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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第4章 砂漠の国編
172/334

第161話 辺境地の攻防

最近忘れてましたが、一応グロ注意です。



 シキとアリスが再会した街フロンティア、その外縁部にて。



 アリスは約三千の敵を相手にたった一人で無双していた。



 水滴が垂れるだけという微妙な効果の魔剣を超高速で振るうことで水圧カッターのようなものを造り出し、同時に数人の兵士の首を跳ねる。

 流れるような動作でくるくると回転を始め、両の短剣を振り回せば瞬く間に十を越える死体を出来上がり、その回転に紛れて水圧カッターも飛んでいる為、近付くこともままならない。



「こい、つぁっ!?」

「んがっ!」

「おっしゃあっ! 次ぃっ!」



 時折飛んでくる属性魔法はもう片方の『風』の魔剣で身体を浮かして躱すか、地面の砂を巻き上げて壁を形成。貫通性がなければほぼ無効化出来、あれば後ろの兵士を盾にしてやり過ごす。



「囲め囲めっ! 物量で潰っ……ギャッ!?」

「良いねぇ! 段々温まってきたっ!」


 

 全方位から槍で突かれるなどすれば流石に止まるものの、顔、頭部、首、胸、腕、胴体と、別々の部位をほぼ同時に狙われているにも関わらず、その中で一人だけ早送りされているような速度で全てを躱してしまう。

 猫のような身体のしなやかさを利用し、ぐねりと身体を捻るのは当然として、捻った拍子に片足を上げて蹴りを、同時に突かれた瞬間、槍同士のほんの僅かの空間に身体を捻り込み、槍を掴んで優雅に一回転。そして、空中で何回転もしながら水圧カッターを飛ばして着地する。



 「ふっ、ほっ、はっ……とぉ!」等と言いながら、着地時の突きを次々避けたかと思えば上半身を思いっきり反らして後ろから来た四本の槍を躱し、横っ面に迫ってきた槍は首を捻って回避、脚への攻撃は少々不恰好だが、がに股になることで避けてしまった。

 その体勢から両手を地面に付いてブリッジし、再び身体を捻りながら倒立、からの横回転。股に挟んで取り上げた槍を挟んだまま一通り振り回した後、「あちっ、あちっ!」と熱せられた砂漠に悲鳴を上げて跳躍。くるりと一回転しつつ、槍を蹴り捨て、腹に槍が刺さっている一人の兵の顔に着地した。



 更に体当たりは良い肉壁が来たと言わんばかりにギリギリ避け、背中を蹴って味方にぶつけてやる。宙に上がって隙が出来た瞬間、『風』の魔剣で背中を押し、再び回転斬りを開始。死体が増えて足元が悪くなると、思い出したように飛び上がって別の場所へと移動していく。



「良い……良いっ! 剣と魔法の世界で近代兵器等やはり無粋っ! 我が覇道には泥臭い殺し合いこそが正義(ジャスティス)っ!」



 酷く芝居掛かった声が聞こえてきたのは全体がほんの少し減ってきたか、否かといった頃だった。



「あん?」



 短剣を持ったまま正拳突きを繰り出し、兵士を一人吹き飛ばす。

 手榴弾のような威力で鎧の破片と肉片が飛び散り、後ろの味方数人が鈍い音と共に倒れた。



 後ろから聞こえてきた声に振り向きながらの芸当である。



 半袖短パンのアリスが汗をダラダラかいてしまう砂漠で、甲冑や鎧を着ている帝国兵士達もナンセンスなのだが、その男は黒いコートに黒いシャツ、黒いカーゴパンツと非常に暑そうな服装をしていた。

 その上、銀髪にサングラス、背中には十字架を模しているらしい大剣を背負っており、かなり目立つ容姿である。



「美しいっ! しかし、悲しいっ! というかグロいッ! そして暑いっ! せ、僭越ながらこの僕が死んでいった者達に鎮魂歌(レクイエム)を――」

「――何だテメェっ、見た目といい、口調といい、中二病かよ!」



 周囲の怒号や殺気立つ兵士は何のその。



 アリスは後ろから振り下ろされた斧を半身になることで振り向くことなく躱し、これまた振り向くことなく兵士の首をかっ斬る。

 中二病男は周囲の兵士達がアリスに攻撃している中、両腕を広げ、かと思えば片手で顔を覆うようなポーズ。そして、サングラスをくいっと上げて一言。



「どうだっ?」

「いや何がッ!?」



 意味のわからない言動に思わず突っ込みながらも《縮地》で突撃してきた一人の槍使いを当然のように見てから避け、しれっと構えていた短剣が再び首筋を撫でた。

 大量の血飛沫が舞った次の瞬間、思い出したように全方位から《縮地》を使う者が多発したのでその場で跳ね、味方同士でぶつかったところを上から斬り付ける。



 その間もくるっとターンしたり、背中を見せて首だけ軽く振り返ったりと中二病男は何故か中二病ポーズをしながら訊いてくる。



「どうかと訊いているのだが」

「いやっ、だから何が!?」



 何なのお前っ、とは言いつつもアリスに被弾はなく、中二病男のターンは後ろから来た兵士を避けようとしてのこと。



「殺せ殺せーっ!」

「何だこの二人っ! 馬鹿にしてんのか!?」

「おちょくるのも大概にしやがれ!」



 と、戦いながらも何処か余裕があるアリス、味方であろう中二病男の謎のポーズに兵士達は勿論苛々しているのだが、二人は全て無視。

 寧ろアリスは動きが単調になった兵士達の死体の山を増やす一方で、中二病男はアリスが移動しようと、首が飛んでこようと気付いたら背後におり、飛んできた首を避けて中二病ポーズ。



 気持ち、青い顔で死体の山に座り、考える人のようなポーズをしていた時は「嫌ならするなやっ!」と突っ込んでしまったアリスも、段々冷静になってきた。



 試しに温存していた《空歩》と《縮地》を使って遠く離れてみたが、やはり気付けば後ろに居て戦隊物を思わせるポーズで佇んでいる。



 (こいつ、まさかっ……)



 アリスがそう思ったその時だった。



「うぅっ……き、気付いたかい?」



 二つの首が飛び、血飛沫と同時に兵士が倒れる中、中二病男は背中から魔粒子を出すことで浮遊していた。

 当然のように背後に居るのは良いが、腕組みをしながら思い切り背中を反っていて、まるで空中でブリッジしているような体勢なので若干キツそうだ。



「例の装備がねぇってことはっ、転生者だなっ?」



 キッと中二病男を睨み付ける。最早、攻撃してくる兵士達には見向きもしない。

 アリスは絶えず迫ってくる兵を空中で股割りでもするようにして二人同時に蹴り、後ろから迫る槍を掴んで身体を浮かし、倒立後転。その勢いに乗せて兜ごと脳天を蹴り割った。



「そう言う君もその強さ……ふっ、やはり転生者か」



 格好付けた口調でも空中ブリッジは維持している。段々頭に血が上ってきたのか、顔色が変わり始めているのは突っ込んでほしいのだろうかと思ってしまう。



「……何が目的だ」



 今更ながら、アリスのあり得ない強さに圧倒された兵達がたじろいだ。

 軽く上がっていた息を整えながら、腕組みを止めたかと思えば何故か片手で顔を隠し始めた転生者を見据える。

 


「挑発、さ!」



 辛かったのだろう。中二病を発症しているらしい転生者は両脚から魔粒子を噴出させて身体を回転させると、兵達の前に着地して答えた。



 何故か後ろ向きで。しかも、やはり顔を隠すポーズをしたまま。



「…………」

「……失礼」



 少しふらつきながらアリスの方に振り向き、再びポージング。

 そして、キメ顔で一言。



「挑発さ!」

「言い直すなっ」



 読めない。



 アリスは素直にそう思った。



 (転生者ってことは俺と同じくらいには強い筈……なのに攻撃はしてこねぇし、味方の兵士からはめちゃくちゃ睨まれてて嫌われてるっぽい……何なんだこいつ)



 敵であるアリスを睨むように、帝国軍兵士は中二病男も睨んでいた。

 「殺してやりたいけど出来ない……」といった諦めもあるように見える。



「……言動的に同郷っぽいけど、質問良いか?」

「ふむ。許そう」

「随分偉そうだなお前。……まあ良いや。何でそいつらは銃も魔粒子スラスターも持ってないんだ?」



 男にしては長めの髪のせいで見辛いが、中二病男は片耳に通信用アーティファクトを付けている。

 他の兵は銃はおろか、そういった小型アーティファクトすら持っていない。



 (こんだけの数が銃を持ってりゃ脅威だったのに)



 勿体無ぇな……と思いながらのアリスの質問に、兵士達はあからさまに不機嫌になり、殺気立った。

 中二病男はそれを制するように手を上げ、顎を掴んで軽く思案すると答える。



「魔粒子スラスターというのがよくわからないが、所謂アーティファクトのことだろう? それなら簡単な話さ。この兵士(ポーン)達が剣は銃より強し、と考える者達だからだ」

「……馬鹿なのか?」



 やれやれ……と中二病男が肩を竦めながら言い、アリスも同調するように言ったところ、兵士達が怒鳴り始めた。



「何だとごらぁっ!」

「あんな訳のわからん武器が使えるかよ!」

「腕っぷしで成り上がってこそだろうが!」



 どうやら本当のことらしい。

 アリスは「飛び道具が嫌いなのかな」とも思ったが、怒号に混じって矢が何本か飛んできたので違うようだ。



 時折、「鍛冶師は黙って武器を造ってりゃ良いんだ!」、「俺達は昔から剣で戦ってきた! 新しい武器だか何だか知らないが戦った気がしない武器なんぞ武器ではない!」といった声も聞こえる。



 何となく、彼等は昔ながらの戦士であり、生産職らしい新女帝や女帝達が与える武器、戦略が気に食わないのだろうと察することが出来た。



「ふーん。んじゃ、やっぱ馬鹿だな」

「うむ。馬鹿だ」



 吐き捨てるように言ったアリスと頷いた中二病男を、兵士達が怒鳴り付けようとした次の瞬間、ドパァンッと乾いた音が鳴った。

 遅れて胸を押さえたアリスが膝を付き、静寂が訪れる。



「っ……いきなりだな、おい……」



 アリスはそう悪態をついたが、血の付いた手を見て「ちっ、油断した……」と笑ってもいた。

 見れば中二病男の右手に拳銃が握られている。



「様子を見ていたが、姫の言った通りだ。一時間……これほど長く戦い、数百人も死なせておいて傷一つ付けられないとは。今の一瞬で傷を付けた私を見てもまだ同じことが言えるのか?」



 サングラスのせいで目は見えない。だが、憐れむように眉を顰めていた。



 アリスからしても、ただ闇雲に突っ込んでくるだけで戦略という戦略がない兵士達のことは疑問だったが、陽動なのだろうとは思っていた。

 謂わば囮。もしくはアーティファクトを全く所持していないことに拍子抜けし、油断したところを狙撃でもしてくるのかとそう睨んでいた。



 しかし、違う。



 男らの関係性や言動から察するに、彼等は本当にアーティファクトを持っていない。

 そして、本当に囮であり、アリスやシャムザ軍に殺されるだけの兵なのだ。



「既に他の街の隊は壊滅状態らしい。街に入る前に敵の銃型アーティファクトに狙い撃ちされて、だ。少しでも銃か何かを持っていれば変わっていただろうに」



 珍しく、という言い方もおかしいが、中二病男はポージングすることなく、真面目な顔で兵士達に伝えていた。

 アリスはそれを見て中二病男の心中を察する。



 (ははーん……? 成る程、こいつ惜しんだな? 三千ちょっとの兵が何の結果も残せないこと……俺を傷付けて(こうやって)目に見える結果を出してやれば変わるんじゃねぇかって。……つぅことはやっぱり船長(セシリア)が言ってた未来とズレがあるな。全員が全員銃とかで武装してるっていう前提が崩れてるし……)



 ダメージを確認しつつ、チラリと帝国軍兵士達の方へと視線を向ける。



 何処をどう見ても、銃や手榴弾、ロケットランチャーのような武装はなかった。



 それに対し、フロンティアにはゾルベラを含め、銃を扱える者が多数配置されている。プリムを中心としたエアクラフト隊もだ。当然、こちらも銃装備。雲泥の差と言える。



 (パッと見アーティファクトを持ってなさそうだったから確認の為に暴れてたけど……この様子はマジだな。マジで何も持ってねぇ。俺がこの中二病野郎さえ抑えてればプリム達の方で対処出来る筈……仮にこいつらが何らかのスキルを使ったところで俺や撫子ちゃんレベルじゃねぇと銃の弾幕は防げねぇし、避けられねぇ……ん、イケるな)



 己のダメージ量、中二病男の早撃ち技術、帝国軍の進行速度、味方の武装、弾薬の数……etc。



 脳内で何度もシミュレーションを行った結果、全てどうにかなる範囲だと判断した。



「すぅ……はぁぁ……っ、っ!」



 咄嗟に〝気〟を一点集中させ、内臓に達する前に停止させていた弾丸を摘出しようと、深呼吸をして指に〝気〟を纏わせ、傷口に刺し込む。



 凄まじい激痛と自身の肉の生々しい感触に鳥肌を立たせながらも、抉り取るようにして指を引っ掻けることで何とか摘出出来た。



「ふーっ……ふ、震えるほど痛ぇ~……」



 全身を震わせ、涙目になりながらのアリスの言動に、中二病男は一瞬固まるとサングラスをポケットに入れ、腰に隠していた拳銃をもう一丁取り出した。



「心臓を撃ち抜いた筈なのにその防御力……そして、今見せた精神力……成る程、これは傷一つ付けられないか」



 どうやら戦う気になったらしい。

 対するアリスは余裕綽々といった様子で回復薬を飲んでおり、傷の治りを確認してから中二病男の手元に気付いたのか、ニヤリと口角を上げた。



「っく、っく……ふぅ……お? 二丁拳銃かっ、良いねぇ! 戦ったことねぇタイプだ!」

「……何故笑う。君も私と同じ……」



 訝しげな顔。サングラスを外したこともあり、中二病男の端正な顔は内心で動揺していることが一目でわかる。

 アリスも言われて初めて気付いたらしく、口元に触れると首を傾げた。



「……ホントだ。変だな、アイツのが移ったか」



 そう言って可笑しそうにカラカラ笑い……短剣を構える。



「む、そんなに私と踊りたいのか。ケモ耳レディよ」

「……まぁた変なスイッチ入ったな。まあ良いけどさ」



 各々武器を構えながらも、片方は再び妙なポーズ。

 最早ただの外野と化していた兵士達が「もう攻撃して良い……のか?」とそれぞれ目で会話する中、アリスは言った。



「お前が先に撃ったんだぜ? 俺ぁ別にお前には攻撃してねぇのによ……目には目を、歯には歯を。んー……物は言いようだよなぁ」



 まるで独り言のような呟き。

 中二病男は思わず聞き返し、悟った。



「……? 何が言いた……っ!? ま、まさ――」

「――そのまさか、だよッ!!」



 会話もそこそこに、徐に体勢を崩すと膝を曲げて大ジャンプ。

 彼もアリスを追い掛けるようにしてその場から離れ、叫ぶ。



「伏せろっ!!」



 そんなやり取りを合図に、フロンティアから大量の銃弾が放たれ……



 瞬く間に戦場は悲鳴と血飛沫、砂埃で覆われた。









 ◇ ◇ ◇



「う~ん……グロいっ」

『阿鼻叫喚からの死屍累々って感じでしたね』

「まあ完全に虐殺だったからね」



 『砂漠の海賊団』が最初に乗っていた小型魔導戦艦。

 その甲板上にて、一人の若者と一機のバーシスが地上を見下ろしていた。



 横を見れば同型戦艦三隻が横並びするように滞空している。



 場所は北東に栄えている辺境の街の上空。



 【等価交換】で缶に入った酒を生成したショウは一息にそれを呷りながら呟く。



「これは酷いよ」

「そう……です、ねっ」



 やたらゴーレム銃を積んでいてゴツく見えるバーシスからリュウが降りてくる。



「あ、遅くなったけど……お疲れ」

「……いえ、お疲れ様です」



 互いに疲れきった表情だった。



 肉体的に、ではない。



 二人の動きや仕草に疲労は見えない。



 まるで、デスクワークを終えたサラリーマンのような顔で溜め息をついている。

 そんな二人に割り込むように、突如後ろから声が掛けられた。



「失礼します。ショウ様、()()はどう致しましょうか」

「ん……あぁ、どう、しようかな……」

「…………」



 ショウは首輪が目立つ若い女性を一瞥し、リュウに視線を向ける。



 彼もまた、女性の方を見ていた。

 厳密には奴隷の証である首輪を。



「彼女は?」

「……この船のクルー、かな。後々は俺が立ち上げる商会の従業員だけど」

「へぇ……まあ確かに奴隷は丁度良いですよね、色々と」



 リュウにしては含みのある言い方だったが、奴隷という割には傷や汚れは一切なく、服も一般人と相違ない。

 まさに奴隷という身分なだけの従業員といった様子だった。



「「…………」」



 再び無言になり、再び地上を見下ろす二人。



 女奴隷が困ったように二人を見つめ、「あ、あの……」と遠慮がちに声を掛けると、二人は漸く反応を返した。



「……くよくよしててもしょうがない。取り敢えず生存者の確認と……無いとは思うけど、一応街の被害確認。終わったら火葬……かなぁ? どうなんだろう。まあその辺は騎士達に訊いてみるか……」

「それと王都に向かう準備だね。後は街の人に僕達が勝利したこと、戦争自体はまだ続いてることを伝えないと」



 二人は時折溜め息のような深呼吸を交えつつも互いの意見を出しあい、女奴隷は頷きながら二人の意見をメモしていく。

 


 粗方伝え終えると女奴隷を下がらせ、ショウはまた地上を見下ろすべく手すりに寄り掛かった。



「あんまり見ない方が良いと思いますよ。傷になります」

「……その考え方もわかるけどね」



 リュウは残っていた酒を一気飲みすると吐き出すように言ったショウを見て溜め息をつき、暗い空気を吹き飛ばすように話題を変える。



「……そう言えばさっきの女の人、読み書きが出来るんですね」

「ん? あー……まあね。そういう人重視で集めたから。やっぱ即戦力ってのはデカいよ」



 自分よりも若く、未だ学生の歳の彼に気遣われてしまったことに苦笑いしながら答えたショウだが、「子供も多く買ったって聞きましたけど?」という思わぬ返答に硬直し、再び苦笑した。



「ふっ、耳が早いね。自己満足だよ、俺が見える範囲だけでも……いや、それは違うか。流石に格好付けすぎだ。何て言うか……う~ん……人は、笑ってた方が良いと思う……かな」



 リュウの心遣いに乗ったつもりはなかった。

 しかし、意外にも真面目に考えてしまった。



「うん、それがしっくりくる。()()()()()死んだり、苦しんだりするよりさ。平和に……それが無理なら笑って生きていたい。そう思った。だから、少しでも俺が笑えるように……届く範囲で良いから人を助けたかった。まあ……どんなに言い繕ったって偽善で、自己満だけどね」

「はは……結局同じことじゃないですか」



 笑うのは失礼でしょ、と、二人は一通り笑い合うと、ショウはブリッジに向かって歩き出し、リュウはバーシスのコックピットに戻る。



 カメラを向けていたからか、目の前にショウと自分が先程まで見下ろしていた地上の様子が映し出された。



 数千、下手をしたら万に届きそうなほどの人間の死体。



 肉片と化しているものもあれば穴が空いたものもある。



 老若男女問わず、血にまみれており、微動だにしない。

 一様に綺麗な砂漠に大量の赤い染みを生み出している。



「う゛っ……」



 思わず呻き、急いで口を押さえた。



 この惨状に、そして、この惨状を作った自分達に対して、吐き気が催してきたらしい。



 彼の脳裏に過っている光景はまさに圧倒的だった。



 幾らステータスやスキルがあるとはいえ、生身の人間……それも剣や槍を持った前時代的とも言える帝国軍に銃や大砲、ミサイルを撃ち、挙げ句には焼夷弾で空襲してしまった。



 自分も地上におり、機体を大量の返り血で染めながらゴーレム銃で応戦していた。



 街からは騎士達が乱射、上空からは爆弾が降ってくる。

 帝国軍はそれでも突撃を止めなかった。



 愚直なまでの突撃。



 そして、圧倒的なまでに一方的な蹂躙だった。



 自分はそんな猛攻の中を何とか迫ってきた帝国の兵士達に銃を向け……



「うぷっ……全く……折角、戦う前に止めたのに……ショウさんの制止を振り切るから……」



 ショウさんの気持ちもわかる、と内心で強く思いつつ、操縦桿を握り、いつの間にか来ていた通信内容を見る。



 シエレンの飛翔能力を加味し、アンダーゴーレムにはまだ隠された性能があると踏んで研究者達と調べた結果、ゴーレムのコックピットにある通信機器には留守番電話のような、録音機能があることがわかっている。



 その機能を使って、録音を聞くと最東端の街で防備していたヘルトからだった。



『あー、あー、聞こえてるかい? こちらヘルト。取り敢えず、こっちは終わったから援軍が必要なら返信? してくれ。死体の処理を終えたらアリスの方に向かう予定だから、寄れれば寄る。……んじゃ、それだけ』



 ブツン……という音と共に静かになり、つい東の方を見る。



「僕達より三十分くらい早く終ったのか……やっぱり戦う理由がある人は強いな」



 そう独りごちると、目を閉じて深呼吸をし、思い切り頬を叩いた。

 小気味の良い音がコックピット内に響き、痛みで意識を切り替える。



「良し……! 僕達も急がないとっ」



 その直後、バーシスのモノアイが妖しく光り、機体も追従するように動き出した。



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