第122話 フロンティアにて
「よし、じゃあ出発だ」
「うむ」
「はいっす!」
「うん……」
アニータやムクロとの一悶着があった翌日。
俺達は世話になった村を出た。
全員が気まずさを感じているものの、留まっていても仕方ない。
俺とムクロもそうだが、レドやアニータは食い扶持を見つけないとな。
「それにしてもフロンティアっすか……聞いたことないっすねー」
「シャムザの最北端の町だ。あの町を拠点にしていたら……聞くこともないだろう」
「シキ、おんぶ」
「……ムクロさんや、まだ歩き始めて一分も経ってないんだが?」
「やー、おんぶぅっ」
「おぎゃるな。わかったよ……ったく」
「やったっ、えへへ……」
言い方ミスったなぁとか思った直後にこれである。
仕方なく幼児化して両手を広げているムクロを背負い、歩を進める。
「ねえ、シキさんとムクロさんって付き合ってるの?」
「「いいや? ……おい、即答かよ」」
「…………」
「いや何故落ち込む」
「……そ、そうなんだ。この前、二人とも部屋で裸だったから私てっきり……」
「えっ!?」
昨日は揃って泣いたからか、全員が少しスッキリした顔付きだ。
そういうこともあり、暇なのも相まって変な話になってしまった。
「何もなかった、だろ? ムクロ?」
「……知らない」
「嘘付け、俺に記憶はないんだぞ、何かしらあったろ」
「えっと……なかったのか、あったのか、どっちなの?」
「ない」
「あった」
「「…………」」
「変な人達……」
「…………」
ジト目のレド&アニータを無視し、背中に抱き付いているムクロを睨む。
ムクロもムクロで何故かむくれた表情でこちらを睨んでいた。
「ばか」
何でだよ、理不尽だろ。
小声で抗議してきたので内心で返す。
こういう時に反論してもろくな目に遭わないからな、無視に限る。
「……あ、フロンティアって確かシキさんの知り合いが居るんすよね? どういう人なんすか?」
レドにはムクロとアニータが寝た後、色々話しておいた。
フロンティアで再会を約束した友人が居ること、そいつに頼れば冒険者業も続けられるかもしれないこと、もしかしたらアニータの仕事も何とかなるかもしれないこととかな。
まあ俺と同じ日本人……というか厳密には元日本人の転生者であることは流石に伏せたが。
あいつ、元気にしてるかな。
「あぁ、確かAだかSランクの冒険者で……いっ!? てぇっな! ムクロ! 何しやがる!」
「おいきひゃま……ぷはっ……今、別の女のことを考えたろ」
「めちゃくちゃいてぇ……それに何の問題があんだよ!」
「……血ぃ吸ってやる」
「何でだ!?」
「じゅずずずずっ! ごくっ、ごくっ……ずびびびっ……!」
「うおっ、てめっ、殺す気か!」
何故かいきなり首に噛みついて血を吸ってきたムクロに怒鳴り付けるが、ムクロは気にせず血を啜るだけで返事がない。
「……何やってんすか?」
覆い被さってるからか、ムクロの行為は見えていないらしく、再びジト目で見てくるレド。
「あむあむあむ……んちゅ~……!」
「いや、いちゃついてるとかじゃないぞ」
「じゅるるるるっ!」
「…………」
「……違うからな」
「んくっ、んっく……ごくん……」
「いつまでやってんだテメェ! ちったぁ周り見ろこのボケがっ!」
「ぐえっ、いったぁっ!?」
レドだけでなく、徐々にアニータからの視線も白け始めたので近くの木に体当たりして黙らせた。
「うぅっ……背中がめちゃくちゃzzz」
「「寝た!?」」
「いってぇぇ……で、何だっけ? あぁ、あいつの話だ。兎に角、高ランクの冒険者で今の俺と同じかそれより強い。悪い奴じゃないから仕事の紹介くらいはしてくれると思う」
「ねぇレド君、シキさんキャラ変わってない……? 私の知るシキさんと……あー……いや、確かにこういうノリの時もあったけどさ」
「いやいやいやっ、先ずはムクロさんじゃないっすかっ? 寝たしっ。しかもシキさんもシキさんで無視っ。おかしいっすよっ」
訊いておいてこれみよがしにヒソヒソするのはどうかと思う。丸聞こえだぞ。
「元々あの人はちょっと変なんだよ、前、うちの宿屋で見た時だって……」
「ええっ、マジっすかっ? うっわぁ……」
同い年ということもあり、二人は仲が良い。互いに同じ境遇であることもその理由の一つかもしれない。
……この様子なら大丈夫そうだな。
昨日こそ殺してほしいとナイフを刺してきたアニータだが、今日はそんな素振りを見せていない。
ムクロに殺されかけたことや投げ掛けられた言葉が効いてるんだろう。……たまにムクロを見てビクッとしてるのはトラウマになってるとかじゃないと思いたい。
「あれから半年くらいか……俺が強くなっているように、あいつも強くなってんだろうなぁ……」
静かにそう独りごちる。
ケイヴロックというダンジョンの街で出会った、転生者であるアリスの目的は世界最強の実力を手に入れることとハーレムの結成だった。これといった目的もなく、強さを求める理由すら曖昧な俺とは土台や思想からして違う。
魔族になったり、聖騎士をぶっ殺したり……色んな経験をしたけど、俺にそこまでの成長はない。多分殺気の出し方や強さ以外は完全に敵わなくなってるんだろうな。
「んっ……すぅ……すぅ……」
「……感知スキル持ちが寝てるってどうなんだよ」
「うひ」
「笑い事じゃねぇっての」
寝ているムクロに突っ込みながらさっきの村で聞いたことを脳内にまとめる。
あの村はイクシアの最南端の国境を越えた少し先、イクシアとシャムザに挟まれる形で横に広がる国の最北端に位置している。
村人曰く、王都はイクシアの東に存在するパヴォール帝国寄りにあり、南下するだけなら町もない。国境にも特に規制や関所はないらしいからこのまま南下していけば三日から四日でフロンティアに辿り着ける。
勿論、魔物やら休憩やら日没後のことを考えればもう少し遅れるだろう。
レドは兎も角、アニータの体力のこともある。幸い、食料は多少買えたし、最悪マジックバッグに日本食や万が一の為の携帯食(日本製)のものもある。聖軍が来ればムクロが感知するし……もう少しゆっくり進んでも良いかもしれないな。
◇ ◇ ◇
一週間後。
「ぶえっくしょんっ!!」
砂漠の国シャムザの最北端の町、フロンティアの冒険者ギルドにて、可憐な少女から出たとは想像出来ないほど盛大で男らしいくしゃみが響き渡った。
「アリス様、風邪……ですか?」
「んー……んにゃ、誰かが俺様の噂でもしてんじゃね?」
「んだんだっ、アリス君はこの町で一番の冒険者様だぁ。そうにちげぇねぇ」
設置されている椅子に深く座り込み、目の前の机には脚を伸ばしている紫色の髪の少女が横にちょんと座っている小柄な少女に対して、自身の鼻を指で擦りながら答えた。
その後ろで自身の身体の二倍はあるであろう大きな荷物を背負ったまま佇み、カラカラ笑っているのは更に小柄な少女……否、幼女である。
「あ、あの……アリスさん? 依頼の件は……」
「あん? あぁ、盗賊の捕縛、あるいは討伐、だったか?」
「はいっ。……あっ、いえっ、普通の盗賊ではなく『砂漠の海賊団』を名乗る砂賊です。彼等は掘り出された古代の遺物……アーティファクトを多数所持しており、非常に危険な集団とされています。なので、厳密に言えば彼等の身柄の拘束ではなくアーティファクトの奪還が主目的となります」
三人の少女と相対しているのは冒険者ギルドの受付嬢の一人であり、隣の少女の青いロングヘアーを弄ってニヤニヤしているアリスに冷や汗をかきながら説明している。
「うぅ……アリス様ぁ、くすぐったいです……」
「良いだろプリム。綺麗でサラサラしてて……お前の髪はつい触りたくなるんだよ」
「むむむっ! それは聞き捨てならないだ! あたすの髪もサラサラして気持ち良いだよ!」
「おお、勿論ゾルベラのも良いぞ」
「んっ……」
「ふにゅっ……んふふ」
片や微妙に嬉しそうに、片や自分から茶色いツインテールを差し出した少女と幼女は頭を撫でられると力が抜けたようにアリスにもたれ掛かった。
「全く可愛いなぁお前らは……」
「……えっと」
「おっと、すまんすまん。で、アーティファクトだっけ?」
「そ、そうです。最近はこの前発掘された小型の魔導戦艦を奪取し、乗船しているらしいので見つけられたところで……という話ではあるのですが……」
「……ほう。魔導戦艦っつったらあれだよな? 王都の方でたまに飛んでる」
「はい」
「ん~……? あれ結構な高度じゃね?」
「……一応、あの艦よりはかなり小さいらしいですね」
「いや、だからどうしろと」
「やり方は任せる、とのことです」
上からの指示とはいえ、こんな依頼を指名して出さなければならないという事実に嫌そうな顔をしながらも受付嬢は何とか言い切り、二人の少女に頬を緩ませていたアリスは「うへぇ……」と面倒臭そうな顔で返す。
「やり方ねぇ……どうせエアクラフトの使用許可は下りてねぇんだろ?」
「下りてません」
「……ま、下りてたところで俺は飛べねぇけどさ」
アリスはそう言いながら受付の奥をちらりと見て溜め息をつくと、徐に立ち上がった。
両手には体重を預けてきていた二人の少女をしっかりと掴んでおり、軽々と持ち上げている。
「オーライだ。依頼内容はわかった。要はそいつらの船が降りているところを奇襲しろってことだろ」
「許可が下りないということは恐らく……」
「んじゃ、行くよ。熱い夜が待ってるんでな。……お姉さんも付き合うかい?」
「へ? い、いえっ、私はっ……」
「「アリス様(君)!」
「いへへへっ! ははっ、モテる女は辛いぜ」
「あはは……」
真面目な顔で冗談とも本気とも取れないことを宣言した挙げ句、ナンパまでしたアリスの頬を両側から引っ張って叱る二人の少女に、全く意に介していないアリス。
受付嬢は毎度行われるじゃれあいに乾いた笑みを返し、周囲からも微妙な空気が流れた。
貴族や王族を除き、平民で唯一ハーレムを作っている者が多い冒険者ギルドでも同性ハーレムというのは中々に複雑なものがあるらしい。
特にその主が近年稀に見る女好きだと余計に。
「機嫌直してくれよ二人共ぉ、今度好きなもん買ってやっからさ~」
「ほ、本当だか!?」
「……物で釣ろうとしないでください。ゾルベラさんも……」
「う~ん、何買ってもらうか悩むだよ!」
「はぁ……もう良いです。それより、この後は皆さんと会う約束してませんでした?」
「おう。だから熱いんだぜ?」
「えっ」
「おお! じゃあまたあれっ、あれやりたいだ!」
「うんうん、人数が多い方が燃えるからな~」
「えっ……」
三人はいちゃつきながら受付嬢に手を振り、ギルドを後にした。
直後。
「何!? 魔導戦艦らしき反応を感知しただと!」
というギルド職員の声が外まで響いてきた。
思わず三人で目を見合わせ、溜め息を一つ。
ついでに中では受付嬢も溜め息をしている。
「何て言うか……まあ、うん、良い……タイミング?」
「……良くないです」
「あー、アリス君、あたす達は何すれば良いだ?」
微妙な表情をしている者が自分を含め二人、指示を待っている者が一人。
もう一度溜め息をついたアリスは「俺はギルドに細かく聞いとくから、プリムとゾルベラは状況の確認頼むよ。多分、被害とかはまだないと思うけど、一応な」と二人に声を掛け、ギルドの中に戻っていった。
数十分後。
アリスはフロンティアの外部に近い民家の屋根の上で、とある方向を見つめていた。
「誘ってる……んだよなあれ……」
視線の先は町から遠く離れた位置で堂々と錨を下ろし、空中で停船している魔導戦艦であり、先程から頻繁に馬車(と言っても引いているのは小型の恐竜のような魔物だが)の出入りがある。
魔導戦艦から出た馬車は真っ直ぐこちらへ、町中で食料やら水やらを大量に積んだ馬車は真っ直ぐあちらへ、どう考えても先程聞いた『砂漠の海賊団』なる者達が出入りしている。
アリスが悩んでいたのは砂賊の動き方だ。
「普通に金か対価払ってやがる……だから町は何もしないのか? 他の町とか王都じゃ多少の被害はあるらしいけど、今のところフロンティアには被害ないしな……」
屋根から見る限り、町では砂賊らしからぬ正当な売買が行われており、人喰いワームや砂の中を海のように泳ぐ鮫の魔物等、予め綺麗に解体された状態のものを売り、金額に見合わぬ量の物資を買っている。
それらの素材は冒険者ギルドに売ればかなりの金になるのに対し、買っていく物資は町であればどこでも手に入るものだ。当然、町の者もホクホク顔である。
「んー……先ずは様子見か~……?」
かといって国から要請……基、依頼されている冒険者ギルドも手を出さない訳にはいかない。現状、ギルドの動きを見る限り、取り敢えず正当な取引をしている内は様子見といった動きをしている。
下手に手を出して町から反感を買うのは得策ではないと考えたのだろう。
「……でもアリス様、いつまでも放っておいたら逃げられるのでは?」
「それもそうなんだよなー」
双眼鏡を片手に苦言を漏らすのはアリスのハーレムメンバーの一人、プリムだ。
相手は砂賊だが、ただの砂賊ではない。魔力さえあれば半永久的に空を飛べると言われている魔導戦艦を持っている砂賊なのだ。このまま物資を補給されるだけというのも好ましい状況とは言えない。
「けどまあ、ギルドもそんくらいわかってるんじゃね? ほら、俺達には貸さねぇっつってたエアクラフトがあんなに飛んでる。少し泳がせたところで一気に襲撃すんだろ」
そう言って指を差す先にはボードやソリ、羽を広げていない蝉のような形状の板に乗り、様々な色の魔粒子を噴き出しながら飛んでいく冒険者の姿があった。
発掘されるアーティファクトの中でも数が多く、多種多様な形状もあって異色を放っている空飛ぶ魔道具。魔導戦艦のように人や物を乗せて飛ぶ乗り物のことを総じてそう呼んでいるらしい。
「所属や生まれで差別されるのはやはり複雑です……どうするんですか?」
「あそこまで派手に囲おうとしてる奴等が居るんだ。下から行く奴にはそんなに警戒しないと思うぜ」
「だと良いのですが……」
「何だかやけに突っ掛かるなぁ」
「……知りません」
「さてはさっき意地悪したからだな?」
「……」
むくれているプリムに「ゴメンってばっ」とニヤニヤしながら謝るアリスだったが、ふと頭の虎耳がピンっと立った。
そして、スイッチを切り替えるようにして真剣な表情へ一変させると懐から黒い正方形の箱のようなものを取り出し、素早く耳に当てる。
『アリス様、アリス様、聞こえますか?』
「おー、聞こえるぜアカリちゃん。どした?」
『主様がフロンティアに入りました。出来れば一緒に接触したいのですが……』
「……そっか。わかった。まだ砂賊やギルドの動きはないし、聞いていた通りの状況ならあいつも冒険者になってる。ギルドで落ち合おうか」
『了解です』
携帯電話のようなものであろう魔道具を耳に当てたり、口元に近付けて話していたアリスはプリムに一声掛けてからお姫様抱っこをすると、屋根から飛び降りた。
◇ ◇ ◇
……やっぱりか。
フロンティアに辿り着いて早々冒険者ギルドへ足を運んだ俺達を出迎えたのは予想通りの面々だった。
「よおユウちゃんっ……て、何だその仮面? 後ろのは……お仲間? それにしちゃ随分若いけど」
アリスは再会の約束もあったから当然だとして、知らない女の子が二人。こいつにはハーレム願望があったからその内の二人だろう。こちらも予想は出来た。
問題はその横で気まずげに声を掛けてきた奴等だ。
いや、一人は……
「主様っ! お怪我はありませんか!? その仮面は……もしや顔にお怪我を……!?」
「っ……」
そう言いながら感無量といった様子で抱き付いてきたので、咄嗟にムクロの太ももを掴んでいた片方の手を離し、受け止める。
俺の胸にしがみつき、至近距離で震えているのは黒い長髪、そこから覗かせるは可愛さと凛々しさが混同した美しい日本人の顔、そして、この世界に来てからもあまり見かけない、珍しい金色の瞳。
そこは変わってない。
しかし、貴族の道楽だか何だかで拷問されたことにより、あの忌々しい聖騎士ノアのように無表情を張り付けていた彼女が〝普通〟の女の子のように泣き、俺との再会を喜んでいる。
「変わったな……アカリ。それと、久しぶり」
「主様っ、私は……私はあの時、主様の力になれずっ……!」
「……良いんだ。あんな状況じゃ仕方ないさ。俺はもうお前らを恨んでないよ」
俺の言葉にアカリは勿論、その後ろで俯いていたリュウとショウさんも漸く顔を上げてくれた。
「主様ぁっ……!」
「ぼ、僕っ……」
「ユウ、俺が――」
「――ちょいちょいちょい。こんなとこで話すつもりか? 近くに酒場があるんだ、そこで話そうぜ?」
多分謝ろうとしていた三人を苦笑しながら止めたアリスの言葉に、俺達は頷き、各々移動して席につく。レドとアニータは何が起きているのかわかってないが、簡単に「友人だ」とだけ言っておき、未だに眠っているムクロを預けると、改めて謝罪大会が始まった。
「ごめんユウ……ぼ、僕も僕なりに頑張ったんだけど……」
「君が一番困ってる時に助けられなくて悪かったね……俺の為に色々してくれたのに……」
リュウには可能性くらいはあったが、職業のせいでどうしようもなく、ショウさんはそもそも最前線に居なかった。
にも関わらず、二人は謝る。悪いのは俺の方なのに。
「……良いっつったろ。あの状況じゃ仕方なかった。俺が何より許せなかったのはあいつの……ライの反応だ。お前らは悪くない。なのに、俺はお前らを……」
恨んでしまった。
何で助けてくれなかったんだと、生きたまま喰われ、終わりの見えない地獄から逃れられなかったことに……あの拷問から解放してもらえなかったと腹を立てて。
「ですが、我々が主様を救えなかったことに変わりはありません。本当に……本当に申し訳ありませんでしたっ」
アカリは聖騎士ノア同様、世界的に見てもあり得ない並行職だ。当然、ステータスは高く、装備も十分なものだった。
しかし、アカリはあくまでこの世界の人間。俺達のように純粋な日本人じゃないからステータス補正がなく、この世界基準で高い程度のステータスでしかない。
だからオークの大群に群がられていた奴を助けることなんて……ましてやマナミの【起死回生】の効果は俺だけでなく、オーク達にも反映されていた。
一トンを越える不死身の巨体の群れなんかどうしようもないというもの。
「……アカリが居たんならわかるだろ。俺はお前らがここに居るのを知っていて来たんだ。どんなに謝られても俺には恨んでないとしか返せない」
アカリは俺の奴隷として、奴隷紋という魔力的な契約で俺と繋がっており、感覚でお互いの位置を把握出来る。
アカリの側にリュウ達が居ることは容易に想像がついた。それでもフロンティアに来たのは俺が謝りたかったのとレド達の為だ。
「俺の方こそ悪かった。あの後、俺はジル様と別れて……一人になりたかったんだ。だからお前らが俺を避けるようにして迂回してたのも知ってたし、接触しなかった」
「僕達も……アカリが生きてるって言ってたから、それならその内、アリスに会いに来るかと思って先に来てたんだ」
「そう、か。……まあ何はともあれ、お前らも元気そうで良かった。あぁ、アリスもな。約束通り、まだフロンティアに居てくれたんだな。ありがとう」
「へへっ、何言ってんだ、ダチなんだから当たり前だろ!」
互いに謝罪が終えたので、仕事の斡旋願いも兼ねてニカッと笑うアリスへと話を振った。
「……そうだ。色々あって今はあの三人と一緒に居てな……一人は冒険者、一人は普通の女の子なんだが、仕事を探してるんだ。何かないか? 冒険者は兎も角、女の子だと特に思い付かなくてな。聞いてみたら職業も冒険者には向いてなかったし……」
レドとアニータがピクンと反応した。
話の流れでアリスが俺の友人だとわかっている筈だからな。嫌でも気になるか。
「ほう、仕事ねぇ……う~ん、まあ何とかならなくもねぇと思うぜ? 俺達が泊まってる宿屋の女将が『従業員が足りないけど、今一信用出来なくて雇えないんだよねぇ……どっかに可愛くて信用出来る女の子は居ないかねぇ?』って言ってたぞ」
……それはお前かお前のハーレムに言ってたのでは?
「……腕っぷしが強いともっと良いんだけどねぇとも言ってましたよ」
「後、アリス君とわたすのこと、ずっと見てただ」
ほら、やっぱり。
青い長髪の……神官みたいな服を着たアニータくらいの女の子と俺の身長を越えるほど大きな荷物を軽々と背負っている十歳くらいの茶髪ポニテの幼女の言葉に思わずジト目になる俺。
「……あっ、あれ俺らに言ってたのか」
「逆に気付かなかったんですか……?」
「しししっ、流石、アリス君だぁ」
何か女将が「冒険者なんかやってないでうちで働けよ」と遠回しに勧誘している光景が目に浮かぶな。
「ま、まあユウちゃんの連れなら上手く取り成しとくよ。多分、大丈夫だと思う」
「おおっ、良かったっすね! アニータちゃん!」
「う、うん……まさかこんなに早く仕事が見つかるなんて……え、えっと……アリス……さん? シキさん、ありがとう」
「おうっ、良いってこと…………うん? シキ? シキって誰だ?」
あ……やべっ、めっちゃ嫌なこと忘れてた。
俺、偽名使ってたじゃねぇか。人族として死に、魔族として鬼になったからシキだとか……うわぁ……それを友人に説明しろと? ……軽く死にたくなるな。決めた、意地でも言わない。
「へ? し、シキさんはシキさんだけど……」
「ユウのことを言ってるのかな」
「ユウちゃん、どういうことだ?」
「……あー、悪いなアニータ、レド、シキってのは……偽名なんだ。本名はユウっていって……えっと、重ね重ね悪いがこれからもシキって呼んでくれると助かる。出来ればお前らも」
「そ、そうなんだ。わかった」
「了解っす!」
偽名を使っていること自体はそれほど問題ない。
が、しかし、その名前の由来はちょっと知られたくない。恥ずかしさで死ねる。
「かしこまりました。他の方に訊かれたりした時はその名前で対応します」
「うんわかった、僕もこれからはシキって呼ぶよ。けど、何でシキ?」
「確かにちょっと気になるかも。まあ、取り敢えずそう呼ぶのは了解。俺も偽名使ってるしね」
「シキちゃん……言い辛ぇな。俺はメンドイからユウちゃんで通させてもらうぜ? 両方で呼ばれてりゃどっちが偽名か何てわかんねぇだろ?」
「……まあ、それは構わんが」
「それにしても……マジで何でシキなんだ?」
……何故食い付くんだこのアホ。しれっと訊いてきた二人を意図的に無視したってのに。
「案外、人として死んで鬼になったからとかだったりして! 確かユウちゃんってオーガだもんな!」
「あはは、それは安直過ぎるんじゃない?」
「ユウ……じゃなかった、シキらしくないよね。ちょっと厨ニっぽいし」
………………し、死にてぇ……ジル様と別れる時やこの前、クロウさんにあった時とは別のベクトルで死にてぇ……。
くそっ、揃って笑いやがって。穴があったら入りたいとはこのことか……
アリスの言葉に内心激しく悶絶するが演技系スキルを駆使し、噯にも出さない。
「ははっ……」
とはいえ、アホのくせに一発で答えぶち抜きやがったアリスとそれを笑う二人の姿に、俺も笑うことしか出来なかった。
「そ、そんな訳ないだろ、適当だ適当……うん……」
演技系スキルを使っている筈なのに乾いた笑いに聞こえて怪しくなったのは……気のせいだと思いたい。
繁忙期再び……
ということで来年か12月くらいまで更新頻度が不安定になります。書ければいつも通り更新します。




