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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第4章 砂漠の国編
204/334

第187話 エピローグ

前半が閑話前、ラストが閑話後の時系列になります。

作者的には強く技量不足を痛感した回なんですが、どうしても上手く繋げたり、書くことが出来ませんでした。



『いやっ! 止めて! お姉ちゃんっ! 私の為にそんなことっ』

『あらぁ? 片目くらいどうってことないわよぉ。全部お姉ちゃんに任せてれば良いんだから……ね?』



 ……あぁ、これは夢だ。



 遠い遠い、昔の記憶の夢。



 私がまだ何も知らなくて、何もわかってなかった時の夢。



 今となっては忘れかけてた記憶でもある。

 再会したお姉ちゃんは夢の中のお姉ちゃんと同じ不敵な笑みを浮かべていた。何一つ変わっちゃいなかった。そして、それと同時に色んなことが一辺に起きて……この夢を思い出すことも、見る暇もなかった。



『や、やだ! ダメ! 絶対ダメ! あの人達が約束を守るって本気で思ってるの!?』



 これ以上は見たくない。



 昔はそう思っていた。

 けど、この光景は今の私にとって目に焼き付けなければならない光景だ。



 固有スキルを劣化コピーする古代の遺物(アーティファクト)は既に何点か見つかっている。

 いつまたお姉ちゃんのような被害者が出るとも……いや、まだ調査途中だけど、使われた形跡のあるものがあったと聞いた。現代で使われたのなら、被害者はもう出ていることになる。



『いつも言ってるでしょう? 私は正しいと思ったからやるの。例え世界が間違ってるって言ったとしても、それは私が決めたことよ。私が正しいって言ったら私にとってそれは何よりも正しい。だから……』

『っ!? や、止めてっ!! ダメぇっ!!!』



 こんな……こんなことはこれ以上っ……繰り返させてはならないのに……!



 相変わらず、夢の中の私を後ろから見ていることしか出来ないことに歯噛みする。



『っ……!!』



 あの時とは違って、成長した筈の私でも思わず目を背けたくなる光景が繰り返される。



『いやあああああっ!!』



 私の絶叫が響き渡り、周囲の人達にどよめきが走ったのがわかった。



 以前は夢の中の私の視点でしか見えなかった筈だけど……



 何故か、見える。



 何処か神秘的な力を感じさせる眼球を渡すお姉ちゃんの姿と腰の引けた老人が震えながら受け取っている姿。



 それだけじゃない。



 夢の中の私が半狂乱で暴れる中、護衛の騎士が、今も存命の重鎮達が、今では考えられないくらい幼く可愛らしい兄が、国の行く末を見守っていた民達が目を見開いて驚いている。



 皆、痩せこけていた。



 記憶の中のこの人達は笑っていたように見えたのに。



 お姉ちゃんをこんな目に遭わせた憎い奴等。そう、思っていたのに。



 誰もがみすぼらしい格好をしていた。

 誰もが覇気のない目をしていた。



 財政を立て直す前のシャムザはここまで……



 驚く私を他所に、父は「今更約束は違えない」と豪語し、お姉ちゃんは「私の目には貴方達が堕落して殺される未来しか見えていない」と返す。



 実際、父はお姉ちゃんの言う通りに堕落し、殺された。



 他ならない古代の遺物(アーティファクト)、アンダーゴーレムの乗り手によって。



 今ならわかる。



 この時のシャムザは飢えていた。



 だから父は……王は力を欲した。



 お姉ちゃんの未来を見通す力さえあれば、お姉ちゃんのような固有スキル所持者が居ればと『人の力』に頼った。

 だから国中の固有スキル所持者を集め、軍事力や生産能力の向上に力を入れていた。



 その結果、ヘルト君のように国を追われる人や国を出ていく人が沢山現れた。



 兄上から聞いた話だと、同時はクーデターも多発していたらしい。あの時の私には教えてくれなかったけど……



 暗い未来を予言され、望んだ『人の力』には反旗を翻され、王は『人の力』を恐れるようになった。それは紛れもない事実。



 もう少し早ければヘルト君の両親は亡くならずに済んだかもしれない。



 けど、私の目の前でお姉ちゃんの瞳を奪ったこの老人には……父には見えていたのかもしれない。



 あの時の私には見えていなかった、見る人見る人どころか、見渡す限り痩せ細った民のことが。



 建物も今よりボロボロで、服だって上等とは言えない。

 唯一変わらないのは太陽とオアシスだけ。綺麗に輝いて、富にも毒にもなるあの二つだけはアーティファクトの輸出で潤った今も変わらない。



 未来を見通せるからって、必ずしも良い未来に辿り着ける訳じゃない。



 お姉ちゃんがそう言って笑い、王は怯みながらも怒鳴って威圧する。

 夢の光景は佳境に入りつつあった。



『ほざけ! 貴様っ、何を根拠に!』

『ふふっ……あんた達が、今っ、し、証明した、じゃないっ……未来を見通せる私が……こんな、未来を望んでいたと思って……? こ、れがおかしくないなら……一体何がおかしいって言うのよ……!』



 お姉ちゃんの言葉に、王と周囲の人間がハッとしたような顔で俯いた。



 お姉ちゃんの目にも、今の私や王に見えていたものが映っていたのかもしれない。



 だから……お姉ちゃんは敢えて瞳を渡した。



 お姉ちゃんなら私を人質にされる前に逃がせた筈。

 なのに逃がさなかった。



 それは多分、私の存在が自分への人質足り得ると思ったから。



 未来を予知出来る自分と同じものが見え、国の為ならと非情な決断を下すことが出来るこの王ならもしかしたら……と、希望を抱いていたんだと思う。



 私が人質になれば、戦力のないこの時のお姉ちゃんにはどうすることも出来ない。

 ただ目玉を抉り取って渡す、それしか方法が無くなる。



 そうして自分の逃げ道を無くし、シャムザをより良い国にする為の人生に身を投じた。



 今の私よりも若いお姉ちゃんが今の私でも出来ないであろう決断をし、その覚悟で以て目玉を抉った。



 なんて泣ける光景だろうか。



「っ……」



 言葉も出ない。



 少し前、テロやデモが多発し、シキ君がその鎮圧に向かっていた時、お姉ちゃんがシキ君に苦言を呈しているのを見たことがある。



「あの人達の行動は愛国心故のものなの、もう少し優しくしてあげても良いんじゃない?」

「……あのな、上に立つ人間がそんな甘っちょろいことを言うから図に乗る奴等が現れるんだろうが。俺の口から言うのも変な話だが、国や頭ってのは時として非情な選択を強いられることがあるんじゃないか? 俺は今がその時だと思う。痛みなくして変革はあり得ないんだからな」



 ふとした瞬間の会話であり、その後は特に喧嘩になったりはしてない。



 シキ君からすればバッサリ切らなきゃいけない意見だった……



 ……あぁ、漸くわかった。



 そうだったんだ。



 この時の王の行動も、お姉ちゃんの覚悟も、シキ君の言う非情な選択なんだ。



 だからって、ヘルト君みたいな境遇の人達を大勢生み出し、お姉ちゃんにそんな覚悟をさせた王が正しいとは思えない。



 思えない、けど……。



 あの時の王にとって……父にとってそれが最善の策で……お姉ちゃんも同じことを思った。



 だからお姉ちゃんは辛い目に遭うとわかっていて未来を紡ぎ、シキ君にそう返されても「そう、よね……」と引き下がった。



 この時のお姉ちゃんには何処まで見えていたんだろう?



 何でシキ君には私に見えないものが見えるんだろう?



『な、何なのだ貴様は! 何が言いたいっ! 何が目的だ! 何がっ……一体何が見えているっ!?』



 顔を青ざめさせた王が唾を飛ばしながら捲し立てる。



『すーっ……はーっ……やぁっと慣れてきたわぁ。……何が、と言ったわね? 簡単よ、この未来が一番マシだったの。この国はもっと豊かになって、もっと人が増える。そして……もっと人が死に、もっと民が飢える。そんな中、あんた達は私の力に溺れ、堕落している。この国を……民をより良い方向へと導くには私という犠牲が必要だった。ただそれだけのことよ』



 …………。



 あんなに使い勝手の悪い力で……一体、何処……まで……



『他じゃ駄目。あんた達はどの未来でも腐ってる……元が元だもの、当然よねぇ? だから少しでもバカな真似はしないように私の力を授けた。後は時が来るのを待つだけ……私の可愛い坊や達がこの国を――』

『――貴様っ……黙っていれば不敬だぞ! 何様のつもりだ!』

『救ってくれるまで、ね。そうよ……あの子達がこの世界に来てくれればシャムザは……レナは……私は……』



 父のせいでよく聞き取れなかったお姉ちゃんの言葉が聞こえる。



 周りの風景と同じだ。



 以前は聞こえなかった部分なのに。

 それどころか、思わず漏れたような、お姉ちゃんの小声の本心まで聞こえた。



 本当は全部見えていた筈なのに、聞こえていた筈なのに……



 私は……私は……今まで何を……っ!!



 お姉ちゃんは泣きながら笑っていた。



 前は見えなかったお姉ちゃんの顔も今なら、よく見える。



 もっと自分に力があればって苦悩する顔だ。

 何で私がこんなことをって後悔している顔だ。



 そして……貴女を怖い目に遭わせないと覚悟を決められない、弱い私でごめんねと謝っているような、そんな顔だった。



『レナ。私の可愛い可愛い妹……もうお別れの時間よ。……貴女はこれから色んな苦労をして、色んな力を付けるわ。その力はこの国を守り、導く為のもの。私の力だってある。だから、貴女は中からこの国を守りなさい。私は外からこの国と貴女を守る。中と外、両方から未来を見ていればそれほど悪い結果にはならない筈……でもこれだけは覚えていて? 何かあったら……もう無理っ、どうすることも出来ないっ……って思ったら私を呼ぶこと。お姉ちゃんだもの、私はいつでも何処でも駆け付けるわ。だから……ね? また何処かで会いましょう?』



 そう言って私を抱き締めた大好きなお姉ちゃんは宣言通り、外から国を守っていた。自由に動かせる軍を、家族である『砂漠の海賊団』を結成し、誰よりもシャムザの為に奔走していた。



 そうしてシキ君達と出会って……私と再会した。



『や、やぁだあ! お姉ちゃんっ、行かないで! 私を一人にしないでよぉっ!』



 あぁ、この夢はもう……終わりね。



 何故かはわからないけれど、そう思った。



 もう二度とこの夢を見ないような、そんな気がした。



 夢の中で泣く私が手をひらひらとさせながら人混みの中に消えていったお姉ちゃんを必死に追い掛けている。



 お姉ちゃん、お姉ちゃんと誰かに頼って……今度はシキ君に全てやらせてっ……私は何も出来なかったっ、しようともっ……いや、足手まといだった……!



 誰よりも私が頑張らなきゃいけないところで、いつも何も出来ない。



 最低だ。



 自分では頑張っているつもりだったけど、あの二人に比べれば鼻で笑われる程度のものだ。



 何なら、亡き父よりダメかもしれない。



 国の為、国の為と言っておきながら何の成果も挙げられない無能な私。



「お、姉……ちゃん……私は……私は……!」



 今度こそシャムザを守る。アーティファクトだけに頼らず、今まで培った経験や人脈、今回の戦争で得たものも、今後帝国との繋がりで得るものも利用して、もう二度とこんな思いはしない……民の皆にも、仲間の皆にも、もう誰にも苦しんでほしくないっ、泣いてほしくない!



 だから、私は……











「レナ様、レナ様? もう夕方です、起きてください」

「う、んぅ……?」



 どうやら溜まっていた書類整理で疲れて眠ってしまっていたらしい。

 ナタリアも起こしてくれたら良いのに……とも思うけど、気を遣ってくれたのもわかる。私は何も言わずに身体を伸ばし、溜め息をついた。



「んっ……は~っ……ねぇナタリア? ナタリアはショウ君とどうやってそういう関係になったの?」

「んんっ!? き、急に何ですっ? 起きて早々の話題にビックリです、変な声出たじゃないですか」

「良いから教えて。私も……そろそろ覚悟を決めなきゃって思ったのよ」



 そう、もう二度と……その為にはシキ君との曖昧な関係にケリを付ける必要がある。



 それに、いつまでもウジウジしてるのは私らしくないものね。



「何があったのか知りませんけど……私達のはその……参考にならないと思いますよ?」



 何処か恥ずかしそうにお茶の用意をしながら語った内容曰く、確かに参考にはし辛いと思った。



「な、何よその場の流れって……」

「ぃやっ……そ、の……戦闘で昂ってたとかそういうので……」



 気まずげにゴニョゴニョ言ってる。私が王族として祭り上げられた時から専属メイドだったあのナタリアが。



 経緯といい、到底信じられない。



「じ、じゃあその……好きな異性の子とそういう関係になるには既成事実を作っちゃえってこと?」

「ぶふぅっ!? し、失礼しましたっ、ってそうではなく! レナ様のお好きな方ってシキ様のことですよね!? それはあんまり良くないのでは……というかレナ様から誘うというのも王族としてはその……はしたない、かと……?」

「何で疑問系……っていうか! シキ君じゃないし! なななっ、何でそこでシキ君の名前が出てくるのよ!?」



 お茶を噴いてまで驚くナタリアにドン引きしつつ、ピンポイントで当てられたことに目を見開きつつ、普通に「え、周知の事実ですけど。見てれば誰でもわかりますよ」と返され、更に落ち込む。



 確かにシキ君にはハッキリと好意を伝えたけど、筒抜けだったなんて……



「んー……そうですね~……シキ様相手となりますと……う~ん……」



 私が顔を覆って絶望する中、ナタリアが何やら考えてくれている。



 で、その結果……









「俺をここに誘い出し、水浴び中のお前と鉢合わせすることになったと。……控えめに言ってもやべぇ女だなあのメイド」



 必死に抵抗したんだけど、あれよこれよとしている内にナタリアの作戦通り、私の居る王族専用の水浴び場にシキ君が入ってきたところだった。



 何でそんな発想に至ったのかはわからないけど、曰く、こちらから手を出すのが不味いなら、向こうに手を出させれば良いじゃないとそういうことらしい。



「なら早く手を出してよっ! こんなに早く来るなんて! そ、そもそも来るなら来るって言いなさいっ! 見られるだけ見られて何もされないって……ないわよっ!!」

「いや俺に言われても。俺、ただナタリアに今の時間は空いてるからどうぞって言われただけなんだけど。まあ確かにやたらニヤニヤしてんなぁとは思ったけども」

「なら察しなさいよっ!!」



 我ながら理不尽だとは思うけど、恥ずかしいのだからしょうがない。

 まだ来ないと思って普通に水浴びしてたし、何なら頭と髪洗ってたから結構長い間シキ君が来てることに気付かなかった。



 何か小さく「謀ったなあの女……」って聞こえて、振り返ったら居るんだもの。



 裸のシキ君が。



 もう一度言う。裸のシキ君が。



 しかも、何故か仮面を付けたまま。仮面に全裸の男の子だ。外見だけでも変態以外の何者でもない。



「いやああああああっ、変態変態っ! これ以上それを見せないでよえっち! バカぁっ! 後何で仮面してんのよ!?」

「理不尽過ぎる。そしてそんなことを言いつつ指の隙間からバッチリ見てんじゃねぇかこのムッツリ姫騎士。仮面は……何か最近、外すと落ち着かなくてな」

「変な性癖っ!」

「性癖じゃねぇよ」



 何が嫌ってお互い裸なのに、向こうが全く動揺していないのが嫌だ。

 もう女の子の身体なんて見飽きてますよ、裸なんて見られても今更恥ずかしくないですよ、みたいな堂々とした立ち振舞いが嫌だ。ムクロさんとどこまで……とショックを受けてしまう。



「……なあ」

「何よ!?」

「出入口に『進展がなかったら斬り落とします』って書いた紙貼ってあるんだけど」

「ナタリアああああああっ!!」



 あまりの絶叫っぷりに「俺は何を斬り落とされるんだ……」と戦慄していたシキ君が振り返り、また裸を見られた。



「あ」

「……すまんて」

「~~っ……もうっ! わかったわよ! こうなったら私だって自棄糞よ! シキ君っ! 私の伴侶になりなさいっ!! これは命れ――」

「――普通に嫌だが?」

「せめて最後まで言わせてっ!? ていうか普通にってどういう意味よ! ほ、ほらそのっ……見て、良い……から……! ね……?」



 嫌々、仕方なく、プライドを捨てての提案。



 流石のシキ君もここまで言えば……



「ね、とか言われても嫌だが?」



 私の希望というか予想というか願望は情け容赦なく切り捨てられた。



「何でよーーっ!!」



 全部全部見られてるのに、まるで相手にされない。



 女の子としても見てもらえてないようで泣けてくる。



「あー……良いからタオルで隠すか、水ん中入ってくれないか? 目のやり場に困る。拭く用のタオルパクられてたから、俺も入りたい」

「ううぅ……!」



 胸もお尻も見られたっ、全部見られたっ、好きな人にっ……! 最悪最悪最悪! しかも大人の対応されてっ、恥ずかしいっ、悔しいぃ!



「で、進展ってのはさっきの話絡みだよな?」



 手を出さないなら見ないでと怒鳴り、お互い背を向けて水場に入っていると、シキ君が話し掛けてきた。



「そ、そうよ。ぐすっ……でも、シキ君には私なんてどうでも良いんでしょっ? そうよね、私足手まといだったし、シキ君の邪魔ばっかして……困らせてばっかりだもんね……」

「……いや、そりゃ勿論、それもあるけどさ」

「やっぱりあるのね!? もう嫌っ、聞きたくない!」

「うぜぇ! さっきから我慢してたけど、めちゃくちゃうぜぇこの女っ、良いから黙って聞けよバカ女っ」

「なっ、バカって何よ! 誰がバカっ……っ……!」



 また振り返ってしまった。



 向こうもイライラしてたのか、振り返ってて……



 お互い、直ぐに水中に身体を隠し、話を続ける。



「何つぅか……端から見れば俺は素性の知れない平民で、お前は王族、だろ? しかも功績を上げるまでただの犯罪者集団の仲間だった訳だし……復興は進んでるとはいえ、まだ国が安定してない状態で、王族のお前がこういう俗事をするのは何より国民への裏切りなんじゃないのか?」



 シキ君にしては珍しく、素っぽい口調で話してくれた。



 シキ君ではなく、ユウ君としての返答なんだろう。



「あっ、いやっ、別にお前の気持ちを下らないって言ってる訳じゃなくてなっ? 色々あったけど、レナのことは良い友人だと思ってる。そういう風に見れないとかじゃあないんだ。正直、メイやルゥネに比べればよっぽど許容範囲……この言い方は何かクズっぽいな。ゴメン、上から感が半端ないけど他意はない。いやマジで」



 ……フォローされたら、じゃあ何でって返すしかないじゃない。



 慣れたのか、一通り叫んではっちゃけたのか、私は静かに彼の元に近付き、そう訊いた。



「っ……来んなよっ。じゃあ逆に訊くが、お前はそれで良いのか? 俺は前も言った通り、ムクロが好きだ。ムクロ以外は考えられない。もう少ししたら魔王にも会いに行く。そんな俺に付いてこれるのか? 絶対に手は出さないし、絶対にお前に振り向くことはないんだぞ」



 右腕の断面に触れた私の存在に焦ったようにバッと離れ、ハッキリと告げられる。



 シキ君の中ではやはり結論が出ているらしい。何とも悔しいことだけど、こればかりは仕方がない。



 シキ君と国……天秤に掛けてしまえば国に傾くのが王族として正しい。

 一人の女としてはシキ君を選びたい。けど、私は王族だ。王族として生まれたからには王族に相応しい選択をしなければならない。父やお姉ちゃんがそうしたように、確固たる覚悟が必要なんだ。



 それなら……



 そう引こうとした私の中に意地の悪い気持ちが芽生えた。



 気付いた時には訊いてしまっていた。



 さも本気のようにシキ君の背中に抱き付き、耳元で囁いてしまった。



「……だ、だとしても……それでも好きだって……シャムザを捨てて付いていくって言ったら……どう、するの……?」



 そんなこと欠片も思っちゃいない。



 シキ君のことは好きだけど、それとこれとは別の話だ。



 わかっているのに訊いたのは多分、普通の女の子として最後の我が儘だったんだと思う。



 いや……これは甘えだ。



 聡いシキ君にこう言えば……シキ君ならハッキリ断ってくれる。下らないって、いつもみたいに切ってくれる。



 そんな甘えがあったのかもしれない。



 案の定、シキ君は怒ったような顔で私から離れると、軽蔑するような視線と共に言ってきた。



「……レナ、お前がそんなことを言える奴とは思わなかった。正直幻滅したよ。お前の理想主義は粗さも滑稽さもあったが、そこが良かった。子供みたいな夢物語だけど、誰もが笑うかもしれない戯言だったけど、それを理解していて実行しようとするお前は凄い奴と思っていた」



 胸が痛む。



 私は確かに王族な責務を重荷に感じていた。



 背負いきれないと、彼に弱音を吐いたこともある。



 けど、こうして紛争や戦争が起きたからこそわかる。



 私が……王族である私や兄が気丈に振る舞わないでどうする。



 シキ君が言う凄い奴っていうのはそういうことだ。



 そうだよ……私、本当はそんなこと思ってないっ、シキ君のこと好きで好きで、全部捨てて付いていきたいけど、私にはこの国を捨てることなんて出来ないっ……



 皆泣いてた。皆傷付いて、いっぱい人が死んで……それでも私達が皆を導かなきゃこの国は本当に滅んじゃう。



 父やお姉ちゃんの頑張りも、ヘルト君達の犠牲も、皆の死も全部無駄になってしまう。



 だから、私は……



「……何だよ、その顔。何で俺なんだ……何で俺に甘えるっ……どいつもこいつもっ……俺だってまだあっちの世界じゃ子供なんだぞっ、俺だって悔しいし、泣きたいさ! ムクロは居なくなっちまって……色んな奴が死んじまって……けど、こんなことしてる場合じゃないだろう!? 過ぎたことは仕方ないんだよっ、受け止めて、次に生かさなきゃっ……!」



 あぁ……まただ。また私の弱さが彼を苦しめる。



 私が涙を流したからか、シキ君も……ユウ君も泣いていた。



「ごめんなさい……本当はわかってるのよ? けど辛いのっ、きっとお姉ちゃんだって……」

「……はーっ……全く……」



 ルゥネさんはこの場に居ない。



 だから私の真意が伝わる筈もない。



 けれど、シキ君は大きな溜め息と共に頭をガシガシ掻くとゆっくり言った。



「何処で聞いたっけな……ノブレス……オブ、リー……ジュ……そうだ、確かリュウがお前を見てそんなことを言っていた。簡単に言やぁ、大いなる力には大いなる責任が伴うってやつだ。力有る者にはそれ相応の義務がある……それを地で行っていたお前は何処に行った? 俺には出来ない考え方で理想を掲げていたお前はどうしちまったんだよ」



 まるで、『改めて私を振ってほしい、出来るだけ酷く、突き放すように』と思っていた私の心を理解したような、それでいて、私を出来るだけ傷付けないようにと気を遣ってくれているような発言だった。



「もう一度……俺と生まれ故郷を天秤に掛けてみろ。辛いことだって沢山あったろう。悲しいことも嫌なことも沢山……けど、それでもお前ら兄妹にとっては大事な国だろうが」



 続く言葉に、これまで出会い、別れてきた人達の顔が浮かんでは消えていく。



 色んな人と会って、話をして、協力して苦難を乗り越えてきた。

 色んな人と別れて、悲しんだ。中には死別者だって居る。



「父親が、姐さんが、ナタリア達部下が、顔も名前も知らない国民達が、皆で力を合わせて守ってきた国なんだぞ? それでもお前が俺と一緒に居たいってんなら、止めはしない。けどな、俺はムクロしか愛さない。これだけは言い切れる。一番辛い時に慰めてくれたのはアイツなんだ。俺にはもう……アイツしか居ないんだ……だから、俺は……」



 ダメだ。



 私には彼を止められない。



 私は王族。



 庶民出だとしても、私には私にしか出来ない……やるべきことがある。



「でもそれでも辛いのよっ、だから……だからっ、ユウ君……」



 今度こそ最後の我が儘で、最後の甘え。



 私は辛そうに俯いたユウ君の顔を持ち上げると、その口に唇を押し付けた。














「と、いうことがあってね」



 ルゥネさん達が帰国した夜。

 忘れる為にも笑い話にしようと、私はあの夜のことをナタリアやアリス達に話していた。



「それであの人、船長さんには手を出したんですか? は? ……は? 信じられないんですけど。やっぱり斬り落としましょう、レナ様」

「……マジで最低だなあのクソ野郎。今度会ったらまたビンタかましとくわ俺。……リュウちゃんはどしたん?」

「いや、知り合いの男女関係にダメージとショック受けてる。別に好きとか嫉妬とかじゃないんだけどさ……同い年の友人達が結構進んでるのに僕は何やってんだろって……はは……死にたい」

「良いなぁ拙者も青春したいっ、何が楽しくて暗殺を強要され、何度も死にかけて、挙げ句にはトラウマ抱えた幼女のお守りなんてしてるんでござろうか……」

「ちょっとなっちゃん? どういう意味さっ、スーちゃん別にトラウマになってないもん! 『黒夜叉』はいつか殺す! いつかね!」



 皆、目が本気だった。ちょっと失敗したかもしれない。



 後日、頬にアリスのものらしき手形を付けたシキ君に「この国の女はどうしてこう自分の思い通りにならないと殴るか他の奴に殴らせるんだ? 全部責任転嫁だろ。仮に転嫁じゃないにしても、俺だけが一方的に悪いってのは理不尽だぞ。俺からは手ぇ出してないのに……」と恨み言を言われた。



「シキ君の重視する結果だけを見ればそれが事実なんだから仕方がないでしょ」

「だからって……」

「じゃあ私とお姉ちゃん、貰ってくれるっていうの?」

「それは嫌だ。すげぇ嫌だ。死ぬほど嫌だ。余計なもん引っ付けまくった地雷女なんざ要らねぇ。第一重いんだよ、ルゥネといい、メイといい……」

「即答っ、そして言い草っ……まあ私は吹っ切れたから良いけどさ……ほらシキ君? 後ろ後ろ」

「え? ……ね、姐さんっ、い、今っ、今のは違っ……違う、ぞ? 色んなこと引っくるめての地雷であって……いやっ、言葉の綾言葉の綾っ。姐さんに関しては見た目とか性格は物凄い好みなんだっ、ただ背負ってるものが重すぎるだけで……だああっ、これも違うなっ、た、確かに言い方間違ったけど決して悪意があったわけじゃっ」

「~~っ、最っ低っ!! もうっ、知らないっ!」



 ベチイィィンッ!



「……良い音、良い様ね」

「今のは……俺が悪かったな、うん。……いてぇ」



 久しぶりに心の底から笑った。



 シキ君が出国する時も……こうして笑って見送れると良いな。



何処かで「キャラ説挟むけど、本編の更新はする」的な発言したな。アレは嘘だ。

すいません、次話書けなかったら、来週はキャラ説回になります。構想とプロットはあるんだけど、書けない可能性微レ存です。

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