第123話 砂漠の海賊団
遅れました。
互いに見知らぬ顔があったので軽く自己紹介していると、俺の仮面と右目の話になった。
現在、俺は右目に包帯を巻き、その上から仮面を付けて少しだけ圧迫することでずれないように固定している。
端から見れば左目はやべぇ目付きなのに、右目は暗くて見えなくなっている状態だ。近くで見れば包帯だと気付くと思う。現にアリスがそうだった。
「へ~魔力で形変えられるのか、面白い仮面……ん? あれ、ユウちゃん……右目どうしたんだ?」
いや、厳密に言えば違うな。こいつはそこまで近付いてない筈なのに気付いた。
チート持ち云々もあるが素で身体能力の高い獣人族だからだろう。確か虎系獣人だったか。
時折、頭の上でピコピコ動く猫のものに似たアリスの耳を見ながらそう結論付ける。
人族至上主義のイクシアとは違い、シャムザは多種族を受け入れている。その為、以前ダンジョンの町ケイヴロックに居た時とは対照的にケモ耳を堂々と晒しているようだ。
虎なのに紫髪ってとこが実に異世界らしい。
「……ちょっとな」
言葉を濁しながらのアイコンタクト。
意味はここでは言えない。つまり表沙汰に出来ないことが原因でやられた、ということ。
「主様……」
「えっ! 失明してるの!?」
「そ、そんなっ……」
アカリとリュウ、ショウさんが衝撃を受けたような顔で固まる。
しかし、アリスは平然とした態度で訊いてきた。
「ふーん……マナミちゃんには?」
「会ったけど、断った。元々かなり頼ってたしな」
「どうやって……いや、二度と戻らないのにか?」
「既に後悔してるところだ。右方向が全部見えないから肩や足先をぶつけまくってる。片目だけでこの様たぁ笑えるだろう?」
「…………」
少しおちゃらけながら答えた俺に、アリスは無言になってしまった。
こいつはアホだが、バカじゃない。今の問答で最低限の情報は伝えた。詳細をここで話す必要もない。
「で、本題だ。俺はあの人のように……ジル様のように自由に生きると決めた。だからこれからは一人で生きる……つもりだった」
「……だった?」
お前達とはもうパーティは組まない。
言外にそう言われ、アリス達を除いた三人は一瞬落ち込むものの、最後の言葉でリュウが顔を上げた。
「この数ヶ月で思い知ったんだ。俺は……弱い。一人で何でも出来ると思っていても気付けば人の集まる場所や仲間を求めている。だから、そこで爆睡してる赤髪の女と一緒に――」
と、そこまで言った直後。
――ズドオォンッ!!
という重苦しい砲撃のような音が響き、俺の台詞はかき消された。
続けてギルドの受付の方が騒がしくなる。
「報告しろ! 何があった!」
『お、大……っ! 奴等っ、パヴォー……から流…………大筒を持って……った! 数はわか……!』
「被害は!」
『直……っ……うわあああっ!』
通信だろうか、片方の声はやけに音が荒く聞き取り辛い。
見ればギルド職員、もしくはギルドマスターらしき男が小さい正方形の箱のような魔道具を手に持ちながら「クソッ! どうなっているんだ!」と叫んでいる。
そして、その中でも砲撃音は止まない。
しかし、今気付いたが砲撃音は少し遠い。何処かでドンパチやってるのか?
他人事のように思っていると、アリスが凄い勢いで立ち上がった。
「おっ、とうとうおっ始めやがったな! ユウちゃんっ、悪いが話は後だ! お前も来い!」
「何の話だっ……て、おいっ、引っ張るなっ」
「ああっ、アリス様っ……!?」
「ぷ、プリム……夢、だべか? あ、アリス君が男の人に触れただよ!」
むんずと俺の腕を掴み、ぐいぐい引っ張るアリスに驚く俺とアリスハーレム。
しかし、アリスはその間にも指示を出しながら進んでいく。
「他は待機! リュウちゃんショウちゃんは二人を頼んだ!」
「「わ、わかったっ」」
「主様っ、私はっ……」
「あ、アリスっ、せめて説明しろっ、何なんだっ!」
以前もそうだったが、アリスの力はやはり強かった。
俺はアカリやレド達に声を掛けることすら出来ずにギルドから連れ出され……
「よいしょっと……」
「うおっ、てめっ、何しやがっ――」
「――行くぞ!」
「ちょっ、おぉいっ! 何か説明しやがれこのアホーッ!」
今度は軽々と俺を持ち上げ、近くの民家の屋根へジャンプし、ピョンピョンと屋根から屋根に跳ねていくアリスにフロンティアの外へと連行されてしまった。
「国宝級の魔道具の奪還依頼だと? だったら早くそう言え。後、いつまで持ち上げてんだっ、離せっ」
「はははっ、悪ぃ悪ぃ。ほいっ。……いや~、あの中だとお前くらいしか付いてこれそうになかったからさ~」
「ったく、態々逃げ辛いように胸当て掴みやがって……」
フロンティア南部にある荒地で、ぽいっと雑に投げられた俺は即座に体勢を整え、着地する。
「悪かったって」
「なら少しは反省しろっ」
華奢な身体付きの少女が八十キロを越える人間を軽く持ち上げてぶん投げ、そして、投げられた方はくるりと回転しながら危なげなく着地するという日本ではあり得ない光景を平然と作りつつ、何事もなかったかのように南方向を睨む。
遠目で細かくは見えないものの、驚くべきことに空中で停船している船のようなものがあった。
船体は茶色く、畳まれている黒帆が二つ、フィクションとかでよく見るように船体の前後が膨れ上がって船室になっているような形ではなく、後ろだけが膨らんでおり……船の腹から所々、魔粒子のような輝きが漏れているのがわかる。
あれが移動中にアリスが言っていた古代の異物の一つである小型の魔導戦艦とやらだろう。
「……凄いな。この辺は荒地なのに、あの戦艦付近からいきなり砂漠になってる……環境ってのはもう少しゆったり変わってくもんじゃないのか?」
正直、人の手で作れそうなものより、環境の急激な変化に驚いていたので、つい口に出してしまった。
そもそも砂漠の周りがどういう地形や環境になっているのか知らなかったってのもあるが、俺の中では荒地から砂漠になるにしてもある地点を境に突如砂漠になっているのではなく、少しずつ進んでいくのと並行して砂漠になっていくような、謂わばグラデーションのように緩やかに環境が変わっていくイメージだった。
しかし、蓋を開けてみればフロンティア周辺は荒地で戦艦が浮いている地点は既に砂漠だ。多分、十キロも離れていない。急にも程がある変化……実際、地球にある砂漠の周辺がどんな地形になってるのか少し気になるな。
「そこかよ。異世界なんだから何でもありだろ。んなことよか異世界に戦艦があることに驚こうぜ。周りで飛んでるのだって機械みたいに精密な造りの魔道具なんだし」
「それこそ異世界なんだから何でもありだろう。魔法があれば嫌でも魔力を応用した文明が発達する筈だ。後、あの形状じゃ戦艦っていうより、小型艇とか船な気がするぞ」
アリスが言っているのは魔導戦艦を囲うようにして飛翔している空飛ぶ魔道具とかいうアーティファクトと、それに乗っている奴等のことだ。
先程の砲撃音はやはり『砂漠の海賊団』なる砂賊達の攻撃だったらしく、エアクラフト隊はその対応に追われて結構な速度で飛び回っており、見辛い。とはいえ、パッと見で言えばスノーボードみたいな形状のものあれば、細い二等辺三角形で後部が開いている……何て言うんだ? 鋭角なV字? 型のものもあるし……あ、円盤型のもあるな。遠目だと典型的なUFOみたいだ。
どうもエアクラフトというのは種類が豊富らしい。
乗っている奴等は身なりや装備、動きからして冒険者のようだが……何より気になるのはやはりこちらも魔粒子らしき光が放出されていることだ。
あれは……
「……お? やっぱ気付くか」
「当たり前だ。あれに似たようなのを最近見かけた」
「そうそうユウちゃんの使う技にそっくり……って……え?」
思わぬ返答だったのか、ニヤニヤしていたアリスはキョトンとした顔でこちらを見た。
「聖軍の奴等があれより使い勝手の良さそうな……あ、そう言えば俺も持ってるな」
「は? ……えっ? ちょっ……マジで? エアクラフトってああ見えてめちゃくちゃ希少なんだぞ?」
「エアクラフトが乗り物という意味なら絶対に違う。確かマジックバッグに入れて……あったあった。これだ」
「……確かにこいつぁエアクラフトじゃあねぇな、間違いねぇ」
感心したように、あるいは本当に驚いたように格好付けて口笛を吹くアリスに見せたのは例の魔粒子装備だ。
聖騎士ノアやレーセン、その仲間の上級騎士、更にはミサキまでもが身に付けていた謎の魔道具。
全員装着している部位に違いはあったが、共通点は多い。
どうやら魔粒子を噴き出す三角錐の部分はスラスター的な役割を果たすものらしく、基本的な形状としてスラスターの尖っている方に頑丈なリングが隣接している点。
そのリングを腕、太股、踵、背中の部位に装着して魔力を通せば自動的に魔粒子に変換されてスラスターから放出する仕組みであり、魔力さえあれば誰でも使えるという点。
最後に、リングは元々腕や脚にギリギリ通せる程度の大きさだが、首や背中に無理やり装着しようとすればゴムのように伸びて背中や腰にも装着可能な点だ。
四肢に背中、踵と装備を一式持っていたミサキから強奪したものなので、同じような使い方も出来るし、何より単純な戦力強化に繋がる。
「伸びるのか。何かサ◯ヤ人の戦闘服みたいだな。あのほら、鎧みたいなやつ」
「……確かに」
少し話が逸れるがミサキを拷問して得た情報の殆どはこの魔粒子装備と言っても過言ではない。
聖騎士ノアやレーセンは武器や防具以外、スキルもステータスもほぼほぼ不明で、聖騎士ノアの足止めすらまともに出来なかったライのことくらいしかミサキは知らなかった。
後は下級騎士の平均的な強さや性格、使える魔法とかか。今思うと持っている情報が少なすぎてあいつに拷問した意味殆どなかったな。ないよりはマシだったくらいかもしれない。
まあ良い。あの時はぶっつけ本番で装備したところで使いこなせると思わなかったから使わなかった。
仮に、この装備について熟知していたのなら使っていた可能性はある。が、使い方を間違えれば致命的な隙を生むとわかっている装備を使おうとは思わない。
逆に言えば今なら丁度良い練習になる。
見る限り、大砲か何かで迎撃されている冒険者達は必死こいて避けてるだけで被害はないし、元々魔粒子の操作ならよく知っている。一歩間違えれば死ぬ状況とよっぽどのことがないと死なない状況。使わない手はないんじゃなかろうか。
アリスによると冒険者が使っているのはギルドから支給されたエアクラフトだからな。俺のも何処からか借りたものだと言えばどうとでもなる。ミサキ曰くパヴォール帝国から流れてきたものらしいし、最悪、拾ったとかでも良いかもしれない。その辺はアリスに相談してからだな。
「で、何なんだこれ。使い方は?」
「一応、わかる。使えるとも思う。多分、きっと、恐らくな」
「……すんげぇ不安な返し」
ジト目で見てくるアリスを無視して四肢と背中にリングを通し、簡単な動作確認をする。
背中から魔粒子出すんじゃなくて、魔力を送るだけ、送るだけ……こう、かな?
「うおっ!?」
「ぶふっ、な、何やってんだお前」
……吹くほど笑えたか今の。
わかってはいたが、軽く使ってみた感じ、結構な威力だ。一瞬だけ背中から出た魔粒子ジェットに転びかけた。
めちゃくちゃビビって、変なポーズで踏ん張ったのが間抜けだったのかもしれない。つい両手を突き出してしまった。
ただの推進力として使うんなら太股の裏と背中、二の腕に付けるのが良いっぽいな。……良し、防具の隙間に上手く嵌められた。踵は……バランス崩しそうだから止めとくか。慣れたらミサキが見せたような瞬発的な蹴りに使えそうだけど、やっぱり初っぱなから使えるとは思えない。
「こんなもんかな」
「防具が黒銀で、その装備が銀か……似合わねぇな」
「見た目なんかどうでも良い。それより、お前はどうするんだ? もしこれ使えなくてもお前を持って飛ぶくらいなら出来るぞ」
「……マジで?」
「お前が俺を肩車した状態で思いっきりジャンプしてくれればな。後はお前の手ぇ掴めば飛べる」
もしくはこの装備から出る魔粒子の方向的にお姫様抱っことかでも飛べるかもしれないな。戦闘機みたいに推進力で。
「おー、やっぱ優秀だなユウちゃん。んじゃ頼むわ」
「了解。つっても、もう少し距離を詰めてからだがな。瞬発的な放出はかなり抑えられたが持続的に使う場合の魔力消費量がどの程度のものなのかわからん」
「おっけ。どっち道、最初から飛んでって流れ弾に当たっても嫌だしな」
こうして近付く距離を決めた俺達は早速走り出した。
◇ ◇ ◇
「なー姉ちゃん。本当にこん中に姉ちゃんの待ち人が居るのかい? オイラにはそんなすげぇ奴が居るようには見えないぞ?」
「船長とお呼び。……なぁに? 私の目が信じられないの?」
「や、そういうことじゃないけどさー……」
砲撃音の鳴り響く戦場……船上、甲板にて。
手すりを掴み、気怠げに褐色の肌を持つ身体の力を弛緩させている真っ赤な髪の青年の隣で、ゆるふわウェーブの金髪を弄っていた妙齢の女性は赤い眼帯を覗かせながら答えた。
「飛んでるのは間違いないわよぉ。なぁんかエアクラフトっぽくないけど」
「それだよ姉ちゃん。そいつは飛んでくるんだろ? けど、エアクラフトじゃない。それがわからないんだよなー。エアクラフト以外で飛べるアーティファクトなんかこの船みたいなのしか無くない?」
「個人的にはパヴォールの馬鹿共が横流ししてるアレじゃないかと思うんだけど……未来を見通せるのに速すぎて目で追えないから見えないっていうのも変な話よねぇ」
会話の最中、時折近くで激しい砂柱が立ち、視界が悪くなることがあった。
が、不思議と船や会話をしている二人に砂埃が掛かることはない。まるで船の周囲に見えない壁でもあるようだ。
とはいえ、空の上からの絶景、あるいは待ち人とやらが見えなくなるのが嫌なのか、眼帯を付けた女性は少し怒った様子で声を上げた。
「ちょっとぉ? 出来るだけ空砲にしなさいって言ったでしょう。下を狙うのは良いけど、さっきから撃ち過ぎよぉ」
「そうだそうだー、弾だって数が限られてんだぞー?」
見れば二人の他に屈強な男達が動き回っている。決して忙しい様子ではないが、どう見ても暇ではない。人によっては汗水を滴しながら走っているくらいだ。
なので、軽く窘める程度の女性に対しては「すまねぇ姉御!」、「次から気を付けやす!」等と揃って明るく謝るものの、付け足すような形で続く赤髪の青年に対しては「んだぁテメェぶち殺すぞっ!?」、「お前も見てないで仕事しろクソガキッ!」とかなり辛辣な言葉を返していた。
どうやら彼は本来、男達と同じ立場らしい。
「うへぇ、皆怖いなぁ。そんなに怒ってるとストレスで禿げ……あ、半分くらい禿げてるわ。あはははっ、こいつぁ失敬!」
「誰が眩しくて見えねぇだとぉ!?」
「おおっ、確かにキラキラ光って眩しい……って喧嘩売ってんのかこの野郎!」
「だから態々ターバン巻いてんだろうが!」
「ああ眩しいっ! 見ないでっ、ついでにこっちに来ないでくれ! オイラの目が潰れちゃう!」
「「「見てもねぇし、そっち行ってねぇだろっ!」」」
存外、それほど怒ってないんじゃないかと思う反応をする者も居れば、
「……マジで半分くらい禿げてるな。ハゲ率高過ぎだろ……」
「そう言うお前もハゲじゃねぇか」
「お前だってハゲだろ。ターバンで隠してるだけでよ」
「ははっ、お前と一緒にすんじゃねぇよこの皿頭が」
「は? ツルッツルなお前よりはマシだから。こっち来んな、ハゲが移る」
「ははは」
「へへっ……」
「「このハゲっ何を偉そうに!」」
と、知らないところで喧嘩を始める者も居た。
「はぁ……こら野郎共ぉ、動きが止まってるわよぉっ、口より先に手と足を動かしなさぁいっ」
「「「うっす! すまねぇ姉御!!」」」
「だから、船長とお呼びぃ」
「「「アイアイ姉御!」」」
「……もう良いわぁ」
大きな溜め息をついた後、パンパンと手を叩いた女船長は男達の殴り合いやら罵り合いを止めた。
極自然に行われたそれらの流れは彼等の日常の一つらしく、それまで殴り合っていた男達ですら「おら仕事だ仕事ぉ!」、「突っ立ってねぇで弾ぁ持ってこいや!」と、元気良く叫んでいる。
「ったく仲が良いんだか悪いんだか……やー、あいつらの相手は大変だなぁ。姉ちゃんもよくやるよ」
「あらぁ、毎度毎度、誰のせいなのかしらぁ? 貴方も皆の仲間に入りたいとしか思えないんだけどぉ……」
「っ!? お、オイラもそろそろ仕事しないとな! あれぇっ、オイラのエアクラフト何処だっけなーっ」
ゴゴゴゴ……そんな幻聴でも聞こえたのか、微笑んではいるが目が全く笑っていない女船長から顔を反らした青年はそそくさと逃げ出した。
そんな後ろ姿を見た女船長は再び溜め息をつこうとし……首を傾げる。
「……あら? ん、う~ん……? 何かデジャヴ……今の光景、前に見たような……普通の人と違って本当に見たかもしれないのが怖いわぁ……はぁ……下手に未来が見えるのってやっぱり考えものよねぇ……」
結局、思い出せなかった女船長は悩ましげに何度目かの溜め息をついた。
直後。
「うわあああああああっ!?」
「うおおおおおおっ!?」
どこからか、少女と若い男の悲鳴が聞こえてきた。
「ん? ……あ、待って、これもデジャヴ……でも確か声は二人とも男だった……筈……っ、総員砲撃止めぇっ! 私の待ち人よぉっ!」
赤髪の青年のように幻聴が聞こえたとでも思ったのか、女船長は両耳を軽く解している途中でハッとし、叫ぶ。
そして、その声にそれまで甲板や船室で動いていた船員の全員がピタリと止まり、数秒後には我先にと走り出した。
「何だと!? ついにか!」
「どんな奴なんだ!?」
「どけっ、姉御が数ヶ月待ち続けた男だぞ! それはもうナイスミドルな俺様みたいな……」
「いいやっ、きっと俺みてぇな砂漠が似合う男でさぁ!」
「有名な冒険者とか騎士じゃないかっ? 確か姉御の話だとめちゃくちゃ強いんだろ!?」
「そ、そうだなっ、そうに違ぇねぇ! 最近、召喚されたとかいう勇者様とか!」
「お、おいっ、押すなって!」
その中には自分のエアクラフトに乗り、飛び立とうとしていた赤髪の青年の姿もある。
こちらは男達とは違い、歓迎はしていないが仕方ない……とでも言いたげな、何とも複雑な表情で甲板に向かっていた。
「ユウちゃあああああんっ! どこに向かってっ……に゛ゃっ!? テメっ、変なとこ掴むなっ、離せ馬鹿っ、野郎に触られる趣味はっ……にゃあああああああっ!?」
「おおおおおっ、思った以上に飛ぶなあああああっ!?」
「絶対離すなよこのヘタクソ! これは死ぬっ! 死ぬって! 高すぎる! てかさっき飛べるって言ったじゃんかああああっ!」
「離せっつったり、離すなっつったり忙しいなてめええぇっ!」
「離すなよ!? 絶対離すなよぉっ!? 振りじゃないぞっ! 振りじゃないからなこの馬鹿あああああっ!?」
「こここここんなに制御が効かないとはおお思わなかったんだよおおおっ!」
女船長に続き、男達、更には青年と甲板から身を乗り出し、声の聞こえる方へと目を向ける。
しかし、見えるのは紫色の輝き……否、その残留とエアクラフトに乗り、砲撃で大混乱に陥っている冒険者達のみ。
女船長と青年だけが瞬時に上だと判断して晴天広がる上空を見上げ、男達も次々にそれに倣う。
そこには……
「離っ、はなはなっ、離して良いかっ!? そろそろ俺の手が限界を迎えてるんだがぁっ!?」
「離すなっつってんだろ! 死ぬわ! 殺す気か!?」
「いやお前猫科だろ!?」
「猫じゃねぇし虎だし人だしっ、猫でも死ぬだろこの高度じゃっ!」
「も、もう無理っ、俺のこの手に激痛が走ってるぅっ!」
「だから離すなとっ」
「それも無理だと轟き叫んでんだろうがクソがああああっ!」
「うぎゃあっ、こいつマジで離しやがった! 信じらんねぇっ!」
下から真上へ真っ直ぐ、あるいは急転直下し、ぐるぐる回りながら真横へ、あっちへぐるぐる、こっちへビュンビュンと凄まじい速度で飛ぶシキとアリス……女船長達からすれば魔物の仮面を付けた不審者と涙目でその不審者に抱き付く虎系獣人の少女が居た。
確かに目で追うには速すぎてエアクラフトではないことがわかるかわからないかの瀬戸際だ。
だが、それよりも思うことが一つ。
「「「「「いや誰だあいつらっ!!」」」」」
思わず口を揃える男達。
更には、
「おおおおっ、ほら砂賊だアリスっ! 下りろっ、離せっ、このままじゃ俺も落ちるっ!」
「お前が手ぇ離してんのに俺まで離せるかっ! 死ぬっ、絶対死ぬっ、間違いなく死ぬっ! 母ちゃんっ、助けてぇっ!」
「行けるって! お前ならあの船に着地出来るっ! 自分を信じろ! お前を信じるっ、お前を信じろっ!」
「鬼かッ!! ……あ、鬼だこいつ!」
「うるせぇっ、俺はまだ死にたくねぇっ、早く落ちろ!」
「人を重荷みてぇに言うんじゃねぇ!」
「重荷なんだよ実際っ、だから早くっ……落ちろよおおおおっ!」
等と、醜く仲違いを始める二人。
加えて、女船長の口から信じられないことが告げられ……叫ばれた。
この数ヶ月、フロンティア周辺でその時が来るのをずっと待っていた女船長とその仲間達、『砂漠の海賊団』。
必ず当たる筈の女船長の予知が外れに外れ、とうとう食糧難に陥り始めたので女船長の指示によって町に出始めて早一週間が経ち、今日に至っては様々な危険を省みず、態々船の姿を晒している。
にも関わらず、普段は悠々綽々と構えている女船長の反応はこうだった。
「だ、誰よあの二人っ!?」
カッと目を見開き、大口を開けての迫真の叫び。
「「「「「えええええええっ!?!?」」」」」
「「うおっ、ビックリしたっ! いきなり何だこいつらっ!?」」
男達に混じって赤髪の青年も、ついでにシキやアリスまで驚くのも無理はなかった。
ワンチャン、月曜の0時更新なら毎週イケるんじゃないかと思い始めた今日この頃。




