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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第4章 砂漠の国編
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第167話 空中機動&水上戦

どうやっても短く収められない件。



「策ねぇ……」



 苦笑いとも失笑ともとれる笑みを浮かべたテキオが俺に剣を向けながら迫ってくる。



 俺は冷静にマジックバッグから取り出したエアクラフトに乗り、その場から離れるようにして大振りのそれを避ける。



「……おうおう、姫が狂喜乱舞してやがる。これ俺負けなきゃいけねぇ感じ?」



 なんて言いながら、背中のスラスターから魔粒子を放出し、平然とした顔で追撃してきた。



「いいや? どの道負けは確定だ。好きにやれば良い」



 対する俺は受ける訳でも避ける訳でもなく、加速する。



 サーフィンでもするような体勢。気持ち腰を落としつつ、エアクラフトの尻の方のスラスターを全開にし、大剣を振りかぶるテキオを置いていく。



「っ、やっぱ速いなぁ……」



 上空とは違い、そこまで風が強くないからか、やたらテキオの声が聞こえる。

 ついでに気配とこちらに近付いてくる風切り音もハッキリ伝わってくる。



 体勢を維持したまま目線だけ向けると、追い付かないながらピッタリ後ろにくっついてくる奴の姿が視認出来た。



 魔力量が一万もあれば無理やり追い付くことも出来る筈だが、そんな様子はない。

 態度や顔は飄々としていても内心はそうでもないか、あるいは念には念を入れているということだろう。



「っと……!」

「うおっ!?」



 いつの間にか目の前に迫っていたレンガ造りの家屋を飛び越えて躱し、テキオも目を見開きながら屋根に手を付け、側転の要領でやり過ごした。

 その後も、民を避難させた為にがらんとしている街並みの上を滑空し、どんどん王都へと入っていく。



「まさかとは思うが……この王都の地形や障害物を使うってのが俺を倒す策じゃねぇよな?」



 魔力消費量、移動速度、魔粒子量の昇華率等々。

 エアクラフトの方が有利な筈なのに、俺から離れる気配のないテキオがそう言ってくる。



「まさか。まあ当たりと言えばまあ当たりではあるがな、」



 一瞬だけ大きく跳ね、見えた光景を素早く一つの思考に焼き付けると同時にくるりとその場で回転し、爪斬撃を飛ばす。



「ちっ」



 という舌打ちに遅れて何かがぶつかったような金属音が聞こえた。

 大剣で弾いたらしい。



 後ろで起きている、テキオやジル様レベルじゃないと起き得ない回避技には見向きもせず、再び前を向いて見えた光景を確認。

 現時点での移動速度や角度を加味し、幾つかの他の思考にそれらを預け終わると漸くテキオの方を向いた。



「ひゅ~っ! すげぇなおいっ、後ろ見ながら空飛ぶとか俺なら怖くて出来ねぇぜ!?」



 純粋に感心しているような顔で褒めてくるテキオ。

 冴えないオッサンにしてはキラキラしたような目で見てきている。



「お褒めに預かりどう……もっ!」

「へっ、加えて攻撃まで!」



 右へ左へエアクラフトを傾け、スラスターの威力、向きを調整。建物の看板やテントの天辺に立っている旗を避けながら次々に斬撃を飛ばす。



 しかし、テキオもテキオで持ち前の身体能力(ステータス)を遺憾無く発揮させ、空いている左手を使って建物を殴って自分の身体を浮かせたり、回転させたりして建物を躱し、更には俺の斬撃まで大剣で弾いている。



 やはり強い。



 改めてその強さを見せつけられた俺は、ならばと方向転換し、大通りの上ではなく下。人が歩くような高さまで降りて建物とテントの間、あるいはテントの中に突っ込み、斬撃飛ばしで道を切り開きながら攻撃する。



「な、何て野郎だっ!? クソっ、面倒くせぇっ!」



 建物やテントに突っ込む直前でエアクラフトを横向きにし、直角気味に躱す俺に目を剥き、自分には出来ないと諦めたのか、テキオは大剣で全てを薙ぎ倒して付いてくる。

 建物もテントも俺の斬撃も、その全てを一撃で払っている。



 これには流石に「そりゃこっちの台詞だっ、化け物め!」と返さざるを得ない。



 テントならまだしも、建物だと破片が飛んでくるし、一部が粉々になるせいでテキオの姿を一瞬見失ってしまう。



「くっ!?」

「おっ? 隙ありぃっ!」



 相当な速度で飛んできたレンガの破片を寸でのところで首を捻って躱した俺にテキオは嬉々として魔粒子量を爆増させ、急速接近してきた。



 ――加速じゃ間に合わないっ、なら……!



 既に結構なスピードであるにも関わらず、どんどん距離を詰めてくるテキオを見て、咄嗟に置き去りになっていたそこらの店の樽や瓶、サボテンみたいな植物が入った置物に剣を当てて落とし、その中にしれっと手榴弾を複数個混ぜた。



「だぁっ、もーっ! うっぜぇっ……このっ……!」



 高速移動中ということもあり、すれ違い様に触れるだけでそれらは落ち、追ってきているテキオは自分から突っ込むような形になる。

 しかも背中や腰を押す移動手段なので、顔や胴体に次々色んなものが当たる。顔に当たって割れ、中の酒のような液体をぶち撒けた樽に一瞬硬直した後、苛々した様子で大剣を構え、樽以降の物を全て弾いた。



 しかし、「うわっ、ベトベトになっちまった」と言った瞬間、大剣に俺が落とした手榴弾が当たり、爆発。近くに落ちていた他の物も連鎖的に爆発する。

 あっという間に爆風が広がり、近くの建物が崩壊して土煙が立ち込めるが、俺は視線を固定したまま移動を続ける。



 ジル様並みに硬いんなら、直撃しても大した怪我は負わない。

 間違いなくテキオは無傷だろう。



 だが、奴の防具やマジックバッグは?



 硬いのはテキオ本人だ。服とか防具とかマジックバッグのようなものはそこまで頑丈じゃない。



 防具の方ははあってもなくても変わらないが、マジックバッグの有無は手札に直結する。



「うがああああっ! いっ……たくはねぇけど、ビビったじゃねぇかコラぁっ!」



 予想通り、テキオは無傷だった。



 そしてもう一つ予想通り、シャツやズボンは弾け飛び、半裸に近い格好になっている。腰に付けていたポーチのようなマジックバッグもない。



 予想外だったのはテキオの態度だ。



「なんで俺がこんな面倒な目にっ……! 姫さんよぉっ、こいつぁ長期休暇程度じゃ割に合わねぇぞぉっ!!」



 顔は相変わらず気怠そうだが、本当に苛々しているようで大剣を振り回して土煙を払っている。



 恐怖ではなく怒り。



 恐怖ほどじゃないにしろ、怒りは視野を狭くする。



 その怒りを、強すぎて色褪せた世界を生きていた奴から引き出した。



 思った以上の効果だ。多少の危険があっても王都の中に入ったのは間違ってなかった。



「おらおらどうしたオッサンっ、遅めの反抗期かっ? イヤイヤしてるガキみてぇに暴れてないでこっち来いよ!」

「てめっ、このクソガキっ! 舐めたマネしやがって!」



 ある程度離れていたので速度を落とし、煽るようにくるくるその場で回転しながら手榴弾や閃光弾を投げたからか、存外怒った様子で追ってくる。

 また一撃必殺の腕力で衝撃波を作り出し、俺が投げる全てを落とすか、爆発させてしまうんだから言葉も出ない。



「俺を倒すんだろクソガキぃっ! やってみろよ! 俺は最強の身体を持つ男だあぁっ!!」



 俺の斬撃を真似てか、唾を飛ばして憤慨しながら衝撃波を飛ばしてきた。



 衝撃波自体は見えないものの、通り道である建物やテントを吹き飛ばしてこちらに飛来しているので、大まかな位置は把握出来る。



「最強の身体を持つからって最強とは限らねぇだろっ、オッサン!」



 そう言って衝撃波を上に跳ねて避け、再び移動を開始したところで、爆速で接近しつつ、一振り、二振り、三振りと大剣をぶん回しているテキオと目が合った。



「は?」



 うそん……と思った次の瞬間には見えない衝撃波が次々に俺を襲う。



「まっ……じで化け物……っ!」



 反射的に身体の横面全体から魔粒子を出すことで体勢を崩してまで横に避け、迫ってくる……いや、俺が突っ込もうとしている建物に手を向けて更に魔粒子を放出。

 手のひらと肘で逆噴射制動とその衝撃の中和、両胸と両太ももで上昇、勢いが死ななかったせいで下半身が持っていかれ、回転して激突させるところをエアクラフトで補助した。端から見れば建物の前でくるっと縦回転し、ギリギリで上昇出来たように見えた筈だ。



 内心、「うわ今の凄くね!?」なんて自画自賛してしまったが、即座に建物に衝撃波が直撃して崩壊。至近距離でその建物の破片が飛び散り、エアクラフトがカンッカァンッと甲高い音を立てた。



「うひぃっ」



 思わず変な声が出てしまった。

 しかし、テキオの怒りが収まることはなく、更なる衝撃波を飛ばしてくる。



 俺が斬撃なら奴のは打撃だ。

 打撃そのものが飛んでくる。



 お陰で直撃した建造物は弾け飛び、破け飛びでどんどん被害が増え、俺は押されるようにして王都の中心に向かう。



「逃げんなっ!」

「逃げるわっ!」



 冗談も休み休み言えと速度の維持を意識したまま斬撃飛ばしで応戦してみたが、衝撃波にかき消された。



「はぁっ!? 野郎っ、俺の身体能力(ステータス)が乗ったあの人の爪をっ……!」



 思わず二度見してしまった。



 考えてみれば当然のことで、強力な固有スキルで俺の爪や長剣を斬れる奴は居たが、素手で掴んで止める奴は居なかった。

 ジル様と同等の強さは伊達じゃないということだ。



「っ!? なんっ……オアシスか! チカチカ眩しいっ!」



 先程の奴同様、純粋な感嘆のような感情を覚えていると、テキオが急に顔の前に左腕を構えた。



 テキオの方を向いて衝撃波をやり過ごしていたからか、目的地に着いたことに気が付くのが遅れたらしい。

 既に俺の真下には日光が反射してキラキラ輝いている巨大な湖があった。



「第一関門はクリアっ……しかしっ……!」



 俺の作戦は王都の建物やテントといった障害物を利用して消耗させるorダメージを負わせ、最後にこのオアシスで止めを刺す予定だった。



 だが、止めを刺すには魔力を消費し過ぎた。



 残量は体感で二割弱。最早、一割に近い。



「スピードがよぉっ、落ちてきたのは気のせいかぁ!?」

「くっ、ステータスお化けがっ!」



 俺とは対照的に全く消耗した様子のないテキオがニヤニヤしながら加速してきた。



 だが、やはり怒りで視野が狭くなっているのか、大剣を振りかぶっている。



 俺の真下はそれはもう巨大な水溜まりだ。

 奴の力をぶつければ俺はおろか、自分まで噴き上がった水飛沫に巻き込まれてしまう。



「お前バカかっ!? こんなとこでそんなもん振り回せばどうなるかっ!」

「んなこたぁわぁってるっつの! だから! ()()()やるっ!」



 驚くべきことに、今までの攻撃は加減していたらしい。



「そんなハッタリが――」



 と、否定しながら降下し、水面スレスレまで降りることで水飛沫を作り、軽い目潰しにした俺を、テキオは完全無視。



「――おっしゃああああっ!!」



 寧ろ俺の声に乗っかるように絞り出した気合いの一声と共に大剣を振り下ろしやがった。



「っ!?!?」



 一瞬にして辺りが見えなくなる。



 直撃は避けている。



 奴の大剣が俺に当たる直前、全てのスラスターを切った。

 ほんの少しだけだが、減速し、回避出来た。



 が、凄まじい衝撃が水面を叩き、周囲の水を吹き飛ばした。



 その飛沫に押された俺は身体を持っていかれ、視界でも体感でも全てが回る。



 あまりに強く押されるので、下手な抵抗は無駄だとスラスターは切ったまま素直に身体を投げ出す。



「っぐっ、ぷはっ……あばっ……がぼばっ!?」



 駄目だ。水の中に居るのか、目を開けることどころか息も出来ない。



 オアシスそのものが無くなるんじゃないかと思うほどの衝撃。



 ――これじゃオアシスの中心に居るナール達がっ……いや、自分だって何にも見えない筈っ、スキルが使えないんなら俺の気配は追えないっ!



 俺自身、今自分が何処に居てどうなっているのかわからないぐらいだ。



 全身がぐるぐる回っているのだけはわかるが、前後も上下も何もわからない。



「んぶっ!? ごぼっ……!」



 多分だが、テキオは続け様に二発目を振り下ろした。



 ただでさえ強い水流に波が乗ったような感じがした。



 目は閉じているが、最初に口の中に入ったのと鼻に入ってくる水のせいで余計な焦りが出てくる。



 これでは目が開けられるまで魔粒子を出すことも出来ない。方向と加減を間違えれば鼻や口の中に入ってくる水の量を増やすことになるか、逆に加速してオアシスに突っ込む可能性がある。



 無駄なことをして少ない魔力を使うのも嫌だし、無防備な身体を晒すのも嫌だ。



 ――ここは一旦、冷静……にっ!?



 思考の殆どを精神統一に使った瞬間、背中の右側に鋭い痛みが走った。



「ぐはぁっ!?」



 刺された。



 それは経験でわかる。

 大剣ほどデカくない。短剣かピックみたいな針。恐らく短剣だ。



 ついでに水飛沫から解放されたのも。



 だから、貫通しようとする短剣のようなものの周囲……つまり、腹部に《金剛》を使った。



「っ? 何だこ――」



 自分のステータスなら確実に貫通する筈のものが半ばで止まる。



「――そりゃあっ……硬直するよなっ、一瞬ッ!!」



 《金剛》の効果的にもテキオのステータス的にも止められるのは一秒もない。



 だが、それだけあれば蹴りぐらい出来る。



 背中を刺されたんだから奴は俺の真後ろ。



 かつて聖軍相手に使ったように、自分の身体を人形使いのように操る。



 魔粒子が糸の役割を果たし、一人でに動き出した俺の左腕と右脚は奴の腕と頭部を捉えた。



「がっ!?」



 《狂化》を使ったこともあり、かなりの威力があった筈だ。



 テキオが鈍い悲鳴を上げて吹っ飛んでいくのがわかった。



 エアクラフトで滞空しつつ、邪魔な仮面を外して顔を拭い、テキオの方を睨む。



 水面を水切りした時の石みたいにポンポン跳ねながら王都の方に飛んでいく奴の姿があった。



「っし、今のうちにっ……!」



 俺の蹴りは確かに直撃した。



 だが、テキオの一撃程じゃない。



 無理のある動きだったから威力の底上げに《狂化》を使った。

 お陰で左腕の靭帯は損傷、右脚は足首と膝が折れた。魔力も一割を切っている。

 


「ナールっ!! 回復しろぉっ!! 奴はまだ死んでねぇっ!!!」



 《咆哮》を使用し、まだ落ち着いていない水面を更に震わせてまで、今の戦闘で崩れ始めた城跡の近くに居るナールに指示を出す。



 勿論、片脚は折れているが、エアクラフトで近付いてもいる。



「はぁっ……はぁ……痛ぇっ、なぁっ……! ごほっ! ごほっ、ごほっ……」



 背中は刺されて痛いし、水が気管に入って噎せる。

 それでもテキオが飛んでいった方向への注視は止めない。



 ――奴は危険すぎる。止めだ……想定外のことはあったものの、ここで止めを刺すべきだっ。



 身体の至る部位を襲う激痛と水と血を含む咳をしながら水浸しで崩れ掛かっている城跡に辿り着いた。



「確かっ……はぁ……はぁ……この辺り、にっ……」



 身体を引き摺るようにしてエアクラフトを動かし、ゆっくりと着陸。



 「あのオッサン……マジックバッグも無しにどっから……」と悪態をつきつつ、背中に刺さっている短剣を一思いに抜く。



「ぐぅっ……! くっ……そ……はぁ……はぁ……!」



 止まらない息切れと血に思わず倒れ込んでいると、少し離れたところから誰かが近付いてくるのがわかった。



「シキっ! 貴様! 何故ここに敵を呼んだ!? 裏切ったのか!」

「な、ナール様! 機材が一部流されました!」

「避難民は無事だそうです!」

「むっ? あ、あれはシキ殿か!? 酷い怪我だ! 誰かっ、回復魔法を!」



 このウザい口調とねっとりした声音、ナールだ。

 その後ろは……兵士達か。



 痛む背中を無視して仰向けになり、ナール達の方を向く。

 全員仲良くびちょびちょで、息切れもしているようだった。至近距離に居た俺が吹っ飛ぶ威力だ。巨大な津波が出来てもおかしくはない。



「ええいっ、兵共が呼ぶから戻ってきたというのに……! 私自らが民を避難させていたのだぞ! それを貴様がっ!」

「良いっ、から……はぁ……はぁ……! 回っ……復……!」



 激怒しているナールに懇願するような形で脚を掴み、お願いしたからか、ナールは懐や部下から受け取った回復薬と魔力回復薬を俺と自分に掛け始めた。

 追随するようにバタバタと走ってきた何人かの兵士達からも回復魔法が飛んでくる。



 それらは何度も使用すると効果が薄れる代物であり、魔力回復薬は既に使っていたこともあって意味はなかったが、回復薬は別だ。殆ど使ってないから直ぐに血は止まり、傷も塞がった。

 更にはその使用限界を取っ払うナールの固有スキル。ダメージも魔力もみるみる内に回復していく。



「……ふん、【責任転嫁】はもう使っている。貴様ほどの者がこうも……何があったっ?」

「は……はは……ありが、たい……はぁ……はぁ……これで俺はまだ……ふーっ……フーッ……!」



 魔力的にはキツくても、ステータス上のHPは七割くらいあったし、聖軍の時に比べればまだまだ戦えた。



 それでもこうして復活してしまうと、俄然、気力が沸き上がってくるというもの。



「クハッ、クハハハハハハッ! 俺はまだ戦えるっ!! 来いッ! ぶっ殺してやる!!!」



 完全に癒えてはなかったので、ふらつきつつも、背中のスラスターから魔粒子を出して立ち上がった俺は高笑いしてエアクラフトを浮かせた。



「き、貴様っ……」

「テメェらは黙って俺を癒せ! 俺の敵は帝国の最強戦力だ! 次のやり取りで決まるっ! くひっ、クハハハハッ! これだから楽しいんだよ! 殺し合いはよオォォッ! クハハハハハハハハッ!!」



 後ろの兵達と一緒にドン引きしたような顔のナールを一瞥すると、俺はそれだけ伝え、城跡から飛び立つ。



 最高にハイって気分だ。

 ナールの視界にさえ入っていれば体力も魔力も回復出来る。擬似的な【起死回生】状態。対するテキオはマジックバッグもなければ味方も居ないから回復すら儘ならない。



「お?」



 建物やテントを幾つも巻き込んで停止し、砂に埋もれていたのか、周囲を砂埃で見えなくし、更にはオアシスの水面をこれでもかと後ろに吹き飛ばしてこちらに向かっている奴を視認した。



「やってみろやああああっ!! クソガキいぃッ!!!」



 俺の蹴りが諸に入ったせいか、頭から流血していて顔の半分が血で染まっている。

 あれでは俺と同じように半分しか見えない。俺は右目、奴は左目が見えない状態だ。



「クハッ、聞こえたのかよっ、地獄耳だなァッオッサン!」



 叫びながら俺も加速を始め、テキオの方に向かっていく。



「クソがあぁっ! 暑いし、眠いし、怠いし、痛いしで最悪だ! あー面倒臭ええぇぇぇっ!!!」



 どうやらプッツン来ているらしい。



 今までにない、真っ赤な顔で喚き散らしている。



 多分、初めてあそこまでの怪我を負ったんだろう。



 俺の武器を素手で止める奴がそこまで死地を経験している訳がない。

 というか、ジル様並みの強さを誇る奴がそうポンポン血塗れになる世界とかハードモードにも程がある。



「さあっ! 天と地はもうやった! 最後は水上で殺り合うかァッ!!」

「全員、ぶっ殺すッ!!」



 次の瞬間、俺とテキオの殺意と怒り、獲物同士が正面からぶつかり、再度王都周辺の大気、オアシスの水面を激しく揺らした。



ちょっとバタバタしてきたんで、来週か再来週のどちらか、あるいは両方お休みするかもです。出来れば更新します。

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