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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第4章 砂漠の国編
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第154話 シレンティの正体



「あぢぃ……」

「暑いね……」

「暑いでござるなぁ」

「……言うな、余計暑くなる」



 シャムザ軍に捕まって早一日。

 アリス、リュウ、撫子、俺はそれぞれ隣り合う形で別々の牢屋に閉じ込められていた。



 囚人を捕らえる場所なので、当然冷房的な魔道具はない。

 密封空間でむわっとした暑さというとサウナを彷彿とさせるが、狭いし、汚いし、何か変な臭いもするし、汗を拭くタオルすらないので不快感が凄まじい。後、水も食料も貰えない。拷問だろこれ。



 牢屋自体は何処にでもある(?)普通の汚い牢屋だ。

 レンガ造りの地下牢、四畳くらいのスペースに硬いベッドと床に穴が空いてるだけのトイレがある。



「今更ながらに思うんでござるが……何故男女を同じ空間に? しかもこの割り振り……嫌がらせとしか思えないでござる」



 イメージとしては俺とリュウが隣、その向かいにアリスと撫子が居るのでお互いの姿が丸見えである。

 あまりの暑さにアリスが舌を出して脱力しているのも、撫子が額に汗を滲ませながら胡座をかいている姿も見える。



 この距離感、割り振り……当然、用を足そうもんなら光景はおろか、音や臭いまで伝わってくるだろう。



 王子の『自分が受けている毒等の状態異常を他人に移す』固有スキルを最大限利用する為の割り振りだな。

 俺達みたいな仲間が居る奴等の心を折るには羞恥心やら何やらを煽るのが一番効く。ついでに死なない程度に苦しませる毒とかで尋問をするのも良いかもしれない。次はお前がこうなるぞ、という見せしめにもなる。



「ちっ……そう考えると案外、強いな。あの馬鹿王子」



 まあ、能力以前にこの割り振りと暑さなら数日放置するだけで男女関係無く発狂ものだろうけど。



 なんて思いながら、ちらりと牢屋の出入口の方を確認する。



 二人の男兵士が机を挟んで談笑している。

 椅子に座っており、油断しているように見えるものの、武器や無線らしき魔道具を手放す様子はない。



 見張りを態々男にしたのも、女の羞恥心や自尊心をズタズタにする為だろう。

 つくづく厭らしい馬鹿王子である。



 とはいえ、トイレ用かは知らんが両手が縛られているだけで両足までは縛られてないから頑張れば逃げられる。



 問題は牢屋全体に魔法が使えないよう細工されてることだろうな。()()の人間なら。



 ステータスの高さ故か、俺達は全然参ってない。風呂に入りたいのと喉が乾いた、腹減ったくらいだ。

 魔法に昇華出来ないだけで魔力は使えるので、リュウは無駄にチートな『無』属性魔法の魔力を身体に循環させて耐えてるっぽい。



 やはり、やろうと思えばいつでも逃げられるってのが心の余裕に大きく貢献している。

 何度か試したけど、無詠唱でも魔法が発動しなかった。そういう魔道具が置かれているのか、この牢屋そのものがそういう造りなのか……どっちにしろ、スキルが使える時点で「何だかなぁ……」とも思ってしまう。



 付与能力らしい撫子の【一刀両断】然り、全身を雁字搦めにでもしない限り防ぎようのないアリスの【全身全霊】、《限界超越》然り……



 ついでにマジックバック化してある俺の魔法鞘が見逃されたのもデカい。

 剣を鞘の中に入れることで、あたかも剣を落とした短剣の鞘のように偽装したお陰で完全にノーマークだった。代わりに俺の腰に〝粘纏〟でくっ付けていたマジックバックは服ごと切り取られたが、多分、後で回収出来る筈だろう。



「……はぁ。船長の合図はまだか……この暑さ……そろそろ限界だぞ」

「せ、拙者はお花摘みに行きたいでござる」

「俺もう○こしてぇ」

「僕も……ちょっとヤバい……かも……」



 仲間達の正直な返答に思わず苦笑いしてしまった。



 竜人族同様、排泄の必要がない魔族の生態が今日ほど有難いと思ったことはない。ま、【抜苦与楽】持ちの俺にはどの道関係ない悩みだけどな。

















 ◇ ◇ ◇



 シャムザの王都、テントや小さなレンガ造りの建物が並ぶ中、一際目立っている王城の一部屋にて。



 皺の濃い顔を強張らせながら顎髭を弄る老王と偉そうにふんぞり返ったナール王子が無駄に豪華な装飾の施された椅子の上で眼前に跪かされている二人の女性を見下ろしていた。



 片やサラサラ、片やふわふわとした金色の美しい髪は無造作に床に投げ出され、それぞれ相対するように真逆の肌色を晒している。

 賊の一味とはいえ、王女だからか、レナは比較的清潔感のある質素な服を着させられていたが、横の船長は奴隷のような小汚ない服を宛がわれていた。



「して……貴様らは何をしていた?」



 威厳はあれど、覇気はない。

 まさに衰えた王と化しているレナの実父が口を開くと同時、後ろに控えていた騎士が魔法の使用防止の為の猿轡を外しに掛かる。



 しかし、二人は無言だった。

 レナは自分達を見下ろす老王とナールをキッと睨み付け、船長は俯いたまま虚空を見つめている。



 ほぼ無反応の二人に対し、ナールは大袈裟なまでに溜め息を付き、言った。



「はぁ……レナ。お前はそこの平民に脅されていたのだろう? 大局を見れない平民が力を持つからこうなる。こと未来予知ともなればお前ほどの者でも踊らされるさ」



 暗に「そうだと認めれば何とかしてやらなくもないぞ」と言っているらしい。

 そんなナールに、レナはもう我慢の限界だと言わんばかりに低い声を出した。



「私腹を肥やすばかりの俗物が言うことか……! 」



 近くで待機している騎士達が一斉に息を飲む。

 国の為、民の為と、日々鍛錬を重ねるレナを慕い、敬愛しているからこそ彼女の殺気と怒気を隠さない表情に、その声に彼等は畏れを抱いた。



 だが、衰えた王とその馬鹿息子ナールには何も響かない。



 彼女の振る舞いに残念そうに溜め息を付き、あるいは肩を竦めている。



「私腹私腹と言うがな……わしは来たるべき時に備えているつもりだ。遊んでいるつもりも政を疎かにした覚えもない」



 レナは老王の発言に口を閉ざした。

 事実、老王はアーティファクトの力に魅入られこそすれ、民を蔑ろにはしなかった。少々行き過ぎているとも思えるが、遺跡の発掘、アーティファクト研究は国の繁栄に繋がっている。



「……ではそこの愚兄はどうなのです。魔導戦艦やアーティファクトをまるで玩具のように弄んで……」



 軽く深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、ならばと矛先を変える。

 ナールには老王よりも明確な差別意識と傲慢がある。責められる点は多い。



「おいおいレナよ……賊と組み、数々の罪を犯した王女が言うことか? 遊んでいるのはお前の方だろう。国が潤っている大事な時に、賊ごときに絆され、シエレンまで破壊した。幾ら王女と言えど、極刑は免れんぞ」

「話を逸らさないで頂きたい! 私は私のやり方で国を守ろうとしたまでです!」

「はっ、それで自国のゴーレムを破壊するのかっ。戦力を減らしておいて何が国を守るだ。我が妹ながら呆れてものも言えん」

「まだ言うか! 人の話を聞こうともせず、嬉々としてゴーレムをっ、エアクラフトを使っていた者が!」



 レナとしても船長のこれまでの強奪行為やアリスの軽はずみな行動は痛いところ。

 とはいえ、譲れないものは譲れない。



 他者の目にどう映って見えるか。それが王族として最も大事なことであると理解はしている。

 しかし、レナはそれを度外視してでも船長の、姉の行動は正しいと思っていた。

 


「……もう()い。貴様が民の為に身を粉にして尽くしているのは知っている。それが何故あのような騒ぎを起こしたのかは気になるが……」

「そうだ! 賊の潰し合いならまだわかるっ。愚かにも国の所有物を不当に得ていた重罪人共のいざこざよりも、人喰いワームの群れの方が問題だ。あの数っ、規模っ、大きさっ、どれを取っても国の一大事だぞ! シエレン部隊でも退けられるかどうか……」



 老王とナールからすればレナの行動よりも人喰いワームの群れの方が問題だった。

 人喰いワームの大量発生、巨大な個体の目撃情報は入っていたが、国そのものを根本から崩しかねないの群れとその主だ。形こそ違っても、少なからず国を想っている二人としても放っておける訳がない。



「群れに関しては知らないと申した筈。未来予知の力を持っていながら、貴方方が我々の動きを読めなかったように我々にも知らないことがある」

「また同じことを言うっ。お前達の行動が奴等を呼んだのではないのかっ?」

「貴方の見下す賊は民の協力無くして生きられない。自分の首を絞めるようなことをする筈がないでしょう」

「ふん……どうだかな、帝国との同盟を愚かだと罵ったお前の連れだ。馬鹿の考えることはわからんよ」

「っ、お姉ちゃんの瞳を奪っておきながらッ!」



 話は完全に平行線の一途を辿っていた。

 最初から無言を貫く船長と同様、レナは何を話しても無駄だと悟り、再び口を閉ざす。



 と、そのタイミングで「失礼致します!」と騎士達が入ってきた。



「おおっ、来た来たっ、待っていたぞ!」



 騎士達……正確には騎士達が連れてきた、身長二メートル越えの銀髪女の登場に喜んでいるのはナールである。

 老王とレナはシャムザの者特有のものとは違う褐色肌と死んだように眠る彼女に訝しむような表情を向けた。



「一応訊いておくがレナ。こいつは仲間ではないな?」

「……違います」

「やはりお前達と敵対していた賊か! そうかそうか……!」

「……ナールよ、何がそんなに可笑しい」



 魔法による抵抗防止の為、猿轡は当然としても、念入りに両手両足まで縛られている巨大な女性を見て妙な笑みを浮かべるナールがとても不気味に感じたらしく、老王は若干顔を引き攣らせながら質問した。



「父上、私が古代の遺跡で様々な情報を得ているのはご存知でしょう? その中に、この女に似た者の情報がありまして……ここをご覧下さい」



 説明しつつ、髪で隠れていたシレンティの顔を露にするナール。



 精巧に作られた人形のように整った彼女の顔……その右頬には痛々しい焼き印があった。

 否、正確には彫られているのかもしれないが、書かれている訳ではないのは確かだ。



「……数字?」

「6……?」



 老王だけでなく、レナも怪訝な顔でシレンティの頬に刻まれている数字を見つめる。

 二人の反応に気を良くしたのか、ナールは仰々しい態度で説明を続けた。



「遥か昔。人類は極僅かの魔力しか持っていなかった。にも関わらず、長い戦乱の時代が続いていた。現代のように魔法を使うことが出来なかった代わりに、アーティファクトのような魔道具を作り出す高度な文明を持っていた彼等はその技術力の高さ故に一種の均衡状態に陥っていたのです」

「……それがこの女にどんな関係があると言うのだ?」



 遺跡発掘が進んでいる今となっては、ナールの説明は周知の事実であり、王都から離れていたレナや盗賊である船長でも知っていることである。

 古代の歴史よりも利用価値のあるアーティファクトを重視している老王は「そんな与太話より、人喰いワームの方が……」と若干、こめかみをぴくつかせながら訊いた。



 しかし、ナールは老王のイラつきに気付くことはなく、大袈裟な物言いで話を続ける。



「当時、彼等は思った。全ての根元である魔力が少なすぎる。そもそも魔力が少ないから争いが終わらず、無駄に長引いているのだ、と。そこで人類を魔力の潤沢な新たな生物に進化させれば良いと考えた一部の者がとある研究を始め、やがて成功した」

「「「…………」」」



 その場に居る全員の脳裏に、まさかという思いが浮かんだ。



「進化の過程で産み出された実験生物……いや、新生物には特徴があった。巨大な身体、白い髪、我々とは似て非なる褐色の肌、そして……個体識別の為、身体の何処かに刻まれた数字」



 レナ達の想像は当たっていたらしい。

 「その研究データを、絵画を見たこそわかる!」とナールは鼻息を荒くさせて言った。恐らく、その新生物の写真か写真に近い絵が乗っていたのだろう。



「この女はその成功例っ! 古代の生き証人なのです! ふははは! 何処をどう見ても資料で見た通りの容姿だ! 素晴らしいっ! No.6ということは六番目の人造人間か! 失われた筈の古代生物っ、それも数ある内の一桁台! 何という幸運っ、何という拾い物っ!」



 興奮冷めやらぬナールは高笑いしながら老王を煽る。



「父上っ、このNo.6には様々な知識がある筈です! 何せあれだけ高度な文明を持つ古代に生きていたのですからっ! 更なるアーティファクトの解明や遺跡発掘に貢献してくれることでしょう! アンダーゴーレムや魔導戦艦の知識があれば一から造ることも可能かも……そうなれば我々が世界を制するのも時間の問題かと!」



 そう乗せてくるナールに対して、老王は低く唸った。



「うぅむ……それは…………となれば帝国にも……忌々しい聖神教の奴等にも……そうなればシャムザの民は……」



 一方、レナは二人を睨み付けていると、とある事実に気付き、表情を強張らせていた。

 同時に、これまで無反応を貫いていた船長が身を捩り始める。



「……レナ、もっと近くに寄って……」

「え?」

「しっ、静かに。……よく聞きなさい」



 ナールの声高な説明の最中、ゆっくりと目を開き、ナールと老王に銀色の瞳を向けていたシレンティを注視しつつ、船長は告げた。



「あの女はこの後、王都をめちゃくちゃにする。でも見ての通り、この馬鹿二人は気付いてない……今、『見』たけど、教えても無駄だった。だから兎に角走って。城の何処かに仲間が居る筈だから叫んでも良い。騒ぎになれば坊や達が暴れてくれるから」



 小声で早口、しかし、確かに聞こえる声量。



 目の前の二人より、よっぽど家族として信頼している姉からの言葉。

 レナは目を見開きながらも小さく頷き、後ろの騎士に視線を向ける。



 騎士はレナ達の密談に気付いていた。

 しかし、これまでレナが築き上げた王女としての立場を思ってか、気付かない振りをしてくれている。咄嗟に止めてくることも考えられるが、説明の仕方によっては何とかなるだろう。



「タイミングは私に合わせて。下手したら彼女の暴走は私達のせいにされる。皆の場所は部屋を出て左の方向の地下牢。出来るだけ早く、出来るだけ皆の近くで騒ぎを起こすのよ。ヘルト達も近くに居るわ」



 未来を予知出来る船長が言うのだから事実に違いない。

 老王やナールのことだ。シレンティが暴れ出す前にレナが動けばレナ達に触発されて暴れたと民に弁明する可能性がある。



「予定通り、帝国と手を組むのが手っ取り早いでしょう。彼等はその国土の広さ故に資源も物資も豊富だ。我々が頭となり、彼等を誘導すれば……」

「如何に聖神教と言えど、止めることは敵わない……か」



 レナが船長の思惑を理解し、野心を隠さない二人がニヤリと笑みを浮かべた次の瞬間。



「んがああああああっ!!!」



 ぐるりと辺りを見渡していたシレンティが突如、叫んだ。



「何だ!?」

「こいつっ、目を覚ましていたのか!?」



 驚く老王達をよそに、シレンティはいとも容易く両手両足の拘束を破ると、彼女を抑えていた二人の騎士を吹っ飛ばし、バルコニーに向かって走り出す。



「っ、何をしている! 逃がすな!」

「レナ! 今よ!」



 遅れて叫ぶナールと船長の声が重なった。



 慌てた様子でシレンティの元に向かう騎士達と弾かれるように立ち上がったレナの目が一瞬交差する。

 しかし、「民の為っ、邪魔しないで!」と短く言うと後ろの騎士は勿論、他の騎士達も道を開け、シレンティの方に向かってくれた。



「なっ、レナまで! ええいっ、何をしているのかと言っている! さっさと二人を捕らえ――」

「――このっ!」

「ふがぁっ!?」



 おろおろする老王の代わりにナールが声を荒げるが船長の頭突きが炸裂。鼻血を噴き出し、顔を抑えながら悶絶する。



「うっ……行って!!」

「わ、わかった!」



 結構な勢いで倒れ込んだ船長とバルコニーから飛び降りたシレンティの姿を背後に、レナは走り出した。













 ◇ ◇ ◇



 シレンティにとって、ソーマは全てだった。



 命令を強制するという不思議な力で助けたらしい奴隷達と共に遺跡で眠っていた自分を起こし、居場所をくれた。



 顔を覆っていたヘルメットは取られたが、数字の刻まれた醜い顔を綺麗だと、美しいと言ってくれ、「嫌ならこれでも付けていろ」と兜をくれた。



 目覚めたばかりで頭の働かない自分に怒ることなく、優しい声を掛けてくれた。



 聞いたことのない言語で話す奴隷達とは違い、ソーマは自分にわかる言語で話してくれた。



 言葉を上手く発せられなかった自分を愛してくれた。



 だから彼の言うことは何でも聞いた。



 戦闘用に造られた自分を最大限生かせるアンダーゴーレムの遺跡の位置を身振り手振りで教え、彼の指示通りに動かして見せた。

 彼の喜ぶ顔見たさに大量の人間を脅し、奴隷にさせた。



 シレンティにとって、ソーマは文字通り、全てだった。



 そんなシレンティが最後に見た彼の記憶は巨大なミミズのような化け物に喰われる瞬間の顔。



 聡明な彼の顔は驚きと混乱に埋め尽くされていた。

 それが絶望へと変化した次の瞬間、化け物の口の中に消えていった。



 戦闘用に造られた自分だからこそ、彼の生体反応が消えたことがわかった。



 気付いた時には叫び、暴れ、死にかけていた。



 四方から迫るコックピットの中で、彼女は誓った。



 彼の仇を討ち、彼を死に追いやった人間共を殺してやる、と。



 そして、次に目を覚ました時、彼女は自分に置かれた状況を素早く把握した。



 短い間ではあったが、奴隷達の会話からある程度、現代の言語は理解している。



 その為、自分を利用しようと目論む二人の男と自分と同じように拘束された女の会話は聞こえていた。



 ソーマの為の知識と身体を他の誰かに使う。



 そんなことは絶対に我慢ならないことだった。



 再び感情に身を任せて拘束を解いた彼女は騒がしい後ろを無視して外に飛び出ると、最も効果的に暴れられる手段……即ち、アンダーゴーレムを探した。



「み、見つ……け、けた……!」



 そのアンダーゴーレムは民に見せつけるように城の前に立っていた。



 ――ハサミ型の頭部、紺色の機体、武装は二刀の振動剣……確か、()()()の軽量ゴーレム……動かし方はアルマと同じ操縦系列……



 うっすらとしか思い出せない古代の記憶を無理やり引っ張り出し、そう結論付けたシレンティは寄ってくる騎士達を避けるように跳ね、シエレンの肩に飛び乗った。



 瞬間、シエレンから『うわっ、な、何だこいつっ!?』と声が聞こえた。



 どうやらパイロットが居たらしい。



 中に居ながら何故自分を排除しないのかと不思議に思いながら外付けのコックピットハッチ開閉ボタンを押し、「えっ、えっ? 何で開いて……」と固まっている男を掴んで外に投げる。



「うわああああっ!?」

「何だ! 何の騒ぎだ!?」

「白髪のデカい女がシエレンに乗ったらしい!」

「王子が探してた女じゃないか!?」

「お、応援を呼ばないと!」

「シエレン部隊にも伝えてくれ!」



 悲鳴と混乱の声を無視しつつ、背中から乱暴にコックピットに座り込み、コックピットを閉じると、消えていたモニターと各システムを起動させていく。



 真っ暗だった空間が明るくなり、頭部カメラが捉えている外の様子を鮮明に映し出す。

 目の前の画面に現れたシステム項目を流し読みし、システムチェックに移る。



「飛翔、翼……スラスターは……生きてる……。……? これ、マニュアル……?」



 ずっと乗っていたアルマとは全く違う造りだが、ご丁寧に端末マニュアルが椅子の下に隠れていた。

 現代の人間にはただの板にしか見えず、使える道具だとは思わなかったのだろう。



 これ幸いにとシエレンを動かしながら情報を得ていき、とある項目に目が止まった。



「魔力反応の探知機能……」



 現代の人間は魔力がかなり多いものの、武装と生き物では反応が違う、と古代の記憶が告げている。



 なら使える武装が見つかるかもしれない。



 そう考えたシレンティは直ぐ様探知機能を起動させた。



 少しの間を経て、鮮明に映っていた画面の色が変わる。

 色彩で見分けろ、ということだろう。



「……………………これなら……」



 シエレンの頭部を旋回させ、王都全体を探知していると、こちらに向かってくるシエレンとバーシスの部隊が見えた。

 しかし、彼女の意識は城の近くの巨大遺跡に武装反応が出たことに向いていた。



「遺跡の……外……あのテント……膨大な、魔力反応……やっぱり、これなら……!」



 普段は無表情に近い自分の顔が歪んだのがわかった。



 並びに、必死に抑えていたソーマへの想いと怒りの感情が沸々と沸き上がってくる。



 ここまで冷静に、迅速に最適解を選んでいたシレンティは再び感情に飲まれた。



『……やる……してやる……殺……やる……殺してやる……殺してやる殺してやる……!』



 憎悪。



 彼女を埋め尽くす感情は彼女の目を暗く、怪しい光へと導いた。



 それがどんな悲劇を生み出すとも知らずに。



申し訳ありませんが仕事の時間と内容が変わり、土曜の20時投稿に戻していくのが厳しいと感じたので、今後は現在の月曜0時投稿が基本になります。

また、今回のように仕事やリアル事情でメンタルが破壊された時は投稿が止まります。拙作を読んでくれている読者様には申し訳ないのですが、ただでさえ拙い文章とストーリー構成を更に崩すのも本意ではありませんので……


後、何か文が変に感じるのでそのうち直すかもです。

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