表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第4章 砂漠の国編
147/334

第139話 裏切り



「王都の直ぐ側で戦闘だと!? 一体何処の馬鹿が!」

「何故止めぬ! 『シエレン』を出せば良かろう!」

「し、しかしっ、陛下の許しもなくゴーレムを動かしては……!」

「大事である! 騎士を凌駕する化け物同士が殺しあっているのだ! 今すぐ止めさせぃ!」



 数人の貴族と騎士が問答を続け、早十数分。

 オアシスの恩恵を最も受けられる位置に建てられた城の一室でシキと撫子が繰り広げる傍迷惑な殺しあいへの会議が行われていた。



「騒がしいぞ。何が起きている?」

「はっ、旅人同士の争いかと。幸い建物や民に被害はないようですが……」

「ゴーレムが戦っている訳ではないというのに、何を大袈裟な」

「で、ですが! アレは最早人がどうにか出来るものでは!」

「くどい!」



 実際にシキ達の戦いを見たのであろう騎士を一蹴したのはレナの兄、ナールだ。



「私は気が立っている! 陛下もお疲れだ! 何故自分達で判断し、終息させぬか!」

「我々はあくまで王家の手足であります。指示が無ければ動けませぬ」

「上の言うことをはいはい聞いているだけの愚か者が!」

「っ、それで良いと仰ったのは王子でしょう! 過去の発言すらお忘れか! ……兎も角、一度王子にも見ていただきたい。シエレンを出して収まるかどうかすら怪しいのです」

「ふんっ、今度は我が国が誇る最高戦力が負けると抜かすか」

「我々の技術力では補修すらままなりません。そんな状態では負けなくとも傷付いた時点で国にとっての損害になります」

「ならば魔導戦艦を出せば良かろう。あれを見れば誰であろうと逆らう気は起きん」



 ナールと口論をしていた若い女の騎士団長は小さく溜め息を付いた。

 同時に、「貴方がそんなだからレナ様が祭り上げられたんだぞ……」と内心で嘆く。



 事実、この男、ナールは王座に付く器ではなかった。

 王位継承権第一位の権力に物を言わせて好き勝手し、レナ以外の継承権を持つ者は暗殺している。



 気に入らない者は消し、そして、それを成す力はあるという厄介な王子だ。

 騎士団長だけでなく、この場に居る貴族にすら馬鹿王子と揶揄されているが、国王すら恐れて文句も言えぬ相手に変な態度は取れない。



「丁度良い。帰ってきたレナが再び消えて苛々していたところだ。騎士団長の言う通り、私が直々に見てやろう。シエレンのアピールにもなる」

「……は? そ、それはつまり……魔導戦艦ではなく、シエレンを出すということで……?」

「そうだ。我々を怒らせるとどうなるか思い知らせてやるのだ」

「しかしっ、それでは民がっ!」

「父上……失礼、陛下もそれで良いですな?」

「う、うむ……」



 この王子にして、言いなりの王。



 年老いたせいか、レナとよく似た金髪の老王には今一頭のキレが無い。かといってナールのような男に王座を渡す訳にもいかない。

 故に庶子であるレナを王族に祭り上げ、女王にしたいという魂胆はわかる。



 しかし、王族がこんな有り様では民の心は離れるばかりだと騎士団長は感じていた。

 既に貴族からの視線は冷たい。他国とは違い、シャムザの貴族には領地がない。武力も持ち合わせておらず、古くから国に仕える血筋の貴族というだけの文官が殆どなので、そこからクーデターや謀反が起きることは先ずないだろうが――



「ふははは! 魔導戦艦とシエレンさえあれば我が国は世界のトップに君臨出来る! やはり持つべきものは力よ!」



 その魔導戦艦と『シエレン』というゴーレムを動かしている騎士団はわからなかった。



 (早くお帰り下さい、レナ様……確かな人望に血筋がある閣下ならいざ知らず、平民上がりの私では抑えが効きません)



 ここ最近は王子がパヴォール帝国と繋がっているという噂もある。

 アーティファクトとゴーレムのお陰で今だ嘗てない栄えを見せる王都を数字や己が瞳で見れる騎士団長からすれば、内乱が起きてしまうのは時間の問題に思えた。









 ◇ ◇ ◇



 王都の外では一歩間違えれば死を免れぬ殺しあいが続いていた。

 シキ達の戦いは地上戦から空中戦へと移行しており、二人が通った後には消えゆく紫と空色の粒子が舞い、二人が交差すれば入り交じり、広い砂漠をより美しいものへと昇華させている。



「そんな不良品で何故ッ!」

「テメェのは違ぇってか!?」



 仕切り直しに合わせて魔粒子装備を付けた二人。

 しかし、帝国から新たに流れてきた新装備である撫子に対し、シキのは試作品とも言うべき性能のものだった。

 


 撫子の新装備はシキのものと比べて魔力の必要量が少なく、魔粒子の威力も高い。加えてスラスターの形状を変えることで軽量化と更なる機動性を得ている。



 にも関わらず、戦闘は均衡していた。



「クハハハハハッ! 場所と相性が悪かったなァ!!」

「くっ、正しくその通りでござるっ……!」



 後ろも見ずに魔粒子で後退しつつ、砂漠の砂が混ざった熱風を放ってくるシキに、撫子は顔を歪めながら飛び上がり、そこから《空歩》と《縮地》で一気に肉薄してきた。



「それはもう何度も見てんだよッ!」

「ちぃっ!」



 急ブレーキと同時に眼下の砂を噴き上げさせ、それに乗じて軽く浮き上がると、砂壁を斬りながら突っ込んできた撫子に爪長剣を振り下ろす。

 


 ガッ! と、妙な手応えがあった。

 また鞘で防がれたらしい。



「っ!?」

「《硬化》でござる!」



 普通の短剣が食い込んだのに爪長剣で斬れないことに一瞬、目を見開くものの、ならばと脚を突き出す。



「っ、そうかよッ!」

「むがあっ!?」



 シキの蹴りは見事撫子の顔面に直撃し、吹っ飛ばした。

 が、当の撫子は直ぐにくるりと回転して体勢を整え、着地している。



 気候故に硬い脚甲を装備してないことが悔やまれたが、そうも言ってられない。

 追うように肩甲骨辺りに装着している魔粒子装備から紫色の粒子を出し、接近していく。



「くうぅっ……! お、乙女の顔をこうも無慈悲にっ……お陰で鼻が折れたでござる!」

「骨折が数秒で治る乙女が居てたまるか!」



 撫子の抜刀術には一歩踏み出す間が必要だ。得意な超接近戦に持ち込めば何とかなる。



 そう踏んだシキは次の瞬間、思わず二度見する光景を見ることになった。



「シャアアアアッ!」

「甘ぁいっ!」



 涙目で怒っていた撫子がまだ刀を鞘に納めていなかったのを勝機と捉え、刀を叩き斬るつもりで爪長剣を再び振り下ろしたのだが、途中で妙に腕が軽くなり、撫子の刀が眼前に迫ってきた。



「いぃっ!?」



 見れば爪長剣が真っ二つになっており、刀身が無い。



 驚きのあまり変な悲鳴を上げつつ、咄嗟に額と脹ら脛から魔粒子を出すことで迫る刃を躱し、半回転。ついでに撫子の顎に引っ掛けるようにして足先を当て、跳ね上げさせると、一気に後退した。



「っ……やられたっ、条件発動じゃなく武器に付与する能力か……」



 カッと目を見開きながらも努めて冷静に結論付け、後ろに下がる。



 これでお亡くなりになった爪長剣は四本。

 戦闘と普段の意識スイッチが切り替わるほどの衝撃だった。



「きゅう……」

「あ?」



 油断せず、しかし、わなわなと震えながら刀身の無い爪長剣を見ていると、撫子が起き上がってこないことに気が付いた。

 身体が弛緩され、ぐでんとしている。どうやら目を回しているらしい。



「え? は? ……えっ、ちょっ……終わり? マジで?」



 本気で焦り、本気で〝死〟を予感させていた筈の相手は聖騎士レーセン達と違い、意外と脆かったようだ。

 とはいえ、脳を揺らされれば誰でも脳震盪を起こす。シキがそこに気付くには少し熱くなり過ぎていた。



 尤も、化け物揃いの上級騎士に同じ(攻撃)が通用すると思っていなかったのも要因ではあるが。



「うわつまんねぇ……もう終わりかよ……チッ、しかもアリス呼びに行かせちまった……無駄なことさせたかな」



 仕方無く刀を取り上げ、腰のマジックバッグから取り出したロープで両手両足、口を縛る。



「畜生……早めに決着したのは良いけど、ジル様の形見が四本もっ……後で覚えてろよこの女……!」



 ジルは別に死んでないのだが、気持ち的にそのような怨嗟が漏れたのだろう。

 レナや『砂漠の海賊団』、ムクロのお陰で戦闘狂のシキと日本人のユウの狭間のような精神状態まで回復している彼は珍しく感情を吐露していた。



「やっぱ鈍ってるよな……対人戦闘だと余計に目立つ気がする……っと、魔粒子装備と隠し武器回収しないと……」



 シキは思い出したように撫子の懐に手を伸ばし――



 ――首根っこを掴むと、思いっきりその場から跳ねた。



 刹那、元居た場所に銃弾の雨が殺到し、砂埃が巻き起こる。



 地面に向けて風を起こすことで身を隠す為の砂埃を維持しながら今の襲撃を分析したシキはある結論に至った。



 (ゴーレムの攻撃……? 王国軍かっ)



 方向は王都から、弾の種類や速度は見飽きるほど見てきたゴーレムのものと相違ない。

 十中八九、王都で発掘され、再利用されているゴーレムだろう。



「シエレン部隊! 王都の危機である! その力を見せよ!」

 


 シキの耳に自信ありげな声が届いた。

 気絶した撫子を引きずりながら移動し、砂山から様子を窺う。



 黒い長髪、偉そうな態度と服装、よく肥えた身体。

 分厚いテントや土色のボロい建物群の前に立つ濃い紺色のゴーレムの肩で、腕組みをしながら砂埃(見当違い)の方を見下ろす男は見れば見るほどレナが言っていた馬鹿王子の特徴をしていた。



 (あれがレナの兄貴か。そんでもって……あのクワガタ頭がシエレン……)



 『砂漠の海賊団』が所有しているゴーレム同様、シエレンの大きさは五メートルほど。

 リュウが乗っている戦車を思わせる無骨な量産型とは違い、シエレンは虫のような容姿をしていた。



 特徴的な頭部にはクワガタを思わせるハサミがあり、量産型はモノアイなのに対し、こちらはツインアイ。カクカクとした機械的なマスクは、人間で言う鼻か口の辺りから蟻の顎のような形状をしている。腕や脚はやけにギザギザしており、手足の指は三本ずつ。背中には長方形の板型スラスターが縦向きに二つある。

 噂の振動長剣は両肩から後ろに伸びている二本の鞘に収納されているらしく、それとは別に発掘されたであろう量産型の自動小銃を構えていた。



 肩にナール(馬鹿王子)を乗せた一機と、武器を構えた二機。

 つまり、まともに動ける敵は二機だけ。



 (……聞いていた通りの馬鹿だな。何で肩に乗る必要があるんだ? 一機は動けないとアピールしてるようなもんだぞ……こっちが銃持ってたら狙ってくれとも言ってる訳だし……マジで筋金入りの馬鹿だ)



 中々辛辣な感想を抱いていたシキではあるが、内心対処に困っていた。

 リュウの量産型とは違い、感知機能が低いのか、シエレンがこちらを感知し、攻撃してくる様子はない。馬鹿王子も相変わらず砂埃を注視している。



 逃げ出すことは容易。しかし、先程嘆いたように、レナ達にアリスを呼ぶよう頼んでしまった。

 


 自分が逃げるのは良いが、ここにレナが来ては色々面倒になる。



 どうすれば良いかと悩んでいると……

 


「むがっ……むがむがっ……むぅ!? んむぅっ、んむーんっ!」



 雑に掴んでいた撫子が目を覚まし、



「シキ君っ、アリスを連れてきたわよ! ……って、あれ?」

「げっ!」



 懸念していた自体が起きてしまった。



 離れているのでよく見えないが、アリスは馬鹿王子とシエレンに気付いたらしい。

 アリスの反応と視線の先を見て、レナも「うげっ」と王女らしからぬ声を上げる。



「なっ……! レナ! レナではないか! 今まで何処にっ……心配したんだぞ! 無事に帰ってきたと思ったら訳のわからないことを言って消えて……この騒動が気になって出てきたのか? そ、そうだっ、そうに違いない! 流石、私の妹だ。王女としての自覚があって結構! では、私自らが指揮を取る勇姿を特等席で見せてやる!」



 何やら馬鹿王子が感動している。

 シエレンに取り付けられた拡声器の魔道具のせいで、長い上に思い込みが激しすぎる台詞がやけにハッキリ聞こえた。



 (どこまで馬鹿なんだ……? 前向きなのは良いけど、前見すぎて他見えてねぇじゃねぇか) 



 シキがドン引きしている横で「むがー……」と引いているような声を上げたのは当然、撫子だ。

 恐らく状況を察し、シキと同じように馬鹿王子の考えに引いたんだろう。



「……おい、魔法が使えないってのは本当か?」



 シキが小声で訊く。



「騒がないと約束するなら口の拘束を解く。ついでに身体も自由にしてやる。どうする?」



 続いた質問に、撫子は大きく何度も頷いた。

 最早、戦う気はない言わんばかりである。



「本当だろうな……? ちっ、何の為に縛ったんだか……」



 シキは妙に素直な反応を怪しみながらも全ての拘束を解いた。



「ぷはっ……気絶させられた時点で拙者の負けでござるからな。敗者は大人しく言うことを聞くでござる」

「どうだか」



 聖騎士レーセン達よりマシとはいえ、撫子も聖騎士だ。信用は出来ない。

 しかし、この場で荷物にするには少々邪魔だった。ゴーレムの機動性や持続力を考えればマジックバッグの中にあるエアクラフトの存在を抜きにしても面倒だ。逃げるのは可能だが、一日中逃げ続けるのは骨が折れる。



「何故殺さなかったのでござる?」

「……勘?」

「え? な、何で疑問系? えっと……あー……要するに、何となくってことでござるか?」

「まあそうなる。そんなに悪い奴じゃなさそうだしな」



 思わぬ返答だったらしく、撫子は目を丸くすると、「くっくっく……!」と声を殺して笑った。



「何がおかしい」

「さっきはああも殺しあっていた相手を……それも奇襲してきた痴れ者を悪い奴じゃないとは……これは笑えるでござるよっ……」

「言ってろ。……それよりゴーレムが来た。移動するぞ」



 三度も逃げられては敵わんという内心が透けて見えるように、一機をレナ達に、もう一機を何もない砂埃の方に突撃させようとする馬鹿王子の号令が聞こえてきたので、早々に歩き出す。



 「……それは寧ろこちらの台詞でござるなぁ。やはり根っからの悪人ではなかったか。いやはや……拙者も堕ちたものでござる……」と、ぶつぶつ呟く撫子を前に大きく迂回して王都に戻り、再び様子を窺う。



「ち、ちょっとアリス! 壊さないでよ!?」

「攻撃されてるのにっ!? そんな無茶な!」

「あんたなら何とか出来るでしょ!」

「ぶっ壊した方が早ぇし、安全なんだよっ!」



 レナを捕まえようと走ってきたシエレンに銃撃され、必死に逃げ回っていたアリス。

 しかし、いざ反撃しようとした直後、国のものを壊すなと理不尽な命を受け、一瞬固まった。



「てか何で俺呼んだんだよ! ユウちゃんは!?」

「気配でわからないの!? どっかに居るでしょ!」

「テメっ、自分でわからないのに人に探させようとすんな!」



 口喧嘩しつつもレナは魔粒子装備であるブーツで、アリスはスキルと持ち前の身体能力でシエレンを翻弄しており、下手にレナや王都を傷つけられないからか、シエレンの動きも悪い。



 ――問題はなさそう……つっても、馬鹿王子が何かやらかす可能性はあるか。



 先程までシキと撫子が戦っていた場所に辿り着いたシエレンから『ナール様! 賊が居ません!』と拡声された声が響き、レナは捕まらないし、(シキと撫子)は居ないしで苛々している様子の馬鹿王子を横目に、シキはレナを連れての逃亡を決意した。



「お前、仲間や部下は?」

「? 居ないでござるよ」

「そうか」



 手伝えとは言えない。

 手伝わせるという選択肢もない。



 悪人じゃないことがイコールで善人とは限らないのだ。

 これまで見せたのが100%素顔と言えない以上、撫子のような強者にレナを任せ、人質にでもされたらそれこそ終わりだ。



 そもそもレナの救出以前に、とある問題もある。



 それは撫子と共に王都に入った瞬間、待ち伏せされたかのようなタイミングで目の前に現れた数人の人間。

 数は五。全員、武器を持っており、そのレパートリーも撫子と同じ刀だったり、短刀だったり、クナイ、鎖鎌と珍しいものが揃っている。



 殺気は丸出しのくせに、その矛先は自分ではなく撫子。装備といい、標的らしい撫子といい、関係があるのは間違いない。

 シキは思わず訊いてしまった。



「じゃあこいつらは何だ?」

「「「「「…………」」」」」

「拙者の一族……か、その手先でござろうな。理由は後々教えるでござるが、拙者は追われているんでござるよ」



 沈黙と武器での威嚇が返ってくる中、撫子は肩を竦めてそう言った。



 追われる生活という稀有な人生に慣れているのか、呆れているような仕草だった。

 そして、やれやれとわざとらしい動作をした後、「あっ」と口を開けて固まる。



「ん?」



 レナ達の方を気にしつつ、撫子の方を見るシキ。

 その視線が撫子と交差した瞬間、刀と短刀持ちが走り出し、時間差でクナイと鎖鎌が飛んできた。

 


 シキに刀を取り上げられた為、撫子は今、丸腰だった。

 しかし、刀が無ければ弱いのかというとそんなことはないらしい。



「ん~……ん? んーっ……確かシャムザ以外に魔導戦艦を所有しているのは『砂漠の海賊団』とかいう賊だけでござったな……」



 何を考えているのか、首を傾げるついでに顔面目掛けて飛んできたクナイを避け、振りかざされた刀は《金剛》を纏った二本の指で真剣白刃取りを決める。同時に、迫る獲物よりも速く短刀持ちの腹に回し蹴りを叩き込んだ。



「なっ、ぐぎぇっ!?」

「ぐうぅっ……がっ!?」



 刀身を指で止められた者は驚いている内に喉を貫手で貫かれ、それを抜いた次の瞬間には悶絶して腹を抑えていた短刀持ちの首に手刀が入る。



 刀持ちは首の骨すらも貫かれて力無く崩れ落ち、短刀持ちは首の骨が砕けたらしく、地に伏して痙攣するばかり。



 数秒の出来事だった。

 それを成した撫子は何度かうんうんと頷くと、唐突に言い放った。



「《直感》も貴殿は敵じゃないと言っているしな……うん、決めたっ。拙者、シキ殿に付いていくでござる!」



 対するシキも目撃者は死すべしと言わんばかりに飛んできた鎖鎌を同じく《金剛》を使った手で鷲掴みし、撫子と比べ、悪い意味で次元の違う抜刀術で迫ってきた剣士に投げ付けていた。

 至近距離で投げられたこともあり、見事脳天に突き刺さって倒れる剣士をよそに、予め思いっきり引っ張って手繰り寄せていた鎖鎌使いを殴り付ける。



「……何故?」



 撫子の宣言にシキは本気で首を傾げた。

 遅れて頬をぶん殴られて吹っ飛び、首があらぬ方向へと曲がってしまった鎖鎌使いが地面に盛大な跡を作りながら倒れる。



「あっ……あっ……」



 唯一残った一人は一瞬の内に仲間が皆殺しにされたことで声が出なくなってしまったようだった。

 腰が砕けたのか、その場に座り込んでいる。



「言ったでござろう。拙者はこのような者達に追われている。ぶっちゃけもう嫌なんでござるよ。無駄な殺生も、血の繋がった者と殺しあうのも。かといって殺意を持って近付いてきた者を生かす訳にもいかぬ……しかし、だ。魔導戦艦に乗っていれば会うことはあるまい?」



 撫子は言いながら奪った刀で最後の一人の首を跳ねた。

 その顔にはやけにスッキリした笑みが浮かんでおり、「どうだ、妙案だろう」と言っているようだった。



「いやまあ納得と言えば納得なんだが……」



 (何で船長の元には次々変な奴等が集まるんだ? まさか全部見通してるとでも? あんな使いにくい能力でそれはないよな……)



 ――ズガアァンッ!!



 耳をつんざく轟音に続いて「あ! ちょっ……もおっ! 壊さないでって言ったでしょ!? どうしてくれんのよ!」、「う、煩いっ、こちとら色々続いてモヤモヤしてんじゃ!」という声と、何かがズシーンと倒れる振動を背中に、シキは今一信用ならない異世界の女侍に胡乱げな目を向けた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ