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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第4章 砂漠の国編
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第148話 上空と地上の攻防



「ッ……シャアアアアアァッ!!」



 ザンッ、ザァンッ、ザアアァンッ!!

 


 爪長剣と爪から放たれる斬撃の嵐をシキ並みのエアクラフト技術で躱すソーマ。

 縦、横、斜めと飛んできた斬撃は横移動からの上昇、からの前進で避け、爪による三本の斬撃の連続攻撃は全てを躱すか、斬撃の間を縫うように躱す。



「くぅっ……! こ、この攻撃っ、この威力っ! お前かっ、最強戦力は!!」

「クハハハッ! どうだかっ!」

「ええいっ、小癪なぁっ!」



 ガキィンッ! と激しく音を立ててぶつかる爪長剣と自動小銃。そして、互いの額をぶつけるようにして叫ぶ二人。

 防御スキルでも使っているのか、ソーマの銃は傷付くことなく鍔迫り合いへと持ち込めているものの、ステータス差と魔粒子の放出量の差によってシキが押している。



「そいつはどうした! 発掘されたものか!」



 シキがソーマを後ろへと追いやりながら背中の魔粒子装備を睨む。



「お前達のような野蛮な連中と一緒にするなっ! これはっ、僕が見つけた――」

「――同じっ、だろうがァッ!」

「げふぅっ!?」



 ギリギリと火花まで散らしている最中での蹴り。

 思わぬ攻撃だったのか、腹部に直撃したソーマは血反吐を吐いて吹っ飛んでいく。



「異世界人のくせにっ!」



 ソーマが肩甲骨と腰から魔粒子を出して衝撃を殺しているのを追撃するように橫薙ぎの斬撃を飛ばす。

 が、エアクラフトからの魔粒子噴射で上に逃げられた。



「っ、な、何故それをっ……それにその口調っ、僕が弱いとでもっ!」

「ああ弱いねぇっ! 雑魚同然だっ!」

「僕は参謀だっ!」

「だから見逃せってか!」



 船長の言った通り、目を合わせるのが固有スキルの発動条件なのだろう。

 ソーマは先程からシキの一挙手一投足ではなく、目を見てきている。



 これまでの経験からソーマの視線の先が手に取るようにわかるシキはソーマの腕や脚、魔粒子の向きで動きを先読みして動き、力に任せて暴れるだけで良いことに内心にやけが止まらなかった。



 (ただ目線に気を付けるだけで良いたぁ、なんて楽な相手だ! 今までの奴等に比べりゃ雑魚も雑魚っ! 散々相手したアンダーゴーレムよりも弱ぇ!)



「くっ、このっ……!」



 やられっぱなしは癪なのか、ソーマが上下左右に回避運動を取りながら銃を撃ってきた。



 今までの相手とは違い、弾丸の一つ一つが正確に後を追ってくるので先程ソーマが見せたようなアクロバティックな動きで躱し、弾切れを待つ。



「っ! 口の聞き方と銃の扱いだけは一丁前だな!」



 場所は上空。それもサンデイラの真上だ。当然風は強く、時折放出される魔導砲の余波で照準は取り辛い。

 にも関わらず、ソーマの弾丸は正確無比。まるで風など意に介していないような狙いの良さと速度だ。シキはこの光景に見覚えがあった。



 (この感じっ、こいつも『無』属性か!)



 リュウが使う『無』属性魔法で強化されたアーティファクト。

 それらは周囲のあらゆる影響を受けず、真っ直ぐに飛んできた。地上戦でも『無』属性は強いが、空中戦でもその厄介さは変わらない。



「じわじわ近付いてきてっ! お前の魂胆はわかっているぞ!」

「っ!? っと、危ねぇっ」



 少しずつ距離を詰め始めていることに気付いたソーマが手榴弾を投げてくる。

 一瞬、それが何なのかわからなかったが、《直感》が働き、反射的に離れた瞬間、爆発した。



「うぐっ……ほ、骨にヒビが入ってるのか、ちゃんとスキルで防御したのにっ……」

「ほう……」



 シキは爆発に隠れ、余波で後退しつつ、回復薬を飲んでいる敵を感心しながら見る。



 (爆発に隠れたタイミングで取り出しやがった。これじゃ何処から取り出したのかわからねぇ。マジックバッグを持っているようには見えんが……十中八九、背中のバックパックみたいなやつだろうな。意味ねぇ)



 ソーマは肩付近と腰に取り付けてある計四つのスラスターの間に挟むようにしてランドセルのようなものを背負っている。

 小学生が使うものとは違い、見た目はほぼ平坦に近いので、こちらの世界の人間には大して物の入らない変な鞄に見えるのだろうが、相手は異世界人。中身はマジックバッグ化してある筈……と結論付ける。



 この調子では弾倉も新しくなっている、と踏んだシキは追撃を止め、魔力回復薬を飲んだ。



「仕切り直しか」

「馬鹿言えっ、僕は今もダメージがある!」



 癖なのか、ソーマはゴーグルの下にある眼鏡をくいっと上げる素振りをしながら叫んでいる。



 (さっきから煩い野郎だ。それにしても……こいつ、船長が言ってた通り、マジで俺達の同郷らしいな。顔付きからして日本人なのは間違いない。歳も俺達とそう変わらない……こんなところに一人で居るところを見るに、召喚された訳じゃなさそうだが……)



 シャムザのゆったりとした民族衣装を身体に張りつけながら浮いている敵はどう見ても典型的な日本人だった。

 一言で表すなら眼鏡を掛けた高校生。黒髪黒目の普通の少年だ。しかし、目が違う。シキと同じように幾つかの死線を乗り越えた、良く言えば覚悟の据わった、悪く言えばやさぐれた目をしている。



「全く……人と話す時は相手の目を見ろ。これだからこの世界の人間は……」



 顔付きや立ち振舞い、装備を改めてジロジロ見てくるシキが不快だったらしく、あからさまな態度で煽ると共に誘ってきた。



 残念ながら船長のお陰で向こうの手は筒抜けなので、適当に返事だけ返す。



「俺以外にこいつを使う奴を見るのはあまりないもんでな。しかも俺と同等程度に使いこなしてやがる」

「……ふん、君こそ、よくそんな模造品で戦えるものだ。後衛並みの魔力量と魔力操作、前衛としか思えない動き。君は一体……?」



 自分以外に魔粒子装備を使える前衛はミサキや撫子、聖騎士レーセンくらいしか思い付かない。

 逆にソーマはシキの、現地人とは思えない強さに疑問を抱いているらしい。



 現地人ではないので当然なのだが、それを知らないソーマからすれば風貌からして不気味でしかないのだろう。



 (……ま、どうでも良いな。同郷だろうが敵は殺すだけだ)



 そう切り捨てたシキを遮ったのは他ならぬソーマだった。



「待て! 君、僕達の仲間にならないか?」

「あ?」

「君の強さ、実に感服したよ。盗賊程度で終わらせるには勿体無い腕だ」



 詰まるところ、裏切ってくれないか、という打診である。



「……報酬は弾むんだろうな」

「ふっ、やはり傭兵か。……勿論だとも。君が今貰っているギャラの三倍は出そう」



 無論、シキとて裏切るつもりは毛頭ない。

 とはいえ、懐事情を探っておくのも悪くはないと判断した。返答の次第によっては一度船長達を後退させ、内部から殺していく手もある。



 内心、「プライドは高そうなくせにやってることが三下のソレなんだが、自覚はあんのかね……」と嘲笑いつつ、乗ってやる。



「そいつぁ思い切った判断だ。とてもこれの三倍払えるとは思えんが……」

「なっ……一日銀貨三枚も貰っているのか!? ぼったくりも良いところだ。……しかし、その強さなら納得も出来る。良いだろう、それくらいなら――」

「――何を勘違いしている。金貨三枚だ」

「バカなっ! 足元を見るのも大概にしろ! 盗賊風情にそんな大金が払える訳がない!」

「三食昼寝付き、今なら美女と美少女も数人付いてるぞ。船長も超絶美人だし」



 全員、性格に難があるが、とは言わないでおく。



 しかも一人は記憶や人格が混濁した変人、一人は王女のくせに暴力上等、一人は中身が男、一人は固有スキルのせいで常日頃引きこもっている。

 聞こえこそ良いが実情はそれほど良くない。



 (それでも良い思いをするのは多いけどな、うん。美女揃いなのは確かだし)



 何となくムクロの全裸や時折丸見えになっているレナの下着、薄着が多い船長の姿を想像して思った。



「この世界に迷い込んで早三年……僕がこんなに苦労して僕だけの軍隊を作ったというのに! お前のような傭兵が何故っ!」

「お、おう……」



 何やら血の涙を幻視してしまうほどの形相だった。

 ついドン引いて、無意識に後退する。



 (こいつ、ハーレム願望でもあるのか? 何て痛くてキモいやろ……あ、アリスもか。……いや、あいつと同じとか尚更引くんだが)



 まともな日本人とは思えない感性にやはり引かざるを得ない。

 シキとしてはジルやムクロに好意こそあっても、二人まとめて欲しいとまでは思えないので理解出来ないのだ。しかも内一人は《魅了》スキルで無理やり植え付けられた好意である。



「やっと手に入れた女は口が聞けないし、何よりっ、女とは思えないあの図体っ! 身体は女でもあれじゃ抱いてるんじゃなくて抱かれているようなもの! お前にわかるか! 二メートル越える長身ムキムキ女と寝る僕の気持ちが!」

「いや知らんがな」



 唐突に始まる愚痴にシキは思わずツッコミを入れる。



「わかるまいっ、嫌がる彼女の兜を無理やり剥ぎ取って一目惚れしたは良いが、事あるごとに身長差に悩んでしまうんだぞ! 何で跪いたあいつと座っている僕で目線が同じなんだ!」

「……最低だなこいつ」



 ドン引きを超えて軽蔑すらしてしまう器の小ささ。

 シキは嫌だったのに無理やり顔を見られ、勝手に惚れられ、勝手にキレられる相手の女を気の毒に思ってしまった。



 (アリスといい、こいつといい、何でこの世界に召喚される男は皆こうなんだ? リュウやショウさんもこういう願望とかあったよな。あのクソ勇者は会う度に女増やしてたし……俺もレナ達に内心、引かれるような言動してたりすんのかな……)



 戦場であることも忘れて叫ぶソーマと悩むシキ。



 シキは無線に入った、『坊や! 敵の二隻をショウ坊達に任せて、ヘルト達の援護に向かうわ!』という船長の声で我に戻り、ソーマは怒りに身を任せて銃を構えた。



「駒にならない奴なんか要るものか! 死ねぃ!」

「理不尽っ! 何かどっかの残念なイケメンを思い出すなっ、お前っ!」



 言い合いの内容は兎も角、二人の異世界人が繰り広げるハイレベルな空中戦は続いた。
















 ◇ ◇ ◇



 巨大魔導戦艦サンデイラからニ度目の頭上注意勧告が成された直後、ヘルト達は大地を揺るがすような振動に見舞われていた。



『『『うわああああっ!』』』

『な、何だ!? 何が起こっ……』



 赤い騎士型ゴーレム『アカツキ』のコックピットに映る全方位モニターで辺りを見渡したヘルトは絶句した。



 あまりの衝撃に砂が揺れ動き、舞い上がり、尻餅を付いてしまった『アカツキ』の側には仲間の量産型ゴーレム『バーシス』が同じように体勢を崩している。

 リュウだけは事前に察知出来たのか、一機だけ離れた位置に居るが、吹き荒れる砂埃の中でも仲間の機体数が減っていることは一目瞭然だった。



 理由は上から降ってきた銀色の何かに潰されたから。



 そして、その銀色の何かは今も仲間が居たであろう場所に佇んでいる。



 銀色の何かを追うように、ボトッ……と何かが落ちてきたような音をアカツキの集音機能が拾ったことで、ヘルトはハッとし、声を張り上げた。



『総員っ、離れろ! 敵のアンダーゴーレムだ!』



 銀色の何かはよく見れば人型のようだった。

 しかし、完全な人型であるアカツキやバーシスとは違い、首は無く、まるで相撲取りのように横幅がある。何より、ソレは全体的に丸かった。



 肩から腕にかけて、丸くあるように造られたような造形。首のない頭部は円形の両肩の真ん中、鳩尾の上部付近に埋め込まれており、蜘蛛の目を思わせる並びの四つの赤いカメラレンズがチカチカと点滅している。

 脚まで丸みを帯びているその機体の大きさは、五メートルほどのアカツキ、バーシス、シエレンとは違い、倍近くあるように見えた。



 少なくとも、ヘルト達のアンダーゴーレムが見上げるほどの巨体であることに変わりはない。



『ひ、被害はっ……』

『今ので二人っ……二機やられたっ、重量があるタイプだよ! 体当たりに気を付けて!』



 ヘルトが被害を確認していると、素早くバーシスの下半身をキャタピラ状に変形させたリュウから報告通信が入った。



 搭乗型であろうアンダーゴーレムとの初めての戦い、仲間の無惨な死に浮き足立っていた他のゴーレム乗りもリュウを倣ってさっさと変形していく。



『俺達が後ろから撃つ!』

『ならオイラは前に出るよ!』

『『『おう!』』』



 短い会話を終え、ヘルトのアカツキが動き出そうとした直後。



 轟音と共に砂柱が目の前に立った。



『なっ……!?』



 驚くと同時。

 足裏、膝、膝裏のスラスターから魔粒子が噴き出し、コックピットの中のヘルトは下に引っ張られながらその場から離れる。



 軽く十と数メートルは跳んだだろう。

 少しの間を経てゆっくりと落下を開始するが、その間に何の攻撃だったのかを悟る。



 『ハルドマンテ』と呼ばれている敵の戦艦だ。



 エイのように平たく、黒い小型戦艦が砂山から飛び出てはこちらに向けて発砲し、勢いそのままに砂山に潜って姿を眩ましている。



 ヘルトはそこで漸く本来の目的を思い出すと、着地時の振動に言葉を詰まらせながら仲間に通信を飛ばした。



『っ……ぜ、全員回避運動! 目標は敵戦艦とゴーレム! 戦艦は鹵獲が目的だ! 多少の攻撃ならダメージはないから遠慮するな! やられるなよ!』



 続々と聞こえてくる元気な返事を聞き流しつつ、アカツキに紅の刃の長剣を抜かせる。

 盾は腕に装着出来るので構えるだけで良いが、他は全て手動だ。肩や腰の武器を取るのにも一定の慣れと勘が必要。立つことすら難しいゴーレムの操縦はボタン一つで自動的に動く訳ではない。



『僕とバーシス三機で敵戦艦を抑えるよ! ヘルトはゴーレムをお願い!』

『わかった!』



 カタカタと激しい音と砂埃を立てて動くリュウのバーシスからそんな通信が入った。



 『無』属性故か、凄まじい威力の白い魔粒子で背中を押して移動している。

 その速度は追従している他の三機の二倍。速さは武器ではあるが、急発進や急ブレーキ、急な方向転換は身体を持っていかれ、何処かに打ち付けてしまう可能性もある。こと戦闘となればそういう事態が常となるだろう。



 あいつわかってんのかな、と疑問を抱きながら残った四機を連れて銀色のデカブツを囲うヘルト。

 しかし、バーシス四機が撃ち続けているのに対し、デカブツは微動だにせず、またダメージも見受けられなかった。



『何だこいつ! 硬いぞ!』

『動きもしねぇ!』

『アンダーゴーレムなのは確かだ! 撃ち続けろ!』



 数人のゴーレム乗りがバーシスの腕を下ろそうとしていたので、ヘルトは発破を掛け、ならばと一気に距離を詰める。



 そこからが悪手だった。



 味方からの誤射を杞憂し、跳ねてしまったのだ。



『っ!? ヘルトっ、ダメだよ!』



 リュウからの注意よりも目の前に迫った巨大な丸い手に驚く。



 反撃。



 そう理解した次の瞬間、ヘルトのアカツキは吹っ飛ばされ、砂漠に転がることになった。



『ぐわあああっ!?』



 全方位モニターは揺れ、ヘルトは至るところに身体や頭を打ち付ける。



『だ、大丈夫!?』

『回復魔法掛けっからこっち来い!』



 仲間からの通信が入る中、モニターには砂埃だけが映っており、どれだけ自分が転がったかを物語っていた。



 ただの張り手。あるいは手で払っただけなのかもしれない。



 たったそれだけでアカツキは吹っ飛ばされ、操縦士のヘルトは流血レベルの傷を負った。



 しかし、だからこそ気が引き締まる。



 本当にゴーレム同士で戦っているのだという実感が湧いてくる。



『こ、これがっ……ゴーレム戦か……! ははっ、全然……何も見えやしないや……』



 乾いた笑いも漏れる。

 怖いという感情も芽生える。



 が、引き下がる訳にもいかない。



『回復は良いっ、オイラの落ち度だ!』



 そう言うや否や、アカツキの手を地面に付け、ゆっくりと立ち上がらせる。



 自分の身体を立たせるのとは訳が違う。

 視界も違ければ立ち方、動かし方まで違うのだ。最早笑いしか出ない。



 とはいえ、相手がそれを待ってくれる道理はない。



『~~~っ!!』



 雄叫びのつもりか、何かのアピールか、デカブツ……シレンティという兜を被った女が操る『アルマ』は両手両足を広げるポーズを取っていた。



 その間にもバーシスによる射撃はあるものの、やはりダメージはなく、ズガガガガッ! という鼓膜が破れそうな音だけが響いている。



『ん? 指が一本……っ、さっきのは指かっ……あの断面は……!』



 脹ら脛、腰、背中のスラスターを全開にすることで砂の上を滑るように前進していたヘルトはアルマの指が一本無いことに気が付いた。

 見れば先程鳴った、ボトッ……という音の方向に銀色の物体が落ちている。その物体とアルマの指先の断面はあまりにも綺麗だった。こんなことが出来るのは一人しか居ない。



『撫子がっ、やってくれたっぽいな!』



 ヘルトは知る由もないが、撫子は降下してきたアルマに叩かれた瞬間、防御と同時に攻撃も行っていたらしい。

 残念ながら巨体故に指しか斬れなかったものの、お陰でヘルトは逸早く我に帰れた。



 感謝すると同時に何故倒せなかったのか、撫子はどうしているのかが気になったが、そんなことを気にしている暇はない。



 アルマが既に謎のポーズを止め、重そうな身体でこちらに向かってきている。



『こ、攻撃止めぇ!』

『サンキュっ! それもっ、当たらなきゃ意味ないんだ、よっとぉ!』



 再び迫るアカツキの姿に銃撃を止めた仲間達を横目に、薙ぎ払うように迫る丸い腕を跳ねて躱す。

 


『っ!?』



 驚いたような硬直があった後、アルマはもう一本の腕を伸ばしてきた。



『アカツキはっ、跳べるッ!』



 緊張感と焦りのせいで、変な掛け声みたいになったものの。



 下半身の魔粒子スラスターで急上昇を掛け、更にそれを避けたヘルトは右手に持たせた長剣を振りかぶり、思い切り振り抜いた。

 


 ガキイイィンッ!!! と、過去最大級の金属音に仲間達から呻くような通信が入る。



『っしゃ! 当たったっ!』



 喜びを露にするのも束の間。



『っ!!』



 アルマは背面装甲のスラスターから白い魔粒子を噴き出し、頭部のない身体で突撃してきた。



 ヘルトの攻撃で少しだけ後退したアルマとは距離があった。

 急な体当たりとはいえ、その威力は馬鹿に出来ない。



『くっ!? ぐっ、おおおおっ!』



 咄嗟に左手の盾でガードしたヘルトのアカツキは再び吹っ飛んでいった。



『っ、っ!』



 そして、それを追うようにアルマも動き出す。



 アカツキやバーシスのような移動とはまるで違う。



 アルマは前進した瞬間、無い頭部から砂漠に転がり、ダンゴムシが丸くなるように十メートル近い巨体を丸めて後を追ってきた。

 恐らく、元々丸くなる機能があるのだろう。シレンティはそれを利用して追撃を図っている。



 しかも巨大な玉になるという中々格好の付かない形態のくせに、当たればただでは済まないであろう速度。超硬度の装甲と巨体だ。質量は十分にある。



「アルマジロかよ!」



 何処からか、思わずといった感じのツッコミが入った。



 それはゴーレムの通信でもなければ、ゴーレムからの拡声された声でもなかった。



『ぐえっ、ぐわっ!? いっ!? ったああっ!』



 尻餅を付き、反動で更に吹っ飛び、コックピット内で身体をぶつけまくっていたアカツキ&ヘルトの目の前に生身の人間が飛び出た。

 丁度、ゴロゴロ転がってくるアルマの前に立ち塞がるような形になる。



 その人物は驚くべきことに《縮地》でアルマに突撃し、自身の七倍以上の敵を相手に正拳突きをぶちかました。



 ご丁寧に心の内を叫びながら。



「俺をっ、忘れてんじゃっ……ねええええっ!!!」



 ズガアァンッ! と、あり得ない衝撃音がなり、あり得ないことに転がってきていたアルマが止まった。



 否、ほんの僅か後ろに浮いた。



 正気の沙汰とは思えない行動と目が点になるような攻撃をした人物は更に一言。



「いっ…………~~~ってえぇえぇぇぇっ!!?!?」



 当たり前である。



 しかし、その人物……本来は剣聖に次ぐ職業である筈の剣姫アリスは拳が割れて血が流れ、手首が青紫色になっている以外にダメージはなく、反対に殴り付けられたアルマには綺麗な拳型の陥没が残っていた。



「さ、さあっ……この戦い、俺も混ぜてもらうぜぇ……!」



 涙目でプルプル震えながら、最上級の回復薬をぶっかけ、飲み干しながら……



 アリスはそう言った。



ワクチン接種で色々キツイんで来週の更新厳しいかもです。書けたら更新します。

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