第165話 騙し討ち
脳みその調子が悪くて駄文多めに……すいません。
後、微グロ注意です。
「聞いてないぞシキ殿ッ!! あの反応に貴殿の返答っ! 友人か知人であろう!? 何故言ってくれなかった!」
無線を使う余裕すらなかったのか、降下してきた俺を非難するように撫子が怒鳴り付けてきた。
『煩ぇ、訊かれてねぇ、俺も気付いたのは殺してから、知り合いだろうが敵は敵……好きなのを選べ』
『す、全て本音か……! くっ、無駄な殺生をしてしまった……拙者が貴殿を殺さないのは保身だとでも思っているのか!? 貴殿は聞いていたような悪人ではなかった! だからっ、それが無駄な殺生だと思ったからでござる! それを貴殿はっ……! ムクロ殿の想いも踏みにじった! 止められた筈なのに、何で!』
怒っている。
俺の返答と俺の知人を殺させたことに。
俺を追って緩やかに上昇してくる撫子の顔は見たことないほど、怒っていた。
普段のふざけた態度や戦闘時の鋭い目付きとはまた違う。怒気が強い顔だ。元が美人なので、それが歪むほど怒るってのは少々怖い。というより引く。
かといって。
俺が態度を改める理由にはならない。
『あーあー……煩ぇなァ……道徳の授業なんざ何年振りだぁ?』
痒くもない耳を掻いて見せ、更なる怒りを煽ってやると、撫子は面白いくらい顔を歪めて激昂した。
『貴っ……様……!』
いつもの口調が完全に崩れている。今にも攻撃してきそうな感じだ。
――良いねぇ、マジギレしてて。お陰で元クラスメート達が仲違いを疑ってくれた。
撫子は勘が良い。多分、視線をずらせば俺の意図を汲んでしまう。
故に視線は撫子に固定したまま。意識だけを元クラスメート達に向ける。
幸か不幸か、あるいは本格的に馬鹿なのか。
元クラスメート達は既に半数以上殺されているにも関わらず、動きを止めている。
見ることも出来ない上、感知系スキルもないからよくわからないが、視界の端に居る奴等はその場で浮遊しているだけで攻撃してこない。
その理由は――
「――あれは黒堂君だよ! 間違いない!」
「だ、だから何だってんだよ! 皆あいつらに殺されたんだぞ!」
「話せばわかるって言うの!?」
「もしあいつが黒堂だとしても稲光君の親友を気取ってヘラヘラしてた陰キャでしょ!? あんな奴、どうってことないわよ!」
「稲光と癒野さんのこと訊いたとこで答えてくれるとは限らないしな……早瀬だって一緒に居ねぇし」
視線は固定、武器も下ろし、何の気無しに上昇してきたと装ったことで、元クラスメート達の会話が聞こえる程度には近付けた。
「で、でも、あの時のクラスメートだもんっ! 彼はマナミの友達でもあるの! 殺しちゃダメ!」
「そのクラスメートが殺されてるんだって! いい加減、黙れっ!」
「今更陰キャ一人出てきたからってガタガタ抜かしてんじゃねぇ! どうせあの野郎は俺らを妬んでたんだ! 図体と態度だけデケェだけの無口陰キャがよぉ!」
「し、しかしな……あいつにも事情があるとも考えられる。落とし前は付ける。が、それでも話し合いくらいはしても良いんじゃないか?」
「はあ!? テメェまで何言ってやがる! お前は少しでも情報を教えてっ、テメェは黙って攻撃しときゃ良いんだよっ! クソっ、次は俺らかもしんねぇってのに……!」
「ちょっと! あんたら喧嘩してる場合じゃないでしょ!?」
「そ、そうだよ! こんな時に喧嘩してちゃっ……」
逆の立場なら俺と同意見の奴も何人か居るが、マナミの友達の錯乱と根本にある怯えから攻撃の手が止まっている。
「痛いっ……痛いよぉ……!」
「腕がっ、俺の腕っ……右手があああっ!!」
「い、今治療するからっ、落ち着いて! 落ちないように意識を集中! 落ちなら怪我じゃ済まないよ!」
「っ……」
ハルドマンテの砲撃と俺達の奇襲によって腕や脚を失くした奴等の発狂具合も良い感じに恐怖を煽ってくれている。
つくづく良い感じに隙だらけだ。
撫子の怒りが本気なのも良い。
お陰で本気の仲違いに見える。
「人が折角良い気分だったのに……俺がどういう性分で、どういう性格なのか知ってんだろ……? なぁ、撫子……!!」
如何にもつまらなそうに、如何にも怒りを覚えたように。
爪長剣で肩をトントンと叩きつつ、静かに語気を強め、そう《演技》してやると、撫子は途端に怒気を収め、悲しそうな顔で訊いてくる。
「っ……戦闘狂め、こんなことの何が楽しいのかっ……」
良いね。
素晴らしく良い。
良い演出、良い状況だ。
仲間からの制止、咎める良心、恐怖。
根元の恐怖が思考力を下げさせ、幾つかの偶然と日本人らしい良心が攻撃の手を止めさせている。
戦意喪失している奴を除き、健在なのは残り十人。
これならもう少し……
――殺れるッ!
全てさりげなく、自然に。
先程の《演技》で矛を納め始めた撫子を利用し、「それともテメェが代わりに殺り合うかァッ!?」という自分でも狂ってると思う発言の最中に出来る限りの速度、威力で、俺は爪斬撃を飛ばした。
数は爪三本分。
自然に高度を合わせ、自然に近付き、自然に腕を振った。
――何度かやったことのある攻撃ではあるが……この奇襲攻撃は良い。ちょいと演技するだけで的確なダメージを与えられる。この瞬間には攻撃されないだろうとかそういう意識すらない……意識の外からの攻撃ってのは見えねぇんだよな。
そんな、俺の感想は置いといて。
視線を向けるまでもない初動。
まるで頭を掻くように、肩でも竦めるように自然な動作で飛ばされた斬撃は撫子の意識すら欺いた。
目の前で振られた俺の腕を見て、まさかという顔で俺の目を見て、全てを悟ったのか、更に顔を歪めさせて振り向く。
俺の視界にはその結果が見えていたが、撫子にはショックだろう。
そこには嫌いだと言う無駄な殺生が終わり、新たに出来上がった三人の死体がゆっくりと落ち始めているのだから。
「「「え?」」」
「「「は?」」」
と、いきなり首や胴体、下半身が斜めに切れ、噴水のように血飛沫を噴き出した三人とその他七人が同時に似たような反応で互いを見つめる。
やがて訳もわからずに落下していくその中には誘導の固有スキルを持っていた女子と回復魔法で治療に当たっていた女子も居た。
「ふむ。大当たりってとこかな」
「~~っ……!! 謀ったなッ!?」
阿鼻叫喚に陥りつつも継戦体勢に入った元クラスメート達をよそに、撫子が再度激昂する。
「シ○アってか? クハハハッ!」
そう、思わず笑ってしまった。
「こ、これも全て演技だったというんでござるか……? 拙者を怒らせるような言動も彼等の油断もっ、全て……! 貴殿は何処までっ……ええいっ、拙者はもう手伝わぬ! ほとほと呆れ果てた! 先行させてもらうでござる!」
何処かムクロを思わせる憂いと悲しみを含んだ顔でこちらを睨んだ撫子には宣言通り呆れも確かにあったのか、もう知らないと言わんばかりに踵を返すと、エアクラフトのスラスターを全開にして敵戦艦の方に飛んでいってしまった。
争い事を嫌うムクロや無駄な殺生が嫌いだと言う撫子には俺のような戦闘狂を理解することは出来ないんだろう。
別に理解してほしい訳じゃない。ただ俺から言わせれば強者の部類にギリ入る奴がまだ成長途中の奴を騙し討ちするという過程が気に食わないなんて、それこそ強者故の傲慢だ。
ジル様の素材を使った装備がなきゃ大して戦えないギリ強者(笑)の俺には到底、理解出来ない。
知り合いだろうが敵は敵。圧倒的強者でなくとも、油断ならない相手に変わりはない。要は勝てば良いんだからな。過程ややり方なんて問題じゃない。
「ったく、馬鹿が。……で? こちらは一人離脱したとはいえ、そっちは1/3以下。まだやるか?」
吐き捨てるように悪態をついた俺は改めて元クラスメート達と対峙した。
一応、戦闘経験はあるのか、取り乱してはいても武器は構えている。
エアクラフトを使っている俺とは違い、魔力消費量の多い魔粒子装備で滞空し続けられている点も、やはり油断ならない。
撫子も数人殺した。撫子という強者を利用しても数人殺した。
冷静なら撫子ではなく、俺に友人達の殆どが殺されているという事実に気付けそうなもんだが……
「てっ……んめええぇっ!!! よくもっ! よくもぉッ!!」
「いやっ、死にたくないっ、死にたくないよぉっ……誰か助けてぇ!」
「あっ……あっ……し、死んだ……皆、死んだ……お、俺……俺は……」
ま、無理だよな。
相変わらず根っこの恐怖が冷静な思考力を奪っている。
目先の〝死〟や怒りに囚われるのも無理はない。
二人の陽キャ男子は激怒といった感じで怒鳴ってきているし、ギャルみたいな陽キャ女子は半べそ状態。盾持ちはタンク要員ということで責任を感じているのか、絶望している。
マナミの友達の鑑定女子は放心しており、残った二人は……よくわからない。厳密に言えば陽キャ男子グループに居たような気がする男子一人は汗をだらだら垂らして震えていて、もう一人……ちょっと記憶にないが、見たことあるような、ないような顔の黒髪セミロング女子は唯一冷静にこっちを見つめているような感じだ。
他の欠損レベルの怪我を負っている奴三人は泣き喚いていて何を言っているのかすらわからない。
先ず戦闘不能だろう。
生存者は全部で十人。内、まともに動けるのは七人。
厄介な誘導と操作は死んだ。場所特定の固有スキルを持った根暗女子もしれっと腕が失くなって発狂している。
盾持ちと鑑定を除き、残り五人の固有スキルが不明だが、何とかなる差ではないだろうか。
「まだやるのかと訊いている」
「こ、この野郎っ、ぶっ殺してやるッ!!」
「よくも皆を殺したな!? 俺達友達だろうが!」
「黒堂君……な、何で君が……」
血涙すら出そうな勢いで剣を構える奴は兎も角、一言も話したことのない陽キャ男子とマナミの友達が好き勝手言ってくる。
怒りは湧かないものの、また油断してくれるかなぁと軽い願望と休憩がてら仮面を外し、魔力回復薬を飲む。
「やっぱり!」
「け、けど角生えてるぞあいつ! 本当に黒堂かよ!?」
「魔族っ……テメェっ……!」
いや、角より魔力を回復されてること気にしろよ。距離二十メートルも離れてねぇだろ。
と、各々色んな反応をする奴等に強く思った。
まあ、冷静に考えると実に一年以上ぶりに再会した元クラスメートが角生えてたらビビりはするかと納得もする。
「……はっ、何が友達だ。俺はお前らの名前も覚えてねぇ。お前らは? 俺の家族構成、友人、趣味を知ってんのか? クラスメートなら友達って理論は底抜けのバカの発想だ。それとも何か? 武装して戦場に居るけど、話し合いに来ましたよってか」
「っ……だ、だからって何も殺さなくても!」
マナミの友達が怒ったように反応した。
――今見せた演技が効いてんのか、それぞれ俺の目線や手元に集中してやがる……こりゃ二度目は無理だな。
内心で冷静に判断しつつ、まだ話し合いで解決出来ると下らない妄想をしていそうなバカに返答する。
「お前はマナミの友達、他はライの友達だったな。あの二人ももう知っているぞ。生き残った敵の恐ろしさを」
「ち、違うよ! 話し合おうともしなかったことを言ってるの!」
「お前は他国に侵略してきた、たかだか一年前後の付き合いしかない知り合いに態々『やあこんにちは。何の用だい?』なんて訊くのか? 理由はどうあれ武器持って戦場に居る時点で、お前達は侵略者だ。なら間違っても酷いとか友達だろ、なんて反吐が出るようなことは言わないと思うんだがな」
今度こそ元クラスメート達は押し黙った。
大方、脅されて出てきたんだろうが俺の言うことも事実。
大量殺戮や他国への侵略に加担しようとしていた自覚はあるんだろう。
――さて、どう攻めたものか……もう騙し討ちには引っ掛かってくれそうにないし、かといってこいつらも壊滅的な被害を受けている。未だに固有スキルを使わないってことは残った五人は戦闘向きじゃないんだろうし……
悩む。
俺の中に付いた黒い炎は「良いから黙って皆殺しにしろ」と囁いているし、冷静な部分は各個撃破が理想と言っている。
「んー……興奮も冷めてきたしなぁ……」
なんて悩んでいると、俺の知覚範囲に起きた二つの変化に気付いた。
一つ目は唯一落ち着いていた記憶に薄い女子。
そいつの顔と身体、武器や防具がぐにゃぐにゃと変形している。
幻覚の固有スキルを疑い、自身に【抜苦与楽】の検索を掛けてみるが何もヒットしない。
それどころか、段々姿形が確かなものになってきて、見覚えのある茶髪ポニーテールと和服、刀、エアクラフトが現れ始めたので、少々驚いた後、納得する。
「見た目だけでなく装備までの変化……変幻自在とかそんな感じか? なんてチートな固有スキルだよ……」
少しすると、完全に今さっき隣に居た撫子と瓜二つの存在となってしまった。
流石に武器やエアクラフト、魔粒子装備といった別のエネルギーを生み出すものまで創造変化するとは恐れ入った。
もう一つの変化はテストと称してこの戦闘を見守っていたあの無精髭のオッサンだ。
攻撃の意思はないようだが、近付いてきている。
思考系スキルを使って意識を分かれさせつつ、撫子が別格だと判断した例のオッサンの方を見る。
ボサボサ頭を靡かせ、欠伸を噛み殺したような顔でこちらに向かっていた。
――一キロ以上は余裕で離れていた筈なのに、もう姿が見える距離に居やがる……何なんだあの馬鹿げた速度は……。
元クラスメート達同様、奴も魔粒子装備だけで飛んでいる。
しかし、この速度……見える範囲だけでも魔粒子の放出量が尋常じゃない。恐らくスキルとか魔法じゃなく、単純な加速だけで移動してきている。
真打ち登場と言わんばかりに撫子に変身した元クラスメートといい、まだ終わってないというのに近付いてきているオッサンといい、実に不可解で、厄介だ。
これは死ぬかもな……と、冷や汗のような嫌な予感が脳裏を過る。
「皆、あいつはウチらを殺す気だよ。ウチが頑張って戦うから皆も手伝って。幸い、隊長も来てくれてるし……」
撫子の声と姿で言い、抜刀の構えをとる元クラスメート。
ハッタリじゃなければスキルまでコピーしている可能性も出てきた。
「いやはや……こりゃ参った」
撫子が居てくれれば何とかなったかもしれないが、あの女はもう遥か彼方だ。
別格と化け物、他固有スキル持ちと戦わなきゃならないとは本格的に選択を間違えたようだ。
だがまあ……たらればの話をしてもしょうがない。
覚悟を決めるか……。
俺は最初から説明してりゃ戦ってくれてたかも……なんて未練を捨て、戦闘狂としての破壊、暴走衝動ではなく、いつしかの〝死〟の恐怖を忘れた〝無我の境地〟とも呼べる状態にシフトする。
――あの時の……全ての光景がゆっくりになって、思考がクリアになるゾーン状態とはまた違った、あの感じを思い出せ。ライの【明鏡止水】のイメージ……
あの時は聖軍に囲まれ、死にかけていた。
まだ怪我もしてないが、今回も同じだ。逃走は恐らく不可能。
つまり……勝たなきゃ死ぬ。
「……………………」
オッサンが来る頃には完全とまではいかなくても、極度の集中状態になっていた。
「おーっすって……ありゃあ、こんなに減っちゃってまあ……」
「た、隊長っ、遅いっすよ! 何やってたんすか! 皆っ、皆殺されてっ……!」
「わかったわかった、泣くなよ怠いなぁ……生き残れたことを喜ぼうぜ」
一人が泣き出すと、他の奴等もダムが崩壊したように泣き始める。
泣いていないのは撫子モドキとマナミの友達だけだ。現実が見えているのか、鋭い目付きで睨んできている。
「見てるんじゃ、なかったのか?」
集中を切らさないよう細心の注意をしながら、オッサンを見る。
まだ不慣れな俺には少し……いや、かなり難しい。
気を抜けば直ぐに解けちまう。
――けど、良いなぁこの感じ……やっぱ殺しあいってのはこうでなくちゃ面白くない……そう、そうだよな……!
そう思った瞬間、オッサンと目があった。
視線で俺の思考が伝わったのか、オッサンは両腕を擦って悪態をつく。
「うへぇ……お前、戦闘狂かよ……うちの姫様みたいな目ぇしてんぞ。あぁ嫌だ嫌だ……何でこんな怠いことが楽しいんだよ……」
薄気味悪い、とでも言いたいのだろう。
その声には呆れも多分にあったが、「理解出来ない」という恐怖がとても強く乗っていた。
しかし、かと思えば気怠そうな顔を軽く締め、両手を上げる。
「ん……ちょっとたんまな、仮面の兄ちゃん。テストは終わりだ。約束通り、俺と戦ってもらう。こいつらは撤退させるから見逃してやってくれ」
「なっ!? 何でだよ隊長! 俺達も手伝うぜ! あいつ、普通じゃねぇよ!」
「そうです。幾ら隊長でも一人では……」
まだ戦い足りないらしい陽キャと撫子モドキが意見すると、オッサンは大きな溜め息をついて言った。
「悪い、兄ちゃん。後出し後出しで悪いんだけど、実は姫様からそこの変身娘だけは守ってくれとも言われてるんだわ。だからこの通りっ、見逃してくれや」
初対面の時と同じように両手を合わせ、頭を下げてまで謝るオッサン。
友人を殺した俺に対してそんな態度をとられてしまっては元クラスメート達も黙っていない。
「ち、ちょっと隊長さんっ、マジで言ってんの!?」
「俺達、あいつに酷い目に遭わされたんすよ! 見てくださいよこいつらの怪我!」
「うぅっ……私の手がっ……まだ何もしてない、のにっ……ぐすっ……」
ギャルと陽キャ男子が信じられないと、これみよがしに右腕が吹き飛んだらしい女子が鼻水やら涙やらで顔をぐちゃぐちゃにしているのを指差す。
が、オッサンはそれを遮るように腰のポーチから大剣を取り出した。
光景としてはかなり異質だが、マジックバッグとはそういうものだ。
オッサンは軽装の防具だけの手ぶらだったので、回復薬や他の道具、武器も持っているのだろう。
「ったくもー……かったりぃなぁ……」
何度目かの溜め息を吐きつつ、そう言った直後。
まるで先程の俺の攻撃を再現するように滑らかに大剣を振るった。
片手で雑に振られたその大剣は泣き喚いていた女子に当たり、その女子の顔にめり込み……いや、違うな。その女子の顔が潰れた。
〝無我の境地〟に半ば達していたからか、その様子が手に取るようにわかった。
思わず目を瞑りたくなるような風切り音と共にグチャァッと人の頭部が潰れる音が響き、遅れて弾かれたように血と肉、骨に脳髄と一緒に首が潰れた死体が吹っ飛んでいく。
「へ?」
「は?」
「た、たい……隊……長……?」
上司? が友人を叩き潰して殺す、というまさかの光景に元クラスメートは絶句。
俺は戦闘態勢に入る為、首をコキコキ鳴らして準備運動をし、爪長剣を構える。
「姫様が言ったろ? 弱肉強食なんだよ、この世界は。何もしてねぇのにやられたとか死んだんじゃねぇ。お前ぇらが弱いから死んだんだ。それからお前ぇらがウザかったから今のガキを殺した。ほら、さっさと失せろ。この兄ちゃんの相手は俺か姫様じゃねぇと勤まんねぇよ」
そう言って、あちらも準備運動代わりなのか、小枝でも振るように軽々と大剣を振り回して見せるオッサン。
その大剣は俺が過去に使っていたものと同じくらい巨大で長い。一メートル半は越えている。
――撫子モドキを逃がしたいのは本音で、他の奴もそこまで殺られるとは思ってなかったから撤退させたかった……か? ……にしても強いな。成長途中とはいえ、異世界人を一撃で……しかもあのデカさの大剣でこの剣速……少なくともアリス以上……ジル様レベルのステータスはあるか……
痺れるような強さだ。
戦闘態勢に入らないと真面目になれないんだろうが、考え方も好感が持てる。
絶句したまま動かない元クラスメート達を横目に目を細め、いつでも動けるよう半身にしていると、オッサンは大剣を肩に乗せて言った。
「んじゃまっ……やると、しますかぁ!」
次の瞬間、俺は途轍もない衝撃に襲われ……
気付いた時には地上に向かって落下していた。




