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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第4章 砂漠の国編
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第125話 空中飛行 前編

話は進まないくせに長くなったので分けました。続きは書け次第投稿します。



『代わりに条件がある。俺達にはそのムクロ? って子以外に仲間と友達が居るんだ。悪いがそいつらの意思によっては一緒に連れていってもらいたい』



 というアリスのお願いにより、アリスのハーレムメンバーは勿論、アカリやリュウ、ショウ、レドにアニータまでもが『砂漠の海賊団』の魔導戦艦に乗船していた。



 ムクロは起きて早々、シキが居ないことに泣きじゃくっていたが、町に下りてきたアリスの説得もあり、乗船して間もなくシキに与えられた部屋に飛び込んでいる。



「どこ行ってたのシキぃっ!」

「うおっ、いきなり何だお前っ、や、止めっ、離れろっ」

「……泣いてたの? おおよちよちっ、シキは良い子だよ、頑張ってる、偉いねぇ!」

「うるせぇっ、止めろっつってんだろっ、俺を何だとっ……」

「ぎゅーしてあげるよっ、ほらっ、ぎゅーっ!」

「むぐっ……んむぅっ!」

「えへへぇ……シキぃ、このまま寝ちゃって良いよぉ……」

「んんっ、うっ、ん……わかったっ、わかったから少し離れてくれ、」



 これまで寝ていたのに起きた瞬間、子供のように号泣し、シキが居る部屋に案内したらしたであまりにも必死な形相で飛び込んでいったので思わず聞き耳を立てたアリスは「な、何だよ……さっきまであんなに元気なかったのに、案外平気そうじゃんかよ……」と微妙そうな顔で距離を置いている。



「良かったんすか?」

「良いも悪いも……あのタイミングでシキさん達と離れられないでしょ。まだ厄介になる前だったし、何より私、シキさんにもムクロさんにも謝ってもない……それよりレド君こそ良いの? 海賊だよ?」

「う~ん……あのシキさんが仲間になるくらいっすから悪い人達じゃないと思うっすよ?」

「……え、それだけ?」

「? はいっす。俺の実力じゃ一人ではやってけないっすからね。シキさんが良いって言ってくれてる間は付いていくつもりっす」

「はぁ……私も私だけど、レド君も大概だね」



 甲板で話し合うレドとアニータの横ではプリムとゾルベラ、リュウやショウ達も会話している。



「海賊……私達が……罪深い、海……賊……こ、これもアリス様の為……アリスの為……」

「深く考えることはねぇだよプリム。アリス君が決めたんだからわたす達は付いてくだけだぁ。ほら、それより見てけろこの景色っ、凄いだよ! 砂漠が夕日で赤く染まって……うひゃあっ、空から見るとこんなんなんだなぁ!」

「古代の戦艦に古代の遺跡、古代の遺物、古代のゴーレム……あぁっ、ワクワクすりゅうっ。ロマンがっ、古代文明が僕を待っているっ」

「涎出てるよ……あ、そう言えばリュウってロボット系が好きなんだっけ? いやぁ、でもこれは俺もワクワクしちゃうなぁ。海賊の仲間入りっていうのも良い。まあ指名手配とかされたらあれだけど……」



 『聖』の属性に適性があったが故に聖神教に連れられ、アリスに救われるまで洗脳状態にあったという経緯があるプリムは暗そうに、魔物に襲われていたところをアリスに助けられ、一目惚れをしたゾルベラは明るい様子で話しており、リュウ、ショウはそれぞれ男心を擽るロマンに目を輝かせていた。



「面白そうな子達よねぇ……」

「姉ちゃん、のっけから煩いよこいつら。皆も嫌がってる。本当に連れてくのかい?」



 女船長はやはり笑うばかりで、ヘルトはいつも騒がしい男達がいきなり増えた仲間に胡乱げな視線を向けていることに気まずそうだ。



 因みにアカリはムクロ同様、シキの部屋に居るが距離感が近すぎる二人の姿に動揺、混乱、困惑し、邪魔ではないかと震えていたりする。



「殆どが私と同じ固有スキル所持者なのよぉ? 戦力があるのは良いことだわぁ」

「って言っても姉ちゃんほど強力な力があるとは思えないんだけど……」

「もうしつこいわねぇ、良いじゃない。……それに、私が見た未来とは少し違うけど、彼の連れはそれほど変わってない……仮面の坊やの方の仲間には貴方と同じ職業を持つ子が居るわ。貴方よりも悲惨な人生を歩んでいる子がね」



 文句を垂れるヘルトに窘めるような顔をしていた女船長はウェーブがかった美しい金の髪を指先で弄りながら真剣な表情へと切り替えると事も無げにそう告げた。

 


「っ……オイラと同じだってっ? どいつだ姉ちゃんっ、教えてくれっ」



 ヘルトは一瞬で顔色を変え、女船長に詰め寄る。



「それはあの子達に訊きなさい。知りたい理由と引き換えに、ね」

「で、でもそれじゃあっ」

「あのねヘルト。貴方や皆が何と言おうと彼等は私達の仲間になったの。この船に乗っている以上、皆家族よ。貴方は……昔から他人に冷た過ぎる。もう少し人との接し方を考えなさいな」

「皆とは上手くやってるじゃないか!」

「数年掛けて漸くでしょう?」

「っ、だとしても何で今更新入りなんか!」

「……私の知ってる未来とはもうかなり変わってる。いつ帝国が攻めてくるのかもわからなくなってしまった。時間は有限なのよ。早急にこの国を正し、奴等に備える必要があるわ」

「っ……」



 間延びしない真面目な声色に隻眼の鋭い目付き。



 普段の女船長からはふわふわした雰囲気が出ているが、今は違った。

 いつになく真剣で、どこか焦っている。そんな様子だ。



 あまり見たことのない女船長の姿に、ヘルトは黙らざるを得なかった。



「明日からあの子達と打ち解けられるよう努力なさい」

「……オイラだけ? 他の皆は?」



 拗ねたようにむすっと返すヘルト。

 その返答は困ったような表情と苦笑いと共にされた。



「皆は貴方と違うもの。ほら」



 そう言って女船長の指差す先には拳をパキパキさせながらリュウ達に近付く男達の姿があった。



「うじうじしてても始まれねぇ! 行くぞ野郎共!」

「おうよ! 新入りに俺達のことをわからせてやる!」

「へへっ、腕がなるぜぇ……!」



 どうやら男組が気に入らない者は腕相撲で、単純に新しい仲間……それも若い女が増えたことに気を良くした者は質問攻めをして互いを知ろうとしているらしい。



「あいつら……さっきまでオイラの後ろでブーブー言ってたくせに……」



 と、ヘルトが呆れている間にも彼等なりのコミュニケーションは続いている。



「だらっしゃあ!」

「ふんぬぅっ!」

「イケイケぇ! そんなぽっちゃりに負けんな!」

「行けるよリュウ! 『無』属性の強さ、思い知らせてやれ!」

「くううぅっ、か、簡単に言わないでよショウさん! 相手は黒人だよ黒人! 間近で見ると超怖いんだから!」

「そういう言い方は良くないよ。そんなこと言ったら俺達も黄色人種だし。何をビビってるのか知らないけど、同じ人間なんだから何も変わらないって」

「嘘だぁっ、皆身体デカいし、ごついよ!? 僕達と違って!」

「あぁん!? 何か言ったかごらぁっ!」

「ひいぃっ! めめめっ、滅相もないですぅっ!」

「とか何とか言いながら負けてないじゃん。……あ、皆さん飲み物は如何です? 私、こう見えて商人なのでマジックバッグに色々ありますよ?」



 用意された樽の上で顔に青筋を浮かべている力自慢の男と『無』属性の魔法で自身を強化させて唸っているリュウ。

 それを囲いながら盛り上がる一同の中ではショウが数人の男達に声を掛けていた。



「おっ、気が利くじゃねぇか兄さんよ。酒はあんのかい?」

「はい、銀貨一枚になります」

「げっ!? 金取んのかよ!」

「あんた見かけによらずしっかりして……って銀貨!?」

「た、高過ぎだろそりゃあ!」



 大口を開けて驚く男達に対し、ショウはニヤリと笑みを浮かべ、マジックバッグに手を突っ込んだ。



「いえいえ……ではこちらのエール、ちょっと飲んでみてください。それの御代は結構ですので」

「おおっ、何かすげぇ泡立ってるな……」

「お、お前飲んでみろよ」

「え~……俺、エールは好きじゃねぇんだよなぁ」



 既に木製のコップに並々注がれた日本のビール。

 見慣れたエールとどこか違う様子に男達は尻込みしているようだった。



「おうおう兄ちゃんよぉ、やけに自信ありそうだなぁ。悪いがエールには煩いぜ、俺達は。どれ、試しに……ごくっ……んっ!? んぐっ、んぐっ、んぐっ……ぷはぁ!」



 しかし、その中の一人が立ち上がり、ショウの手からビールを受け取るとニヤニヤしながら一口……二口、三口と一気に飲み込んだ。



「な、何だこのエール!? キンっキンに冷えてやがる!」



 同時にどこぞのギャンブラーのような戦慄を走らせている。



「どうです? 銀貨一枚の価値はあるでしょう?」

「くぅっ、味も俺が知ってるとは桁違いに美味いっ……! け、けど、銀貨はなぁ……!」

「では銅貨八十枚っ」

「五十っ、いや、五十五!」

「七十!」



 あっという間に値切りが始まり、リュウ達の腕相撲は蚊帳の外になった。



「それもキツいよ兄ちゃん! せめて六十!」

「六十……う~ん……まあ良いでしょう。ついでに皆さんにも勧めてくれればもう少しお安くしますよ?」



 ショウが仕方ないなぁ……とでも言いたげな表情で提案し、男は儲けたと喜んだ。

 それが相場の十倍は高いと知らないので呑気なものである。



「よしわかった! 残りはどれくらいあんだ!? 今のエールはやべぇっ、多少高くても一瞬で無くなっちまうぜ!」

「ご安心ください。それはもう大量にありますから」

「っしゃあ! お前らも騙されたと思って飲んでみろ! こいつぁハマるぜ!」

「そんなに良かったのか……? じ、じゃあ俺も一杯だけ」

「俺も俺も!」

「な、なあ兄ちゃん、エール以外の酒はないか?」

「ええ、ええ。ワインに果実酒、ツマミまで何でもござれです!」



 酒好きの仲間が豪語したことで他の男達は盛り上がり、あっという間に酒やツマミを求める者で溢れることとなった。

 ショウも内心では「一杯五百円もしないビールが一気に五千円に……本人達は喜んでるし、これが本当のWin-Winだな!」と両手を上げている。



「どひゃあっ……それじゃあ嬢ちゃんはドワーフなのか!? 魔族なんて初めて見たぜ!」

「別のところから来たって割には肌の色が俺達と似てると思ったんだよなぁ」

「うんにゃ、半分ドワーフってのが正しいだぁ」

「ほえ~、じゃあ父ちゃんと母ちゃんのどっちかが人族だったのかい?」



 一方、甲板のど真ん中で盛り上がっているリュウ達とは離れた船首の方ではゾルベラとプリムが質問攻めにされていた。



「んだよ! だども混血種って言ったけかなぁ、生まれたわたすがハーフだからって村の皆から大層虐められてなぁ……気付いたら二人共居なくなってただ」

「そ、そいつぁは気の毒だな……おっかさんまで居なくなるなんて……」

「おい、ちょっとは気を遣えっ、可哀想だろ!」



 見た目は小さいが、男達ですら持てなさそうな巨大な荷物を軽々背負っていたゾルベラに、男達は同情しているらしい。



「わたすは気にしてないだよっ、お陰でアリス君と会えたし、今は幸せだぁ」

「よ、良がっだなぁっ……」

「ぐすっ……若いのに大変だったんだなぁ……誰かっ、嬢ちゃんにジュース持ってきてやれ!」



 暗い過去を明るく話し、ニコッと白い歯を見せて笑ったゾルベラに何人かの男は号泣していた。



「……と、いうことがあって私はアリス様と居るのです。アリス様が助けてくれなかったら私は今頃……」

「うおおおっ、聖神教の奴等許せねぇよ! プリムちゃんみてぇな女の子を拉致して洗脳するだけじゃなく、適性のある赤ん坊を集めて無理やり聖職者にしてるなんて!」

「今度会ったらボッコボコにしてやっからな、プリムちゃん!」



 また、近くでアリスとの出会いを訊かれ、緊張しながら語っていたプリムは想像と違って優しい男達に困惑している最中だ。



「い、いえっ、多分、町の教会に居るのは私と同じ境遇の方だと思うので出来れば……」

「何っ!? じゃあ助けてやらねぇと!」

「ゆ、誘拐はちと不味くねぇか?」

「何言ってんだ、俺達ぁ海賊だぞ? 悪いことしてなんぼだろうが」

「いやっ、そいつらだって町の怪我人を魔法で治療してたりするんだろ? なら町の奴に悪いぜ」

「そ、そうか、確かに……」

「海賊……なんですよね……? この人達……あ、アリス様ぁ、私、どうすれば……」



 気が弱いプリムは強面なのに優しい男達の姿に、救いを求めることしか出来なかった。



「……はぁ、ユウちゃんの野郎、怒る気になれねぇとか思った直後にあれかよ……畜生っ、俺もあんなボンキュッボンの姉ちゃんに抱き締めてもらいてぇっ!」



 等と悔しそうに船室から出てきたのはアリスだ。

 自分を殺しかけたことに怒るのではなく、ムクロという美人とイチャイチャ出来ることにムカついているらしく、「くうぅっ」と歯軋りをしている。



「プリムやゾルベラの身体も良いけど、たまにはナイスバディな姉ちゃんと……そういや、さっきの女船長もそそる身体してたなぁ……お仕置きとか言ってエロいことしてくんねぇかな……ぐへへ……」

「……あいつ、涎垂らしながら何か言ってるぞ姉ちゃん」

「っ……何故か鳥肌が……」



 女船長とヘルトに軽く引かれていたアリスだったが、視界に入った腕相撲大会に気付くと、



「お? な、何楽しそうなことしてんだお前ら! 俺も混ぜろよっ!」



 と、今までのことを忘れたように輪の中に入っていった。



「猫系の獣人の女ってあんなだったかなぁ……あれじゃ、まるで男みたいだよ」

「……貞操の危機を感じたわぁ」



 各々、個性豊かではあるが悪人ではないことは一目でわかる。直に男達とも打ち解けるだろう。



「……時間は有限、か」



 そんな男達から目を背けるように考え込むヘルト。

 しかし、女船長が責めることはない。それほどヘルトの表情が真剣だったから。



「獣人のアリスちゃん以外はエアクラフトが使える。異世界人の二人はちょっと危なそうだけど、今日新たに増えたエアクラフトがあるから数に問題はない……それじゃあ明日は飛行訓練をしましょうか」

「……姉ちゃん、まさか……オイラに指南しろとか言うんじゃないだろうな?」

「そのまさかよ。この中じゃ貴方が一番エアクラフトを操るのが上手いんだから」

「…………。はぁ、何でオイラがあんな奴等を……」

「ふふっ、諦めなさい」



 それはもう嫌そうな顔をするものの、断ろうとしないヘルトに女船長は微笑むのだった。



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