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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第4章 砂漠の国編
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第155話 最悪の光景



「シエレンが飛んだだと!? そんな馬鹿なっ!」

「本当だっ! 街中で撃ち落とす訳にもいかないし、魔法は魔障壁で弾かれるし……」

「兎に角っ、陛下と王子に報告だ! レナ様が逃走したとも聞いたぞ! どうなってる!?」

「そ、それがっ、民の為だからと言って囚人を解放して回っているみたいで……!」



 城の一角に集められていた武器と防具、マジックバッグ等を回収している最中、騎士達の混乱に満ちた怒号が聞こえてきた。



「大混乱だな……何の為の無線だ」



 レナが騒ぎを起こしている、と見張り番の男兵士達に話が回ってきたのには驚いた。



 これが合図だろうと急いで拘束を解き、兵士をぶちのめして出てきたのは良いものの、いざ騒ぎの方に向かってみれば件のレナとばったり遭遇。



 矢継ぎ早に「お姉ちゃんが盗賊のパイロットが王都をめちゃくちゃにするって! お願いっ、何とかして!」と言われ、返事を返す間もなく、罪人から没収したものを保管しておく建物の存在を教えられた。

 ついでにアリス達は変な汗を滴しながらトイレの場所を訊いていた。



「魔粒子装備とエアクラフトがない……? チッ、研究に回されたのか」



 レナから国の研究チームのことは聞いている。

 貴重なアーティファクトはそっちに回されるんだろう。



「っつっても俺のは横流しされた不良品だろうに……エアクラフトだってもう特別でも何でもねぇし……」



 苛々しながら回収を終え、急いで城の外に出た。

 城の隣でキラキラ輝くオアシスに思わず目を細めながら、辺りを見渡す。



 民族衣裳とメイド服が混ざったみたいな服の女達と先程の騎士達が何やら話しているのが見える。が、飛んでいるというシエレンの姿はない。



 撫子曰く、俺がミサキから奪った魔粒子装備は初期の初期に見つかった魔力変換率と昇華率の低い不良品。

 俺やミサキのような異世界人だからこそ使えるものらしいから見りゃわかると思うんだがな。それこそ他国に横流しするくらいなんだから。



 なんて思いつつ、騎士達に擬似縮地で近付き、三人中二人を蹴り飛ばした。



「むっ! な、何だ貴様!?」

「何もっ、ぐああっ!」

「悪ぃな」



 ばっしゃーんっ! とオアシスから水飛沫が上がると同時、素早く魔法鞘から取り出したショーテルと爪長剣をメイドの一人と残った騎士に突き付ける。



「ちょいと訊きたい。さっきの飛んだシエレンってのはどっちの方向に飛んでいったんだ?」

「何処からこんな剣をっ……い、いや、お前っ、レナ様を誑かした盗賊共の一人だな!? 聞いてどうするつもりだ!」



 加減したとはいえ、オアシス目掛けて吹っ飛んでいった仲間や目の前に突き付けられた長剣に臆することなく吠える騎士。

 メイド達もレナの名前を聞いた途端、視線が鋭くなった。余程、慕われているらしい。



「どうもこうも、そのレナ様からそいつを止めてくれって命令されたんでな。出来れば早めに教えてもらいたい。怖いや痛いじゃ済まなくなるぞ?」



 窃盗に国家反逆罪、後は暴行と公務執行妨害か? まあ、何でも良いけど、シャムザに入ってから色々やらかしている俺としてもレナの部下を殺すのは忍びない。

 どうしたもんかと思っていると、意外にもメイド達の方が「遺跡の方です!」、「あっちあっち!」と指差して教えてくれた。



 丁度、塔みたいになってる部分と城の一部で隠れていたようだ。



「なっ、おい! こんな目付きの悪くて隈が凄い見るからに怪しい奴を信用するのか!?」

「ん、そうか。脅して悪かったな。ついでに俺の魔粒子装備とエアクラフトの場所知ってるか? 急いでるから最悪走っていくつもりなんだが……後、お前失礼だぞ」



 久しぶりに容姿について言われたので、ぶつぶつ言いながら剣を納め、角型だった仮面の形状をいつもの魔物の骸骨みたいなものに変えて顔を隠す。



「わっ、形が変わった!? 凄いっ!」

「感心してる場合じゃないわよっ」

「あ、そうだったっ、えっとね! アーティファクトはわかんないけど……」

「エアクラフトならありますよ! こちらです!」



 各々元気な反応を返しつつも、付いてこいと走り出すメイド達。

 それを諌めようと残った騎士が声を掛けた。



「お、おいっ! どうなっても知らんぞ!」

「だったらあんたが何とかしなさいよ! こんな時に嘘付いたってしょうがないでしょ!?」

「いや、流石にエアクラフトを渡すのは不味いだろう!」

「一つや二つくらいでガタガタ抜かさないっ!」



 と、気の強いメイド達と騎士で一悶着あったが、エアクラフトの収納所への案内が始まった。

 見れば何だかんだ言って騎士も付いてきている。メイド達に何かあったらと考えてるんだろう。



 道中、アリス達が入ったトイレを見つけたので足を止め、アリス達の武器や防具、マジックバッグに保存していた水と食料を置いて矢印を作っておく。



「あー、トイレ中悪いんだけどっ、矢印作ったからそっちの方に向かってくれ! 俺はエアクラフトで向かう!」



 いきなりの俺の発言にメイド達も驚いていたものの、仲間が居たのだろうと俺の意思を汲み、ばら蒔いた武器と防具を並べるのを手伝ってくれた。因みに水はペットボトルだし、食べ物はカロ◯ーメ◯トだしで手出しはなかった。



 内心、流石にトイレタイム中に話し掛けるのはどうかと思ったが急いでるし、仕方ない。メイド達の手前、ちょっと気まずかったけどな。女子トイレっぽいし。……あれ、そういやリュウは何処行ったんだろう。まさか一緒な訳ないだろうし……まあ良いか。



 一瞬、首を傾げたものの、直ぐに切り替え、走り始める。



 高ステータスなのか、騎士もメイド達もめちゃくちゃ速い。ワンピースみたいな服なのに。



「あんたらはレナの方に向かわなくて良いのかっ?」

「そのレナ様が使用人も騎士も全員、城から離れるようにと言っているらしいのですっ」

「私達、それを皆に言って回ってるとこだったの!」



 大人しそうな子と短髪で元気そうなメイドの返しに少し感心してしまった。

 レナの命令だと聞いた途端に態度が軟化したってことは全員、レナの側近的なメイドなんだろう。にも関わらず、一番大事なレナの命ではなく、レナの命令を触れ回ることを重視している。つまり、このメイド達はレナが最も求めることを行っていた。



 レナの心情を抜きにすれば手足である部下として最適の行動。



 城からの退去……逆に言えば城が危ないってことでもあるんだが……っと。



「お前達っ、そこで何をっ……なっ、貴様はッ!?」



 ぞろぞろと歩いていた騎士達に見つかり、剣を向けられた。内一人は珍しい女騎士であり、一際豪華な装備をしている。



 ――あの女、隊長か? この位置、進行に支障はないが……メイド達を無視して魔法を飛ばされても困る。ここは軽く牽制を……。



 反射的に発動した思考系スキルが脳の処理速度を超高速へとシフトする。



 一瞬の間すらない内に剣を抜こうとした俺だったが、対応する前に先程の短髪メイドが俺達の前で両手を広げ、止めてくれた。



「違うの! この人はレナ様に言われてっ!」

「さっ、今の内に!」



 一人が騎士達を止めた瞬間、残った二人が俺の手を引っ張る。



「す、すまないっ」

「良いですっ、お早く!」



 手を引かれるまま騎士達と対峙するメイドに短く謝り、歩を進めた。



「お前っ、メイドが賊を逃がすのか!」

「こんな時に何故っ!?」

「静かにしろ! ……で、何がどうなっているのだっ?」



 少しすると、後ろから飛んでいた怒号はやがて聞こえなくなっていった。



「…………」



 あのメイドは大丈夫なのか、という疑問はあるが、訊いてどうなる訳でもない。

 騎士も仲間達と会った割りには無言だった。敵意も減っている気がする。



 ……喉が渇いたな。



 軽く気が抜けたのか、今の今まで忘れていた喉の渇きと空腹を急に思い出した。



 といっても飲み食いしている暇はない。

 エアクラフトさえ手に入れれば移動中、多少の時間はある。それまで我慢する他ないだろう。



 城というより、神殿のような造り……柱ばっかで壁がなく、やたらオアシスの見える外に繋がっている廊下を走っていると、時折砂漠の海賊団の皆の声が聞こえてくる。



「幾ら姫様のご命令と言っても賊を自由にする訳には……!」

「良いから通せ! サンデイラを囮にするんだよ!」

「魔導戦艦はここにはない! 王都の外だ! あんな巨大なものをこの城に置くわけないだろう!」

「ならエアクラフトと武器! 俺達も出る!」

「んなこと言われたって……」

「なっ、アンダーゴーレムを迎撃に出したぁ!? あの街中で戦わせるってのか! あぁもうっ、オイラのアカツキを何処にやったのさ!」

「ゴーレム同士の戦いがどんなに激しいのかわからないんすか!? 死人がいっぱい出るっすよ!」

「回復薬と魔法使いを集めてください! うちの団員にも回復魔法が使える人が居るから解放して! 責任っ? 人が死んでからじゃ遅いでしょっ!? 何を言ってるの! 避難誘導の指示も出さないと!」



 ヘルトやレド、アニータの声もあった。

 レナが次々に皆を解放しているようだ。



 サンデイラを囮に誘き寄せるったって、相手はたったの一機……バカデカいだけの魔導戦艦なんか何のエサにもならない。



 聞こえてくる内容からして、皆、船長の不在と騎士達の対応の遅さに苛立っているっぽいな。……騎士達と余計な確執を起こさなきゃ良いんだが……



「っ、ここです!」



 メイドの言葉に意識が現実に戻る。

 気付けばエアクラフトを収納しているという建物に辿り着いていた。



「種類は!?」



 辿り着くや否や、これまで無言を貫いていた騎士が声を張り上げる。

 欲しいエアクラフトの形状について訊いているんだろう。



「ボード型っ、出来れば長方形のやつ! スラスターは四つ以上!」

「何ぃっ? また安定しないものをっ……」



 建物の中は大量のエアクラフトでいっぱいだった。

 四角形の部屋の壁全てに色々な形状のエアクラフトが立て掛けてある。あまりの多さに、俺が得意とするボード型を見つけるのは少し時間が掛かりそうだ。



「これっ……は違うっ、これでもない……!」



 騎士も遅れて事態が飲み込めてきたらしく、必死になって探してくれている。メイドの二人もだ。



 そんな中、かなり遠くで何かが崩れるような音が聞こえた。

 全員がバッと一方向に振り向いて固まる。



「今の感じ……建物かっ?」

「っ、遺跡の近くには研究所があるっ、使い方がわからない幾つかのアーティファクトの展示もしていた筈だ!」

「街もそう離れてないです! 急がないと!」



 音は断続的に聞こえてくる。つまり、既に戦闘は始まっている。



 しかも、敵は真っ先に遺跡に向かった。



 ――遺跡の近くの研究所、アーティファクトの展示場……。



 いつだったか、リュウとショウさんが撮ってきた巨大な銃の写真が脳裏にちらつく。



 ――もしアレがゴーレム用の武器で……敵が使い方を熟知……いや、熟知はしてなくても使えることを知っていたら……



 エネルギーゲージらしき光はかなり溜まっていたような気がする。



 あの時も少し思ってはいたが魔導砲の威力を知った今となっては本格的にヤバい兵器にしか思えない。



 ――あのゴーレム乗り……眼鏡野郎が喰われてからの暴れ方は尋常じゃなかった。先ず間違いなく原因を作った俺達を狙う筈……そして、レナが言っている城からの退去命令……



 その瞬間、心臓が一際大きく跳ねた。



「不味い……不味い不味い不味い! もうこの際、形が近けりゃ何でも良い! あんたらも急いで逃げろっ!」



 最悪の光景を想像してしまった俺は冷や汗を流しながら叫ぶ。



「な、何だってんだ急にっ、ボード型に近いっつったらこれくらいしか……」

「それで良いっ、寄越せ!」



 ドン引きしたような顔の騎士が持っていた、二等辺三角形のようなエアクラフトを無理やり奪い取り、スラスターの形状に目を通しながら続ける。



「俺達の船長は未来を見通せるっ、レナが城から離れろって言ったんだよな!? ってことはこの城が危ない!」

「み、未来予知……? まさか、以前城のアーティファクトに瞳を献上した……」

「そんな力があって、ど、どうして……」



 騎士とメイド達が困ったように目を合わせているので、軽く説明しつつ走り出した。



「見通せるだけで何もかもがわかる訳じゃないっ、王都がめちゃくちゃになるって言葉と城からの退去命令っ、船長はどちらかか両方の未来を捕まってから見たんだ!」



 外に出たと同時にエアクラフトに飛び乗り、魔粒子を噴出させる。

 エアクラフトはいきなり乗った俺の体重に一瞬、地面に落ちかけたものの、直ぐ様浮き上がった。



「ちっ、四つあったってケツの方にしかスラスターがないんじゃ……! 姿勢の維持は先端を上に向かせれば……ならブレーキは……方向転換しかないかっ。その方向転換は……軸足と反対の足の体重移動!? しかも前の重さと形に慣れてたから使い辛ぇったらねぇ……兎に角っ、死にたくなけりゃ城の奴等を全員外に出しとけ! オアシスに飛び込んでも良いっ、城から離れるのが最優先だ! 良いな!? 俺は忠告したぞ! 後、色々助かった! 有り難うっ!」



 柱の多い廊下ではあったが、幸いこの城は広い。

 オアシスや外の庭園みたいな場所にも繋がっているから簡単に外に出れる。



 俺は悪態と忠告、礼を言うだけ言うと、急いでその場を飛び出した。



「うおっ!?」

「きゃあっ!」

「やん!?」



 後ろで聞こえた悲鳴を無視し、先程聞こえた皆の声の方に向かう。



 城は外から見ると、やはり神殿のような建物だった。ほぼ全ての方向に俺が出てきたような柱の廊下がある。風通しの良さそうな造りだ。



 そんな城の外周をぐるりと回り、オアシスの水面と空を蹴って一直線に戦闘の方に向かっているアリスとオアシスを避け、遠回りして街の方を走っている撫子の姿を確認した。二人とも水飛沫や砂埃があるからわかりやすい。



「リュウの野郎は何処に居るんだよ……!」



 未だに見当たらないリュウに再び悪態を吐きつつ、集まりつつある団員達のせいで人だかりとなっている庭園の方に叫んだ。



「お前ら聞こえるなっ!? 聞いているかもしれないがこの城は危ないっ! 恐らく船長の予言だ! 全員、即座に城から離れろ! 男共は出来るだけエアクラフトと武器を集めて離脱! 女子供は点呼を取りつつ退去! 城の奴等はレナが誘導してくれる! 船長も探せ! 後リュウっ!! テメェ何処に居やがるっ!!! さっさと来いっ!! ムクロもっ、聞こえてたらわかるだろっ!! 絶対に離れろよっ!? てか出来ればお前も来いっ!!」



 《咆哮》スキルを使ってまで叫んだので、先ず間違いなく城の全員が聞こえている筈だ。



 船長もムクロも自力で脱出してくれれば良いんだが……



 と思いつつ、最大加速。



 ぐんっ、と身体を持っていかれながらも、何とか落ちないように踏ん張り、撫子の元に向かう。



 ついでにマジックバッグから水と食料を取り出し、無理やり口の中に詰め込みながら爆走している撫子に手を伸ばした。



ふははれ(掴まれ)っ!」

「わっ、ビックリしたぁ!? か、かたじけないでござるっ!」



 撫子の速度を考慮して斜めに進み、すれ違うようにして手を伸ばすと、撫子は驚愕で目を見開いたものの、直ぐに手を掴んでくれた。

 そうして、そのまま引っ張り上げた次の瞬間、浮いた撫子の足元で何かが光った。



「ひぃっ」



 ふわりと浮いた身体と、何処からか現れて刀を振ってきた和服の男にビビる撫子。

 当たる寸前だったこともあり、何度も自分の足先を確認している。



「んっくん……な、何だ今、のっ!? っとぉ!」



 撫子を拾った俺も攻撃対象なのか、これまた何処からか飛んできたクナイっぽい飛び道具が眼前を通り過ぎた。

 驚きながらも回避行動の為、右へ左へ、上へ下へと身体を揺らす。



「うひゃあっ!? んぐっ、ちょっ、シキっ……殿ぉっ!?」



 攻撃は止まないし、撫子は煩いしでウザいのでオアシスの方にエアクラフトを向け、再び斜めに戻る。

 距離的に無駄と悟ったらしく、謎の攻撃はパタリと止んだ。



「よっ、と……」

「きゃあっ……も、もうっシキ殿! 乱暴でござるよ! し、しかもこの持ち方はちょっと……」

「煩ぇ、一人乗りだ。嫌なら戻って走れ」

「いや今の見ておいて戻れと!? 鬼でござるか! ……鬼でござったな」



 いきなりのお姫様抱っこにバタバタ暴れる撫子を冷たくあしらうと静かになった。



 多分、今のは撫子の『死んだら一族の誰かに移る』とかいう固有スキルを狙っている連中だろう。

 初めて撫子と会った時も狙われていたが、まだ追われていたとは。



「しつこい連中だな」

「でござろう? 幼少期からあれでござるからなぁ」



 会話はそれで切り上げ、今も尚何かが崩れるような音の方を見る。

 片目だからか、音の方は土煙しか見えない。が、近くまで辿り着いていたアリスが土煙に突っ込んだのは見えた。



「状況は!? にしてもっ、飛ばし過ぎだ!」

「警備用? のアンダーゴーレムを件のゴーレムが斬り壊したところでござる。……アリス殿、肝心のタイミングでスキル頭痛を起こさないと良いでござるが」


 

 斬り壊した……シエレンに備え付けられていたとかいう振動長剣か? あのクソ硬いアンダーゴーレムを斬るなんて……色的に茶色のバーシスっぽいな。

 


 突き進むにつれ、晴れていく土煙の中に紺色のゴーレムが立っているのが見え始めた。

 しかし、その周りには茶色い残骸しかない。染色でもしてない限り、遺跡を警備していたバーシスがやられたのだろうと推測する。



「む、敵ゴーレムが何か持ち上げ……っ、アリス殿が突っ込んだでござる! あの様子、普通じゃない! 拙者もっ!」

「なっ、ここでかよ!?」

「さっきは助かったでござるよっ、では!!」



 見え始めたばかりで着いた訳ではない。寧ろまだオアシスの上だ。

 にも関わらず、撫子は俺の手から降りると、《空歩》と《縮地》で姿を消してしまった。



 アリスもそうだが、撫子は凄まじく目が良い。

 距離を考えてももう十分だと判断したんだろう。



「この一日で、ある程度回復したとはいえっ……」



 戦ったことのないシエレンとの戦い、それもアンダーゴーレムを斬るほどの敵だ。幾らあの二人でも油断は出来ない。



 それに……



 と、憂いた刹那。



 視界がカッ! と爆ぜた。



 遅れて強い熱風と衝撃が俺を襲う。



「くぁっ!? っ……や、やっぱりか……!」



 あまりの熱風に思わず手甲を盾にしつつも、無理やり突き進んでいた俺も漸く見えた。



 しかし、それはアリスと撫子に見えていたものを遥かに越える最悪の光景だった。



 離れていた俺とは違って軽く吹き飛ばされているアリスや撫子の姿ではない。

 


 まさにビームという言葉が相応しいであろう赤い閃光が地平線の彼方に飛んでいったことでもない。



 飛んでいく最中に横断した王都の一方向。

 その全てが完全に消し飛び、付近にあった大量の建物とテントが崩れ、燃えている光景だ。



 ビームが横断した場所は人も、物も、建物も、テントも、砂地である地面すら抉れて消えている。



 その周囲は更に悲惨だった。



 平和に過ごしていたであろう夫婦が、子供が、商人が、兵士が、その場に居た全ての生き物が()()()()()



 更にその近くで座り込み、呆然としている人、腕や脚、顔が溶けて悶絶している人、隣に居た筈の誰かを必死に探している人。



 上から見ていた俺にはその最悪の光景がよく見えた。



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