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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第4章 砂漠の国編
175/334

第164話 シキ&撫子VS異世界人

長いのとグロ注意。



「うぅっ、こ、怖いよぉ……」

「何なのよあの子っ、女帝だか何だか知らないけど、年下のくせに! 何で私達が戦争なんて!」



 単純に自身が浮いている高さに怯える者、自身を戦争に参加させたルゥネに激怒する者。



「よ、良かったのかな……やっぱりオタクグループと一緒に逃げた方が……」

「逃げ切れたかどうかもわからないだろ。もしかしたら殺されてるかもしれないぞ」

「実際、召喚された時、見せしめに何人か殺されたしな。まあ、今となったら無駄に反抗したあいつらが悪いと思うけど」



 あるいは自身の置かれた状況に危機感を覚える者。



 戦場に連れてこられたシキやライ、マナミの元クラスメート達の心中は様々だった。

 気の弱い者は震えていたり、泣いていたりと経験の浅さが窺える。



「は、ははっ……お前らビビってんのかよ! いつも通り、魔物殺すのと変わんねぇだろ!」

「そうそう! それに帝国の奴等は俺達を召喚したんだぜ!? 自分達でどうにも出来ない何かがあったから呼んで戦わせようってんだ! 危なくなったら助けてくれるって!」

「いざとなったら俺達が守るからさ! 女子は身を守ることだけに集中しとけよな!」



 クラスカーストで上位だったか、ステータスに恵まれたのだろう。緊張や怯えに近い感情こそ見え隠れするものの、何処か見下すような視線を仲間に向けながら威勢の良いことを言う者も居た。



「そんなの当然でしょ!? 男子なんだからウチらのことしっかり守ってよねっ!」

「だ、第一っ、あの時、イナミ達が神隠しにあった交差点に行こうって言ったのはあんた達じゃんっ! あんた達のせいでこんなことになってんだからね!? 偉そうに言うな!」


 

 と、中には噛み付く者まで出てくる。



 言い合いや愚痴大会になっても魔粒子装備であるブーツやスラスターを使って静かに滞空し続けられる所以にはルゥネらの技術以前に彼等に才能や素質があることが挙げられるだろう。



 シキや撫子のものよりも上等で、使い勝手の良いものとはいえ、無意識下でも使いこなせている。



 しかし。



 彼等は――







 ◇ ◇ ◇



『ここが戦場であることを忘れていた……いや、まさに地に足が付いてなかったんでござろうな』



 移動中、蟻のように小さい影である異世界人と帝国兵が散り散りになる様を見ていた撫子が小さく呟いた。



 小声ではあったが、無線を使ったということは会話の意思の表れ。

 俺は半身の体勢をキープしたまま軽く視線を横に向ける。



『話してばかりでこちらに気付いていなかったし、何より……()()。立ち振舞いや動きからして、経験の浅さが透けて見える相手でござる。ま、成人はしてるでござろうがな』



 この世界での成人。つまり十五以上。さっき俺と同じくらいとか言っていたから大体、二十歳以下……日本人なら学生か。



『ならやっぱアレだな』



 うんうん頷きながら決めた俺に撫子が首を傾げてこちらを見てくる。



『アレ?』

『殺し合いに不慣れな相手はビビらせるのが一番だ。恐怖や怯えってのはそいつのパフォーマンスを殺し、伝染するからな。じゃあ、戦場でそいつらみたいな素人をビビらせるのに最も適した手は?』



 ニヤつきが声に乗っていたのか、げんなりした顔で返してきた。



『……貴殿はろくな死に方しないでござろうな』



 だろうな。俺もそう思う。



 そう返答した俺は地上からの砲撃に慣れつつある敵目掛けて加速を続けた。












 数分後、撫子の言う素人異世界人に動きがあったらしい。

 暫く黙って先を見据えていた当の本人が「むっ」と声を上げた。



『こちらに気付いたようでござる。この速度なら……後二分くらいでござるか』

『だな』

『方針は先程言った通り?』

『ああ。先ずは俺が切り込む。お前は出来るだけスキルを温存しながら戦ってくれ』

『承知』



 戦闘向きのスキルを多く持っている撫子やアリス、ライに聖騎士ノア、レーセンのようなタイプの最大の弱点はスキル頭痛だ。

 幾ら多彩な手札を持とうとも、使用限界であるスキル頭痛が来てしまえば何も出来なくなる。



 ジル様に「限界を知っとけ」とか言われて何回か経験させられたが、あの痛みだけはどうしても我慢ならない。

 本当に頭が割れるんじゃないかってくらい痛い。まるで脳ミソを直に掻き回されたみたいな……そのくせ、少しすれば治まってくる。



 まあ、逆説的に限界やスキル一つ一つの負荷具合さえ把握していればどうとでもなる訳だが、【一刀両断】のようなチート固有スキルを持っている奴は体力も合わせて温存しておくに越したことはない。



「『こちらシキ。砲撃をエアクラフト隊の方に集中。敵と味方、間違えるなよ』……へぇ、確かに若々しい感じがするな。間違いなく学生だ」



 気付けば遠目に敵の姿形が見える位置まで来ていた。



 鹵獲改修したハルドマンテの砲撃によって隊列は乱れており、中には腕や脚が千切れて泣き喚いている奴も居る。

 治療している奴も回避運動をとっていた奴も、何処か動きが鈍い。



 明らかに戦い慣れしていない奴等だ。

 何と言うか……怖がってる、緊張してるってのが伝わってくる。



 内心ラッキーだな、とほくそえんだ俺は徐に腰のマジックバッグから閃光弾を取り出してピンを外し、同郷の奴等に向けて思い切り投げ付けた。



『っ! タイミング!』

『合わせるでござる!』



 俺がショウさんから大量に似た類いの兵器を得ていること、俺がそういったものを好んで使うことを知っている撫子は俺の言葉に短く答えると、上昇を開始。向こうにとって太陽の光の中に隠れるような位置どりに移動した。



『あっ……お前らも眩しいぞ! 気を付けろ!』



 もう既に帝国兵と戦い始めているであろうエアクラフト隊に注意を呼び掛けるとほぼ同時に閃光弾が炸裂し、思わず『悪いっ、忘れてた!』と謝る。



 眩く、目が潰れると錯覚するほどの強い光が周囲を照らし、『おいコラシキっ!』とか『ぎゃあああっ!』とか『殺す気か! こっちはもう戦ってんだぞ!?』とか色々返ってきた。



 多分大丈夫だろう。……そうだと思いたい。



 先に言っときゃ良かった、なんて後悔しつつ、両腕で顔を覆ったり、悲鳴を上げている異世界人に爪斬撃と爪長剣の刃をお見舞いする。



「んぎゃっ!」

「ぐがぇぁっ!?」



 無防備だった二人に斬撃が直撃し、三つに分かれた男の身体と女の生首、胴体が落ちていく。

 ついでにもう一人、すれ違い様に爪長剣を当てたが、こちらは悲鳴すら上げずに口から上の部分が飛んでいった。



「ん? 今の奴、何処かで……」



 頭部を失った男の身体が力なく落下するのを横目に、何処かへ飛んでいった頭部を目で追ったところで、剣や槍、杖をやたらめったらに振り回し、取り乱している異世界人達が知り合いであることに気が付いた。



「くっそ! 何だよ今の!」

「目がああっ……! 痛いっ、見えないよぉっ!」

「それより変な声聞こえなかった!?」

「何が起きてっ……だ、誰か教えて!」



 最早思い出すこともなかった有象無象だが、よく見ればどいつもこいつも見覚えがある。



 とはいえ、俺が思考を止めたのは一瞬だった。



 戦場に慣れてないのか、俺達が召喚される前の元クラスメート達は三人の死人が出ていることにも気付いていない。

 ならばと続け様に爪と爪長剣を振るう。



「クハッ、何の因果なんだ……かっ!」

「ひぐっ!?」

「あがぁっ……!」



 更に二人。

 確か……ライの追っかけとその取り巻きの女だったか。ストーカーとまではいかないものの、やたらライの後を付けてきたり、一緒に居た俺にあーだこーだ文句垂れてきた仲良し二人組だったような……違うかな。



 短い断末魔と共にバラバラ死体落ちた頃、何人かの元クラスメートが現状を把握し始めた。



「おいっ! 何か少ないぞ! 何人か居なくなってる!」

「敵だよ敵! そこに居る!」

「い、いやああああっ!」



 男が四人に女が一人。

 それぞれ驚愕と恐怖で顔が引き攣っているものの、把握からの後退にシフトと、反応と行動が早い。



 その顔はおろか、苗字すら記憶にないが、うっすらとクラスの中心人物……っていうかライの友達という立ち位置で、発言力がそこそこあった奴等ってのはわかった。



 まあ、だからどうということでもないが。



『強そうなの優先で頼む』



 無線の魔道具でそう伝えた瞬間、驚きながらも後ろに下がった一人の元に撫子が降りてくる。



「っ!?」



 感知系スキルが働いたのか、最も反応が早く、俺から距離をとるという最善の策を講じた、剣道のような構えをしていた剣士は咄嗟に獲物で身を守ろうとし、獲物ごと真っ二つになった。



 地上で見せる神速のソレとは雲泥の差があったが、【一刀両断】によって衝撃が死ぬことなく獲物を斬れるので特に弊害はないようだ。



 撫子は降下と残心をしつつ、刀を振って血を落とすと鞘に戻し、ゆっくりと旋回している。



『言われなくともわかっているでござる。貴殿ほどの技術力はないでござるが、派手に暴れてくれればそれなりに働けるでござるよ』



 等と言いながら逃げようとしていた気の弱そうな陰キャ女子を後ろから斬った。

 俺の方も下手に狙いを付けられないよう動きながら斬撃を飛ばし、少しでも数を減らしに掛かる。



 と、ここで漸く視界が回復したor落ち着きを取り戻したらしい元クラスメート達がそれぞれの獲物を構え始めた。



「くっそおおおぉっ! 何人殺られた!?」

「う、嘘っ……さっきまでそこに居たのに何処行っちゃったのよぉっ!」

「何なんだよお前ら! い、いきなり攻撃してくるなんて卑怯だぞ!」

「ちょっと男子! さっさと守ってよ! 私、こんなところで死にたくない!」



 怒ったり声が上擦るほど絶叫したり怯えたりいやいや首を振ったりと忙しないが、バラバラだった隊列は揃いつつあり、互いの背中を守るように固まり出している。



 ――武器は剣に短剣、槍、杖、手甲……風に煽られにくいのばっかだな。珍しいのだと両手に軽盾を持っている奴と拳銃を持っている奴……それと素手。防具は魔物の皮製が多め、胸当てだけ頑丈にしている奴が殆どか。後はただの服かローブ……



 思考系スキルをフル活用し、数秒も掛からない僅かな時間で敵の装備を確認。次に顔や目の動きを見て出方を窺う。



 撫子も敵の武装や戦い方を確認してから戦うタイプらしく、俺と撫子は一塊になっている元クラスメート達を示し合わせたように囲って旋回を続けている。



『仲間の死で既に揺れているとはいえ、あまり冷静になれる時間を与えたくはないな』

『しかしな……どんな固有スキルを持っているのかわからない以上、下手に突っ込むのも難しいでござるよ』



 小さく会話しながら元クラスメート達の一挙手一投足を注視していると、放送に関する部活だったか、委員会だったかをやっていた奴が思わず耳を塞ぎたくなるほどの大声で叫んだ。



「反撃開始だあああああっ!!! 行くぞおらあああああああああっ!!!!」

「……うるせぇな」



 異世界人特有の無詠唱で大分遅めの反撃に出た元クラスメート達は各々が得意としているであろう属性魔法を自らの前に浮かし、あるいは飛ばしてきた。



 大方、ビビるくらい声がデカくなるスキルか固有スキルで俺達を硬直させ、詠唱無しの高速魔法連打で迎え撃ったつもりなんだろう。



 しかし、そこは俺達。



 俺は斬撃飛ばしと手甲で斬り、弾き、エアクラフトを回転させて躱し、身を捻ったりして全てを回避。

 撫子は俺ほどエアクラフト操作に慣れてないからか、大きく旋回したり、後退したりして躱すか、抜刀術で斬って防いでいる。



「ぜ、全部避けた!? 何なんだよっ……何なんだよあいつら! 俺達でも出来ねぇぞ今の!」

「良いっ! 黙って攻撃しろ! 殺されるぞ!」



 なんて言いながら散開しようとした元クラスメート達にも斬撃を飛ばして二の足を踏ませ、その内の幾つかに本命の斬撃を混ぜる。

 狙いは先程反応が早かった、面倒そうな奴等だったのだが、両手に盾を装備した珍しい奴……確かサッカー部でキーパーだった奴? が前に飛び出し、防がれてしまった。



「俺が防ぐ! 皆、攻撃は頼んだ!」



 流石は異世界人といったところか。魔法の属性は多種多様。数も多ければ狙いも良し。ホーミングしてくる『火』のボールには少し驚いた。



 今見せた防御力もだ。幾ら異世界人でも俺の斬撃は貧弱な装備で受け止められるほど弱くない。それを全て防ぎやがった。



 それに……見間違いじゃなければまるで誘導でもされたか如く、俺の斬撃が全てそいつの方に引き寄せられていたように見えた。



 ――盾持ちは完全防御特化……。後、あの中に攻撃を誘導出来る固有スキル持ちが居るな。そいつがちと厄介だが、態々味方に誘導したのは何かの条件か? 例えば何もない空間に誘導は出来ない、とか……



 改めてその脅威を目の当たりにした俺は目を細めて後ろから静かに、しかし、かなりの速度で迫っていた『火』の弾を手甲で弾いた。



「何処狙ってんだよテメェ! 早く当てろよ!」

「う、煩いなぁ! 今の見たろ!? 後ろも見ずに後退して、更に後ろからの攻撃に対応まで出来る奴にどうやって当てろって言うのさ!」



 一塊になっている中で何やら仲間割れしているチャラ男とチビの姿が見える。

 一人は自称陽キャ、もう一人は……記憶にないな。顔とあの背丈は見覚えあるからクラスメートなのは確かなんだが。何せ一年以上前のことだし、ここまで濃かったからなぁ……。



 苛々した様子でこちらを凝視していたチビを小突いた辺り、チビが今の魔法を操っている奴らしい。

 あれも固有スキルだろうか? と、以前見せてもらったヘルトの【百発百中】を思い出す。あれは一度ターゲットした相手に投擲や射撃といった物体を飛ばす動作に対して必ず当たるという補正が付くものだ。弱点として、あまり離れると飛来速度が死んで、ただコツンと当たるだけになる。



「集中しろ集中!」

「してるってば! これ結構難しいんだから黙っててよ!」



 ……喧嘩の内容的に必中というより操作に近いんだろうな。馬鹿丸出しで笑える。



「こんな時に喧嘩は止せって!」

「そうだよ! そういうのは終わってから! それより、あの侍みたいな女の人ヤバイよ! 幾つも固有スキル持ってる!」



 仲裁の声と少々気になる発言が聞こえたものの、残念ながらそちらの方を見る余裕はなかった。



 属性魔法を撃ちまくれば時間稼ぎは出来るということに気付いたようで、雨のように飛んでくる上、中には銃弾もある。

 魔法は兎も角、風の影響を全く受けず、少しも遅くならない速度で飛来してくる銃弾がウザい。



 色鮮やかな属性魔法で創られた、ありとあらゆる属性の弾、槍、壁の中を隠れるようにして飛んできて、特に『火』や『土』の壁を貫通してこられると視界が阻害されていることもあって気付きにくい。



 『無』属性魔法の『強化』にしては威力が低い。これもスキルか固有スキルによるものだろう。地味な力だ。



 奴等を真似するようで癪だが、撫子と合流し、俺が属性魔法、撫子が銃弾を担当して防ぐことで何とか無傷で済ませる。



「何っ!? 勇者か!」

「効果からして【一子相伝】っていうのと【鶏鳴狗盗】っていう固有スキルのお陰だと思う! 強力なのは【一刀両断】! 付与型っ、一度だけ何もかも斬れる! 後は【無病息災】っ、病気とデバフ無効! 『再生』も持ってるから勝手に回復するよ! ステータスはっ……うわっ、平均8000前後もある! っていうか日本人みたいな名前なんだけど!」

「ええっ!? マジでチートじゃねぇか! そんなビックリ人間、どうやって勝つんだよそんなの!」



 隣に居る撫子が苦い顔をしているのがわかる。

 最も面倒な鑑定系のスキルを持つ奴が居るらしい。女の声だ。



 二人で迎撃と回避をしつつ、チラチラと視線を向ける。



『むぅ、固有スキル持ちが集まるとこうも厄介か……』

『お前が言うなビックリ人間。……つってもやっぱ本領発揮されると不味いな』



 会話しながらも、エアクラフトで速度を落とさずに回避運動と魔粒子装備での体勢補助、斬撃飛ばしは忘れない。



『これ以上手札を見られるのも面白くない。ここは一度離れて……』



 と言ったところで、半径十メートルはあるであろうバカデカい『火』の玉が出現した。



『『なっ!?』』

 


 『火』の玉は元クラスメート達の頭上に浮いており、尚も膨れ上がっている。



 依然として続いている攻撃を防ぎつつ、それを創造している魔法使いを探していると、ローブの上から魔粒子装備を付けているという妙な格好の女子三人が両手を合わせているのが見えた。



 そして、その女三人の手に触れているのは先程のチビ。



 ほんの少しではあるが、ゾッとした。



『アレを操作出来るのか……!? 撫子っ、ありゃあちょいとキツい!』

『わかってるでござる! ギリギリまで引き付けて拙者の《縮地》で離脱っ、これしかなかろう!』

『ええいっ、面倒なっ!』



 斬撃を飛ばして妨害を試みてはいるのだが、如何せん敵からの攻撃が多すぎる。

 避けて防いで、更に魔法創造を中断させるほどの攻撃にまではどうしても意識が向けられない。

 


 俺の攻撃は相変わらず誘導している奴と防御特化の盾持ちによって全て防がれてるし……



『やはり距離をとる! 完全に立て直された! 一時離脱して再度奇襲! 戦い方も変える必要がある!』



 後方から迫ってきた『水』の槍を、体勢を魔粒子ジェットで固定し、エアクラフトのスラスター操作を巧みに操ることで身体ごと回転して回避。同時に真横から来ていた幾つもの『土』の岩石の飛礫と『風』の斬撃は進行速度を上下させ、身体を捻ったり、反らすことで避ける。

 最後(と言ってもまだ後続の魔法は飛んできているが)の『火』の壁はエアクラフトを持ち上げるように急遽、縦旋回して躱した。



 撫子の方は俺より数が集中していたからか、俺から離れ、防げるものは防ぎ、避けれるものは避け、どうにも出来ないものは左腕や脚を当てて被害を最小限に留めている。



「「「よしっ、出来たよ皆! いっけーっ!!」」」



 そうこうしている内に、とうとう巨大『火』の玉が完成したらしく、こちら……俺と撫子の中間辺り目掛けて飛んできた。



『狙いからして爆発すると見た! 撫子っ!』

『拙者のエアクラフト、頼んだでござる!』



 邪魔をしない為か、これで終わりとでも思ったのか、他の攻撃が止んだ。

 その隙に俺と撫子は互いの方に向かって急加速。丁度、『火』の玉が向かっていた空間だ。



 離れていても巨大だったが、近付いてくるとなると更に大きく見える。

 全長は四十メートルくらいあるんじゃないだろうか。



 妙に冷静に『火』の玉を睨みながら撫子と合流し、互いに逆噴射を掛けて緊急停止。撫子と自分のエアクラフトを急いで腰のマジックバッグに収納する。



「はは! 何だあいつら! 一緒に死ぬ気か!?」

「油断しないっ! 何するかわからないでしょ!」

「黒仮面の方はどうだ!? 奴も強力な固有スキルを持ってるとか!」

「ううんっ! 全然っ! あの人、武器と防具は強いみたいだけど、戦いに直接使えるスキルは殆どないよ! 《狂化》と《金剛》、《咆哮》だけ! ステータスも結構強いけど、攻撃力特化の狂魔戦士だし、名前も普通の日本人でっ……え……?」



 こんな時に見ている暇はない。



 そうわかっていても、聞こえてくる会話の方向をつい見てしまった。



「黒堂、優って……え? こ……黒堂……君……?」

「何だって!?」

「う、嘘でしょっ!?」



 一般的に鑑定系のスキルは覗ける距離が決まっている。



 今は既にその距離を大きく越えている筈。



 にも関わらず、『見』られた。



 声は周りの奴以外殆ど聞こえなかったが、そいつらの反応からして確かに俺の名前を口にした。



 脳裏に鑑定系の固有スキルの存在が過る。



 間違いない。この距離、情報量……固有スキルだ。



 あの女、あいつと……マナミと話しているのを見たような……?



 バレーボール部だかソフトボール部だかに所属していて、教室でかなり騒いでいた女……。



 記憶違いじゃなければ、何回か話したことがある。



 ライとの仲に嫉妬した奴等による悪態やら暴言やらが多い中、珍しくライに惚れてなくて、俺とも普通のクラスメートとして接してくれた奴……だった気がする。



「シキ殿っ! 早く掴まるでござる!」

「っ、ああ!」



 刹那の思考とはいえ、撫子に急かされた俺は素早く彼女に肩に掴まった。



「少々っ……痛いかもでござるよ!」

「わかっているっ!」



 そんなやり取りの間にもチリチリと顔が焼けるような感覚が襲ってきている。太陽の暑さじゃない。



 気付いた時には何やら驚いていた元クラスメート達の姿はなく、視界いっぱいに広がる『火』の玉の後ろへと消えていた。



 《空歩》を使い、一瞬だけ何もない空間を踏んだ撫子は《縮地》で、更に上空へと逃げる。



「ぐうううっ……!!」



 撫子の背中に掴まっていた俺は上昇する撫子の身体と空気抵抗に挟まれて腹が潰れ、思わず苦悶の声が漏れた。



 しかし、その甲斐あって『火』の玉は俺達が居た場所を通り過ぎ……



「上だよ!」



 という声が聞こえたと思った次の瞬間、クイッと向きを変えて追尾してきた。

 チラリ、と視線を横に流す。元クラスメート達の中に一人こちらを指差している根暗そうな女が居た。



「何と! 居場所がわかる固有スキルか! に、二度目はまだ無理でござるよシキ殿っ!」

「ううっ……」



 苦痛に呻きながらも預かったエアクラフトを押し付け、板の裏、スラスターの間に脚を乗せた俺の意図を察したのか、撫子は素直にエアクラフトに足先を固定し、衝撃に備えた。



「次はねぇっ、後は自分でっ!」



 掛け声と共に体勢、タイミングを合わせると、撫子の返事を待つことなく《狂化》した両脚でエアクラフトを蹴って押し出した。



 足裏を予めくっ付けていたので、衝撃は抑えられた。

 蹴りではなく、脚で押しただけ。衝撃でエアクラフトが壊れるということはない。



「ぐうっ……!?」

「ふおおおおぅっ!?」



 脚に激痛こそ走ったが、折れたような感じはしなかった。



 撫子は変な悲鳴を上げながらも離れられ、俺の方も反動で移動出来た。

 撫子は真下、俺は真上に飛んだ形だ。



 ――後はこの勢いのまま魔粒子で背中を押してっ、離れる!



 久方ぶりの〝死〟の感覚。背筋に冷たいものが流れるのを感じつつ、その背筋付近から思い切り魔粒子を放出させる。



 ある程度初速が出ていた為か、俺は背中を押されるようにして『火』の玉から離れていく。



「ち、ちょっと! 今の黒堂君だよ! 稲光君の友達の! 攻撃中止っ!」

「知るかよ! 攻撃してきたんだから敵だろ!」

「そうよそうよ! 何人殺されたと思ってるの!?」

「何であいつがっ……」

「それにっ、もう遅いよ! 爆発する!」

「皆、衝撃に備えて!」



 下からそんな会話が聞こえた瞬間、巨大な『火』の玉が爆ぜた。



 カッ! と、先程投げた俺の閃光弾のように強烈な光を放ちながら爆発した『火』の玉は俺の背中をより押し上げ、吹き飛ばす。



 幸い、押されただけでダメージはなかった。

 ならばついでにと、腕や脚、腰に背中、胸と魔粒子ジェットを噴き出して体勢、向きを調整。元クラスメート達から見て太陽の方へと身体を移動させる。



 腰のマジックバッグからエアクラフトを取り出し、移動方法を変えながら下を見ると、馬鹿みたいに両手で視界を遮っている奴等と無事逃げ切れた撫子の姿を視認した。



 最初の奇襲で数人が死に、これまでの戦闘で厄介な固有スキルは粗方出尽くしている。



 盾、誘導、操作、そして、鑑定の計四人。位置特定は無視で良い。



 最優先は誘導だが、俺と同じ念じて使うタイプなのか、誰が誘導の固有スキルを持っているのかわからない。

 


 次に優先すべきは操作。チャラ男にどつかれていたチビだ。

 だが、どうせ狙うならもう一人くらい殺したい。



 残念なことに残った厄介な三人の中にチビと近い奴は居ない。

 代わりに最初の奇襲で最も反応が早かった奴はちらほら見える。



 ――先ずは斬撃を飛ばして牽制とあわよくば数を減らしっ、そのまま突っ込んで殺してやる!



 飛び上がっていた身体をくるりと回転させて翻し、体勢は横に、エアクラフトを軽く上に向け、スラスターを全開にする。



「おら……よっ!!」



 片目だけでも一塊に密集している敵の位置は外さない。



 左手の爪と右手に持った爪長剣による四つの斬撃は狙い通り、元クラスメート達目掛けて飛んでいった。

 それを追い掛けるように加速を続け、落下と加速が乗った俺の降下速度はどんどん上がっていく。



「っ!? 上から何か来る!」

「俺が防ぐっ! 誘導!」

「この前、見えなきゃ無理って言ったでしょ!? それっぽいのは見えるけど、太陽のせいでよく見えないんだってばっ!」

「良いから誘導しろ! 死にたいのか!」



 凄まじい風の抵抗の中、目を細めながら見ていると、爪の斬撃が誘導されて盾持ちの方に吸い寄せられるところと弱音を吐いた誘導の固有スキル所持者らしき女の姿が見えた。



「クハハハハッ! 馬鹿がっ! そういうとこが甘ちゃんなんだよォッ!」



 見えなかったという爪長剣の斬撃は見事一人に直撃した。



 優等生の眼鏡野郎だ。いつだったか、ライと授業について話していた奴。もしかしたら一年の時も同じクラスだった奴かもしれない。



 その男は獲物からして魔法使いなんだろう。杖を持っていた。

 しかし、両手で爆発から目を庇っているばかりで、魔法で防御しようとすらしなかった。



 そのせいだ。



 そのせいで俺の斬撃はそいつの両腕を斬り落とし、更には頭部、胴体、下半身を通っていき、「あぎぇぁっ!?」という断末魔、血飛沫と共に縦二つに分かれさせた。



「いっ……いやあああああああっ!?」

「うわあぁっ! い、委員長が殺られた!」



 目の前で友人が真っ二つになり、血と脳汁と油、その他、謎の体液を浴びた女子が発狂し、仲間の死に気付いた奴等の顔が一瞬で青ざめていく。



 中には怒りを露にしながらも「クソっ! クソクソクソっ! 黒堂の奴は健在だ! 各自、身を守れ! 降りてきてるぞ!」と、冷静に指示を出す奴も居た。



 が、もう遅い。



 既に互いの距離は五メートルを切っている。



 サッと殺って、さっと離脱しようと考えていたこともあり、爪は引っ掛けるように突き出し、爪長剣はチビに当たるように構えた。



「な、何でっ……黒堂君がっ……」



 反応の早かった野郎一人とチビを叩き斬った瞬間、さっきの鑑定持ち……マナミの友達が震える声でそう言ったのが聞こえた。目があったような気がした。



 目と鼻の先だ。

 鑑定系の固有スキルを持つこの女からすれば俺が俺であることは疑いようのない事実だと察した筈。



 遅れて二人の死人と運良く巻き込めた女子一人の左腕が大量の血と一緒に落ち始める。



 俺はそのまま降下しながら、反射的に答えた。



「クハッ……! 何故ってそりゃあ……運が悪かったんだろう!? 召喚と戦争(こんなこと)に巻き込まれてっ! クハハハハハハッ! 可哀想になアァッ!!」



 恨むんなら己の運命を恨め。



 冷酷な帝国の元に召喚されたことを憎め。



 そっちはどうか知らないが、俺はお前らの顔も名前もろくに覚えちゃいない。何となく、そうだった気がするって程度。



 だから死ね。ぶっ殺してやる。



 そんな俺の殺意を感じ取ったのか、マナミの友達の顔は驚愕から恐怖が濃いものへと変わっていった。



 うん、良い感じだ。



 ビビらせ作戦成功。



 仮面の奥底で思わず笑みを浮かべる。



 さて、次はどうやって……誰を殺そうか。



「クハッ、クハハハッ……これだから殺し合いは止められないんだよっ……! ですよねっ、ジル様……! あはははははっ! くひっ、くははははははははっ! 楽しいっ、楽しいッ、楽しいいぃッ! あはっ、あはははっ……お、俺はっ……ムクロっ……俺は……!」



 自然と狂った考えが出てきたことに何故か笑いが込み上げてきて、何故か涙が溢れてきた。



 ――これかっ……! ジル様とクロウさんがあの時、戦いながら泣いていたのは……きっと、こういう……



 二人の最強……いや、狂人に対する理解と争いを嫌うムクロに対する弁明。



 二つの思いに苛まれながらも、俺の脳裏は相変わらず、目の前の敵をどう対処し、どう殺すか。



 ワクワクするような……高揚した良い気分でそれだけを考えていた。



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