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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第4章 砂漠の国編
188/334

第177話 思慮交錯

明けましておめでとうございます。

遅れておいてアレですが、今年も読んでもらえると嬉しいです。



 ほぼ同時。



 元聖軍、上級6位の撫子とフクロウのような丸い瞳に首、翼と脚を持った異形の少女ココはほぼ同時に同方向を睨み、片やその場に伏せ、片や壁にピタリと張り付いた。



「メイ殿っ、何か来るでござるっ!」

「っ!? わ、わかりました! 皆っ、聞こえたでしょ!? 伏せて!」



 遅れて何らかのスキルで感知したらしいメイも手元の雷球を消失させると、友人に注意喚起しながら大急ぎで倒れ込み、衝撃に備える。



 離れた位置で、いつの間にやら目を覚ましていたスカーレットと撫子らの戦いを見ていたサツキ達は戦闘を中断してまで何かから身を守ろうとしている三人の姿に焦った様子で壁の手すりに掴まり、身を寄せ合った。



「むぅ……何が何やら……」

「兎に角、揺れるっぽいことは確か……っ、来たっ。僕も手伝うっ、掴まって!」

「わわわわわっ、何々っ!? 何なの!」

「落ち着けって!」



 勇者であるヨウが話している最中にズシイィンッという揺れに見舞われた彼等は途端に大混乱に陥るものの、先の戦闘で片腕が千切れ掛かっているスカーレットは勿論、実力の差や覚悟の不足から撫子達の互角の戦いから逃れていたサツキ達は混乱しつつも持ち前の高ステータス、固有スキルでサンデイラ衝突の際の衝撃に耐える。



 見れば、それまで戦闘を続けていた撫子とメイも険しい顔で堪えており、唯一、壁に張り付いていたココだけは焦燥感に満ちた顔でルゥネやシキの居る方向を見つめていた。

 その様子は尋常ではなく、彼女はやがてその顔を泣きそうな顔へと変化させると、巨大な翼を広げ、ふわりと浮いた。



「リンクが切れた!? ルゥちゃんっ……ルゥちゃん!」



 艦内全体が未だ揺れ続く中、動けないでいる撫子達の頭上を、ココは翼をはためかせながら飛んでいく。



 少しして揺れの正体がサンデイラの突撃によるものだと看破した撫子は文字通り飛んでいったココを見て大の字で寝転び、喜んだ。



「こ、れは……せ、セシリア殿達でござるな!? やったっ、援軍! 生き延びたでござるぅっ……!」

「ちょっ、撫子さん!? 一体何がっ……っ、このままだとユウ(にぃ)が危ない! ココさん待って! 行かせないっ!」

「メイっち! 一人じゃっ……」

 


 メイは撫子に訊こうとした直後、ココという脅威がシキに近付こうとしていることに気が付き、揺れが収まる前に走り出す。



 背後から友人達が制止してくるのはわかったが、身体がそれを拒み、彼等の声をシャットアウトした。



「ルゥちゃんっ、待ってて! 直ぐ助けるからっ!」

「ユウ兄の邪魔はさせない! 当たれぇっ!」



 狭い廊下を、ココは魔粒子を使って通り抜け、メイは幾つもの稲妻を走らせて追撃する。



「止めてよメイちゃんっ! ボクはただルゥちゃんを!」

「それがっ、ユウ兄を困らせるっ! ココさん! 貴女はここでッ!」



 迫る電撃を躱して進みながら、もう攻撃の意思はないと告げるものの、メイは壁を走り、瞬く間に追い付いて見せた。

 対するココは早まった、廊下では逃げ場がない、という思考に基づいて減速し、自慢の鉤爪を蹴りと共に突き出す。


 

「このっ……!」

「魔法使いタイプの勇者って言ってもっ、ステータスなら互角だって褒めてくれたのはココさんでしょうがっ!」



 メイの体当たり気味の突撃により、仕方なしに出された鋭い爪と剣のように振られた短杖がぶつかる。



 メイにとって友人であり、ある種、師でもあるココは例え受け身だとしても自分が負けるとは欠片も思っていない。

 そんな動きだった。



「なっ!? こんな芸当っ、何処で!」

「独学っ! ただの思い付き!」



 しかし、メイは『風』の属性魔法で表面に刃を形成していたらしく、爪と杖は見事拮抗。

 寧ろ、飛んでいるココでは飛び付いてきたメイを受け止め切れず、壁に叩き付けられてしまった。



「ぐへぇっ!? 痛いなぁもうっ!」

「っ……痛っ……! に、逃がさないッ!」



 それでも、と背中を壁に擦りながら飛行を続けるココ。

 一方で、メイは勢い余って転倒しながらも急いで立ち上がり、雷球を投擲。ココの前方と格納庫に続くドアの前、その間と計三つの電撃ネットを創造した。



 当然、ココは今更止まれる訳もなく、そして、ルゥネを助ける為にも止まる訳にもいかず。



「ぐううぅっ!!?」



 ネットを無視して突撃し、激しく感電。全身を痺らせつつ、ドアに体当たりして格納庫に飛び出した。



「嘘っ!? いやっ……ユウ兄ぃっ!」

 


 ココが見せた意地に目を見開いたメイは驚きながらもその後を追った。












 ◇ ◇ ◇



「ったく誰も居やしねぇ! 抵抗もねぇし、どうなってやがる!?」

「つぅか……生首やら潰れた死体しかないぞ……」

「船が動いてるんだから生きてる奴は居る! 良いから行くぞお前ら!」



 ヴォルケニスに突入した『砂漠の海賊団』の団員達が喚きながら各所に走り回る中、その遥か後方に居たセシリアは合流した数人の仲間と共に女帝ルゥネを探していた。



「全員一太刀でやられてる……切り口が綺麗じゃないから、この首と死体の列を作ったのは坊やね」

「……惨い」

「じ、じゃあ他はあのゴーレム落としの回転に耐え切れなかった船員ってことですかい?」

「だと思うわ。そこら中の壁に付いてる血の染み的に飛び散った感じはしないし……女帝も無理をする」



 帝国兵による銃撃等、反応が一切ない為、艦内に残された大量の死体と血である程度の状況を把握。そして、男女問わずゴロゴロと転がっている首を目印に歩みを進めていく。



「っ……」

「姉御、あんまり見ねぇ方が良いですぜ」



 人の生き死にには慣れていても、セシリアに死体をじっくり観察した経験はない。

 故に、意図せずして口の中に酸っぱいものが溢れてくる。



「でも、坊やがやったことで……私が強要したことなのよ。(かしら)としてせめて見るくらいしてあげないと……」

「……警戒は俺達がする。安心してくれ」

「ええ、お願い」



 それらしい理由を並べはしたが、セシリアの内心は別の考えが支配していた。



 (首の主の身体には斬り傷が全くない。ということは……殆ど瀕死だった筈。にも関わらず、坊やは一人残らず殺している……以前、この世界の生物は己と違う種の生物を殺すとレベルが上がりやすくなるんじゃないか、とは言ってたけど……その検証……あるいは確信があったからこそ、レベル上げをしていた……?)



 いかな帝国と言えど、女兵はやはり全体的に少ないらしく首の持ち主は判別しやすい。その辺りから推測していたセシリアの疑念はやがて確信へと至る。



「これは……」

「あん? ……逃げ損ねた感じだな」



 これまでの死体は首が無い以前に全体が潰れ、ひしゃげており、付近には首や壁の染みしかなかった。

 しかし、廊下の角を曲がったところで、身体の一部だけを負傷したような首無し死体と何かが這いずり回ったような痕が増え始めた。



 ヴォルケニスの回転角度や廊下の造りが関係したのか、はたまたステータスが高い者達だったのか……



 少なくともシキという敵から逃れようと、床に血の痕が残るほど必死に逃げ足掻いていたのは確かだ。



 が、そんな彼等も無慈悲なまでに首を斬り落とされ、事切れている。



 その顔は恐怖や苦痛に満ちており、中には「呪ってやる」と言わんばかりの憎悪すら感じさせる者も居る。



「坊や……貴方はこれで良かったの……?」



 思わずそう呟いてしまう。



「ん? 何か言ったか船長?」

「……何でもないわ。多分、次の扉の先に坊や達が居る。急ぎましょう」

「あいよ」

「了解だ」



 死体の斬り傷には躊躇いが一切感じられなかった。

 迷い容赦なく、一太刀で殺しているのだ。



 態々首を斬り落とした上で放置している点から楽にしてやろう等という気遣いよりも、作業的な冷たい何かを感じさせる。



 これを行った者は無感情で何の躊躇いもなく、それこそ作業のように瀕死だった、負傷していた兵を殺し回ったのだろう。



 この惨状は見る者にそんな印象を与え、シキの悩みや葛藤を知っていたセシリアの脳裏にはシキがゾッとするほどの無表情で逃げようと必死な兵をゆっくりと追い掛け、殺している光景が過った。

 


 無意識に歩みの速度が上がり、普通の速度から早足へ、早足から小走りへと変化していく。

 


 男達もセシリアの心情を察したのか、黙ってその後ろに続いた。



 そうして見つけた扉を開け、格納庫のような空間に出ると、フクロウのような少女とシキやリュウと似た顔立ちの少女がそれぞれ血塗れの何かに抱き付き、泣き喚いている場面に遭遇した。

 セシリア達は揃って硬直し、獲物を構えるものの、その血塗れの何かが誰かを真っ先に察したセシリアは静かに目を見開き、仲間を無視して飛び出した。



「やだっ……やだよルゥちゃん! 目を開けて! 死んじゃやだぁ!」

「ユウ兄っ、ユウ兄っ、しっかりして! や、やっと会えたのにこんなのって……」



 二人の少女が抱いているもの。



 それは満身創痍のルゥネとシキだった。



「ぐすっ……ずっと一緒だって約束したじゃん! お願い目を開けて! 死なないで!」

「っ、だ、誰!?」



 ルゥネの方が重傷ということもあり、ココに余裕はなく、近付いてきたセシリアにも気付かない。



 しかし、メイは目にいっぱいの涙を浮かべながらもこちらに気付き、顔を上げた。

 その手元からはバチバチと放電する雷球が即座に生成され、浮かび上がる。



 セシリアが「貴方が抱いてる……ユウ=コクドウの仲間よ」と告げると、メイは俯いて雷球を消し、「最低限の、応急措置はしました……けど、目を覚まさないんですっ……」と返した。



 二人は白目を剥いて気絶していた。



 シキは全身に穴が空いていたらしく、血で赤く染まってない部分の方が少ない。メイが掛けたらしい回復魔法と回復薬で大分塞がったようだが、それでも指が殆ど無い右手や胴体部分に大きく空いた傷は目を覆いたくなるほど悲惨で、未だに出血している。



 ルゥネの方は特に酷かった。



 シキの爪をもろに受けたのだろう。

 左耳は根元から断ち斬られ、左腕と右胸は半ばから無かった。目元のハッキリした美少女面も鼻ごと潰されていて、よくよく確認して初めて額から頬にかけて大きな切り傷があり、左目の失明がわかる程度だ。



 また、片胸が斬られた時に服ごと持っていかれたのか、上半身はほぼ裸で、顎から胸、腹、スカートと血が流れた跡が容易に確認出来る。



 セシリアはその跡を見ていて気が付いた。



 右胸と肩の斬り傷、吐血のせいでわかり辛いが、腹に三つの穴が空いている。



 丁度剣を三本刺されたような傷であり、見ればシキの爪の刀身が全て血で染まっていた。



「勝った……いえ、勝ってた……のね、坊や。全部押し付けてごめんなさい……」



 思わず脱力してしまい、膝から崩れ落ちる。



 そのタイミングで仲間が追い付き、後ろで息を飲んだ。



「っ……おいおいおい……シキっ! てめっ、何してっ……ま、まさか死んだんじゃねぇだろうな!?」

「あんなに格好付けといて死にましたってのは笑えねぇぞクソガキ!」

「あ、姉御っ、兎に角サンデイラに戻りましょうや! 敵将も……生きてんのか、死んでんのかわからねぇけど見つけたし!」



 セシリアの突然の走りと戦場跡地である格納庫の大量の切り傷に穴、爆発の跡に驚いていた男達も流石に瀕死のシキの姿には冷静さを失い、それぞれキレたり、泣きそうな顔で提案したりと忙しない。



 そんな彼等……否、ルゥネに関する発言に反応したのはココだった。



「ルゥちゃんが死ぬ訳ないでしょッ!! やっとっ……やっと女帝にまで上り詰めたんだから! ボクの【応急措置】だってある! 死ぬ訳っ……!」



 涙ながらに訴えるココの顔はくしゃくしゃに歪んでいた。

 まるで自身に言い聞かせるような物言い。



 だが、確かに【応急措置】は効果を発揮しているらしく、シキとは違い、ルゥネの傷口は出血が止まっていて、呼吸も安定している。

 メイや撫子と戦っていた時はバリアとして、今回はルゥネの身体……否、ダメージを受けた細胞組織部分の時間を止めているようだった。



「っ、そ、そうだよ! 【応急措置】っ! ココさんの固有スキルがあればユウ兄も助かる! ココさんお願いっ、ユウ兄にも【応急措置】を使って!」

「あん? こいつら、何言ってんだ?」

「だ、大体誰なんだよ……」



 横から更に割り込んできたメイに首を傾げているのは男達のみ。

 セシリアは【先見之明】で初対面のココの正体、固有スキルを知っていた。



 (確か……全ての現象や物事を一時的に凌ぐ固有スキル……)



 現在とは全く違う未来ではあるが、ココはその固有スキルを使い、シキとヘルトを苦しめた強敵だった。



 その光景を目にしたセシリアからすればメイの気持ちもわかる。



 が、しかし。



「は……はあ!? 何、言ってんのさ……ルゥちゃんをこんな姿にした奴を助けろって言うの!? 信じられないっ!」



 当然受け入れられる筈もなく。



 ココは大粒の涙を流しながら激昂。ルゥネの弛緩した身体が虚しく揺れた。



 一方で、メイも譲れない。



「そ、そこを何とかっ! ユウ兄も血を流しすぎてる! このままじゃ死んじゃうかもしれない!」

「煩い煩いっ! この裏切り者! ルゥちゃんが友達ならしょうがないって言うから許したのに!」



 二人の少女の口論に、男達は早々に手を上げ、セシリアを見やる。



 セシリアはほんの数瞬、逡巡すると拳銃をココ達に向けようとし……止めた。



 厳密には手が止まった。



 死にかけで、ココの【応急措置】で辛うじて生き延びているだけの存在であるルゥネの瞼が僅かに上がった気がしたのだ。



 ルゥネの様子に気付いているのはセシリアだけで、ココとメイの口論が幼稚なものへと移行し始めた頃。



 陰りしかなかった瞳は徐々に光を宿し、焦点が合っていくような、ゆっくりとした鼓動のような動きを経て、ルゥネは意識を取り戻した。



「ぅ……ぁ…………こ……こ……?」

「ルゥちゃんっ!? ああっ、良かった! 良かったよぉっ……!」



 汎用性に極限まで特化している【応急措置】でも、流石に痛覚の遮断までは自由が効かないのか、ココが感極まって強く抱き締めた直後、ただでさえ歪んでいた顔を酷く歪ませ、小さく苦悶の声を漏らす。



「せ、船長っ、どうするんで!?」

「っ……動かないで! その子の言う通り、坊やにもその力を使いなさい!」



 動揺する仲間の声で我に返ったセシリアは今度こそ拳銃をココ達に向け、銃口を突き付けられたココは鋭い目付きで見上げた。



「……船長ってことはお姉さん、あの戦艦みたいな船の船長さん? その風貌に眼帯……間違いないね、うちの密偵が教えてくれたよ。お姉さんが未来予知の固有スキル所持者なんでしょ。ならボクの強さも知ってる筈……それを撃ったら最後、ボクはキミ達を皆殺しにする」



 ココの異形の身体からシキのそれを彷彿とさせる殺気が放たれ、その場に居る全員が思わず息を飲む。



 ルゥネとも似ているその殺気は「お前は敵か」と問いているようで、敵対者には容赦しないシキと種類こそ同じ。違うとすれば強弱だろうか。

 僅かながら自身を地獄のような境遇に追いやった世界そのものへの憎悪が滲んでいるシキよりも純粋な〝生〟への天秤が傾いている分、気持ち弱く、シキの殺気をその身で受けたことのあるセシリアは後ろに下がりつつあった脚を叱咤して耐えると、逆に一歩踏み込み、銃口をココの額に押し付けた。



「っ……」

「じゃあ訊くけど……何故受け身なのかしら?」

「……受け身?」

「ええ。皆殺しに出来るんでしょう? 何で今、それをしないの? 私が撃つことが引き金にでもなるの? それとも……私が撃たないと本気になれないとか?」

「…………」



 その沈黙はセシリアの「ルゥネ()を守りながらの戦闘、逃亡は不可能と判断したんでしょう?」という真の質問に肯定していた。



「それともう一つ。私が見た未来とそんなに大きく変わってないなら、今の貴女は成長途中。その力を同時に使える対象は二つまでの筈よ。一つは死にかけの女帝で良いとしても、残った一つを坊やに使えと言っているの。これは命令。提案やお願いじゃあないわ」



 引き金に触れながら強くココの額に押し込む。



 立場が上なのはこちらだと、ココを見下ろすセシリアの視線もまた、冷たいものだった。



 メイと男達はセシリアの気迫に飲まれ、数秒、時が止まったかのような静寂が訪れる。



「さあ、坊やにその力を使いなさい。さもなくば……私は貴女達を殺す」



 それが決死の虚勢だと気付いているのは【以心伝心】で人の深層心理まで覗き、心の底から繋がることが出来るルゥネのみ。



 ルゥネはセシリアの「坊やだって命懸けでやってくれた……いや、私がやらせたっ。なら私だって……!」という内心の声を聞いていた。



 同時に、セシリアの焦りや地上の状況を知り、これは願いなのだと悟る。



 未来を予知する者がルゥネ(大将首)の固有スキルを知らない訳がない。



 虚勢も事情も心も、全て看破されるとわかっての虚勢。



 一瞬だけ、セシリアはルゥネを見た。



 謂わば口にも心にも出していないSOS。



 内心の大半は「こんな狂人共に私達はっ……」という憎しみに近い気持ちが埋め尽くしている。



 しかし、セシリアはその狂人共に対し、無意識に懇願していた。



 それを受けたルゥネは数瞬目を瞑り、弱々しく開くと血で濡れた唇を僅かに開きかけ……閉ざした。



 直後。



 「くっ……!」と、悔しげな顔で睨んでいたココが硬直し、バッとルゥネに視線を落とす。



「え……? な、んで……ほ、本気なの!? だって……ルゥちゃんを半殺しにした奴等だよ!? ボクが居なきゃ死んでたんだよっ、殺されてたんだよ!? そんな……や、つ……を……」



 再びココの瞳から大粒の涙が零れ、セシリア、メイ、男達の脳内、全身にルゥネの思考と繋がった感覚が訪れた。



 ――今、ココに(わたくし)に対する能力行使を止め、シキ様に使うよう言いました。これで……シキ様の生存は確実なものになります。



 ルゥネの声と感情が脳内に響き、染み渡る。



 ルゥネの心は底の底から歓喜で満たされていた。



 ――す~~っ…………ごくっ、楽しかったぁっ……! 未だかつてこんなに充実した気持ちになったことはありませんわ……! 痛かった気持ち良かった楽しかった興奮しました……!! 恋い焦がれるというのはこういう時のことを言うのでしょうねっ……ああシキ様っ……私はやはり、貴方様と会う為に……!



 意識が朦朧としているのか、シキに対する……妙な話だが恋愛感情に似た、愛や恋と称すべき謎の感情を吐露している。



 しかし同時に、ルゥネは敢えて【以心伝心】のリンク先からココを除外している。

 ココは変わらず泣きじゃくってルゥネの言付けを断っており、嫌だ嫌だと駄々を捏ねていた。



 ――ココの固有スキルは確かに二つの事象、物体にしか使えません。今は嫌がっていますがわかってくれます。そして、私がお願いした以上、この子は恐らく……いえ、この子なら絶対に。自分の身を守る分をシキ様に使うでしょう。



「ルゥネさん……」



 安堵したような顔で、ふっと肩の力を抜いたメイに「どうなの?」とセシリアが目で訊く。

 メイは自信を持って答えた。



「……この二人は良い意味でも悪い意味でも大親友なんですよ。心の友って言うんですかね、互いを裏切ることは絶対にありません。断言します」

「そう」



 召喚されてまださほど時は経ってない筈だが、逆に言えばその短期間で言い切れるほど二人の関係は密接であり、端から見てもわかるものなのだろう。



 セシリアはそう感じた。



 ――だからこそ。恥を忍んでお願いしますわ。どうかこの子だけは逃がしてくださいませんか? 王である私が筋を曲げる……これほど腐り、傲り、許せないことはありません。貴女方のお気持ちも痛いほどわかります。ですが……ですが、それを承知でお願い致します。例え生涯の恥と揶揄されても……私がどうなろうとしりません。我が友人は私に付いてきただけ。生き永らえる許可をいただきたい。



 安っぽく言えば『一生のお願い』。

 しかし、国のトップとして、絶対に曲げない……曲げられず、曲げる訳にもいかない信念や芯、道理をねじ曲げてでも友人に生きていてほしい。その願いはセシリアにも覚えがあった。



 責任は取る。



 恥も晒す。



 何をされても文句は言わない。それだけのことをした。



 だとしても、どうか友人の命までは、と。



 ある意味で醜く、ある意味で美しい願い。



 そして、その願いをセシリア達に伝えた直後、ルゥネは力尽きたように意識を失ってしまった。



 まるで、「要求は聞きました、こちらの要求も聞きましたわね?」とでも言っているような、清々しい顔だった。



「……はーっ。どこまでも傲慢で偉そうな子……帝国の人間はこれだから嫌なのよ……本来の未来で嫌というほど戦った前皇帝とそっくりっ……ああ嫌だ嫌だ……」



 セシリアは深く溜め息をつくと、銃を下ろし、鳥肌が立ったらしい両腕を擦りながら踵を返す。



「えっ? ちょっ、船長!? よくわからねぇけど、こいつが何かすげぇ力持ってんだろ!? まだシキが死にかけてっ……」

「そ、そうだぜ姉御っ、それに捕まえないんですかい!? 絶好のチャンスなのに!」

「お願いね、ココさん……ごめんっ、皆も手伝って! 帝国から離れたいんでしょ!? この人達なら事情を汲んでくれるっ! それとそこの赤髪幼女! ここで暴れようものなら問答無用で殺す! 黙って手を貸しなさい!」



 男達が動揺する横で、泣いているココに頭を下げたメイは近くに息を潜めていたサツキ達を呼び、スカーレットを恐喝。セシリアに付いていく準備を始めた。



「うんわかったよメイっちーっ、今行くー! とは言ったものの、え~……だ、大丈夫かな……あの人達が乗ってきたっぽい戦艦、エンジン部から煙出てるけど……」

「うわ、マジだ。……でも使えねぇにしろ見た感じ、他の部分で滑空は出来るんじゃねぇか?」

「……どうやってヴォルケニスから離れるのさ」

「多分、僕とマモルの固有スキルなら何とかなると思うよ。どうせ保護してもらうなら印象良くしないとね」

「この状況で暴れるとか思われてるスーちゃんが一番可哀想だよ……幾ら『黒夜叉』が目の前に居ても片腕使えないのに敵だらけのとこで手ぇ出す訳ないのに……あーもーっ、こんなことになるなら来なきゃ良かったぁっ」



 呼ばれたサツキ、マモル、ヨウはメイの提案と窓から見えたサンデイラの状態に「まあ仕方ないか……」という空気で答え、スカーレットは頬を膨らませて立ち上がる。



 結局、数分後にはルゥネの言った通り、悔しそうに号泣しながらもココはシキに【応急措置】を掛け、現状維持状態にして死ぬ可能性を完全に排除した。



 メイとサツキ達は未だ目を覚まさないシキを運び出し、男達は釈然としない顔で後方を護衛しながら付いていく。

 先に行ってしまったセシリアは暴れている仲間達に撤退を告げて連れ戻し、サンデイラへ戻った。



 格納庫から出ていく際、ココがポカンとした顔で「え? み、見逃してくれるの? 何で?」と首を傾げていたが、やがてその理由を悟ったらしく、より号泣。

 後ろに居たメイや男達の耳には扉が閉まって見えなくなる最後の瞬間までルゥネの名を呼んで泣き喚くココの声が届いていた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] こう決着まで行くと、改めてルゥネって戦闘狂の申し子見たいなキャラなんだなって思える最後でした、戦闘職じゃないのに、シキをここまで(シキは結構戦闘した&横槍はあったにせよ)ボロボロにする戦闘…
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