第166話 シキVS転生者
何をされた?
未だ理解が追い付かない思考に、〝無我の境地〟に達している思考が答える。
大剣で叩き落とされた。
ただそれだけで、俺は凄まじい衝撃に耐えきれず、グルグル回転しながら墜ちている。
「っ、油断……は、してねぇってのに……!」
目まぐるしく変わる視界に気持ち悪さを覚えつつ、スラスターを使って制動を掛ける。
振られた大剣は咄嗟に爪長剣と手甲でガードし、《金剛》の発動部位をずらして使ったことで全身を突き抜けた衝撃ダメージにも耐えた。
しかし、《金剛》はあくまで硬化に過ぎないので、ダメージは相殺出来ても衝撃そのものは打ち消せない。
だからこそ、俺は墜ちている訳だが……
「つ、強すぎるっ」
五十メートル以上落ちた辺りで漸く落下速度が落ち始め、態勢を整えることに成功した。
が、思わず弱音とは思いたくない言葉が漏れる。
落ち着いてきた視界を先程まで居た方向に向けると、オッサンがこちらに向かってきているのがわかった。
相変わらずの速度だが、急停止が嫌なのか、思ったほどではない。
その後ろには当然、元クラスメート達が滞空しており、こちらを見下ろしている。
「撤退しろって言われてアレかよ」
手甲から飛び出した三本の爪に魔力を乗せながら呆れる。
仲間が死にすぎたってのとオッサンに更にもう一人殺されたのが効いたんだろう。
とはいえ、撤退しないってんなら……
「狙うよな、当然」
流石に距離が離れ過ぎているので、《狂化》で攻撃力を跳ね上げつつ、思い切り左腕を振るった。
体内に響く鈍い音と同時に、ザアアァンッ!! と過去最高の威力と速度を持った斬撃が飛んでいく。
「うおっ、ビックリしたっ」
というオッサンが避けたらしい声が微かに聞こえ、遅れて、
「黒堂おおぉっ!! 覚えっ、ぐぎゃぁっ!?」
と、変な大声も聞こえた。
「くっ……ん、当たったか?」
強く振りすぎたせいで見ることも出来ず、腕が折れてしまった。
急いでマジックバッグから取り出した回復薬を飲みながら見上げると、俺と同じように上を向いているオッサンと幾つかの肉片になった陽キャの姿が確認出来る。
「よしっ」
「はぁ……マジでバカだなあいつら。撤退しろっつったろうが……」
喜ぶ俺の元に少しイラついた様子のオッサンが降りてくる。
多分、覚えてろとかそんな感じの負け犬宣言がしたかったところに運悪く直撃したんだろう。
まあ狙ったっちゃ狙ったから運悪くというのも違う気はするが。
丁度良く重なってたんだから、オッサンにも当たってほしかったってのが本音だ。
「……なぁオッサン、あんた名前は?」
今更焦って逃げ出す元クラスメート達を二人で見つめながら話す。
「名前ねぇ……名前ないんだよなぁ俺。気付いた時には親居なかったし。んー……コードネームが適当男だからテキオとかで良いんじゃね?」
「軽いな。つぅかあんたも転生者かよ」
テキオと名乗った(?)オッサンにツッコミつつ、素早く装備を再確認していく。
武器は大剣。防具は何かの魔物の皮の胸当てに皮の手袋、ブーツ。他はただの服で、腰に付けているポーチ型マジックバッグ以外に鞘や隠し武器等はなさそうだ。
高ステータスで思い切り俺の武器に叩き付けられた割に折れたりせず、刃こぼれが少し出来ている程度なのを見る限り、かなり金が掛かっている大剣らしい。
――やはり、これまで見せたように完全パワー型か。ステータスに物を言わせて暴れるタイプ……軽装なのも防御力に自信があると考えて良い。スキルはまだ一度も使ってないから職業や性格、癖は読めねぇ。どうせ墜ちてきたんだし、地上で戦うか……?
チラリと下を見る。
まだ数百メートルは余裕である高度だ。
俺に有利な地上まで降下しながらテキオと殺り合うのは少々厳しい。
と、そこまで考えたところで、俺がどんな算段をしようと意味はないと遠回しに言ってきているのか、テキオが新たな情報を寄越してきた。
「そうだぜ兄ちゃん。俺は過労で死んだリーマン。あのクソブラック会社許すまじ。んで、固有スキルは【一騎当千】っつぅもんだ」
私怨みたいなのが混じっていて、「道理で明るい赤茶髪に合わない怠そうな面倒臭そうな顔してるのか、髭も伸び放題だし……」と妙に納得してしまった。
しかし、後に続いた情報に耳と脳を疑う。
マジなら随分強そうな固有スキルだ、なんて思ったのも束の間、テキオはその効果を軽く自慢気に言ってきた。
「【一騎当千】。文字通り、一人で千人以上の戦力を誇る力。効果はレベル1の時点でステータス一万スタート。一回きりの、たったそれだけの能力だから無効化とかは効かないし、耐性値も一万だから毒も効かない。デメリットはスキルが一切使えねぇこと。後は元が強すぎてレベルが全然上がらない。お陰で赤ん坊の時から成長無しっ、つまり俺は赤ん坊同然ってことよ!」
謎の宣言&ドヤ顔はさておき、チラチラ上を見ている辺り、元クラスメート達の撤退時間を稼いでいるらしい。
真面目なのか、不真面目なのか、よくわからない男だ。
だが、合点がいった。
ステータスが一万もあれば今まで見せていたような馬鹿力も魔粒子の放出量、移動速度も頷ける。
「へぇ、スキルが……そいつぁ良いことを聞いた」
使えないのか、取得出来ないのかはわからないが、もしこいつの言っていることが事実なら、ステータスがジル様レベルなだけということ。
スキルが使えない馬鹿ステータスならやりようはある。
「先ずは目潰しを――」
「――させねぇよ?」
ポイっと捨てるように投げた閃光弾が斬れたと同時、テキオは俺の後ろに居た。
「っ!? テメっ、《縮地》並みの速度だぞコラっ! 本当にスキルじゃないんだろうなっ!?」
「残念っ! ただ斬って近付いただけなんだなぁ!」
思わずツッコミを入れながら轟音と共に迫る横凪の大剣を手甲でガードする。
と、見せかけてギリギリのところで腕と額、両胸から魔粒子を出して上半身を仰け反らせ、空振らせた。
「うおっ!?」
「んなもん受けるわきゃねぇだろッ!」
自然と大振りになってしまう大剣が手甲スレスレで空を斬り、間髪入れずに爪長剣を突き刺す。
が、テキオは事も無げに大剣から離した左手で爪長剣を掴むと、振られた大剣を無理やり引き戻し、俺に向けてきた。
「なっ……素手でっ……!?」
「何だこの剣っ、痛ぇ!」
チィッと舌打ちしつつ、両足から魔粒子を放出。身体を捻るように回転させて大剣を躱す。
ならばと爪を突き出せば爪長剣を離され、再び左手で掴もうとしてきたので、攻撃を止め、爪の代わりに属性魔法で造り出した熱風をお見舞いしてやった。
「うわっ……こいつっ!」
空いている左手で熱風が直撃した顔を押さえ、右手の大剣は相変わらずめちゃくちゃに振り回してくるテキオ。
ステータスがジル様レベルということもあって、移動も速ければ攻撃速度も尋常じゃない。
「っ、っ……! 一々、心臓に悪い野郎だっ」
斜め、横、縦、また斜めと乱雑に振られる大剣を魔粒子を巧みに使うことで何とかやり過ごしたものの、堪らず悪態をついて後退した俺は手榴弾を取り出した。
「これならっ、斬ったところで!」
と、思ったのが間違いだったらしい。
閃光弾とは違い、明確に狙って投げたそれは大剣とテキオの馬鹿みたいなステータスによって作られた衝撃波のようなもので弾き返され、戻ってきたのだ。
「痛ぇなぁ……手ぇ切れちまったじゃねぇか。俺より弱いくせにやってくれるぜ」
これまた雑にぶんっと振られた大剣を肩に乗せ、血が滴る左手の手のひらを見ながらの言葉。
その声が聞こえた次の瞬間には手榴弾が爆発し、再び後退していた俺を吹き飛ばす。
「次から次へとっ……!」
ダメージはない。
攻撃特化で紙装甲と言えど、今の俺のステータスならただの手榴弾程度じゃ傷は負わない。直撃すれば話は別だろうが、直撃も避けている。
テキオに投げ付けたのだって目潰しや行動の阻害が目的だ。至近距離で爆発が起きりゃ身を守ろうと何かしらの動作をすると読んで投げた。
しかし、そうは問屋が卸さないと言わんばかりに、爆発の中からテキオが現れた。
「逃がさねぇよ!」
「っ……お構い無しかっ!」
一瞬だけ驚くと同時、魔粒子で左手を操るようにして突き動かす。
無理のある速度だったので少し痛かったが、何とか間に合った。
ガキイィィンッ!! と、途轍もない金属音と衝撃が俺を襲う。
「この手甲も特別製!? 硬くて良いなぁそれ! 羨ましいぜ畜生っ!」
「ぐうぅっ……くっ! テメェの大剣だって刃こぼれだけで済んでんだから特別製だろうが!」
縦一直線に振られた大剣に対し、特に鍔迫り合うこともなく、甘んじてその衝撃に身を任せ、怒鳴り合うだけに留める。無論、ダメージは《金剛》で最小限に納めているが。
弾かれるようにして落下した俺はその勢いを初速として利用し、エアクラフトと背中のスラスターで更なる加速を掛けた。
上からの衝撃だった為、身体は何回転もしてしまったが、腕や脚、胸や腰等から魔粒子を出して微調整。最終的に天に脚を向けるような感じで斜めに墜ちていく。
――クソっ、何て馬鹿力だ! 骨折とかのダメージはねぇけど、めちゃくちゃ痛ぇ! それにこのコースっ! 王都目掛けて墜ちてないかこれ!?
「クハッ……そりゃ一筋縄には行かねぇよなァッ!」
姿勢制御と加速に意識を向けながらも唯一の視界確保手段である片目で状況を素早く把握する。
その直後、こちらを追おうとしていたテキオの目の前でカッと何かが爆ぜるような光を発した。
「んぎゃぁっ!? 目っ、目がぁっ」
何て悲鳴が聞こえる。
これまでのやり取りで正面からじゃ勝てないと踏んだ。
だから俺はわざと防御して落下した。
「片手で受けるんならもう片方の手は空くよなぁ! 長剣を鞘に入れて閃光弾を出していたのが見えなかったのか!? クハハハハッ!」
攻撃の際、今から目の前のこいつを殺すって時に全体を見ようとする奴は中々居ない。対象が弱ければ弱いほどな。
やはりやりようはある。
早瀬の時と同じだ。
固有スキルが強いってだけで、奴は人間。人間だからこその弱点は幾らでもある。
「来いっ! 下で仕切り直しだ!」
俺は爪で斬撃を飛ばしながら煽り、地上に降下していった。
◇ ◇ ◇
「あーもう……やられたなー……」
魔力を纏った拳で飛んできた斬撃を殴って弾き、大剣を持った右手で器用にも目を擦る適当男ことテキオ。
少しして回復してきた目で相棒を見てみれば言われた通り、遠目からもわかるほど大きな刃こぼれがあった。
「ちっ、この斬撃だって俺レベルじゃないけどヤバいってのに、まさかあの攻防の中、防御以外のこと考えてたなんて……頭の回転は俺より早い。更に激情型のくせに冷静だ。はぁ……抜け目のない奴はイコールで怠い奴ってことだぜ、面倒臭ぇ」
感心と警戒。
ステータスなら圧倒的に優位だが、武器や防具、他の道具等の手札の差が互角に持ち込んでいるのだと、彼は理解していた。
「放っておくには強すぎる。かといって、この戦争を左右するほどじゃあない。俺が追撃して来ない可能性もあるのに態々地上に降りたのは……さっき下からの砲撃していた魔導戦艦っぽい船の援護目的か? どうも俺の態度から色々悟られたらしいしな。あーあ……怠いけど、うちの姫に言われちまったからなー……やるしかねぇかぁ」
やがて動けるようになった彼は時折飛来する斬撃を殴り飛ばしながら墜ちているシキの姿を視認。溜め息を吐いて魔粒子を放出し、追い始めた。
「にしてもこのスラスター……消費量は抑えてあるとか言ってた割には結構持っていかれるな……長引けばエアクラフト……だっけか? を持ってるあいつの方が有利。あくまであいつが俺と同等の魔力量を誇る場合の話だが。少なく見積もっても五千前後はある動きだった。余裕があったからな……」
気怠げに「どんな世界でもサラリーマンは辛いねぇ」なんて言いつつも、その目は真剣だった。
どんなにふさげようが、命のやり取りであることに代わりはない。いかな帝国生まれ、帝国育ちの彼でも何かしら思うところがあるのだろう。
「怠ぃ……いやマジで怠いなぁ。反応的にあいつも同郷だよな……転生者かどうかはわからんが、避けられる戦いは避けたいのによぉ……姫の闘争好きにゃ参ったもんだよ……」
彼は再度、溜め息をつくとシャムザの王都近くの砂山に着地したシキの方に降りていった。
◇ ◇ ◇
そうして改めて始まった二人の戦いは苛烈を極めた。
砂漠の砂を風で飛ばすシキの得意な戦法はステータスに物を言わせた超威力の一振りで無効化され、砂山に隠れようとすれば砂山ごと吹き飛ばされる。
反対にスキルが使えないというテキオの宣言は事実だったらしく、数多もの死線を潜り抜けた結果、身に付いたシキの魔粒子操作技術は決定打に欠けるテキオの猛攻を全て空振りに終わらせている。
しかし、二人の戦いによって付近の砂山は全て消え、更地となっていた。
「そろそろ諦めろって! お前と俺じゃ勝敗は付かねぇよ!」
「クハハハハッ! そうかァ!? テメェの武器をよぉく見やがれっ!」
振り掛かる火の粉は払い除ける程度の認識しかないテキオは自身の攻撃が全て躱され、逆にシキの攻撃は全て大剣や素手でガードしていたことに気が付かなかった。
指摘されて初めて相棒の大剣に亀裂が入っていることに気付いたくらいだ。
「強者故の傲慢って奴だなっ! 武器がなきゃ、ちったぁ楽になるだろうよ!!」
足元の砂を巻き上げ、視界を封じての爪と長剣による乱舞。
大剣を振り回して砂ごとシキを遠ざけさせれば、エアクラフトは当の昔にマジックバッグに収納した筈なのに両脚の各部位から魔粒子を出し、砂の上を滑るようにして近付いてきて攻撃してくる。
これがまた実に厄介で、魔力量は自信があっても、シキほど魔粒子操作に長けていないテキオは滑らかに肉薄しては上体を反らして大剣を躱し、しれっと爪で突いてくるシキの動きに対応が出来ずにいた。
その上、接近も回避も後退も、攻撃すら魔粒子で加速を掛けているので尚のこと始末が悪い。
「このっ……うぜぇんだよさっきから! 狡いだろそれ!」
「殺しあいに狡いもクソもあるかっ、このマヌケがァッ!」
時折、接近戦中に舞い上がる砂やぶつけられる熱風もテキオの意識を持っていく。
命のやり取りの最中に視界が奪われるというのは恐怖だ。自ずとそれだけはさせるまいと攻撃を素手で受け止めてまで妨害するか、後退してしまう。
一方で、〝無我の境地〟状態が完全に解かれ、いつものスイッチが入っているシキは少々ハイになっているらしく、目は血走り、珍しく声を荒げては高笑いを続けている。
「クハハハハハハッ! 楽しいッ! 楽しいよなァッ!? ええっ!?」
テキオを帝国の最大戦力と見なしたのだろう。
シキは数回使えば効果が薄くなる魔力回復薬を大量に摂取してまでテキオを仕留めにいっている。
「楽しくはねぇ! お前、戦闘狂だなやっぱ!」
「悪いかよッ!」
「悪かねぇけどっ……うちの姫と話が合いそうだなって!」
「そいつぁ嬉しくねぇな! 侵略なんて下らないことを始める奴と合うわきゃねぇだろう!」
既に血塗れの左手で目の前から放たれた斬撃を受け止め弾いたテキオに、魔粒子で背中を押して肉薄。爪長剣を突き出す。
剣先が割れ始めた大剣でガードされ、止められた。弾かれた一瞬を狙い、即座にボロボロの大剣が振り回されるが、上体を反らし、半身になり、身体を捻り、魔粒子で後退して全てを躱し、ついでに手榴弾と閃光弾、砂埃に熱風を置いていく。
「ああもうっ、うっぜぇっ!!」
と、怒りを込めた拳で地面を殴り、全てを吹き飛ばす。
しかし、一緒に飛ばされた筈のシキは何故か魔粒子を撒き散らしながら接近してきていた。
「なら死ねっ! 今すぐッ!」
「死なねぇよ!」
「死っ……ねえぇっ!!」
「くっ!? 勿体ねぇことしやがる!」
爪と爪長剣による攻撃を獲物で受け止めた瞬間、とうとう寿命を迎えた大剣が崩れ去り、テキオは堪らず地面を蹴って距離をとる。
「逃がすかァッ!」
「補充の時間が欲しいだけだこのバカっ! どこの戦闘民族だお前!」
背中のスラスターから大量の魔粒子を放出して迫るシキに思わずといった様子で怒鳴ったテキオはマジックバッグから新たな大剣を取り出し、再度シキの攻撃を受け止めた。
「なっ……!?」
「言葉も出ないかっ? 俺のステータスに耐えられるようにってよぉ……武器はいっぱい支給されてんだぜぇ……?」
鍔迫り合う形でギリギリと火花を散らしながら睨み合っていた二人だったが、そんな折、突如飛来してきた砲弾によって周囲の砂ごと吹き飛ばされた。
「「うおぅっ!?」」
重なった二人の声を搔き消すように、近くに潜伏していたらしいハルドマンテが地面から飛び出し、搭乗者の一人が声を張り上げる。
『ちょっとシキ君っ! 王都の近くで暴れるの止めてくれるっ!? 貴方達のせいで外縁部がめちゃくちゃよ!』
地面に倒れていたシキとテキオは無言でお互いを見て、無言で王都の方を見た。
確かに外縁にある建物やテントは崩壊しているか、千切れているし、場所によっては家屋だけでなく、砂漠のものとは違う砂で形成されている道まで破壊されていて、まるで竜巻でも通り過ぎたような様子を醸し出している。
もう一度、お互いに「今は攻撃は無しな?」と目で訴えつつ、取り敢えず反応する。
「その声、レナだな? 何でテメェがそこに居やがる? 後、何で邪魔した? ぶち殺すぞテメェ」
「……巻き込んだのは悪いけど、大半はこいつのせいだぜ? それに攻めてきた俺を責めるってのもお門違いだ」
片方が「何で味方に殺す発言するん?」みたいな視線を送っていたが、ハルドマンテに乗っているレナも気丈に返す。
『また変なスイッチ入ってるわよシキ君。ちょっとは落ち着きなさい』
「うるせぇ特攻娘が。後方に居なきゃいけねぇテメェにだけは言われたくねぇぜクソっ」
『いや口わっるっ。私、王……あ。んんっ、ナタリア。もう一回撃って。頭冷やさせる』
途中で誤魔化したものの、遅かったらしい。
テキオはジト目でハルドマンテを見つめている。
『……了解しました』
口を開きかけたテキオを止めたのはナタリアの返事だった。
しかし。
久しぶりの楽しい殺しあいを邪魔されて気が立っているのだろうとは思いつつ、それでも今の態度はいただけない……とでも思っていたのか、ハルドマンテの砲撃手はナタリアの返事の途中で撃ってきた。
流石に当てる訳にはいかないので、シキの頭上を通って後ろを吹き飛ばしている。
が、当の本人もそれをわかっている為、髪が靡くほどの距離で砲弾が通過しても、どうせビビらせる程度のことしか出来ないとそれを無視。
さっさと立ち上がって武器を構えた。
「おら、続きだオッサン。ぶっ殺してやる」
「そっちも姫がボスなんだろ? せめて言うこと聞いて落ち着けよ……」
「うるせぇ殺す。この下らねぇ問答を続けようとしても殺す。武器を構えても殺す。逃げようとしても殺す。他の対応で俺をイラつかせても殺す」
「敵ながら怖すぎる……マジでうちの姫と同じタイプだ……」
余程ストレスだったのだろう。
シキはそこまで言ったところでハルドマンテに斬撃を飛ばした。
当然、魔障壁で弾かれるが、攻撃してきたという事実には違いない。
レナもナタリアも、シキの怒りに思わず黙り込んだ。
「これはテメェらの為になる戦いだろうが。邪魔すんじゃねぇよ。良いところだったのによ……!」
元クラスメート達に見せたような演技ではなかった。
本当に怒っている。
『ご、ごめんなさい……』とだけ言ってそそくさと地面に潜り始めたハルドマンテに、テキオはドン引きしている搭乗者達の姿を幻視した。
「酷い態度じゃねぇか。今のはちょっと無いだろ。折角心配してくれてたのに」
「ごちゃごちゃ煩い。俺ぁ邪魔が入ってイライラしてるんだ。第一、テメェにゃ関係ねぇだろ」
「いやな? 俺らも今の奴等みたいに振り回されてっからさー……少しだけ同情しちまったのよ」
明らかに戦闘狂の悪い一面が出ている。
そうわかっていても、シキは興奮していて止められないし、テキオもそれがわかっているから注意だけで済ませる。
そして次の瞬間、全身をピシリと止め、固まった。
何かの初動かと目を細めたシキを横目に、彼は「やっべ、マジやっべ……」みたいな顔で何やら小さく呟いている。
「すんません、他意はないんすよ。いやマジで。決して悪く言った訳じゃ……はい、はい……二度と言いません、マジすいませんした、はい……」
新品同然の大剣を持ちつつも、取引先から電話が来たサラリーマンのようにペコペコと頭を下げ、ぶつぶつと何か言っている。
その様子にシキは何事かと首を傾げ、声を掛けた。
「何してやがる? さっさとやるぞ」
しかし、テキオは無言で口に人差し指を当て、「しーっ、今電話中っ」みたいなポーズで対応。
それが良くなかったのか、テキオの声は更に大きなものになった。
「だあぁっすんませんっ。マジでっ、はい、はいっ……確かに今の仕草はバレるっすね、はい……本当にすいませんした。秘密がバレないよう、消すか気絶させるんで、はい……」
本人は声を潜めているようだが、普通に聞こえている。
これにはシキの熱も鎮火していき、携帯のないこの世界では懐かしい仕草と独り言で何となく察してしまった。
「帝国に通信能力を持った奴が居るな? 《念話》は魔物とか魔族専用らしいから何らかの固有スキルか……。んで、斬り込み隊長っぽいお前がペコペコしてるのを見るに、そいつは偉い奴だ。まさかさっき宣戦布告してきたイカれ女帝じゃないだろうが……」
と、そこまで言ったところでテキオが再び固まった。
「……ビンゴかよ」
興奮が完全に冷めてしまった。
何とか対応出来る程度の面白い敵だったのに、ここまでマヌケだとつまらない……といった感じだ。
そんなシキに、テキオは気まずそうにチラチラ視線を向け、「はい……確かに伝えます……」と言って向き直る。
「あー……何か色々バレたから伝言預かったぜ。『私と同じ性を持つ人。早くその男を倒して上がってきなさい。見事、私の前まで辿り着ければこの女帝ルゥネ=ミィバが直々に引導を渡してあげます』だとよ。まさかこの距離でも繋がっていたなんて……とほほ……」
味方、しかも最上位に位置する上司からのあまりの言い分にガックリと首を落として落ち込むテキオ。
しかしというか何というか……。
女帝からの伝言を聞いたシキは仮面の形状を変えて口元を露にすると、ニィ……と口角を上げて答えた。
「ならこう伝えろ。今さっき邪魔されたお陰で、その男とやらをぶちのめす策を思い付いた。首を洗って待っていろ、とな」
「……へぇ」
未だルゥネと思考が繋がっていたテキオは目を細め……同時に伝わってくるルゥネの歓喜や愉悦に似た感情に身震いした。
文才がないせいで短くまとめられないっ、けど楽しいっ。難儀だ……




