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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第1章 召喚編
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第19話 帰城

ちょいグロキモ注意。


 絶望の権化、オークキングの唐突な死。


 あまりの出来事に誰もが目を点にしていた。


 ただ一人を除いて。


「だああぁぁぁぁっ! やっぱりクソいてええぇぇぇっ!? ちっくしょっ……んんっ? うぉいマジか! 足がっ! ははっ、そりゃ(いて)ぇ訳だあはははは!」


 オークキングの頭部に落下してきた張本人、ユウである。


 アドレナリンの分泌量が異常な状態なのか、自分の足が変な方向に向いているのを見て何故か爆笑している。


 数秒して、ハッと正気を取り戻した者が二人。遅れてもう一人。


 内一人は既に今の今まで全身から迸っていた魔力と気迫は微塵も感じられない。


「ユ、ユウ!?」

「ユウ君っ、だ、大丈夫っ!?」

「ひぃっ! あ、あ、足がぁ!」


 ライとマナミは純粋に驚き、心配し、リュウは生々しい傷に目を背けている。


 そんな中、ジルが華麗に着地。


 ユウとは違って至って冷静、平然とした顔であり、ダメージはない様子だった。ユウが落ちてきた時と同様の衝撃は発していたが、地面に埋まるのでもなく、痺れるのでもなく、堂々たる立ち振舞い。


「テメェ最後の最後でビビったな? 片足で済まそうとするから分散出来ねぇんだ。上手く往なせない、怪我をすると思ったら動ける怪我に済ませろ。それじゃあ歩くことすら出来ねぇじゃねぇか」

「いやいやいやっ! 工夫はしましたよ!? 何かやたら逆さまになるから踏ん張ってみたりとか!」

「知るか」

「酷いっ! いきなり命綱無しバンジージャンプさせといてっ、あの高さから落っことしといてこの仕打ちっ! こんの白い悪魔っ!」


 何やら普通に口論を始めているユウの右足は膝から下が見事なまでに逆方向に向いている。


 骨は皮膚どころか衣服すら突き破り、肉は丸見え。夥しい量の血がドバドバ漏れていた。


 いざ怪我の深刻具合を見てサーッと顔色を青ざめさせたのはマナミだ。


 【起死回生】でしか治せない傷を何度も見てきたが故に、ユウの元に飛び出す。


「と、取り敢えずユウ君! 足見せて! すぐ治すからっ!」

「ん? おおっ、マナミ久しぶり! 早速だが頼む! 痛くて敵わねぇ! あははははは!」


 声を上げることも出来なさそうな怪我だというに、ユウは笑っている。


 本人達の会話から元凶はその師だとわかる。


 ライ達勇者一行、グレンら騎士団は狂ってるとしか思えないやり取りに「やべぇ、何があったんだこいつ」とでも言いたげな顔になっていた。


 長を殺られ、目の前でコントのようなことをされているオーク達も「えっと……襲っていい?」みたいな目で彼等を見つめている。


「こんな浅いとこでキングか。どうにもキナ臭い……なっ!」


 刃すら深紅に染められている、装飾品のように美しい刀剣が一閃された。


 抜かれたことはおろか、振られたことにすら気付けない極自然な抜剣。


 殺気は感じられないのに、どこまでも殺意に満ちた横薙ぎ。


 瞬間、ジルの前に居たオーク数匹の首がゴロンゴロンと落ちる。


「ユウ、初の人型だ。殺ってみろ」


 呼ばれたユウはというと、マナミの治療を受けて完治し、既に立ち上がっている。


「うっす。因みに弱点を教えてくれたりとかは……?」

「人間と同じで全身が弱点だ。柔らけぇからな」

「それはあんただけだっての! 相手は生きた豚人間っ、豚骨に豚肉が丸々巻かれた怪物だろっ!」

「そう聞くと腹減ってくるな」

「ガッデムッ!!」


 軽口を叩き合いながらユウも身の丈ほどの大剣を抜剣した。


「……はぁ。もう良いや、いつものことだし。ってなことでライ、マナミ、リュウ」

「お、おう」

「何?」

「ほいさっ」


 ユウとジルのお陰で態勢は整えられた。


 敵はキングに呼ばれて湧いて出たオークが数十匹。


 負ける道理はない。


 故に、ユウはニカッと笑って言った。


「初のパーティ戦、楽しませてもらうぜ?」





 ◇ ◇ ◇


 戦闘終了後。


 俺は先ず吐いた。


 人型生物の殺害。


 虫はまんま化け物だったし、こっちも必死だったからそうでもなかったけど、思った以上にキツい。


 肉や骨を断つ感触が未だに残っている。


 苦痛に満ちた絶叫が耳から離れない。


 返り血で手が滑る。辺りに散乱している惨殺死体から漂う血の臭いと臓物の臭いで鼻が曲がりそうだ。


「う、うぷっ……おえぇぇ……」


 さっき無意味に食べさせられたダンゴムシの残骸が口からリバース出ていく。


 青い。


 兎に角……青い。


 赤よりはマシだなとふと思った。


「「「え……ちょっ……え? はっ……? えっ、ええぇぇっ!!?」」」  


 何故かライ達が驚いている。


 俺の口からはダンゴムシの足の一部が飛び出る。


「ユウっ、お前何食ってきたんだっ!? めっちゃ青いぞ!? てか口口っ、口の端から何か出てるよっ!」

「あ、悪い。俺、二足歩行の魔物殺したの初めてで。ちょっと気持ち悪く……オロロロッ」

「いやいやいやいやいや! そこじゃない! そこじゃなくて!」

「ユウ君がマーライオンみたいになってる……あ、青い……うぷっ……」

「何それ木の枝っ!? いやそして凄い変な臭いするんだけど! 胃液とかじゃないよねこれ!」


 明らかに普通じゃない謎の青い吐瀉物を急に口から放出してしまったことに驚いていたらしい。


「え、何って……虫だけど?」

「「「虫ぃ!?」」」


 一瞬何を言ってるんだと思い、はたと気付く。


 そうだ。


 虫食うのなんて普通じゃないよな。


 え、それに慣れた俺って……。


 ちょっとショックを受ける俺と騒ぎ続けるライ達をよそに、グレンさんがジル様と話している。


 吐きながらその様子を見ているとジル様と目が合った。


 何故か鼻で笑われた。


 あの蜥蜴やろ……いえ何でもないです美少女様だから睨まないでください怖いっ!


「あー……い、色々訊きたいことはあるけど……取り敢えず死体の回収手伝ってくれ、ユウ。《アイテムボックス》開いておくから」


 引き気味のライにそう言われ、辺りを見てみる。


 吐き気を催すレベルの血の臭い。


 何でも他の魔物が興奮するor襲ってくるらしい。


「はー……だからいつもあの人は俺に虫の体液掛けてきたのか。知らんかった」

「「「…………」」」


 絶句された。


 リュウはムンクの叫びみたいな顔で俺を見てた。


 まあ何はともあれ、言われた通りに動き、手慣れた様子のライ達を手伝う。


 平均二メートル以上の巨体なだけあって、めちゃめちゃ重い。


 《アイテムボックス》……亜空間の中に物をしまっておける勇者専用のスキルもあまりに大きいものは入らないとのことで、死体をぶつ切りにしたり、焼いたりと中々忙しなかった。


 しかし、その辺はやはり慣れだろう。ライ達は全員、血の臭いや汚れ、騎士達の死体の処理と作業でもするように淡々と進めていた。


 その後、ジル様は何やら伝令を任されたとかでグレンさんを鷲掴みして先に帰り、俺はライ達と共に帰投。登城後はマリー王女や初のお空の旅に青い顔をしたままのグレンさん他に報告やら何やらを済ませ、いざ浴場へ。


 お湯掛けたら一瞬で凄い色に変色した。


 一緒に来たライとリュウはドン引きし、元々居た使用人や兵達も無言で退室していく。


「トホホ……どいつもこいつもぎょっとしやがるし、エナさんには臭いとか不潔とか言われるし……散々だ……好きで洗わなかった訳じゃないのに……」

「ま、まあまあ」

「……石鹸、ここに置いとくね」


 密室だと余計に臭うのか、二人は顔を歪めながら鼻を摘まんでいた。


 それでも付き合ってくれる辺りは流石友人、仲間だと言いたい。


 服は全てゴミ箱行き。結局、汚れを落とすのに三十分以上を費やした。床にも色が付いたから大変だった。


「全属性を扱える勇者って……何て言うかあれだな、一家に一人欲しい」

「人を便利屋扱いすなっ」

「チートだよねー。ライ達に関しては素質もずば抜けてるらしいしさ」

 

 ライの自室でホカホカと湯気を上げながら談笑しているうちに、マナミも入ってくる。


 向こうも風呂に入ってたようで、やたら良い匂いがした。


 後、支給された服や肌、髪が湿ってて何ともエロい。


「……ユウ君のえっち」

「ちょい待て誤解だっ。何にも言ってないだろっ」

「目がえっちだったよ」

「それはまあ否定出来ないけどもっ。ち、ちょっと見ただけっ、つい見ちゃうんだよそういうのっ」

「「わかる」」


 男連中も同様だったらしい。マナミは溜め息一つで許してくれた。


「ユウ君はレベル幾つになったの?」


 話題を変える為か、ただの談笑から情報交換混じりの少し真面目な会話へとシフトする。


「ん? 今朝、41になって……あれ、前より上がってる? ……あ、オークキング倒したからか。今52だわ」

「「「ご、52!?」」」


 目を剥いて驚かれたので、この約二ヶ月の地獄の日々を語った。


「……っとまあそんな感じだったな。皆は?」

「えっと、俺が25で……」

「私は15。リュウ君が17だね」

「まさかここまでレベルが離れるとは……僕達が居たのはまだまだ入り口だったと思い知らされたよ」


 まあ虫魔物ともそんなに戦わなかったらしいし、妥当な気はする。


 それから互いの戦い方を共有。それと、ライの万能っぷり、マナミの無敵の回復能力、リュウのコピー能力の脅威性を聞き、いずれ来る本格的なパーティ戦の仕方を決めていく。


「ってなると……盾役がもう一人欲しい……か?」

「さっきみたいに大勢で来られるとどうしてもリュウ一人じゃキツいよな。俺が加勢するにしても限界はあるしさ」

「ゲーム的に言えばユウ君がアタッカー、私がヒーラー、リュウ君がタンク……で、ライ君が遊撃と。私としてはライ君の負担も多いように感じるかな」

「だね。回復と盾役を同時にこなせる人が居れば今より戦闘スタイルを変えずに済みそうだけど、僕達の場合、パーティ自体が特殊だからなー……」


 ライ達はパーティで……多で戦った経験がある。


 逆に俺は一切ない状態。攻撃や防御、回避といった当たり前のこともこちらの数が多ければまた少し動き方を考えなければならないだろう。


 実際、戦っていたライ達が真剣に悩むくらいだ。俺の何となく程度の疑問とは違い、その表情や口振りには確かな重みがあった。


「……ま、考え込んでも仕方がない。今度、マリー王女に訊いてみるよ」


 ライの一言で真面目会議は終了し、その後はまた談笑へと戻るのだった。


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