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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第1章 召喚編
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第16話 心の剣

グロキモ注意。


 夜。


 全身の激痛で目が覚めた。


 暗いせいでまともに確認出来ないが、手足が変な方向に向いていること、首くらいしかまともに動かせる部分がないことはわかる。


 胴体の方も……多分、肋骨辺りの骨をやってる。


 あまりに痛すぎて息をするのもしんどい。


「い゛っ……つぅ……~~っ……!」

「ん、起きたか」


 焚き火の横で二本の刀剣のメンテをしていたジル様が俺に気付き、近付いてくる。


「どうだ、調子は?」

「うぐっ……さ、最悪っすよ……何があったんですか……?」


 悶絶して少しでも動こうものならそれすらも痛くて悶え、更に動いてしまって痛みが……のエンドレス。


 ジル様の説明を聞きつつ、ステータスを見る。


 こんな怪我だ。さぞダメージを受けているだろう。


 そう思っての確認だったが、意外にもHPの欄は1/4くらいしか減ってなかった。


 それくらい死んだとも言えるし、逆に全く命に別状はないとも言える。


 にしては痛すぎる。どういう基準で数値化してるんだか。


「ってな感じよ。《狂化》もそうだが……初めてで耐性がなかっただけな印象を受けたな」


 曰く、完全に暴走状態だったので尻尾で巻き潰した。


 《狂化》の代償も相まって、俺の全身は握り潰された缶のようにぐちゃっとなった訳だ。


 持ってきていた大量の回復薬をかなり消費して現在の大怪我レベルまで治したらしい。


 それでも動けないんですが……等とは口が裂けても言えない。恐らくHPの方も今と大して変わらなかった筈。半分死んだくらいか? この減り具合だと。


 回復魔法も回復薬も一日、あるいは数時間の間に効果が見込める使用限界回数のようなものがある。


 何度も飲めば効果は薄まり、最終的にはただの不味い液体になるイメージだな。


 そのせいで全快出来なかった。聞けば骨が皮膚を突き出た箇所もあったという。


 そういった怪我や内臓等、何かしら処理をしなければいけない部位を優先的に治したようだった。


 因みに、聞くだけでもおぞましいが、外に飛び出た骨は無理やり押し込んで大体の位置に戻したら接触する関節や骨を一緒に握り潰して癒着させたとのこと。


 初の試行から既に半日は過ぎた。取り敢えず追加で飲ませてもらい、回復に努める。


「当然、続けるよな?」


 びちゃびちゃと全身に回復薬を垂らしているジル様にニヤリとしながら言われた。


 焚き火の枯れ木が音を立てて崩れ、火の粉が舞う。


 ジル様の顔には「選択肢はイエスかはいかよろこんで、だ。良いな?」と書いてある。


 全くこの人は……


「……自分が自分じゃなくなっていくあの感覚を知らないからそんなことが言えるんすよ」

「あぁ知らねぇな。怖いから何だ? 痛いから何だ? お前の覚悟はその程度のものなのか?」


 全身に続いて心にまで傷を付けてきやがった。


「オレぁ剣士だ。傭兵だ。人斬り人殺しの戦闘狂だ。強い奴と戦えるんなら何だって良い。何だってする。やりたいこと、覚悟があるってのはそういうこったろ」


 追撃するつもりのようだ。


 追い詰めたいのか、燃え上がらせたいのか。


 そこまでしないといけないくらい俺の心が折れているのか。


 そんなことすらも、俺にはわからない。


 ただ……怖い。


 改めて禁忌とされる力の恐ろしさを知った。


 考えることすら出来なくなる恐怖。


 最後なんて、ジル様を殺そうとしたのに。


 食おうとして、犯そうとして……襲ったのに。


 俺は俺自身が怖い。


 《闇魔法》が怖い。


 俺の暴走、狂気を見ても笑っていられるジル様が怖い。


 そこまで思ったところで「クハッ」といつも通りに笑われた。


「そうさな……もし仮に……もし仮にだが、利き腕を斬り落とされたとしよう。どうする?」


 ……いや、どうって言われても。


 思わず言葉に詰まっていると、補足が入る。


「勇者でも再生者の女でも、自分(テメェ)が剣を振らなきゃ目の前で誰かが死ぬ。そんな状況だ」


 何だよそれ。


 そんなの……


「残った方の手で……剣を持ちます」


 その場面を想像し、返答した。


 多分、俺ならそうする。


 怖いだろう。痛いだろう。


 だけど、だからってそれはあいつらを見殺しにする理由にはならない。


 ライ達は友達だ。大切な親友だ。だからこそ、こうして鍛えてもらってもいる。文字通りの血反吐を吐き、泣いても鼻水を垂らしても……それこそこんな大怪我をしても食らい付いている。


 それくらい大切な……


「そうか。なら……もし剣が折れたら? もう片方も奪われたら?」


 意地の悪い質問だった。


 焚き火の明かりに照らされたジル様の銀髪はとても綺麗で……


 反対にその顔は戦士のそれ。


 獰猛な笑みだ。


 俺の出す答えを、望んでいる答えを待っている顔だ。


 とても美少女には見えない。


 とても……元王族には見えない。


 本人が言うように、剣士、傭兵、戦闘狂のそれだと感じる。


 そうか。


 そうだ。


 そうだよ。


 納得した。


 ストンと心に落ちて、染みた。


 最初から逃げるなんて選択肢はなかったんだ。


 修行を止める? ライ達の隣に立てなくても良い?


 ふざけんなよ俺。今更……何を今更。この人は迫られてこうなった。祖国は滅び、家族友人知人全てを失い、それでも今を生き、笑っている。


 殺し合いというとち狂った楽しみとはいえ、やりたいことをしている。


 それに対し、俺は何だ?


 俺がやりたいこと。


 俺がどうしてもしたいこと。


 俺は……ライ達と一緒に居たい。あいつらを守りたい。あいつらと笑っていたい。


 そう考えると、無性に腹が立ってきた。


 自分が情けない。


 カッコ悪い。


 こんなことで折れてどうする。


 俺達と同じように、理不尽に人生をめちゃくちゃされ、それでも尚笑っているこの人の前で何たる体たらくだ。


 だから答えた。


「足。足を使って戦います。蹴るのでも石を蹴って飛ばすのでも何でもしますっ」

「クハッ……両足もなくなったら?」


 所謂、ダルマ状態。


 そんなのは死だ。片腕か片足だけでも失血死するだろうに。


 だけど、ジル様は違う。


 この人は最初、何て言った?


『強い奴と戦えるんなら何だって良い。何だってする。やりたいこと、覚悟があるってのはそういうこったろ』


 何だってする……そういうこと……ってのはつまり……。


「口……地面を這いずってでも、転がり回ってでも石か剣の破片を含んで飛ばしてやります。剣が落ちてれば口で……歯で持ってやる。死ぬまで戦って、ライ達を……!」


 俺が出した答えはジル様を笑わせた。


「その覚悟を忘れるな。ここんとこに刻み込め」


 と、大してない自分の胸を親指で差しながら言われた。


 一瞬で顔面目掛けて尻尾が飛んできた。


「へぶぅっ!? け、怪我人に何てこと、を……」

「真面目に聞けテメェぶち殺すぞ切り刻むぞ擂り身にすんぞダボこら」


 凄い早口だった。


 めちゃめちゃ怖かった。


「後、胸はあるわボケ。着痩せするタイプなんだよオレはっ」


 気にしてるらしい。


 めちゃめちゃ可愛かった。


 あまりの痛みに鼻血と涙を流しながら謝ると、咳払いして続ける。


「それはお前の剣になる。心の芯だ。決して折れないようにもっと太らせろ、もっと鍛えろ、もっと研ぎ澄ませ。全身全霊、命を懸けてやりたいことを成せ。良いかユウ。人生は一度っきりなんだぜ? 楽しめよ、笑えよ、貫けよ。男だろうが」

 

 誰よりも()な台詞だった。


 心臓が高鳴った。


 闘志が、やる気が出てきた。


「クハッ、わかったら寝とけ。明日も丸一日を休養に回す。それでもダメなら明後日もだ。動けるようになったら再開する。……良いな?」

「っ……はいっ!」


 鼻をすすり、さっきまでとは違う種類の涙を根性で止める。


 全く、未だ嘗てないほど師匠らしいこと言いやがってこの人はっ。


 更なる尊敬の念を抱いた俺は約二日を掛けて身体を癒し、《闇魔法》の特訓を再開した。








 

 


「よし、やってみろ」

「は、はいっ」


 恐怖に震える身体を叱咤し、深呼吸と《集中》スキルを駆使して落ち着かせる。


 少しずつ少しずつ、教わった覚悟と芯を意識しながら負の感情を乗せた魔力……〝闇〟の魔力を全身に流し、満たしていく。


 やがて、どす黒い感情や欲望、破壊衝動が一気に膨れ上がった。


「うぐぅっ……!?」


 唸るような声と共に耐え忍び、息を荒げる。


 予想に反して抑えられない程じゃなかった。


 どうやら一定のラインまで〝闇〟の魔力を形成、循環、満たすと精神的な暴走と不調が襲い掛かってくるようだ。


 しかし、初めて使った時ほどじゃない。


 《狂化》を併用してないからか?


 そっちの方は一度で制御出来るようになったのか、ステータスから(暴)が消えていた。


 その為、今回は《闇魔法》だけ。


 ジル様の言う通り、耐性がなかったから暴走したらしい。


「お? あっさり出来たじゃねぇか」


 当の本人も目を丸くして驚いている。


「で、でも……結構、キツい……っすよ?」


 抑えられないほどじゃないと言ってもキツいものはキツい。


 腹一杯に食って吐きそうなのを必死に我慢してる時みたいな感じだ。


「まあまあ、何が出来るのか試してみようぜ!」


 目がキラッキラし始めた。


 何が楽しいねん。


 ま、そんなこと言ってもしばかれるし、脳内だけに留めておく。


「それも見えてるけどな?」

「うっ……そうやって心読むの止めてもらった良いですかね?」

「ダメだろ、暴走の予兆を見るのにも心を読んだ方が早いんだぞ」


 この、たまに来る正論パンチは何なんだ?


 マジで師匠してるぞこの人。


 ジト目を送り、「何ガン飛ばしてんだ? あぁん?」と凄まれて止め……話題というか気を逸らす為にも、取り敢えず〝闇〟の魔力を指先に集めてみる。


「何かあれだな、黒くなったな?」


 拍子抜けしたような反応をされた。


 実際、黒い影みたいので指が見えなくなるだけだった。


 ならばとそれを放出出来るかを試してみる。


 感覚的に魔力が足りてないというのがわかった。


 気付けば全身を覆っていた黒いオーラに、「うぉっ、何だこれっ!?」とビビりつつ、放出。


 今度は指先から黒い霧がモワッと飛び出た。


「おおー……」


 何とも嬉しくない顔をしてくれる。


 ガッカリしたような、新しい玩具が期待していたほど面白いものじゃなかったと気付いた子供のような顔だ。


 ムカつく。


 これでも身体が震えるくらいキツいのに。


「えっと……そ、それだけか?」


 俺の本気のジト目には流石のジル様も困ったように頬を掻いた。


 …………。


 改めて確認してみた。


 が……


「体感的にこれだけっぽいですね」

「うわ、つまんね」

「酷いっ!」


 ジル様の瞳に残っていた僅かな輝きすら消えた。


 くそぅっ、頑張ったのにぃっ! 何なんだよこれっ!


 そうは憤るものの、使っておきながらどういうものなのかもわからない俺は恐る恐る黒い霧に触れてみた。


「うわっ!?」


 何とも言えない感触に仰け反ってまで驚く。


 黒い霧は霧状から液体のような形状になって右手にくっ付いていた。


 少し焦って手を振ってみても全く取れない。


 焦り過ぎて〝闇〟の魔力が霧散する。


 それでも尚残り、俺の手から消えない。


「こ、これが……あんなに恐れられていた《闇魔法》……か……? 黒いのがくっ付くだけ? ……全然取れないし」


 ぶんぶんと先程より力強く振ってみてもダメだった。


 どうしたものか……。


 軽く悩んでいると、「ちょっと良いか?」とジル様が近付いてきた。


「え? あ、はい」


 俺はつい、手を出してしまった。


 流れ的にそうだろうと。


 何か考えがあるのかなと。


 対するジル様はというと……


 俺の手を両手で押さえ、すぅ~と息を大きく吸い、思いっきり吹き掛けた。


 それこそ流れるように自然に。


 唐突だが、ステータスの話をしよう。


 この世界のステータスは何を基準にしているのかわからんが、ある程度の物理法則をぶち破ることが出来る。


 ジル様には残像が生まれるくらいの速度で追われたこともあるし、当ててみろと超高速で動かれて残像に攻撃を掛けるなんてことは何度も経験した。質量を持った残像かと思ったね。


 しかし、衝撃やソニックブームみたいなものは感じても、それだけで吹き飛ばされるなんてことはない。


 ソニックブームクラスの衝撃波には確かガラスが割れるくらい威力が生まれる筈だ。


 走れメ○スの彼だって沈み行く太陽の十倍で走れば半径数キロの窓ガラスは全て割れ、人が居れば吹き飛ぶ。下手すれば建物も崩れるし、蹴られた犬なんて「きゃいんっ」なんて鳴く前に消し飛ぶ。


 にも拘わらず、風を感じるくらいということは地球とは物理法則が違うか、仕事をしない世界であるということ。


 兎に角、ステータス準拠。物理法則は二の次。


 攻撃力とかいう訳のわからないゲームみたいな項目もどの行為に反映されるのか、正確にはわかっていない。


 長々と語ったが、攻撃力が1万近くあるらしいジル様が防御力400もない俺に強く息を吹き掛けると、どうなるか。


 しかも俺そのものじゃなくて手。手首を抑えつけての行動。


 当然、俺の右手首と右手の指は全てあらぬ方向へ曲がってしまった。


「いぎゃあああああっ!?!!?」


 絶叫しながら痛みに悶絶し、手を見て、「いてえええぇっ……!」と下を見る。


 ジル様の吹き掛けた息により、地面までもが抉れていた。


 最早、ドラゴンブレス。


 最強は伊達じゃない。


「ぐあぁぁ……!? いってぇなぁもうっ……!」

「いやー悪い悪い。取ってやろうかと思って」

「手首から先まで取られるとこでしたよ!」

「クハハハ! すまんすまん」

「なにわろとんねん! 謝る気ゼロじゃん! 最悪だこの人っ!」


 因みに、黒い霧は全く意に介してなかった。


 何事もなかったかのようにそのままだ。


 そうして……大騒ぎしたせいだろう。


 虫魔物を大量に現れた。


 地面から、木々の隙間から、木の上から、空から。


 ありとあらゆる巨大な虫達が俺目掛けて向かってきている。


「「「「「キシャアアアアアアアッ!!!」」」」」


 ふと横を見ると、ジル様の姿はなかった。


 え……?


 と、周りを見渡しても居ない。


 そうしている間にも虫達は接近してきている。


「いやジル様ジル様っ!? 倒せと!? 今っ!? えっ、この状況でっ!?」


 返答はなかった。


「鬼ぃっ! 鬼畜ぅっ! 白い悪魔めぇっ!」


 一先ず回復薬で手を治し、奮闘した。


「はぁ……はぁ……はぁ……し、死ぬかと思った……!」


 汗だくの血濡れの体液まみれで四つん這いになり、ぜぇぜぇと息を吐く。


 ジル様は「今日は良い天気だなー」と木の上から降りてきた。


 ツッコミを入れる気力すらない。


 そんでもって……


「ぶ、武器が手から離れねぇ……」


 完全に忘れていた。


 ジル様の息でも取れない吸着力、粘着性。


 俺の意思を外れても残り続ける異常な点もそうだ。普通の属性魔法なら魔力や創造者本人のイメージが霧散すれば消える。


 スキルだからか? つぅか、そもそもスキルなのに何で魔力を?


 尽く常識外れのスキルらしい。


 少しして、「もう一回《闇魔法》を使って、手に付いている霧ごと吹き飛ばすように黒い霧を出せば良いんじゃね?」という結論に至った為、試したところ出来た。


 悩んでいたのがバカみたいに簡単に取れた。


 だが、今度は液体状からまた霧状になり、目の前を空中で浮遊している。


 どないせぇっちゅうねん……。


 兎に角、幾つかのことはわかった。


 何かよくわからないけど、『めちゃくちゃくっ付く〝闇〟』が出せること。


 その放出方法に除去方法、一日使える限界回数等々。


 戦闘に使えるようになるにはまだまだ試行錯誤が必要そうだ。


 結論。

 

「毎日のサバイバル修行に《闇魔法》の鍛練を追加する! 危なくなったらまたボコボコにする安心しろ!」


 だとさ。


 何処に安心出来る要素があるんだよ。


 俺はちょっと泣いた。


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