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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第4章 砂漠の国編
135/334

第127話 逃亡と苦悩

すいません、遅れました。

残業代とか良いから休みが欲しいものです……後、もしかしたら来週の更新も厳しいかもです。



 騎士達に囲まれ、敢えなくご用となった俺、アリス、船長、ヘルト、戦闘員である男達の計十人は姫騎士の部下が用意したテントで拘束されていた。

 全員がロープで四肢を縛られており、無造作に地面の砂地に投げ出されている形になる。



「仮面の貴方……んんっ、貴殿。助けてもらったことには礼を言う。冒険者アリス殿もだ。お陰で被害を最小限に抑えることが出来た。貴殿らの働きはこの国の未来を変えたと言っても過言ではないだろう。どうもありがとう。……で、肝心のお姉ちゃん……じゃなくて。『砂漠の海賊団』とその船長なんだが……貴様らは何が目的で我々を助けたのだ?」



 話があるからと騎士達を追い出した姫騎士がナタリアとかいうポニーテール女だけを護衛に話し掛けてくる。



 一方、俺は姫騎士をまじまじと再確認し、やはり戦争の時に居た奴だと確信を得ていた。



 そんな姫騎士の容姿は金髪碧眼で明るい褐色肌、緑のドレスアーマーと細剣型の魔剣を腰に差した軽装タイプの女騎士であり、可愛らしさと凛々しさを併せ持った、まさに姫騎士と呼ぶに相応しい目鼻立ちをしている。

 身長はムクロ同様、女性にしては高く、身体付きも細く見えるが腕や脚を見る限り、鍛えられた筋肉で引き締まっているからそう感じるんだろう。



「と、申しておりますが?」

「茶化さないで」

「……なあ姫さん」

「何?」

「口調戻ってるぞ」

「……っ!」

「いてっ。おい、何で殴った。俺は何も言ってないぞ」



 アリスが船長にふざけながら訊き、どうでも良いことを突っ込んだヘルトではなく、何故か黙って見てただけの俺が小突かれた。



「ああもう面倒臭いっ、あんた達は黙っててよ。これは私とお姉ちゃんの問題なの!」

「……だから騎士達を下がらせたのか」

「お姉ちゃん、か。姉ちゃん、この姫さんもオイラと同じ……?」

「うへへ……セシリア、綺麗な生足と黒いパンティがこんにちはしてるぜ」

「っ……これは短パンっ、下着じゃないからっ。もうっ、アリスちゃん、何かおじさんみたいよぉ?」

「何だ、つまんねぇ」

「誰も黙らないわね……」



 先程同様、各々が勝手に話すので姫騎士は素を晒け出してまで脱力している。



 後、船長、そいつの中身男だし、精神年齢は三十越えてるからオッサンだぞ。こっちの世界基準で言えば年寄りに入り掛けてるくらいだ。



「あ、詠唱防止っていう名目で口縛れば良いじゃない」

「あー……それは良いが優しく頼む。どっかの誰かさん助けるのに結構体力使ったんだ。下手したら窒息する」

「……わかったわよ、嫌味な男ね。ナタリア、ちょっと手伝ってくれる?」

「はい」

「ん!? いやいやいやっ、俺獣人っ! 見りゃわかるだろ!? 魔法使えないから縛る意味なっ……んんーっ!」

「あんたは普通に煩い」

「むむぅっ!」



 雑な理由で無理やり黙らせられたアリスとは違い、俺とヘルトは素直に口を差し出した。



 ……姫騎士達の様子を見るに、今のところ魔族だとバレてないらしいな。ついでに異世界人で面識があるってことも。

 俺は無詠唱で魔法が使えるし、抦ごと収納して剣を落としたように偽装した魔法鞘もあるから口塞がれても簡単に逃げられる。アリスもあの余裕だ。多分、何かしらの策はある筈……ま、取り敢えず様子見か。



「あーっ、やっと静かに……」

「むむーっ! むーっ! ん? んーんっ、んーっ!」



 安堵しかけた直後、アリスがまだ何やら騒いでいるのを見た姫騎士のこめかみに青筋が入った。



「……ならないわね。はぁ……だ、か、ら! うっさいってのっ!」

「むがっ!?」



 アリスは割りと本気の拳で頭をぶん殴られ、漸く沈黙した。



 ガントレットしてるし、今のはステータスが高くても痛いだろうな。



「さて……お姉ちゃん答えて。何で私を助けたの? この八年間……何、してたの? 私、ずっと捜してたんだよっ? やっとっ、やっと会えたのに砂賊になってたなんてっ……」

「んー、んんんんーんむぐんんー」

「……っ!」

「んごっ!!?」



 ……訂正。二度目の拳骨で今度こそ黙った。



 最初から黙っている男達とヘルト、俺、ついでにナタリアから「お前マジ空気読めよ」みたいな視線が飛んでるのも一因だろう。



「……あらぁ? お姉ちゃんが妹を助けるのは至極当然のことでしょう? それに……助けたのはそこの坊や達よぉ」

「そう……じゃあ今まで何を?」

「何を、か……ん~、そうねぇ……ひたすら仲間を集めて色んな犯罪行為してたかしらぁ?」

「お姉ちゃんまでふざけないでっ。それくらい聞いてるわ、『砂漠の海賊団』は発掘されたアーティファクトを次々と盗んでいく集団だって。何が目的でそんなことをして、何で私に会いに来てくれなかったのって訊いてるのよ」



 片や褐色、片や白い肌。髪は揃って金だが姫騎士の方はサラサラしてるし、顔も似てない。

 そして、ヘルトの普段の言動とさっきの発言、ヘルトを見た姫騎士の反応……この二人、船長を姉と慕っているだけで血の繋がりがある訳じゃないのか。まあそうだよな、ヘルトと船長が姉弟で姫騎士まで追加されたら複雑過ぎる。



 船長と姫騎士の会話に耳を傾けながらそんなことを考えていると、船長は申し訳なさそうな顔で返した。



「ごめんなさい、未来が変わるかもしれないから言えないわぁ」

「……またそれ? 昔からそうやってはぐらかして……!」



 怒っているのは確か。しかし、僅かではあるが声や顔に喜色が漏れている。



 八年間、捜してた、という言葉からして船長と姫騎士は旧知の仲であり、かなり親密なものだったことは伝わってくる。

 嬉しさ半分、怒り半分で真面目になりきれないらしい。



「あ、あの……レナ様? この女とは一体どういう関係で……?」

「え? あぁ、話してなかったっけ? お姉ちゃんは私が王族に祭り上げられる前のお隣さんなの。今の私くらいの歳で一人暮らしだったし、私は一人っ子だったからお姉ちゃん家に入り浸っちゃってね……」

「……懐かしいわぁ。昔はお姉ちゃん、お姉ちゃんって私に付いてきてたのに……今は助けた恩を忘れて命の恩人を捕らえる狡い大人になっちゃったのが悲しいわねぇ」



 全くである。だからこそ船長に限らず、俺も騎士達に捕まっちまった訳で……



 因みにアリスは普通に捕縛された船長からの投降命令で仕方なく捕まった。ヘルト達も似たような感じだ。



「お、お姉ちゃんが魔導戦艦なんか盗んだのがいけないのよ! そのせいで私はお姉ちゃんを処刑させられる羽目にっ……」



 捕縛された賊は例えどんな事情があろうと情状酌量の余地無しで公開処刑。



 これは殆ど全ての国で採用されている法……謂わばこの世界独自の共通意識だ。

 姫騎士の立場上、捕縛した船長達を処刑しなければならないんだろう。多分、俺やアリスも同様だな。事実はどうあれ、一緒に行動していた訳だし。



 しかし、悲しそうに告げる姫騎士に対し、船長は笑顔で答えた。



「残念っ、この私がそんな未来にすると思って? 私は死なないわよぉ」



 船長は未来を見通す固有スキルを持っており、そのことは旧知の仲だった姫騎士も知っている。



 故に、船長の自信に満ち溢れた返答に姫騎士は少し安心したように「ど、どうやって?」と訊き、ナタリアは「逃げていった仲間が助けに来るんですね!」と納得のいったような顔をした。



 まあ、確かに魔導戦艦は飛んでいった。船長が降りる直前にそう指示を出したらしい。

 が、聞いてみたらあの船に何か強力な兵器がある訳でもないそうだからな。十中八九……



「坊や、アリスちゃん。何とか出来る?」



 俺達を頼るよな。



 元来、俺とアリスの仕事は船長達の護衛だ。

 代わりに船での生活を許され、当分の間、面倒を見てもらえることになっている。



 ならばこういう時にお鉢が回ってくるのは大した武装のない船と船員ではなく、目の前の最高戦力。



 わかってはいたが今なのか? と思いつつ頷き、アリスも元気よく縦に首を振っている。



 姫騎士とナタリアは即座に剣と短剣を抜いた。



「そんな状態でどうやって抜け出そうというの?」

「……武器も無しに我々と騎士達から逃れられるとは思えません」



 拘束され、倒れている人間に対して真剣な表情で構える姫騎士は恐らく船長の力を知っているからこその反応。ナタリアは半信半疑だが、護衛として一応……ってとこか。



 ……今の動きを見る限り、この世界基準で言えば二人共強者の部類に入るな。だからどうということでもないが。



「そう、今よ。出来るだけ静かにお願いね」



 最後の確認としてもう一度船長の方を見た俺は許可が下りた直後、後ろ手に縛られた手を腰に伸ばし、魔法鞘から短剣を取り出すと自分を斬らないよう気を付けながら腕の拘束を解いた。



 一方、アリスは「むぬぅっ!」と無理やり四肢を縛っているロープを引き千切っていた。



 人間の構造的に力が入らないように縛られてた筈なんだがな……脳ミソは筋肉、身体は鋼鉄か何かで出来てるのかこいつは……



 思わずジト目を送ると同時に素早く脚と口のロープを切り、



「ええっ!?」

「こ、拘束がっ!」



 と、驚いている二人の背後に回った。



 そして、姫騎士には持っていた短剣を、ナタリアには新たに取り出した短剣を突き付ける。



「動くな。声を上げたら喉を斬る」

「っ、貴方までっ……」

「いつの間……にっ!?」

「ナタリアっ」

「喋るなと言ったろ。次は痛いじゃ済まんぞ」



 驚愕していたのはわかるものの、忠告を無視していた為、ナタリアの喉に切っ先を当てて軽く血を見せ、黙らせた。



 ジル様の爪はやはりよく斬れる。



「言ってることとやってることが完全に悪役だぜユウちゃん」

「お前もな」



 俺が二人を抑えている内に犯罪者である船長達の拘束を解いていたアリスもアウトだろう。



「流石ねぇ……けど坊や、レナに何かあったらただじゃ置かないわよぉ?」

「お姉ちゃん……!」

「この通り、今言われると不利になるんだが?」

「……レナ、抵抗しないで。じゃないとレナの可愛い顔に回復薬で治るくらいの傷が大量に出来ることになるわぁ。それかその綺麗な髪を……くっ!」

「お、お姉ちゃん……?」



 ゴゴゴゴ……と例の目が笑ってない笑顔で念押ししてきた船長の発言に、自分に傷一つ付けられないなら、と判断した姫騎士が動き始めたので釘を刺すと、船長は一瞬で手のひらを返し、「こんなことしか言えない自分が憎いっ」とでも言わんばかりに歯を食い縛った。



「優しいのか外道なのかどっちなんだ」

「お前ら一体どうやって……いや、今はそんなことより……姉ちゃん、これからどうするんだ?」



 いきなり始まった茶番劇に突っ込んだアリスをよそに、ヘルトが逃走手段を問う。



「愚問だな。こっちには姫騎士(この女)が居るんだ。正面からだって逃げられる」



 船長の返答代わりに短剣を突き付けたまま姫騎士の肩を抱いて見せると船長とヘルトは揃って嫌そうな顔をした。



「……そう、ねぇ……坊やの言う通り。気乗りはしないけど、そうするしかないわぁ」

「オイラ、人質なんて狡いことしたくないぞ」

「言ってる場合か。海賊が悪事を働いて何が悪い。ほら、行くぞ」

「はぁ……坊やも板についてきたわねぇ」

「まだオイラ達の仲間になって半日くらいしか経ってないけどな……」



 アリスが周囲の気配を探っている内に方針を決めた俺達は姫騎士とナタリアの口を縛って担ぎ上げると、テントから飛び出るのであった。




















 その後、まんまと憤慨する騎士達から逃げることに成功した俺達は近くでこちらの様子を窺っていたリュウ達と合流し、一週間が経った。



「う~んっ……はぁ……自由って素晴らしい……! ねぇ、そうは思わない? シキ君?」



 今の言葉は抵抗しても意味はないと、ある意味吹っ切れたらしい姫騎士……レナのものだ。



 ランタンのような魔道具に照らされた船に付くなり、俺の顔をじっと見てきたかと思えば「あぁっ! 貴方っ、勇者の!」と大きな声を上げて俺の正体に気付き、それからは何故か態度が軟化したので、自然と話す間柄になってしまった。



「そりゃあな。つっても、あんたは王女だろう。そんなことを言える立場なのか?」

「……だからこそよ。王女だから自由になりたいの。それと……その口調、もっと崩せない? 私、貴方が元々違う話し方なの知ってるわよ?」

「煩いな。それこそ人の自由だろうが」

「……ふーん、変なの」



 そう言ってまるで自分の家のように寛ぐレナが居るのはムクロが寝ているベッド。

 つまり、俺の部屋である。



「なあ、そろそろ俺の部屋に来るの止めてくれないか?」

「何で?」

「何でって……連日ナタリアが騒いでるし、さっきも言ったがお前は王女だ。男の部屋に入り浸るのは宜しくないだろ」

「……ふふっ」



 レナが抵抗を止め、船長や団員の男達と楽しそうに喋っているのを見たナタリアも既に打ち解けつつある。

 この船の連中の雰囲気を考えれば当然と言えば当然な気もするがな。最近は俺に話し掛けてくる奴も増えてきたし。



「何がおかしい」

「貴方、ついにお前って言ったわね。王女である私に向かって」

「……それがどうした」

「別に。今まではあんた呼ばわりだったから、今度は何て呼ばれるのかなって」

「…………」



 ……この女は何で俺に構うんだ? こう敵意も悪意もなく来られると反応に困る。



「シキ君……いえ、ユウ=コクドウ君はさ」



 何て返せば良いのかわからず、黙っているとレナは徐に口を開いた。



「このシャムザをどう思う?」

「……良い国?」

「何で疑問系なのよ……因みにどんなところが?」

「フロンティアしか知らないから限られるが……獣人が笑顔で町を歩いていた。イクシアじゃそんな光景はありえない。獣人で町を歩けるのは首に鎖を繋がれた奴隷だけだからな」

「イクシアは人族至上主義。シャムザは主義なんてない多種族国家。その違いね。……獣人族に差別意識はないの?」

「ない」

「……そこまでハッキリ言い切る人、初めて見たわ」



 俺の返答にレナは目を見開いてまで驚く。



「俺の素性を知っているなら師匠のことも知っているだろう」

「『狂った剣聖』……」

「あの人も人族じゃないし、そもそもの話、何も他種族(あいつら)に思うところがない訳でもない。獣人族も竜人族も耳や角……は俺も生えたから微妙か。あ~……尻尾とか鱗とかだな。そういうところは気になる」

「…………」

「感触はどうなんだろう、その部位があるってのはどういう感覚なのか、邪魔じゃないのか、痒くなったりするのか、とかな」

「……え? き、気持ち悪いとかじゃなくて? 普通、そういうところを気味悪がるものだと思うけど……本当に変わってるのね」

「そうか? 俺は至って普通の感覚だと思うがな。知らないから怖く感じるんだ。あいつらもそう。人族の身体構造や考え方について知らないから同じように感じ、互いに距離を取る」


 

 シャムザのように人族が主体となってはいるものの、他種族を受け入れている国は珍しい。

 人は人、獣人は獣人、魔族は魔族と殆どの国は種族で分かれている。しかし、だからこそ差別意識が進むんじゃないだろうか。互いを知ろうとしない以上、その構造はいつまで経っても変わらない。が、その点、シャムザは……フロンティアは違った。獣人が笑顔で生活出来、人族と何ら変わらない生き方が出来ている。でなければアリスも獣人であることを隠して生活していた筈だ。



「先ずは知ることさ。『人類の敵』と言われる魔族にだって良い奴は居る。お前には俺が悪人に見えるか?」

「……いいえ。貴方は私の命の恩人だもの。『闇魔法の使い手』で、魔族になった、そんな過去は関係ない。そう断言出来る」



 ムクロを見ながら言ったことだったが、レナは違う捉え方をしたらしく、俺が魔族であることを気にしているかのような言い方をしてきた。



「俺達の世界でもそうだった。互いを知ろうとせず、価値観の相違や容姿が違うという下らない理由で争いが絶えない世界……幸い、俺が生まれた時代は比較的平和だったがな」



 それも、俺が知っている日本でのこと。他国では常に何かしらの問題や争いに悩まされる人が存在していたし、理不尽に命を奪われる者も居た。その辺はこっちの世界と変わらないだろう。



「そちらの世界はいつだって種族間で争っている私達とは違う道を歩めてるのね……」

「そう見えていただけの可能性もある。……さて。急で悪いが、そろそろこの話は終わりだ。続きがしたいんなら明日にしてくれ」



 いきなり話をぶった切った俺にレナは目を白黒させる。



 しかし、それにも理由がある。



 最近、ムクロの様子がおかしいのだ。



 俺が居ないと寝れないし、一人にすれば拗ねるか子供のように泣いてしまうようになった。前はそんなことなかったのに……丁度この国に入ってからそんな調子になったような気がする。



 挙げ句、エアクラフトやこの船を見ても驚かなかった。いよいよ以て怪し過ぎる。



 ――魔族は人族よりも優れた技術力を有していると言う。それだけ発展した国から来たのか、はたまた……



 いや、そんな筈はない。流石に考え過ぎだろう。



 俺は頭の中で結論付けつつ、「う、うん、わかった……」と立ち上がるレナに再び声を掛けた。



「それともう一つ。お前が聞きたかっただろう真意についてだ。さっきも言った通り、今はまだ良い国だと思う。アーティファクトもエアクラフトも人々の生活の為に使われ、人々の役に立っている。しかし、もし仮にそれが他国に渡り、戦争に使われ始めたら……」

「っ……」

「この国は終わるだろうな。世界に混乱をもたらした元凶として。あるいは強力なアーティファクトが掘り出される鉱山的土地として他国から侵略を受けて。そうなれば貿易は出来なくなり、支援もない状態での戦いを強いられる。黙って他国(ハイエナ)共に食われるってんなら別だがな」

「……そう、よね」



 レナは俺の言葉に息を飲み、続いて、重く頷いている。



 俺が言うまでもなく、わかっているということだろう。



「……ついでに、俺が言うことじゃないのは重々承知しているが、お前の命の恩人の一人として言わせてもらう。俺とアリスが救った命を無駄にするな。お前個人は嫌な立場でも、立派な王女なんだ。少しでも国の為に使え」

「そ、それはっ……言われずともわかってるわよ!」

「なら不安に思うな。毅然としていろ。少なくとも魔族であり、お前とは何の関係もない俺に訊くようなことじゃない。加えて言えば今の俺は砂賊でもあるんだからな」

「……ごめんなさい」



 声を荒げてしまったこと、そんなことを訊いてしまったことに対し、頭を下げたレナは俯きながら歩いていった。



「ちっ……どうもムクロと似てて気持ち悪ぃ女だ……」



 部屋で一人になり、思わず独り言が漏れる。



 しかし、不味いことにそれを聞いていた奴が居た。



「おい、それはどういう意味だ?」



 今の今まで寝ていたムクロである。



「……起きてたのか」

「起きたのっ、今のでっ」



 ベッドに寝転がりながらジト目かつ若干怒ったような顔で見てくるムクロと良くない独り言を聞かれた俺の間で気まずい空気が流れる。



「……で、どういう意味なんだ? ん? 言ってみろ、ほら」

「圧を掛けるな圧を。……別に変な意味じゃないさ。ただ……」

「ただ?」

「俺の中の《直感》があいつとお前に似たようなものを感じ取ってる気がしてな」

「……ふーん」



 放っておいちゃいけないような……けど、ムクロと違って守ってやらないとっていう感覚でもない。



 形容し難い、変な気持ちだ。自分でもわからないってのはどうしてこうももどかしいのか。



「はぁ……わからねぇ……俺は……何の為に生きたいんだ……? 何をする為に、この世界に…………なあ、ムクロ。お前はどう思う? 俺、お前やあの人の為なら……」

「……zzz」

「ね、寝てやがる……何なんだお前……」



 友人と再会し、成り行きで海賊になり、何故か姫様を助けた。



 再会を約束していたアリスや先回りしていたリュウ達はまだしも……この国に来てから一週間程度しか経ってないにしては特殊な体験が多い。

 エアクラフトだってそうだ。船長は近い古代の遺跡を順に攻略していくとか言ってるし、これからも未知に溢れる毎日を送れるだろう。



 冒険者業もそうだった。

 こちらの生活は刺激的で楽しくもある。召喚されてからは寧ろ特殊じゃない体験をする日の方が少ないくらいに。



 なのに、どうしてもダメだ。



 今の俺には生きたいという気力が……否、理由すらもない。



「今は船長の好意で生きていけてる。……でも、そろそろ何か目標が欲しいよな……俺の、目標……やりたいこと…………ジル様に会いたい……は違うな。俺個人の願望だ。何処に居るのかもわからないし、会えたところであの人を越えてなきゃ何の意味もない。また怒られて終わり………………ちっ、やっぱダメだな、何も出てきやしねぇ……ムクロと一緒に居れば……何か見えてくる、かな……」



 寝てしまったムクロの頭を撫でながら、また独り言を呟く。



 何でも良いのだ。ただ活力が沸けば何でも。



 例えば……そう。

 騎士達やレナを助けた時のように誰かに背中を押され、気付いたら無我夢中になっていた……そんなのでも構わない。



 嫌なことを何も考えず、あるいは忘れて、ひたすら何かをしていたい。

 にも関わらず、その何かが出てこない。



「はぁ……何がしたいのかもわからないなんて……」



 自嘲してしまうくらいには参ってる。

 リーフ達のことも、リーフ達の町のことも、ライやマナミのことも。



 そして。



 それら全てを抜きにし、俺が俺である過去を無かったことにしても……



 この世界に来てから唯一気になっている存在があるのも、事実。



 強いて……それを上げるとすれば。



「【不老不死】の魔王……」



 ジル様曰く、争い事を嫌い、平和を望んでいる魔族であり……死にたがりかつ寝たきりの王。



 永久に老いず、死ねない。



 だからこそ死を望んでおり、言葉を発するのがやっとくらい精神的に病んでいるらしい。



 今は……どうなんだろうか。



 ジル様から聞いた話は百年以上も前のことだ。今、魔王が寝たきりであるとは限らない。

 もしかしたら起きていて何か死ぬ為の策や全く別のことを考えているのかもしれない。



「生を終わらせたい魔王、か……」



 一体、この世界やステータスという概念(システム)に何を思い、何故平和を望んでいられるんだろう。



 俺が魔王の立場なら、恐らく気が狂って……あぁ、完全に狂うことも出来ないんだっけか。



 なら、想像も付かない。



 何百年、何千年……下手をしたら数万年の時を超えて生きる存在。



「いつか、話してみたいな……問題の『付き人』はクロウさんだし、何を考えているのか、生きることについての考えを訊いてみたい。その時は……」



 魔王に、魔族側に付くのも悪くないんじゃないだろうか。



 俺は『人類の敵』。顔に泥を塗ったから聖軍からも疎まれている筈。

 何より……あんな奴等が正しいなんて認めたくない。聖軍も勇者も糞食らえだ。



 リーフ達が繋いだこの命……俺は絶対に無駄にしない。



「多分……そういうこと、なんだよな。《闇魔法》と《光魔法》の使い手は互いを憎み合う性質がある。だから……やっぱり俺とあいつは最初から…………」



 思考に耽る俺の元へ、「ユウちゃんユウちゃん! 遺跡に着いたってよ! 明日の早朝、出発するらしいぜ!」とテンションの高いアリスが顔を見せたのはそれから数時間後のことだった。



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