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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第4章 砂漠の国編
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第129話 アンダーゴーレム戦



 俺達は俺がそこら中に浮かべた火種により、かなり明るくなった遺跡内を直進していた。

 相変わらず続いている天井、壁、床と黒いブロックの羅列に対し、壁から時折銃口らしき筒がこちらを覗いているくらいしか視界の変化がないので、本当に進んでいるのか不安になる嫌らしい造りだ。



 だからという訳でもない(と、思いたい)が、船長が言った通り、銃弾の嵐と先程のロケット弾以来、トラップは作動していない。

 お陰で俺とムクロ、船長以外の三人は口数がかなり増えている。



「そういやレナちゃんよ、この遺跡を監視してる奴等とか居なかったけど、どうなってんだ? 他の遺跡は国の方で厳重に管理されてるよな?」

「……恥ずかしい話、この遺跡は未発見のものよ。知ってるでしょ? お姉ちゃんが奪取した小型のもの以外で発掘された魔導戦艦は全部大きいの。お陰で運搬や護送には向いてるけど、自由は利かないし、騎士団にも使用許可が降りなくて……現状は現国王である私の父と異母兄に当たるバカ王子が独占している状態でね。毎日のように王都周辺を飛んで遊んでいるわ。一応、巡回とか王族の威容を示す為とか建前はあるみたいだけど」



 ……アホだなそいつら。イクシアの王もそうだったが、何で人は大きな力が手元にあると勘違いをするんだろうか。いやまあ、イクシアの方は勘違いも甚だしいレベルだったし、気付いた時には惨殺されてたけど。



「へ~……国が見つけてないんじゃ監視以前の問題だな。さっきの挨拶的に冒険者や騎士が入ってたら即死してるだろうし。……にしてもバカ王子……バカ王子かぁ……結構、有名だよな。何でも文武共に才能がないらしいじゃん?」

「まあ、そうね。だからこそ折角の魔導戦艦を有効活用しないでいる訳だし。でも私と違って固有スキルを持ってるから一概に何も出来ない愚か者という訳でもないみたいよ」

「妹であるレナ様に欲情する時点で愚か以前の問題ですけどね」

「……え、何それヤバくね」

「……ふふふふっ、あの豚……私の可愛い妹にそんな下卑た目を向けてたの? 今度、見掛けたら大筒ぶち込んでやろうかしらぁ」



 ドン引きしているアリスの後ろで黙っていた船長の顔に青筋が浮かんでいる。

 中々、衝撃的な事実だ。それほど頭に来たんだろう。



「妹に興奮とか……しかも母ちゃんが違うったって、要は親戚だしなぁ。女じゃなくてもそんな獣みたいな奴嫌だわ」

「……時々思うけど、貴女って男の子みたいよね」

「…………いやいやいやっ、俺、女の子よ? ほらっ、小さいけど胸もあるし、チ◯コも玉も付いてねぇよ?」

「…………」

「んっ、シキ、男! この中で一人だけ!」



 レナさんや、良い歳して顔を赤らめるのはまだ良いが何でそこで俺を見るのかね。ムクロも急にどうした。気まずくなるだろ。



「レナ様に変なこと言わないでくれます? 斬り落としますよ?」

「いや、だから何も付いてないって! あ、何なら触って確かめるか? んん?」

「「キモッ。……あ、ゴメン(悪い)、つい本音が」」

「おい」

「…………」

「ちょっ、ナタリアちゃん、そう睨まないでくれよ。……ユウちゃん、今玉ヒュンした? どうだっ? 縮こまった? なあなあ!」

「煩いなっ、黙って探れんのかお前はっ」



 レナと俺の口から漏れた率直な感想に怒ったかと思えばニヤニヤしながら肘でツンツンしてくるアリス。



 あったものが無くなって感覚が懐かしいのは何となく想像出来るが、一々反応と絡み方がオッサンっぽくてウザい。



 真面目な話、この中で最も感知系スキルに優れているのはアリスだ。喋るよりそっちの方に集中してほしい。



「いや、だって魔力反応はそこら中からしてるし、気配はねぇんだもん」

「ならせめて気ぃ張ってろ」

「そこはほら。喋ってても何とか出来るくらいには鍛えてるってことで」

「おかしいな、さっき喋ってもないのに大怪我した奴が居た気がするんだが……気のせいだったか?」

「……ウザいな、お前」

「安心しろ。お前ほどではない」



 アリスのペースに引っ掻き回され、俺まで口数が増えてきた頃……



 突如、遺跡内部が点灯し始め、火種や松明無しでは暗くて何も見えなかった視界が眩い光に包まれた。



「うおっ、何だ何だっ!?」

「っ……」



 混乱するアリスを横目に、少しずつ目が慣れてきたので周囲を見渡し、明るくなった原因を探す。



 何故点灯したかは謎だが、明かり自体は天井に埋め込まれたライトの光によるもののようだ。

 慣れてみれば眩し過ぎず、暗いとも感じない。そういう魔道具もあるのかと納得していると、船長が真剣な表情で告げた。


 

「坊や、アリスちゃん……出番よ。さっきも言ったけど、ゴーレムは色んな武器を装備してるから気を付けて。……私達は後方で待機。この二人に注意が向いていれば大丈夫だから」

「……わかった」

「わ、わかりましたっ」



 俺達に助言しつつもレナとナタリアには有無を言わせない様子で手を掴み、後退していく船長。



 どうやら入り口で話していた武装ゴーレムの登場らしい。



 少しして先程と同じ警報が流れてきた。

 相変わらずやかましく、焦燥感を掻き立てる音だ。



「船長、数と武器は?」

「四体! でっかい剣を振り回す奴と飛び道具を使う奴が居るわ! 装備によって役割が違うみたいだから、それを考えて戦いなさい!」

「……オーライ」

「役割か~、やっぱ冒険者パーティみたいな感じなのかなー」



 先述した通り、戦闘は完全に俺達に任せるつもりらしい船長に総数と特徴を訊きながら黒斧を構え、軽く屈伸して身体を解しているアリスに答える。



「言い方的に魔法とかは使わなそうな感じだったな。取り敢えず、銃持ちを先に潰すか?」



 先のトラップで銃兵器の恐ろしさは体感した。

 出来ればそんな兵器を持ってる奴は相手にしたくない。



「うんにゃ、剣持ってるってことは近接タイプの奴が居る。そいつらにくっ付いて攻撃させようぜ。ほら、ユウちゃんが得意なアレでさ」

「……ありゃあ人の心理を利用した動きだ。ゴーレムに効くとは思えん」

「ま、危ないようだったら銃持ち、危なくなさそうなら近接先で行こうぜ」

「了解」



 そう決めた直後、先程から鳴り続けるブオーブオーブオーッ、という間のない警報の中に何かが走ってくるような音が混じり始めた。



 それは足を持った生き物が走る音ではなかった。

 乗り物……重機や戦車に付いているキャタピラが回転する、キュルキュル、カタカタといった音だ。



「「…………」」



 怪訝に、しかし、油断せず明るくなった先を見据えていると、茶色い何かがこちらに向かってきているのが見えた。

 遠目から見れば普通のゴーレムと相違ない物体は少しずつ全貌が明らかになっていく。



「「…………おい……おいおいおいおいっ! 思ってたのと違うんだ(が)(けど)!?」」



 思わず声が出てしまったのは目が良い筈のアリスと同時だった。



 普通のゴーレムはレンガや石、岩が幾つもくっ付いた巨人であり、何処かにある核を壊せば停止、あるいは崩壊する魔物だ。

 だが、俺達に迫ってくるそれらは全くの別物だった。



 人型であり、大きさ五メートル程度あるのはまだ理解出来る。巨大な剣や巨大なアサルトライフルのような銃を持っているのも、まだ良い。



「変形したぞ今っ!? どう見てもロボットじゃねぇか! 出てくる世界線間違ってんだろ!」



 大きく口を開けて驚いていたアリスが結論を言ってしまった。



『侵入者発見! 侵入者発見! 排除します! 排除します!』

『侵入者発見! 侵入者発見! 排除します! 排除します!』

『侵入者発見! 侵入者発見! 排除します! 排除します!』

『侵入者発見! 侵入者発見! 排除します! 排除します!』

「シャベッタアアアアアアアッ!!」



 手厚い歓迎を彷彿とさせる宣言をしながら武器を構えた四体の武装ゴーレムはアリスが言った通り、フィクションで見るような人型ロボットだった。



 人工物とわかる細身な形状、関節部から覗いている機械の内部のような複雑な構造、四角い頭部に赤く光る一つのモノアイ……



 何より、接近してきた時はキャタピラ状だった四体の内、二体の下半身が突如ガチャンガチャンと音を立てて変形。人間の脚みたいに立ち、二足歩行へと変わったのだ。


 

 二体は変形させた脚で猛然と地面に立って剣を振り上げており、もう二体は銃を両手に、キャタピラをキュルキュルと回転させながら臨戦態勢に入っている。



 存在するだけで圧倒される巨体と全身に付いている盾のような装甲。今見せた巨体に似合わぬ移動速度に古代の銃兵器の威力、言葉を発するほどの知能……



 流石に人工知能ではないだろうが、少なくとも警告機能がある点から厄介だと思う程度の知能は窺える。



「は、はは……どうなってんだよ古代文明……」



 アリスのように取り乱すことこそしなかったものの、アニメから出てきたような人型兵器の登場に、俺の口からは乾いた笑みが漏れていた。

 


















 ◇ ◇ ◇




「ユウちゃん! 後ろ!」

「わかってるっ!」



 轟音に遅れて土煙のような埃が舞い、それらを貫くように人の身体を容易に肉片状に出来るであろう巨大な弾丸が雨あられと降ってくる。



「だから銃持ちが先だっつったろうが!」

「こんなに強ぇなんて思ってなかったんだよ!」



 そんな煙の中から口喧嘩をしながら出てくる者が二人。



 そして、その二人を追撃すべく、ドシンドシンと大きな足音を立てながら迫る古代の人型兵器。

 四本の指しかない無機質な手には二メートル以上もある巨大な両手剣が握られており、対する二人は黒く禍々しい斧と二刀の短剣を手にして後退している。



「ったく……これでもっ、食らえっ!」



 ガキィンッ!



 シキをも越えるステータスを持っているアリスの腕が跳ね上がった。



 獲物同士が当たって力負けしたのではない。



 くるりと身を翻して目の前に来ていた両手剣をすんでのところで躱し、そのまま助走を付けて行った斬りつけが無防備に思えた装甲に弾かれたのだ。



 戦車のような無骨なデザインであるが故に、硬いとは思っていた二人もこちらの本気の攻撃をいとも簡単に弾いた装甲に目を剥く。



「この俺がっ……何て硬さだっ!」



 アリスが苦い顔で悪態をつきつつも冷静に《縮地》で移動すると、数秒遅れでアリスが立っていた空間に弾丸の雨が集中した。



「ちぃっ! しつっけぇ!」



 一方、もう一体に追われて走っていたシキの方にも殺意そのものが降ってくるが、既に魔粒子装備で大きく下がっている。



 しかし、それを更に追ってくるように肉薄してきた近接型のアンダーゴーレムに肉弾戦を余儀無くされてしまう。



「っ!」



 真っ直ぐ打ち込まれた振り下ろし。



 アリス同様、半身になって避けると地面を蹴って飛び上がり、黒斧を頭部に叩き付ける。



 ガキイイィンッ!! と先程よりも大きい金属音が響き、火花が散った。



 あわよくばダメージ、悪くとも衝撃によってアンダーゴーレムを動かす何らかの回路――アリス曰く魔力で動いているらしいので、魔力回路と言ったところか――に障害を、と思ったのだが、茶色い巨人は何事もなかったかのように剣を振ってくる。



「……無傷かよっ!」



 こちらも思わず悪態。そして、再び乱射される自動小銃。

 黒斧を盾に、太股と脹ら脛から魔粒子を出して左右へ避ける回避運動を取りつつ、後退する。



 振り下ろし、横薙ぎ、刺突、体当たりと単純な動作である代わりに全てが五メートルを越える巨体で行わなわれており、その大きさと膂力で以て、例え一撃でも当たれば怪我では済まない攻撃を繰り出してくる二体の近接型アンダーゴーレムと、それを援護するように後方から同等かそれ以上の高威力の銃を撃ってくる支援型アンダーゴーレム。



 そんなデカブツ四体がチート染みたステータスであるシキとアリスの攻撃を弾く防御力まで備えているときた。

 更には支援型はこちらの攻撃を警戒してか、キャタピラを使った高速移動を繰り返して自分達を狙わせない。しかも、四体揃って脚部と背面部に付けられたスラスターから魔粒子を噴き出して動くので、鈍重そうな見た目からは想像も付かない速度だ。



「「うぜぇっ!!」」



 こちらの攻撃は効かず、向こうの攻撃は当たれば即死レベルという理不尽さである。内心穏やかではいられない。



 打つ手がない訳ではないのだ。



 シキには《狂化》、アリスには《限界超越》に【全身全霊】という力がある。

 使えば倒すことは出来よう。しかし、代償が大きすぎる。アリスは両方共似たような効果であり、極度の疲労と軽い身体的ダメージで数日から一週間程度動けなくなるだけで済むが、シキに至っては数ヶ月、あるいは年単位で療養を求められるほどの怪我を負うか、最悪一生治ることのない障害を背負うことになる。



 故に使えない。



 そして、更に追い討ちを掛けるように、



「っ、こいつら!」

「個体識別する知能もあるのか!?」



 予め決めていたシキの十八番、近接型を盾にして支援型を攻撃させるという策も効かなかった。

 当然のように乱射する銃を止め、近接型から少しでも離れたら撃ってくる。



 小回りが利かない上、武器は剣。支援型の攻撃も止まるとはいえ、己の倍

以上の巨体を相手に超接近戦を行うのも骨が折れるというもの。



 しかし。



「ならっ!」

「これが最適解だ! アリス! そっちは頼んだ!」

「わぁってる! ユウちゃんもそいつら抑えてろよ!」



 古代の銃兵器の威力ならアンダーゴーレムの装甲でも貫ける。

 そう思っての行動が意味を成さないのであれば、取れる選択肢は限られ、覚悟も決まる。



 シキは黒斧を構えて敵を見据え、アリスは双剣を納め、拳を構えた。



 対する四体……四機のアンダーゴーレムもそれぞれの獲物を向けてくる。



「「行くぞ!」」



 掛け声と同時、アリスが《縮地》で支援型へと迫り、遅れてシキもそれを真似た擬似縮地で近接型に突っ込んだ。



 目で追えないほどの超高速移動は流石のアンダーゴーレムでも認識出来ないのか、暫しの間赤く光るモノアイを動かしていた二機の支援型。

 シキは二機の近接型のどちらかに常に張り付くという超超接近戦を行っている。やはり味方は撃てないらしく、消えたアリスを狙うことしか出来ないようだ。



「後衛が欲しいけど……場所と武器が悪ぃな!」



 そこへ突如、アリスが現れた。



 驚いたようにモノアイが点滅し、目の前に出現した敵を排除すべく銃口が向けられ……



 しかし、引き金が引かれた時には再び姿がなくなっていた。



 即座に攻撃を停止するが、連射された発砲音は遺跡内に響き渡り、壁のブロックが破壊される音と跳弾による二次被害で酷く反響し、酷い有り様になっている。



「機械なのか、機械が魔物化したのか知らねぇけどよぉ」



 何処からかアリスの声が聞こえてきた。



 支援型二機は光情報を得るだけでなく、音を拾うことも出来るらしく、アリスの声が木霊した瞬間、頭部を素早く三百六十度回転させ、アリスの姿を探し始める。



 が、やはり居ない。



「目があって……今の動き、耳もあるよなぁ?」



 声の主は上から降ってきた。



「でもスキルはない。機械だからか?」



 正拳突きのような構えのまま、頭から落下していたアリスはそう問いながら拳を突き出す。



 ズガァンッ! と凄まじい音が鳴り響き、殴られた支援型のモノアイにヒビが入った。



 二機の間を縫うようにして落ちてきたので、もう一機は撃つことが出来ず、固まっている。



「かぁ~っ……いってぇなぁおい! 〝気〟が効いたのは収穫だけどさ!」



 僅かな亀裂が入り、ほんの少し仰け反っただけの支援型。どう見ても大きいダメージを与えられたとは言えない。



 アリスは拳をヒラヒラとさせながら叫ぶと、続けて《空歩》で空中を蹴って加速し、着地。

 再び《縮地》で姿を眩ました。



 時間さえ掛ければ倒せる可能性のあるアリスが支援型、素早さと力強さしか取り柄がないせいで倒すことは出来ないものの、魔粒子ジェットで時間稼ぎ出来るシキが近接型。



 そうやって分ける他ないと二人は判断した。



 銃を撃つことは出来なくとも、剣を振り回すことは出来るらしい近接型は時折、胸部装甲や頭部に飛び乗るシキを狙って攻撃することがある。

 巨体らしからぬ速度で振られるものではあるが、魔粒子が使えるシキからすればほんの少し身体を浮かせるだけで躱せる。ともすれば、狙っていた同士討ちも可能。



 最初こそアンダーゴーレムの機動性と威力に驚いていたシキ。しかし、黒斧を使ってモノアイを攻撃、後、タイミングを合わせて魔粒子を噴き出し、真上、あるいは真下に回避することでもう一機の攻撃を誘導することが出来た。

 黒斧を使わず、何処かの部位に張り付き、攻撃させるという芸当もだ。どうやら味方を撃てないという他に、自分に向けて攻撃することも出来ないらしく、張り付かれたアンダーゴーレムはシキを掴もうとすらしない。恐らく、間違っても同士討ちや自傷行為が出来ないようインプットされているのだろう。



 とはいえ、そこまでの超超接近戦は神経も寿命も縮ませるほどの恐怖を与えてくる。

 だが、そのお陰でアリスは支援型との戦闘に集中出来ている。つまり、これこそ最善。後は時間を掛けて一機ずつ減らしていけば良い。



「ハッ! 四対二じゃ強かったけど、二対二ならどうってことないな!」

「喋る余裕があるならっ、一機でも倒してくれっ!」

「ははっ、悪ぃ悪ぃ!」



 アリスによる、軽口を叩きながらの連打。

 剣姫という剣士系職業らしからぬ殴打の嵐ではあるが獣人かつ転生者だからか、着実にダメージを与えている。



 その証拠に、先程ヒビが入ったモノアイが完全に破壊され、砕けた。



「おっ!? ユウちゃんっ、見てみろ! 割れたぞ!」

 


 中から漏れていた赤い光は消失し、ゴーレムの動き自体もやがて停止した。



「っ、よし! アリス! そのままそのゴーレムを上手く使って攻撃! そいつも目を狙えっ! 多分、敵味方や位置の把握が出来なくなって停止する筈だ!」

「おうっ! スキルないもんな!」



 これが人間であれば感知系スキルを使うことで動き続けるだろう。

 しかし、ゴーレムは誤射しないよう徹底したシステムが組み込まれている。即ち、目を潰されれば味方への誤射を避けて停止する。



 その予想は果たして……



「うおっ! う、動いたぞユウちゃん!」

「何だと!?」



 外れた。



 モノアイを沈黙させた支援型は僅かの時間、停止こそしたものの、平然と動き出し、銃口を上げたのだ。

 対するアリスは完全に油断しており、無防備状態。



「視覚情報を得られるだけじゃなく、熱源か魔力探知まで出来るのかッ!」



 シキの驚愕に重なるように、アリスを狙った銃口が火を吹いた。



 ズガガガガガガガガガガガガッ!



 止まる気配のない乱射に、離れて見ていたレナ達が思わず悲鳴を上げ、発砲音に掻き消される。



 にも関わらず、アリスの声は不気味なまで響いてきた。



「おうおう、必死こいてどこ狙ってんだ。ん? 俺ぁここだぜ?」



 相変わらずの軽口。



 視界を潰されたアンダーゴーレムはアリスの声に驚いたように引き金から指を外し、ぐるぐると頭部を回転させた。



「お? 首を回すってことはやっぱ頭に探知機能があるのか。なら……」



 アリスが立っているのはアンダーゴーレムの肩。

 幾ら素早いと言っても《縮地》と《空歩》には敵わない。反応も遅れる。



 そして、場所が場所な為、無事なもう一機は攻撃が出来ない。



「おらぁっ!!」



 致命的なまでな隙を晒していたアンダーゴーレムは再度〝気〟が込められた拳で殴られた。



「……いぃってぇ~っ、けどっ! 良い一撃だったろ。今度のは腰も入った。獣人族直伝、〝気〟を打ち込んで振動させ、対象を内部から破壊する(けん)だ。機械に効くかは知らねーがな」



 痛そうに拳を抑えながらも、自信に満ちた顔のアリス。



 その自信を証明するようにアンダーゴーレムの頭部は完全に砕け、首無しとなった。



『…………』



 その後、制御を失ったアンダーゴーレムは『ブウゥンッ……』という低い音を立てながら俯き、やがて沈黙した。



 倍以上の巨体と圧倒的な火力に膂力、あり得ない硬度、魔粒子を使った速度を持とうとも、相手取るに相応しい距離さえわかれば何とでもなる。



 アリスによるアンダーゴーレム一機撃破はその証明でもあった。



「っしゃあ!」



 思わず「上がってきたぁっ」と言わんばかりに拳を振り上げる。



 その近くでは轟音を響かせながら逃げ惑う者が一人。

 情け容赦なく振り回される巨大な剣に冷や汗や汗水を垂らして対応しているシキである。



 重ね重ね、アリスが支援型に集中出来たのはシキのお陰だ。

 今、こうしている間にも頭上を、あるいは真横を即死待った無しの剣撃が飛んでおり、魔粒子やゴーレム、遺跡の壁や天井を上手く利用して必死に回避している。



 そんな中、拳を高々と振り上げる者が居れば当然……


 

「喜んでないで早くしてくれっ、殺す気か! こちとら命懸けで時間稼ぎしてんだぞ!?」



 文句の一つも出るというもの。



「わ、悪ぃっ!」



 普段なら売り言葉に買い言葉で返すアリスもシキのあまりに必死な形相に反論することなく謝り、反省しながら後ろから迫っていた支援型に飛び掛かったのだった。



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