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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第4章 砂漠の国編
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第128話 古代の遺跡

か、書けた……



「予め言っておくけど、私の力でも命の保証は出来ないわぁ。貴方達が精一杯頑張って何とかなるくらいの難易度だと思う。……レナ、国主体で進めている遺跡調査での死者数、未踏の遺跡の数はどれくらい?」

「……冒険者全体で千……いえ、二千人かしら。騎士団は総勢三百の三個大隊が帰ってこなかったわ。それと、見つかった遺跡の八割が未踏、攻略出来たものも100%調べきれたかと言われると微妙なところね」

「犠牲者の内、高ランク冒険者と隊長クラスは?」

「二百と少しに約三十人。大半は腕が立つだけじゃなくて頭も切れる優秀な者達よ」

「そう……これで危険なことは理解出来たかしらぁ? 特にアリスちゃんは冒険者歴も長いからわかるわよねぇ?」



 どうだかな。こっちの基準で言えば騎士が相当数死んでいる時点でヤバいんだろうが、俺とアリスにその基準が通じるか……



 黒いブロックで造られた核シェルターのような地下遺跡の入り口で忠告してきた船長に、アリスも俺と同じことを思ったらしい。



「あー悪ぃけど、全然わかんねぇ。や、いっぱい死んでるってのはわかるよ? でも大体の奴は俺らよか弱ぇしなぁ?」



 と、こちらに目配せしてきた。



 傲慢とも取れるが事実でもあるので、頷く。



「……仕方ないわねぇ。じゃあこう言うわぁ。私の力で〝見た〟限り、貴方達は何パターンかに分けて死んでいるの。一つは金属の飛び道具で、一つはゴーレムに襲われて、一つは謎の爆発に巻き込まれて。どうかしらぁ?」



 へぇ……やっぱ便利だな、未来予知。

 俺とアリスが死ぬレベルの……恐らく銃に魔物、爆発……地雷的な罠か。侵入者を排除する為の警備システムってところかな。



 船長もそう思ったからこそ、未来が変わってしまう可能性を無視して俺達に伝えた。

 システム的なものはわからない筈だから多分、俺達は何らかのトラップに引っ掛かって死んだんだろう。そして、何をトリガーにして攻撃されたのかがわからない以上、この程度なら教えても問題ないと判断した。



 これが人によるものやタイミングによって変わるトラップなら教えない方が良い。というか教えるにしてもここは危ない、あそこから攻撃が来る、くらいか。

 じゃなきゃ避けたりして知らない未来になってしまう可能性がある。例えば攻撃が来るのはわかってるから別の道から行こう→そこにも罠がありました、とか。



 そっちの分岐未来まで見えるんなら船長も教えてる筈だ。教えてくれないってことは船長の予知能力はそこまで強力なものではない。あくまで行動やタイミング次第で変化する未来しか見れず、直進したらこうなる、と仮定した場合の未来が見えるということだろう。

 そもそもの話になるが、そこから更に分岐させて仮定していくとキリがなくなるしな……あ、分岐未来も見えるけど、どう転んでも危険だから教えないって可能性もあるか。後は一日に数回しか使えないとか何らかの制限がある場合。



 ……考えてても仕方ない、取り敢えず死因はわかったんだ。心して行こう。



「俺は問題ない」

「ん~? どうもわからん。ユウちゃん、どゆこと?」

「……俺達が簡単に死ぬくらい危険だから常に警戒しろってことだ」

「いや、それはわかるって」

「わかってないだろ。船長が死んでるっつってんだから、俺とお前は少なくとも、慢心のせいで既に何回か死んでんだよ」

「……ん? んー……うん?」

「ダメだこいつ……」



 こんがらなくもない話だけど、極論、普通に気を付けろってだけのことだぞ? バカなのかこいつは。……いや、アホだったな。



「……と、いうことで皆はお留守番よぉ」



 今一わかってなさそうなアリスは兎も角、ヘルトとその他、海賊団メンバー、アリスのハーレムメンバー、リュウ達は取り敢えず様子見ってことで留守番になった。



「姉ちゃん、ムクロさん、姫さん、ナタリアさん、気を付けてな。……ついでにお前らも」

「そ、そんなぁ……アリス様ぁ」

「うぅ、アリス君……船長さん、どうしてもダメだかぁ?」

「頑張ってね二人共。ロボットとか出てきたら教えて!」

「主様、ご武運を」

「これ回復薬。俺が金で生成したものだから好きに使って良いよ」

「お、センキュー。ユウちゃん荷物持ち頼んだぜ。……なあ、ヘルトちゃんの野郎、今女にだけ優しい顔してたよな? 俺もユウちゃんと同じ扱いだったんだけど。俺も女なのに」

「……お前、本当に煩いな」

「酷くね!?」



 各々、色んな反応していたがかなり危険ということもあり、快く見送ってくれた。

 ショウさんがくれた回復薬は非常に助かる。完全に尽きてたしな。俺とアリス合わせて百本。マジックバッグを持っているのは俺だけかつ腰に〝粘纏〟でくっ付けてあり、絶対に離れないので、これは俺が持つこととなった。



 遺跡に入るのは俺とムクロ、アリス、船長にレナ、ナタリアの六人だ。

 レナとナタリアに関しては船長が途轍もなく嫌がり、危険だからと止めていたが「自分の国のものも知らないで何が王族よ!」と怒るレナと「レナ様が行くというなら私も行きます!」と力強く拳を握って見せたナタリアに負けて渋々同行を許している。



「アリスちゃん、さっきのでわかったわぁ。貴女は一番後ろか私達の前に居て? 坊やが先頭よぉ」

「了解した」

「え? 何で後ろなんだ? 俺も先頭が良いんだけど」

「どうしてもよ、あんた強いんでしょ?」

「そうです。レナ様の盾になってもらわないと」

「まさかの肉壁役っ」



 当たり前だろ。何するかわからないアホを前にして変なトラップを作動されても困る。



 と、いうことで俺が先陣切って遺跡の入り口にある階段を降りていく。



「んっ、は、鼻が……はっ、はっ……ぶえっくしょん! だあぁ、埃っぽいなここ!」

「煩いわね、もう少し静かにしなさいよ」

「乙女らしからぬくしゃみでしたね……」



 五分は経っただろうか。アリスがした盛大なくしゃみの音が反響し、レナとナタリアが目を細めている。



 松明で照らされる、黒い大理石のようなブロックで構成された階段と壁、天井はアリスの言う通り、埃だらけで少し息がし辛い。



 また、階段を降り始めてそこそこ時間が経っている筈なのに、一向に広い空間に出ない。

 と言っても、階段そのものがかなり広く造られており、壁まで二十メートル近くあるから元々広い空間ではあるんだが。



「……そろそろよ、坊や」

「わかった。……ムクロ、少し離れてくれ。動き辛い」

「やだ」

「…………」



 ムクロもレナ同様、どうして行きたいと駄々を捏ねたので仕方なく連れてきたが、堂々と歩いている割には俺の側から離れず、俺の服を引っ張る形で付いてきている。



「……最初のトラップは?」

「床に着いた瞬間、凄い音が鳴り響いて金属の飛び道具が飛んでくるわ。方向は斜め上から一直線。私がこの位置で死ぬから……多分、レナ達も死ぬでしょうね」



 松明の光でも見えないほど暗く、階段と互いの姿しか見えない空間。

 少しずつ床らしきものが見えてきたので質問すると、船長はいつもの間延びした声ではなく、かなり真剣な声音で答えた。



「他はないんだな?」

「床や壁に触れなければなかったと思う……」

「良し、アリス。俺が盾になる。お前は銃を潰せ。ただし、床と壁を使っての移動は禁止。この階段から飛び上がった後は《縮地》と《空歩》のみで移動すること」

「先に潰すのは?」

「トラップの作動条件を満たしたら壁から出てくるという可能性もある。先ずはトラップを作動させてからだ」

「おっけー」



 船長が何も言わないので正しい判断だと思いつつ、腰のマジックバッグからオーク魔族のゲイルが持っていた黒斧を取り出す。

 盾を持ってないので盾代わりだ。こんなことになるならリュウかアカリから盾を借りときゃ……いや、硬度が微妙か。この斧なら屈めば身も隠せるし。



「っ……」



 レナが息を飲んだ。

 恐らく松明に照らされた黒斧の異様さと出自に気付き、驚いたんだろう。何せ刀身だけで人が隠れられるほどの巨大斧だ。まさか腰の鞄から出てくるとは思うまい。



「船長の位置で死ぬってことは……動いたら自動追尾するのか。んじゃ、全員俺の後ろで屈め。出来れば背中を押してくれると助かる。……あ、ムクロは止めろよ。下手したら死ぬから」

「……ぶーっ」

「加減を覚えたら許す」

「じゃあ無理じゃん。んー!」



 覚える気はないと。



 ムクロは拗ねながら、他のメンバーは緊張感に溢れた顔で俺の背中に引っ付いた。



 確認後、アリスに視線を送って斧を構え、一歩を踏み出す。



 次の瞬間、警報のようなけたたましい音が鳴り響いた。



「うおっとぉ……」



 あまりの煩さにアリスに限らず、俺達も肩を震わせて驚く。



 ブオーブオーブオー!



 そんな警報が聞こえる中、何処からかガチャン! という音が聞こえてきた。

 《直感》もヤバいと囁いている。



「来るぞ!」



 俺の忠告が言い終わるか否かの境目で。



 ズガガガガガガッ!! という凄まじい轟音と衝撃が俺達を襲った。



「ぐっ、おおおっ……! あ、あ、りすぅっ!」

「おうよ!」



 気を抜けば腕が跳ね上がるか、吹っ飛ばされる。

 被弾者の有無を確認することもままならず、目がチカチカするほどの火花が目の前で生まれている。



 それほどの衝撃に脚を階段に刺すようにして耐えていると、少しして別の衝撃音が聞こえ、俺達を襲う銃弾の嵐は鳴りを潜めた。



「はぁ……はぁ……っつぅ……! 全員、無事か……?」



 腕の痺れと脚の倦怠感に思わず唸りながら訊く。



「な、何とかね……」

「大丈夫よぉ」

「何なんですか今のは!? れ、レナ様っ、やっぱり引き返しましょうよ! 危ないです!」

「……煩かった」



 どうやらアリスは発砲音が聞こえた瞬間には既に跳ねていたらしい。

 俺が耐えていたのは時間にして数秒。その間に止めてくれた。



「普通の銃ならこんなに強くない筈……ショウさんのと同じで魔力的な何かで強化されてるのか? ちっ、嫌なトラップだ」



 今ので船長が持っていた松明が消えてしまったので、再び点火してもらい、黒斧を確認する。



「……傷一つねぇ。ヤバいなこの斧」



 どこを見ても凹んだり傷付いてる箇所はなく、相変わらず怪しくテカっていた。

 黒く滑らかな光だ。何処か幻想的とも言える光。



 アリスほどではないにしろ、かなりのステータスを誇る俺が吹っ飛ばされそうになる銃弾を無傷で耐えた。

 持ち主の反動ダメージを半減させる効果といい、使い勝手以外は尽く俺に合っている。



「広いから振り回せる。お誂え向きだな」



 通常、洞窟や遺跡では斧や長剣、槍は使えない。

 理由は壁や天井に当たる、仲間に当たる等、その狭さ故に様々な要因で扱い辛くなってしまうからなのだが、今回の遺跡はかなり広く、寧ろ使ってくれと言わんばかりの場所だ。このまま黒斧を使うことにしよう。



「いや~……油断したわ。漸く危ねぇってのが理解出来たぜ」



 黒斧を肩に担ぎ、レナとナタリアの「このまま行くわよ」、「ダメです!」という言い合いを見ていると、アリスが脚を引き摺りながら歩いてきた。



「へへっ、掠っちまった」



 そう言って引きつった笑みを浮かべるアリスの右足の脹ら脛は一部が抉れており、肉まで見えている。



 掠めただけであの威力、そして、流れる大量の血を見て固まったレナとナタリアをよそに俺は別のことを考えていた。



 あんのバカっ……! 何でこっちにっ……って……ん? トラップが作動しない……?



 歩き方、こっちに来た時間からして……警備システムがあったのは三十から四十メートル。……成る程、階段から一歩目、あるいは数歩目までが起動条件か。



「アリスちゃん、悪いけど、そこで止まって頂戴。直ぐ行くから」



 船長も同じ判断をしたらしく、冷や汗まみれのアリスを止めるとその認識を共有し、大きくジャンプしてアリスの元へ移動した。



 ……この辺はやはり異世界だな。全員、助走も無しに当然のように十メートル近く跳びやがった。



「……やっぱり」

「床に何らかの感知機能があると仮定して良いらしいな」



 何も起こらないことを確認しつつ、同時に疑問を覚える。



 侵入者を自動で排除する警備システムと強力な銃の兵器という文明はあるのに、センサー的なものは床にある……このちぐはぐさは一体……? 

 赤外線センサーみたいな空間の熱源探知が出来る魔道具くらい造れそうなもんだがな。



 ……やっぱり、どうもおかしい。



 船長とレナに回復薬を渡し、アリスの治療に時間を掛けている間、船長に確認を取ってから属性魔法で火種を作り、うっすらと辺りを照らしてみたところ、俺達が来る前に既に存在したであろう銃弾がそこら中に散乱していた。

 俺達のは階段付近。他のは壁付近で何かに弾かれたように山になっている。風を起こして取って見てみると、殆どのものがぐちゃぐちゃに潰れていた。



「この量、形……正規の手段だとこうなるってことか? ってなると、何かしらの盾が必要……? いや、そもそも警備システムのON/OFFは出来ない仕組みなのか?」



 多分、前提条件がおかしいんだろうな。俺達の認識そのものが間違っているから疑問を覚える。



「ムクロは何か知ってるか?」

「……わかんない」



 銃弾の嵐に晒され、アリスの脚を見て……レナやナタリア、船長ですら悲鳴を上げる中、やはり一人だけ驚きもしなかったムクロに訊いてみるが、難しい顔で返ってくる。



 こいつの性格上、嘘を言うようなタイプでもない。ダメか……。



「うっし。悪いな皆、そろそろイケるぜ」



 流石に完治とまではいかないものの、歩けるようになったアリスがそう言い、俺達は再び歩を進め始めた。

 今度は先程の恐怖もあってか、レナ、ナタリア、船長はがっしりと互いにくっ付いている。



「船長、この先は……」

「真っ直ぐ進めば何もな……あっ」



 俺を先頭に、出来るだけ俺が通った道のみを通っていたのだが、くっ付き過ぎていたせいか、誰かの足に躓いたらしく、船長は列から離れてしまった。



「っ、伏せてッ!!」



 あまりにも焦ったような声に反応出来たのはレナと俺、アリスのみ。

 ムクロとナタリアは遅れてしまった。



 咄嗟に、俺はムクロを、アリスはナタリアを引っ張って抱き締め、倒れる。



 次の瞬間、カシャンっ……と、先程よりは軽い音が聞こえたかと思うと、遅れてシュボッ! ヒュ~ッ! という少し気の抜ける音が響いた。



 松明の明かりと俺の火種によって姿が露になったそれは……



「っ!? ミサイルっ……ロケット弾かっ!?」



 アニメや映画でよく見る弾頭だった。



 それが両横から四発、真上からこちらに向けて二発が飛んできている。

 しかも、驚くべきことによく知っているものとは違い、弾頭速度は信じられないくらい速いときた。



 反射的にムクロを掴んだまま魔粒子を噴き出し、脚でレナを拾って斧を構える。

 見ればアリスもスキルを使って船長を拾い、ナタリアと一緒に後退していた。



 幸い、両横から飛んできていたロケット弾のような砲弾は伏せていた俺達の真上、五メートル近くに照準が合っていたらしく、互いに当たることなく壁に激突し……



 凄まじい爆発を起こした。



「うおぅっ!?」

「うひいいっ! やっべぇっ!」



 あまりの速度に面食らいつつも迅速な判断をした俺とアリスはその衝撃に吹き飛ばされ、更なる後退へと誘われる。

 しかし、その後退は結果的に俺達の命を救った。



 真上から来ていた砲弾も誘導弾(ミサイル)とは違い、真っ直ぐこちらを狙っていたらしく、追ってこなかったのだ。

 お陰で地面目掛けて発射されたそれは見事何もない地面に衝突し、爆発。後ろに吹っ飛ばされていた俺達を更に加速させる衝撃しか起こさなかった。



「ぐうううううっ!!」

「と、止まれっ、ね゛ぇ゛っ!? くうううっ、いってぇっ……!!」



 俺達を押す衝撃に吹き飛ばされながらムクロとレナを何とか胸で抱き抱え、両手で斧を盾代わりにしつつ、背中から思いっきり魔粒子を出して抵抗する。

 アリスはナタリアと船長を抱えたまま、先程の階段に着地していた。顔を真っ赤にして脚と全身を襲うビリビリとした衝撃に耐えている。



「くっ、はっ……はっ……ぶ、無事か?」



 アリスとは違い、俺は階段に激突する直前で止まれたが、威力的にミサキから奪った魔粒子装備を装着してなかったらヤバかったかもしれない。



「顔とお腹が痛い」

「わ、私は全身……」



 ムクロは「う~ん」と唸り、レナは顔を歪めながら俺の胸から離れ、へたりと座り込む。



「~~っ……!」

「あ、ありがとうアリスちゃん、助かったわ」

「助かり、ましたぁ……」



 アリス達も同様、全員座り込んでいる。



 全員、ある程度のステータスがあったから大した怪我はなかったものの……ロケット弾に爆発の余波、抵抗、着地時の衝撃と一つ一つが人を簡単に殺せるほどの威力だった。



 自然と心臓は大きく跳ね、動悸のような息切れもしてくる。



「ご、ごめんなさい……道のど真ん中を歩いていれば最初の飛び道具以外は何もないんだけど……少しでも横の床に触れると、さっきみたいのが飛んでくるの……」

「……照準が合ってたら不味かった。転んじまったことはしょうがないが、もう勘弁してくれ」



 真上からのは兎も角、両横のロケットは俺達の少し上を狙って発射されたものだった。

 だからこそ、俺とアリスはレナと船長を拾えたし、後退することが出来た。更に言えば、それをそのロケットの爆発が後押ししてくれたから真上からのものも大事に至らなかったのだ。九死に一生を得たってのは今みたいなことを言うんだろう。



「し、心臓に悪いわねここ……」

「レナ様……やはり戻りましょう。こんなところ、幾つ命があっても足りません……」

「……ダメよナタリア。危険とはいえ、いつか調査され、この先にあるアーティファクトも回収される。そうなったらこの国はこれ以上の変革を求められてしまう。現国王の父とあの愚兄が居る今、そんな危険分子を(私達)が所持するのは不味いわ。だから……」



 船長達に預ける、と。



 ということは船長の目的はやはりアーティファクトの独占か。そうすることで俺がレナに示唆したようなことにならないようにする。



 レナもそれがわかった、あるいは船長から聞いたから今回の調査に加わって……あぁ、もしかして船で抵抗を止めたのもそれが理由か?



「…………」



 思わぬところでレナと船長の目的がわかり、納得した。



 それなら俺の行動は人の為になっている。進んで善行を行うつもりはないが、ジンメンの時のように大量の死人を出すのもご免だからな。



「うへぇ……全然、進めてないのに回復薬がどんどん無くなっていくなー」

「真っ直ぐ進めば当分安全らしいし、大丈夫だろう。お前らもさっきみたいなのが飛んできたら俺達にくっ付けよ。最悪、見捨てる羽目になる」

「そ、そんなっ! 私とこの女は兎も角っ、レナ様は助けてもらわないと!」



 冷たいとも捉えられる俺の言葉にナタリアがポニーテールを振り回して反応してきた。



「生憎、そんな義理はない」

「なっ……この前は助けてくれたじゃないですか!」

「だが、砂賊に突き出し、こうして危険な目にも遇わせている」

「っ、そ、それはっ……」

「何より、その危険を理解していて俺達に付いてきたのは他ならないそいつの判断だ。何故、俺達がその尻拭いをしなければならない?」



 思った以上に砂賊が悪人集団でなかったことで、こいつは何か勘違いしているらしいな。



「……ナタリア、シキ君の言う通りよ。それに、私は守られるばかりの立場でいたくない」

「レナ様……」

「何事も命あっての物種ってな。とはいえ、余裕がある内は助けてやる。嫌ならアリスを頼れ、少なくとも俺よりは善人寄りだ」

「おう、だからもっと密着してくれても良いんだぜ? ………………え? 全員無視? せめてツッコミくらい……」



 《直感》が反応していると言っても、《魅了》してきたムクロとは違って無視できる程度のもの。

 本当に危ないと思ったらナタリア、レナ、船長、ムクロの順で見捨てるだろう。当然、最優先なのは俺の命だ。……ムクロを見捨てられるかは怪しいが。



「…………」

「行きましょう」



 じっとりと睨んでくるナタリアに対し、レナは俺の言い分もわかっているらしい。



 ま、そんなの間違ってるとか言ってこないだけ、今まで出会った奴等よりマシだな。



「次はゴーレムが出てくるわ。こっちもさっきの古代兵器を持ってるから注意すること。良いかしら?」



 何はともあれ、遺跡調査は始まったばかり。



 武装したゴーレムなんて聞いたことないが、船長の予言は絶対に等しい。



「ゴーレムかぁ。さてさて、どんなのが出てくるかねぇ?」

「案外、リュウが言ってたようにロボットみたいのだったりしてな」



 大怪我をしても尚、ニヤついているアリスほどではないにしろ、久方ぶりの命の危険と冒険者らしい冒険に、俺の中でも若干の高揚感が生まれつつあった。



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