表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第1章 召喚編
19/334

第18話 落下

ちょいグロ注意。


「キシャアァァーッ!!」


 大型のトラックよりも巨大なカブトムシに牙やら角やら目玉やらが生えたような不気味な魔物の断末魔が響く。


 その巨体が凄まじい速度で落下してきたことで地面は揺れ、俺はその死体の上でふぅと一息吐きつつ、残心。


 腐っても魔物。腐っても虫。油断大敵だ。


「…………」


 暫く様子を見ても痙攣+足を動かしてるくらいだったので飛び降り、もう一息を吐いた。


 先日、ジル様にこの森の主的存在らしい魔物を倒せば帰投という約束を取り付けた。


『おぉ? おん……良いんじゃね? オレも飽きてきたし』


 と。


 流石にイラッと来たけど、「何か文句でも?」みたいな笑顔を見て黙った。


 とはいえ、約束は約束。当然、それはもう頑張る訳で。


 まさかドラゴンのように火まで吹いてくるとは思わなかったし、辺りは更地だが、俺自身に大した傷はない。


 にも拘わらず、お師匠様の目は酷く冷めていて。 


「ま、及第点ってとこか? 第一、時間を掛け過ぎだ。第二にビビり過ぎ。羽が弱点なのはこの二ヶ月でわかってんだろうがダァホ」


 それが戦闘の一部始終を見ていたジル様の有難いお言葉である。


「さーせんっ! あざますっ!」


 腰を四十五度折り曲げ、丁寧に謝罪と感謝を表す。


 安全マージン結構取ったのに……という本音は諸バレだろうが、まあ構わん。


 何故なら帰れることが確定したのだから。


 っしゃあああああっ!


 やっと帰れる! 


 長かった……ほんっとうに長かった……!


 さらば水浴びすらまともに出来なかった汚い身体! 


 さらば無駄にデカい虫達!


 さらば鬼畜で頭のおかしい修行!


 さらばサバイバル! 


 虫の味は苦かったなぁ! もう二度と食わん! ってな!


「……まだ残っても良いんだぞ?」

「…………」

「……いや、冗談だって。だから今にも泣きそうな目でオレを見るな」


 変人を見るような目で見られた。


 「クゥンッ、クゥンッ……」って犬みたいな声出しただけなのに。


「やっぱりまだ余裕ありそうだな……」


 ハッ!?


「HAHAHA‼ 全力でご遠慮させていただきますとも! さあっ、瞬く間にっ、一瞬でっ、即っ、足早にっ、素早くっ、全速力でっ、刹那的に帰りましょう!!」


 どっかの芸人みたいに「フォーーーッ!!」とか叫んで踊り出したい気分だ。


「…………流石にやり過ぎたかな……最近、いきなり笑い出すようになったもんな……何かしてやった方が……でも医学とかオレわかんねぇしな……帰ったら取り敢えず医者だな、うん、そうしよ……」

 

 何かジル様が遠い目してた。どうしたんだろう? 


 ま、何はともあれ、だ。


 現在の俺のレベルは41。


 正式名称を巨蟲大森林というらしいこの森で出てくる魔物では既にレベルが上がらなくなってきている。


 適当に理由を付けただけで、元々帰投は考えていたんだと思う。


 野宿にも慣れたし、余計なもんは無理やり削られたし。


「よし、それじゃあ先ずは見通しの良いところに移動だな」

「……あ、また飛ぶんすね」


 スンッとなった俺はあっという間に竜と化したジル様に鷲掴みされ、空の旅に出た。













 そんなこんなで飛行中。


 暇だったこともあり、長らく過ごした忌々しい森の景色を感慨深く見ながら色んなことを思い出していた。


 歩いて移動するにも何日も掛けていたこと、当然舗装なんかされてないから歩き辛いし、足が直ぐ棒のようになるし、その間普通に魔物は襲ってくるしで慣れる一週間くらいは地獄を見たこと等々。


 そういう意味じゃ、随分迷惑掛けたなぁとも思う。


 ジル様としては移動も遅い、魔物を倒すにも躊躇する、サバイバル経験無しなせいで色々教えなきゃいけない俺はかなり邪魔というか……ウザかったんじゃなかろうか? 一切そういうことに文句は言わなかったけど、感謝の気持ちを何らかの形で贈ったりした方が良いのかな。


 なんて考え、文字通り竜と化しているジル様を見てみるものの、何の反応も示さない。


 心は読まれてる筈だが……まあ、興味のない思考なんだろう。


 確かに辛かったけど、楽しくもあった。


 向こうがどう思っていようと俺にとって掛け替えのない日々だったことには違いない。


 ……帰ったら何かお洒落なアクセサリーでも買ってあげよう。普段、クソほど無縁だろうし。


『あん? 何だ? 喧嘩の安売りか?』

「ぎぃやあああああっ!? 痛い痛い痛いっ! すいませんっ、マジすんませんっ、潰さないでぇっ! トマトみたいになっちゃうぅぅっ!?」


 最早、慣れた様子であーだこーだ言い合い、お仕置きを受けていると。


 かなり先の方、森の中で何かが光った。


 飛んでるせいで若干遠近感が怪しい。


 しかし、誰かが戦っているような気配は伝わってくる。


 木々が邪魔しているのと、地味にピカピカ光ったりしてるだけで戦闘自体は全く見えないが、移動しているようにも見える。


『……ありゃあ、テメェのダチ共じゃねぇか?』

「え? マジっすか。よく見えますね」


 ライ達らしい。何やってんだか。


 とか何とか言っている内に光が漏れている場所の真上辺りまで着く。


『うしっ、ピンチっぽいし、お前ちょっと行ってこいっ』

「は? いやそんな焼きそばパン買ってこいみたいな言いか……たああぁぁぁぁぁあああっ!?」


 有無を言う暇もなく落とされた。


 またか。


 いやマジで。


「またかよおおおぉぉぉっ!?」


 今度は上空……あー……二百くらい……か? 某都内のタワーから見た景色よりかは低いくらいかなってくらいの高さだ。


 鍛えた《金剛》で落下ダメージと衝撃を殺して無傷で生き残れ、さもなくば死ね。


 え、だって少しミスったって再生者居るだろ? 大丈夫、死にさえしなきゃ何も問題はないさ。な? 


 と。


 つまりはそういうこと。


 ジル様は既に元の美少女の姿に戻っており、さもありなん的な顔で下を見ている。


「ちっ……ちっ……ちぃっ……! ちぃくしょおぉぉぉーーっ!?」


 俺の身体は恐ろしいまでの速度で森の中に吸い込まれていった。



 ◇ ◇ ◇


 時は少し遡る。


 奥に行けば行くほど巨大になっていく虫系魔物が跋扈していることで有名な巨蟲大森林。


 ライ達のパーティと彼等を監督している騎士団とその団長グレンはユウ達が居た最奥と森の入り口から見て、ちょうど中間地点で野営していた。


 ユウらとは真逆で彼等は奥へ奥へと進んでいたのだが、先日、大人数故に食料貯蓄の底が見えてきたというアクシデントが発生。


 今朝から昼まではサバイバル訓練を続け、今現在行われている戦闘を終え次第、即刻城へ帰還する手筈となっていた。


「「ブギイィッ!」」


 ガキンッ、ガキィンッ!


 豚が絶叫するような奇声と剣戟に近い戦闘音。


 体長二メートルを軽く越え、何処かで拾ったらしい剣や槍を小枝のように振り回してくるその魔物はオーク。


 言わずと知れた、二足歩行する猪のような魔物だ。


 ライ、マナミ、リュウは現在、五体のオークを相手に戦っていた。


 周りにはライの魔法によって既に事切れているオークの死体が三体転がっている。


 実に勇者らしく素早く斬り込んだライがオークの槍に剣の柄をぶつけ、弾き飛ばす。


 対するオークは武器が失ったことに焦り、殴り掛かってくるが、彼は冷静にその動きを見極め、一歩引き、ダッキングの要領で掻い潜り、浅く斬り付け……それでいて、その視線は決して一点集中することはなく、全体を見渡していた。


 何度か丸太のような太い腕から繰り出されるパンチが直撃コースに入る。


 オーク達も命が懸かっているのだからその抵抗は生半可なものではない。


 しかし、その度にライは《縮地》という瞬間移動に近い移動スキルで後退し、反対にリュウが前に出る。


 無職かつ無能魔法の使い手であり、無能な固有スキルとこちら側の人間からすると不幸の体現者とも言うべき彼は一メートルに届きそうな程大きい盾を持っていた。


 彼の固有スキルは【鶏鳴狗盗】。


 他者からスキルを劣化コピー出来る能力。


 ユウから《金剛》を『盗』んでいる彼はオークの殴打を受けても尚立ち続ける。


 ユウのように器用な使い方は出来ないのか、苦悶の表情を浮かべているものの、マナミがその背中に触れた途端に和らぎ、再び顔を歪ませる。


 が、オークがリュウに気を取られた瞬間、ライが再び舞い戻り、攻撃を再開した。


 オールラウンダー系の職業、勇者であるライが斬り込み隊長……もとい、剣や魔法での中近距離攻撃を担当。


 マナミが固有スキル【起死回生】による回復と武器、防具の修復で援護。


 リュウは相手の攻撃を受けなければ発動出来ないという【鶏鳴狗盗】の性質上、肉壁、俗に言うタンクの役割を任されているようだった。


 その戦闘に危うい場面は特にない。


 寧ろ、手慣れているような節すらあった。


 結局、徐々に徐々にダメージを与え、消耗させ、最後の一体を倒すことに成功。


 ライ達はシキのように残心をして辺りを注意深く見渡した後、深く息を吐いた。


「「「はーっ……」」」

「二人共、お疲れ」

「お疲れー」

「お疲れ様。いやー……やっぱりまだ痛いし、怖いや。ライは凄いね」

「そうかな?」


 最初は魔物そのものを殺すことが……特にオークのように二足歩行をする人型魔物を殺すことがどうしても出来ず、時には吐いていたライ達一行も一ヶ月近くレベル上げという名の大量虐殺を行えば慣れくらいする。


 少なくとも返り血で全身が真っ赤になっていても笑って話せるくらいなのだから。


 その後、ライ達が反省点や改善出来る動き等を話しながら移動し、グレンと騎士達の元に近寄る。


「よし! 怪我人は居ないな! いやはや、驚いたぞ! この短期間でレベルが20に届きそうな程の急成長をしている上に、小規模とはいえ、初の集団戦闘であの対応と動きっ。流石、勇者とその一行と言ったところだな!」


 オークの五体同時処理は初心者にしては中々の戦果らしい。


 グレンは素直にライ達を褒め称え、ライ達は苦笑いで応えた。


「いえ……やはりリュウの負担が大きいです。まだまだですよ」

「謙遜するなライ! お前達と同じレベルの奴等じゃ倒せたとしても精々二~三体が良いところだっ、謙遜も過ぎると嫌味になるぞ!?」

「そう……ですかね」


 大体、その苦行をさせたのは誰だよ……


 とは三人揃って思いつつ。 


 ライ達と同じようにレベルを上げる為についてきた新人の騎士等は「俺達じゃ一体の相手すら無理だな」と肩を竦めていた。


 そんな光景を横目に、オークの死体を回収したグレン達が「戦闘も無事に終わったことだし、帰るぞ! 撤収ぅっ!」と声を掛け、イクシアの王都方面へと歩き始める。


 ライ達はその後を追いながら『水』と『風』の属性魔法で汚れを洗い落とし、ふと話し始めた。


「……そういや、ユウはどうしてるのかな。幾ら最強の師匠が居るって言っても一人じゃなぁ」

「パーティの有難みを知った身としては心配だよね」

「こっちみたいに死にさえしなければ大丈夫的な能力やアイテムもないからねー……」


 現在、ユウは潰れ掛かったトマトのように赤い顔をしながら遥か上空で悲鳴を上げている。


「案外、もう城に戻ってたりしてな。ジルさん、めちゃくちゃ速かったし」

「ありそう」

「ユウは泣いてたけどね」


 現在、『最後なんだから食えよ、思い出作りってやつだ。あ? 嫌だぁ? ペーストにすんぞコラ。あ゛ぁ゛?』とジルに凄まれ、泣く泣く巨大バッタを生で食べているところである。


「それか、とっくのとうに帰って城で修行してるなんてこともあるんじゃない? あの人……人? 常識通じなさそうだし。それはもう僕達なんかとは比べ物にならないほど辛い辛い修行を終えてさ」

「「あはは、確かに」」


 現在、『おら、お代わりなら幾らでもあるだろ? 食えよ、まだマジックバックに残ってるだろ? あぁん?』と、リュウの指で腹を押されて戻してしまい、それでもダンゴムシを食うことを強要されているところである。


 パワハラとかいうレベルではないレベルのパワハラ。


 最早、ユウの人権は失われている。ユウの瞳からは光が失われている。


 話の種である友人の現在等露知らず。


 仲良く談笑していた彼等に緊張が走ったのはそれから数秒後。

 

「ふっ……伏せろぉッ!」


 熱血漢であるグレンに似つかわしくない焦燥感に満ちた声。


 いち早く()()に対応出来たのは当の本人とライ。続いてリュウのみだった。


 何処からともなく、その辺に生えている木を根っこごと引き抜いたような大木が唸りを上げながら飛来した。


 グレンの声に反応出来た騎士達やマナミを庇ったライ達は自分より何倍も大きい物体が頭上を通り過ぎていくという寿命の縮むような思いこそすれ、怪我一つすることなく生き延び……反応出来なかった新人騎士等は瞬く間に物言わぬ肉塊と成り果てた。


 目の前で十人近くの人が死んだ。


 それもこの一ヶ月で親睦を深めていた知り合いが、友人が。


 その事実にライは立ち尽くしていた。


 何だこれは? 夢? それとも現実……?


 視界がぐにゃぐにゃになるような感覚。


 現実が現実じゃなくなったような錯覚に陥り、棒立ちになってしまう。


 そんな彼を真の現実に引き戻したのはやはり他者の声だった。


「て、敵襲! 敵襲ぅッ! オーク8体、オークジェネラル2体、オークキング1体が正面っ、距離は数十メートル!」

「何だとっ!? 斥候は何をしていたっ!」

「応答がありませんっ、恐らくはっ……!」

「怪我人多数っ! 回復魔法を……いや、マナミ殿! 至急、【起死回生】を!」


 ベテランの騎士達とグレン達の報告&会話だ。


 その場でハッとし、ライは仲間達と目を合わせる。


「グ、グレンさん! 俺達はどうすればっ!?」


 この二ヶ月、彼等にだって死にそうな場面はあった。


 今もその時だと、三人は直感していた。


「ジェネラルくらいは俺でも何とか出来るっ、が、キングまでは無理だ! 俺達が時間を稼ぐ! お前らは何としてでも逃げろ!」


 冷や汗を足らしながらのグレンの発言の真意は即ち、自分を含む騎士達を置いて逃げろ、というもの。


 オークを一人で安全に倒せる適正レベルは30。その上位種であるジェネラルは60。更にその上位種であるキングは90。


 それらはライ達が20にも届いていないレベルで倒せたように、あくまで安全に、一人で、という前提条件ありきのもの。


 しかし、この中で一番強いであろうグレンのレベルは68。無理をしたところで到底敵わないことは明白だろう。


 『真の勇者』と『再生者』であるライ達の生存を第一に考え、撤退という判断を即座に下したグレンは間違っていない。


 だがライは、理解こそ出来ても納得が出来なかった。


「で、でも! 皆が!」

「『真の勇者』は魔王に唯一対抗出来る存在っ! お前はこんなところで死ぬべきではないのだっ、マナミもな!」

「皆が死んだのに! 皆が死のうとしてるのにっ! 自分達だけ生きろだなんてっ……皆を見捨てて逃げるなんて俺には出来ませんっ!」

「綺麗事を並べている暇があるなら足を動かせっ! マナミを守れ! リュウと逃げろ! 俺達はお前達を守る義務があるっ! こんな問答をしている時間はないんだっ、さあ早くっ!」


 決死の説得も虚しく、グレンとライが話している内に、オーク達と時間を稼ごうとする騎士達とで戦闘が始まる。


 颯爽と飛び出したマナミが負傷者を治し続けることで均衡を保っているが、先行してたオーク達は兎も角、その後方にはグレンでも倒せないオークキングと、ライが無理をして倒せるかどうかのジェネラルが2体も居る。


 誰が見ても絶望的な戦況。


 逃走はもう間に合わない。


 ライはそう感じ、悔しそうにグレンを見つめる。


 グレンは苦虫を噛み潰したような表情で返した。


「……騎士達と協力してジェネラルを倒せるか?」


 戦いたい。


 無惨に殺された騎士達、友人達の(かたき)を討ちたい。


 そんな思いを持つライだからこそ、グレンの提案は嬉しくもあり、誇らしくもあった。


 それどころか「キングだって!」とやる気に満ち溢れており、既に剣を抜いている。


「っ! や、やります! やってみせます!」

「では頼んだぞ! 俺はキングをやる!」


 そうして、長く苦しい戦いが始まった。


 通常種のオークは早々に片が付いた。


 ジェネラルに比べれば騎士達でも十分倒せる数。その上、マナミの援護もある。


 問題はジェネラル2体とキング。


 ライや騎士達でも皮膚が硬すぎてまともなダメージが入らない点。


 仲間を呼ぶキングの習性。


 これがとても厄介だった。


 ライ達が苦戦している最中でも至るところから飛び出してくるオーク達。


 不幸中の幸いなのは増えるのが通常種のみで、ジェネラルが増えなかったことだろう。


 ライ【紫電一閃】が文字通り一閃し、ジェネラルを硬直させる。


 身体全体ではなく、手だけを電気状に変えてのパンチはジェネラル級でも効くようだった。


 生じた隙を狙って騎士達が突っ込み、次々に剣を突き立てる。


 が、皮膚の表面に少し傷が付くだけで終了。まるで歯が立たない。


 逆にジェネラルの攻撃は即死レベル。実際、何人かが頭部を殴られ、首が飛んでいる。


 マナミの【起死回生】は手で触れなければ発動出来ない。


「負傷者は退がらせろっ、死人を増やすな!」


 指揮官がそう叫ぶが、その為に人員が割かれ、前衛が薄くなる。


 それを補うべく、ライは最前線に残り続け、属性魔法を解禁してジェネラル2体を足止めに掛かった。


 『火』、『水』、『風』、『土』……etc。


 異世界人の勇者故の圧倒的な数、種、質。


 しかし、ステータス差が激しいのか、ジェネラル達は「「ブギィ……!」」と面倒そうに鳴くだけ。


 多少のダメージはあるのだろう。皮膚は焼け爛れ、水ぶくれや裂傷、青アザと傷らしい傷は確かに増えつつある。


 だが、それが何だと言わんばかりの態度だった。


 数の暴力もある。


 キングがひっきりなしに呼ぶせいで何処からか現れる無数のオーク達の猛攻はリュウや防御スキル持ちの騎士達が食い止めることで何とか耐えている。


 ベテランの騎士でなくとも協力すれば倒せはするが、それすらも凌駕する数。例え前線の者が倒れようと、オーク達は気にせず味方の屍の上を歩き、踏み潰しながら突撃してきている。


 均衡が崩れるのも時間の問題と言えた。


 一方、キングの強さも圧倒的。


 国の最強戦力の一人であるグレンと直属のベテラン騎士数人が決死の表情で抑えている。


 その周囲には少なくない数の騎士達の遺体があった。


 死者を出して尚も攻勢に出れず、防戦一方。というより回避一方。


 時折、グレンが雄叫びを上げながら大剣をぶつけるものの、キングはその部位を痒そうに掻き、虫でも払うかのように払ってくるだけ。


 そんな雑な動きだけで、グレンやその他は吹き飛ばされ、死者が増える。


 そこまでの差。


 不利をわかっていながら誰も諦めず、必死に戦っている。


 彼等の心を保っていたのは彼等が信ずる隊長と勇者。


「耐えろっ、凌げっ! 我々は誇り高きイクシアの盾であり矛っ! 決して倒れるなっ! 気張れぃっ!」

「皆は下がって! 俺が前に出るっ、援護頼んだっ!」


 同じように怖い筈なのに。


 敵わないとわかっている筈なのに。


 二人は敵と真正面から向き合い、稀代の攻防戦をしている。


 オーク側、人間側、両『最強』達にダメージはない。


 ジェネラル、キングだの言われているが、所詮は物理一辺倒。


 人間には属性魔法があり、イクシア最強の騎士と希望の象徴である勇者が居る。


 そんな、うっすらとした希望が騎士達を支えていた。


 しかし。


 十分も経った頃だろうか。


 誰もが恐れていたことが起こり始めた。


 均衡の崩壊。


 物理攻撃や属性魔法がまともに効かないのなら押し通す。


 覚悟を決めたライが2体のジェネラルを倒した。

 

 『雷』の属性魔法と【紫電一閃】がトドメだった。


 どんなに皮膚が硬かろうと生物なんだから電気は流れる。ダメージも少なからずある。


 ならばその心臓にほんの少しでも電気を流してやる、といったライの目論見は成功。新たに死人を出してしまったが、何とか一勝した。


 その横、キングが呼ぶ通常種を抑えるリュウ達の方はダメだった。


 負傷した騎士達が徐々に増えていき、マナミの回復が追い付かなくなり、前線が崩れてしまったのだ。


「た、退却っ、退却ぅ!」

「退けっつったってっ、どこにっ!?」

「良いから団長達の元に集まるんだよ!」


 魔物の知性ながら勝利を確認したのだろう。


 オークキングが嘲るように嗤った。


「ぐぬぅっ、バカにしてくれる! ライっ、残り魔力は!?」


 グレンが怒り、合流したライに何か策はないかと訪ねる。


 いつまで待っても返事はなかった。


 流石に荷が重かったか?


 死を覚悟しながらチラリと隣を見ると、ライはわなわなと震えるように全身から濃密な魔力を発していた。


「こんなところで……! こんなところで! 殺されて……堪る、かあぁぁぁーーーーっ!!!」


 まさに勇者の覚醒。


 身体に残っている全エネルギーを振り絞り、特攻してやる。


 今のライはそんな気概を撒き散らしていた。


 誰もが制止の声を投げ掛けるが……歯牙にも掛けない。


「や、止めろっ、ライ!」

「ライ君ダメぇっ!」

「無茶だよっ!」


 見つめるはキングの首一点のみ。


 腰を落とし、半身に。


 剣を横に構え、「はあああぁぁっ……!!」と力を溜めるように属性魔法を付与。勇者として相応しい獲物をと支給された西洋剣はバチバチと放電を始め、やがて赤く染まり出した。


 金属の赤熱化。


 とてつもない量の電気を帯電させているらしいその剣は怪しい光を放っている。


 そうして、ゆらりと彼の身体が揺れる。


 一歩二歩踏み出し、【紫電一閃】でいつでも突撃出来るよう変則的なクラウチングスタートの構えをとった。


 直後。


「……すうぅぅぅぱああああっ! いな◯まああぁっ! きいぃっ……あれっ? 言うタイミングちょっと間違えっ……ぎゃああああっ!?」


 突如、空から落ちてきた何者かによってオークキングの頭部は踏み潰され。


 一瞬で地面の染みと化した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ