第141話 道筋
遅れました。
黒ブロックと似た光沢を放つ巨大で暗い銃。
乗機型のゴーレムが持てば丁度良いであろう大きさの小銃には弾倉がなく、使えるのかどうかすら怪しい。しかし、取っ手と引き金の上部に光るゲージのようなものが二つあり、両方共半ば程度で留まっている点から、恐らく弾数かエネルギーゲージを表しているのだろうことが窺える。
「これは……」
「どう見てもビームラ◯フルだよね」
「俺、ロボットアニメなんて見てねぇからわかんねぇわ」
色々あってサンデイラに戻った俺達が隠密系のスキルで付けてきた撫子に全く気付かず、不覚にも乗せてしまってから数日が経った。
初日からやらかして戻った俺達とは違い、買い物や情報収集をしっかり行ってきたリュウ達が持ってきたのが巨大ライフルの写真だった。
現在は会議室みたいな部屋でその写真を俺、リュウ、アリスの三人が睨んでおり、その後ろに船長達が居る。
「一応動画も撮ったんだけど、素人に隠し撮りなんて無理があるってことが証明されたよ」
と、苦笑いなのはショウさん。
【等価交換】によって得た地球のカメラで色々撮ってきたらしい。
「情報通り、触れると魔力が吸われて光るらしいから、多分ゲージが溜まっていってるんだと思う」
リュウがそう言って巨大ライフルのゲージを指差した。
「……つまりそのピカピカが溜まるとこの兵器が使えるようになるってこと?」
「ね、寝起きの私にそんな目を向けるのは止めなさぁい……? これでもまた何日も寝ずに調べてたのよぉ?」
真剣な表情で首を傾げたレナの疑問に一同が揃って船長の方を向き、疲れきった顔でそう返された。
根気を求められる能力だから仕方がない反応ではある。元々頼りっきりでもあった訳だし。
「弾が無く、弾倉を入れるような窪みもない銃……そいつが魔力を吸うってなると……魔力を使った弾が形成される……?」
「僕としては魔力そのものを魔粒子のようなエネルギーに変換、昇華させたビームが撃てる説を提唱したい。魔粒子装備やエアクラフトがそれを可能だって証明してるしさ」
「戦争してたんだし、ビームくらいありそうだよね」
「ん? 魔力が枯渇した時代だったんじゃねぇのか?」
「一つしか発掘されてないから何とも言えないな。威力が強力過ぎて使えなかった、必要魔力が多過ぎて使えず封印された、ただの試作品……」
「「「「う~ん」」」」
何となく想像出来る異世界男組(内一人は身体だけ女)で意見を出し合っていると、レナと船長が不思議そうな顔で訊いてきた。
「ねぇねぇ、ビームって何?」
「話の流れ的に……エネルギー波のようなものかしらぁ?」
いざ訊かれるとそんなSF概念は説明出来ない。というか知らない。
取り敢えず、そのイメージで合っていることだけ伝えておく。
「……わかんない人も居るし、考えてても仕方ないから次の報告行こうか。えっと……君達が壊したシエレンだけど、やっぱり元に戻らないみたい。まあ時代が違うから、オーパーツ的なものの修理なんて地球レベルの文明があっても無理だろうね。後は……あ、そうそう。シエレン以外に発掘されたゴーレムは『バーシス』くらいしかないらしいよ。数は三十機。使える武装とかパイロットを考えると三十機全部は動かせないと思うなぁ……」
バーシスとはリュウが使う茶色い量産型ゴーレムのことだ。
素手でも強いが近接型や支援型のように武装があれば尚良いので、機体の数分の武装が発掘されるまで、ある程度の数は研究に回されるのではないのか、という見解なんだろう。
「他にはエアクラフトが続々と発掘されてるのと、新型……っていうか既存のとは違う形状の魔粒子装備が出たとか、そんな感じかな」
「あ、冒険者ギルドにも行ったんだけど、人喰いワームの目撃や被害が増えてるとも言ってたね」
壊したシエレンの下りで明後日の方向を向くアリスを睨み付けていたレナがショウさんの発言に反応した。
「人喰いワーム……? 確か城でも言われたわね……ナタリア、何か知らない?」
「いえ、特には。強いて言うなら……被害の数が増加している点に加え、巨大な個体が多く目撃されていることくらいでしょうか」
「大きい人喰いワーム……悪いことが起きないと良いけど……」
そう言いながら原因や被害について考え込むように俯く。
「フラグかな?」と茶化したいところだが、今のは発掘されたアーティファクトによって不安定な国内、パヴォール帝国の脅威、増える魔物の謎という国の問題に対し、王女としてではなく、人として見過ごせないって感じの反応だった。
勿論、ある程度国を治める者としての憂いもあるだろう。とはいえ、レナは王女にしては情に絆されやすい。それが良いところでもあり、悪いところでもあるな。
何故か上から目線でそんなことを思っていると、船長が口を開いた。
「粗方話し終わったわねぇ? うちの諜報員と被る情報も多かったけど、でっかい銃みたいな話は助かるわぁ。この……し、シャシン? っていうのも便利だし、お金は払うから後で頂戴ね」
「あ、はい」
船長としても口頭や文だけでの情報だけでなく、異世界人という別の視野からの私見は助かるのだろう。
「で、本題なんだけど……帝国が攻めてこなかった理由がわかったわぁ」
船長は語った。
パヴォール帝国で皇帝が討たれ、新たな皇帝が誕生したこと。
その手腕、強さ、量産されるアーティファクト、転生者の影等々。
無人機のアンダーゴーレムや銃火器を使用したトラップの相手をすることが多い俺やアリス、リュウとしては肝が冷える話だった。
アリスのような転生者が何人も居ることも中々堪える。
「わ、私達……そんな相手に勝てるの……?」
実際、レナは青い顔で縋るように訊き、ナタリアも似たような反応をしていた。
「勝つ為に……これまで以上に動かないといけないのよ」
いつもの間延びした口調が消えた。
それほど真剣な話ということだろう。
なので、「ま、俺は同じ転生者相手でも勝てるけどな!」みたいな顔のアリスに「お前はこの前固有スキルにやられて手も足も出なかったばかりだろうが」と小声で小突いておく。
レナから他の王位継承権を持つ奴等の死に方を聞いて確信した。
馬鹿王子の固有スキルは『自分が受けている毒等の状態異常を他人に移す』能力だ。
アリスがやられたようにいきなりもがき苦しんで死んだらしいから……という考察は置いておく。
重要なのはそんな強力な固有スキルが幾つも存在し、異世界人や転生者は必ずそれを持っていること。
俺の【抜苦与楽】は『触れた対象の特定の物質、物体を除去』するという微妙なものだが、アリスの【全身全霊】は《限界超越》と同じように『極度の疲労を代償に全てのステータスを跳ね上げさせる』力だ。《限界超越》とは違う扱いらしく、〝気〟も応用して使えば全ステータスは元の十倍を越える。
他にもライの【紫電一閃】、マナミの【起死回生】、ショウさんの【等価交換】や船長の【先見之明】、撫子の【一刀両断】と例を上げればキリがない。
どういう力にしろ、その力は普通のスキルよりも強力であり、普通のスキルと違って使いすぎによるスキル頭痛が来ないという特性がある。
当然、能力によって発動条件や代償はある。俺で言えば対象に触れなきゃいけないし、アリスはめちゃくちゃ疲れて動けなくなる。船長のなんて途方もない労力と根気が求められる面倒な力だ。
が、スキル頭痛という共通の欠点はない。
ライやマナミ、撫子のような強い固有スキルでも使い放題。
転生者を相手にするってのはつまり、その固有スキル所持者と対峙しなければならないということ。
幸い、こちらには船長が居るから相手の能力は大体わかるものの、それを踏まえても〝死〟のリスクが高い。
「先ずは坊や達が言ってた第三勢力を吸収するわ」
黙りこくった俺を見た船長が場を明るくするようにそう言った。
「……やっぱり居たのか」
「おっ、良いねぇっ。そういうのを待ってたんだよ!」
「ま、まさか……」
「お姉ちゃん……? その人達、協力してくれるの?」
俺とアリス、リュウは吸収の意味を即座に理解し、レナはわからずとも何となく察したようで、不安そうに訊いた。
「協力? 吸収って言ったじゃない。潰してアーティファクトを奪うのよ」
賊を名乗るだけある、何とも豪快な回答だった。
「お姉ちゃん……野蛮よ」
「あらぁ? 海賊が物を奪って何が悪いの?」
「……何それシキ君の真似? ちょっとシキ君。貴方のせいで私のお姉ちゃん、どんどん悪い人になってくんだけど」
「煩い話を逸らすな。今は道理なんて説いてる場合じゃないだろ。後、人のせいにするな。お前の姉ちゃんは元から悪い姉ちゃんだ」
「やんっ、また雑に扱われちゃったっ。私、王女なのにっ。遠回しに黙ってろだなんてっ……」
「……ちょっと坊や。貴方のせいで私の可愛いレナがどんどん変態みたいになっていってるんだけど」
「…………。なあ船長、潰して奪うなんて簡単に言ってるけど出来るのか? 相手は俺達と同じようにアーティファクトを集めている。中にはバーシスやシエレンのようなゴーレム、魔導戦艦もあるかもしれない。そんな奴等と……」
「「「「「えっ、まさかの無視っ!?」」」」」
真面目な話、ある程度の損害を覚悟しないと負ける可能性もある。
銃やロケットランチャーみたいなアーティファクトを持っているだけなら兎も角、ゴーレムと魔導戦艦まで持ってたらそれは最早戦争だ。
まあ未来予知が出来る船長が発案した時点で勝てる可能性の方が高いんだろうが……
「……帝国と比べれば対処出来るわ。理由はわかるでしょう?」
「……奴さんは俺達と同じただの賊。帝国と違って模造品を量産出来るほどの資金や素材はなく、そもそもそこまでの技術を持つ生産職はこの国自体に居ない」
「うっ……し、辛辣だけど、事実だから言い返せないのが悔しい……」
「ふーん……だから?」
レナが落ち込むのを横目で見つつ、船長は続きを促してきた。
「何があるにしろ、全ての武装に限りがあり、行動も予測出来る。食糧もうちと同じで補給を続ける必要があるから行動限界もあるな」
世界で見つかっている古代の遺跡は今のところシャムザに集中している。
その第三勢力がどんな目的でアーティファクトを集めているにしても、シャムザの国内で発掘されるアーティファクトしか持ってないのは確実。となれば船長の【先見之明】無しでも攻撃手段や行動範囲は予測出来る。
「わからない点は私の予知で補完すれば勝てると思わない?」
「あくまで帝国に比べれば、の話だろう。魔導戦艦やアンダーゴーレム、銃火器等の兵器を互いが使う戦いなんてのは誰も経験がないんだ。間違いなく犠牲は出るぞ」
船長の少しニヤついた顔が俺の指摘で歪んだ。
まるで「それは私が一番よく知っているっ」とでも言いたげな顔だ。
「でも……それでもやらなきゃいけないの」
「お姉ちゃん……」
軽く俯いた船長にレナが寄り添い、俺達は軽く目配せして話した。
「ま、覚悟があるんなら良いさ。あんたと同じように、最善は尽くす」
「どうせ俺達は死なねぇしな!」
「アリス……このタイミングでその台詞は色々と問題だから止めようね」
あったところで、辛いことに変わりはない。
少なくとも俺は辛かった。
船長は既に『見』ている分、もっと辛い筈だ。それすらも承知でやるというなら文句はない。
「……そういや、ヘルトとアカリはどうしたんだ? 二人とも前衛だし、一緒に聞いてもらった方が良かったんじゃ?」
先程の船長じゃないが、少し暗くなってしまったので空気を入れ替えるように話題を変える。
「あぁ、あの二人は今頃……」
俺の疑問に答えたのは船長だった。
重い腰を上げ、漸く話し合う気になったらしい。
◇ ◇ ◇
巨大魔導戦艦サンデイラの船腹。
斜めに降りるようにして口を開き、アンダーゴーレムや爆弾兵器等を投下する機能があるその区画の内部はアンダーゴーレムの格納庫となっている。
ゴーレム乗りの好みや武装の限り、バランス等を考えて近接型、支援型、支援型(キャタピラ形態)と分けられて立っているバーシス隊の片隅に、赤いアンダーゴーレムが佇んでいた。
バーシスともシエレンとも違う滑らかな装甲。全身甲冑を彷彿とさせる形状に造られたそれの頭部にはカメラと思われるものがなかった。あるのは横一筋に広がる細い線のみ。
バーシスが戦車、シエレンがクワガタならば、その赤い機体『アカツキ』は騎士だった。
幾重にも張り巡らされた金属板によって形成された、プレートアーマーのような装甲と背中から真横に生えた羽のような板が特徴であり、専用の武装らしい薄赤色の片手剣と軽盾が足元に鎮座している。
バーシス隊に限らず、アカツキのバックパックから覗く一際巨大な二つのスラスターや各部位の金属板の間など、整備班を任された船員達が数十人規模で汗水を滴し、走り回って、あるいは叫びながら作業する中、ヘルトはアカツキのコックピットハッチを開放して操縦桿を弄っており、アカリはその前の吹き抜けに立っていた。
「ヘルト様、話というのは何でしょう?」
「このペダル、乗る度に固くなってる気が……おっ、直ったっ。ここで調整出来んのね、やっぱオイラ天才っ」
「あの……」
「ん? あ、アカリか。ゴメンゴメン。今終わるからちょっと待ってて」
自画自賛と操縦桿の調整を終え、コックピットから出てきたヘルトは「ふーっ……」と一息付いてそのまま胸部装甲に座ると、アカリに座るよう身振りで伝えながら話し始める。
「……オイラのこと、シキの野郎から聞いたろ?」
「はい。同じ『勇者』として仲良くしてやってくれとも」
「余計なことを……」
吐き捨てるように言ったのをきっかけに、二人は無言になってしまった。
二人はこの世界イクスの『勇者』であり、それぞれ過酷な人生を歩んできている。
故に、自分と同じ職業で、似た環境を生き抜いた同年代の存在は少々反応に困った。
片や国や人の欲によって、片やそれらを恐れた結果、揃って両親を失くし、奴隷と盗賊に堕ちた。
そして、揃って恩人に助けられ、今に至る。
とことん似た人生を歩んできた相手。
大きな違いと言えばアカリは拷問を受けて精神が死に、ヘルトは船長の元で腐ることなく成長出来たことだろう。
気付けば二人は互いの人生について語り合っていた。
話し始めたのはヘルトだった。何の前触れもなく、唐突に語り出した。
不幸自慢でも、同情を誘った訳でもない。
ただ知りたかった。
ただ知ってほしかった。
比べてしまえばアカリの方が辛く、酷な人生だろう。
しかし、聞けばアカリは自分を不幸だとは思っていないと言う。
そうして何故かと問い、結果的に互いの全てを知ることとなったのだ。
「そう、か……だからあいつを……」
「シキ様は優しいんです。ライ様やマナミ様が尻込みする中、同情だけで私を助けてくださって……異世界人だと、『闇魔法の使い手』だと聞いて最初は驚きましたが、あの方は他の誰よりも努力していました。他の誰より、私を人として扱ってくれました」
「けど……やり方を間違えた」
「違いますっ。シキ様は間違ってなんかっ……あれはライ様が……魔族がっ……私達が悪かったんです……! ライ様の立場を思えば拒絶するのもわかります……魔族からすれば敵は殺そうとするのが当然です……でも、私達は助けを求めるシキ様を助けることが出来なかった。あのシキ様が泣いて助けを求めていた時にっ、私はっ……!」
命の恩人が最も助けを求めていた瞬間に立ち会いながら、今一歩実力が足りず、救えなかった。
それはアカリにとって今も夢に見て苦しむほど辛いことだった。
「だから……私はもっと強くなってシキ様を支えたい。例えあの方がどんな道を歩もうとも……」
「……強いなぁ」
「はい?」
「いや、オイラとは大違いだなぁって」
ヘルトは『勇者』という職業でありながら、突出した強さを持っていない。
他者よりも強いのは確かだが、並行職のアカリほどではないし、シャムザはイクシアと違って弱い魔物が少ないので安全にステータスレベルを上げることが難しい。
「さっき言ったろ? オイラも父ちゃん達を助けられなかった。その辺はアカリと同じなんだ。強くなりたいっていう思いもね」
当時、軍事路線に走っていたレナの父は固有スキル所持者や強力な職業の者を国中から集めており、それらの育成途中で命を落とす者が絶えなかった。
聖神教と同じく、対象者はほぼ強制的に連れていかれるが、処遇は決して悪くなく、どのような身分、出身であっても国の利益に繋がる働きさえすれば出世コース間違いなし、本人にも家族にも高い謝礼がもらえるということで国民からのイメージは良かった。
しかし、育成担当の者ですら命を落としかねない魔物しか存在しない砂漠という環境が悪かったのだろう。
大人が自主的にその環境に身を置くのならまだしも、小さな子供すら無理やり連行し、過酷な砂漠での成長を強いる。
良いイメージがある一方、一定数で忌み嫌い、反発する者も居た。
「オイラの父ちゃん達がそうだった。勇者だから、素質があるからと、本人の意思を無視するのはおかしいってさ。多分、皆心の何処かではそう思ってたんだ。けど……」
人間とは不思議なもので、赤の他人の感情が伝染してしまう性質がある。
万が一の為、国の為と謳っても国のトップが戦力を求めていると知れば、仕草、声のトーン、表情からそれらを勘違いし、それを知った者がそれを広め、噂となり……国全体に疑心に近い気持ちが芽生えてしまう。
特に、過酷な環境で強力しあって生きてきたシャムザの民は仲間意識が強い。
自然と「戦争をするのではないか」、「他国に攻められるのではないか」と不安に駆られる者が増え、過激な反発者や逆に国の命令は絶対だと信じて疑わない者も出てきた。
「友達の母ちゃん……だっけかなぁ。気付いたら国に告発されてさ。ある日、兵隊達がいっぱい来て、父ちゃん達はオイラを守ろうと命を賭けて逃がしてくれた。後はさっき言った通り」
遠い目をしながら話すヘルトは苦笑いで続けた。
「色々あって二人は死に、オイラは孤児になった。こっちも生きる為だ。スリも盗みも殺しも何だってやった。返り討ちにあって死にかけたこともあったね。それでも何とか食い繋いでた時に姉ちゃんに拾われたってわけ」
懐かしむように己の両手を見た後、アカリに視線を向ける。
「って言っても数年前だけどな。オイラもぐれてて、姉ちゃんが優しくしてくれる理由とか固有スキル知って怒っちゃってさ。その頃には既に人間の力だけに頼る政策はなかったってのに……バカだよな」
「人の力を信じた結果、人そのものを信じられなくなった愚かな王だとレナ様は言ってました」
「……知ってたのか」
「シキ様はレナ様と仲が良いので」
「ふーん……」
少しだけ、ヘルトはシキとレナのことを聞いてムッとしたような顔になった。
否、どちらかと言えば面白くなさそうな、だろうか……とアカリは思った。
「姫さんがそんなことをねぇ……オイラは怖くなったんじゃないかって思うね」
「と、言うと?」
「王は国を守る為の力を人に求め、姉ちゃんのような強い心を持つ人の存在を知った。理由があるから、必要があったから、覚悟があるからって……自分の目玉を平然と抉り取る奴。それも年若い女で、遠い未来がわかる奴だ。そんな奴に、貴方は破滅する、民が飢えて大勢死ぬ、なんて言われたんだ」
誰だって怖くなるさ、というのがヘルトの考えだった。
「だからオイラみたいな奴の人生を狂わせる政策は止めたし、当時発掘されつつあったアーティファクトに頼りっきりになった。ま、それに関しちゃ姉ちゃんの力を反映するアーティファクトを得たからかもしれないけど」
そう締め括ると、ヘルトは先程のアカリを真似するように言った。
「だから……オイラはもっと強くなって姉ちゃんや姫さんを助けたい。この国をより良い国にして、皆が笑える未来にする」
「……? えっと……何が、大違いなのでしょうか?」
「ん?」
「いや、あの……先程、ヘルト様は私と自分は違うって……」
「あー……」
思わぬツッコミだったのか、今度は頬をポリポリと書きながら返す。
「オイラ、弱いからさ。どんなにレベル上げたってシキやアリスには勝てないし、アカリにも……多分、一生勝てない。技術的にも時間的にも、今から努力したところで追い抜くなんて絶対無理だ。だからアンダーゴーレムっていう卑怯な力に頼ってでも強くなりたいんだよ。折角、強い職業に生まれたのに……何か諦めたみたいでカッコ悪いだろ? 仮にも君と同じ勇者としてさ」
「あぁ、成る程……」
強くなりたい。
その思いは同じでも方法が違う、と彼は言う。
物理的に強いシキ達や強くなりたいアカリとは違い、自分にはその強さを求める覚悟や既にその強さを持っている彼等と同等に至れるほどの才能はない。
成る程、確かに諦念に近い心境なのだろう。
「でも……」
恥ずかしそうに、自嘲するように軽く俯くヘルトに対し、アカリは最近見せるようになった自然な笑顔を向けた。
「どんな手を使ってでも強くなりたいという思いとヘルト様が求める未来は私の主と同じです。泥水や他人の生き血を啜ってでも生き足掻いて、唾を吐き付けたり、人質を取ってでも勝たなきゃいけない時もあるんだってこの前言ってましたし、私やムクロ様には笑っていてほしいとよく言ってくれますから」
決してカッコ悪くなんてありませんよ。寧ろ、何と言われようと自分を貫き通すのはカッコいいですっ。
と、力説するアカリに。
「いや、その方法はちょっと……というか、それと一緒にされるのもちょっと……そして君のご主人様、やっぱちょっとヤバいって」
ヘルトは引きつった笑みを返すことしか出来なかった。




