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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第4章 砂漠の国編
203/334

閑話 その6

少し遅れましたっ、すいません!



「おい聞いたかよ、王都のオアシスの底の話っ」

「聞いた聞いた。なんでも表に出てる巨大遺跡とは別の遺跡があったそうじゃないか」

「アタシは青いゴーレムみたいな影も確認出来たって聞いたよ。時折、目の部分が光って僅かに見えるんだとさ。ま、底に近いほど変な結界みたいのが邪魔して調査は出来ないみたいだけど」

「豚王子がオアシスってか水源の更に源じゃないか、とか何とか言ってたぜ。高純度で高密度の魔力反応があるって。天然の魔力が溜まってるだけなら魔物が出てくる筈って理屈はわかるけどよぉ、浄化させて水質を保ってるのも同じ要因だとか何とか……本当かね、お偉いさんの考えるこたぁよくわからんな」

「あー、あのシキの女……ルゥネとかいう女帝とその部下の……も、モグラ? みたいな奴が確認したらしいぜ? 片方がうちの姉御と同じ『見』る固有スキル持ちで、その視覚情報を他人に伝えられるらしい。それを見た奴曰く、オアシスに関してはまだわからないけど、青いゴーレムと遺跡は確実に存在してるってよ」

「ふーん……なぁ、モグラって何だ?」

「さあ? そういやシキの野郎とリュウが言ってたな、モグラみたいな奴だなって。本人は悪いかって怒ってたけど」



 調査の結果、ルゥネ達のような技術者無しでは再稼働出来ないと判明したサンデイラの食堂で、船員達の喧騒を他所に食事をとっている者達が居た。



「なあユウちゃん」

「……何だ」



 食事中でも普段ならベラベラ話すアリスが珍しく口を開かず、ジト目で見てきていることに鬱陶しさを感じていたシキは軽く苛立ったように答える。



「セシリアちゃんと何かあったん?」



 空気が一瞬で変わる話題だった。



「は?」

「ん?」

「おっと?」

「…………」

「んぶっ……ごほっごほっ、こほっ……」



 レナ、メイ、リュウの三人がピクリと反応。

 シキは辛うじて無反応を貫いたが、セシリアはダメだったらしく、盛大に噎せた。



 当然、三人の視線は強まり、シキはセシリアに「お前……」みたいな目を向ける。



「いやな? この感じは覚えがあんだよ。知り合いの男女が何となくソワソワしてるこの感じ……」

「……あ、それはわからないけど、僕も思ってたんだ。何か……最近の船長さんさ」

「そうっ。わかる、わかるぜリュウちゃん。セシリアちゃんさ」

「「何か……エロく(ね)(ない)?」」



 彼等だけでなく、周囲の喧騒もピタッと止まった。



 急な静寂、集まる好奇の視線。



 セシリアは素知らぬ態度でそっぽを向いた。

 頬を僅かに赤らめ、盛大に視線を揺らしており……と、顔は明らかに動揺している。



「「「うぎゃああああああっ!」」」

「そんな反応しないでくれ姉御ぉっ!」

「もう答えじゃんそれ! テメェシキっ、やりやがったな!?」



 何人かの男達がショックで倒れ、強気な女性陣からは「私達の時は軽く往なしたくせに!」と怒号が飛ぶ。



 メイは持っていたカップを落とし、瞳から光が消えた。



「……お前、ムクロちゃん一筋とか言ってなかった?」

「ちょっとビックリだけどまあ……それはそれとして、ムクロさんに何て言うつもりなのかなぁ?」



 アリスとリュウからは、にっちゃあ……という表現がよく似合う嫌な笑みが向けられ、「くっ、こいつらはまた……!」と顔を逸らせば、ちょうど食堂に入ってきたタイミングだったらしいヘルトが無言で膝を付いているのと隣のアカリが苦笑いしているのが目に入る。



「……言っておくが、俺が好きなのはムクロだけだ。あの誓いは一生覆さん」



 中々のクズ発言に自分でも驚くが、シキとしてはそうとしか返せない。



 しかし、そのせいで新たな火種が生まれてしまった。



「えっ」



 セシリアだった。



 あれだけのことをしておいて? え? 何言ってんの?



 みたいな顔と目である。



「……それはねぇよ姐さん。襲ってきたのはあんただろ。ついでに言やあ俺からは何も――」

「「「「「――てんめえええぇぇっ!!!」」」」」



 シキは一瞬で仲間達に揉みくちゃにされた。



 結構マジのパンチや蹴りがあったり、その中にレナとヘルトが当然のように入っていたりと色々あったが、数分後にはピクピク痙攣する仮面男が完成し、その辺りでメイがハッと我に返る。



「うっ、うぅ……いてぇ……お前ら、容赦ってもんがないのか……」

「ゆ、ユウ兄っ? う、嘘……だよね……? 嘘……嘘だと言ってよ!」

「バーニィ!」

「リュウちゃん、空気読めって」

「あ、ごめん。つい……」



 外野の反応は兎も角、シキは何も言えなかった。



 何故ならメイの目が死んでいたから。



 痛みに悶絶しながら床に転がっていた自分の肩を「嘘だよね? ね? ねっ? ねぇっ!?」と揺らしてくる勘違いヤンデレ系幼馴染みの目が死んでいるのだ。



 何故ならレナの目も死んでいるから。



 一緒になってビンタしてきたり、「よくもお姉ちゃんを!」とか言ってきていたくせに急に冷静になったのか、「え、ちょっと待って? 私のこと振ってお姉ちゃんに手ぇ出したの? え? ……えっ? シキ……君……?」と、メイと同じような視線を送ってきているのだ。



 返答次第では死を覚悟しなければならない。

 既にメイの腰に差してあった短剣は無い。何処に隠し持っているのかはわからないが、般若の如き殺気は感じる。そしてレナは普通にレイピア型の魔剣を抜いている。



「あら? 随分盛り上がってますわね。何の話ですの?」



 膝から崩れ落ちていた野次馬達の中から現れたのはルゥネとその部下達だった。



 全身包帯のミイラ女状態から解放され、付けているのは左目の眼帯のみとなったルゥネと個性的な転生者の面々。



 ナールやその他、国の重鎮達との〝対話〟を終え、捕虜の身を釈放された彼女らは今日、帝国に戻る手筈になっている。

 帝国は世襲制ではなく、国一番の強者が君臨する制度で動く国である。その為、ルゥネ率いる新帝国軍の敗北が本国に知られれば代わりの者が名を上げ、知られなくとも一ヶ月以上も帰ってこなければやはり敗北を悟られ、台頭者が現れてしまう。



 その新皇帝が誕生する猶予、一ヶ月はとうに過ぎた。故に現帝国には新たな皇帝が存在している筈であり、ルゥネ達は帝国初の生きた敗北者という重荷を背負ってでも政権を握り返す志である、ということで双方の利害が一致。再度トップに返り咲いた暁にはシャムザと友好国ないし同盟国として取引をする契約をナール達と結び、釈放されたのだ。

 再下克上の際に必要であろう最低限の兵装と小型魔導戦艦はシャムザから支給。その後はルゥネ達の裁量次第だが、彼女達の実力なら何ら問題なく政権を取り戻せるだろう。



「……あぁ、成る程。そういうことですか……ならば旦那様っ、私も抱いてください!」

「うるせぇっ!」

「あひぃんっ!」



 それまで冷静だったくせに、事態を飲み込んだ瞬間、変態的な笑みを浮かべながら抱き付いてきたので、思わずビンタで床に叩き落とす。



 ベチィンッ! と、結構な音が響き、当の本人も流石にゴロゴロと転がって悶絶。が、そこはルゥネ。バッチリ喜んで……いや、悦んでハァハァしており、痛そうではあるが満足げな顔だ。



「はうぅぅ、痛いっ、痛気持ち良いぃっ!! ありがとうございますっ!」

「礼を言われることはしてないがっ!?」

「いえっ、最近何だか罵倒や殴打が気持ち良くなってきて……って、それより私も抱いてください旦那様っ、好きです愛してますお慕いしてますからぁっ!」

「ええいっ、わかってるっての! ある意味メイより強い好意向けてきやがって気色悪いっ! 何で腕と胸と目玉と内臓奪った奴に惚れる!」

「力こそ正義っ! 力無くしては何も成し得ないっ! 勝利者こそ全てを手に入れるべきなのです! 私で言えば私が弱かっただけのことっ! さあ! 私もその逞しい腕で抱いてくださいまし! 片腕ないですけど!」

「その腕失くしたのも元はと言えばお前のせいだろうがっ!」



 ガバッと抱き付かれ、無理やりひっ剥がし、また抱き付かれを繰り返すシキだが、内心「ナイスルゥネ! 良く空気を読んでくれた!」と喜んでいたりする。

 対するルゥネも「でしょうっ!? それにしてはさっきのビンタ本気っぽかったですけどね!」等と狂喜乱舞している。



 話題と空気は変わった。



 少なくとも、目の死んでいる一部が無言でジャキンッと短剣と魔剣を見せている以外は平和だ。

 アリス、リュウ、セシリアもルゥネとのやり取りに呆気を取られており、勢いを失くしている。



「ぼ、ボクのルゥちゃんが……更に変態になっているっ、だと……!?」

「面倒くせぇ……あれ止めんのどうせまた俺だろ? うえぇ、嫌だー……面倒くせぇってマジで……肩斬られて片腕動かないんだぞこちとら……」

「煩いわね『名無し』っ、あんたは良いからうちのお転婆姫を止めるっ。姫達と違って失くしてはないんだから有り難いと思いなさい!」

「……ハッ。う、美しい愛だ姫っ、僕もそういう相手が欲しいっ! まあ君達のは若干変わっていると思うがね!」



 ルゥネの部下達もドン引きである。



 重傷を負っていたテキオや中二病男はナールのお陰で全快とまではいかなくとも、後遺症程度で済んでおり、ピンピンしている。

 他、ココとアイは元よりそれほどの怪我を負っていないので、ルゥネのシキへの惚れっぷりにショックを受けている以外は平然としていた。



 完全に場を流せた。

 シキがそう思った次の瞬間。



「旦那様しゅきっ……えへ、えへへ……あ、抱くと言えば旦那様? そちらのレナ様とはどういったご関係なのです? 何でも船長さんと同じように共に水浴びをしたと聞きましたが……」



 シキに抱き付き、蕩けたような笑みを浮かべながらすりすりしてきていたルゥネが新しい火種を追加した。



「おっとぉ? そいつぁ初耳だなユウちゃん?」

「僕も聞きたいと思ってたんだよねー。ヘルトも噂程度にしか知らないって言うしさ」

「そう言えばそんな話してたわねぇ。……私も詳しく聞きたいわ。教えなさい坊や」

「ユウ兄……処すよ?」

「………………っ!」

「あ痛ぁっ!? ぐ、グーは流石に痛いですわ!」



 取り敢えずルゥネの頭に拳骨を落とす。が、何人かのニヤニヤは無視出来ても普段の間延びした口調が消えるほど冷ややかな視線にシフトしたセシリアは無視出来ない。

 ついでに視線の端で「おん? こいつ殺る? 殺っちゃう? 殺っちゃうか? よし殺っちまうか!」みたいなアイコンタクトをし合って頷いている船員達と背中に短剣を当ててきたメイもだ。



「ま、まあ待てお前ら……ルゥネっ、力を貸せ! ついでにレナと姐さんも巻き込め! そうすりゃ全部暴露されるんだ、俺だけが悪くはなくなる! あっ、そうだっ、この際この場に居る奴全員が意識を共有すれば本心が伝わって何かしら気まずくなるんじゃないか!? なっ? そ、そうしろ! 早くっ!」

「……その発言はちょっと格好悪いですわ、旦那様」

(ま、まあ、ち、ちゅーしてくれたら? 考えないこともないですけど?)

「最低な野郎だなお前」

「うん、最低だね」

「最っ低! ルゥネさん? わかってるわよね?」

「坊や、貴方最低よ……」

「オイラキレちまった。止めんなよお前ら。この最低なクズ男に天誅を下してやる」


 

 皆からじりじりと距離を詰められる中、つい出てしまった情けない発言のせいで更なる不評を買うシキ。



 本人の信念や心情からして、何でも言うことを聞く筈と思っていたルゥネからも「う、う~ん……」みたいな微妙な顔で見られたこと、表ではそんな顔をしておきながら裏で取引を持ち出してきたことに思わず舌打ちしつつ、一瞬瞑目。数秒後、苦渋の決断を下した。



「ちぃっ、肝心な時に役立たん奴めっ、わかった! わかったよ畜生っ、すりゃ良いんだろ!? どうせ何かしらのアクションはする必要があったしな! 良いから早くしろっ、殺されるっ」

「本当ですのっ!? や、約束ですよ旦那様! 唇に、濃厚な大人のちゅーしてくださいまし! 後ついでにぎゅってしてください!」



 シキの「増えてんじゃねぇか!」と、他全員の「は?」が被る。



 次の瞬間には調子に乗ったルゥネによってサンデイラ全体を包むほどの意識共有空間が作られ……



 シキの思惑通り、全てグダグダになったのだった。


















 ルゥネ達の出発時刻。

 王都の外れに立てられたテントの中で大量の書類やら何やらに追われているナールの元にシキ達がやってきた。



「全く……酷い目にあった……」

「そりゃこっちの台詞だ巻き込みやがって……皆、全然違う場所に居たのに殺到してきてビンタだぞ。ただその辺の姉ちゃんと騎士の姉ちゃん引っ掛けたの思い出してただけなのに……」

「それは自業自得だろうが。加減くらいしろアホ猫」

「うるせぇ女たらし。レナちゃん達と巻き添え食らった俺の分だ、精々俺が食らった痛みを味わってろ」

「何やら騒いでいたらしいが一体何が…………貴様ら、本当に何があった? 頬が真っ赤だぞ。……後、レナとセシリア嬢は何故顔を隠しているのだ? メイ嬢も白くなっているように見えるが……」



 シキとアリスの声に反応して顔を上げたところ、何故か二人揃って赤く腫れた頬を擦っており、ナールは目を丸くして驚く。

 ふとその後ろを見れば暗い雰囲気の女性陣が居たので更にぎょっとしている。



「ほっとけ、ただの痴話喧嘩だ」

「そ、そうか」



 あまり見ない光景だったこともあり、疲れているのだろうかと目を擦っていたナールだが、妹のそういう話を聞きたくないのか、ショックを受けたような顔で引いた。



「ルゥネ達は?」

「つい今しがた、我々が用意した巡洋……艦、だったか?」

「です」

「うむ。巡洋艦型の魔導戦艦に乗ったところだ。他の捕虜達もな」

「ふーん……」



 小型魔導戦艦の正式名称として改めたらしい呼び方にリュウが頷き、シキは適当に返事する。



 見れば、砂山に停められた巡洋艦の調子を生き残った帝国軍人や技術者達が確かめているその横や甲板上で、ルゥネや転生者達の姿がちらほら見える。



 一方でこの場に集まっている者も大量に居る。



 一番多いのは物見遊山で野次馬をしている一般の民。次に反帝国派の者達だろう。



 現シャムザの政権や方針、アーティファクトの扱い等々、様々な不平不満から反抗勢力がのさばる中、反帝国運動は特に強く、今現在ルゥネ達の船の下に集まってデモ活動をしているのも反帝国派である。



「帝国はさっさと出ていけー!」

「家族を返せ野蛮人っ! お前達のせいで皆死んだんだぞ! 何が戦争は終わっただ!」

「あの女だ! あの女が女帝だっ! 何故国は奴等を見逃す! 殺してしまえば良いものを!」

「やはりこの国は間違っているっ! 憎き帝国をむざむざ釈放し、未だに戦乱の元であるアーティファクトを発掘している! 今こそ我らが立ち上がる時! 貴きシャムザを守るのは我々であるっ!」



 家族や知人を殺し、祖国を植民地化しようと目論んだ帝国を憎む者が多いのは当然であり、誰もが理解も出来る理屈だ。

 その為、弾圧するのは却って悪手だろうと放置されているのだが、周囲には警備と称して『砂漠の海賊団』や騎士、ゴーレム乗りが待機している。



 言動からして何を仕出かすかわからないので、端から信用されてないのだろう。

 チラリとシキが見渡す限り、警備に当たっている人間の目は鋭く、冷たい。



「クハッ、こんだけ監視されてる中で過激なことを言う奴等じゃないか。普通なら不敬罪で極刑ものだと言うに。さぁて……どうしたもんかな」



 シキは反帝国派の集団と警備網を見つめながら呟いた。



「どう、とは? 何か妙なことをする気じゃあるまいな? ルゥネ殿にはああして演説してもらってるのだ。今更余計ないざこざは御免だぞ」



 胡乱げな目でシキを見上げつつ、甲板の手すりに立ち、何やら演説しているルゥネを顎で差すナール。



 反帝国派に許しを乞う訳ではないが、戦争なのだから仕方がない、帝国とはそういうもの、と割り切れる中立の立場に居る野次馬にも今後の方針を告げることで、現状は改善する、と伝える謂わばプロパガンダとも言うべき手法。

 どうやらナール達と予めそういうデモンストレーションをすると決めていたらしい。



『我々は貴国に敗北し、捕虜となりました! しかし、我が帝国には新たな皇帝となり得る者っ、替えは幾らでも居るっ! そこで現シャムザ王であられるナール殿は我々を敢えて見逃し、「物資なら支給する。だが、その代わりに政権を取り戻せ」と仰ったのですっ! 何という寛大なお考えかっ! 約束しましょう! 我々は勝つっ! 何としても勝って再び皇帝の座を得るっ! 次、我々がこの国に来る時には今度は敵国ではなく、友好国として貴方方砂漠の民と向き合うことをお約束致しましょうっ! これは誓いですわ! 我が矜持っ、帝国魂に掛けてこの誓いは決して違わないッ!! 賠償金、復興援助、アーティファクトや魔道具の製造、操作技術の贈与! 遺跡や国境の防衛戦力の派遣っ! さすればっ、この国はより豊かで、より安全な国となりましょう!』



 前皇帝の血を引くだけあって、ルゥネは先導者足り得る。

 その証拠に、中立派は勿論、デモ活動を行っていた者の中にも黙って頷く者が現れ始めている。



「……やはり奴の固有スキルは末恐ろしいな。発言内容が本心であると伝えつつ、己が思想をばら撒き、主張を正当化している。ああまで本心だと言われてしまえば、こういう人柄で、そういうお国柄なんだと思ってしまう。シキ、今からでも遅くはない。奴を手篭めに出来んのか?」



 ルゥネが「残念ながら属国になることは出来ませんっ。が! これからは! 砂漠の国シャムザと我が帝国による『砂帝同盟』を組み、手を取り合っていく所存です!」と続ける横で、ナールが下らない提案をしてくる。



「それは殺せってことか? それともあいつを犯して自分のものにしろってことか? ハッ、どの道皇帝の座なんざ要らねぇよ」



 シキとしては何かしらの理由があってそうするにしても、ナールのような者に指図される謂れはない。



 そう思うと同時に、そんなことが言えるナールに対し、怒りが湧いてきた。



「全く……ふざけたことをほざく口だ。あいつはもう俺の女だ。俺のモノだ。誰にも殺らせねぇし、くれてもやらんさ」



 怒りのままに言い切ったことで、ナールどころかレナやセシリア達、アリス達からもぎょっとしたような顔で見られる。



 が、シキはそれらを無視。寧ろ「何だ? 何か文句があるのか?」等と返す始末。



 唯一、セシリアだけはルゥネの〝同調〟が原因の発言であると見抜いたものの、他の者はそうはいかない。



「ど、どういうことだシキ! 帝国に寝返るのか!」

「シキ君っ!? まさかっ……う、嘘でしょ!?」

「……ユウ兄がそうするってんなら私も行くけど……ルゥネさんにも手ぇ出したの?」

「おいおいユウちゃんよ、何怒ってんだ。ルゥネちゃんが敵であることに代わりはねぇだろ? そりゃ皆だって憎いだろうよ」



 各々話し掛けてきたのを更に無視したシキは徐にテントから出ると、僅かの助走を付けた後、《縮地》を使ってルゥネの元に移動した。



「シキっ、貴様っ! 警備兵っ、奴を止めろ! 何かするつもりだ!」

「ち、ちょっとシキ君っ、本気なの!?」

「ユウ兄っ、置いてかないで!」

「はぁ……坊やも大変ねぇ……」

「あん? セシリアちゃん? 何か知って…………あっ、ユウちゃんテメっ、まさかっ……! 今は不味いだろ!」

「アリス? どういうこ……って、ああそういうこと!? そ、そうだよシキっ! 何もそんなやり方しなくたって! 帰ってこれなくなっちゃうよ!?」



 レナとメイは泣きそうな顔で飛び出しているのにセシリアは溜め息で済ませていたので疑問に思ったらしいアリスとリュウもシキの真意を悟ったらしく、制止してくる。



 しかし、もう遅い。



「旦那様っ! お見送りですかっ? 有り難うございます!」

「旦那様は流石に不味いな。さっさと訂正しろ」

「はいただいまっ!!」



 ルゥネの隣に飛び乗り、いつでもルゥネを守れるように手すりの側で待機していたテキオに顎で示す。



 シキが示した先には狙撃銃らしき銃を構え、虎視眈々とルゥネを狙っていた者の姿があった。



「チッ……そりゃそうなるよなぁ……」



 突然のシキ(英雄)の登場にどよめきが走り、レナとメイが野次馬達の元に合流したことで更なる混乱が生じる。

 次の瞬間、それを好機と捉えたらしいテロリスト達が一斉射を開始。テキオは仕方無さげにルゥネの盾となり、その強靭過ぎる肉体で彼女を守った。



「いてっ、いててっ、痛ぇってんだよ全く……!」



 ドパンドパンと銃声が鳴り響き、野次馬達が蜘蛛の子を散らすように逃げ狂う。

 一瞬で蜂の巣状態になり、銃弾を素のステータスだけで弾いているテキオの後ろではルゥネがシキに抱き付いていた。



「旦那様旦那様ぁっ、愛してますっ、大好きですぅっ!」

「旦那様は止めろっつってんだろ」

「あんっ、いけずですわぁっ」



 チュッチュチュッチュと近付いてくるルゥネの顔を押さえつつ、シキは手すりに蹴りを入れ、周囲の視線を一挙に集めた。



 警備兵達がテロリストを捕縛しながら近付いてきているのを背景に、レナとメイ、アリス達が必死に呼んでいるのをBGMに、あまりの轟音に誰もが思わず見てきていたのを確認する。



 その場の全員の注目が集まっている中、シキはルゥネの後頭部に手を回すと仮面を弄って口元を露にし、それはそれは濃厚なキスをルゥネに送った。



「いやああああああっ!」

「ユウ兄止めて止めて止めて止めて止めてっ! そんなの見たくないよぉ!」



 レナとメイらしき悲鳴以外にも、シキを慕っていた民達の悲鳴も聞こえる。



 それらを無視し……否、寧ろ見せ付けるかのように口付けし続けたシキとルゥネはたっぷり数秒間互いの唇を貪り合い、やがてゆっくりと離れた。



「わーお……ルゥちゃん、ちょっと見ない内に大人の階段を……くっ……先越された!」

「凄い悲鳴だったわね。まあ攻めてきた敵国の大将と国を救った英雄のキッスだから当然っちゃ当然だろうけど」

「……い、今舌入れてなかったかい? いや、姫の方が一方的に入れて、シキ君はめちゃくちゃ嫌がっていたようだけどもっ。二人には羞恥心というものがないのかね」

「どうでも良いから早くしてくれ、すげぇ痛いんだけど。……てか今の蹴りで手すり凹んだぞオイ。一応、この船俺らへの支給品だよな?」



 翼の隙間から見ていたココ、観衆の方に目が行ったらしいアイ、引き気味の中二病男、未だに撃たれているテキオ。



 そんな四人とその他帝国兵に見守られつつ。

 漸く念願のキスが出来たことに嬉しそうにはにかみ、頬を朱色に染めたルゥネはシキの耳元で囁いた。



「我が儘を聞いてくださり、有り難うございますですわ、旦那様っ」

「良いさ。どうせシャムザからは出るつもりだったしな。こうすりゃ俺が出ていくのを止める馬鹿は居なくなる。レナ達からはまた文句言われそうだけどな」



 成る程、今回のはシキとルゥネが予定していたデモンストレーションらしい。



 敢えて民衆に敵将ルゥネとの仲を見せ付けることで人気の低下を煽り、出国しやすくする。

 ルゥネとの約束を守り、そして自分の為にもなる、一石二鳥の手。



 無論、民衆にとっては新たな火種なり得るだろうが、ルゥネ達とシキが出ていけば残るのは反現政権派のみ。

 ルゥネやシキといった、憎悪の対象の姿形が見えなければ敵愾心も自ずと消えていくだろう。



「帝国は……私達はこれからも帝国主義を貫き、領土を増やすつもりです。勿論、このシャムザ以外の、ですけれど。技術提供をする代わりに、シャムザから発掘されるアーティファクトを受け取り、文明を発展させる……そして我が領土を広げ、新たに事業を拡大し、また新たに人材と富を得ては勢力を増やしていく。これからは栄光の時代ですわ」

「クハッ、戦乱の時代の間違いだろ。敗者や巻き込まれる奴等からすれば堪ったもんじゃない」



 やはり、無駄に争いを広げる帝国主義とこの女は好かない。



 シキは強くそう思った。



 それが伝わったのか、一瞬シキの背中に回っているルゥネの手の力が強まった。



「それでも、我が帝国が世界を制すれば我々が正義です。私達の技術やアーティファクトが伝われば……世界の文明力が向上すれば、それは正しく栄光の時代です。例え最初は反発されても、わかってくれるでしょう」

「だから、それはお前達の強者、奪う側の理論なんだよ。結果的に見れば、帝国が世界のトップを牛耳れば……そりゃあ今より飢える奴等は減るだろうがな。だが、それは弱者の、奪われる側の数多の血や屍の上に成り立つ平和だ」



 〝同調〟しても、わかり合えないところはとことんダメらしい。



 ルゥネは名残惜しそうにシキから離れる。



「悲しいことですが仕方ありませんわね……ではシキ様。私、ルゥネ=ミィバは今ここに、貴方様への忠誠ではなく帝国の発展……引いては世界を我が手にすることを誓います。そしてもう一つ。これは個人的な誓い……。私、ルゥネ=ミィバは今後、貴方様に永久的な支援をお約束します。良い装備やアーティファクトが出来たら届けます。危機が迫っていると分かれば即座に駆け付けます。また、困った時は帝都にお立ち寄りください。全身全霊を掛けてお出迎えさせていただきます。……あ、皇帝の座が欲しいと仰るのならいつでもお好きな時に差し上げますわよ」



 最後に冗談っぽく笑った見せたルゥネに、シキは再度「クハッ」と笑い……



「要らねぇよ。それこそ永久に、な」



 と返した。











 そうして、ルゥネ達一向は帝国へと戻り、シキは自分が起こした騒ぎを鎮静化するべく細かい説明演説を行った。



 レナには泣かれ、メイには渋い顔で頷かれ、セシリアやアリス達は苦笑いだった。



 最も憤慨していたナールも、国を出る為だと言われてしまえば頷かざるを得ないのだろう。最後は納得し、矛を収めた。



 その一ヶ月後。



 刻一刻と出国の準備を進めていたシキやこれまで以上にシャムザの為に動いていたナール、レナ、セシリア達の元に、ルゥネが無事再下克上を果たしたとの報が届いた。



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