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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第1章 召喚編
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第20話 出会い


 二日後。


「奴隷とかどうでしょう?」


 との案から国と繋がりのある奴隷販売店へやってきた。


 『奴隷なら何でもござれ』と書かれた怪しい看板がある割には小綺麗な白い建物で、見張りらしいゴツい人も立っている。


「奴隷か……」


 なんて遠い目というか、諦めたような目で看板を見上げるライの横でつい呟く。


「勇者パーティに奴隷とかとんだ皮肉だよな。いやまあどっかの勇者パーティには盗賊居たけど」

「皮肉っていうか……まあ何か嫌だよね」

「僕はこの雰囲気が既に嫌かも……」


 マナミ達もライと同じように辟易としているような顔だった。


 建物は綺麗だが、付近の治安は少し悪そうでそういった雰囲気的にも裏表があることを窺わせる。

 

 しかし、この世界の殆どの国では奴隷制度が認められているのもまた事実。


 名前の響きから想像出来る酷い扱いを受けている人間も居れば普通の従僕よりも上等な扱いを受けている者も居るらしい。


 主人の言うことを聞かなかったら激痛が走る首輪付き。


 ジル様もパーティ補強の為だから行ってこいと外に出ることは許してくれたけど、仲間探しの宛が奴隷と知って微妙そうな顔をしていた。


 戦争で大量に生まれ、そして大量に使い潰されるんだとか。


 戦争体験者……それも前線で剣を振るう人はやっぱり言うことが違う。


 とはいえ、「強い奴も居るには居るぞ?」とのこと。


 ライとしても、「勇者として現実は見ておかないと……」とか何とか大層な考えがあるようだ。


 臭いものには何とやらとまでは言わないが、何で自らそれを開けようとするのか。全くこいつは……それでいて金もあんまないってんだから笑えない。


 思わず横目でじっとりと親友を睨みつつ、そんな親友に付いていく自分にも呆れつつ、皆で中に入る。


「意外と綺麗だな」

「ここは派遣会社……人材紹介所……俺は国から推奨されて仕方なく……」

「……ライ君ぐちぐち煩いよ?」

「入り口の人もよく見たら首輪付けてたね」


 内装も見かけは良かった。


 が、やはり何処か薄暗く感じた。


「おお、これはこれは皆様方っ、よくぞいらっしゃいました! 準備は出来ております! ささっ、こちらになります!」


 店長らしき渋い男が揉み手をしながら現れ、直ぐに案内が始まる。


 予め話を付いているらしい。


 マナミの能力を考えると、何だかなぁと思ってしまう。


 リュウも同じことを考えていたのか、同時にマナミの方を見て目を合わせ、小さく溜め息を吐く。


「? なーに?」

「「何でもない」」


 リュウと目だけで「これ誘われてるよな?」、「完治不可の傷を負って奴隷堕ちとかありそうだしね……」等と会話していると、客室に通された。

 

 ソファーに座るよう促され、待つこと数分。


 奴隷商の店長が数人の奴隷を連れてやってくる。


 戦士風の男が二人、女が四人。


 全員、みすぼらしい服を着ているせいで肌の露出が多かった。


 特徴としては俺達の予想通り、その誰もが傷だらけで隻眼、隻腕、隻脚と欠損級の怪我を負っている。

 

「「はぁ……これだよ」」

「っ……」

「酷いっ」


 俺とリュウが肩を竦める横で、ライ達が立ち上がる。


「どういうことですかっ、その傷は! それにこの様子じゃっ」

「おおっと誤解しないでいただきたいっ。彼等は名うての傭兵や騎士、冒険者でしてな? ここまでの怪我となると買い手は見つかりませんし、『再生者』様でもなければ治せません。全員、お求めの強さと知識は存分にあります。我々は在庫処分が出来る、貴方方(あなたがた)は仲間を増やせる」


 どうです? 良い案でしょう?


 そう続けた店長の笑みはとてもいやらしかった。


 まさか勇者が物見遊山で来た訳じゃあるまい?


 とでも言っているような顔だ。


「……そういうこと。私に治させて安く買い取ってもらう……それが出来なかったら国に買収してもらうってところですか。一時期、私にやたら怪我人を治させてたのは……」


 マナミも思った以上にこの世界に染まったようだ。かなり鋭い。


「えぇえぇ。恐らく元奴隷でしょう。それも、国や貴族に使われていた人間。『再生者』様も大変でいらっしゃる……大いなる力には大いなる責任が生まれるとはまさにこのことかと、はい」


 何も面白くない返しに、マナミの拳がギュッと握られる。


 言い様に使われているんだからそりゃあ笑えない。


 ライはそれを聞いて漸く会話の意味を理解したのか、怒りで目を細めていた。


 取り敢えずマナミの肩をポンポン叩き、力を抜かせるように肩を揉んでやる。


「マナミ、あんま怒るなって」

「だ、だってユウ君っ」

()()()()国、世界だってのはわかっていたことだろ。今更嫌だは通じないぜ」

「でもっ……」


 店長もニヤニヤしながら何かを続けて来ようとしたので、ジル様に習った殺気をぶつけ、腰の長剣を抜く。


「ひっ!? な、何をしてらっしゃるので!?」


 怯えるのも無視して近付き、その首に突き付けて言った。


「いや別に? 俺はちょいと訳有りでね。国のお偉方もデカい態度取れないのさ。だから俺が訊く。こいつらはただ同然だよな?」

「へっ?」


 後ろでライ達が止めようとしてくるのを手で制し、固まる店長の目をじっくりと睨み付けながら続ける。


「マナミ無しでは買い手が付かないってのはだな。今のこいつらはただ飯食らい、用無し、愚図……違うか?」


 ここまで言われても奴隷達に反応はない。


 当然だろう。


 全員が骨と皮ばかり。


 ろくに飯や水をもらってないのが丸わかりだ。


 そんな中、目だけがギラギラしてて死んでない。


 戦士だと思ったのはその目が理由。


 口を聞かぬよう命令されているのか、俺に対して文句のありそうな顔や目こそすれ、何も言わない。


「まさかこっちが勇者パーティだからって高く売るわけないよな? 治せるから、金がありそうだから価格を変えるなんて……まさかまさか……そんな舐めた態度で商売やる奴ぁ居ないよな?」

「い、いえ、あのっ……」

「……国から話が行ってるなら国もグルか。よしライ、やっぱこの国出ようぜ。こうやって(こす)い真似をするところが気に食わん」


 そうしてさも本気かのように身を翻し、剣を納める。


 それからライ達の肩を抱いて出ようとすれば……


「お待ちください! 誤解でございますっ、勿論価格は勉強させていただきます!」


 と、下手に出てくる。


 さっきジル様に忠告されたんだよな。商人は信用するなって。


 奴隷達の待遇といい、何も知らない勇者パーティを食い物にしようとする魂胆といい、それを黙認する国の上層部といい……どこまでもイライラさせる連中だ。


 別の世界に来たからにはこちら側のやり方で進めさせてもらう。


 ジル様直伝の恐喝法。言い方一つ、内容一つで下手をすればこの店か、自分の首が物理的に飛ぶ。


 要はどちらが上かわからせてやったわけだ。


 そして、それを学習してしまえばこっちのもの。


「勉強? ほう、捨て値じゃないのか」

「い、いえいえっ、捨て値にございますっ、本当です!」

「そうか。言質は取ったからな」

「うぅっ……」


 ライには「お、お前な……ちょっと強引すぎるぞ?」と注意され、マナミとリュウには「ナイスユウ君っ」、「よく言ったっ」と褒められた。


 マナミにその六人を治してもらいながらステータスを確認。全員が求めている人材じゃないと知る。


「他は?」

「……へ?」

「他に有能そうな奴は居ないのかって訊いてんだよ。この六人以外の怪我人でも良い。連れてこい」


 ライ達も助けられるかもしれない人間を見捨てるのは心苦しいだろう。


 年上の相手に敬語も無しで話すのは中々骨が折れるが……まあ仕方ない。今はそういう世界だと割り切らねばならない時だ。


「怪我人であれば居るには居ますが……」

「じゃあそいつだ」

「はいっ、ただいま!」

「おい待て、ついでにこいつらを洗ってやって飯を食わせろ。客に粗悪品を渡すんだからサービスしやがれ」

「は、はいぃっ!」


 先程までの余裕は何処へやら。ジル様流の脅しに屈した店長はすっかり治った奴隷達を引き連れ、すっ飛んでいく勢いで消えた。


「……はぁ。で? あの人達はどうすんだ?」


 最大に溜め息を吐いて意見を求める。


「ど、どうって……」

「国に雇用してもらえば良いじゃない? 元は逞しそうだったしさ」

「僕もお腹に一物を持ってるか、もしくは隠されてそうな人達はちょっと……」


 元軍人に傭兵、冒険者……言ってはなんだが、欲しい人材じゃない上に既に俺達より弱く、奴隷に堕ちたなりの背景だってある筈だ。


 その辺が妥当だろう。


「じゃ、治療費+正規の売値ってことで高く売り込めマナミ」

「おっけっ」

「そんな……人をものみたいに言うなよな……」

「……マナミも乗り気なのは意外だね」


 聞けば割りと本気で怒ってたっぽい。


 ライが顔をしかめるのもわかるけど、それ以上にこんな時まで都合の良い回復役をやらされればな。


 それから更に数分後。


 今度は俺やリュウでさえも立ち上がる事態になった。


 店長が連れてきた……いや、()()()()()別の奴隷。


 それは酷いとしか言いようがない有り様の人族の女の子だった。


 髪はまるで日本人のように黒く、肌は対照的にこちらの人間のように白い。


 身体の凹凸で辛うじて女だとわかる容姿。


 何処を見ても、先程の六人よりも重傷だった。


 先ず四肢が無い。


 肘や膝も……根元から斬り落とされたみたいに不自然に、そして真っ赤に染まった包帯が雑に巻かれている。


 顔中が青紫色に変色するほど腫れていて、裂傷も幾つか。両目も同じように包帯で隠されているが、おでこや頬の傷の凹凸が激しいせいで中の様子はわからない。


 片耳は千切れ、もう片方は完全に失われており、喉も潰されているらしい。ヒュー……ヒュー……と変な呼吸音が聞こえてくる。


 女の命である髪も不恰好にバッサリ切られてる箇所や不自然な具合にハゲている部分もある。


 歳の見当も付かないほど、ボロボロの人間。


 何をしたら……何をされたらこうなるのか。


 さっきの六人は戦いか何らかの罰で何処かしらの部位を失ったようだった。それもかなり古い傷だ。四肢に至っては先が丸まって塞がっていたくらいだ。


 だが、この子は違う。


 拷問。


 ここまで傷を負わせられるんなら殺すことの方が簡単に済む。


 それに……こっちも怪我で意識が向き辛いが、ガリガリに痩せこけている。そして、この血の滲みようは……


「えぇ、買い取らせてもらったばかりの商品です」


 俺達の表情から考えを読み取ったらしい店長が雑にその子の首を持ち上げ、見せ付けるように言ってくる。


 扱いこそかなり乱雑なものの、顔を歪ませている辺り、汚いとでも思っているのか、相応に良心があって流石にこれはやり過ぎだとでも思っているのか。


「チッ……胸糞悪ぃ。マナミ、頼む」


 言葉を失うばかりのライやリュウに代わり、俺が指示する。


「う、うんっ、わか――」

「――失礼ですが、この商品だけはお高いですぞ?」


 マナミが駆け寄ろうとしたその時。制するような口出しが入った。


 店長は俺に怯えるような反応をしつつも、これだけは譲れないとばかりに言ってくる。


「そちらのお客様は訳有りだと仰いましたね。これもそうです。母親が出奔したさるお貴族様の出でして……父親の方もまた言えない血筋なんですよ」


 出奔……つまりは家出か。


 リンスさんから教わった。


 貴族や王族は血筋を大事にすると。


 一見矛盾しているようにも見える仕打ちだが……


「……その親は?」


 確認するように訊くと、店長は無言で首をかっ切るポーズを見せた。


 処刑されたらしい。


 なら母親か父親側の親族への見せしめで間違いない。


 親を断罪した。望まぬ子はこうなるぞと。


 存在そのものが恥だと外聞するのが目的……いや、店長が背景を知ってるように既に周囲に知れ渡ってたから殺すのも不自然……ってとこか。


 だから下手に殺して怪しまれるより、恐れられた方がマシという判断で子供を……?


「つくづく好かないな、高貴な生まれってのは」

「ノーコメントで」


 店長は初めて苦笑いで返してきた。


「良いですっ、買います! 買えば治させてもらえるんでしょうっ?」


 と。


 食い気味で割り込んでくるライは金額を提示されて黙った。


 国からの支給金じゃ足りなかったようだ。


 森で倒した魔物の素材も没収されたらしいからな。


 対する俺はジル様が全部くれたから懐だけはかなり潤っている状態。


「俺が買う」


 短く返し、言い値で買い取る。


 店長はニヤリと笑い、「へへっ、毎度っ」と調子の良いことを抜かしてきた。


 腐ってやがる。


 人の命が軽く、安いことは知っていたが、この仕打ちをする親族が居て、その上、こんな酷い目に遭っている少女を見ても何も思わない人間が居るなんて。


 何も聖人になれとは言わない。


 せめて傷の消毒かまともな手当て……それが金の無駄なら飯くらい何とかならないのか?


 国と繋がりのある店でこれなんだ。


 魔王が何だとほざいておいて、こんなことをしてるんだ。


 とことん平和じゃないか。


 マリー王女の血族でも親殺し、子殺し、兄弟親族争いが絶えないという。


 挙げ句にこれだ。


 そんな下らないことに明け暮れるくらい平和なら何で俺達を召喚したんだ?


「……イラつくな」


 《闇魔法》を使う時の嫌な感じが僅かに漏れ出たことに気付いた俺は深呼吸して心を鎮めた。


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