第115話 乱入者
翼が足りない……
グロ注意と誤字脱字矛盾あるかもです。脳が動いてくれたら直します。
「聖剣っ、あの時みたいに力を貸してくれ!」
ライの祈りに答えるように、高く掲げられた聖剣が光を放った。
神々しさと優しさを含んだ光は〝闇〟に飲まれつつあったシキだけでなく、怨嗟と悲鳴に満ちていた聖軍をも照らし出し、《闇魔法》による悪影響を払っていく。
「うぎゃああっ、熱いぃっ! 身体がっ……ぁ……?」
「た、助かった……のか?」
「……へ?」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛っ!?!!?」
しかし、紫色の炎に囚われ、地面の上で苦しみもがいていた聖騎士達は突如として消えた苦痛に驚愕、唖然としているのとは対照的に、意識を失いかけていたシキは狂ったように苦しみだした。
「きゃぁっ!?」
頭を抑え、かと思えば両腕を抱き、自身を抱き抱えていたマナミを突き飛ばす。
それでも止まらず、ゴロゴロと転がっては極度の苦痛を与えられているような絶叫を上げるシキ。
「ぐあああああああっ!?」
「ゆ、ユウ!?」
こうなると予測していなかったライは驚きの声を上げつつも、聖剣の光に呼応するように全身から黒い靄……〝闇〟を噴き出し始めたシキに近付いた。
瞬間、聖騎士達と同じく炎から解放され、【起死回生】によって復活を遂げたレーセンが《縮地》でもってシキの眼前に移動し、剣を振り上げた。
《直感》によって察知したライは半ば反射的に《縮地》を使い、ギリギリのところで光を放ち続ける聖剣を突き出す。
「くっ……!」
「レーセン、さん! 何するんですか!?」
僅差でシキを守るべく覆い被さったマナミの前に移動出来、かつ聖剣でレーセンの振り下ろしを止めることが出来たライは盲目であるレーセンの目を真っ直ぐ睨み付けた。
しかし、両目とも布に包まれているレーセンの真意は読めない。読み取れるとすれば止めの一撃を邪魔されたことに対する怒りの感情のみ。それだけは表情からして理解出来る。
「邪魔をするな小童ッ!! こやつの首、今ここで斬り落とさねば!」
「なら理由を教えてください! どうせノアの《直感》でしょうが!」
「ノア様の《直感》に間違いはない! この鬼の存在は我々をっ、引いては世界すらも脅かすと先刻伝えた筈!」
ギリギリと激しく音を立てた力強い鍔迫り合い。
だが、シキを守ろうとしたが故にライは体勢が悪い。
片膝をつくようにして耐えているライはそのまま叩き斬ってやるとばかりに体重を乗せてくるレーセンに少々押され気味の筈、だった。
「このっ……だから! こいつがそんなことする筈ないと言ったろっ! 良いから黙って剣を引けええっ!!」
「くあっ!?」
『真の勇者』の力を遺憾無く発揮し、力任せに振り上げられた聖剣によって、獲物を離すという失態こそ犯さなかったものの、レーセンは両腕を宙へと浮かせられることになった。
それを狙い、その場で素早く一回転したライの横薙ぎは今度こそレーセンの獲物を弾くことに成功する。
「勇者、ライっ……信じてください……我々は――」
「――信じられるか! ……いや、信じろと言うなら教えてくれノア! あの町の惨状は何だ! 助けを求めた君達に『ジンメンに襲われている、こちらが安全を確保してから突入してくれ』だなんて、言われた時点で怪しいと思ってたんだ! 聖騎士達は嬉々として町を破壊しているし、先行したミサキは何処にも居やしない! 辛うじて生き残り、逃げていた町の人を焼き殺した聖騎士とこの爺さんを問い詰めれば揃いも揃って転移で逃げやがるっ!」
無表情に苦悶と苦々しさが混ざったような表情で白々しい口上を述べようとした聖騎士ノアに被せるようにして声を張り上げたライはレーセンに聖騎士ノアやマナミでも見たことがないほど険しい剣幕をしていた。
挙げ句には興奮してきたのか、レーセンのように普段の優しい口調が崩れ、シキに似た粗暴な本性が姿を現し始める始末。
「さあ教えろ! お前達は何をしていた!? 何で町は落ちたなんて嘘をついた! 何でユウがここに居て、お前達と殺しあっている!」
「…………」
「答えろよッ!!」
激怒。
ライの怒りに満ちた表情や言動からはそんな感情がありありと伝わる。
何故自分に嘘をつき、町の人間を殺していたのか。
何故ユウの存在を自分に知らせず、殺しあっていたのか。
許せない。
ライの瞳は強くそう訴えており、それを冷たく睨む聖騎士ノアの白い瞳からは逆に軽蔑するような視線が感じられた。
スキル頭痛に悩まされる頭を抑えながら、仕方ない……とでも言いたげな、あからさまな溜め息をつくという聖騎士ノアの反応に、ライは更に怒りを膨らませる。
「はぁ……これだから……。良い、ですか? 貴方は……何か誤解をして、います。私の部下、が……哀れな只人を……殺した? それ、を見た、のは……何処、ですか。上空から……移動していったのだか、ら、空の上から……でしょう。ジン、メンと……くっ……呼ばれる〝厄災〟が、放つ胞子には可燃性があります。……お、大方、運悪く引火してしまったところを……偶、々見、ただけ……なのでは? 一度そうと思い込めば……っ、そ、そのようにしか見えなく、なります。特に……貴方のような、直情型の人には尚のこと……」
「なら何で逃げた! ユウがここに居るのは!?」
話すことは出来ても剣を握ることは出来ないのか、シキに襲い掛かることなくライに弁明する聖騎士ノア。
余程頭が痛いらしく、言葉が途切れ途切れで少々聞こえ辛い。
「世界の救世主……である貴方に、そんな場面を見られれば……すぅ……は、あ……誰でも……そう、誰でも錯乱するのでは? 逆に聞きますが……貴方がもし兜と鎧に身を包んでいる状態で誤って人を殺してしまった場合、怪しまれ、顔を知られる可能性を捨ててわざとではないと説明するんですか? 黙って転移で逃げてしまえば個人は特定出来ず、聖軍の誰か、という曖昧な基準で犯人探しをすることになります。処罰や貴方の怒りを恐れるのは人として当然のことです」
とはいえ、時間が経つにつれマシになってきたようだ。
話すのもやっと……という状態から話すことなら出来る、といった状態まで回復した様子を見せ始めた。
「彼の者に関しては知りません。後方で控えていた我々に突如、奇襲を掛けてきたのですから。そのせいで再生者マナミの護衛に呼んだレーセン以外の上級騎士が全員死亡。その上、下級騎士は六百人以上が惨殺されています。先行した二百人弱の部下達は壊滅状態であるという報告も受けているので、千人居た筈の部下はたった一匹の魔族ごときに見る影もない状態ということです」
聖騎士ノアの言葉は殆ど事実だ。
有無で言えばシキは確かに奇襲を掛けようとしたし、悪戦苦闘の末、結果として八百近い下級騎士と三人の上級騎士を殺めることになっただけだが、事実だけを淡々と述べれば彼が大量殺戮者であることに変わりはない。
「先程の地獄のような光景を見たでしょう。屈強な騎士達ですら、あの有り様なのです。これでもまだ彼の者が『悪』ではないと言うのですか?」
業火から解放されたばかりで未だ動けずにいる聖騎士達を見ろと目で促され、チラリと視線を向けたライは暫しの間、押し黙る。
「貴方と聖剣の助けがなければ我々は全滅の一途を辿っていました。再生者マナミの【起死回生】、異世界人と魔族の特性を合わせ持った高いステータス……力だけで言えばかの剣聖並みの化け物が不死性を持っていることの恐ろしさがわからないとは言わせま――」
「――クハッ、俺がジル様と同列だと? くっはははは……笑わせてくれるじゃねぇか」
再び被せられ、発言をかき消された聖騎士ノア。
しかし、被してきた張本人に言葉を返すことは出来なかった。
「ユウっ! だ、大丈夫なのか!? さっきまで苦しんで……」
「ぐぅ……チッ、黙れクソ勇者が」
未だ陽炎のように揺らめく〝闇〟を放ちながら言葉を発したシキは先程のように激しい苦痛を感じている訳ではないようだが、それでも幾分か調子は悪いのか、地面から立ち上がることも出来ずに片手で頭を抑えている。
――何だ? 身体が、動くようになった……今の光、俺から〝闇〟を取り除いた、のか……? 勇者の《光魔法》は確かにダメージを受ける。聖剣の力も苦しいには苦しく、痛ぇが《光魔法》ほどのものじゃない……何処か優しさを感じさせる力……二つの力は……いや、今はそんなことどうでも良い。兎に角、マナミを人質に撤退を……!
「ユウ君っ!」
「煩い……耳元で叫ぶな」
突き飛ばした筈のマナミが再び抱き付いてきたことに少し驚愕しながらも震える手を彼女の首もとに向ける。
「ラ、イ……マナミの命が惜しければ俺を守れ……」
「なっ……ユウ、何をっ……!?」
動かせるようになったとはいえ、聖騎士ノアと同じく辛うじて程度のものらしく、シキの手は酷く弱々しい。その様子は少なくとも《狂化》を使わなければマナミの喉を潰すことも出来ないだろうことを窺わせた。
「ユウ、君……」
「わかってて戻ってきたんだろ……? 今だけで良い……俺に合わせて、くれ……」
やっぱり、とでも言いたげな表情をしたマナミにそう小声で伝える。
「……わかってる。ユウ君が待ってたのはライ君なんでしょ? ノアちゃんやレーセンさんには私という人質は効かない……けど、ライ君なら例えユウ君が本気じゃなくても……」
「……悪いな」
予想通り、マナミは人質となるべく戻ってきたらしい。
さっきまで半狂乱で暴れていたくせに……と思いつつ、自分の身を案じてくれたマナミに感謝したシキはマナミの肩を借りるようにして立ち上がると、ライを真っ直ぐ見据えた。
「聞こえなかったのか? こいつらはマナミごと俺を殺そうとした。バレたからには死に物狂いになる可能性だってある。だから……お前が俺とマナミを守れ。さもなくば……」
「っ……」
「止めろ! お前が、何でそんなことっ!」
シキの手が喉に食い込み、小さく声を上げたマナミの様子に思わず叫ぶライ。
「……我々がそんなことをする筈――」
「――ライ君っ、ユウ君が言ってることは本当なのっ! そこの二人は何がなんでもユウ君を殺したがってる! 今度こそっ……今度こそ、ユウ君を助けて! ユウ君を助けられなかったことっ、否定しちゃったことっ、本当は後悔してるんでしょ!?」
シキの手を両手で掴み、少し緩ませたマナミは言い訳をしようとした聖騎士ノアに被せるように、今のライに最も効くであろう言葉を投げ掛けた。
人質とは思えぬ、諸悪の根元と連携するような行動。
「再生者マナミ……貴女はっ……!」
スキル頭痛により、元々歪んでいた聖騎士ノアの表情は裏切りとも捉えられるマナミの行動に更に歪なものとなった。
他ならぬマナミの発言だ。ライからすればそれだけで信じるに値する。それに加えて決死の訴え。聖騎士ノアはライが魔族化したシキに罪悪感を覚えていることを知っている。故に、この状況でライが次に取る行動は自ずと予測出来てしまう。
「ノア、今の話……本当か?」
無手ではあるものの、聖騎士ノアや自分を上回る多彩なスキル構成をしているレーセンと、魔剣と『神の盾』こそあるものの、スキル頭痛で動けない聖騎士ノアを脳内の天秤に掛け、レーセンに傾いたらしいライはレーセンに聖剣を突きつけながら、聖騎士ノアを睨んだ。
その瞳に迷いはなかった。
シキは苦肉の策でマナミを人質にしているのだとわかり、マナミもそれに乗ったのだとわかったから。
「…………」
「勇者殿、これには深い訳が……」
「浅いの間違いだろ、ノアの《直感》と教祖の命令だけで町をめちゃくちゃにしやがって」
「……それもこれも其奴のせいなのです。あの〝厄災〟の封印を解き放ち、我々に対応せざるを得ない状況を作った。勇者殿も見たでしょう。ジンメンは一体一体が強力なだけで普通の植物系魔物と変わらない。つまり、長期的に対処すれば自ずと――」
「――なら何で町の人を殺した。確かに……元を辿ればノアの右腕を斬り落としたユウも悪い。俺が見てないだけで、多分この周りの人達はユウのせいで死んだとも言える」
無言、無表情になってしまった聖騎士ノアではなく、説得するように話し始めたレーセンに毅然とした態度で返すライはそこまで言ったところで「けどな……」と風向きを変えた。
「もっと辿ればノアの身体に封印したのは誰だ? 真に悪いのはそいつだろ。こいつは……ユウは封印について何も知らなかった。知らなかったでは済まない状況とは言ってもだ。何もかも全てこいつに押し付けるのはお門違いじゃないのか? ……もう一度言う。何故町の人を殺した」
「手違」
「あぁ、手違いなんて言ったら俺はお前達を絶対に許さないからな。人の命を何だと思っていやがる……」
「っ、それは其奴も同じっ! 其奴は我々の部下を、私の家族を殺した……到底許せるものではない……!」
話をすり替えようとするレーセンに苛立つライに、それを止めるライに苛立つレーセン。
聖騎士ノア、マナミ、シキですら黙って見ている中、二人は口論を続けた。
「……答える気がないんなら当ててやる。転移魔法があるのに町の人に協力を扇ぎ、退避させなかった理由。お前達は面倒だと思った。違うか?」
「面、倒……?」
「食糧を用意させて、町民を殺せば千人分の食糧を少し浮かせられるだけでなく、身体を休められる前線基地が手に入る。逆に転移魔法でチマチマ町民を逃がしていれば時間も魔力も食うし、何より逃がす先に当てがない。……いや、正確にはどうせ死ぬとわかっている奴等に無駄金を使いたくなかった」
「…………」
「時間の経過と共にあの町は飲まれる。それがわかっていたから自分達で食糧と場所を奪おうと思った。ジンメンに殺されようが自分達に殺されようが結果は同じだと思って。そして、殺した。ジンメンを転移させ、挙げ句に魔法を撃ち込んで……」
最早、レーセンすら黙ってしまったことで一方的に聖軍を糾弾する流れとなった。
そんなライを後押しするように、とある声が聞こえてくる。
「シキ!」
「……――いっ! シキぃっ! 無事かって……うおぉっ!? 何だこいつら!?」
時折、《縮地》を使い、もう一人の仲間を置いてきている青い髪と中性的な顔。
そして、今も尚、置いてけぼりにされている緑色の髪と冒険者らしい図体が特徴の大男。
「「助太刀に来た(ぜ)!」」
アクアとリーフだ。
アクアに至っては既にシキ達の直ぐ目の前まで来ており、リーフはボーッとしたまま動けなくなっている聖騎士達に驚いている。
「なっ……お前、ら……何でっ……」
「っ、こ、これっ……シキの、でしょ?」
「あ、ああ……」
「……大丈夫?」
息も絶え絶え、片手は見るも無惨な状態になっているアクアが全方位から撃たれた属性魔法のせいで落としてしまったマジックバッグを渡してきた。
唖然としながらそれを受け取り、肩を持ち上げてくれたアクアに問う。
「何で……お前らがここに……?」
「シキは僕達を助けてくれた。だから今度は僕達の番」
「はぁ……はぁ……いやぁ、この年での全力疾走は……はぁ……ちょいと堪えるぜ……ふーっ……」
「リーフまで……」
「はは、何、ただの恩返しさ。丁度お前が言ってたように勇者様達と合流出来たみたいだしな」
「…………」
どうやらリーフはシキの様子から勇者達とシキがただならぬ関係であることを看破していたらしい。その上で訊こうとせず放ってくれた。
冒険者らしい気の使い方、そして、シキが力尽き、逃げることも出来ない状態かつライとマナミが聖騎士ノア達を止めているタイミングでの助け。
様々な……それはもう様々なことがあったが、何よりもシキの心に広がったのは『助かった』という安堵。
下手をすれば殺されてしまうというのに助けに来てくれた。
今なら二人も殺されず、自分も逃げれられるという状況で。
自然とシキの身体から力が抜け、涙腺が緩む。
「助かる……もう俺には……」
「おう、聖騎士共が揃っておねんねしてるか、ボーッとしてやがるからお前が頑張ってくれたのはわかる。黙って寝てろ」
「血の臭いと肉が焼けるような臭いもするしね」
一方で「誰だお前ら……」という空気になっていたライ達はアクアの腕が【起死回生】によって再生し、彼自身、かなり驚きつつもマナミに短剣が突き付けると同時にリーフがシキを持ち上げたことで再び互いに目を向けた。
シキの仲間が助けに来たことを悟ったらしい。
「少しだけだけど、聞こえた。勇者、様? 聖軍は予め食糧を集めたら手配した宿舎に詰み込めと言っていたらしい」
「……ジンメンを転移させたら胞子が舞う。その対策か?」
「さて、どうでしょう」
「今更知らぬ存ぜぬが通ると思うなよノア……」
マナミに加えて町の人間らしき人物の言葉だ。
どう考えても不利。そうわかっているからか、聖騎士ノアの顔は無表情ながらも重い。
「これリーダーが持ってた最後の魔力回復薬」
「悪い……」
リーフに背負われたまま逃げるタイミングを見計らっていたシキに魔力回復薬が手渡された。
最後に魔力回復薬を飲んでから時間が経っているからか、完全に尽きていたからか、全体の一割近くが回復したことで魔力切れによる倦怠感はなくなり、先程よりも身体が動くようになった。
(よし……ライが奴等を抑えている間に逃げるくらいの魔力は戻った……二人が来てくれたから少しだけなら身体も動く……)
思い込みというのは存外馬鹿に出来ない。
生きる希望が見えたシキの瞳に尽きていた気力が僅かに宿ると同時に、転がり回ったせいで身体に刺さっていた矢や槍が押し出され、穴となっていた傷も修復される。魔法で創られていたそれらは既に消えていた。魔法に込められていた魔力が尽きた、〝闇〟の影響、理由は幾つか思い付いたのでシキは気にせず身体に残っている矢を肉ごと抜いていった。
「さあどうする! 証人は居るんだ! それでもまだ自分達は正しいと言うつもりか!」
しかし、ライが力強く叫んだ瞬間。
この場に置いて、《直感》を持つ全員がピクリ、と反応した。
聖騎士ノア、レーセン、ライ、シキの順で呆然としている聖騎士達の方に視線を向ける。
「あ? 何だ?」
「何……? どうしたの?」
「……しっ、何か聞こえる」
《直感》を持っていないリーフとマナミはシキ達の行動に驚き、アクアは《聞き耳》スキルを使って耳を澄ました。
「――ぁぁぁ……」
「うっ……気持ち悪ぃ……何だ今の音……」
「誰かの……叫び……?」
「……この感じっ、奴か! リーフ、アクア! 走れ!」
「っ、逃がしません!」
「させるか!」
聖騎士達の後ろから聞こえてくる耳障りな声。
唯一、聞き覚えのあったシキが顔を青ざめさせたリーフ達に逃亡を促し、それを止めようと聖騎士ノアが顔を歪ませながら動く。
不快そうな表情で続くレーセンに反応する形で動いたライは《縮地》により、直ぐ様、二人を止めた。
「イイイィィィアアアアァァァァッ!!!」
「くっ、どうした!?」
「か、身体が……」
「力が抜けて……」
とうとうハッキリ聞こえてきた『何か』……人面型のジンメンの奇声には常人の動きを止める力があるらしく、リーフとアクアはその場に尻餅をついてしまった。そんなリーフに背負われていたシキは当然投げ出される形となり、体勢を崩している。
「ノア、邪魔をっ!」
「今ですっ、レーセン!」
「承知!」
マナミを捕えるものが居なくなったほんの僅かの一瞬を見逃さなかった聖騎士ノアがライに飛び付いて抑えた瞬間、レーセンが踏み込みスキルで以てマナミの前まで移動し、続けて《縮地》でマナミごとその場を離れた。
「これでっ!」
「ちぃっ」
「ユウ君! 逃げて!」
人質であるマナミと離され、無防備になったシキは舌打ちをしつつ、持っていたマジックバッグを噛んで抑えると座り込んでいる二人を掴んで後退するが……
「甘いっ!」
下がった方向には既にレーセンが転移していた。
「こいつ、いつの間にっ」
詠唱をしていたというのか。
そんなことを言う間もなく、自身の身体と同時に転移させていたらしい長剣が振りかぶられた。
「転移魔法はこういう時の為にあるっ!」
ダッダッダッダ! という人面型のジンメンが走る音と「うわあぁっ、肉の化け物!?」、「ひぃっ、顔が無数にっ!」という聖騎士達の悲鳴をBGMにすんでのところで長剣を躱す。
地面に向かった筈の剣先が瞬時に動きを変えたのを視認しつつ、再び後退したシキは声を張り上げる。
「っぶねぇ! ライ! 早くこいつらを止めろ!」
「わかってる、けど!」
「ノア様、勇者殿は任せましたぞ!」
「行きなさい!」
「くっ!」
スキル頭痛に苛まれながらも剣を振るう聖騎士ノアに足止めを食らったライは移動スキルで追い掛けてくるものの、尚も転移魔法で目の前に現れ、抱き付いてくる彼女を前に動きが遅い。
「ええいっ、こちとら本調子じゃねぇってのに!」
「このっ、大人しく死に晒せぃっ!」
動けない二人を庇いながらの攻防は流石のシキでも厳しいものがある。
魔力が回復したといっても全快した訳ではないのだ。レーセンを相手にするのならば多少の気力では足りない。
そのせいで燕返しのような剣先の急激な動きの変化に対応が追い付かず、自然とシキの身体に生傷が増えていく。
「マナミ!」
「わかってる!」
しかし、マナミの【起死回生】により、それらの生傷は閉じ、斬られた服までもが元の形状へと戻る。
隙を作らなければ致命傷は負わず、負ったところで即死しなければ回復する。レーセンからすれば嫌な状況だろう。
「わ、悪いシキっ」
「動けるか!?」
「何とかっ」
「よしっ、放すぞ!」
レーセンの連撃を躱し続けている間に少しだけ力が入るようになったと言う二人を手放し、回避に努める。
二人は激しい動きの中で勢いよく放されたこともあり、ゴロゴロと転がってしまうものの、サッと立ち上がり……視界に人面型のジンメンを捉えた。
「な、何だあの化け物は!」
「ルークと……プルっ!?」
以前、シキを襲ったその個体は身体の表面に浮いている人の顔の数が増えており、相変わらず人の顔が集まって出来た手で全身の顔をかきむしっては血のような体液を撒き散らしていた。
「キィャアアアアアアアアアッ!」
甲高い悲鳴のような奇声と共に膨れ上がった頭部らしい一部に付いている大きな口の中には数人の聖騎士の姿が見え隠れしている。
「た、助けっ……ぎゃあっ!?」
「脚がっ、俺の脚がああっ……!」
「うわあああああっ!」
全身の顔と巨大な口、その狂暴性と何とも言えぬおぞましさにリーフ達だけでなく、聖騎士達まで腰を抜かし、動けずにいる最中、シキは叫んだ。
「アクア! リーフ! 奴とは真逆の方向のどっかに俺の鞘が落ちてる筈だ! 短剣の鞘! それと黒い手甲を装備した左腕! 今の内にっ、拾って、寄越してくれ!」
燕返しだけでは無駄と思ったのか、聖騎士ノアを思わせる凄まじい刺突を織り混ぜ始めたレーセンの猛攻に何とか耐えつつ、二人を促し終わると、シキは徐に手を突き出し、長剣を貫通させた。
そのまま剣先をずらし、いつもよりもキレがないながらも力強い蹴りを放つ。
「ぬおっ、全く油断の出来ん奴だ!」
「テメェこそ!」
《縮地》で躱されたが、獲物は手に入ったと言わんばかりに長剣を抜き、構える。
対するレーセンも再び転移魔法で別の長剣を呼び寄せた。
――俺が持ってる剣を転移させないってことは出来ないか、魔力、時間を伴うってこと……なら取り敢えず、応戦しつつ、後退して……
「ノア! 止めてくれ! 俺はただあいつにっ!」
「私も奴を殺したいだけです!」
「タタタ、スッ……ケテッ! タスケテエエェェェッ!!」
――奴等をどうするか、だな……
取っ組み合いになっている聖騎士ノアとライ、何故か助けを求め始めた人面型のジンメンに視線を向けたシキは限界をこれでもかと攻めてくるギリギリの戦いを続けた。
二週間ぶりの休み&執筆だからか、上手く書けないっ。休みなのに翼を授けてくれる魔法の飲み物を欲するなんて……買い溜めしないと……
ちょっと来週もキツイかもしれません。ここ最近忙しすぎて脳と体が悲鳴をですね……




