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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第3章 冒険者編
123/334

第119話 亡命と刺客

遅れたけど、書けたので投稿。

最後だけグロ注意です。



 あれから……何時間経ったんだろう。

 限界を迎えていた精神的疲労のせいか、時間の感覚がない。



 ――魔力は早々に切れたから走って逃げて……あれ……? マジックバッグは……あ、腰にくっ付いてる……〝粘纏〟使ってたのか。手が痛いのは……魔法鞘握ってるから? ダメだ、何もわかんねぇ……



 もしかしたら何時間ではなく、何日かもしれない。



 でも、まだだ。



 レーセンは転移魔法が使える。聖騎士ノアとライは生きていたところで起きるのに多少の差異があるからマシだが、奴等は全員俺を感知出来る。



「はぁ……はぁ……は、早くっあいつらの感知範囲、からっ……はぁっ、はぁっ、逃げ、ないとっ……!」



 殺される。フレアとアクア、リーフが……皆が繋いでくれた俺の命が奪われてしまう。それは三人の命を無駄にしたようなものだ。

 そんなの絶対に嫌だ。魔族だからって理由だけで死ぬのも嫌だし、三人の命を無駄にするのも嫌だ。



「クソ……くそっ! 何で、俺がこんな目にっ……」



 命の危険こそあるが、少しでも気を抜けば死ぬという極限の状況から脱したからか、左目からは涙が、上下に分けられた右目から相変わらず血が流れてるし、身勝手な弱音も駄々漏れだ。



 ――お前がライ達を見捨てて亡命しなかったからだろ? 今更文句言うなよ。


 ――千人の聖軍と戦おうという愚考に至り、実行したのも俺だしな。


 ――め、目が痛いっ……見えない……怖いっ!


 ――うるさい黙れっ!


 ――なら諦めて休もうぜ。疲れたよ。もう十分だろ?


 ――ダメだっ、多分、まだ感知範囲内……出来るだけ逃げないと!


 ――逃げるったってどこにだよ。方向だってわからないのに。


 ――あいつらから逃げられりゃ何処でもいい! 走って走って走りまくるんだよっ!



 あぁ……煩い……。



 頭の中で後悔する思考と弱気な思考、生きることだけを考える思考、他にも多種多様な思考がぐちゃぐちゃと勝手に議論している。



 それでも、思考系スキルを使わなければ発狂している俺は考えることも出来ないし、逃げることも諦めちまう。



「かひゅっ……ひゅーっ……ひゅーっ……かはっ……はーっ……はーっ……! ま、町の上は、ごほっ、ごほっ! 横、断したから……南、だよな……はーっ……ふーっ……!」



 記憶も曖昧だ。



 ジャンプして逃げた時、廃墟を踏み台にして町を飛び越えたところで魔力が無くなって……そこからはひたすら走っている、ような……?



 いや、何度か何かに転けた、筈……



 簡単に踏み潰せるくらい柔らかくて、血がいっぱい……そん中に倒れちゃって……



 あ、とは……よろ……い? ……そ、そうだっ……確か見覚えのある鎧と兜……双剣……後、誰かの死体を見つけ、てっ……



「あ……れ……? 何か……暗く……左目も潰されたっけ……」



 視界が歪み、耳がキーンという耳鳴りで満たされた瞬間、俺はいつの間にか立っていた、僅かにだが見覚えのある小川の泥濘(ぬかるみ)に足を取られて倒れ込み、そのまま気絶した。




















 ◇ ◇ ◇



「どうしたんすか? えっと……む、ムクロ、さん?」

「……シキの気配がする」



 イクシアの国境を越えた先の小さな村に辿り着き、息をついた途端に凄い勢いで振り返ったムクロに、レドはギョッとしつつ首を傾げた。



「シキさんっすか? 近くに来てるんすか?」

「いや……かなり遠いな。それに弱っている」

「…………」



 距離がある弱々しい気配を判別して察知出来るという察知系スキルの高等技術に更に驚くが、相手は国境で待ち構えていた聖騎士数人を魔法で瞬殺した女性だ。ある意味納得は出来た。

 しかし、シキの名を聞いた瞬間、俯いてしまったアニータを見てしまい、気まずそうに距離を訊く。



「ち、因みにどれくらい遠い感じっすかね」

「……ここから歩いて半日、あるいは丸一日掛かる距離だろう」

「半日以上っ!?」



 いよいよもって目を剥く情報に思わず声を上げるレド。



 世界全体から見て上位に位置する強さを持つ聖軍の聖騎士達と同等の感知系スキル保持者だとしても歩いて半日以上の距離を感知出来る者など存在しない。

 恐らくスキルレベルが7か8で上質な環境を得ている()()の聖騎士と同等。アクアのように、稀に劣悪な環境で生活している冒険者でも聖騎士に通じる者は存在するが、凡庸な才ならば聖軍ほどの環境を求められるもの。しかし、そこまでの距離となるとレベル10……つまりMAXまで上げて漸く辿り着けるか、否かの境地だろう。

 


 それを事も無げに宣ったのだ。

 レドの横でアニータが口をパクパクさせて驚いているように、一般人からしてもあり得ない距離。



「この感じ……多分気絶してるな。仕方ない、迎えに行くか……っと、お前達はどうする。この村に居れば一日程度で合流出来ると思うが」

「あんなに強い魔法撃てて感知スキルも馬鹿げてるとか……何者なんすかムクロさん」

「ただの魔法使いだ。……で、どうするのかと訊いているんだが?」

「あ、すいませんっす。え、えっと……アニータちゃんはどうしたいっすか?」

「……レド君に合わせるよ」



 「弱っていると言っただろう」と心なしかそわそわしているムクロに謝り、一度ムクロへの疑問を押し殺したレドは数秒ほど唸りながら考えた後、元気のないアニータに対して返答した。



「俺は……待ちたいっす。ムクロさんにもっすけど、助けてもらった感謝くらい伝えたいんす。それでも良いっすか?」

「うん」

「では明日の今頃までには戻る。聖神教の奴等が来る可能性もあるから気を付けろ。ここまで来てあいつを悲しませたくない」

「うっす」

「……はい」



 そう言うや否や早々に走り去ったムクロを見送ると、二人は余所者を珍しがって見ていた村人達の方へと歩き出す。

 


「大丈夫っすか」

「逆に訊くけど、大丈夫なように見える?」

「……ごめんっす」

「良いよ……悪いは全部シキさんだし」

「…………」



 意気消沈しているものの、アニータはやはりジンメンや聖軍が現れたのも町が滅んだのも全てシキのせいだと考えているらしく、その目は少し危うさを感じさせた。

 レドは人が抱える心の闇をそれほど見たことない自分ですら感じ取れるほどの憎悪に驚愕すると同時に、家族と恋人、友人知人に至るまで亡くしたのだから仕方ないとも思った。



 レド自身、町の滅亡以前に幼馴染み二人がジンメンに殺られてしまっている。今回の町の滅亡で今度はアニータ同様、家族や友人も全て死んでいるだろう。

 そう思えばアニータの気持ちも理解出来た。



 エルティーナが言っていたように、シキの存在がジンメンという脅威を生み出し、聖軍に町を滅ぼさせた。だからシキが全て悪い。

 それはわかる。



 だが、それでもシキは悪い人間には……魔族には見えなかった。

 悪意があったのならここまで間接的なことはしないだろうし、現在は聖軍と真正面から戦いに行って衰弱しているという。



 町の惨状に加え、アニータが冒険者ギルドで半狂乱になって暴れた件やエルティーナと聖神教の信者達の暴走もある。

 恐らく、それら全てがシキを最前線に立たせた。表面的な強さしかわからないが、シキのそれは町で最強戦力に数えられていたリーダーやリーフ、エルティーナを優に越えていた。そんな男が千人の聖騎士達の前に自ら行く。勝算は別としても、余程の理由がある筈。



 その理由がアニータがそう思ったように、彼もまた、全て自分のせいだと思ってしまったから、ではないだろうか。



 真っ先に聖軍と対立すると宣言したのは彼だ。元々敵意や殺意、あるいは恨みがあったのかもしれない。

 しかし、彼は仲間のフレアが死んだ時、悲しんでいたように見えた。珍しく声を荒げていたのも、痛みに悶絶していたセーラに乱暴な発破を掛けたのも仲間の死で心が揺れたから。



 アニータもそれは見ていた筈だが、それでもシキが悪いと断定した。

 今はまだ傷が癒える以前の問題。



 (俺にはわかんないっす……魔族って悪い奴等じゃないんすか? シキさんは……普通の人間に見えたっす……聖神教の人達はいつも教会の近くでニコニコしてたのにあんな……どうすれば良いんすか、リーダー……皆っ……)



「っ……」



 ここに来て涙腺が限界を迎えたレドは目元をごしごしと拭うと、一晩の宿を貸してくれないかと交渉をするため、村人へと話し掛けた。


























 ◇ ◇ ◇



 聖神教の総本山。聖都テュフォスの中心にして、世界の中心とも呼ばれる聖なる城。

 その一室にて、褐色の肌に短く切り揃えられた白い髪、二メートルと五十に届きそうなほどの巨体が特徴の男は眼前で十人近い人物達がズラリと席に付いていることを確認し、頷くとにこやかに告げた。


 

「皆さん揃ったようですね。……さて、封印の解かれた〝厄災〟を鎮めに行った救世主ライ様と聖女ノア様が例の『闇魔法の使い手』にやられたそうです! いやはや、救世主様とあの御方がねぇ……くわばらくわばら……全く、嘆かわしいものですよ!」



 残念に思っているような口振りとは裏腹に、巨漢は常に笑顔で話しており、報告したかと思えば恐怖に怯えたようなわざとらしい顔付きで両手を合わせて祈っている。

 悪く言えば演技っぽく、良く言ったところで大袈裟なリアクションをしている彼は一見ふざけているようにしか見えないのだが、巨大な丸い机を軸に座っている十数人からすればいつものことなのか、その言動は完全にスルーされていた。



 しかし、その報告に反応する者も一定数存在した。



「何とっ! 救世主殿は兎も角、ノア殿がか!? 言伝にレーセン殿も付いていたと聞いたでござるが……」

「……他にも序列百位以内の上級を数人連れていたらしいな。ノアとレーセン以外は全滅だそうだ」



 明るい栗色の髪を一本に束ね、日本の和服や巫女を思わせる着物の上に軽めの、これまた日本のものによく似た鎧を着付けている言動、容姿、共に侍のような女が驚愕を露にする横で、巨漢の発言に加えるようにして別の人物から新たな情報が告げられる。

 その人物も巨漢と同じように長身なのだが、筋骨隆々、筋肉の鎧で覆っている巨漢とは違い、細身でのっぽと呼ばれる部類の見た目をしていた。



「ほう! 流石、上級十位となるとお耳が早い!」

「黙れ。そもそも貴様は部外者だろう。何故この場に居る」

「これは手厳しいっ! 私も皆さんの関係者じゃないですか!」

「……一介の司教ごときが偉そうに」

「まあまあ、仲違いはよしてほしいでござるよ。……して、ゼーアロット殿。ノア殿達の容態は?」



 ふざけた巨漢改め、ゼーアロットはのっぽとの間を割るようにして入ってきた女侍からの質問に笑顔で答える。



「はい! お二人とも再生者様のお陰で無事だそうで、今は戦後処理に当たっている、とのことです! 良かったですねぇ!」

「そう、か。……いや、失礼。あの二人は救世主様でござるからな。少し取り乱してしまったでござるよ」

「……代わりにある条件を飲んだと聞いた」

「おやおや!? 珍しいこともあるものです! まさか貴方様のお声が聞けるなんて!」

「……煩い」

「条件、でござるか?」



 ゼーアロットを無視するようにして話し始めた無口そうな少年は白い髪に、白い肌と聖騎士ノアと似た出で立ちをしていた。

 顔立ちは似ても似付かないが、幼くも美しい。彼女とは違うタイプの美少年と言えよう。



 その少年曰く、再生者マナミから出された条件は一つ。



 ユウ=コクドウ(闇魔法の使い手)を追うな。



 つまりは放っておいてほしいということだろう。



「しかし、我々は千人もの兵を失いました……これも嘆かわしい! 理不尽にも正義足る我々を襲い、命を奪った『黒夜叉』を見逃せと言うのです! 誰が認められるでしょう!」

「……相変わらず煩い奴」

「失礼。また良いでござろうか」

「どうぞ!」

「『黒夜叉』というのは例の召喚された『闇魔法の使い手』のことで相違ないでござるな?」

「はい! 『闇魔法の使い手』が魔族化すると種に関係無く黒い角が生えるは皆さんご存じでしょうが、彼の者はオーガ種へと変異したらしいので『黒夜叉』と呼ぶことに致しました!」



 手を上げて確認する女侍をよそに、ゼーアロットの話は続いた。



 マナミが条件を突き付けたのは聖騎士ノアとレーセン、ライ達に対してだけであり、遠く離れた地に居る我々には関係無い。

 故に我々の手で暗殺するべきだ。



 オーバーな身振り手振りで語ったゼーアロットの話を大まかに纏めるとそんな内容である。

 これには多くの者が頷いており、賛同しているのが見て取れた。



「確かに再生者殿の力があったとはいえ、勇者でもないのに千人の聖騎士を殲滅出来るのは脅威でござる……」

「ふん。そんなこと、貴様に言われるまでもないわ」

「スーちゃんはさんせーかな! どう考えてもヤバいでしょそいつ!」

「レーセンまでもがやられるとなると流石に無視は出来ませんな」

「…………」

「……どうでも良い」



 中には無言を貫く者や無関心の者も居るものの、大半の人間はゼーアロットの意見を認めている。

 各々の反応を確認し終えたゼーアロットは手を叩いて再び注目を集めさせた。



「はい! それでは誰が行くのかという話になるのですが……皆さんの中で『黒夜叉』の討伐に興味のある方は居ませんか!?」



 まるでお菓子欲しい人~! とでも言うようにビシッと手を伸ばし、希望者を募るゼーアロット。



「はいっ、はーい! スーちゃん! スーちゃん行きたいっ!」



 ゼーアロットの報告によれば真正面から千人を打ちのめした訳ではないという。

 しかし、結果だけを見れば下級の聖騎士千人に加えて、上級騎士数人にレーセン、勇者や聖騎士ノアまでも破った相手だ。そんな化け物討伐を募る場で必死になって手を上げている赤髪ツインテールの幼女は少々変わり者らしい。



「あらっ、スカーレットさんだけですか? う~ん……流石に彼女にはちょっと厳しいと思うんですけどねー……」

「や! スーちゃん行きたい! そいつぶっ殺してもっと強くなりたい!」



 ガックリ、という言葉を身体で表したゼーアロットに年齢が二桁に入ったばかりのような容姿をしている幼女。

 名をスカーレットと言うらしい彼女は椅子の上で駄々を捏ねるように跳ねていた。



「『黒夜叉』は貴女様と同じ狂魔戦士の疑いがあるそうですよ。それも貴女様と同じ『火』と『風』の属性持ち。元異世界人ということもあって相当な馬鹿力と前衛にしてはあり得ない魔力量を持っているらしいので……ねぇ? 少し分が悪いのでは?」

「やーっ! 行きたい行きたーいっ! 殺してっ、殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して! もっともっと強くなるの!」

「やりたい奴にやらせりゃ良いんじゃない? 悪いけどアッシ、やることあっからさー。そっちで勝手に決めててー」

「……我々も暇ではない。先に失礼させてもらう」

「私も下りる。『黒夜叉』は好きにしろ。その程度なら貴様らで何とか出来るであろう?」

「……無駄な時間だった」

「あっ、ちょっ、皆さーん!? まだ話が終わってないんですけどー!」



 ゼーアロットが優しく諭し、スカーレットは見た目相応に可愛らしく首を振り、見た目不相応に恐ろしいことを宣っている。



 そんな空間にうんざりしたらしい数人はゼーアロットの制止を無視して姿を消してしまった。

 残ったのはスカーレットとのっぽ、女侍のみ。



「皆さん賛成するだけして勝手ですね~……余程死にたくないのでしょうか?」

「彼等は土地を治めている。忙しいというのも強ち間違いではないのでござろう」



 遠巻きに諦めろと言われたゼーアロットは心底残念そうにしていた顔を上げると、ゾッとするような表情に一変させ、女侍を見つめた。



「貴女様はどうしたいのです? 残っているということは討伐に興味が? 無ければ帰っていただいて結構ですよ。主様に見捨てられた哀れな小娘」

「…………」

「おや? どうしました? 暇なのですか? ほら、早く消えなさい。……貴女様は序列六位に相応しくありません。前々からそう思っていたのです」

「ふっ、それが本心でござろう。拙者のことが気に食わぬのなら斬って捨てれば良い。下らん言い掛かりは止めていただきたいでござる」



 聖騎士ノアのように凍てつく無表情でジリジリと寄ってくる巨漢をキッと睨み付けた女侍は席につきながらも腰に差してある日本刀に酷似した獲物に触れていた。

 いつでも抜刀出来るように、しかし、その予兆はおくびにも出さない。



 まさに一触即発。そんな雰囲気の中。



「ううっ……や、やっぱスーちゃんも帰る! ゼーちゃん怖い! ばいばい!」



 赤髪の幼女は椅子から飛び降りると、たたたーっと走り去ってしまった。



「あららっ……スカーレットさんまで……全く、貴女様がワタクシを怒らせるから……」



 ゼーアロットが空気を壊して出ていく幼女を困ったように見送った直後。



 のっぽの頭が()ぜた。



 まるでスイカを割ったように、脳味噌をぶち撒け、赤とピンクが入り交じった物体が飛び散る。



「っ!?」



 間一髪、素早く後ろへ下がることでそれらを躱した女だったが、どすっ……と何かに当たり、振り向く。



「どうしました?」



 そこには先程まで居なかった筈のゼーアロットが立っており、無表情でこちらを見下ろしていた。



「ど、どうしたも何もっ、貴殿の仕業か! 何故彼をっ――」

「――ワタクシは貴女様のように自己中心的で愚かで怠惰で死すべき存在が嫌いなのです。主様を理解出来ない等……ああっ、恐ろしい! 気味が悪いっ、鳥肌が……! です、が。ですがですがですが! もっと嫌いな人種が居るのです。そこの首無しがそうでした。ワタクシ様に歯向かうだけ歯向かって何もせず、しようともしなかったのです。これが許せるでしょうか? 許されるでしょうか? いいえ、主様もきっと許されないでしょう。主様が許されないのなら主様の御元へと導くのがワタクシ様の役目。貴女様も……逝かれますか?」

「っ……」



 無表情ながら食い気味で、口を挟む間を与えないほどの早口で語る彼に、女侍は言いようのない恐怖を覚えた。



「残念ながら……誠に、真に残念ながらワタクシ様は今、別の件に手一杯でして。誰か『黒夜叉』討伐に行っていただける方は居ませんかねぇ? 失敗しても特に支障の無い役立たず……序列十位以内に位置しながら戦うことしか出来ない愚かで愚かな人物が何処かに……ああっ! ちょうどここに一人、居るではありませんか! 貴女様はぴったりです! ええ! 貴女様は確か暗殺がお得意だったのではありませんか!? 大丈夫です! 貴女様が失敗し、死んだとしても誰も悲しみませんから! 安心してください!」

「……き、貴殿は最初から拙者を――」

「――何を震えているのです? 安心してくださいと言ったでしょう。大丈夫っ、いざとなればその身を犠牲にしてでも奴を殺せばよろしい! 貴女様の代わりなど幾らでも居るのですから! いやはやっ、助かりました! 貴女様ほどの適任者は居ませんしね。出来れば早めにお願いします。死んだら言ってください。代わりの者を行かせます」

「…………」



 女侍は狂気と矛盾、理不尽に満ちた彼の言葉に、ただ頷くことしか出来なかった。



 そうして女が姿を消し、誰も居なくなった部屋でゼーアロットはのっぽの死体を見下ろす。



「はて……そういえば彼女は非常に頭が悪かった気がします。ゴブリン以下の下等な頭で……」



 と、そこまで呟いたところでにこりと微笑んだ。



 瞬間、激震と轟音が轟く。



「いえ、どうでも良いですね。上手く行けばゴブリン一匹で『黒夜叉』は潰せるということです。朗報を待つとしましょう!」



 気付いた時には彼の足元は大きく陥没しており、唯一残ったのっぽの下半身の周囲には血と肉片が散乱していた。



文章力のせいで変な感じがしますけど、取り敢えず今章は終わりです。次話から登場人物紹介以外の閑話を挟まずに次章突入になります。

更新は今度こそ再来週ですかね。冒険者編と言いつつ何だかんだあんまり冒険者やれなかったんで冒険成分多めに出来たらいいんですが……書ければ登場人物紹介は投稿します。多分、入れないと作者が忘れてしまうので(笑)

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