第175話 奮戦と思わぬ助っ人
ビックリするくらい筆が乗り、プロットから大幅に外れる現象勃発。
一応微グロ注意回です。
銃撃と斬撃が飛び交い、薬莢と硝煙、鮮血が舞う。
時にはシキとルゥネ、どちらかの笑い声が響き渡り、格納庫内を反響する。
ルゥネを援護すべくやってきたアイと帝国兵達は二人の戦いを傍観することしか出来なかった。
「いっ……てぇなぁオイッ! クハハハッ!」
《直感》が致命傷や致命傷なり得る可能性のある弾道にしか働かない為、シキはルゥネの二丁拳銃から放たれたそれらを爪長剣と手甲で弾きながら突き進み、代償に腕や肩、脚等に数発の弾丸を受けつつも得意な接近戦へと持ち込んだ。
「っ、相変わらずっ……!」
幾つかの直撃を受ける中、動揺を一切見せることなく、言わば弾道を勘で導き出し、勘で獲物を当てて弾くという離れ業にルゥネは冷や汗を垂らして後退する。
が、それをシキが許す筈もなく。
「逃がすかよっ!」
と、背中のスラスターから紫色の粒子を噴き出して加速し、爪長剣を振りかぶった。
「戦略的撤退と言ってほしいですわね!」
対するルゥネも地に足が付いていない状態で内側から赤い魔力を撒き散らすや否や、スカートを靡かせて急反転。追撃に移っていたシキに蹴りを放った。
「っ!?」
咄嗟に胸から魔粒子を出して急停止したシキの眼前を、鈍く光るものが下から上に通り過ぎ、肝を冷え上がらせる。
見ればぺたんこタイプの赤いパンプスの踵辺りからナイフの刀身が飛び出てハイヒールのようになっていた。
I字バランスのごとく、綺麗に180度開脚し、黒の布地に小さいピンクのリボンが付いた可愛らしい下着と色白の程よい肉付きの太腿、と太腿に巻かれた大型の短剣にホルスター、手榴弾や閃光弾らしき隠し武器を披露していたルゥネはそのままの体勢でふわりと浮き上がっていたスカートに銃口を突き出し、引き金を引いた。
「ぐうぅっ……やるっ!」
「うふふふっ! でしょうっ!?」
再度、両腕の獲物を盾にし、致命傷を防いだシキが身体の至る部位から血を流し、顔を歪ませながら称賛。ルゥネは満足げに頷く。
シキはそんなルゥネに横槍を入れるように吠えた。
「けどっ、今ので十二発撃ったな! 弾のねぇ銃なんぞっ!」
音と痛み、《直感》が働いた回数で確信を得たシキはニヤリと笑みを浮かべて再接近した。
しかし、ルゥネ自身わかっていたのか、こちらも冷静に両手の銃を捨て、スカートの中からライフルと太腿に隠していた短剣を取り出して構える。
「遅いッ!」
「っ!?」
ルゥネが構え、引き金を引くのとシキが爪長剣を振り下ろすのは同時だった。
ルゥネの放った弾丸は至近距離ということもあり、シキの左肩を貫通。されど攻撃を止めることは叶わず。
咄嗟にスカートのスラスターを全開にすることで縦真っ二つになることは避けたものの、最強の硬度と切れ味を誇る爪長剣はルゥネの額から左目、左頬に掛けていとも簡単に、それこそ豆腐か何かを斬るようにスパッと、僅かに斜めの切れ込みを入れた。
「~っっ……!!! くああああっ!?」
想像を絶する激痛と失明のショック、驚愕か。
ルゥネが悲鳴を上げながら後退する。
「う、ぐぅっ……!」
代わりに左腕をだらんとさせたシキは【以心伝心】で繋がっていたルゥネとのリンクが切れたのを感じた。
同様にそれを感じたのか、アイと帝国兵から動揺の声が上がる。
「いやああっ!」
「うおっ、ルゥネ様ぁっ!」
「やるなぁあいつ!」
「ぬぅぅっ……」
中には称賛や唸るような感心の声が混じっていたが、シキは彼等の反応から好機と捉え、床を蹴って突撃。
そして、トドメを刺そうと再び爪長剣を構えた瞬間、無事な方の目でこちらを見ていたルゥネと目が合った。
――隙あり、ですわ。
流石に話す余裕まではなかったのだろう。
再びリンクが繋がり、ルゥネの声と感情が伝わってくる。
ルゥネの感情は驚愕でも恐怖でもなかった。
そこにあるのは歓喜のみ。
ライフルの銃口が自分の顔に向けられていると気付いた時には遅く、シキの仮面に弾丸が直撃。首が跳ね上がる。
「くっ、この程、度っ……!?」
《金剛》による衝撃の防御こそしたものの、視界を一瞬失った。
そして、いつの間にか胸元まで接近を許していたルゥネを見て硬直。
「はぁ……はぁ……いっ……こ、この短剣、魔道具……なんです、の……」
――細かく振動する物体は強い運動エネルギーを生み出す。短剣ならばステータスで負けている相手も斬れるし、刺せる……あはっ、知っていましたっ?
ライフルを撃ったと同時に近付いてきていたのだろう。
ルゥネは、オォォンッ……と独特の振動音を出す短剣を待っている左手ごと震わせながら突き出した。
今になって顔の傷を痛がりながらも、ニタァと笑う少女と左脇腹に刺さっていく短剣の光景が、シキにはやけにゆっくりと見えた。
「ぐっ……ぶ、ぐぅっ……!」
体内から上がってきた血と空気を小さく吐き出し、思わず数歩よろめいたシキの頭部にライフルの銃口が突き付けられる。
「はいトドメ。さようならですわ」
そんな言葉と共に再び引き金が引かれ、ドパアァンッと盛大な銃撃音が響いた。
しかし、放たれた弾丸はシキの脳ミソをぶち撒けることなく天井へと飛んでいく。
「っ……無意識でっ……!?」
思考せず、反射的に爪長剣の刀身を当てて銃口を逸らし、そのまま手からライフルを弾き飛ばしてきたシキに、ルゥネは口を開けて驚いた。
「くっ……そ……が……はーっ……はーっ……」
意識はあれど、何処かしらの内臓まで深々と突き刺さった短剣のダメージは大きく、今の咄嗟の行動は【以心伝心】を駆使するルゥネはおろか、シキ自身、身体が勝手に動いたと感じるほどの動きだった。
ならばとルゥネは再度拳銃を二丁取り出し、撃つ。
が、肩や太腿に掠めこそしつつも、シキはやはり頭部と胴体への弾丸だけは的確に弾き落とす。
やがてルゥネが弾切れに陥った頃、シキの仮面の形状が変わり、口元が露になった。
シキは笑っていた。
それはもう愉快そうに。
「ふーっ……やっと、慣れてきた。テメェ……今、トドメっつったな? こんなに楽しいのによお……もう終わりだと? テメェはそれで良いのかよ……くくくっ……!」
首、肩、腕に脚と殆どの部位から血を流し、挙げ句には柄しか見えないほど深く刺さっている短剣を物ともせず、笑い、立っている。
【以心伝心】でシキの心と繋がり、シキという生き物を根本ごと理解しているルゥネも、そこまで言われ、心底から笑われては笑わずにはいられない。
「……………………。うふっ……うふふふっ……失礼……失礼しましたわ。そうですわね……まだまだ……終わりだなんて勿体ないっ。私としたことがなんて愚かだったのでしょう!」
カシャン、カシャンと音を立てて弾倉を捨て、新たに取り出したものと交換しながら、ルゥネも笑い出す。
二人は存分に笑い合った後、思い出したように回復薬を使用。シキは風穴の開いた左肩と抜き取った短剣の傷痕を軽く塞ぎ、ルゥネは顔の止血を図った。
「よし、動く……クハッ」
「あー痛いですわ……目が見えないって不便ですわねぇ」
それぞれ負傷した部位を気にかけながら獲物をぶらぶら揺らし、いつでも動けるように構える。
回復の邪魔をしなかったのは存分に戦いを楽しむ為。
心で繋がっている二人の利害が完全に一致した為に何もしなかった。
おおよそ常人には理解出来ない域。
「続きだ続きィッ! ぐぶっ……クハハハハハッ!」
「アハッ……ぶばぁっ……! うふふふっ!」
互いに血の塊を吐きながら走り出し、シキは爪と爪長剣を、ルゥネは二丁の拳銃を構えた。
二人の戦いはやがて佳境へと突入し……だからこそ、二人はモグラのような少女アイが密かに動いていることに気付けなかった。
◇ ◇ ◇
一方その頃、地上ではいつの日かの絶望の光景が再現されていた。
一帯を埋め尽くす人喰いワームの群れ。
例の主は遥か後方で頭部を出し、高みの見物をしているが、何百、何千という巨大ミミズが入り交じり、砂漠を埋め尽くしている光景はまさに絶望の一言。
激しく蠢きながらも、彼等はかなりの速度で王都に向かっており、その先頭で時折砂中から現れては砲撃し、砂漠に潜り、注意を引き付けているハルドマンテを筆頭に、到着したヘルト、リュウ、アカリ達がアンダーゴーレムや兵器型アーティファクトを使って奮闘していた。
『どっ……どうなってんだよこれ!』
『良いから撃って撃って撃ちまくる! あははっ! 死んだ! やっぱ死んだってこれ!』
「主様は何処に居るのですっ!? ~~っ……気色の悪いっ!」
ヘルト、リュウはゴーレム部隊の乗っている小型の魔導戦艦をギリギリまで近付け、追ってきた群れから逃げ回りながらゴーレム銃を撃っており、アカリは離れた場所でエアクラフト部隊を引き連れて近接戦闘を行っている。
『うひいいぃっ、な、何か敵の船に乗り込んだって聞いたけ……どおぉぉっ!? 死ぬ死ぬ死ぬぅっ! マジで死ぬって! きききっ、君達も手伝ってえぇっ!』
無線でアカリの独り言に答えていたショウもリュウのバーシスと小型魔導戦艦が出す銃撃、砲撃音、硝煙の独特の臭いに顔をしかめながら大量の手榴弾を投げ落とし、運悪く飲み込んで中から破裂した人喰いワームの肉片と体液を頭から被ると、途端に泣きそうな情けない顔で、自分で買った船員達に指示を出していた。
更に群れのど真ん中では最強戦力の一人、アリスが猛威を奮っている。
「おっしゃああああああっ!!! 俺最強おおおっ!! ……あっ、やっぱまだ痛っ……うおおおおっ、ヒャッハーっ!!」
油断から受けた腹部と内臓のダメージを引きずりつつも、空元気を絞り出し、人喰いワームに飛び移っては無防備な脳天に魔剣を突き刺し、斬り、首を斬り落とす紫髪の獣耳少女。
返り血ならぬ返り体液を全身で受けては「うえええっ……もう嫌だぁっ」と嘆いて砂漠を転がり、かと思えば空高く飛び上がって下から大口を開けて現れた個体の強靭な顎を回避。バクンッと盛大な音を立てた鋭利な歯の列に蹴りを入れ、くるくる回転しながらその鼻っ面に〝気〟の乗った斬撃を叩き込む。
黄色と茶色が所々な入った気味の悪い見た目のその個体は顔を縦に裂けさせて倒れ、新たな個体が数体噛みついてきたので、《空歩》で空間を蹴って上昇、横向きに高速回転して同時に全ての個体の首を跳ねた。
「あああああアリス様がお一人でぇぇぇっ……! ぞぞぞ、ゾルベラぁっ、早く助けにぃっ!」
「アリス君の心配はいいいいっ、良いから撃ってくんろプリムちゃっ……うわあああっ、こっちさ来ないでけれーっ!」
アリスのパーティメンバーの二人と二人を乗せた小型魔導戦艦も人喰いワームの群れの上をギリギリで飛行しており、温存した銃やランチャー兵器、大筒等をド派手に撃ち、一際長く首を伸ばしてきた個体等は銃火器は何となく苦手という理由で巨大ハンマーを振り回しているゾルベラが撃退。ハーフとはいえ、ドワーフらしい膂力を見せ付けてはエアクラフトに乗ったプリムが拾い、を繰り返している。
至る場所で行われる決死の攻防戦。
その中には船員や専属メイドのナタリアの制止を振り切ってハルドマンテから降り、風を生み出すレイピア型の魔剣で以て人喰いワームの相手をしているレナの姿もあった。
「はああああっ!」
食らい付いてくる人喰いワームや押し潰そうと身体を伸ばす人喰いワームの間を魔粒子スラスターの付いたブーツで縫うように飛び、《縮地》と刺突の威力を底上げするスキルを使って突撃&攻撃。鋭い細剣が一匹の人喰いワームの顎から頭部を貫通した。
直後、『風』の魔力を乗せ、ピクピクと痙攣するその個体の頭部を肉片状に吹き飛ばして再び移動する。
「っ……私だって……この国を守る騎士なんだからッ!!」
スケート選手よろしく後ろ向きに砂の上を滑空しながら魔力回復薬を飲んだレナが『風』の刺突を飛ばして叫んだ。
『騎士である前に王女ですレナ様っ! お願いだから前に出ないでっ!』
『ナタリア!? 王族なら尚更前に出なきゃいけないのよ! 王足る者が後ろでふんぞり返る訳には!』
ハルドマンテから飛んできた悲痛なナタリアの通信にそう返し、再び群れの中に突っ込む。
『ああもうっ、砲撃っ! 上向きです! 砂埃を起こしてはっ、大事に障りますっ!』
無線を切り忘れたのか、レナの耳にナタリアの声が続き、遅れて砂の中から飛び出したハルドマンテが火を噴く。数体の人喰いワームの頭部を消し飛ばした。
その勢いのまま砂丘に飛び込み、再度潜伏。その後も砲撃を続けている。
『ナタリア……ごめん、それとありがとう!』
レナにも、ナールやナタリアの意見は至極まともだという自覚はあった。
しかし、だとしても、という想いは拭えない。
だからこそ危険を承知で最前線に出ている。
流石にセシリアからの指示を聞いた直後、外に飛び出たのは悪かったと思っていた為、彼女の気持ちを考え、謝罪の通信を送ったのだった。
『絶対に死んじゃダメですからねレナ様! 貴女はこの国のっ……!』
そこまで聞こえたところで、ハルドマンテが人喰いワームに突き上げられた光景が目に入る。
「『っ、ナタリアっ! 皆ぁっ!』……おのれぇっ!!」
思わず目の前に居た個体の脳天にレイピアを突き刺したレナだったが、『だ、大丈夫……です……!』という通信が入り、続けてハルドマンテが空中で砲撃を放ち、身体をくねらせていた人喰いワームを物言わぬ肉塊へと成り果てさせた。
『もうっ、心配させないで!』
『そ、れは……こちらの台詞……ですっ。……各員、衝撃に備えてっ!』
無傷とまではいかなかったのだろう。
着水ならぬ着砂した後も何処かに身体を打ち付けたのか、苦悶の声が漏れていた。
しかし、最後に聞こえた元気な声にレナはホッとしながらくるりと身を翻し、上空に首を伸ばしていた二体を斬り付ける。
「シキ君っ、こっちは持たせるからっ……! 早く帰ってきてっ。サンデイラ無しじゃどっち道っ!」
王都からもナールの命を受けてか、兵やアンダーゴーレム、魔導戦艦が飛んできている。
現在、地上にはサンデイラとシキ、撫子以外のシャムザの全戦力が集結していた。
その全戦力で注意を引き付けているとはいえ、やはり数が違う。
レナの視界の端では先程のハルドマンテのように体当たりされた小型魔導戦艦が墜落し、大量の人喰いワームに群がられている光景もあれば、魔導戦艦から落ちた者や飛んでいたエアクラフト隊が丸呑み、あるいは身体の一部を喰い千切られている光景もある。
「全くっ、こんな時にっ!!」
レナは一際大きく跳ねると、群れの遥か後方で静かに佇んでいる主を睨んだ。
全長が確認出来ないほど巨大な主はこれまた巨大な頭部と首を僅かに砂中から出し、この地獄のような乱戦には見向きもせずに王都を見つめていた。
「目もないくせに何をしているのっ……!? ええいっ、しつこい!」
我先にと首を伸ばしてきた巨大ミミズ達に悪態をつきつつ、何処かの誰かのものを模して造らせた腰のポーチ型マジックバッグに手を伸ばして手榴弾を取り出す。
更にはピンを指だけで引き抜くという力業で準備を終えたレナは空襲するが如く手榴弾を降らしていく。
大量の爆発によって軽くブーツと身体を揺らされながらも何とか耐えていたところ、何処からか、「……っ……ぁぁぁっ!」という誰かの叫び声が聞こえたので、主から目を離し、そちらを注視した。
見れば少し離れたところでアリスが超ジャンプで跳ね上がり、独楽のように回転して何匹もの人喰いワームを同時に斬り殺している。
「っ? 今の声っ、アリスね!? 最悪、アリスにあの化け物の相手をしてもらうしか……!」
不気味でしかない人喰いワームの主。
他国との戦争中という、最悪のタイミングで現れた人喰いワーム達はレナ達の努力も虚しくじわりじわりと王都に近付いている。
にも関わらず、目玉という器官がない筈の主は動かず、傍観している。
酷く不気味だった。
王都を襲う目的もわからなければ、主だけ停止している意味もわからない。
「幾ら魔物ったって、何かしらの狙いがある筈っ……」
と、そこまで言ったところでアリスやヘルト、リュウ達と意図せずして合流してしまった。
「うおっ! よおレナちゃんじゃんっ!? 何でここにっ!」
『姫さんっ!? おいおいおいっ、戦場はオイラ達に任せてアンタは後ろに居なよ!』
『死ぬぜえぇっ! 僕達に近付いたらっ、死ぬぜええぇっ!! あひひひひっ! 怖すぎりゅうううっ!!』
「レナ様っ! 後ろ!」
エアクラフトに乗ったアカリが自分の盾を突き出し、《縮地》で瞬間移動。レナの後方の砂丘から現れた個体に体当たりをしかける。
瞬間、唸るような連携プレイでヘルトのアカツキがその個体を蜂の巣にしながら空中に浮いていたエアクラフトをキャッチ。落下しているアカリに向けてエアクラフトを投げ、上手く着地させた。
中には一人恐怖とトリガーハッピーで狂ったように叫んでは笑っている者も居るが、レナ達は互いの背中を守るように輪になり、戦う。
「ありがと! や、やるわね二人共っ! 皆、怪我はないっ!? 死人は!? 後、リュウ君笑ってるけど大丈夫っ!?」
『オイラ達の部隊は何とか持ち堪えてる! ただ弾が心配だな! 銃も熱待ち始めたし!』
「体力もな! 俺はまだ大丈夫だけど、レナちゃんやアカリちゃんはキツくなってきただろ!」
ズガガガガッ! と凄い音を鳴らして撃っていた紅のゴーレムは煙が上がりつつあるアサルトライフルのような銃に新たな弾倉を詰めながら、アリスは一匹の人喰いワームを蹴り飛ばし、他の個体に当てながら言った。
『ほーら! 食らえっ、死ね死ねミサイルぅっ!! あひゃぁっ、ごめんなさぁい!』
「わわわっ!? なっ、何やってるんですかリュウ様! もうっ!」
その隣では両手と両肩にミサイルランチャーとミサイルポッドを装着した茶色の巨人バーシスが弾切れを恐れぬ勢いでそれらをぶっ放し、盛大に巻き起こった血肉の雨と怒り狂って殺到する人喰いワーム達に謝罪、近くに居たアカリが巻き込まれそうになって急上昇し、一時離脱している。
「げ、元気ね……あんた達……」
思わず脱力するものの、ヘルトやアリスが言っているように体力や武装、弾数にアンダーゴーレムの起動時間等、かなりの限りがある戦いだ。
レナとしては早急に終わらせたいところ。
しかし、上を見上げればサンデイラと敵艦ヴォルケニスは黒い煙もモクモク上げながらも飛び回っており、降りてくる気配はない。
「サンデイラの魔導砲さえあればこんな奴等簡単に蹴散らせるのに!」
アカツキの肩に飛び乗り、そこから《縮地》で移動し、刺突。頭部が爆ぜた死体を一匹増やしたレナがそう叫ぶと、限界が来たゴーレム銃を投げ捨て、専用剣を抜いたアカツキが橫薙ぎで数体同時に真っ二つにし、『んなこと言ったって、他の魔導戦艦にはないしなぁ!』と返す。
『やっぱ特殊な武装なんだろうなアレ! 姉ちゃん達に降りてこいって頼めないのか!?』
「無理ねっ! シキ君と撫子さんを拾わなきゃいけないし、敵艦も魔導砲を持ってるから最悪王都を守る盾にならきゃってお姉ちゃんがっ!」
『あっ、そうか足っ! あんな高さから降りたら魔力が足りないかもだもんね!』
「確かにっ! 降下速度を下げるだけでも結構魔力持ってかれるみたいだしな!」
「し、しかも魔導砲って……! 何で敵は早々に撃たないんです!?」
国境を守っていたが故にこちらの状況を知らないヘルト達。
レナは『風』の刺突を大量に飛ばし、円陣を組んでいる自分達目掛けて突撃してくる人喰いワームの群れを牽制、アカツキを駈るヘルトと急に冷静になったリュウ、倒れ込む個体の頭部で魔剣を引き抜いていたアリスを援護しながら声を張り上げた。
「撃ったわよっ、一度だけ! でも女帝が早く終わったらつまらないからって! 要は純粋に戦いたいみたい! 本っ……当に狂ってる! あああもうーっ!! 帝国なんてクソ食らえよーっ!」
綺麗なストレートの金髪を振り回す勢いで喚き散らし、溜まった鬱憤を晴らすように突っ込んで人喰いワームの頭部で出来た血肉花火を打ち上げたレナに、ヘルトが引いたような声で窘める。
『お、落ち着け姫さんっ、シキとかアリスみたいに口汚くなってんぞ!』
「おい失礼だろ! ……まあ事実だけどもっ!」
アリスが微妙な顔で頷き、リュウが『それは置いといてっ、結局シキか撫子さんが戻るっ……orサンデイラが戻らなきゃジリ貧ってことでしょ!?』と続いた。
「後っ、あの主が動けば一瞬で終わりです! ムクロ様はどうしたのです!? あの方が居ればもう少し楽になるでしょうに!」
レナ達はアカリの発言でピンと来たらしい。
同時に「それだっ!」と叫び、レナがナールの元に無線を繋いだ。
『兄上っ! ムクロさんを呼んでください! 王都に居るんですよね!? こ、このままだと戦況がっ!』
『もう既に探しておるわっ! 居ないんだよ何処にもッ!! こんな時に何処ほっつき歩いているのだっ、シキの愛人はっ! ええいっ……!』
こちらも頭を搔き毟ってそうな、苛々した声が返ってきた。
レナ達は戦場ながらも一瞬、目を合わせ、再び戦いに集中する。
「逃げた!? ってことはないわよね! 多分!」
『オイラ、あんま知らないんだよなあの人のこと!』
『シキの恋人でしょ!?』
「へっへーんっ、俺はあの姉ちゃんの正体に目星付いてたり~っ」
それぞれ好き勝手に言っていると、アカリが王都の方を指差し、叫んだ。
「み、皆様っ、あれを!」
人喰いワーム達の巨体が視界を妨げ、見にくいものの、特徴的な赤黒いと黒いドレスの女性がゆっくり歩いてきているのがその場の全員の目にハッキリと見えた。
そして、その存在を認識するにつれ、ニュルニュルと蠢いていた人喰いワーム達もレナ達同様、硬直し始める。
「私は……戦いが嫌いだ。人が死ぬのも、魔物が死ぬのも、殺すのも……シキが戦い、苦しむのも嫌だ。……けど、お前達が死ねばシキが悲しむ。だから一度だけだ。一度だけ、助けてやる」
かなり遠く離れている筈なのに、ムクロの声はレナ達の耳元で聞こえた。
その直後。
いつの日か見せた超高密度の魔圧……ではなく、例の謎言語の魔法を行使。
両手に灼熱の太陽の如き光を放つ火球を生み出した。
「えっと…………?」
「いや、助っ人は嬉しいんですけど……」みたいな顔でレナ達が見つめ、それに気付いたらしいムクロが再度話し掛けてくる。
「何を驚いている? 私が本気を出せば船は墜落、貴様らの使う魔粒子装備も機能停止するぞ。手伝ってやるだけ感謝しろ」
彼女なりに過去のやらかしから学んでいたらしい。
レナ達は「あっ……確かにっ」と過去最高のシンクロ率で心を一つにし、続いたムクロの発言と半笑いに全く同じことを、心底で返した。
「私さえ居れば何とかしてくれるとでも? ハッ、世の中そう甘くはない。援護はする。援護はな。精々足掻くが良い」
曰く、「そうだけどっ、ぐうの音も出ないけどもっ、煩ぇよ!」と。
先日は恐るべきプレッシャーで人喰いワーム達を怯えさせたが、彼等も流石に黙って殺されるほど愚かではないだろう。
だからこその配慮。
もし全魔導戦艦が墜落し、レナ達スラスターで飛んでいる者が食われては目も当てられない。
思わず声を上げそうにはなったものの、レナ達としては最強の魔法使いの助っ人は頼もしいことに違いはないのだ。
「歴史を刻むのは私のような世捨て人ではない。だが……この私が参戦するからには貴様らも足掻け。なあ、『崩落』……!」
今度こそ、完全な独り言ではあったが、『崩落』と呼ばれた人喰いワームの主はムクロの呟きに反応してか、大地を震わせるような奇声を上げると、ゆっくり、確実に前進を始めた。
年内に戦闘くらいは終わらせたかったのですが……駄目そうですね(遠い目)




