第162話 転生者VS転生者
アーティファクトを大量複製している筈の帝国の行軍。
双眼鏡やアリスの目を以てしても近代兵器と呼ばれる類いの武器を持っている者が誰一人確認出来ない帝国軍はフロンティアの防衛を任されたアリス達にとって酷く不気味に思えた。
囮や陽動にしては数が多い。
が、他に無防備な兵を寄越す意味はない。
別動隊による奇襲……あるいは防弾チョッキか何かを装備していて、こちらの弾薬切れを狙っているのか等々。
船長の予言になかった事態に動揺はしたものの、アリスが出した対抗策は自身を囮に敵の狙いを炙り出すことだった。
高く跳ね上がって上空から確認したところ、三千前後という数であることがわかったので、マジックバッグに銃を隠し持っている線は限り無く消えている。
銃ですら世界の常識を大きく覆す武器なのだ。物資を大量輸送出来るマジックバッグまで量産し、配ってしまえば巡り巡って困るのは帝国である。
また、感知系スキルで最大限確認してみたが、別動隊の影もない。
ならばと周囲の反対を押し切ったアリスは事前に一つだけ指示を出した。
それは『自分が戦線から離脱した場合、撤退、逃亡、死亡、生死不明問わず、一斉射で迎撃しろ』というもの。
要は『何があっても生き残るし、問題があれば逃げる。逆にそれでも自分の死亡が確認出来たり、居所が全くわからなくなり、進軍も止まらなければ気にせず撃ち殺せ』ということである。
故に。
戦線を身一つで食い止めていたアリスの戦線離脱は街の際や近場の砂山で銃を構えていたプリム、ゾルベラ他、シャムザ軍の兵や騎士達にとって攻撃開始の合図でしかなかった。
「ぎゃあああああっ!?」
「な、何だよこ、ガァっ……!?」
「痛ぇっ、痛ぇよぉっ!」
「クソっ、何がぁっ!? み、耳が熱っ……ギャッ!」
アリスと反応の早かった中二病男が地上から凡そ五十メートルはあろうかという上空で血飛沫と物言わぬ肉塊、何処か赤く染まって見える砂埃が広がっていく光景を見下ろす中、ズガガガガガガガガガッ!! と、止まることのない鉛の雨が帝国の兵士達に直撃し、勢い良く死人が増えていく。
ステータスの低い者は即死、ある程度高い者は散々蜂の巣になってから倒れた。
防御系のスキルで耐えていた者は混乱する味方に盾にされ、逃げる前に効果時間が切れて死ぬ。
前に居る者が最も被害が大きいのは当然として、ステータスの低い者の身体を貫通した弾は後方に控えていた者にもダメージを与え、倒れれば後ろに居た者が新たに雨に当たる。
幾ら前線が崩れたとて、三千人近い歩兵がそう簡単に後退出来る筈もない。アリスが兵士達を圧倒していたのも大きかった。
変わらずアリスとの戦闘が続いている、最前線から悲鳴や血が飛んでくるが後ろの兵に押されて下がれない、何が起きているのかわからないが開戦しているのだろう、そんな認識を持つ兵から死んでいく。
銃弾は勿論、逃げようとする味方に踏み潰されたり、前後の味方に挟まれて潰れ死ぬ者も続出し始める。更に、オマケと言わんばかりに大筒の弾やミサイル、手榴弾まで飛んでくるので下手に動くことも出来ない。
挙げ句、攻撃が落ち着いた頃に兵士達の頭上で武装したエアクラフト隊が待機しているときた。
投降しようにも周囲の怒号や悲鳴、銃撃音、爆発音の中、シャムザ軍に声が届く筈もなく……手を上げてアピールすれば腕が穴だらけになるか、下手をしたら千切れて飛んでいってしまう。
帝国の兵士達に出来たのは武器や盾を投げ捨て、身を寄せ合うこと。
しかし、シャムザ軍の者にはそれすら血の混じった砂埃や爆発によって見えなくなる。
重力に引かれ、身体が落下し始めた頃、中二病男が唖然としているのを確認しつつ、《空歩》&《縮地》で再び飛び上がり、時間を稼いでいたアリスは目ではなく、感覚でそれらの事実と光景を感じ取っていた。
「まさに圧倒だな」
かなり離れた位置だったのだが、まるでアリスの声が聞こえたように中二病男はこちらを向き、憎々しげに睨んでくる。
最早、サングラスや妙なポーズをしている余裕もないのだろう。
アーティファクトらしいブーツと自身の身体から魔粒子を噴き出しながら上昇してきた。
その一方で下からエアクラフトに乗ったプリムが迎えに来たことに気が付いた。
彼女の身の安全、自分が滞空する為にも中二病男の注意を逸らす。
「よお中二病。どんな気分だ?」
砂漠の上の凄まじい熱気から一変。常に吹いている風によって幾分か楽になったアリスと中二病男は互いを睨み付けながら話し始めた。
「最悪……あぁ、最悪な気分さ。姫にこれだけの部下を任された僕らしくない失態だ」
「部下、ねぇ……にしてはらしくねぇ態度だったな?」
「当然だろう。彼等は部下ではあるが、帝国の兵ではないのだから」
「は? 何言ってやがる。どう見たって帝国軍だろ……あっ」
「ふっ、安心したまえ。君ほどの強者でなければ攻撃せん」
会話の流れで思わず必死に上がってくるプリムの方を見てしまい、中二病男にもバレてしまったが、元より攻撃するつもりがなかったのか、彼はプリムを無視して部下達が殲滅されていく光景を見つめている。
内心ホッと一息つき、「アリス様!」と寄ってきたプリムのエアクラフトに乗せてもらう。
「さんきゅ、助かったぜ」
「いえ!」
そんなアリス達のやり取りと足場を得たアリスを見ても無反応のまま地上を見下ろす中二病男は話を続けた。
「彼等は餌だ。君のような強者や重火器を扱える者を釣る餌。本当は君達と彼等が居なくなった後に制圧する予定だった」
「時間稼ぎとフロンティアの制圧……それが何で出て来やがったんだ?」
「何故、か……ふむ。敢えて言うなら、君というイレギュラーに惹かれたから、かな」
「「……はあ?」」
訳のわからない発言に、アリスはおろか、プリムも開いた口が塞がらなかった。
が、彼は構わず何故か背中を向け、何故か顔だけ振り向いて指を差してきた。そして、からのもう一言。
「君というイレギュラーに……惹かれたから、さ!」
「いや聞き返してねぇわっ! 引いたんだよ普通に!」
つい怒鳴るアリス。とはいえ、ポーズは兎も角、サングラスを外した彼の顔は至って真顔だった。彼なりの本音ということが窺える。
「君は転生者なのだろう? 力さえあれば何でも出来る帝国に興味はなかったのか?」
パヴォール帝国では強さこそ正義であり、強さこそ至高。暴力は全てを解決する、と言わんばかりの国だ。
返事こそしなかったものの、アリスは中二病男の目的と前線に出てきた理由を察した。
「……テメェ、そんななりしといて自分と仲間以外の転生者のことが気になったのか? 何でわかったと訊きてぇとこだが、まああれだけ暴れてりゃわかるか……んで、その下らねぇ質問をする為に出てきた。違うか?」
「質問に質問で返すとは……しかし、その返答で十分だ。どうやら君は僕達の元に来るつもりは――」
そこまで言ったところで、アリスの姿が消えた。
「――何ッ!?」
思わずポージングを止めて辺りを見渡すが、何処を見てもアリスの姿はない。
「ど、何処に……はっ!?」
口に出したように、ハッとした顔でプリムの十字型エアクラフトが後退した方向を確認し、振り向いた瞬間、彼の首に激しい激痛が走った。同時にガキキィンッ! と剣戟のような音が響く。
「チィッ、防ぐかっ……!」
「ぐっ……おおおおっ!?」
寸でのところで腹部に突き出した短剣を左手の拳銃で受け止め、首を狙った短剣も右手の拳銃をぶつけて軌道を逸らした中二病男の反応の良さに、アリスは強く舌を巻いた。
「不意打ちなんて卑怯だぞっ!」
「テメっ、どの口が言いやがるっ! さっきのお返しだコラッ! もう一辺死にやがれってんだ!」
「き、君が死にたまえぃっ!」
「うおっ!?」
ギリギリと、音と火花を散らしていた短剣と銃による二人の鍔迫り合いは中二病男がブーツから出ている魔粒子ジェットの向きを変え、巴投げのような形でアリスを投げたことで終わった。
「空を飛べない君にこれが避けられるか!」
錐揉み回転しながら飛んでいくアリスを追撃すべく、二丁拳銃が火を吹く。
その狙いは的確で、突風吹き荒れる上空にも関わらず、見事にアリスの四肢や胴体目掛けて飛来した。
対するアリスは「避けるまでもねぇっ!」と叫ぶと視界が回る中、迫る銃弾を両の短剣で全て弾き落とすという神業的芸当で対応。両脚と尻尾は180°開脚と身体に巻き付けることで回避している。
中二病男は目を見開いて驚きつつツッコミを入れた。
「なっ……い、いやっ、今一部避けたではないか!」
ツッコミながらも二つの拳銃を両脇に挟み、懐から取り出した弾倉を素早く入れ換える。
そうこうしている内にアリスはプリムに拾ってもらい、後退していた。
「それは言葉の綾っ! 一々うぜぇんだよテメェっ!」
「あ、アリス様っ……」
「喋んなっ、舌噛むぞ!」
「きゃっ!?」
落ちても問題ないようにと地上の殲滅戦から離れていたプリムのエアクラフトを強く蹴って再び消える。
「愚か者め! 彼女の動きで軌道がわかるぞ!」
また背後だと踏んで振り返った中二病男の狙いは外れ、そこにあったのは何もない空間だった。
「っ!?」
格好付けながら二丁拳銃を向けたのは良いものの、焦って辺りに目を向けても見当たらない。
「何処見てんだよっ!」
「くっ……!」
気付いた時には下から肉薄してきていたアリスと短剣に、中二病男は思わず顔を歪めて銃で防御する。
再度、甲高い金属音と火花が散り、体勢、武器、勢い全てにアリス有利の鍔迫り合いが始まった。
短剣を相手に短い銃身と銃口で受け止める辺り、アリスと同等か、それに近い身体能力の持ち主であることがわかる。
「部下だか餌だか知らねぇけどよぉ! 数が減ってきたぜ中二野郎ッ!」
「今は僕とのダンスに集中してもらいたいな!」
幾ら防御したとはいえ衝撃は殺せず、吹っ飛んでいた中二病男とアリスはやがて落下を始め、超至近距離での斬り撃ち合いとなっていく。
アリスが右の短剣を振れば左の銃で防がれ、ならばと左の短剣で突けば右の銃で受け止められる。
更には何度めかの攻防で銃口で受け止められた瞬間、中から弾丸が飛び、驚愕もそこそこに踏ん張れないアリスが軽く押されたところを二丁の拳銃で三、四、五発と狙い撃たれた。
が、猫のようにしなやかな身体を捻らせて半分を躱し、避けきれないものは〝気〟を一点集中させて受ける。
「いてっ、いてぇって!」
「この距離で痛いで済むのか!?」
お互いに驚き、怒鳴りつつ、魔粒子ブーツで後退しながらまだ残っている弾倉を新調する中二病男とプリムに拾われるアリス。
「あ、アリス様っ、大丈夫ですか!? よいっしょ! 今回復しますからねっ! 我、求めるは癒しの光――」
「ったく……」
「逃がすか!」
落下していたアリスの手をがっしり掴み、引っ張り上げるという思わぬ腕力を見せるプリムに回復魔法を掛けてもらい、同時進行で左右に回避運動を取りながら移動してもらう。
邪魔をしないようプリムに抱き付き、指を差して回避先を教えていると、中二病男は宣言通り追撃してきた。
「っ、あまり離れると狙いが逸れるか……! それに威力も下がっているっ」
何やらぶつぶつと呟く中二病男と詠唱しているプリムに「よくこんな上空で喋れるな、風強いのに……」と感心しつつ、右左右右左右左とエアクラフトを傾けさせ、迫る弾丸を躱す。
撃たれた箇所は弾丸が少し食い込んで穴が空いただけで済んでいたので、デコピンで摘出しつつ、時折《空歩》で空間を蹴り、加速させていく。
「ええいっ、面倒な!」
「キャラ崩れてるぞ中二野郎!」
「煩いっ!」
アリスの挑発もあるが、風が吹けば話すのも億劫な上空ということもあり、中二病男は付かず離れずの位置から《縮地》で一気に接近してきた。
エアクラフトの加速の為に体勢が崩れていたアリスに照準が合わされていく。
しかし、中二病男が今だと引き金を引くほんの少し前にプリムの胸を鷲掴みにし、上体を反らさせたアリスにより二人の軌道は大きく変わり、同時に放たれた計四つの弾丸は地上に向かっていった。
「ふぎゃっ!? アリス様っ、い、痛いっ!」
「うおぅっと! ゴメン!」
「きゃあああっ!?」
「こ、これを避けるっ!?」
見向きもしないで弾を躱したことに目を剥く中二病男を他所に、噴出していた魔粒子の傘が下を向いたことでアリス達は急遽縦旋回。
加速しながら追ってきていた中二病男との正面衝突コースに入った。
そのことに逸早く気付いたアリスは急いで短剣を帯刀し、プリムの腰に付けられていたホルスターとベルトを引き千切る。
「っ、これ借りるぞプリムっ!」
「ふぇっ!?」
「当たれぇっ!!」
ホルスターに入っていたリボルバーを護身用にと渡すと、千切ったそれぞれを中二病男に投げ付けた。
体勢は崩れ、エアクラフトは上向き、強い風が吹いている上空で、しかも投げたものは革製という最悪の状況をものともせず、《限界超越》スキルを使って投げられた二つのブツは見事中二病男の片方の銃を弾くことに成功する。
「なっ、銃がっ!」
「っしゃあ来いやああああッ!!」
中二病男は更なる驚愕、アリスは喜びの雄叫びと同時にエアクラフトを蹴り、危険な接近戦からプリムを遠ざけた。
「おのれえぇっ!」
「当たるかよ!」
最早止まることもコースを変えることも出来ないと悟った中二病男が一丁の拳銃で撃ってくるが、アリスは当然のように、全ての弾丸を腰に納めた二本の短剣で弾き、構えている。
自慢の銃は弾切れ、下手な停止、方向転換運動は却って体勢を崩しやすく、防御すらまともに出来ない可能性がある。
(勝ったっ!)
アリスは内心で強くそう思いながら腕に力を込め――
「――南無三ッ!!」
と叫び、突如全身からレーザーでも出たのかと思うほど強力な金色の光を放った中二病男に視界を奪われた。
「ぅっ!? め、目がっ……!?!?」
瞳を貫いた強い光により、目の前が真っ暗になったアリスが思わず顔を押さえたところに中二病男が何処か泣きそうな顔で突っ込んでくる。
「ぬわあああっ! よくも僕にこの力を使わせたなああっ!」
悲痛な叫びを上げながらも、無防備に腹を晒したアリスに全ての勢いを乗せた肘打ち。
弾切れの銃を捨て、左腕を折り畳んで拳を逆の手で掴んで抑えた超威力の肘打ちだ。
「ぐっ!? はああぁっ……!!」
思い切り腹に突き刺さった鋭い肘はアリスの内臓に途轍もないダメージを与えた。
その威力はくの字に曲がったアリスの身体とぶつかった衝撃で軽く仰け反った中二病男からもわかる。
遅れて肺の中の空気と血反吐を吐いたアリスが白目を剥いて飛んでいく。
「どうだ参ったか! 転生する時、神様に『光り輝く人生を送りたい』と願った結果貰えた固有スキルっ、【光輝燦然】だ! あはははは! ただ光るだけっ! 畜生っ、あの神様、僕に何の恨みがあるんだよおぉっ!」
途中から何故か半泣きの中二病男だが、その姿が見える者は居ない。
何故なら、彼の身体は今も尚強い光を発しており、まるで太陽を直視しているように、見ている者の視界を奪ってしまうから。
「見た目は好きなように弄らせてくれたんだからスキルも弄らせてくれよ! 何だよ光るだけって! しかも光は強いくせに失明とかまではいかない! 目立って攻撃の的だし、挑発してからじゃないと使えないっ! その上、使用者の僕まで眩しくて目が開けられないゴミスキル! あんのクソ神がああああああっ!」
中二病男は泣き叫びながらも、太陽の如く光り続ける。
そんな彼の遥か下では既に餌と称していた部下達の殆どが物言わぬ死体と化しており、フロンティアではアリスと彼の戦いを見ていた騎士や兵士達が目を抑えて錯乱している。
双眼鏡を持っていた者は、以前太陽を覗き込んで失明した者が居た為、サングラスのように薄い黒で塗り潰すという対策が施されているにも関わらず、地面で悶絶していて苦しみ方が異常だった。恐らくこちらも失明ものだろう。
「うぅっ……み、見えない……アリス様っ、アリス様っ……何処ですかっ!? アリス様ーっ!」
それはアリスに蹴られ、少し離れた位置に居たプリムも例外ではなかった。
アリスと騎士達同様、視界を潰され、しかし、錯乱して落下していない点はお見事。
当然、中二病男がその隙を見逃す訳がなく。
「さっきは攻撃しないとか言ったけどなぁ! ありゃあ嘘だ! 僕の力を見た者は生かしておけぇんっ!」
完全に口調が崩れ、キャラ崩壊している中二病男は懐から新たな銃を取り出した。
そして、そのまま銃口をふわふわ浮遊しているだけのプリムに向ける。
「死ねええいっ!!」
ドパァンッ! と、辺りに銃の音が鳴り響いた。
光り続ける中二病男の周囲に一瞬だけ静寂が訪れた。
しかし、アリスを探しているプリムは健在。
「アリス達ぁっ、何処にっ……何処に居るんですかぁっ……!」
殺られてしまったのでは、と泣き出してしまっているが、何処にも怪我はなく、変わらず浮いている。
「……あぇ?」
呆けたような声を上げ、血がドクドクと流れる右手を見たのは中二病男だった。
遅れて痛みが来たのか、「は? え? えっ……?」と混乱して腕を抑え、絶叫。
「僕の手があぁっ! 手が撃たれた!? な、何でっ!? どうやって!」
光るのを止め、激痛の走る手を見つめる。
貫通はしていなかった。
先程〝気〟で防御したアリスと同じように軽く食い込み、穴が空いている程度。とはいえ、痛いものは痛く、銃で撃たれたという事実を恐れたのだろう。
「ひぃっ!?」
と、頭を抑えた中二病男の左肩に、今度は貫くほどの弾丸が飛んできた。
「ぐああああっ!? い、痛いっ……! 痛いぃっ!」
腕を押さえた次の瞬間、再び飛来してきた弾丸が頬を掠め、左耳が弾け飛ぶ。
「ひぎゃあああああああっ!? 止めろっ、止めろおおおっ!」
あまりの激痛に涙と鼻水を飛ばしながら落下し始めると同時、再び強い光を放った。
「痛いっ……痛いよぉ……痛い、けど……これ、なら……!」
という期待も容易く裏切られる。
ドパァンッ、ドパァンッ!!
と、更に駄目押しの銃弾が飛び、全て命中した。
幸い頭部や胴体には当たらないものの、四肢には穴が空き、肉が抉れていく。
「いぎゃああああっ! 何で!? 何で何でっ!? 何で見えっ……ぎゃあああああああっ! 今、頭掠った! 頭皮削れたあああっ!」
バタバタともがきながら光り、落下を続け、やがて砂漠に不時着する。
最後の理性で着地時のダメージはなかったらしいが、ついに謎の弾丸は脚を貫いて倒れさせた。
それでも死への恐怖からか、無様に転び、泣き叫びながらも砂山に隠れる。
「ふーっ……ふーっ……こ、これで流石に……!」
砂山に倒れ込み、一息つこうとした彼の背中にコツンと何かが当たった。
ん? と声を上げて怪我をしていない方の手を伸ばしてみれば綺麗な弾丸を見つける。
「何これ……何でこんなところにぃっ……!?」
混乱している最中、砂山の中から弾丸が飛び出し、再びコツンッと彼の額にぶつかった。
二つの弾丸が同じ形状であり、二つとも砂山から出てきた。
その事実に、中二病男はサッと顔を青ざめさせた。
「ま、まさか……」
と、顔色が青を通り越し、白くなり始めた頃、視界の何かが変わったことに気が付く。
「へ? 今、何か……何かが動いたよう、な……」
変わったと言っても視界の殆どは砂漠であり、砂山。
変わると言えば砂山が崩れたり、風が吹いて砂が飛んだり……あるいは砂山に所々見える砂山そのものの影程度。
「っ!? 影か! 何かが飛んでっ……」
そう言って上を向いた次の瞬間、ドパアアァンッ……! という音と共に両肩にかなりの衝撃が走った。
歩くことも両腕を上げることも出来なくなった中二病男は荒くなった息を整えながら遥か上空を飛んでいる小型の魔導戦艦を見上げ、呟く。
「はぁ……はぁ……こ、この距離、僕の力が効かない目……何かの……固有スキル、だな? くっ……ま、けた……姫……フロンティアの制圧は……しっ……ぱ……」
これまでのダメージと大量出血。
限界を迎えた中二病男の身体は彼の意識を断つには十分なほど傷付いていた。
ところ変わってその遥か上空。
小型魔導戦艦の甲板上にて。
「へへっ、驚いてるっぽいな。正解だぜ。オイラは弱いけど、これでも勇者としてそれなりに強い固有スキル……【百発百中】を持ってんのよ~」
手すりに寄りかかり、見もせずに狙撃用のライフルを地上に向けて撃っているヘルトの姿があった。
甲板の中央には膝を付く赤い騎士型ゴーレム、アカツキがおり、停止している。
「くっそ……あ? ヘルト、何か言ったか?」
「ん? あぁ、多分奴が悟ったであろうことへの返答」
「……何言ってんだか」
眩しそうに目を擦っていた仲間に呆れられながら弾薬を詰め、ヘルトは小さく呟いた。
「間に合ったから良かったものの……アリスの奴、生きてるんだろうな……? まあ、こっちも街への被害はなさそうだから……怪我人は移動中に治療して……それでも王都まで一時間……いや、二時間近く掛かるか。姉ちゃん、姫さん……無事で居てくれよ……!」
ちょっとごたついてて時間が取れないので、来週更新出来ないかもです。出来たら更新します。




