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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第4章 砂漠の国編
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第149話 決着

か、書けた……



 足を付ける地上には腰が入る、踏ん張れる、瞬間的な速度が出せる等の利点がある。

 反対に、空中でもそれなりに良い点はある。



 その一つが魔粒子装備とエアクラフトを使っての斬撃飛ばし。

 背中やエアクラフトのスラスターで勢いを殺さず、延々とその場でくるくる回転し、長剣で、あるいは爪で必殺の斬撃を飛ばせる。



 まあ、滞空維持に少しばかり意識が持っていかれるのは痛いが、思考系スキルを使えば何のことはない。

 後は魔力消費が激しくなるくらいか。



「ええいっ! 奴は本当にこの世界の人間か!? 僕並みの魔力とはっ!」

「クハッ、レベルが違ぇんだよっ、レベルが!」

「くぅっ!?」



 即死級の斬撃が幾重にも重なるようにして空を斬り、己に迫ってくるというのはさぞ寿命が縮むことだろう。



 俺の斬撃から逃げ回るばかりで撃ち返すことすらままならないらしい眼鏡が三連続で迫る縦一閃の斬撃を左右の回避運動で躱し、横薙ぎに飛んできた爪斬撃はエアクラフトと魔粒子装備を使って体勢を真横に向けて回避した。



 中々やる。



 所詮は中々程度だが。



 眼鏡が避けた体勢そのままに、エアクラフトのスラスターを全開にして前進し始めたので、こちらも追撃を図る。



 身体を半身に、スケボーやスノボーのイメージで空を飛び、真上から斬り付ける……ように見せ掛けてエアクラフトを真上に向け、急降下。

 銃を向けてきた眼鏡の横を素通りし、今度は逆にエアクラフトを地上に向けて魔粒子を大噴射。速度の乗った爪長剣で斬り上げた。



「背中がお留守だなァッ!」

「ぬ、ぅおおおおっ!?」



 咄嗟に真横に向いていたエアクラフトのスラスターを二つだけそれぞれ正反対に噴射することで身体を急速半回転させた眼鏡の銃と俺の長剣が再び鍔迫り合う。



 どんなに強い攻撃だろうと、ステータスなら自信があると言わんばかりに魔粒子スラスターと背中から自力で出した魔粒子で俺を押そうと躍起になっている。

 俺の方も飛ばすのなら兎も角、直接斬るのなら両手を使わないと力が入らない為、互角程度の噴射に調整してやりながらギリギリと押し込む。



「な、何て力だ! やはり惜しいな!」

「過ぎた力は身を滅ぼすぞっ!」

「はっ、お前程度が過ぎた力だとぉっ!?」



 おっと、油断した。



 一瞬とはいえ、奴の目を見てしまった俺は距離を取ろうとし……図らずも奴がいつの間にか投げていた手榴弾を躱すことに成功する。



「ちぃっ!」



 ズガガガガガッ! と何度目かになる連射が始まった。



 しかし、エアクラフトで上下左右、斜めに回転と動き続ける俺には当たらない。



「お前! 僕の力を知っているなっ!? 誰から訊いた! それともそういう固有スキルか!」

「クハハハッ! テメェの情報を馬鹿正直に伝える奴が何処に居る!」



 飛んできた手榴弾を余裕を持って躱し、爆発の余波を利用して上空へ舞い上がる。



 影という影がないから探し辛いが、奴にとって俺が太陽の光に隠れるような位置を探し出し、直視を防いだ。



「っ、くそっ!」



 太陽の光に思わず目を覆うとした奴は斬撃飛ばしを恐れて降下していく。



 ただ落ちているだけじゃなく、エアクラフトを俺の方に向けて加速しているので速い。



「逃がすかっ!」



 背中に感じるジリジリした熱さを頼りに、奴にとって見辛い位置を維持しながら俺も降下を開始する。



 ビュービューと強い風が俺と奴を出迎え、思うようには降りさせてくれないものの、俺は斬撃を、奴は自動小銃をぶっ放してきた。

 感知系スキルでも持っているのか、やはり狙いは正確だ。



「ぐっ……!? や、厄介なっ!」

「ぐああっ! 何であんな野蛮な装備で対抗出来るっ」



 太陽で見えない代わりに、位置さえ分かれば真上に真っ直ぐ撃つのみということもあり、内一発が脇腹を掠った。

 逆に奴の方も肩に斬撃が掠ったようだが、銃撃が止まる気配はなく、仕方なく奴の射線上から離れる。



 斬撃が届かない距離まで離れることで漸く収まったものの、これではこちらが攻撃出来ない。



「ちっ」



 舌打ちしつつ、回復薬を使っている奴を睨みながら俺も回復薬を飲む。



「野郎……何処まで降りるつもりだっ」



 既に小型戦艦同士が戦っている高度よりも降下している。



 地上戦をやるつもりなのか……? 確かに地上なら砂山に隠れて銃を一方的に撃てるだろうが……



 そこまで考えた直後、一つの結論に至った。



「っ、まさか!?」



 この近くではアカリを含めたエアクラフト隊が敵と戦っていた。



「混戦に持ち込もうってのか!」



 無線で報告しながらアカリの奴隷紋の反応を探る。

 アカリは俺の奴隷だ。奴隷紋で繋がれた俺達には互いにその意思がなかろうと互いの位置、方向がわかる。



 ……居た。やはり真下。このままだと奴の降下途中にすれ違う。船長の話だと催眠系の固有スキルらしいが……



「アカリ、エアクラフト隊っ、聞こえるな! 敵の総大将が降下してくる! 目だ! 目に気を付けろ! 見ないで攻撃するんだ!」



 言っていて不安が募る。

 俺やアリスレベルなら見なくても対処出来るが、アカリや他の奴では異世界人相手に出来る訳がない。しかも敵は『無』属性魔法の使い手で、銃まで持っている奴だ。



『み、見るなと言われましてもっ』

『んなこと出来る訳ねぇだろ!』

『何で逃がしたんだよ!』



 アカリ達から困惑と怒りの通信が返ってきた。

 大半が怒っているようなものばかりだったので、こちらもカチンときた。



「なら引けッ!! 言ったろ! 催眠系の固有スキルだ! もし操られたら問答無用でぶった斬るからな!」



 理不尽な物言いに不平不満の声が上がったが、無視して奴の後を追う。



「見つけた! っ、もうアカリ達とっ!」



 奴の姿を再視認した頃には既にアカリ達エアクラフト隊の群れの中に突っ込んでいた。

 敵味方含めて奴の存在に驚いているのか、全員が距離を取ったり、停止したり、右往左往したりと忙しない様子が上からだとよく見える。



 奴の銃を至近距離で受けているのは……アカリだ。何発もの銃弾がアカリに当たっては弾かれている。

 軽盾と防御スキルで何とか耐えているらしい。



『み、皆さんは引いてくださいっ! ここは私がっ! っ!? 主様ぁっ!』

『シキぃ! 上から来てるんだよなぁ!? そっち行ったぞ!』

『数は二! 銃型アーティファクトと剣士だ!』



 銃撃音と銃弾を弾く喧しい音を交えつつ、アカリの通信から僅かにだが、奴の声が聞こえた。

 俺がアカリ達に伝えたように、敵が上から来る、突っ込め、と。



「見えたっ、お前らも死ぬなよ!」



 視界の先にこちらに向かって飛んでくる敵影を発見し、情報提供に対して激励を返す。

 同時に上下左右に魔粒子を噴出することで敵の銃撃を躱しながら迫る。



「俺が撃つ! お前、はがぁっ!?」

「なっ、この距離……でぇ!?」


 

 銃を構えた奴に飛ばした斬撃が当たり、身体が二つに裂ける。

 その光景にもう一人が驚き、しかし、それでも剣を構えたところをすれ違い様に剣ごと叩き斬った。



 衝撃で痺れる腕に顔をしかめながらもエアクラフトを下に向けて減速を掛ける。


 

 辺りを見渡せば、仲間と敵のエアクラフトが飛び回っており、至るところで撃ち合いをしていた。



 背中を見せてまで逃げる敵に、次々と発砲する仲間、それを上から狙い撃つ敵数人、そして、更にそれらを蜂の巣にする仲間達。



 血と弾丸、死体とエアクラフト、様々な色の魔粒子が飛び交う戦場。



 剣を振り回す身としては嫌な戦場だ。



「――ッ」



 《直感》に従って、一瞬だけエアクラフトのスラスターを切り、両肩から魔粒子を噴出することで落としていた落下速度を上げる。



 次の瞬間、頭上を幾つかの銃弾が通り過ぎた。



「あいつがソーマさんが言ってた奴だろ!?」

「や、野郎っ!」

「撃て撃て!」

「おらああっ!」



 ズガガガガガッ! と再び迫る弾の雨。



 左右斜め上から二人ずつが撃っている。



 背中を地上に向け、四つの魔粒子装備(スラスター)と、腰、太ももの裏から魔粒子を放出、その場から跳ねるようにして躱しながら敵の位置を把握した俺はふわりと浮き切った瞬間、横に身体を捻り、両方に斬撃を飛ばした。



「ぎゃっ!?」

「うおおおっ!」



 左の敵は一人減った。もう一人は相変わらず撃ってきているが、右方は二人共健在。

 とどのつまり……四人中一人しか殺せなかった。



「クハッ、流石に同時狙いはキツいか!」



 ならばと右を無視して一人でバカスカ撃っている奴に急速接近を掛けた。



 背中の魔粒子装備で近付き、エアクラフトで上下左右に避ける。



 スラスターの威力調整を誤ればバランスを崩すか、あらぬ方向に飛んでいってしまうので、上に避けたら下、左右のどちらかに魔粒子を出して微調整を加えながら移動しなければならない。他の方向に避けるにしても同じ。



「や、やられるぞ!」

「当たらねぇんだよ!」



 後ろから狙ってくる二人のことも考えながら前方の銃撃を避け、時折腕や身体から左右に魔粒子を出して体勢を調整&身体を回転させつつ肉薄していく。



「な――」

「――死ね」



 何か言おうとしていた敵の首に勢いそのままの爪長剣を当て、跳ねる。



 続けて、エアクラフトでスケートボードの選手の如く舞い上がると、今度は縦に身体を回転させて両手から斬撃を飛ばした。



「ひっ、やがぁっ!?」

「嘘だ、っ……ぎゃあああああっ!?」



 それぞれ斜めに振り下ろして飛ばした為、爪の方を食らった奴は顔、胸、下半身に当たって死に、もう一人は太ももから先の両方に直撃し、絶叫しながら落ちていった。



「……そうか、エアクラフトを固定してるのは脚……脚さえ斬り落とせば現地人は魔粒子を出せない。ああやって体勢を整えることも出来ずに落下するのか。改めて差を感じるな」



 降下してきたとはいえ、変わらず高度は高い。

 地上が砂漠でもこの高さでは助かるまい。



 油断なく、こちらに敵意や殺気を向けてくる奴は居ないかと周囲を確認していると、アカリの気配が後ろから迫ってきた。



 ――っ、この速度、はッ!?



 咄嗟に左腕の籠手を構える。



 直ぐ様、ガキイイィンッ! という耳をつんざく金属音、凄まじい衝撃と火花が鳴り、響き、散った。

 あまりの威力に俺の身体は堪らず吹っ飛ぶ。



「あ、主、様っ……申し訳っ」



 魔粒子装備で衝撃を殺した俺に向けられるのはアカリの剣、申し訳なさそうな顔。



 アカリは円形のエアクラフトで浮きながら何かを言おうと口を開き……遮られた。



「〝余計なことを話すな〟」

「っ……」



 上から聞こえてきた声の主の方に振り向くと眼鏡野郎がこちらを見下ろしている。



「意思があるってことは……身体の自由を奪い、操る能力か。姑息な力だな」

「だが強い。この世界は強さが全てだ。強ければ良い」



 ……ジル様みたいなことを言う。



「まあ気持ちはわかる。俺も実用性のある戦闘向きの力が欲しかった」



 何故撃たず、アカリをけしかけてきたのかはわからないが油断を誘う為に仮面を外して見せた。



「なっ……お、お前はっ……まさか!」

 


 みるみる内に変わる顔色、見開かれる瞳。



「日本、人……それにその角っ……魔族だとっ……!? わかった……わかったぞ! お前が異世界から召喚されたとかいう『闇魔法の使い手』だな!? イクシアの指名手配犯がこんなところに居るとは!」



 何やら一人で盛り上がっている。

 が、思いの外風が強くて話し辛かったので仮面を付け直す。



 話せなくはないが、息が詰まる。よく普通に話せるものだ。



「ふはっ、ふはははは……! 異世界人であり、魔族か! その強さにも納得がいく!」

「指名手配されてるのか。まあ死人が出てるしな」



 早瀬、生意気なクソ騎士に続き、死んではいないがイケメン(笑)も半殺しにした。

 妥当と言えば妥当。だが、その割にはリーフ達に何も言われなかった。最近、手配されたのだろう。基本的に仮面付けてるから気付かれなかっただけの可能性もあるか。



「ならば尚更惜しい! 本当に僕に付く気はないか! 金は払う! 僕と対等の立場でも良いぞ!」

「……言い方が既に上からだろうが」

「それはすまないな! この世界で同郷の人間と会うのは初めてなんだ! 中三の時に次元の割れ目みたいなものに落ちてしまったらしくてなっ、気付いたらこの世界に居た! いやはや懐かしいなぁっ!」



 そう言って高笑いする眼鏡。その顔に嘘偽りは感じられず、本当に嬉しそうなのが伝わってくる。



 次元の割れ目云々はよくわからないが、一人寂しくこの世界に迷い込んでからこれまで、同じ境遇の奴と会ったことがないようだ。

 アリスや帝国を鑑みるに、転生者は多そうなんだがな。最初にアリスが隠そうとしたように身の安全を考えて皆、黙ってるんだろう。



「召喚、転生に続いて今度は偶々落ちた奴、か」



 余程運がなかったんだろうなと思っていると、今更ながらにアカリの日本人顔に気付いたらしい眼鏡が下品な笑みを浮かべた。



「ん? この女も日本人か? ……へぇ、結構可愛いじゃないか」

「っ……」



 身体の自由を奪われた状態で顎を掴まれ、まじまじと顔を覗き込まれれば良い顔は出来ない。



 当然、顔を歪ませたアカリと目が合う。



 出来れば頼りたくない、申し訳ない、でも助けてほしい。



 そんな複雑な感情が伝わってきた。



 しかし、それを無視して眼鏡の方を見る。

 この喜びようだ。目を合わせても問題はない。



「ふっ、漸くこちらを見てくれたな。それは信頼の証と受け取っても?」



 ……何言ってんだこいつ。



 何故か勝ち誇った顔でこちらを見下ろしている眼鏡が妙なことを言い出したので無視しつつ、アカリを指差す。



「悪いがそいつは俺の奴隷だ。お前も日本人ならわかるだろう? 人の()に対して手荒な扱いは止めてもらおうか」

「おっと……それは悪いことをしたな。くくっ、日本人が日本人を奴隷にか、面白い」



 慣れたと思っていたが。



 こういう会話は慣れないな。



 一々、癇に触る野郎だ。



「瞳の色を見ろ。そいつは日本人じゃない」

「……金色の瞳。美しいな……」

「っ!」



 見惚れたようにアカリの目を覗く眼鏡、顔だけは自由なのか、とてつもなく嫌そうな顔で睨むアカリ。



 拷問されて感情が死んでいたあいつが最近になってやっと感情の乗った顔を見せ始めたんだ。

 俺が喰われていた時に助けてくれなかったアカリや他の奴等は最早どうでも存在ではあるが……それが嫌な顔ってのはこっちが嫌だな。



 思わず拳を固く握りながら努めて冷静に声を掛ける。



「止めろと言った筈だが? その手を離せ。殺すぞ」



 一瞬だけ殺気を飛ばした。



 あたかも怒っているように。



 奴はビクッとアカリから手を離すと、それを気取られないよう平然を装いながら返してくる。



「っ、悪い悪い。あまりに綺麗だったからついな」



 とか何とか言っている割にはアカリの拘束は解こうとしない。

 こうして話してくれる癖に、未だ俺を疑っているらしい。



「はぁ……」



 遅い。まだ足りないか。



 強くそう思った俺は溜め息を付き、爪と爪長剣を納めた。



 そこまでして漸く警戒を解いたのか、ホッとしたような顔で話し掛けてくる。



「君も苦労してきたんだろう? どうだ? 君と僕、物理的な強さと絶対的な命令権能力。組めば最強だと思わないか?」



 やたら誘ってくるな。どんだけ構ってちゃんなんだ? 俺自体が大して強くないから最強には程遠いし。



「残念ながら本物の世界最強を知っている身としては………………クハッ、野郎……やっと来たか。遅いんだよ侍っ」

「? 何だ? 何を言っている?」



 いきなり会話をぶった斬った俺に首を傾げる。

 が、俺が話していたのは眼鏡じゃない。



『なっ、や、野郎じゃないでござる! 拙者、これでも急いだんでござるよ!?』

「距離は?」

『っ、届くでござるっ』

「ならっ……」



 バッと両手を広げて見せた俺に奴は動揺し、銃をアカリに向けた。



 ――好都合だ。アカリから手を離した時点でな。



「何か企んでいるな!? 変な動きをしたらこの女を殺すぞ!」



 三下発言を遮るように、俺は叫んだ。



 〝来いっ〟



 俺の命令を聞いた瞬間、跳ねるようにして《縮地》で消えるアカリ。



 奴は焦って命令したが、遅かった。



「っ!? ええいっ、〝奴を殺せ〟!」



 一瞬の間に俺の目の前に現れたアカリが顔だけ嫌がりながら剣を刺してくる。



 その手と剣を脇で挟むように躱しながらアカリを抱き締めた。



「撫子ッ! 今だっ!!」

「それ言ったらっ! 意味ないでっ、ござろうっ!!」



 ザァンッ!



 俺よりも鋭く、俺よりも素早く、俺よりも強い、空気が裂ける音。



「がっ……!?」



 気付いた時には眼鏡の両腕が宙を舞っており、自動小銃と共に落ちていた。



「っ、躱された!?」



 いつの間にか眼鏡の前で刀を振り抜いていた撫子が叫ぶ。



「あ……? あ? 腕? ぼ、僕……僕の……僕の腕……う、うわあああああっ!? 僕の腕がああああっ!!」



 何とかギリギリで即死を回避した眼鏡が錯乱してエアクラフトの操縦を誤り、腕と一緒に落ちていく。



 全て、一瞬の出来事だった。



「ちぃっ、貴殿が拙者の存在を教えるからっ!」

「放っておけっ! 今はこいつらが先だ!」

「っ……」



 相変わらずアカリを抱き締めながら、落ちる眼鏡野郎を追おうとする撫子を止める。



 敵のエアクラフト隊は依然として俺達の仲間と戦っていた。

 数は少なくなっているものの、それはこちらも同じ。



「銃も持てなければ回復も出来ない。奴に出来るのは命令することだけだ。大した脅威じゃない。もう死人が出ている。早く終わらせないともっと殺られる」



 撫子は俺の言葉に不服そうに頷くと再び《空歩》と《縮地》で消えた。



 対する俺は「悪かったな、見捨てるような振りして」と声を掛けながらアカリの中に残っている眼鏡の固有スキル効果を『抜』いていく。



「主様っ、申し訳ありませんっ、私が未熟なばかりにまた足をっ」



 泣きそうな……いや、泣いてるな。



 アカリはボロボロ涙を流してそう言った。



 ポンポンと頭を軽く叩き、そのまま返す。



「命令して無理やりお前を動かした。これじゃ、あいつと変わらない。俺もまだまだだ」

「私は嬉しかったですっ、主様が私を必要としてくれたようでっ……初めて私に命令してくれてっ……」



 ……そうか。初めての命令だったか。



 よくよく考えれば確かに指示はしていたが、命令はしたことなかったな。



 さて……もう少しでアカリを操っている固有スキルが消える。



 アカリの嬉しそうな顔と発言に何とも思わなかった自分に一瞬だけ固まりつつ、俺は敵の位置、武装の把握に勤めた。



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