表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第4章 砂漠の国編
199/334

閑話 その2

変な時間だけど書けたので投稿。



「あっ……し、シキ君、おは……よう。……何でそこの二人が服を着てないのか訊いても?」

「……あぁ、おは……ん? うわぁ…………。……ちょっと待て、何でお前が部屋に居るのか訊いても?」

「…………」

「黙るな目を逸らすな姫騎士コラ」

「ユウ兄おはよっ! 結婚して子供作ろ!」

「おはようございます。取り敢えず、キモいんで一生寝ててどうぞ」

「敬語っ!? その反応はちょっと傷付く! しかも遠回しに死ねって言ったし!」

「シキ様ご機嫌麗しゅ――」

「――死ね」

「あんっ、私にだけド直球っ!」



 女が三人集まれば姦しいとは言うが、これは如何なものだろうか。

 こちとら寝起きなのに国の最高権力者は目の前に居るし、裸の女二人は隣で寝てるし。



 普通に怖い。



 ……あれ? 待てよ……? 俺、鍵閉めたよな? 昨日、部屋から二人を追い出した後、鍵閉めたよな?



 ふと気になったので確認してみる。



 外から無理やりこじ開けられたように壊れていた。



「俺が起きない程度に音を消しつつ、古代文明の鍵をぶっ壊したのかこいつら……」



 まさかの力業に引く。

 ルゥネの拘束は解いてないし、レナは隣で「一応、国のものなんだけど……直せるのこれ……?」と戦慄してるから破壊したのはメイだ。間違いない。



 どうやったのかは知らんが、日本に居た頃のストーカー行為を思い出して悪寒が走った。



「いやー相手がユウ兄とはいえ、流石に全裸放置プレイはちょっと……」

「してねぇよっ。部屋あんだろ個人のがっ。この前貰ったろっ。つぅか何で服着てないんだっ」

「私は興奮しましたわ!」

「何にだ。いやマジで何にだ? 後本気で死ね」

「酷いっ! でも好き!」

「……何よジロジロ見て。私が居て文句あるの?」

「姫さんよ、国の経営はどうしたんですかね」

「今日はおやすみなのっ!」



 何なんだこいつら。何なんだこいつら。



 いや、意図や目的はわかるけども。方法からして俺が受け入れる訳ねぇだろバカか。……あ、全員変態だったわ。



「何で私までそんな目で見られなきゃいけないのよ。心外だわ」

「鍵閉めた筈なのに、起きたら目と鼻の先でじっと人の顔を覗き込んでる異性とか恐怖だろ。男だったら……いや普通に女でも変態なんて生易しいもんじゃ済まないぞ」

「……鍵は私のせいじゃないもん」



 何がもんだ。何度も断ってるのに何故伝わらないのか。いっそビンタでもしてやろ……ダメだ、レナ以外喜ぶ姿しか想像出来ない。というか、最近のレナなら受け入れそうで、それもちょっと怖い。



「……頭が痛ぇ」

「「じゃあキスで痛みを和らげ――」」

「――もうツッコまないからな。それと、次変なこと言ったらお望み通り、お前らの穴に熱い棒を刺してやる。鼻か耳かヘソかケツの穴に熱した鉄の棒をな」

「それはホントに死んじゃうよっ! 私は、その……ね? ちょっと違う穴にちょっと違う棒をというか……えへ……」

「はぁんっ、そんな死に方興奮しちゃいますぅっ! 末代までの恥ですわぁ!」



 もう嫌だこいつら。泣きたい。一人は「お、お尻って……下品なんだから……」とか言って赤面してるし。

 どんなに正当化しようとしたところでストーカーだぞマジで……どんなに美少女でもやってることがやってることだから普通にキモ過ぎだってマジで。しかも実情は妹みたいな奴と全身ボロボロでたまに血ぃ吐き出す敵とポンコツでアホの姫騎士だし。



 ……いやていうかルゥネの場合、自分以外の血筋皆殺しにしてんだからお前が末代だろ。



「地雷どころか全身に色んな爆弾くっ付けた女に手ぇ出す馬鹿は居ねぇよ。全員導火線に火ぃ付いてるし。……はぁ、朝から疲れた……腹も減ったし、食堂行ってくる」

「ちょっと……お、置いてくつもり?」

「あっ、私も行く!」

「私もご一緒したいですわ!」



 イラッときた。



 もうダメだ、一度ルゥネの力で俺の本心を聞かせる必要があるな。



 ということでルゥネの首根っこを掴み、耳元で命令する。



 普通に命令すると「はいっ!」とか「仰せのままに!」とかめっちゃ煩い返事が返ってくるからな。返事だけは良いってのはこのことだろう。まあ言うことも素直に聞いてくれるんだけども。



 しかし、今日は失敗だったらしい。



「あっ……あっ……シキしゃまのお声が耳元れっ……アソコも気持ちっ……あ、あふっ……」



 何やら怪しい返答があったかと思えば、未だかつてないヤバい顔……端的に言うと絶対に他人には見せちゃいけない顔をしていた。



 そして何故か腕が温かい。というか熱い。



「……嘘だと言ってくれ」



 何ということでしょう。



 気付かぬ間に俺の腕がルゥネの股に挟まれているではありませんか。



 この女、俺が掴んだ瞬間、両足で纏わりついていたらしい。

 あまりに一瞬で気付かなかった。



 頭の中の冷静な部分がとても人には言えないような感想を抱いているのがわかる。



 後、全っ然、離れん。



「あっ、あっ……気持ち良っ……そ、そこ、れすぅっ……」

「ちょちょちょちょっ! 何考えてんのアンタ! 早く離れな――」

「――あぁんっ、動かれると擦れてっ……んぁうぅっ……!」

「えっ? ……え?」

「えぇ……ルゥネさん、ちょっとそれは変態が過ぎるよ……」

「止めろレナ引っ張るな頼むからルゥネも離れてくれ流石にこれはヤバいヤバいてマジで止めろください」



 レナが引っ張ったせいでルゥネはぶるぶる震え、流石の二人もガチのドン引き。俺は脳内で必死に「明鏡止水明鏡止水明鏡止水……」と唱えた。

 姫らしく、比較的純真なレナが怒りを通り越して困惑してるのは兎も角、ストーカーのメイが引くのは納得がいかない。



 お前も似たようなもんだ……あああぁぁっ、このクソ女とうとう自分からっ……! 朝からこれはヤバいっ、や、ヤバっ……くっ……!














「はぁ……はぁ……はぁ……死ぬかと思った」

「ほ、本当にとんだご無礼をっ……失礼しましたシキ様っ、ずっと拘束されてたので少しその……溜まっていたものでっ……」

「ホントになっ、右腕があってたらビンタしてたわっ」

「でもシキ様も最後はちょっと気持ち良いとか息子がどうたらって――」

「――おっと待った死ぬぞ? 俺が死ぬぞ? そこで白くなってる二人に殺されるぞ? 何を隠そう俺が死ぬ。お前も漏れなく死ぬ。俺が殺す」

「あのシキ様……もう一度お手を借りても?」

「いっそのこと、本当に殺してやろうか……」



 平身低頭、土下座していたくせに食事中は終始こんな感じだった。

 因みに、レナとメイはルゥネの【以心伝心】で俺の本心が直に伝わり、灰になっている。



 力尽きた某ボクサーのように真っ白だ。飯も喉を通らないほどのダメージだったらしい。



「寧ろあれだけのことをしておきながら嫌われてないとでも思っていたんですの? 全く……こちらが恥ずかしいですわ」

「お前が言うな。お前、目と口と耳と脳ミソあんのか? なあ。え? もしかして、どっか腐ってる? 冗談は爪先から頭の先までにしろよ。今、今世紀最強レベルのお前が言うなを体験したぞ。多分、これ以上のおまいうはない。断言出来る」

「あはぁんっ、存在の全否定っ、濡れるッ!」



 一応、ルゥネは自覚があったらしく、全くのノーダメージだ。

 自覚があるなら止めてほしいんだが……



 ――嫌ですシキ様大好きですぜひ帝国のトップに立って世界をその手にっ!



 思念が強いっ。部下が見たら泣くぞ、いやマジで。



「引くでしょうが泣きはしません! 私はパヴォール帝国が女帝っ、ルゥネ=ミィバっ! これがっ、これこそがわ・た・く・し・ですわっ!」

「引かれるんかい。俺がその立場なら間違いなく泣くけどな。胸張ることでもないし。……後、そこから数十センチでも近付いてみろ。その部下の方を殺すぞ。あのフクロウ女とか良さそうだよな。焼き鳥にしてやる」

「では犬のように這いつくばってこのスープを舐めます! お許しを!」

「そこまでは求めてねぇよ。手のひらどうなってんだ、ドリルか」



 しっかし……やっと静かになった。

 二人落ち着いただけでも違うな。



「レロレロレロレロ……んぅっ、これが負けた私への罰っ、興奮しゅるっ、後このスープ普通に美味しいですわ! お代わりをください!」



 一人……いや、一匹キャンキャン言ってる万年発情期っぽいメス犬は居るけども。やれなんて言ってないのに勝手に四つん這いになって舐めてるし。ドレスからパンツ丸見えになってる。羞恥心さん何処行ったん? 〝王〟としてのプライドとか人としての尊厳とか無いのか?



 ……ていうかこいつ、勝っても負けても本気でどっちでも良かったんだろうな。勝ったら勝ったで嬉しいし、また戦えるしで最高で、負けたら負けたらでこうして一人で盛り上がれるしで最高。なのに噛み付いてくるとか狂犬だ狂犬。狂犬女帝。存在そのものが鬱陶しい。



「わんっ! だって最っ高に惨めで興奮するんですもの! 私シキ様の犬になれて幸せぇっ!」



 ……放っておこう。先ず関わっちゃいけないタイプの奴だ。反応するどころか目線をくれてやるだけで喜んじまう。



「犬扱いで放置プレイっ!? ハァ……ハァ……! これはっ、これでっ……!」

「……で、レナ、メイ、俺の本心を知った気分はどうだ?」



 俺は目の前の珍妙な生命体を無視することにした。



「前も言ったろ。妹に欲情する奴は居ない、王族なんて面倒だって」

「無視っ! もうっ、私の旦那様は酷いですわぁっ」

「い、言ってたけど……まさか本当に妹みたいに思われてたなんて……女としてすら見られてなかった、なんて……」

「意識はしてたくせにっ、好みじゃないって……そんな、面倒とかいう建前抜きに普通に性格が無理って……私が何したって言うのよっ……」



 いや、兄の方も兄弟みたいなものだったし……。



 後、俺は頭の足りないバカでアホで勝手に特攻して人を困らせる奴は嫌いだ。それはもう嫌悪レベルで虫酸が走る。ねちっこいとか思うかもしれんが、戦時中のことは絶対に忘れないからな。一生根に持ってやる。お陰で死にかけた。



「ぐぬぬぬっ! あんのバカ兄貴っ、次会ったら何でもうちょっと距離取れなかった、あんたのせいで人生めちゃくちゃだって問い詰めてやるぅ……!!」

「それはお前に言いたい。もう少し距離があれば意識くらいしたのに。実際、何年か前までしてたのに。厳密に言えば中学くらいまで。惜しかったな。例のクローゼット事件のせいで好感度が極寒まで墜ちたわ。百年どころの騒ぎじゃないくらい冷めたわ。もう二度と戻らないぞ」

「バカでアホで困らせ……うっ……もう嫌っ、聞きたくないっ……私だって必死に国のことを思って……!」

「国のこと思って余計なことすんなら本末転倒だろ。それがバカでアホで知能の足りない単細胞生物だってんだよ」

「ここまで誰にも反応されないと少し悲しいですわ! 興奮はしますけど!」



 ……ちょっと言い過ぎたかな。



 いや、ここはハッキリ、ガツンと言ってやらないと。ここ最近のこいつらは少し鬱陶しい。



「ぐぐぐぐっ……ぐぎぎぎぃっ……で、でも諦めないっ、諦めないからねっ……!」

「足した! た、たんさ……? ってのはよくわからないけど、今私のこと思いっきりバカにした! わ、私だって王族なのよっ!? 庶子だけどっ、不敬罪してやるんだからぁっ」



 強い歯軋りと涙目で悔しそうに宣うメイと号泣しながらナールみたいなことを言うレナ。

 後、何か「最早視界にすら入ってないっ! メイやレナさんまで! 私はっ、ここに居るっ! 居ますのにっ! ちょっと傷付いてきました!」って幻聴が聞こえる。怖い。



「しつこいな、雑草かお前は。何がそんなにお前を駆り立ててるんだ。んで、レナは……あぁ、うん……兄妹だな。良かったな、兄ちゃんとそっくりになれて」

「もう……坊やも言い過ぎ。特に今の、豚とそっくりっていうのはちょっと看過できないくらい酷いわよ」



 周囲が「修羅場だ、修羅場だ」、「あいつ死んだな、つか死ね」、「……剣聖とムクロちゃんが居ればもっと面白かったのになぁ」等と好き勝手言ってる中、姐さんが入ってきた。



「そこまで露骨に言ってねぇよ。あいつは蔑称か何かか」

「大体、何でそこまで頑なに断るの? 皆可愛いじゃない。……まあ、一人はちょっと……アレだけど……アレだけど」



 思わずツッコミを入れつつ、姐さんの発言を聞くと同時にルゥネを見る。



 というか二回も言いやがった。どんだけ引かれてんだ。



「ですってメイっ。やっぱりストーカーは嫌われるんですのよっ」

「「「「「お前だよッ! 一番気持ち悪いのはお前だよっ、どう見てもっ!」」」」」

「あんっ、やっと反応してくれた! 愛しの旦那様っ、好き! んまっ!」



 食堂に居た奴等全員の、満場一致の意見に、鋼……いや、オリハルコンか何かで出来てるっぽい心臓を持つルゥネは恋する乙女のような顔で投げキッスを飛ばしてきた。

 取り敢えず皿でガードして床に叩き付けて唾を吐き捨てて踏み潰した。



「あふんっ、私も踏まれたいっ! 段々旦那様の愛がわかってきましたわ! これが私達の愛の形なんですね!?」

「……やっちまった。掃除しないと。つか必死に無視してたけど旦那様って何だっ! 昇格してんじゃねぇか!」



 おっと、またツッコんでしまった。

 これではルゥネが喜んでしm「だ、だってぇ……旦那様の心がちょっとだけこのやり取りを楽しみ始めてるからっ……相思相愛……いえ、これが馴れ初め……? 何て思ったりして!」……遅かったか。



「「「「「えっ」」」」」



 ザッと、食堂に居た全員が驚愕の表情で同時に下がった。



 嫌な汗がぶわっと噴き出す。



 今、ルゥネは何て言った? 楽しみ始めた? 俺が? 【以心伝心】を持つこいつが本気でそう言ったのか?



「は? えっ? ちょっ……止めろ? 皆もそんな目で見んな? 違うよ? 今のも駄洒落じゃないからな? いや……違うって……マジで違うんだって! 引くな! 一歩下がんな!」

「「「「「…………」」」」」

「まるで性犯罪者を見るような顔で下がらないでくれ! 性犯罪者はこいつらだろ!? なあっ!」

「諦めろ、ユウちゃん……ネタは上がってんだぜ?」

「お前はそれ言いたいだけだろこのメス猫っ! 黙ってろボケカスっ、死に晒せクソがっ!」

「口悪っ、反抗期の子供かっ。お母さん怒るよっ」

「うるせぇババアっ、誰が反抗期だっ」

「そこは乗るんかい。今時の奴はそこまで言わねぇよ。つぅか誰のが移ってんだよ。ライちゃんのか?」


 

 さて、アリスは後で殴って、上空から突き落として、稼働中の遺跡に閉じ込めて、プリムにこの前あいつナンパして持ち帰りしてたぞと虚偽の報告をするとして……



「は、話を戻そうっ……な? な? あっ、コラ待て引くなっ、話せばわかる! 話せばわかるっ! おいルゥネっ、【以心伝心】をこいつらに繋げろ!」



 ルゥネ? ルゥネ! と、何度呼び掛けているのに反応がない。

 何なんだよとつい先程まで床に這いつくばっていた女帝(笑)の方を向くと。



「……あら、この紅茶美味しいですわね」

「でしょ? 私のお気に入りなんだ~っ」

「高級茶葉よ。シャムザの貿易力を舐めないでほしいわ。ほら、茶菓子もあるのよっ、とくと味わいなさい!」



 まるでお茶会でもしてるような雰囲気でお茶を飲んでいるルゥネ達の姿があった。



「何寛いでんだお前らはぁっ!! お前らのっ、せいっ、だろっ! もう嫌だこのノリっ、キツいって色々と! 涙出てきたしっ!」



 地団駄を踏んでまで憤慨するものの、三人はこれまでの互いへの冷たい反応は何のその。先程俺達がルゥネにしていたように、俺を居ないもの扱いしてきやがった。何微笑してんだっ、さっきまで白くなって発情してたくせにっ。



「は、ハハ……もう良い……さっき、何で、と言ったな。良いぜ、言ってやる。言ってやんよ。こうなったらもう恥ずかしいなんて言ってられねぇ」

「……な、何よ」



 少し身構える姐さんと無言で耳を傾ける三人娘、直ぐに一歩下がれるようにと半身になる周囲。



 俺は覚悟を決めて言ってやった。



「俺はムクロが好きだ、ジル様が好きだ。ムクロのは愛。ジル様のは……敬愛強めの好意だ。ルゥネも言ってたな。この気持ち、まさしく愛だと。俺のムクロへの気持ちは間違いなく愛だ。俺はムクロを愛しているっ。これは一生変わらない。俺を召喚に巻き込んだクソッタレな神や『付き人』に誓っても良いっ。俺は! ムクロ以外の女を愛さない! 一生っ、我が魂魄百万回生まれ変わろうともなっ!」

「……っ……な、中々言うじゃないの。何か女として負けた気がするわ。後、素直に羨ましい」

「うっ、俺は男として負けた気が……」



 姐さんとアリスは共感性羞恥に苛まれて赤面し、胸を押さえて膝をついている。

 他の奴等も「や、野郎っ、羞恥心ってもんがないのかっ」、「でも……そこまで愛されるのって、ちょっと良いかも……」、「お、重いと思うんすけど……」等と気圧されているっぽい雰囲気だ。レドは後で締める。



 とはいえ、俺の宣言後、皆は一斉に黙り込んだ。

 こっ恥ずかしい思いを我慢して暴露した甲斐があったというもの。



 そして、ルゥネ達もまた、ダメージを受けているらしい。



 レナとメイは再度灰化。

 ルゥネは一瞬固まった後、本当に羨ましそうに、「……良い、ですわね」と目を瞬かせて呟き、続けて「だからこそ……ええ、だからこそです。それでこそシキ様です」とよくわからない褒め方をしてきた。



 これには少し面食らった。



 今までのおふざけとは違う、本気の好意みたいのがルゥネから伝わってきた。

 一層愛が深まったって感じの、謎の感情だ。まるで理解出来ない。



「だって……嫌だろ? 好きな奴を一生独占出来ないとか。少なくとも、俺は嫌だ」



 俺の口からスッと出てきたのは本音だった。

 そりゃ、人の気持ちなんて少し時間があれば変わる。ジル様への気持ちも怪しい。が、ムクロが一番大切で、一番癒される存在であることに違いはないんだ。



 今の俺は真剣にムクロを想っていて、ムクロと会いたい、ずっと一緒に居たいって強い気持ちがある。

 例えムクロが良いと言っても、他の女を同時に愛するなんて器用なこと、俺には出来ない。



 …………大体、あの忌々しいクソ勇者じゃあるまいし。ていうか……そうハッキリ好き好き言われると恥ずかしいし。


 

「……それが本音なんじゃない。台無しだわ、色々と」



 ……ルゥネめ、最悪のタイミングで繋げやがった。

 お陰で姐さんの目がジト目に。ルゥネはしてやったりって顔してるし。……すんげぇ気まずい。



「ふ、ふんっ……ホント馬鹿っ。締まらないわね」

「……うん、ルゥネさんの言う通り、そういうとこだよユウ兄。今ちょっとだけ伝わってきた。出会い方もその後のやり取りも最悪で、《魅了》までされたけど、あいつは……ムクロは優しかった。自分が一番辛い時に、悲しい時に支えてくれて、自分を大切にしてくれたんだっていう、本心。だからって……私は諦めないよ。ムクロさんにも負けない。私だって……本当に辛くて泣いてる時にユウ兄に助けられて……好きになったんだもん」



 「少しは私のことも考えてくれてたんだ……そっか、ムクロさんのことが本当に好きなのね……」という声や納得の感情が伝わってきたレナは兎も角、メイのは思わず「うん?」と首を傾げた。



 そんな俺を見てメイの方も「え?」と首を傾げる。



「辛くて……泣い、てた? んん?」

「うん、暴漢に襲われて辛かったし、泣いてたでしょ?」

「うん、俺が合流した時には普通に撃退してヤクザキックみたいな蹴りガンガン入れてたし、何なら泣いてたのは向こうだったな? 俺は別に助けた訳じゃなくて止めに入っただけ。結局ライがぶちギレて追加でボコボコにしてたけど。あのままだとお前が殺人犯になるんじゃないかって……え?」

「え?」

「え?」

「「「「「……え?」」」」」



 ルゥネの【以心伝心】によって繋がった俺らは暫く、



「え? こうだったよな?」

「いや何言ってんの、助けてくれたじゃん。あの時もあの時もさ」

「いやいや……全部、お前の為とかじゃなく、お前ら兄妹が捕まらないようにだな」

「いやいやいやいや……それなら尚更助けてくれてるじゃん」

「いやいやいやいやいやいやいやいや。自分の発言考えろ? 俺が止めなきゃ殺してたって言ってるようなもんだぞ? 隣に居た俺が止めないと俺まで共犯みたいだろ? 逃げても通報しなかったらアウトだろ? 何より俺が。ま、まさかお前、ずっと勘違いしてたんじゃ……」

「え……?」

「うぅん……?」



 と、話し合った。



 それはもうこんこんと。



 ついでに、意識共有空間に他の奴等全員も入っていたことで、全員とも仲良く……ああ、それはもう仲良くなれた。



 リュウ、アカリ、ヘルト、アリス……お前ら、二度と太陽を拝めないと思え? 何で撫子しか俺のことを好意的に思ってないんだ? その撫子も「いや悪い御仁ではないんでござるが……まあ……まあ……良い奴、かなぁ……?」程度だし。



 他の奴等も俺のこと変態だとかロリコンだとか女たらしだとか実は両刀で男も女も食ってるだとか……好き勝手思ってくれてたんだな。最後のなんて何処から湧いて出た噂なんだ? え? 姐さん? 何で? 何でそう思ったん? 私に手ぇ出さなかったから? ちょっと違う? 私は聞いただけ? いや、その理屈と言い訳はおかしくない? 理不尽じゃん。ムクロしか考えられないって言ったじゃん。



 取り敢えず……



 全員、コロス。



 マジブッコロス。ハハッ、キレテナイキレテナイ……キレテナイ。



 本当だって……逃げんなよコラ。



「ならその手に持った刀剣をしまえ!? それ『狂った剣聖』の剣だろ! こんなことに使うなって! 大事なも……ぴぎゃあああああっ、俺様の頭皮があぁっ、耳の毛もちょっと落ちたって! ほら髪の毛舞って……いや燃えてるっ!? ぎゃあああっ、あっつっ、あっつぅっ! 燃えてるって! ユウちゃんっ、ちょっ、それは洒落にならっ……ひいいいぃっ!!」



 誰とは言わんが、その全員の中で最も俺の風評被害を広めていた奴の毛は念入りに毟ってやった。



 誰が自分の部屋に連れ込んだ女を全員同時に虐めてヒィヒィ言わせてたド外道野郎だ。そんでもって誰が「あいつ実は男もイケんだぜ? ほら、ヘルトちゃんとかリュウちゃんとかあいつには強く出れねぇじゃん? あれな、実は裏で……」だ。お前じゃねぇか。全ての元凶お前じゃねぇか。姐さんに吹き込んで広めさせたのもお前だな?

 だから最近、レドとアニータの目線がちょっと冷たかったのか。だから最近王都の人に囲まれることが減ったのか。だから出ていく前、ムクロに「まあ……うん、私は止めないよ。うん……何があっても……好き……だ、よ……?」とめちゃくちゃ疑問系かつドン引きの表情で言われたのか。



 久しぶりに……キレちまったよ。











 因みに。これをキッカケにルゥネ達への不満やら怒りやらが消え、僅かにだが仲良くなってしまったのは……いや、違うな。多分気のせいだ、うん。



 それでも絶対に手は出さん。絶対にな。



結論、Red ○ullは偉大。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ