第174話 それぞれの戦い
何故こうも長くなるのか。文才が欲しい……
ヴォルケニスの中央ブリッジ真下でルゥネとシキが対峙しているその隣、右翼格納庫では異形の少女ココと撫子、シキの幼馴染みであり、ライの妹であるメイが向かい合っていた。
広げると二メートル以上あるように見える翼と翼に隠された小型の魔粒子スラスターで浮遊しているココ、抜刀の構えのまま動かない撫子は既に息を切らしており、メイは撫子の後ろで渋い顔をしながら周囲に浮かせた雷の球の操作に勤しんでいる。
「もう一回行くよココさん!」
「ん、何回でも良いよー」
軽口とは裏腹に、メイは固有スキルで生み出しているという雷球二つを、四、八、十六と分裂させ、格納庫中に拡散。ココの周囲を全方位囲った。
対するココもバサァッと両翼を広げ、魔粒子を散らしながら急上昇。追従してくる雷球と雷球から飛び出る雷速の電撃を見もせずに躱している。
あっという間に天井へと辿り着いたココは激突する寸前で翼と小型の魔粒子スラスターの向きを変え、進行方向を急転換。天井スレスレの位置を滑るようにして飛んでいき、バチバチと音を鳴らして迫っていたメイの電撃は天井に当たって弾けた。
「ならっ!」
メイが広げていた両手を身体の前に突き出した瞬間、ココを追っていた雷球は突然矛先を変え、ココの進行方向に先回りする。
十にも及ぶ雷球は放電しながら整列し、点と点で構成された壁を形成。即座に互いと互いを繋ぐように稲妻が走り、網目状の壁と変化した。
「ほっ! ホント、やるねぇ!」
「逃がすわけっ、ないでしょ!」
一瞬だけ笑ったココは再び翼を広げると逆噴射制動を掛け、減速しつつ、身体の向きを変え、今度は降下したのだが、メイが創造した電気の網は攻撃も出来るらしく、それぞれを繋いでいた雷球から更に稲妻が放たれ、ココを追った。
しかし、ココに焦る様子はなく、平然とした顔で体勢を変え、脚を曲げ、減速加速を繰り返してそれらを回避。並びに反転し、手元の雷球すら攻撃に回して無防備になっていたメイの元に急降下を始めた。
その速度は梟というより、ハヤブサのソレであり、メイの認識が遅れるにつれ、ありとあらゆる方向から迫る電撃はココの残像を貫き、遅れていく。
「もらった!」
やれる、と確信したのだろう。
ココは鳥の脚を下ろし、鋭い爪をメイに向けた。
瞬間、ガキイィンッ! という何かが弾かれるような音が響き、ココは後ろに吹っ飛んだ。
「むぅ……これはどうにも……」
そう言って先程のメイのように渋い顔をしているのは撫子だ。
メイとココの間に立ち塞がるようにして残心していた撫子は素早く納刀すると、一際大きく跳ねてその場を離れる。
「……くひっ、無駄だよ。無駄無駄。ボクの【応急措置】は絶対に斬れないよ」
無理やり後退させられたものの、翼による抵抗力と魔粒子の噴射で制止したココが不気味な笑みを浮かべながら告げた。
ココに目立った外傷はなく、傷はおろか、服や羽の一本すら斬れていない。
「確かに何かとぶつかっているんでござるがなぁ……」
首を傾げている撫子に胸を張って見せるココ。
そして、弾けて消えた雷球を新たに生み出し、浮遊させるメイ。
三人はシキが見たことのないほど濃密な固有スキル所持者同士の戦いを繰り広げていた。
「えっと……撫子さん、でしたっけ? さっき言った通り、ココさんの固有スキルの本質は究極的なその場しのぎです。今はバリアとか盾みたいに発動していますが、致命傷を受ければ傷の部分だけ時間を止めたり、餓死する寸前なら勝手に発動して生命エネルギーを生み出したりする変な能力なんですよ」
小休止と言わんばかりに戦況が止まった為、メイは何やら唸っている撫子に捕捉するべく口を出す。
「変とは失礼な。便利と言ってほしいね」
「拙者、これでも知識量には自信があったんでござるが、ここまで変わった固有スキルは見たことも聞いたこともないでござる」
ココはムッとした顔で返し、撫子は「何とも面妖な……」と感心したような声を漏らした。
「撫子さんに対して奇襲したように、私じゃ役不足。撫子さんの体力が尽きるのが先か、ココさんの魔力が尽きるのが先か……これはそういう戦いです」
「貴殿の電撃さえ当たれば……確か貴殿は勇者でござったな。もう一つの固有スキルは?」
「【冷酷無情】……罪悪感とか恐怖とかそういった負の感情を消すだけの能力です」
撫子は内心、強く舌打ちする。
強力と言えば強力。ライと兄妹と言われてしまえば納得するほど強く、似た能力。
しかし、現時点ではメイ自身が自覚しているように役に立たない。
消耗した体力も多少回復したとはいえ、限度がある。
メイとは違って圧倒的でも、一方的でもないが故の厳しい戦いが予想出来た。
「相性、か……」
シキの最大の武器が適応能力ならば、アリスは力。撫子はスピードだ。
メイはそれを悟ったからこそ奇襲した。
それに対し、ココの武器もスピード。その上、飛翔能力まである。
撫子の時同様、当たりさえすれば相性は抜群。
だが、ココは消耗もしていなければ固有スキルも防御特化型。
当たりさえすれば、という前提が既に崩されている状態なのだ。
「ふーっ……長くは持たんぞ、シキ殿……」
先程まで殺されかけていた相手と、敵地での共闘。
経験のない戦いに息を吐き出して肩の力を抜いた撫子は再び抜刀の構えをとると、姿を眩ました。
◇ ◇ ◇
「状況は!?」
「現在、敵艦はゴーレム部隊の奇襲により、損害大。サンデイラから逃げ回っています」
潜伏型魔導戦艦ハルドマンテは王都周辺の砂漠の中を泳いでいた。
シャムザ全域が同時多発的に襲われた中、唯一ハルドマンテだけは潜伏していたが為、襲撃から逃れており、時折地上に顔を出してはサンデイラやエアクラフト隊の援護していたのだが、現在はサンデイラから砲撃中断との指示があり、沈黙している状況である。
「お姉ちゃんは何だって指示をくれないの……? ゴーレム部隊の奇襲だって失敗した筈じゃ……」
「っ、サンデイラから通信です! モニターっ、出ます!」
通信本部を離れ、一人ハルドマンテへと乗り込んでいたレナが首を傾げると、オペレーターの一人が手元のキーボードのような盤を忙しない動きで打ち始め、直ぐ様ブリッジ内にある巨大モニターに船長が映った。
『っ……何で貴女が居るのよ』
画面の中のセシリアは反対に見えているであろうレナを見て、こめかみを抑えながら言い、『いえ、まあ良いわ』とため息をつく。
「勝手に動いたことはあやま――」
『――良い良い。貴女がそういう子だってことはわかってるから。それより、坊や達があの船に乗り込んだのは知ってる?』
タイムラグがあるにも関わらず被せてきたセシリアに不服そうな顔をしつつも、レナは首を横に振った。
「だから砲撃中断って言ったの?」
『っていうより、ゴーレム部隊に誤射してもらいたくなかったのよ。まあそれも無駄に終わったけど。今は坊やと撫子ちゃんが乗り込んでるからそのまま備えてて』
「……本題は? それを伝える為だけに連絡した訳じゃないんでしょ」
レナの発言に、セシリアは苦笑いし、「わかってるじゃない」、「当然よ、お姉ちゃんの妹だもん」とアイコンタクトで会話する。
『アリスやヘルト、リュウ坊達がそろそろ戻るわ。そこまで耐えれば私達の勝ち』
そういう報告が来たのか、確信を持って言うセシリアだが、その表情は暗い。
一瞬喜びかけたレナやオペレーター達も出かけた声を押し殺し、その先を促した。
『相手は帝国。追い詰められた状況で何するかわからないっていう不安が一つ。それとは別にもう一つ、不安材料が出たの』
「出た……って?」
『ハルドマンテのレーダーに何か映ってない? こっちはさっきから生体反応レーダーの一部が真っ赤なのよ。この反応、見覚えがあるって子が居るのよねぇ』
「っ、方向はっ? 後、誰がそう言ってるの?」
セシリアの返答に、レナの顔色が緊張感に満ちた顔から焦燥感に満ちた顔へ変わった。
そして、方角を教わると、レーダーを見ていたオペレーターに目で合図し、モニターを二分して出させる。
続いたセシリアの説明と一方向が真っ赤に染まったレーダーが画面に現れたのは同時だった。
『私達がナール王子に捕まった時のゴーレム乗り。戦うのはこりごりだって言うから観測班に回したのに……』
『ま、間違いねぇって! ありゃあ人喰いワームだ! あん時と同じなんだよ!』
『わかったから落ち着きなさいっ、戦闘中よ! ……どう? 捕捉出来た?』
モニターの向こうで怯えた様子の男がセシリアに食って掛かり、諌められる様子が見て取れたが、レナ達の視線はそこにはない。
『レナ? レナ、聞こえてる?』
セシリアの声も耳に入らない。
が、直ぐにハッとすると、レナは声を張り上げた。
「緊急停止! 止まった方が正確に出る!」
「り、了解っ!」
砂中を泳ぐように進んでいたハルドマンテはレナに指示を受けて停止。レーダーに正確な情報を映した。
「こ、れは…………」
ハルドマンテのレーダー画面は既に半分赤い生体反応で埋め尽くされていた。
それだけでなく、停止したからこそ砂漠が揺れていることにも気が付く。
「観測班っ、何をしてたのよ!?」
「も、申し訳ありませんっ、でもさっきまで何の反応もっ!」
「言い訳は良い! それでも各種アーティファクトで敵を捉えるのが貴方達の仕事でしょうっ!」
レナ達の尋常ではない様子を見たセシリアは『……どうやら本当みたいね』とだけ呟くと、各方面に新たな指示の通信を送り始めた。
『ナール王子に避難を急がせるよう伝えて! 何なら都民全員を遺跡に押し込めたって良いわ! 他国境防衛組はサンデイラではなく地上へ向かわせる! それと、さっき収容したエアクラフト部隊にも順次降下するよう伝えなさい!』
モニターの向こうがバタバタ、ガヤガヤ騒がしくなる。
『レナ達は回避運動をとりつつ……迎撃。出来れば引き付けて王都から遠ざけてくれると助かるわね』
顔を苦々しく歪ませ、言い淀みながらもハッキリと伝えられた。
とはいえ、レーダーの反応……人喰いワームの群れは何故か王都目掛けて突き進んでいる。
言われずとも、迎撃や囮はしなければならない。
ならばとレナは頬を叩き、気丈な態度で告げた。
「了解っ。よし皆、聞いた通りよ! 私達が王都を守るの! スラスター全開っ、ギリギリで回頭し、砲撃しながら引き付ける! 良いわねっ!」
「「「はっ!」」」
乗組員の威勢の良い返事に呼応するかのごとく、ハルドマンテの推進機関に火がつき、エイのような形状をした特殊戦艦は再び潜航し始める。
オペレーターは人手不足のせいで城の使用人や新人兵ばかり。
しかし、レナというシャムザの要が乗っているからこそ、士気は高かった。
『ヘルト達には急ぐよう言っておくわ。レナ……死なないでね』
「当然っ。まだシキ君に返事もらってないもの!」
『ふふっ、その意気よ』
最愛の姉に笑みを返し、通信を切ったレナはほんの数瞬瞑目すると、近くに立て掛けた剣に手を伸ばした。
◇ ◇ ◇
ヴォルケニス、ブリッジ付近にて。
「出られる兵は全て来させなさい! 兵器も持てるだけ持って!」
モグラの爪のような手しかない、もう一人の異形の少女アイがその特異な腕を振り回して急かし、無事だった十数人の兵士はルゥネと同じ猟銃のような銃を背負い、腰のホルスターに拳銃を差し込んでいる。
「姫とのリンクが一瞬切れた! 相当苦戦してるってことよ! 急いで!」
ルゥネの固有スキルによって文字通り以心伝心の連携行動をとれていた帝国兵達は嘗てない不安に駆られつつも、着着と準備を終え、アイを先頭にルゥネの援護に向かう。
「全く! 幾ら約束したからって大将自らが出向くなんて、だから反対だったのに!」
腕が特異なら脚部も特異。腕同様、脚まで短いアイは身長も低く、走り辛い身体を叱咤しながら悪態をつき、走り続ける。
アイの身体に合う武器はないのか、装備という装備はなく、防具等も見当たらない。
しかし、それでもと階段を滑り降り、格納庫へ走ったアイが見たのは敵であるシキの前で胸元の生地を乱暴に引っ張り、小振りだが形の良い胸を晒していたルゥネの姿だった。
◇ ◇ ◇
「チッ、援軍か……」
仮面を外し、血にまみれた目元を拭っていたシキが舌打ちする。
「くっ……ぺっ……あら? アイ達では……ありませんの。何か用でも? 私、今物凄く忙しいのだけれど……」
同様に、口元と腹を抑え、残った血反吐を吐き捨てたルゥネが露出した胸を更に出すようにドレスを引っ張りながら言った。
「いやいやいやいや! 何してんの何してんの!?」
アイは思わずツッコミ、シキも見えてきた光景に目を丸くしつつ、仮面を装着した。
ふらつき、腹を抑えてはいるものの、回復薬を服用したのか、ルゥネは意識のハッキリした瞳でアイを見つめ、平然とした顔で返す。
「何って……これ、をっ、外したくっ……て! ふぬぬぬっ……!」
膨らみどころか全てを晒け出しても、恥ずかしがる様子や動揺はなく、中々取れないらしいコルセットに悪戦苦闘している。
アイは兵達にシキの方を見るよう指示を出して駆け寄り、自分の身体でルゥネの胸元を隠した。
「は、外すって何で!? 良いから戦いは兵に任せて指示を!」
「邪魔立てしないでくだ……おぼぇっ……ぺっ、ぺっ……くださいまし!」
漸くといった面持ちで外したコルセットを床に投げ捨て、アイを押し出した途端、ルゥネは盛大に吐血し、かと思えば気になるらしい口内の残り血を品性の欠片すら見せずに吐き捨て、場を凍らせる。
「……いやほらダメだってば! 血ぃ吐いてるし、第一あんた、女王様でしょ!? てか胸隠しなさいよ胸ぇ! 敵にも兵にも胸全開とか、ただの痴女だって!」
「ええいっ、煩いですわね! 他者に見られて恥ずかしい身体等持ち合わせていませんわッ! 見たければ見なさいっ! ほら! 立派でしょう!」
「ちょおぉいっ、そういう意味じゃない! 乙女の羞恥心何処行ったっ!? そこは恥ずかしがって!」
必死に止めるアイと両手で双乳を持ち上げて見せるルゥネという、コントのようなやり取りと困ったような様子でこちらに銃を向けている兵士達にチラチラ視線をやりつつも、シキは捨てられたコルセットを見下ろした。
(……金属板?)
ルゥネが付けていたコルセットは見た目こそ薄く、それこそドレスから浮き出ない程度でしかなかったが、シキの蹴りが直撃したせいで大きくひしゃげており、生地の部分が破け、鈍く光る中身が見えていた。
「兎に角、姫はブリッジに……むぐっ」
「ふふ、ミスリル製の板ですわ。そこまで薄くするのには骨が折れましたが……っ……お陰で、致命傷は免れました」
未だキーキー喚くアイの口元を抑えるようにして押し出し、ルゥネはシキの方に数歩近付く。
よくよく見てみると、シキの蹴りという外部からの力によってひしゃげたコルセットは内側に強くめり込んでいる。
見るも無惨な状態と全開の胸よりも先ず腹を抑え、時折顔を歪ませるルゥネの様子から相当のダメージを窺わせた。
「らしいな。だが次はない。吐血量からして内臓をやったろ。回復だって中途半端の筈だ」
ニヤリと笑ったシキの返答に、腹部までずり下げていたドレスの生地を引っ張り上げ、漸く乳房をしまったルゥネは小さく「骨も何本か持っていかれました。お見事です……が、こちらも次はないと言っておきましょう」と称賛しながら追加で回復薬を取り出し、飲み下す。
「ひ、姫! ダメだって言っ――」
「――くどいッ!! 邪魔立て助太刀無用っ! 折角の晴れ舞台をこれ以上汚さないでくださいましっ! 兵である貴方達は私という王の言うことを聞いていれば良いッ! 私がルールですわ!」
「っ……」
叱りつけるというより、怒鳴りつけるようにピシャリと言い切り、アイを黙らせた。
兵達もルゥネの鬼気迫る表情に気圧されたのか、銃口が下がっている。
「仲間に対して随分酷い言い種じゃねぇか」
「シキ様も同じ気持ちなのでは? 貴方の心がそう言っていますわよ?」
「クハッ、クハハハッ……」
「アハッ、うふふふっ……」
どちらかともなく二人は笑い出し、各々の武器を構えながらゆっくりと近付いていく。
「こりゃあ戦争だ。大将が私情を優先するのか」
脳内のリンクが繋がり、ルゥネの心が再び伝わってくる。
思考、返答、覚悟共にわかってはいたが、訊かずにはいられなかった。
「勝ち負けじゃありません。私はただ戦いたいだけ。そこに勝敗を求めるのは無粋です。貴方もそうでしょう? シキ様……」
格納庫内で唯一、ルゥネの考えに理解、賛同出来ないらしいアイがぎょっとした顔でルゥネを見つめ、シキは首を振った。
「いいや? どうせやるなら勝ちたいね。テメェみたいにぜってぇ俺が勝つって顔をしてる奴には特にな」
ルゥネから伝わってくる感情や思考には兵達を使う算段は一切感じられない。
彼女の固有スキルなので、ブラフである可能性は拭えないが、シキは彼女の性格からしてそれはないと踏んだ。
例え出逢って間もないとはいえ……
「これだけ殺し合ってりゃ互いの考えてることくらい固有スキル無しでも伝わってくる……!」
「堪りませんわねぇ……このヒリヒリした感じっ! お腹が痛いですわ口の中が血の味でいっぱいですわ身体が熱いですわ……!」
じわじわと興奮冷めやらぬ互いの身体が再び熱を持ち始めたのを感じ取り、シキは口角を上げ、ルゥネは唇から滴っていた血を舌で舐め取った。
テキオが言った通り、二人はどこまでも気が合うようだ。
どこまでも狂っていて、どこまでも楽しんでいる。
「はーっ……ハーッ……さあ、休憩は終わりだ……! まだやるぞルゥネぇッ!」
「ふーっ……フーッ……ああ昂るっ、昂るうぅっ……! 身体が火照って火照って……うふふふふっ! どうにかなりそうなっ……最っっ……高の気分ッ!」
最早、二人の視界にアイと帝国兵達の姿はない。
眼中そのものにない。
「あ、あんた達のせいで人がいっぱい死んでるのに……何が楽しいのよっ。こんなの……狂ってる!」
知り合いや友人の死を、自身の固有スキルで把握していたアイが涙目で訴えても、聞こえない。
「「殺すッ! はははっ、ぶっ殺してや(る)(りますわ)ッ!!」」
二人の狂気と熱は留まることを知らないらしい。




