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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第4章 砂漠の国編
142/334

第134話 迫る一ヶ月

明けましておめでとうございます。


新年早々遅れといてアレですが、また説明回です。



「よおシキ! 今回の遺跡はどうだった!?」



 遺跡の一つを踏破して帰ってきた俺を『砂漠の海賊団』の一人が出迎える。

 場所は巨大魔導戦艦サンデイラの甲板。上空二百メートルはあるが、遺跡の外に置いていた自前のエアクラフトで飛んできたところだ。



「外れも外れ。トラップが生きてる分、死にそうな思いをしたよ」

「何だよ、また外れか! 最近多いなー」

「まあ船長も怪しいって言ってたからな。そういう未来だったと諦めるしかないだろう。これ、頼むぞ」

「おう! いつもんとこに置いとく!」

「助かる」



 褐色の肌からは汗を、ニカッと笑う口から真っ白な歯を覗かせる人懐っこそうな青年にエアクラフトを預け、歩き出す。



 遺跡からサンデイラを掘り出してから早一ヶ月。

 俺達は船長の力を頼りに古代兵器満載のトラップやアンダーゴーレムと相対する日々を送っていた。



 俺は魔粒子装備を完璧に使いこなせるようになり、魔力回復薬さえあれば丸一日飛行することも可能となった。魔力から魔粒子への、変換・昇華率の高いエアクラフトならもっと飛べると思う。

 エアクラフトを使った高速戦闘も魔粒子装備による空中戦闘も『砂漠の海賊団』の中で一番上手く、強いという自負が生まれるくらいには慣れている。



 アリスはアンダーゴーレムをより速く倒す為、〝気〟を使った技を鍛練し直し、四つ目以降の遺跡は一人でも踏破出来るようになっていた。

 アリスのハーレムメンバーの二人も戦力外なりに手伝おうと頑張っており、プリムという神官だか僧侶だかはエアクラフトを問題なく操れるまで上達して飛びながら回復魔法を掛けるという器用なことをし始めているし、もう一人の随分訛っているゾルベラとかいう幼女は持ち前の馬鹿力を発揮して補給や雑務作業をする際、何人分もの働きをしているらしい。



 アカリやリュウもエアクラフトの操縦を覚え、浮きながらの戦闘や近代兵器の他に、銃のようなアーティファクトを使った後方支援に力を入れて成長中。

 ショウさんは有り金や金目の物全てを【等価交換】に注ぎ込んで船長が持っていた船と同じものをもう一隻増産した後、同じく【等価交換】による回復薬や魔力回復薬、アーティファクトの量産、船長から預けられた金を使っての人材発掘等、地味に一番貢献している。



 しかし、『砂漠の海賊団』の中で最も目まぐるしい変化はアンダーゴーレムを投入した戦力強化だろう。



 やはりと言うべきか、まさかと言うべきか……遺跡で発見されるアンダーゴーレムの中には人が乗ることで起動するものがあった。



 フィクションのようにコックピットに入り、色んなボタンやら操縦桿やらを弄ることで動き出す人型の巨大兵器。

 と言ってもその数は少ない。アリスが見つけた隠れ通路の奥に鎮座していた赤い騎士みたいなゴーレムと遺跡で最も見かける型の茶色いゴーレム、合わせて十一機。



 『アカツキ』と名付けられた赤いゴーレムはヘルトが、量産型っぽいゴーレムの内、一機はゴーレムを見た瞬間、奇声を上げて狂喜乱舞していたリュウが乗っており、残ったゴーレムにもその他戦闘員が搭乗している。

 『砂漠の海賊団』で元々身体を張っていたヘルト達としても俺とアリスのような新参者との実力差に悩んでいたんだろう。



 決まった行動しか出来ないようプログラムされている無人機でも俺やアリスを手こずらせるほどの脅威ではあるが、そのアンダーゴーレムに脳ミソ足る人が乗れば、それはもう余裕なんてなくなるほど強くなる。



 実際、ヘルトやリュウが乗ったゴーレム相手だと俺もアリスも本気で動かざるを得ない。まあ無人機や他の船員相手でも本気っちゃ本気なんだけど、何て言うか……あれだ、死を覚悟するレベルの本気って感じ。

 正直、軽く模擬戦してるだけで聖軍と戦った時のようなガリガリ寿命が削られていく感覚を味わってるくらいだ。



 乗る人間によってゴーレムの強さが変わるのはやはり魔力量や質の差と思われる。



 魔導戦艦は艦内に居る全ての人間から魔力を吸い取って動くらしいのだが、アンダーゴーレムは元々搭載されている魔力の電池みたいな動力源と魔導戦艦同様、コックピット内に居る人間から魔力を吸引し、その二つを合わせて動いているらしい。



 俺達のようにステータスが高くなりやすい異世界人じゃなくても動かせる辺り、魔導戦艦もアンダーゴーレムも明らかに必要魔力が少ない。

 魔粒子装備だけでも消費量を抑えてくれるってのに、エアクラフト、アンダーゴーレム、魔導戦艦と対象がデカくなるにつれて吸われる魔力が減っているんだから謎だ。



 魔力から魔粒子への変換する、変換器的な基礎部分は同じっぽいんだがなぁ……



 ……まあ、兎に角。



 そんな低燃費車みたいなゴーレムにヘルトやリュウのような強者っちゃ強者の部類の人間が乗れば当然強くなる。二人共、戦闘系スキルが豊富らしいからそれを生かせるのも強味だ。《縮地》や《金剛》みたいな身体に付与するタイプのスキルこそ使えないが、予測系や感知系は使えるからな。

 しかもリュウに至っては『無』属性なのが関係しているのか、スラスターの威力やゴーレムの力強さが桁外れに違う。そのせいで振り回されてる感は否めないものの、イメージとしてはリュウは力、ヘルトは技術特化といったところ。



 また、興奮気味のリュウ曰く、「多分、予備バッテリーみたいのがあるんじゃないかな!」とのこと。

 遺跡で発見されたアーティファクトの中には記録媒体みたいなものもあったりするので、半壊しているのが殆どであるそれらとアンダーゴーレムの不自然な稼働性を加味して導き出されるのは古代人の驚くべき特徴。



 恐らくだが、古代人には魔力が全くない。

 いや、全くと言えば語弊があるか。現代に生きる……レドやアニータでも良い。冒険者にしろ、一般人にしろ、ステータスで言えば100くらいの魔力を持っているのが普通だ。



 それに対し、メインバッテリーと搭乗者の魔力で起動して動かせるようになり、その後はその二つと何処かに内臓されている予備バッテリーのようなもので必要魔力を最低限に留めているアンダーゴーレムを見ていると、恐らくその半分……つまり、五十もあれば化け物レベルだったのではないかと思えてくるのだ。



 加えて、当然と言えば当然だがアンダーゴーレムには搭乗者によってゴーレムの強さが変わること以外に、稼働出来る時間が変わってしまうという特徴もある。



 一応、こちらの理由はハッキリしている。ずばり、魔力量と運動量。

 単純に魔力が尽きるまで動かしていれば自然とゴーレムは停止するし、ゴーレムを激しく動かせば動かすほど魔力が持っていかれ、全体的な稼働時間も減る。



 過剰なまでに抑えられた消費魔力とゴーレムの稼働性を考えると、古代人はどんなに長くても一時間から二時間までしかゴーレムを動かせなかった筈だ。

 じゃなきゃそもそもゴーレムなんて代物を作ろうとは思わないだろう。実際、現代では技術ではなく、魔法や戦略を駆使して戦争している訳だし。



 魔法を使えるほど魔力量がなかったから出来るだけ魔力量を消費せずに戦争出来る技術が発展していった、というのがしっくり来る。



 とはいえ、現状わかっている古代人の特徴は魔力量が極端に少ないということだけだが、その古代人が製造し、動かしていたアンダーゴーレムは現代人にとってヤバすぎる代物に他ならない。

 何せ一般人ですら数時間単位で稼働させられる巨人だ。古代人とは対照的に現代人であるヘルトと異世界人であるリュウは二~三日動かせるし、他の奴等にしたってどう動いても半日は持つ。魔力回復薬があればもっと伸びるだろう。



 アリスのように〝気〟が使えなければ破壊することも難しい超硬度といい、その巨体といい、稼働時間といい……それに加えて、魔導戦艦とアンダーゴーレムには……



 ……っと。こっちか。

 考え事をしていたせいか、道を間違えてしまった。少し戻り、T字路になっている通路を曲がったところで、何処からか荒々しい声が聞こえてきた。



「ああもうっ、多いったらありゃしない! 皆ももう少し手伝ってくれたって……あ、シキさん! お帰りなさい!」



 洗い場で洗濯物の多さにひぃひぃ言っていたアニータだ。



「あぁ、ただいま」

「船長さんが呼んでたよ! ブリッジに居るってさ!」

「わかった」



 にこやかに手を振ってくれている彼女からは以前のような危うさは感じられない。

 船長が『砂漠の海賊団』の船員は家族だと言っていたようにここの連中は全員仲が良い。彼女自身、元来明るい性格だし、影響を受けたのだろう。



 それは多分、俺も同じ。



 最近気付いた。

 目の下にあった真っ黒い隈が薄くなってきている。



 船長達の影響とストレスの原因だったライやマナミ、聖軍のことを忘れてきたからだと思う。



 リーフ達のことも……思い出すことはあるが、割り切れるようになってきた。



「お姉ちゃんお姉ちゃん! 遊ぼー!」

「何してるのー?」

「これ、アリス姉ちゃんが渡してって」

「……はぁ。ごめんね皆。今ちょっと手が離せないの。後、アリスさんには纏めて出さないんなら自分で洗ってって突き返してくれるかな?」



 後ろから元気いっぱいな子供達の声と青筋を浮かべているであろうアニータの声が聞こえてくる。



「…………」



 どうやら船長は戦力以外に孤児まで拾っているらしく、子供を入れれば船員の数は二百を越える。



 慈善事業は止めて欲しいとか子供が嫌いという訳ではないんだが、彼等を見る度にリーンが連れていた盗賊の子供達が脳裏に過り、俺は中々子供達と馴染めていなかった。



「同じ盗賊なのにこうも差が出るのか……はっ、今じゃ俺もその盗賊の一味なんだから笑える話だ」



 因みに、レドとアニータは完全に『砂漠の海賊団』の一員として戦闘班、料理番兼清掃員となって頑張っている。

 レドに至っては、たまに俺とアリスが面倒を見ているお陰でベテランの冒険者と良い勝負が出来るのではないかと思うほどには強くなった。エアクラフトにも乗れるし、俺が得意な目潰しや初見殺し戦法も教え込んだ。それら込みで、という条件こそあるが、並大抵の奴よりは強い筈だ。



 ウィーン……という音を立ててブリッジに繋がる自動ドアが開いたので、中に入る。



 ――魔力センサーみたいので開くらしいけど、敵が入ってきたらどうするんだろう。……何かいつも同じこと考えてるな。



「あら坊や、お帰りなさい」

「ただいま。話があると聞いたんだが」



 ブリッジの中では船長が艦長席(?)で偉そうに脚を組みながらこちらを見ていた。

 操縦桿やモニターのようなものなら兎も角、何の機械で、何をしているかもわからない機械の列の前には他の船員が座っており、何やら手元のボタンをピピピと弄っている。



「ふふっ……坊やも慣れてきたわねぇ」

「何がだ?」



 船長はそう言いながらワンピースから出ている艶かしい脚を絶妙に中が見えない程度の動きで組み替えた。



 ――これで中は短パンとかズボン履いてんだからしっかりしてるよなぁ……



 なんて思いつつ、いつもの無表情を装って船長を見つめる。



「私のこと、どう思ってるのかしらぁ?」

「……急に何だよ」

「うんうん、その恥ずかしそうな反応で十分よぉ」



 最近は隈が無くなるにつれて、スキルで抑えていた感情が表に出始めており、こうして反応を面白がられることが多い。

 『砂漠の海賊団』の皆の前では仮面をしてないってのもあるんだろうが、どうも気が緩んできているようで怖い。



 ……遺跡調査や魔物の間引き以外で死に直面することがなくなったからな。俺やアリス、アンダーゴーレム乗りの奴等としか最も危険な遺跡調査に行ってないから人の生き死ににも関わらないし。



「で、要件は?」

「あらぁ、怒ってるのぉ?」

「怒ってない」

「ふふふっ、可愛いんだからぁ」

「うっぜぇ」



 遺跡で素の自分を見せたからか、船長にだけはどうしても強く出辛い。



「さて、と……そろそろ本題に入りましょう。帝国の侵攻まで一ヶ月を切ったわ。坊やとアリスちゃんのお陰でアーティファクトは揃ってきてるし、エアクラフトを含め、皆も使い方を覚えた」



 優しげな微笑みから一転、船長はキリッと真面目な顔へと変化させると語り始めた。



「現状、アンダーゴーレムやこのサンデイラがあれば戦力としては十分過ぎる。けど……」

「……以前見た未来と同じ兵力で攻めてくるという保証はない」

「そう。何度も言ってるけど、もうあり得ないくらい未来は変わってるの。それこそ、ここまで戦力を整えられたことはないし、レナを保護することだって本来は出来なかった」



 そのレナも今では『砂漠の海賊団』の斬り込み隊長みたいな立ち位置に居る。

 当初こそ船長の覚悟にショックを受けていたが、身動きの取り辛い国の庇護下に居るよりは良いと船長に賛同し、俺達と遺跡調査に行ったり、町を回ったりと少しでも国を良くすべく動いている。王家の方で独占していたというエアクラフトにも精通していたらしく、エアクラフト戦はお手のものなので戦力としても期待出来る。



「……俺としては何もない遺跡が多くなってきたのが気になるな。言ってはなんだが、帝国対策は限界がある。精々が戦力強化くらいだろう? 国境付近の町には全て通信用の魔道具も船員も配置してあるし、シャムザ王にも手紙を送った。打てる手が少ない方に集中し過ぎるのはどうかとも思うぞ」



 まあ、シャムザの王都に派遣している船員の情報じゃ悪戯か何かに思われたのか、何の動きもないらしいが。

 腐っても王家だからな、妥当と言えば妥当な気がしないでもない。



 俺としてはやはり遺跡だ。元々何もないというよりは()()()()()何もないというような印象を受ける。これは遺跡に行くメンバー全員が感じていることだ。

 遺跡の殆どが核シェルターのような意味のある建物なのに対し、幾ら何でも何も無さすぎる。弾倉や動かせるアンダーゴーレムの一機くらいあっても良さそうな遺跡でも何もない上、時折埃が舞わないところもあるからな。十中八九、他の誰か、もしくは他の組織が関与している。



「それもそうなのよねぇ。シャムザの軍備増強……にしては静かすぎる。この前、アンダーゴーレムが人でも動かせるってわかった時は大騒ぎしてたのに……あの、ほら、何だったかしらぁ? 変わった出っ張りが付いてる……」

「あー、シエレンのことか?」

「えっと……。ハサミみたいなやつよぉ」

「そうそれ。名前はシエレンだそうだ」

「ふぅん……そのシエレンが発掘された時なんてパレードまでやってたらしいじゃなぁい? たかだか三機くらいで大袈裟よねぇ」



 他にすることがあるでしょうに……と溜め息をつく船長。



 王都に潜伏している船員の情報によると、王都にあるオアシスの目の前に埋まっていた遺跡で頭部にクワガタのハサミのような特徴的な角を持つアンダーゴーレムが発掘されたらしい。

 『シエレン』と名付けられたそのゴーレムは超高速で震えて破壊力を増大させた振動長剣を二丁装備していたらしく、遺跡の黒ブロックを叩き切ることが出来ると、それはもう大騒ぎだったようだ。



 『砂漠の海賊団(うち)』の茶色い量産型が十機……三機しか出なかったのもシエレンが量産型で、偶々それくらいしか残ってなかったのか、ヘルトが乗ってるような特機だから量産されてないのかにもよって受け取り方が変わる情報である。



「ま、何はともあれ。残り一ヶ月ってのは理解したよ。話は注意だけか? ならムクロに会っときたいんだが」



 最近のムクロはやはりおかしい。

 シャムザに入ってから幼児化が続いているし、ここ一週間は熱がある訳でも風邪を引いた訳でもないのに寝込んでいる。夜中はうなされてるし……



「あ、いやっ、それもあるけど、二つ言わせてっ」



 用事は済んだろと言わんばかりに歩き出した俺を、船長は慌てて引き留めた。余程焦ったのか口調も真面目モードだ。



「一つはヘルトのこと。あの子、まだ完全に心を開いてないようだから力になれない?」

「……何故俺に?」



 性格的にアリスの方が適任だろう。



「アカリちゃんの主人は坊やなんでしょう?」

「形式上はな」

「それでも、よ」

「……あいつが聖騎士か勇者、あるいはその両方であることに関係が?」

「……よくわかったわね」



 船長は俺の読みに驚いたらしく、少しだけ目を見開いた。



「ヘルトとアカリの共通点が思い付かない。俺が見る限り、接点もない。後は……ヘルトがアカリを見る時の目かな。俺らを見る時とはどう見ても違って見える。多分だけど、あいつも聖騎士か勇者の職業を持ってるんだろ?」

「ええ……ヘルトは勇者なの。両親が聡明な方達でね……町に居たら何かしらの拍子にバレて国に連れてかれるんじゃないかってあの子を連れて逃げたらしいわ。その道中、盗賊に身ぐるみを剥がされて砂漠に……」



 ……賊のせいで賊になったのか。何処かで聞いたような話だ。



「ヘルトは奴隷だったのか?」

「……奴隷になる前に逃げ出したそうよ。それを知ったのは偶々ヘルトと出会ってから数年後。行き倒れてたあの子を助けて……ってそれはどうでも良いのっ」

「……良くはなくないか」

「今は力になれるかどうかの話っ。なれないんなら話すだけ無駄でしょう?」

「まあ確かに」



 俺はあいつが悪人じゃないのを知っている。

 逆にあいつも俺が悪人じゃないことを知っている。



 ならそれで良い。態々、不幸自慢をする必要もない。



「で、返答だけど……」

「なれなくもない。ヘルトとアカリに一言言っておくよ。互いに勇者であることが原因で不幸な人生になったんだ。思うところがあるだろうしな」



 アカリに関しては固有スキルも関係ありそうだけどなぁ……。幸運と不幸に溢れた人生になるとかいう傍迷惑な能力だから。



「そう……ありがとう」

「もう一つの話は?」

「新しい遺跡を確認したわ」

「その調査だな? わかった。準備しておく」



 何だ、ただの定期報告か。最後に言うから大事かと思った。



 と思っていると、再び待ったを掛けられた。



「それは、そう……なんだけど」

「……何か問題が?」



 今日は自棄に勿体ぶるな。未来が見えるんだからこの問答も最低限で良いだろうに。



「その遺跡……未来が見えなかったのよ」



 ……ん?



「何だって?」

「だからっ、未来が見えなかったのっ」

「いや、聞き返したんじゃなくて……」



 意味がわからん。

 つまり……固有スキルが無効化されたってことか……?



「……その遺跡に入ると船長が死ぬとか?」

「最初、私も同じことを考えたわ。だからその次はこの船に残ったと仮定した。けど……」

「結果は変わらず、か」

「こんなの初めてで……。どうすれば良いかしら……?」

「俺に訊かれてもな……めちゃくちゃ大事だし、最初に言って欲しかったぞ」



 頭を抱える俺に、船長は心底から困ったように言った。



「だ、だって……あくまで遺跡だから入らなきゃ良いかなって……」



 船長の見た目は眼帯着けた色白の金髪姉ちゃんだ。

 それが上目遣いってなると……ちょっと可愛い。



「んんっ……」



 いかんいかん。やっぱ緩んでるな、うん。



 咳払いして気持ちを改め、軽く思考に耽る。



 実際、もっともな話ではある。そう言われると優先順位はかなり低い。

 ただ気になるってだけの遺跡だ。触らぬ神に何とやらと考えるのも理解出来る。とはいえ……



「納得も出来るんだがなぁ」

「他の遺跡が何者かに踏破されてたらって考えると悩ましいところよねぇ……」



 俺の心境はまさにそれだ。



 船長の固有スキルと魔導戦艦のお陰で、粗方の遺跡は回った。

 その内、アーティファクトを手に入れられたのは七割ほど。



 それが元から存在しなかったからなのか、他の勢力に取られていたからなのか……また、船長の固有スキルで発見出来なかった遺跡も当然あるだろう。

 遺跡の危険性とアーティファクトを取られる危険性を考えると本当に悩ましい。



「アーティファクトが無い可能性とか(やっこ)さんを誘えたりする可能性もある」

「私の力を無効化してるのが遺跡なのか、遺跡の中の何かなのかというのもあるわ」

「「…………」」



 悩ましい。



「……取り敢えず皆の意見を訊こう。多分行く方向で進むだろうけど」

「はぁ……そうなるってわかってるから坊やに訊いたのに」



 船長は思考を放棄した俺にもう一度溜め息を付いた。



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