃう。武力を用いた時点で不和を生むっていうのに……その上、相手は戦争国家の帝国。問題にならないって考える方がおかしいよ」
実情は兎も角、外面上の二国の戦争理由としては元々ナール王子と前シャムザ王が帝国の前皇帝と組み、アーティファクトの売買取引を行っていたところ、運悪く両国で同時に内乱やクーデターが勃発し、有耶無耶に。以降、両新政権の仲が自然と裂かれてしまった為、欲を出した新帝国軍が侵攻し、シャムザがこれを撃退……という流れになっている。
ルゥネの戦闘狂っぷりやヴォルケニス、シャムザのアーティファクト発掘についても、『天空の民』や聖軍による情報提供で知られている。
唯一無いのはシャムザに居たシキ達の存在に関する情報や戦争の詳細。
事実として勝ち負けの結果と技術、物があることが知られているだけで、人に関する情報はそれほど無いのだ。
故にシキ達が帝国に向かっていることも、ルゥネが帝国から離れてシャムザに居ることも、より猶予が必要になったシャムザのことも、ライ達は勿論、ゼーアロットやロベリアといった別の勢力の人間は一切知らなかった。
「へー……政治的なことって何でそんなに難しくするのかしらね。話し合いで全部決められれば良いのに。いやほら、獣人族とか魔族とかの問題は置いといてさ」
「それがどうしても難しいんだよ、人間にはね。ユウと妹も言ってた。人には人が人である所以の知能と理性、感情がある。だからこそ、争いは永久に終わらないし、話し合いなんて出来ないって。前はよくわからなかったけど……今なら少しだけわかる」
「あの二人らしい考え方だね。……ユウ君とメイちゃん、元気にしてるかな」
重なり合った思惑と事情がどんな出会いを生み、どのような結果を生み出すのか。
今はまだ、誰も知らない。
???「ひゃっはは! ダメじゃないか! 死んだ奴が出てきちゃあっ!」
来週の更新ですが、ちょっとバタついてるので書けなかったらアーティファクト関連の用語解説回になります。




