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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第4章 砂漠の国編
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第156話 狂乱のシレンティ 前編

長くなったので分けました。



 海を割ったというモーゼさながら、王都の一方向が綺麗に消失した光景にシキは絶句していた。



「い、いやあああああっ!? 誰かっ、誰かあああっ!!」

「何だよこれっ、何だよこれっ……何なんだよおおっ!?」

「お、お母さん……? お母さんっ、何処っ? 何処なの……?」



 聞こえてきた声に、彼はハッと我に返る。




 彼の脳裏を過っていたのは以前、大量の聖軍と戦った時の光景。

 くっ付いたら離れない〝粘纏〟の性質を持った紫色の炎で以て、彼は似たような惨劇を起こした。



 その彼ですら固まる光景。



 聖軍は明確な敵だった。全員が自分を殺すつもりで襲い掛かってきた。

 しかし、今回は違う。何の罪もない、無関係と言っても良い大勢が一瞬で死んだ。



 怒りよりも驚愕。

 否、ただただ引いているという方がより正しい。



 それほど絶望感溢れる光景だった。



「っ……」



 気付けばカラカラに渇いていた喉を鳴らしつつ、下を見れば誰かの腕を持って泣き叫んでいる女や訳もわからず叫んでいる男、血塗れになりつつも母親を探している女の子の姿があった。



 つい、この地獄絵図に対する感想が漏れる。



「最悪だ」



 王都がめちゃくちゃになるという船長の予言はこのことだろう。



 船長はこの惨劇を『見』たからシキ達の元にレナを寄越した。



 が、彼等はシレンティの暴走を止められなかった。



 ――最早、弱いから死んだとかそんな次元じゃない……



 呆然としながらそう思った。



 人間の強弱に関わらず、あの銃から放たれた光が全てを壊した。



 ――あれは……人間が使っちゃいけない光だ。



 何故かそう《直感》した気がした。



「やっ……ろおおおおっ!!!」



 激昂したアリスが崩れた民家の中から飛び出る。



 目にも止まらぬ速さ。



 対する敵のシエレンはクワガタのように横にばっくり開いた背面の縦型スラスターから魔粒子を噴き出させ、飛んでいた。



 その余波と巻き起こった砂埃に、アリスはギリギリのところで急停止した。



「くっそっ、これだから砂地はっ……!」

 


 目に砂が入ったらしい。強く両目を擦っている。



 その隙を敵が見逃す道理はない。



「アリスッ!!」

「わぁってるっ!」



 シキの声と同時、シエレンの蹴りがアリスに迫り、彼女は返事をしながら《縮地》で避けた。



 ズザザザッ! と、飛んできたシエレンの脚が地面にめり込む。



 そこを再び狙おうとするアリスだが、シエレンの背面、虫の羽のように開いたスラスターがそれを許さない。



 シエレンの巨大な装甲を浮かせる強力なスラスターは即座に機体を浮き上がらせ、地面に下ろさせなかった。



 お陰で、空を飛べないアリスには闇雲に突っ込むくらいしか攻撃手段がない。



「ウザってぇッ!!」

「っ、撫子! 何してる!」



 アリスが《縮地》で消えるのを横目に、シキはマジックバッグから黒斧を取り出しながら放心している撫子に叫ぶ。



 撫子は消し飛んだ王都に見入っていた。



 ビームという概念を知っているシキとアリスでもドン引きする光景だ。銃すら存在しなかった世界の住人にとっては脳の理解が追い付かないのだろう。



「っ、こっち向いたぞっ! あん……? 何処見……てっ!?」



 アリスの声に釣られてシエレンの方を見ると、ハサミ頭の頭部が撫子の方を向いていた。



 そして、まるでそうするのが当然と言わんばかりに例の光線銃とは反対の手に持っていた振動長剣を撫子に投げ付けるようなフォームを取る。



「ヤバいっ! 撫子っ、撫子!」



 シキが再びエアクラフトを最大加速させ、撫子の元に向かう。



 黒斧を縦方向にするだけでなく、半身にした身体を軽く縮め、空気抵抗を出来るだけ減らしていると唯一の抵抗部分である顔や身体を空気の壁が阻んだ。

 片方しかない目を『風』の属性魔法で作り出した空気のレンズで守りつつ、一切を無視して加速を続ける。



「くっ、らああああっ! 後ろ見ろ馬鹿があああっ!!」



 その甲斐あってか、シキは(すんで)のところで飛んできた振動長剣に黒斧を叩き付けることに成功した。



 跳ねるように弾かれて飛んでいったシキはエアクラフトごと近くのテントの中に消え、テントの布地を破って地面に転がっていく。

 撫子はそこで漸く超至近距離を削っていった振動長剣に気が付いたようだった。



「し、シキ殿っ!」

「撫子ちゃんっ、今は!」



 守ってくれたシキに意識が向かってしまう撫子を、アリスの声が引き留める。



 気付けば、宙に浮いているシエレンは肩部装甲に装着しているもう一本の振動長剣を手にしていた。



『そ、ソーマの、かた……か、仇……かっ……仇っ……仇っ……カタキイイイィィィッ!!!!』



 この場にて、初めて言葉を発したシレンティの雄叫び。



 ただ拡声されただけの声。



 アリスと撫子は思わず後退りした。



 ゴーレムの中に居る筈の敵に、憎悪に飲まれていた。



「っ、やっと見えてきた……」

「……武装はさっきの銃とあの剣だけでござるかね」

「撃ってこなかったんだからアレ以外の銃は持ってねぇんだろ」

「いってぇな畜生っ……わかんねぇぞ、パッと見じゃ無さそうだがな」



 アリスと撫子の短い会話に、エアクラフトで浮きながら痛そうに背中を(さす)っているシキが入ってくる。



「シキ殿っ、す、すまないでござるっ、つい身体が……」

「良い。どの道、アリスとお前無しじゃ勝てないんだからな」



 二人の固有スキル、特に撫子の【一刀両断】は強固なゴーレムの装甲を()()()破れる唯一の攻撃手段。

 持ち前の〝気〟で異常なまでの攻撃力を生み出すアリスにしても、黒斧でチマチマ攻撃することしか出来ないシキからすれば守らなければならない対象である。



『オオオオォアアアアアアッ!!!』



 何の意味があるのか、再び叫ぶシレンティ目掛けて、三人は走り出した。

 


「援護する!」



 シキはそう言うと、魔粒子を撒き散らしながら飛んでいき、



「俺はあの魔銃をっ!」



 と叫んだアリスは《縮地》で消える。



 最後に、撫子が「拙者が斬るっ!!」と続こうとしたところでシエレンの魔銃が撫子に向けられた。



「っ、な、何で拙者だけ!」



 飛び出そうとして一瞬で顔を青ざめさせた撫子はアリス同様、姿を消す。



 が、シエレンは構わず撫子が居た方向にロックオンし、引き金に指を掛けた。



 余波だけでも生身の人間にはダメージがあると踏んだのか、それとも何も考えていないのか。



 ――こんな街中でっ、そう何度も使わせるかよ!



 先の光景と、今も尚下から聞こえてくる誰かの絶叫に強くそう思ったシキは《縮地》を持っていないことに歯痒さを感じながら叫んだ。



「ぶっ放すつもりだっ! アリスっ!!」

「おうよ!」



 アリスは対象が浮いているにも関わらず、一瞬にして間合いを詰めると魔銃の銃口に衝掌を繰り出した。



 ズガァンッ! とまさかの衝撃音を響かせた次の瞬間、上を向いた銃口が火を噴く。



 一撃で王都の一方向を消失させた紅の光が天を突き、それと同時に飛び出していたシキが黒斧を盾にしつつ、落下を始めていたアリスを掴んで離脱した。



「あちっ、熱ぃっ、くあああっ……手と、顔がっ……!」



 余波として迫ってきた尋常じゃない熱風に悲鳴を上げているアリスをエアクラフトに引っ掛け、マジックバッグから素早く回復薬を取り出すシキ。

 そして、そのまま悶絶しているアリスの顔と黒斧を持っていた自分の手に掛けた。



「っ……」



 手を襲う激痛が少しだけ和らぎ、息が漏れる。

 二人の患部は完全に焼き爛れていた。



 アリスは右手と顔、シキは風に煽られて熱風に巻き込まれた左手。

 ある程度は治ったものの、余波だけでこの威力かと戦慄してしまう。



「確かエネルギー残量みたいのが表示されてたよな! 今どうなってる!?」

「うわぁっ!? へ、減ってるようなそうでもない、ようなっ!」

「よく見ろ馬鹿! それによって対応も変わる!」



 くるりとその場で回転することで足元のアリスを肩に抱き抱え、戦況を把握させる。

 障害物という障害物はないものの、空を飛ぶ乗り物を操縦しながら余所見をする余裕はないのだ。



「そ、それより後ろ後ろ! 追ってきてるって!」



 焦りに満ちたアリスの声に仕方なく後ろをチラ見してみると、シレンティのシエレンが背面の飛翔用スラスターを全開にさせて迫ってきていた。

 例の魔銃を向けてこないだけまだマシだが、自分の二倍以上巨大なゴーレムが空を飛んで追ってきている様はやはり恐ろしいものがある。



『アアアアアアアアッ!!』

「こ、殺されるぅっ!?」

「暴れるな! わかってるっ、大丈夫だ! 大体っ、お前はもっとスキルを温存しろ! この調子じゃスキル頭痛がっ……回復だって間に合わねぇっ、だろうが!」



 バタバタと暴れるアリスに四苦八苦しながら、縦、横、斜めと振られる振動長剣を躱す。

 身体を横に傾け、時にはエアクラフトのスラスターを一瞬だけ全開にすることで上昇し、先程アリスを拾い直したようにくるりと回ることで全ての攻撃を避けて見せたシキに、アリスは感激したように「おおっ、やるなぁユウちゃんっ!」と声を上げ、シレンティは悔しそうに唸った。



「話すな! 舌噛むぞ!」



 上空で、しかもかなりのスピードで繰り広げられる攻防だ。当然、風は強く、話すのも辛い。

 しかし、そうこうしている内に追撃は不可能と悟ったのか、シレンティはゆっくりと停止し、真っ直ぐ上に向かって上昇を掛け始めた。



「あいつっ、何で上にっ!?」

「お前と撫子の強さを知ってんだろ。……撫子っ! 来い!」

「し、承知!」



 地面にて、いつもの抜刀の構えで虎視眈々とシエレンの隙を狙っていた撫子に声を掛け、空に上がってもらう。

 背中はアリスがしがみついているので場所はなく、エアクラフトに掴まらせる訳にもいかないので黒斧を両手で横に持って足場にしてやる。



「くっ……おおおっ、お、重いっ……」

「よっと、これ疲れるでござろうに」



 両腕と仮面に隠れているこめかみに血管を浮き出させなから軽く揺れるシキだったが、黒斧に膝を付いて苦笑している撫子に笑って見せた。



「クハッ、お陰でお前らのデカ過ぎる一歩分が稼げるっ」



 彼女らの《縮地》と《空歩》は一瞬で距離を詰められるが、直進的で応用が利かない。

 ならば自分が足場になれば良いと考えた訳だ。



 そして、そう言うや否や、浮遊させていたエアクラフトに魔力を送り込み、緩やかに上空を始める。



「うおぅっ!?」

「っ、あ、危ないでござるなぁ……!」



 突然の揺れに二人は驚き、特に撫子は斧が足場なので掴まるところに困っていたが、更に上空でこちらに向けて魔銃を構えるシエレンを見て目を細めた。



「……何で直ぐ撃たないんだ?」

「タイムラグ……一度撃ったら次の発射まで時間が掛かると見た」

「とはいえ、この位置は……」



 直撃すれば三人は即死、ついでに王都が吹き飛び、仮に避けられたとしてもやはり王都は吹き飛ぶ。

 既に百メートル近い高さだ。王都の全貌は軽く見渡せる。それら全てが消えることはなくとも、巨大なクレーターと大量の死人の山が出来上がることは容易に想像出来た。



 故に、シキは最低限シエレンを仕留められる自分達だけでも生き延びようとエアクラフトを横移動させる。



「……やっぱり」

「拙者達はどうでも良い存在でござるかっ……ええいっ、間合いさえ……!」



 射線上から離れる自分達には一瞥すらなく、王都に魔銃を向け続けるシエレンの姿に、アリスと撫子は苦虫を噛み潰したような顔で呻いた。



「奴もそれがわかっているから飛んでいる。お前らの攻撃はアンダーゴーレムと言えど、厄介だからな」

「……卑怯者め」

「だからって遠くからあんな兵器をぶっ放すなんて……マジで悪質だ。核爆弾みてぇなもんじゃねぇか」



 だが、シキのお陰で二人はそれを止められる距離に居る。

 角度的にもそれほど危険はないように思える。



「俺がまた弾くから撫子ちゃんがやってくれ」

「承知したでござる」



 二人の会話を無言で聞いていたシキは風が靡く中、シエレンを浮かせている飛翔用スラスターが停止したのが見えた。

 それまで見えていた光の粒子が瞬く間に消え失せ、電源の切れた玩具のように、糸の切れた人形のように機体が落下を始める。



「おいおいおいおいおいおいっ!」



 シキの声で二人も気付いたが、遅かった。

 シエレンの落下速度は既に定員オーバーのシキでは追えない速度になっている。その上、魔銃は相変わらず王都を狙い続けており、引き金に指を置いていた。



「くっそ!」

「拙者も!」

「っ……」



 シキの肩と黒斧を足場に《縮地》で後を追った二人はあっという間にシエレンに追い付いたものの、扇風機の羽のように高速回転している超威力の振動長剣が二人を阻んだ。

 見ればシエレンが後ろ手に振動長剣を構え、手首を回転させている。



「こいつっ!」

「姑息な手を!」

「二人共っ、掴まれっ!」



 アンダーゴーレムすら斬ってしまう振動長剣の盾に、二人は思わず《空歩》で急ブレーキを掛けたが、エアクラフトで後を追ってきたシキに再び拾われ、角度を変えて止めようと試みた。



 しかし。



「~~っ……! 盾のつもりかよ!」

「これではっ……」



 シエレンの回転する手首によって産み出された高速の回転盾は後ろも横も、頭上をも守っている。

 ゴーレムの腕の稼働領域は人間並み、あるいはそれを凌駕しているらしい。



『くひっ、くひひ……殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる……!!』



 コックピット内の集音マイクがパイロットであるシレンティの声を拾い、拡声させる。

 その声は相変わらず憎悪に満ちていた。否……寧ろ、喜色も混じっていた為か、余計に彼女の悪意を際立たせている。



「や、止めろ! 俺達を狙え!」

「この国の者に罪はない! 怒りの矛先としてはあまりに理不尽でござる!」



 三人の中で特に善人としての心を持ち合わせているアリスと撫子が悲痛な声を上げ、シキも仮面の奥底で歯を食い縛った。



 ――またっ……また俺の目の前で人が死ぬっ、また俺のせいでっ……



 レドとアニータの町がジンメンと聖軍によって滅ぼされる光景がフラッシュバックする。



 エルティーナと信者達の暴動、転移されたジンメンの大量発生、襲い来る聖騎士の群れ、廃墟と化した町と大量の聖騎士が燃え苦しむ光景が。



 フレアとアクアの最期、我が身可愛さに見殺しにしたリーフの後ろ姿が。



 そして、憎悪に満ちた目で刺してきたアニータ。

 世の不条理とシキの行動を嘆いて泣いたムクロの顔が浮かぶ。



「そんなことっ……させるかあああああぁぁっ!」



 気付けば叫んでいた。

 魔力ではなく、魔粒子を送り込み、風の抵抗を無視して超急加速を掛ける。



「っ、ユウちゃんっ!?」



 突然の絶叫、加速にアリスは驚いたものの、続く言葉に更に目を見開いた。



「このまま突っ込むっ! 死なば諸ともっ、だあああっ!」

「うえぇっ!? お、おうわかった! 俺も覚悟を決めるぜ!」

「っ……ならば拙者があれを斬るでござる!」



 そうして各々武器を構えた三人だったが、少し遅かった。



 シエレンは改めて王都に狙いを定め、引き金を引いた。



 同時に、《縮地》と《空歩》で位置を調整しながら刀を盾代わりに構えた撫子が振動長剣を斬り飛ばし、[全力疾走(オーバードライブ)]で追い付き、拳を伸ばすアリス、そして、それを追うシキが黒斧を振り上げた。



 しかし、次の瞬間、彼等の視界は再び爆ぜ……



 全てを焼き消す紅い閃光が王都目掛けて発射された。



次話は来週か再来週です。時間が取れなくて書けないかもです。

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