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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第4章 砂漠の国編
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第146話 降下



「後っ……あ、もうっ……行っちゃったっ」



 シキは知りたい情報だけ得ると、忠告を無視して出て行ってしまった。



 基本的に冷静なシキも時折ポカをやらかす。

 船長は今回もそれが出たのだろうと揉まれた胸を擦りながら納得する。



 しかし、彼とレナの痴話喧嘩のお陰で肩に入っていた力が抜けた。

 自然とやるべきこと、出すべき指示が脳内で組み上がっていく。



「……よしっ、ヘルト含めたゴーレム部隊は全機投下! 下の敵を叩くよう伝えて! 敵は黒三角の小型戦艦一隻と銀色のアンダーゴーレム一騎! 揃って体当たりに注意っ! ゴーレムはもしかしたら上から降ってくるかも!」

「あいよ! ゴーレム部隊っ、聞こえたな!?」

『おっけーだ、姉ちゃん。……あ、そうだ。シキの野郎に通信繋がる?』



 怒号が飛び交う中、格納庫の赤い騎士型ゴーレム『アカツキ』からそんな通信が入った。



「あいつも耳に無線付けてたからな。繋がる筈だぞ」

『じゃあ、死ぬなよって言っといて』



 ヘルトの声は船長達の耳にも入っていた為、ブリッジの全員が目を丸くしてヘルトと話している船員の方に注目する。



 通信用の魔道具は互いの位置の距離に比例して音の良し悪しが決まる。

 近くに寄ればハッキリ聞こえるが、離れていれば途切れ途切れになってしまう性質がある為、意外と扱い辛い。その上、アンダーゴーレムに搭載されているものとは全くの別物らしく、通信用の魔道具を付けた戦闘員と会話することが出来ない。



 今回のように戦闘員とゴーレム乗りが意志疎通をしたい場合は戦艦に居る人間に声を掛ける必要があるのだ。



 ヘルトの通信は内容が内容だったのもあり、船長は内心、「他人に態々頼んでまで心配するなんて思ったより仲良くなってたのね……」と苦笑する。

 が、次の瞬間、彼の真意が判明することになった。



「珍しいな。お前があいつに――」

『――オイラが殺すから』

「おうわかった。そん時は呼べ。皆でボコる」



 殺意溢れる部下の即答は置いておくとして、それ以上にヘルトの殺害予告を聞いて全身に嫌な汗がぶわっと吹き出たのを感じた。



「ま、まさか……」

「船長、すいません……艦内全域にこっちの声駄々漏れっした……」



 そう告げたのは申し訳なさそうに手を上げた女船員。

 彼女のもう片方の手はモニターの前に設置されているマイクを指差しており、それが何を意味するのかを強く訴えていた。



「かはっ……」

「あー……お姉ちゃん? 今はショック受けてる時じゃないんじゃない?」

「……そ、それもそう……ね。次からは気を付けなさい? 余計な情報は混乱を招くわ。ね?」

「は、はい! すいません!」



 仲間全員につい出てしまった『女』の声を聞かれたことに思わず仰け反っていた船長だが、レナの指摘に頬をひきつらせ、こめかみをヒクヒクさせながらも何とか正気に戻り、ブリッジの外を見据える。



 先程宣言した通り、二隻の魔導戦艦が近付いてくるのが見えた。

 点だったものが少しずつ巨大になっていき、何故、どうやって浮かんでいるのか疑問に思うほど巨体になる様は中々恐怖心を煽るものがある。



「あれは……」

「私達の船と同じ型よ。武装もほぼ同じ」



 隣に居たレナが気付いたので説明しつつ、指示を出す。



「先手必勝! 先ずは主砲で敵の士気を削ぐ! 魔導砲、充填開始っ!」

「一番二番どっちだ!?」

「両方よ!」

「了解!」



 リュウは王都で発掘された銃型アーティファクトについて詳しかった。銃すらない世界の人間には想像も出来ないサブカル的知識だ。

 その知識を使って復活した武装の一つがサンデイラの艦首に備え付けてある主砲。船員の魔力を糧にエネルギーを溜め、一気に放出する危険な兵器である。



「損害状況は!?」

「無傷に近いらしい!」

「欲しいのは憶測じゃないわ! ちゃんと調べなさい!」

「充填率30%越えたぜ、船長!」

「実験を兼ねて40で撃つ! 溜まったら合図頂戴!」

「あいわかったっ!」

「合図と同時に魔障壁解除よ! 準備は良いっ!?」

「調整は問題ない! おいっ、後ろの二隻! そっちは全開だっ、吹っ飛ばされんなよ!」



 各々が叫び、答え、カタカタとボタンを押して何らかの情報を打ち込んでいく。

 レナはその光景を見て一人呟いた。



「これが……新たな戦争……まるで別物ね……」



 レナが知る戦争は地上で行われる血生臭い殺しあいだ。

 シキやアリス、リュウがSFチックと称するこの光景のようなやり方ではない。



 一見、何をしているのかすらわからないその光景は明らかに時代の変革を告げていた。



 アーティファクトの発掘と共に時代は変わり、今後はこのように戦うのだと嫌でも理解出来た。



「っ……お姉ちゃん! 私は出て良いの!?」

「船長! 40%到達! いつでもイケるぞ!」

「お姉ちゃんっ!」

「わかってるっ、ちょっと待ちなさい! 先行した撫子ちゃんに注意は!?」

「射線上からは離れてもらってる!」

「余波にも注意するよう伝えて! 並びに主砲発射用意ッ! 狙いは二隻の間! 魔障壁に干渉して吹っ飛ぶ筈よ! レナとナタリアちゃんは救護! 甲板には出ちゃダメ! わかったっ!?」

「「了解(しました)!」」



 レナ達が返事をしながらブリッジの出入口を開けると、バタバタと船員が走り回っていた。

 視界に居るだけでも数人の船員が何処かを押さえて蹲っていたり、倒れている。他の者はそれを迷惑そうに避け、砲撃のよる振動で転んで新たな怪我人となっている。



「こちらの魔障壁は!?」

「解除完了っ!」

「狙い良いわね!」

「イケる! 言われた通りの場所にロックオンしたぜ!」

「ならおっけーっ! 総員、衝撃に備えて! 撃てぇっ!!」



 背中に届いていたブリッジ内の怒号は自動で閉まったドアによって遮られ……数秒後、凄まじい轟音と振動に見舞われた。



「うぅっ、怖い!」

「レナ様! そうもっ!」

「わかってる! 言ってられないわよね!」



 シキやアリス、撫子、ヘルトとは違い、王女であるレナはあまり前に出れない。

 普通の魔物や対人戦闘ならいざ知らず、新たな戦争として加わった、銃型アーティファクトで戦うことになるであろうエアクラフト戦や甲板での大筒の砲手、強力過ぎるアンダーゴーレムとの戦闘は危険どころの騒ぎではない。



 故に、彼女とその専属メイドは自身に出来る範囲でやれることをすべく、走り出した。













 ◇ ◇ ◇



「ん?」



 空が光った。

 体勢を変えないよう注意しながら視線を上げると、サンデイラから魔力の塊らしきエネルギー波が放射されていた。



「おっ、すげぇっ、ビームだ!」


 

 背中に乗っかっているアリスが興奮して叫ぶと同時に、耳に付けている無線型アーティファクトから撫子の悲鳴が聞こえてくる。



『うわあああっ、こんなに凄いならっ……事前に言ってほしかったでござっ……いやああああっ!』

「ちっ、あいつ女みたいな悲鳴上げやがっ……おわっ!?」

「うおぅっ!?」



 恐らくサンデイラの主砲の余波で吹き飛ばされているのであろう撫子からの耳をつんざく通信に思わず耳を押さえた次の瞬間、俺達にまで余波が伝わり、体勢を崩してしまった。



「おわあああああっ!?」

「くぅっ!」



 ぐわんぐわん回る視界と身体の感覚的に、背中を押されて前にぐるぐる回転しながら落ちているようだ。

 何とか整えるべく魔粒子を額、胸、脹ら脛から間隔を空けて連続噴射し、回転速度を弱らせ、タイミングを計ってバランスを整えていく。



「ぐ、うっ!? んぎゃぁっ!!? はにゃがぁっ!」

「煩いなっ、もっと密着してろ! 衝撃とかGでぶつかるに決まってんだろ!」

「むうぅっ!」



 何となく想像が付いたので予め後頭部に《金剛》を使っておいたのだが、アリスは予想を裏切ることなく、俺の頭に頭突きならぬ顔面突きをしてきた。



 空中での体勢制御や減速にどれほどのGが掛かるのかわかっていなかったのだろう。

 思いっきり鼻が俺の後頭部にぶつかった感触がした。



 まあ厳密に言えば当たってきたというより、俺が当てたという方が近いので可哀想ではあるんだが、非常時だし、理解してほしい。



 やがて体勢が整い、余裕が出来始めた頃、落下地点を決めながらチラチラと上を見る。



 しかし、俺が見た時は既に魔導砲とかいうサンデイラのビーム砲みたいな光の放射は終わっており、敵の小型戦艦二隻が二手に分かれるところだった。



「アリス! 敵の戦艦に傷は!?」

「くうぅんぅ……た、多分にゃぁいっ」



 ――なっ……魔力や魔法を弾くとは聞いていたが……余波だけであれだけの威力だった攻撃を無傷で耐えるのか……!?



 一部始終を見ていた訳ではないので判断はし辛いものの、魔障壁の硬さに戦慄が走る。

 とはいえ、魔障壁が仕事をするのは気温と魔力に関するものだけ。サンデイラが砲撃をどんどん食らっていたように、実弾による攻撃は防げない。



「今の攻撃の真意は……って、うわっ!? お前すげぇ血と顔っ! だ、大丈夫か!?」



 首筋をたらりと垂れてきた生暖かい感触に気付いた俺はアリスの顔を見てぎょっとした。



 重力のせいで上に飛んでいく涙や鼻血はまだ良かった。

 問題は鼻だ。



 鼻が潰れていた。



 折れているのか、ぐちゃぐちゃになったのかはわからないが、綺麗だったアリスの鼻がぺしゃんこだった。

 鼻自体も血塗れだし、ついでに俺の頭にぶつけた時に付着した鼻血が浮いてアリスの顔中に当たり、折角の可愛い美少女面が真っ赤に染まっている。



「ら、らっへぇ、は、鼻がぁ……」

「回復薬やるから早く治せ!」

「うぅん……」



 そりゃ泣くわと思いながら腰のマジックバッグに手を伸ばす。



 身体に掛かるGについてわかってなかったアリスと言わなかった俺とでどっちもどっちではあるが、流石に罪悪感が出てきた。



「ほら最上級の良いやつ! 治らなかったらゴーレム部隊の誰かに回復魔法掛けてもらえ!」

「んっ……!」



 あまりの痛みで素直に受け取るアリス。



 普段からこうなら可愛いのに。

 態度や口調で目立たないけど、顔だけ見りゃ十分美少女の部類だし……。

 


「まあ、残念な脳ミソが全て台無しにしてるがな!」

「ふぇっ?」

「何でもない!」



 半分は間違いなく俺のせいなので心の中で謝りつつ、気を引き締める。



 少し間違えれば俺もこうなるのだ。



 いや……ステータスの高いアリスですらこうなんだ。寧ろ俺は一発で何処かがイカれちまう。

 エアクラフト戦なら銃弾が飛び交う中、何にも当たらないよう避けなきゃいけない訳だ。



 わかっていたが、改めて考えると何ともまあ冷や汗が出てくる現実である。



「まっ、先ずは降下が先だが……っとぉ!」



 砂漠の砂が飛んでいる高さまで降りてきたこともあり、敵戦艦の細かい形状が見えてきた。



 やはりデカい。全長三十メートルはあろうかという翼、撫子が言っていた、開閉する穴が六つほどある菱形の黒い背面装甲が光を反射させては砂丘の中へと潜っている。



「アリス! 減速する! 密着しろ! 顔は俺の背中! 首が痛くなるかもだけど、額だけを当てるイメージ!」

「わ、わひゃっは!」



 言うや否や、両手両足をバッと広げ、四肢からはそれぞれ二つずつ、胴体からは両腰、両胸、両肩で六つの魔粒子を同時噴出する。



「くぅっ!」



 魔粒子をただ出すだけじゃなく、下から傘を開くような形状にすることでバランスを崩させない。

 体勢は完全固定させ、魔粒子傘の向きと威力は全て均一に調整。少しでも間違えればバランスを崩してしまう。下手したらまた回転地獄だ。



「んんんっ……!」



 しかし、Gこそ凄まじいものがあったが、今回はアリスも怪我をすることなく減速出来た。



「俺は地上ギリギリでエアクラフトに乗る! お前はそのまま掴まってろ!」

「ん!」



 アリスが俺の背中に掴まる腕をぎゅっと締める。



「ぐえっ」



 つい変な声が出たものの、宣言通り砂漠から五十メートルほどで両足を下に突き出してエアクラフトに魔粒子を送った。



 一瞬の間を境に、紫色の魔粒子がスラスターから噴出され、一気に減速。ゆっくりと停止していく。



「よぉしっ、アリス! 行けるぞ!」

「ちっとはマシになった……うしっ、ありがとなっ、ユウちゃん!」



 短い会話を最後にアリスは俺の背中から飛び降りて砂漠へと落ちていき、対する俺はエアクラフトに更なる魔粒子を送って急上昇を掛けた。



「ったく、パラシュートでもありゃ楽だったってのにっ」



 誰に向けたものでもない。

 ただ頭上から降り注ぐ熱すぎる日の光と片方しかない瞳に苛立つように片手で影を作りつつ、何で現代兵器は見つかってパラシュートくらいのものが見つからないんだ、とぶつぶつ言って上空へと戻っていった。



 




















 ◇ ◇ ◇



「当たれぇ!」

「空中でっ、そして、この風の中っ、そんなものが当たる訳ないでござろう!」



 火薬ではない何かを利用して飛ばされた超高速の銃弾を余裕を持って躱し、下から斬り上げるようにして抜刀。



「ぎゃっ!?」



 悲鳴に遅れて人の腕が砂漠に落ちていき、次の瞬間には首が飛んでいる。



「精進が足りん!」



 奴隷とおぼしき首無し死体と銃型アーティファクトが重力に引かれて落下していく中、撫子は刀を振って血を飛ばし……



 自身を360度取り囲む敵のエアクラフト隊を見やった。



 全員、布切れしか纏っておらず、まともな防具こそないものの、様々な形状のエアクラフトで浮いており、かつ耳には通信用の魔道具を装着。手には自動小銃に散弾銃、ロケットランチャー等、妙な武装をしていた。



「ひぃふぅみ……ざっと二十人ってところでござるか」

「さっきので半分以上やられたのが誤算だった! 何だありゃあ!?」

「知るか! どうせ俺達の知らねぇアーティファクトだろ!」



 撫子は背後や真下、真上にまで居る敵の数を確認しつつ、仲間同士で怒鳴りあっている敵に対し、内心「通信? 出来る魔道具があるのに大声で喚いていては意味がないでござろうに……」と嘆息する。



 しかし、敵の指揮官も同じことを言ったのか、敵の顔がみるみる青い顔になっていく。



「す、すんませんしたソーマさん!」

「許してくれぇっ」

「それだけはっ、頼むっ、それだけは!」



 各々が泣きそうな顔で懇願し、直後に静かになる。

 恐らく煩いとでも言われたのだろう。



 (とはいえ……流石にこの数を同時に相手するのは骨が折れるでござる。これは……多少の覚悟が必要でござろうな)



 懐や袖に幾つもの暗器を隠している撫子だが、空中で、しかも地上から数キロにも及ぶ遥か上空でまともに狙い撃ち出来るかと訊かれれば、否と即答する。

 シキは角で仮面を固定して動かないようにしているので普通に話せるものの、撫子や他の人間は風が強すぎて呼吸するのも億劫なのだ。会話も呼吸も儘ならないレベルの風が吹き荒れる中、寸分違わず敵に飛び道具が当てられるとは到底思えなかった。



 が、自分よりは影響の少なそうなアーティファクトを持っている敵に囲まれているのが現実。個なら兎も角、相手は群だ。数を撃てば流石に当たる。

 相応の怪我を負うであろうことは目に見えていた。



 幸いだったのはこちらが魔導砲の余波で吹き飛ばされている内に、敵の半数が魔導砲に直撃しており、消し炭となっていたことだろう。

 加えて、耳に付けている魔道具に「十分ほどで合流出来る」とアカリら、味方のエアクラフト隊からの通信も入っている。



「つまり拙者の任務は……出来るだけ気を引きつつ、時間を稼ぐ! でござるっ!」

「ぐぁっ!?」



 予想出来る筈もない、遥か上空で滞空しているエアクラフトからの《縮地》、続けて抜刀、からの居合斬り。



 まるで地上で行われたような滑らかな抜刀術だった。

 反応すら許されない速度。他の男達は見ていることしか出来ない。



 少しの間を経た後、斜めに身体が別れた男が落ちていく。



「なっ……野郎っ!」



 その隣で浮いていた仲間が血相を変えて銃を向けるものの、既に撫子の姿はない。

 代わりに残存しているのは撫子が放つ空色の魔粒子。砂のような粒がキラキラと輝いて消えている。



「失礼なっ! 拙者の何処がっ、野郎でござるか!」



 その声を聞いた瞬間、虚空に銃口を向けて固まった男は頭部だけを縦に両断され、頭の中身をぶちまけながら落ちていった。



 そして、タッ! という、地面を蹴ったような音がした時には落ちかけていた自分のエアクラフトの上に立っている。



 小声で「おっ……ととっ……結構怖いでござるなぁ」と呟きながらバランスを整えた撫子は再び刀を振って血を落とすと帯刀し、告げた。



「単騎で空を飛び、空を蹴れる拙者とエアクラフトとアーティファクト無しでは何も出来ないお主達。さて……生き残るのはどちらでござろうな」



 その目は時間稼ぎをしようとする者のそれではなかった。



 キッと細められた双眸に、素人でもわかる明らかな殺意が乗っている。



「あの船は拙者に出来た初めての居場所でござる。どうせなら手柄の一つでも立てて帰りたいのが人情というものでござるよ」



 場所は目を開けるのが精一杯の上空。まともに聞こえた者は果たして何人居たか。



 しかし、撫子の強さは関係ないのだろう。

 彼等には彼等なりの理由があって攻撃してきた。



 ならば恐れを抱いても攻撃してくるのが人間。



「う、撃て撃てぇ!」

「殺せ!」

「殺られる前に殺っちまえ!」



 撫子は「やはり拙者のやり方では萎縮させることは出来ないか……」と溜め息をついて刀を抜き、前方から迫る弾丸を弾く。

 同時にエアクラフトから魔粒子を噴き出させて上昇し、斜め左右と後方から飛んできていた弾丸を回避した。



 幾つかの銃弾がエアクラフトを掠めて揺れたことに内心ドキリとしつつ、エアクラフトを蹴って真下に居た一人を斬り、勢いを殺さないよう背中のスラスターから魔粒子を出してそのまま前進すると、更にもう一人を斬り捨てる。



「っ、気にせず撃て!」

「おらぁ!」

「死ねぇ!」



 ビュービューと吹き荒れる風の中、男達が降下して背中を見せた撫子に向かって引き金を引き、ズダダダダダダッ!! と耳を押さえたくなるような音が辺りに散った。



「ぎゃああっ!?」

「ど、何処見てんだお前ら!」



 撫子の耳に怒号と銃撃音、遅れて悲鳴が届いた。

 《空歩》と《縮地》で真横に飛んで銃弾を避けていた撫子には見えなかったが、何が起こったのかはわかる。



 恐らく仲間に誤射してしまったのだろう。

 落ちているであろう自分のエアクラフトの位置を把握しようと辺りを見渡すついでに状況を確認する。



 予想通り、味方に弾が当たってあたふたしている者と数人の男が頭から落下を始めていた。



 (気軽に、誰でも使えて強力なのは良いでござるが……少々危ないでござるな。エアクラフトを使った空中戦闘では尚更……。そして……)



「っ!? た、弾切れだ!」

「やべぇっ」

「クソがああっ!」

「あははははは!」



 引き金を引いても弾が出ずに焦る者、仲間に当てて顔面蒼白の者、仲間が殺られて冷静さを欠く者、トリガーハッピーに陥る者……男達は愚かにもその場から動かず、ただ浮いていた。

 何度かエアクラフトを使って手合わせしたシキやヘルトとは違い、回避運動や追撃すらしてきていない。



「同時に色々こなすのが大変なのは理解出来るでござる! だがっ! 棒立ちでは狙ってくれと言っているようなも――」



 スラスター粒子で浮き、移動スキルで戻ろうとした撫子を遮ったのは影だった。



 自分を、辺りを暗く染める黒い影。



 見える範囲に雲はなかった筈。

 ならば何事かと上を向いた瞬間、その影は消え、日の光が両目に突き刺さる。



「くあっ!? し、しまっ――」



 今度は全身にけたましい警鐘が鳴り響いた。



 数多の死線を潜り抜けてきた長年の勘と《直感》が無意識レベルに撫子の身体を動かす。



 太陽を直視してしまい、思わず両目を覆うとした手は刀に、もう片方の手は頭に向かう。そして、【一刀両断】、《金剛》、《空歩》、その他大量のスキルを使ってその場に留まり、衝撃に備えた。



 刹那。



 とてつもない力で殴り飛ばされた。



「がっ!?」



 全身が軋み、全身の骨が折れたと思ってしまうほどの衝撃。



 真上から、それも一直線の衝撃だったからか、回転してしまうことはなかったものの、腰が抜けそうな速度で落下している。

 何とか痛みを堪え、背中のスラスターから魔粒子を出して勢いを殺していると鈍い銀色の物体が落ちていく光景を目撃した。



 (あ……れは……や、ま……?)



 山。そう見間違うほどの大きさ。



 意識が朦朧とする中、ボーッとそれを見つめる。



 いざ見てみれば山のように感じるだけでアンダーゴーレムの二倍あるかないか程度の大きさだった。



 上手く脳が働かないせいだろう。あの銀色の何かに殴られたのだと理解するのに数秒の時間を要した。



 暫く落下し、漸く衝撃が抜け切って停止した撫子は呻きながら無線に魔力を送り、サンデイラに通信を試みる。



「こ、こちら……撫子……ヘルト、殿達に至、急っ……連ら……く…………ダメか……」



 途中で諦める程度にはサンデイラと離れていた。

 近くであれば鮮明に繋がる筈なのに、耳にはザーッという嫌な音しか聞こえない。



「くっ……しくっ、た……でござる……」



 両腕はひしゃげ、頭と口からは激しく吐血。刀を掴んでいた指は潰れている。



 痛々しい姿のまま滞空し、意識が落ちかけたその時。



『何がしくったって?』



 シキの声が聞こえた。



 諦めるように目を瞑っていたが、思わず口角が上がる。



「ふっ……遅かったで……うっ……ござ、るな……」

『お前が降りるよりは早かったさ』



 大して強くもないステータスで自分と良い勝負をした敵。

 それが今では仲間なのだから何とも頼もしい。



 互いに憎まれ口を叩きながらも情報を伝え、そう思っていると、『こちらシキ、エアクラフト隊の誰か、サンデイラに繋がるか? ……ならヘルト達に頭上注意と注意喚起するように伝えてくれ。敵の戦艦から銀色の何かが降下したらしい』という声が続いた。

 恐らく撫子とエアクラフト隊の間を中継して情報を伝え、エアクラフト隊がサンデイラに、サンデイラは降下したゴーレム部隊へと情報伝達を図ったらしい。



 撫子達の無線は距離で左右されるものだが、サンデイラとアンダーゴーレムに搭載されている無線はどちらかが古代の遺跡にでも居ない限り、何処でも通じる。



「情報の即時伝達……こういうところでもアーティファクトは強力でござるな……」

『寧ろ陸海空、何処だろうが無線無しでよく戦争なんか出来てたな。指示系統がぐちゃぐちゃで指揮すらまともに取れなかったろうに』

「……くくっ、確かに」



 注意喚起だけでもあるだけで意識が変わる。

 レナが時代の変革を感じたように、撫子とシキもまた旧時代の戦争を知っているが故の同じ感覚を味わっていた。



『……敵のエアクラフト隊がサンデイラに向かっている。俺はそっちに向かうぞ』



 その光景を目の当たりにしたのか、少しの間を置いてそんな通信が入る。



「頼んだでござる」

『予備のエアクラフトをアカリ達の誰かに渡しておく。それで来い』

「回復したら……直ぐに向かうでござるよ」

『それで良い』



 その会話を最後に撫子は無言になり、苦笑いしながら言った。



「……こちらは刀を落とさないよう潰れた指と潰れた腕で抑えるのに精一杯だというのに……無理を言う」



 その後、数分して味方のエアクラフト隊と合流した撫子は《再生》スキルで回復を終えた身体でサンデイラの方向に飛んでいった。



個人的にわちゃわちゃしてて微妙に何やってるのかわからないくらいが面白いと感じるんですが、戦闘の規模が広すぎてわちゃわちゃ通り過ぎてぐちゃぐちゃになってしまいました。

何か良い書き方はないものか……

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