第10話 試練
再び召喚者全員に召集が掛かった。
現在は見慣れた訓練場で待機中であり、その中にはグレンさんやイケメン(笑)パーティの講師、リンスさんの姿もある。
兵や騎士、果ては貴族からあのヤツァクとかいう爺さんも居る始末。
流石に王族は居ないようだが、全員が整列するように並んでいる。
まるで誰かを出迎えるような雰囲気だった。
「今日は何があるんですか?」
意を決したようにイケメン(笑)が声を掛ける。
「あ、あぁ、今日はその……召喚者の諸君に試練……のようなものを与えることになっている。だが……」
「止めた方が良い奴等も居る。その辺は各自に任せよう」
珍しく歯切れの悪いグレンさんを補足するように、やせ形の美丈夫がやや頭を痛そうにしながら答えた。
「試練と言えば聞こえは良いがな。実はとある人に諸君の誰か一人を今後とも見てもらう為にテストを受けてもらうのだ」
「と、言いますと?」
「……イサム達には話の種に話したが、他の奴は知らないかもしれん。グレン、彼女については?」
「いや、まだだ」
イケメン(笑)とその教官らしき人、グレンさんでどんどん話が進んでいく。
その人物に弟子をとらせるようだが、二人の講師は頗る顔色が悪い。リンスさんも兵達も、ヤツァクの爺さんまでもが気持ち青い顔をしているように見えた。
「その人はこの世で最も強いと噂され、戦いの神まで言われる剣の達人……『世界最強』の傭兵だ」
グレンさんが苦虫を噛み潰したような顔で言い、美丈夫、リンスさんと合わせて続ける。
「何とも変わったお方でな、基本的に弟子はおとりにならない……というかとったことがないのだ。今回も勇者を育てる為にと国が莫大な金を用意して説得したが、全く耳を貸してくださらなかった」
「それでも交渉を続け、どうにか飲んでもらえたのだ。条件として、自分が出す試練を乗り越えた者一人だけを鍛えてやる……そう言われてな」
「皆さんも怒らせないよう注意してくださいね~? とても気難しい……破天荒な人なので下手すれば首が飛ぶじゃ済みません~……普通に我が国そのものの存亡に関わります~」
曰く。血で血を洗うような殺し合いを好んで戦場を渡り歩く傭兵であり、たった一人で敵戦力を、国を滅亡させるほどの強者である。
曰く。気に食わないことがあると戦争中でも敵味方関係なく両軍を皆殺しにする頭のネジの飛んだ人である。
三人は白みのある顔でこんこんと諭してきた。
随分脅すな……もうその人に魔王倒してもらえよ……
そんな空気が流れ、召喚者は口を閉ざした。
瞬間。
辺りが一気に暗くなった。
はて、今日は雲一つない快晴だったような?
全員が上を見上げ、そして戦慄した。
俺なんか情けないことに一気に腰が抜け、座り込んでしまった。
見ればライや講師連中以外の殆どが同じ状態だ。
俺達の頭上に居たのは巨大な白竜だった。
西洋竜のような形状。どう見ても二十~三十メートルはあるであろう巨体と神々しさすら感じるほど美しい白銀の鱗。
どうやってその巨体を支えているのか疑ってしまうような細く華奢な翼をバサーッ……バサーッ……とゆっくり羽ばたかせていて、人なんか何人でも丸飲みに出来そうなくらい大きい口とどんなものでも噛み砕くことが出来そうなくらい鋭利な牙が何本も見え隠れしている。
全身に力が入らなかった。
勿論、巨大な生物を目の当たりしたからというものある。
しかし、それよりも生物としての格の違いを思い知らされた。
金色に縦長の瞳孔が入っている瞳は魅入られるように綺麗なのに、ゴミか何かでも見るような〝知性〟を感じさせる。
思考系のスキルを使っても頭の中が恐怖で埋め尽くされているのか、頭も働かない。
あるのは『怖い』、『逃げたい』、『死ぬ』……その三つだけ。
「全員っ、頭を下げぃッ!! シルヴィア様のご到着だぁっ!」
グレンさん達がジャンピング土下座でもするような勢いで膝を突き、次々と頭を下げる。
俺はというと、その声でハッとし、正気を取り戻した。
急いで立ち上がり、周囲を確認する。
召喚者に限らず、出迎えの人間達は漏らしていたり、座り込んでいたり、気絶していたり……
死屍累々の状況だった。
ライだけは立っているが、辛うじて……といった様子。生まれたての小鹿のように震えていた。
取り敢えず固まってるマナミを引っ張って立たせ、気絶している上にズボンに染みまで作っていたリュウを叩き起こす。
『ったく情けねぇなァ……このオレ様がガキのお守りたぁよ』
頭の中に響くような声が木霊した。
どうやらこの白銀竜が剣聖のようだった。
グレンさんからは聞いてないが、リンスさんとエナさんからは聞いたことがある。
百年以上前には人族、獣人族、魔族以外にもう一つの種族が居たと。
その種族は竜の角と竜の瞳、竜の鱗と竜の尾……そしてもう一つ、他にはない特殊なスキルを持ち合わせていた。
「《竜化》……」
誰ともなしに呟く。
白銀竜は何度も羽ばたいて降下速度を落とすと、俺達から少し離れたところに降り立った。
少しして硬直したように動かなくなったと思えばその全身が光り始め、輪郭が徐々に小さくなっていく。
竜形態から人型へ。
大きさは十メートル、五メートル、二メートル……いや、1.5メートルほどまで。
ほどなくして光が収まる。
そこに居たのは絶世の美女ならぬ美少女だった。
何処から現れたのか、緑地に白地のワンピースのような民族衣装を着ており、腰付近からは銀とも白ともとれぬ細長い尻尾が伸びている。
にゅるりと蠢く尻尾や頭から生えた白い角。
それぞれ紅と蒼に輝く二本の刀剣を腰に差し、そこまである銀髪が風に揺られてフワリと広がる。
何より目を奪われたのはその美貌。
その人は言葉で言い表せないほど可愛かった。
勝ち気な顔つき、竜形態時と同じ竜の瞳は自信に満ちている。
肌もビックリするほど白く、その身体はマナミや他の女性陣よりも華奢。
だが、全身が放つオーラのようなものが違う。
グレンさんのような圧力を感じる。
無論、その比は比べるまでもないが、ただそこに居るだけで威圧されるようなこのプレッシャー……
二次元のキャラがそっくりそのまま出てきたようだった。
竜人族。
どの種族よりも聡明でステータスが高く、魔法適性も別格の最強種。
リンスさんの話ではただ一人を残して絶滅したらしいが……
ドラゴン美少女はこの場の人間全員の顔ぶれをジロリと流すように見た後、つまらなそうな顔で歩き出し、話す。
「で? 勇者ってのはどいつだ? 近代のは随分優秀だと聞いたが?」
口振り的に、この国はやはり何度も異世界召喚をしているらしい。
しかし、今はそれを隠す余裕すらないようでグレンさん、その他役職のありそうな人達が「ああいえっ、こちらから出向きますっ、そのままっ、そのままでお願い致しますっ!」と揃ってダッシュで近付く。
「あぁ? 煩ぇな、来んな鬱陶しい」
「ひぃっ……は、はいぃっ……!」
グレンさんだけがガタガタと震えながらその場に止まり、他はあまりの恐怖で足が縺れたのか、転ぶ奴が続出。ドラゴン美少女は「チッ」と舌打ちするだけに留めた。
そうして何やら二人が話すこと少し。
俺達は始めて見るグレンさんの怯えた姿に萎縮しながら待っていた。
イケメン(笑)やサラリーマンの兄ちゃんもさっきまでへたり込んでたくせに、さも何事もなかったかのように立ち上がっている。
同様の反応だったミサキさん達もその態度には微妙な顔をしていた。
ハーレムに見えて全然ハーレムじゃないじゃんあいつら……召喚時の結束を思い出せよ……
何となくそんなことを思っているうちにグレンさん達の会話は終わったらしく、ドラゴン美少女が話し掛けてきた。
「聞いてるかもしれんが、オレが来たのはテメェらの中から一人だけ弟子をとる為だ。はぁ……ったく、金とか魔王とかクソどうでも良いってのによ……」
後半の本音は聞かなかったことにした。
まさかの、興味がない。最強だからこそ許される傍若無人っぷりなんだろう。
「制限時間は一分。どんな方法であろうとオレに一撃当てられた奴を弟子にしてやる。全員失格だったら全員殺す」
突然の宣言に時が止まった。
グレンさん達側にもどよめきが走っており、ヤツァク等は卒倒している。
「あ? 何不服そうな顔してんだ? オレ様の時間を奪うんだ、当然の理屈だろうが」
ポカーンとしてた俺達に更なる追い打ちを掛けてくるドラゴン美少女。
世界の『最強』はその理不尽さも最強らしい。
「こ、困りますシルヴィア様っ、そのようなことっ」
胃を痛そうに押さえたグレンさんがそう言うが、「んなことも出来ねぇ奴に魔王殺しをさせるってぇのか? お前バカか? それともお前んとこの王様がバカなのか? どっちだ、言ってみろボケ」と取りつく島もない。
本来なら不敬罪。しかもここまでの罵倒は死刑もの。
だが、この国にはこの人を断罪出来る人が居ない。
だからこそまかり通る。
だからこその『最強』。
美少女のくせに口は最悪レベルに悪いが、あのグレンさんが黙るくらいの人であることは確かだった。
何も言い返せず、渋い顔で俯いたグレンさんは急いで人払いをし、試練の準備を始める。
ドラゴン美少女の前には刃を潰してある長剣が地面に突き刺さっており、俺達の周りにも大剣、長剣、短剣以外に槍、斧、弓と大小、種類様々な武器が用意されていった。
当てさえすれば良いというクリア条件。
一見、簡単そうに思えるが、この世界にはステータスという目に見える力の値がある。
相手は世界最強、こちらはレベル一。
これ何て無理ゲー? と、聞きたくなる。
その上、俺達はまともな訓練をしていない。
やったことと言えば筋トレだけ。
たかが一撃、されど一撃。
固有スキル的にライならいけるだろうか、とか、そんな程度の認識である。
「え? 無理じゃね?」みたいな顔でキョロキョロする中、無謀にも一人の勇者が現れた。
「刃を潰してあるいえ、真剣で? 怪我しますよ?」
無駄にキザな顔(偏見)、無駄にキザな台詞(事実)、無駄に自信満々な態度(事実)で言ったのは言わずもがな、イケメン(笑)だった。
あいつバカだあああああああっ!
脳内で思いっきり叫び、「え、あいつマジで?」、「本気で言ってんの?」、「相手、剣の達人だよね?」、「そもそも武器持ったことないよね僕達……」とパーティ内でアイコンタクトのみの会話が始まる。
グレンさん達も冷や汗だらだら、何なら今にも泣きそうな声で言ってきた。
「ばばばば馬鹿者馬鹿者っ! 馬鹿か!? 馬鹿か貴様っ!?」
「イサム止せっ、言ったろっ、お前は自信過剰過ぎると!」
「万が一、億が一、当てられたところでステータス的に掠り傷一つ付きませんよ!」
間延びしてない辺り、リンスさんも相当焦ってるっぽい。
ナマ言われた本人はというと、何処吹く風といった感じでガン無視。竜の鱗に覆われた、エルフのように長い耳の中に小指を突っ込んでぐりぐりした後、ふっと吹き飛ばしている。
何も聞こえなかったような、何なら眼中にすらないような反応だった。
周囲がこれだけ大騒ぎしているというのに、というか俺達と違って話は聞いてたらしいのに、イケメン(笑)は無視されたことに腹を立てたようで、「勇者の力を知らないようですね……痛い目を見ても知りませんよ?」と煽る煽る。
バカバカバカっ、レベル一の分際で何言ってんだよっ、痛いのはお前だよっ。
そんな視線が集中するが、今度は肝心のイケメン(笑)がそれに気付いてない。
グレンさん達はチワワのように震えながら土下座していた。
世界最強のドラゴン美少女にとって、その土下座すらも興味がないのか、大きく欠伸をしている始末。
仕草は可愛いが、その背景や周りの光景的に見惚れることも出来ない。
しかし、イケメン(笑)は尚更怒り、近くの剣を取って走り出した。
「いぃやあああぁっ!」
気合いの声は良し。
よっぽど怒ってたのか、速度も中々。
距離をどんどん詰め、「……そう言えば腹減ったな」なんて呟くドラゴン美少女に飛び掛かり……
どしゃあっと、勢いそのままに倒れ込んだ。
何事かと見てみれば白目を剥いて気絶している。
「えぇ……」
端から見ると、そんな声が漏れるくらいマヌケだった。
本当に勇者なのかと疑いたくなるレベルだった。
講師連中は揃って「あちゃー……」みたいな顔してるし、ミサキさんとトモヨさんに至っては「ぶふっ」と、ちょっと噴いてる。
「んっ……ん~っ……」
やけに艶かしく背中を伸ばすドラゴン美少女の尻尾は先程よりも伸びているように見えた。
「み、見えなかったけど……多分、尻尾だ……一瞬あの尻尾が消えたような……」
誰に説明するでもなく、ライがそう呟く。
俺にはその動きはおろか、前兆や影すら見えなかった。
マナミやリュウも同じなのか、ドン引きしたような顔でみっともなく倒れているイケメン(笑)を見つめている。
「で? 次はどいつだ?」
ドラゴン美少女の心底呆れたような、眠そうまである顔が……声が恐ろしい。
相手は世界最強。本人的にはきっと日常茶飯事で、些細なことなんだろう。
だが、大の男が金属の塊を持って突撃してきたというのに、最後の最後まで欠伸を続けていた。
レベル差を考えれば当然の結果とはいえ、赤子の手を捻るよりも簡単に終わってしまった。
イケメン(笑)はあれでも勇者だ。素質だけを見ればライと同等。ステータスも戦闘センスも属性魔法も、何もかもがライそっくり。
それであの様ではやる気も出ない。
しかし、殺すと宣言された以上、立ち向かわない訳にもいかない。
どうしたものか……。
同じように考えたらしいライと何となく手を合わせた直後。
「次、アタシいかせてもらって良いですか!」
明るく元気な声が訓練場全体に響き渡った。
「好きにしろ」
短い返答だったが、ドラゴン美少女は確かにそう返した。
ミサキさんの目を見て言った。
「やったっ! これで口煩いイサムを黙らせられるっ!」
瞬殺された友人を見ても尚、彼女には自信があるようだった。
「ふぅ~……いっちにーさんしっ、いっちにーさんしっと!」
軽く屈伸したり何やらをして準備を終えたミサキさんの手には何ら武器はない。
何でも空手を習っていたとかで徒手空拳の方が良いという判断らしい。
「じゃあ……行きます!」
「来い」
そうしたやり取りの後、ミサキさんは先程のイケメン(笑)のように駆け出した。
ドラゴン美少女は剣を抜くこともなくそれを見つめている。
「はあぁっ!」
初撃は見た者があっと驚くような、見事な回し蹴りだった。
移動の勢いの乗ったその蹴りは首を傾けるだけ避けられ、空を切る。
蹴りは良いけど、いきなり顔面かよ……躊躇とかないんか……?
なんて思ったのも束の間、その回転を利用してもう一撃。
今度の狙いは胴体。例えレベルは低くてもその速度はグレンさんをして「ほう……」と感心するほど。避けようにも蹴りは既にドラゴン美少女の左腕目掛けて肉薄している。
まさか。
そう思った瞬間、ミサキさんの身体がビクッと震え、蹴りを中断。ピョンピョンと跳ねるようにして距離をとった。
「よく見てるじゃねぇか」
「びっ……くりしたぁ……!?」
二人の間には例の尻尾がにゅるにゅると動いていた。
流石にさっきのは大人げなかったと反省したのか、俺でも視認出来る速度だった。
気付かずに蹴りを放っていれば自分からあの尻尾に当たっていただろう。
「それならっ!」
叫ぶと同時、地面を蹴ったミサキさんが空に飛び上がる。
五、六……十メートルくらいか、不自然なまでにどんどん上昇していく。
【縦横無尽】。
ミサキさんの固有スキルだ。
その能力は縦と横方向に自分の身体を浮かせ、人形のように動かすというもの。
何とも微妙そうに思える能力ではあるが、この世界に魔法以外で空を飛ぶ方法はないとされている。
その魔法による飛行も魔力を凄まじく消耗するので非現実的。
しかし、固有スキルの使用に魔力が使われることはなく、精神的な疲労以外にデメリットはない。
もし爆弾のようなものがあれば彼女は途端に人間爆撃機として活躍することになる。
レベルが上がり、ステータスが上昇すれば空から襲撃してくる常識外れの化け物の完成だ。
使い方次第ではかなり有用性の高いその固有スキルで浮いたミサキさんは叫びながら意識を集中させるように空手家らしい構えをとった。
「流石、世界最強は伊達じゃないわね! だったら……!」
ボッ、ボッ、ボッ、ボッ……!
何の前触れもなく、直径十センチ程の火の玉が彼女の前方に出現。次々とその場で滞空する。
『火』の属性魔法で創造したらしい。
大きさに僅かな差異はあれど、十……二十……三十と増え続け、その陽炎で創造者の姿を揺らめかせる火球はやがて夥しい量になっていった。
ミサキさんは俺と同じ『火』と『風』の属性持ち。素質はどちらも2。
マナミと同じくらいの才能で、ああいった攻撃系統の魔法を生み出すにはかなりの努力が必要だと聞く。それを一ヶ月以下という短期間で……
俺なんて魔力は出せても魔法に昇華することが出来なくて四苦八苦してるのに。
ライもそうだ。あいつも属性魔法をポンポンと……何でどいつもこいつもそんな簡単に魔法が使えるんだ。
嫉妬するような、憧れるような、何とも複雑な気持ちが沸き上がった。
「これで……! どう、かしら! 連続ファイヤーボールっ!!」
飛ばすことまでは出来ないのか、それとも速度を重視したのか。
ミサキさんは火球に蹴りを入れて飛ばし始めた。
弾丸のように迫った火球の雨は猛然とドラゴン美少女に迫り、少女を圧倒し……
何より、少女の表情を変えさせた。
ニタァ……と、裂けるような笑みを浮かび上がらせた。
「クハッ、及第点ってとこか?」
言いながら目の前の剣を地面から抜き、火球を斬る。
それこそ当然のように。
バッティングセンターに現れたプロ選手さながら確実に当て、霧散させていた。
属性魔法は魔力で纏ってさえいれば触れられる。
ミサキさんが蹴り出したように、理屈ではわかる。
だが、霧散する際に発生する火の粉すら一撃の認識なのか、火球一つ一つを最低でも二回は斬っていた。
質量の無さ故にとんでもない速度で迫る火球を、だ。
そして、それすらも想定していたのか、ミサキさんにも焦りは感じられない。
「はぁ……!? どんだけよっ……」
とは言っていたが、焦燥感がなかった。
「お、おいっ、あれっ!」
ライの声にドラゴン美少女の方を見ると、狙いを外れて地面に当たった火球が土煙や小爆発を起こし、少女の姿を覆い隠している。
それでも飛んでくるものは斬り弾いているようで、煙の中に飛び込む火球が当たっている気配はない。
視界封じも効かないのか。
絶望しそうになって気付く。
ミサキさんの姿がない。
「はあああぁっ!!」
声の方向はまさに土煙の中心。
いつの間にやらドラゴン美少女の真上まで移動してたらしい。
流星のような如き踵落としが少女に迫り、巻き起こっていた土煙の中に消える。
「見事っ」
小さい声が聞こえた。
直後、弾かれたように土色のフィルムが消失した。
「そ、そこまで! 一分が経ちました!」
グレンさんがそう声を掛けるが、勝敗は明らかだった。
ドラゴン美少女は立っており、ミサキさんは倒れている。
勝者は当然、世界最強の剣聖。
一回目とは何とも色々と差のある挑戦だった。




